翌日、俺も荷造りを済ませて
Sさんに空港まで送ってもらって。
これから旅行だっつーのに
俺も♡も何も喋んないから
Sさんが変な顔してた。
♡は元気がなくて
俺が言うことに「うん」とか返事はするけど
それ以外、何も喋らない。
機内は幸か不幸かファーストクラスだったから
♡の顔を見ることもなくて。
飛行機を2回乗り継いで
ようやく辿り着いたボリビアの首都、ラパス。
今更だけどすんげぇ遠かった。
めっちゃ長旅だった。
そりゃそうだよな、地球の裏側だもん。
空港に着いたら
♡がなんだかしんどそうな顔をしてて…
臣)大丈夫…?
♡)……うん…。
臣)荷物貸して。
♡)あり…がとう…。
なんか肩で息をしてるから心配。
でも実は…
俺もなんでか、身体がしんどい。
頭も痛いし、ちょっと吐き気もする。
なんつーか…息苦しいんだよな…。
臣)少し休むか?
♡)……ううん、大丈夫…。
♡を心配しながら出口に向かうと、
臣)あ。
満面の笑みでこっちを見ながら
元気に手を振る男女の二人組を見つけた。
ア)ハイ!♡!!
こっちダヨ!!
呼ばれた方へ進むと、
二人は嬉しそうに両手を広げた。
ア)よく来てくれたネ!
二人ともお疲れサマ!
ボクはアーサー!
エ)ワタシはエイミー!
ア)ボクの奥さんダヨ!
ああ、夫婦だったのか。
すっげぇ明るい二人だな。
♡)初めまして…、♡です…。
ア)♡って呼んでもいい?
エ)もう呼んどるガナ!w
ア)アハハハ!w
アナタはなんて呼んだらイイ?
臣)オミでいいよ。
ア)オミ!ヨロシク!
臣)よろしく。
二人と握手をし終えたら、
エイミーが心配そうに♡の顔を覗き込んだ。
エ)大変や!♡、苦しそうヤン!
ア)薬飲んでキタ?
♡)く…すり…?
ア)ここは富士山と同じくらいの
高さナンダヨ。
大体みんな高山病にナルネ。
だから薬飲んでくる人多いヨ!
臣)えっ、そうなの!?
ア)知らなカッタ?
臣)うん…。
そっか、さっきから調子悪いのは
そのせいか…。
エ)ホラ、二人とも薬飲んで。
臣)ありがとう。
俺たちはダイアモックスをもらって
水で飲み込んだ。
ア)今日はネ、この標高に身体を慣らすために
ここラパスで1日過ごすヨ。
エ)苦しい時は意識的に深呼吸したらエエヨ。
♡)深呼吸…?
エ)そう。ゆっくり大きく。
そう言われて俺と♡が何度か深呼吸すると
二人は「OK」とニッコリ笑って
俺たちの荷物を運んでくれた。
臣)そんなに標高、高いんだね…ここ。
♡)うん…。
何も知らずに来ちゃったや…。
勉強不足だったな。
臣)辛かったらすぐ言えよ?無理すんなよ?
♡)うん…。
臣)……。
もはや具合が悪いのか元気がないのか
どっちなのかわからない…。
どっちも、なのかな。
やっぱり♡は…
本当は一人で来たかったんだろうか。
俺がいるせいで…笑えないのかな。
エ)荷物もあるからまずはホテルに向かうでー
臣)あ、お願いします。
エ)敬語やなくてええって!w
臣)あ、うんw
運転はエイミーなの?
エ)ワタシの方が運転上手いねん!
ア)そうそう、ソウナノw
臣)さっきから気になってたんだけど…
エイミーは関西弁なの…?w
ア)エイミーは京都に留学してたんダヨ。
エ)せやねん!
臣)だからか!w
♡)ふふふw
臣)!!!
♡が…笑った…!
♡)なんか可愛いw
エ)ええー!ほんまに!?
♡)うん♡
エ)♡はええ子やわ〜〜〜w
ア)あはははw
臣)…っ
♡が…♡がやっと…笑ってくれた…!
アーサー、エイミー、ありがとう!!
