[196]薄れていく実感(岩&◇Side)

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毎日通ってた◇のマンション。
 
 
今日は一緒に帰ってきて、
一緒にエレベーターに乗ってる。
 
 
岩)……
 
 
花束を抱えて俺の前にちょこんと立ってる◇。
その頭には、俺があげた髪飾り。
 
先週あげた方じゃなくて、
ずっと前にあげたやつ。
 
 
岩)付けて…くれてるんだ。
 
 
思わずそっと触れると、
大きな瞳が振り向いた。
 
 
◇)あ、……うん。
  ……新しいのも…付けてるよ…?
岩)…うん…、ありがとう。
 
 
やっぱり嬉しくて、抱きしめたくなる。
 
 
さっきまであんなに抱きしめ合ってたのに…
なんかまだ、信じられなくて。
 
◇が好きって言ってくれたのは
本当かな、って。
 
夢じゃないよな?って…。
 
 
◇)どうぞ…。
岩)お邪魔します…。
 
 
そんなぎこちないやりとりで
部屋に入れてもらったけど…
 
「お邪魔します」って言うより、
「ただいま」っていうような気分。
 
 
この間は玄関までだったから
1ヶ月ぶりに入る、◇の部屋。
 
 
懐かしいような…
ドキドキするような…
不思議な感覚で。
 
 
◇)はい!手洗いうがいして!
岩)う、うん…っ
◇)あたしお風呂洗っちゃうから!
岩)…っ
 
 
◇は帰ってくるなりテキパキ動いてて…
 
言われた通り、手を洗おうとして
ふと気づいた。
 
 
岩)…っ
 
 
俺の歯ブラシがなくなってる。
 
 
「ただいま」なんて思ってたさっきの自分が
なんか少し悲しくなって…。
 
 
◇)よし!剛典は寝てて!
  お風呂溜まったら起こすから!
岩)…っ
 
 
◇はそう言うと、
今度はキッチンでエプロンをつけて、
何やら料理を始めた。
 
 
岩)……
 
 
さっきまでの余韻なんてなく
テキパキ動く◇の姿に、
やっぱり夢だったんじゃないかって
思えてくる。
 
 
俺…
ほんとに好きだって…
言ってもらえたんだよな…?
 
 
思わず立ち尽くして、◇を見つめてると…
 
俺の視線に気付いたのか、◇が飛んできた。
 
 
◇)寝ててって言ったでしょ!!
岩)いや、だって…
◇)剛典は休まなきゃダメなの!!
岩)…っ
◇)お風呂溜まったらゆっくり浸かって、
  ご飯食べて、すぐ寝ること!
  とりあえず今もすることないんだから
  横になってて!!
 
 
そう言いながら
寝室に向かって俺の背中を
グイグイ押してくる。
 
 
岩)……やだ。
◇)え…?
岩)お前の顔が見えるとこにいたい。
◇)…っ
 
 
振り返ってそう言うと、
◇は少し困った顔をして。
 
 
◇)じゃあ…ソファーで横になってて?
  お風呂すぐ溜まるから。
 
 
そう言って、俺の手を引いた。
 
 
仕方なくソファーに座ったけど
寝ろって言われて…
 
言われた通り、横になると
◇は困った子供を寝かしつけるみたいに
俺の頭を撫でてきた。
 
 
◇)ちゃんといるからね…?
 
 
優しくそう囁いて。
 
 
岩)……
 
 
俺は子供かよって思いながら…
撫でてくれる◇の手が心地良くて…
 
その手を掴もうとすると、
◇が立ち上がった。
 
 
◇)じゃあご飯作ってくるね!
岩)…っ
 
 
なんだろう…
このすり抜けていく感じ。
 
俺は思わず起き上がった。
 
 
なんかまだ…実感がなくて…。
 
 
岩)……
 
 
それに…
 
俺は別に眠たいわけじゃなくて…
点滴もしたから身体も割と平気で…
 
むしろ、◇の足の方が心配なんだけど。
 
 
さっきから歩く度に、少し痛そうだし。
 
 
岩)……
 
 
料理手伝おうかな、って
立ち上がると…
 
ふと目に入ったのは、部屋の隅。
 
 
俺が◇にあげたものが
まとめて綺麗に並べられてて…
 
その横には、大きな白いダンボール。
 
 
岩)…っ
 
 
もしかして…
捨てようと…してた…?
 
 
置いてあるマグカップに手を伸ばすと…
 
 
◇)ああっ!!!
 
 
◇が慌てたように飛んできた。
 
 
◇)寝ててって言ったでしょ!!
  ……あ、っ
岩)……
◇)……
 
 
◇の視線が、俺の手元に移った。
 
 
◇)……
岩)…これ……、
◇)…っ
岩)全部…捨てるつもりだった…?
 
 
俺の問いに、◇は唇をキュッと結んで。
 
 
◇)え…っと…
岩)……
◇)…思い…出しちゃうから…
  封印してて…
岩)……
◇)捨てようと思っても…捨てられなくて…
岩)……
◇)三日前に…封印を解いたところ…。
岩)……
 
 
三日前…?
 
 
◇)ちゃんと…話すから…
  剛典は今は寝てて!!
岩)…っ、はい、ごめんなさい…
 
 
そう言われたら、それ以上聞けなくて。
 
 
キッチンに戻っていく背中を見ながら
俺はまた別のものを見つけてしまった。
 
 
岩)…っ
 
 
テーブルの上に飾られてる、ガラスの花瓶。
 
その中には…
俺が毎日届けてた花が、
色とりどりに咲いていて。
 
 
花って…こんな持つの…?
2、3日で枯れるんだと思ってた。
 
 
そっと近付いてその香りを吸い込めば、
花瓶の横に見つけたのは
俺の手紙がまとめて入ってるクリアファイル。
 
 
岩)…っ
 
 
全部…
大事に取ってくれてる…。
 
 
その事実に、なんだか喉が締め付けられた。