俺と二人じゃこんな笑顔
絶対見れなかった気がする…。
ア)ほら、街が見えてキタヨ。
臣)うわっ…!すっげぇ…!!
街が大きなすり鉢みたいに広がってて…
山の斜面にまでびっしり家が密集してる。
♡)あんな斜面にまでお家があるの…?
ア)ソウダヨ!
エ)すり鉢みたいな形になってるヤロ?
底に住んでるんが富裕層、
上に行くと貧困層が多いネン。
臣)そうなの?
ア)所得格差が標高に現れるのも
ラパスの特徴カナ。
そっか…。
下の方が標高が低いから生活しやすいんだ。
♡)富士山みたい…。
エ)ああ、あれはイリマニ山!
ラパスのシンボルみたいなモンヤ。
臣)そうなんだ。
それからすり鉢の底部分にあたる
市街地のど真ん中のホテルに到着して
チェックインした。
ホテルのロビーもラウンジも
もちろん部屋の中も、
めちゃくちゃ綺麗でオシャレ。
窓から見える景色もすごくイイ。
これは夜になったら絶対綺麗だ。
臣)……。
てゆーかクイーンのベッドが一つ…、か。
どうしよう。
……一緒に…寝るのかな…。
♡)……。
あ、♡もベッドを見て止まってる。
臣)…っ
俺と一緒に寝るの、きっと嫌だよな…。
俺はソファーで寝るから、とか
声かけた方がいい…?
でもそれもなんかわざとらしいかな?
つーか別々で寝るの?
せっかくの旅行なのに?
いや、「せっかくの旅行」とか言って
楽しめるような状況でもないんだけどさ、
今は。
どうしよう。
結局何も話せないまま
こんな地球の裏側まで来ちゃったけど…
♡はどう思ってるんだろう…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
身体がすごく重くて…息苦しい。
薬を飲んだら頭痛と吐き気は良くなったけど
ボリビアがこんな場所だったなんて…
もっとちゃんと調べておけば良かった。
何の対策もしないで来ちゃった。
ホテルの部屋に着いて、荷物を置いて。
ベッドを見て固まってる臣くんは
私と一緒に寝たくないって
思ってるんだと思う…。
私は今夜はソファーで寝よう…。
「浮気して帰ってきたお前の顔なんか
見たくねぇよ。」
♡)…っ
思い出すとまた胸がズキッと痛んだ。
……そうだよ。
顔も見たくないくらいなのに…
一緒に寝るのなんて絶対嫌だよね…。
臣)具合…大丈夫か…?
♡)……うん。
なのに臣くんは優しいから…
こうして何度か声をかけてくれる。
本当は私のことなんてもう
大っ嫌いになっちゃったかもしれないのに…。
臣)じゃあ行くか。
♡)……(こくん)。
臣)もう少し休んでもいいんだぞ?
本当に大丈夫か?
♡)……。
なんだか…
きゅぅぅぅ…って悲しくなってきた…。
臣)ん…?
♡)…っ
臣くんが優しいほど、切なくなる。
苦しくなる。
臣)なんで…っ
私は涙がこぼれそうになって
慌てて後ろを向いた。
臣)…っ
臣くんは…
どうして旅行に来てくれたんだろう…。
私なんかと一緒にいたって…
楽しくないよね…。
♡)私が…
臣)え?
♡)私がいない方が良かったら…
一人で…、
臣)♡。
♡)!!!
肩をグイッと掴まれて
思わず身体がビクッてなった。
臣)あ、ごめん…。
臣くんは慌てたようにその手を離して
眉を下げて私を見た。
臣)……俺は…一緒にまわりたい。
お前と…。
♡)…っ
その言葉に、また泣きそうになった。
臣)♡が嫌じゃないなら…
一緒に行こ…?
♡)…っ
私はこぼれそうになってる涙を
グッと堪えて、顔を上げた。
♡)うん…っ
一緒に行こうって言ってくれた。
臣くんのその気持ちに感謝して…
私はこの背中についていこう。
それから小さなバッグだけ持って
エレベーターを降りると
アーサーとエイミーが待っててくれて
4人で外へ出た。
ア)僕たち邪魔ジャナイ?
案内したい所タクサンあるんだけど
二人きりになりたかったら
遠慮せずに言ってネ!
エ)その時は邪魔者は退散スルカラ!w
臣)いい!いい!いてほしい!いて!
ア)アハハハ、ほんと?w
エ)遠慮せんといてヤ〜?w
臣)してない!4人がいい!
♡)……。
イタズラっぽく笑う二人と、
なんだか必死な臣くん…。
やっぱり…
私と二人はきっと気まずいんだよね…。
ア)じゃあトニカクめいっぱい楽しもう!
臣)うん、ありがとう。
エ)♡…?
♡)…っ
気付けば一番後ろを歩いてた私を
エイミーが心配そうに振り返って…
エイミーにトントンって合図されて
こっちを見た臣くんが
すぐに駆け寄ってきてくれた。
臣)大丈夫か?
♡)うん…っ
臣)ゆっくりでいいからな?
♡)……ありがとう。
……手、繋ぎたいな…。
……って、こんな時に
何思ってるんだろう、私。
臣くんが優しいから
甘えたくなっちゃった…。
エ)♡も楽しもーねっ♪
♡)…っ
楽しんでいいのかな…
なんて考えちゃったら
すぐに返事が出来なくて…
でも。
臣)な?
臣くんがすごく優しく笑ってくれて…
♡)……(こくん)///
楽しんでもいいのかなって
少しだけ思えた。
ア)ここが一番大きな通りダヨ!
臣)うわ、すげーーー。
エ)カラフルで可愛いヤロ?
♡)うん…っ!
少し古い建物はどれもカラフルで
すごく可愛い街並みが続いてる。
臣)わ、何これ。民族衣装?
ア)ソウダヨ、全部手作り。
♡)これもカラフルだね…。
スカートに…、あ、帽子もある。
臣)かぶってみれば…?
♡)…っ
臣くんにそう言われて、
カラフルな帽子を一つ、頭に乗せてみた。
♡)どう…かな…?
臣)ん。可愛い。
♡)////
臣くんがすごく優しい笑顔で
そんなこと言うから…
なんだかドキドキする…。
エ)♡似合うヤン!ええでええで!
ア)可愛いヨネ!
♡)ありがとうw
それからしばらく4人で通りを歩いてると…
男)¿Qué hora es ahora?
いきなり知らない人に声をかけられた。
♡)えっと…
あ、3人が行っちゃう。
♡)なんですか?
男)¿Qué hora es ahora?
♡)えっと…、
スペイン語なのかな?
全然わからない。どうしよう。
カバン開けろみたいなジェスチャーしてる。
♡)あの…、きゃっ!!
臣)♡!!
いきなりスマホを取られそうになって
パニックになってると
すぐに臣くんが助けに来てくれた。
エ)コラ!何してくれとんじゃワレ!!
頭かち割ったろか!!!
♡)えっ…
一緒に戻ってきてくれたエイミーが
いきなりすごい関西弁で
男の人を追っ払ってくれて…
臣)……。
♡)……。
その勢いに、
私と臣くんは思わず目を合わせて
笑っちゃった。
ア)ごめんごめん、大丈夫ダッタ?
スリとかには気をつけてネ?
ま、エイミーがいれば安心だけど。
♡)え…?
ア)空手の黒帯ダカラ!w
臣)えええ!!
エ)日本の武道に憧れて
留学中に習っててん!!ドヤ!!w
♡)あははは、すごい!w
頼もしいなぁw
でも私もちゃんと自分で気をつけなくっちゃ。
ア)じゃあ行こうか、
モウスグ着くよ、ランチのお店!
エ)ハラヘッタ〜〜w
バッグをキュッと持ち直して
二人についていこうとしたら、
臣)……。
臣くんが私をじっと見てた。
♡)…っ
どうしたのかな。
臣)……危ないから…、
♡)え…?
臣)……手、……繋ぐ…?
臣くんがそっと手を差し出してくれて…
♡)…っ
それだけで、
胸がぎゅぅぅぅってなった。
♡)……(こくん)///
嬉しくて何も返事できなくて、
でも私はすぐにその手をきゅっと掴んだ。
臣)……じゃあ…行こっか…///
♡)(こくん)///
ずっと…繋ぎたかった…。
こうしたかった…。
なんか嬉しくて…泣きそうだよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
嫌がられたらどうしようって
ドキドキしながら手を出したら…
♡は何も言わずに、
でもすぐに俺の手を握ってくれて…
臣)////
なんだろう、これ…。
めちゃめちゃ嬉しくて…
手を繋いでるだけで、なんかドキドキする。
臣)大丈夫…?
♡)(こくん)///
臣)////
小さな手。
俺が守りたいのはこの手なんだ…。
……ああ、もう…
ずっとこのまま繋いでたい…。
ア)着いたヨーーー!
エ)ココ!ココ!めっちゃ美味いネン!
着いちゃったーーー!!
臣)足元気をつけてな。
♡)……(こくん)
階段だから仕方なく手を離すと
♡が少ししょんぼりしたように見えたのは…
俺の気のせい?俺の願望?
……つーか…
階段の一段一段がマジでキツイ。
身体の重さにまだ慣れない。
富士山と同じって言ってたもんな…。
こんな標高で普通に暮らしてるここの人たちが
ほんとすげぇや…。
エ)ココはなんでも美味しいネン!
自慢の店ヤデ♡
ア)イッパイ食べてね!
そう言われて出てきた料理は
本当にどれもこれも美味しくて。
ボリビア名物のアンティクーチョに
ソパデマニっていうスープ。
トゥルッチャのカルパッチョも絶品だった。
そして何より、
♡)えへへ、美味しい…♡
♡の笑顔を見れたのが嬉しくて。
エ)美味しい?
♡)うん♡
エ)可愛いなぁ、♡は。
もっと食うたらエエヨー♪
♡)あははは♡
臣)……///
美味しそうに食べる♡も
嬉しそうに笑う♡も
ほんとに可愛くて。
やっぱり大好きだなぁ…
なんて思いながら見惚れてたら
アーサーに肘でつつかれて笑われた。
ア)オミは♡がダイスキなんだねw
臣)////
女子二人には聞こえないように
こそっと耳打ちされた。
臣)そうだよ…。
……本当に…好きなんだ。
すごく大事…。
改めて口にしたら、
よりその想いが強くなった気がする。
好きだよ、♡。
♡)…どう…したの…?///
臣)えっ
♡)////
臣)////
あれ?
伝わっちゃったのかな?
なんか一気に恥ずかしくなった。
あれ?
俺、口に出してないよな?
エ)オミが熱い視線を送るカラ
♡が照れてんネン♡
臣)え、いや、送ってない!///
ア)送ってタヨw
臣)////
♡)////
……送ってたけど。
臣)ごめん、気にしないで食べて…///
♡)あ、……うん///
なんだこれ。
俺は片想いか!
……って、そうだよな。
片想いみたいなもんだよな、今は。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
美味しいお料理をたくさん食べたら
少し体力が回復したような気がした。
ア)ヨーシ、じゃあ次は
月の谷に向かうヨー!
エ)ヨッシャ行くでーー!
アーサーもエイミーも
とっても明るくて楽しくていい人。
二人がいてくれて良かった。
♡)きゃっ!!
ぼすっ
臣)大丈夫か?
♡)…っ
段差でつまずいて
臣くんに激突しちゃった。
鼻の頭が痛い。
臣)ん?痛い?
臣くんは心配そうにかがんで
私のおでこを優しく撫でてくれた。
♡)////
そんな仕草にキュンってして…
私は何も言えなくて、黙って俯いた。
臣)気を付けろよ…?
♡)……うん。
……どうしてかな。
臣くんの背中を見てると、
くっつきたくなる。
……また…手、繋いでほしい…。
ダメかな…。
図々しいかな…。
ア)さ、車で移動スルヨーー!
エ)乗って乗ってー!
そう言われてハッとした。
♡)////
私、臣くんのことばっかり見てる。
……何してるんだろう。
なんか片想いしてるみたい…。
あ、でも…、
そうだよね…。
今は片想いと一緒だよね……。
♡)……。
……臣くん…大好きです…。
臣くんのことが本当に好きなんだよ…。
本当に…大好きなの…。
臣)え…、どうした…?///
♡)えっ
臣)////
♡)////
あれ?
伝わっちゃったのかな?
なんか一気に恥ずかしくなってきた。
あれ?
私、口に出してないよね?
エ)♡が熱い視線を送るカラ
オミが照れてんネン♡
♡)え、お、送ってないもんっ///
ア)送ってタヨw
♡)////
臣)////
……送ってたけど。
♡)気に…しないでね///
臣)……うん///
それからみんなで車に乗り込んで、
月の谷っていうところを目指して
出発した。
ア)そういえば。
さっき、スリがいたデショ?
♡)あ、うん!
ア)ラパスはそこまで危険じゃないケド
一応、夜に一人で出歩くのは控えてネ!
臣)ああ、そうなんだ。
エ)あと、ボリビアは貧しい国ヤカラ
買い物も値切ったりせんといてナ。
♡)そうなの?
エ)セヤネン。
年間所得平均が20万もないネン。
臣)えっ!月間じゃなくて年間!?
エ)せやで。
臣)…っ
ア)ダカラお土産とかたくさん買ってネw
♡)買うっ!いっぱい買うよっ!
エ)アハハハw
そっか…そうだったんだ…。
私本当に何も知らずに来ちゃった。
今度からは海外に行く時は
もう少し事前にその国のことを
調べてからにしよう。
♡)ボリビアのこと、いっぱい教えてねっ!
エ)なんでも聞いてヤ〜〜
臣)俺も知りたい、色々…
せっかく来たんだし…。
ア)二人とも優しいネ。
な〜〜んでも教えちゃうヨ!
そう言ってくれた二人は
最近のボリビアニュースから小さな豆知識まで
到着するまでの間、
本当にたくさん話してくれた。
ア)さぁ着いたヨ!ココが月の谷ダヨ!
臣)すっげぇ…っ
エ)行くで行くで〜〜♪
♡)…っ
あれ。
しばらく平気だったのに
今またグラッとした。
ア)写真イッパイ撮ってあげるからね〜♪
臣)ははは、ありがとうw
♡)……。
車を降りた途端、
身体が重くなって…歩くのがしんどい。
エ)♡、ダイジョーブ?
♡)あ、うん!大丈夫だよ!
心配をかけたくなくてそう言ったけど…
標高の高さがこんなに身体にこたえるなんて
初めて知った…。
臣)……。
あ、臣くんが待っててくれてる…。
臣)大丈夫か?
もう少しゆっくり行く…?
♡)……うん、ごめんね…。
少し歩いただけで息切れしちゃう…。
臣)俺も実はちょっとしんどい…w
すぐ息切れするw
♡)…っ
臣くんは優しいからそう言ってくれて…
臣)手…繋いでた方が…
歩くの、ラク…?
♡)え…っ
その言葉に顔を上げたら、
臣くんがまた手を差し出してくれてた。
臣)やなら…全然いいんだけど…
♡)…っ
私は慌ててその手を取った。
♡)繋いでも…いーい…?///
臣)////
繋ぎたい。
♡)……繋ぎたかった…の///
臣)えっ…///
♡)////
臣)////
離したくなくて、
臣くんの手をぎゅっと握った。
臣)じゃあ…ゆっくり行こうな…?///
♡)……(こくん)///
……あ、っ
臣くんが…手と手を恋人繋ぎに変えてくれた。
♡)////
とくん…とくん…
あったかくて、嬉しくて。
臣くんにぎゅって…抱きつきたくなった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
どうしよう…
すげぇ可愛い…///
なんかもう…抱きしめたくて
しょーがないんだけど…。
はぁ…///
俺の手をきゅっと握ってる小さな手。
「繋いでも…いーい…?///」
さっきの上目遣い、死ぬほど可愛かった。
いや、死んだ。可愛すぎて。
「……繋ぎたかった…の///」
真っ赤になって俯いた♡がたまんなくて。
臣)////
なんか俺もうドキドキしっぱなしなんだけど…
そんなのんきな状況じゃないことは
わかってんだけど…
だって可愛いんだもん。
だって好きなんだもん。
そりゃドキドキするよ。
するなって方が無理だよ。
ア)ココはまるで月面を散歩してる
みたいデショ?
だから「月の谷」って呼ばれてるんダヨ!
臣)へぇ…そうなんだ。
確かにすごい景色なんだけど…
俺は♡と繋いでる手に
意識が集中してて…
♡)なんか…
臣)ん…?
♡)グランドキャニオン…思い出すね…
えへへw
♡がそんなこと言って可愛く笑うから…
臣)////
なんかキュンキュンして…
ダメだ俺。なんだこれ。
改めて思う。
♡の笑顔の破壊力はすごいって。
エ)コッチはスゴイで〜〜〜!
落ちたら終わりヤ!w
♡)わぁっ…
下が見えないほど深い谷底を
♡はじーっと見つめてる。
臣)……。
俺、お前と落ちるならそれでもいいや。
なんて…
彼氏が隣でそんなアホなこと考えてるなんて
思いもしないんだろうな。
♡)ね、すごいね///
臣)うんw
無邪気な笑顔に、心が弾む。
俺って…
何回♡に恋するんだろう…。
きっと一生こうなんだろうな…。
ずっと好きだよ…。
何度だって恋するから…だから…、
俺のそばにいて、ずっと。
俺の隣で、笑ってて…。
♡)ん…?どう…したの?///
臣)んーん、なんでもない…w
♡)////
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
気付けば臣くんが
すごく優しい瞳で私を見つめてて…
なんだか胸がキュンてして仕方なくて…
私は臣くんの手を握ったまま、下を向いた。
だって…
いつもの臣くんみたい…///
好きだよって…
そう言ってくれてるみたいな
優しい瞳だった。
♡)////
とくん…とくん…
この手、離したくない…。
ずっと…繋いでたい…。
大好き…。
大好き、臣くん…。
ア)ヨーシ、じゃあ写真もタクサン撮ったし
そろそろ行こうか!
エ)せやね〜〜!
月の谷を一通りまわって
月面散歩を満喫して。
車に戻ってくる頃には
もう身体が疲れ切ってへとへとだった。
ア)♡、疲れたデショ?大丈夫?
♡)うん…少し疲れちゃった…w
エ)ホテル戻ったら酸素吸入したらエエヨ!
♡)え、そんなのあるの?
エ)あるある!
♡)したい!
酸素を目一杯吸いたい気分。
臣)俺もやりたいそれ…。
エ)ハハハ、オミも涼しい顔してるけど
ヤッパリしんどい?
臣)うん、結構ねw
ア)じゃあ帰ったら二人とも吸ったらいいよ。
臣)うん。そうしよ。
そう言って臣くんは
シートの上に置いてる私の手に
自分の手を重ねてきた。
♡)…っ///
え、……なんだろこれ…
……あっ!
♡)////
繋いで…くれた…///
スリがいるから危ないわけでも…
歩くから苦しいわけでもないのに…
繋いでくれた。
嬉しくて…泣きそうで…
手を繋いでもらってるだけで
このまま時が止まっちゃえばいいのになんて…
そんなこと思ってる私は、バカみたい…。
でも…
それくらい、好きなの…。
臣くんのことが…好きなの…。
臣)ん…?何…?
♡)えっ…
臣)いや、見てたから…///
♡)…っ
思わずじっと見つめてたら
臣くんが戸惑ったようにそう言った。
♡)……見ちゃ…ダメ…?///
臣)えっ…、、
いや…、いい…けど…///
♡)////
臣)////
大好きだから、見てたいの。
臣くん…。
臣くん…。
大好きな横顔をずっと見つめてたら…
きゅっ。
臣くんが繋いでる手にそっと
力を込めてくれた。
♡)////
大好きって…言いたい。
今日の夜、ちゃんと伝えても…
いいかな…?
臣くん、聞いてくれるかな…?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
♡の真っ直ぐな瞳に見つめられると…
勘違いしそうになる。
だって…
いつもの♡みたいで…///
俺のこと好き、って…
そう言ってくれてるみたいな
優しい瞳だから。
臣)////
とくん…とくん…
この手を、離したくない…。
ずっと…繋いでたい…。
大好きだって…言いたい。
今日の夜、ちゃんと伝えても…
いいかな…?
♡、聞いてくれるかな…?
ちゃんと謝って、俺の気持ちを伝えて、
元の二人に戻りたい。
戻りたいんだ。
それからホテルに着いて車を降りると
頭がグラッとして身体がまた重くなった。
臣)…っ
ほんと慣れない、この感覚。
早く酸素が吸いたい。
♡)はぁ…、は…ぁ…っ
♡も少し歩くだけで辛そうだし…
臣)大丈夫か…?
♡)(こくん)
月の谷でちょっと歩きすぎたかな。
旅の疲れもあるし…
ちょっと休ませてやりたいな。
ア)晩ご飯食べた後はドースルー?
オススメの夜景があるんダケド…
エ)デモ少し曇ってきたワ〜
アカン。晴れてクレ〜〜
臣)あー、えっと…
今日は晩ご飯食べた後は
もう休んでもいいかな?
ア)あ、そうする?
臣)うん。明日に備えて。
エ)そっか!セヤンナ!明日も朝早いし!
それから俺たちはフロントで
酸素吸入を借りて…
少し頭がスッキリしたけど
身体の重さはなかなか消えず。
連れて行ってもらったディナーで
食後にまた薬を飲んだけど。
明日にはもう少し身体が慣れてるといいなぁ。
俺もしんどいけど
♡の身体も心配だし。
♡)ご飯、美味しかったね。
臣)うん。
部屋に戻ってきた♡は
辛そうだけど、でも笑顔で。
なんか健気で抱きしめたくなった。
臣)今日は早めに休もう。
♡)うん。
そう言って、思い出した。
臣)…っ
これだよ、これ。
このベッド。
どうすんだ。
一緒に寝んのか?寝ていいのか?
今日は…ずっと一緒にいたし…
手も繋いでくれてたから…
俺に対する嫌悪感は…
たぶんもうないのかなって思うけど…
あ、もちろん!
こんな酸素薄い状態でやらしいことなんて
するつもりないし!
てゆーか酸素があっても。
俺あのこと死ぬほど反省してるから
♡にそんなことするつもり、全くない。
臣)えっと…、
……あ、先シャワー浴びる?
♡)私、後でいいよ…。
臣)いや、いいよ。先入んな。
♡)……うん、わかった…ありがとう。
あれ…。
やっぱり元気ないな。疲れたのかな。
シャワーに向かう♡を見送って
俺は窓の外に目を向けた。
やっぱり朝予想してた通り、
そこはめちゃくちゃ綺麗な夜景で。
アーサーがオススメの夜景があるとか
言ってたけど…
これだけでも十分綺麗だよな。
あとで♡にも見せてやろう。
そしたら…
喜んでくれるかな。
また笑ってくれるかな…。
俺の頭ん中、ほんと♡ばっかり…w
だって…
笑った顔が見たいんだよ…。
寝る前に…話せるかな。
話したい。
伝えたい。
伝えるんだ、絶対。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
シャワーを浴びながら、
なんだか自分がバカみたいで
悲しくなってきた。
臣くんと手を繋げて嬉しくて
勝手に一人でドキドキして。
臣くんがすごく優しいから…
気持ちが溢れて、好きって言いたくなって。
でも、さっき…。
臣くんはベッドを見てまた固まってた。
やっぱり…嫌なんだよね、私と寝るの。
大好きって…
伝えたいって、思ってたけど…
また心が折れそう…。
どうして私ってこんなに意気地なしなの…。
だって…
もし伝えて、受け取ってもらえなかったら…?
私の気持ちなんて、もう要らない…って…
俺はもう好きじゃないよ、って…
そう言われたら…?
考えたら怖くて、涙が出てきた。
大好きすぎて、失うのが怖い…。
こんな気持ち、初めて知った…。
♡)はぁ……。
バスルームを出て、ガウンに身を包んで…。
臣くんの姿を探したら、
臣くんはベッドサイドで窓の外を眺めてた。
声をかけようと思ったけど…
その背中が、なんだか遠く見えて…
臣)はぁ……。
♡)…っ
そのため息に、言葉が出なくなった。
臣くん…、無理してる…。
楽しもうって言ってくれたけど…
本当は楽しくないのかな。
私と旅行なんて嫌だったのかな。
だって…
ちゃんと仲直りしたわけでもないのに…
私は図々しく、臣くんにいっぱい
甘えちゃって…
うんざりしたのかな…。
臣)……あ、おかえり。
♡)…っ
私に気付いた臣くんは
そっとこっちに歩いてきて…
臣)じゃあ俺もシャワーしてくるわ。
そう言って、
なんだか困ったような切ない瞳で
しばらく私のことを見つめた後、
臣)ちゃんと髪、乾かせよ?
風邪引くぞ。
って私の頭をポンポンして
いなくなった。
♡)……。
あの表情…、
やっぱり私が臣くんに無理させてるんだ。
私と一緒にいても…
臣くんは心から笑えないんだ。
ごめんね…。
ごめんね、臣くん…。
言われた通りにドライヤーを当てながら
涙をグッと堪えて…
私はそのまま、ソファーに横になった。
私はこっちで寝るから大丈夫だよ。
気にしないでね…。
臣くんが…少しでもゆっくり休めますように…
明日になったら…
臣くんが少しでも、笑ってくれますように…。
……
…
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
臣)……よし。
気合いを入れて、蛇口をキュッと閉めた。
バスタオルで頭を拭いて、
髪を適当に乾かして。
♡とちゃんと話す。
そう決めて、部屋に戻ると…、、
臣)え…っ
♡はソファーの上で小さく丸くなって
寝息を立てていた。
臣)なん…で…、
こんなとこで…風邪引くじゃん…。
臣)♡…?
♡)スー…、スー…、
臣)…っ
近付いてよく見てみたら、
その目元には涙の跡があった。
……一人で…泣いてた…?
なんで…?
臣)…っ
その事実に、胸がぎゅっと苦しくなった。
俺、一人で調子乗ってたのかな…。
♡と手を繋げて、嬉しくて…
勝手に一人でドキドキして。
♡が可愛く甘えてくれるのが
ほんとに嬉しくて…
気持ちが溢れて、好きって言いたくなって。
……でも、♡は違ったんだ。
きっと無理してる。
やっぱり…
俺と旅行なんて本当は嫌だったのかな。
だって…
ちゃんと仲直りしたわけでもないのに…
俺の図々しさに呆れたのかな。
うんざりしたかな…。
♡が少しでも笑ってくれると
それだけで嬉しかったけど…
あれも俺が無理させてたのかもしれない。
俺と一緒にいても…
♡は心から笑えないのかもしれない。
だって現に、こうして一人で泣いてる。
ごめん…。
ごめん、♡…。
臣)…っ
なんか俺まで泣きそうになるけど…
そんな情けないこと言ってる場合じゃない。
♡が元気になったら…
ちゃんと伝える、絶対。
とりあえず今は…
少しでも休ませてやりたいから…
臣)♡、ごめんな…。
嫌かもしれないけど…
♡を起こさないようにそっと抱き上げて、
ベッドまで連れていった。
代わりに俺がソファーで寝てたりしたら
明日の朝起きた時に
♡が気にするだろうから…
俺も一緒にベッドに入るけど…
ごめんな。
……思い返せば…
今日、出発前に♡の肩を思わず掴んだ時も
♡はビクッと身体を震わせてた。
本当は俺のこと、怖いのかもしれない。
そうだよな…
あんなことしたんだから…。
♡、ごめん…
……本当にごめん……。
こんなに大事なのに…
こんなに守りたいのに…
俺はいつもお前を泣かせて、傷つけて…。
臣)……♡…、
ほんとに…ごめん…。
でも…
臣)……愛してる。
スヤスヤ眠るその寝顔を見届けて…
俺も静かに目を閉じた。
ーendー
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もどかしいよー(´༎ຶོρ༎ຶོ`)お互い思い合ってるから余計に辛い(;ω;)
早く早くいつもの二人に戻って☆
仲直りはもう目前…ଘ(੭ˊ꒳ˋ)੭✧
どっちの気持ちも知ってるから見てるこっちも辛いT_T
早くラブラブが見たい!!!
元に戻ってよぉぉ!
あともう少し…ଘ(੭ˊ꒳ˋ)੭✧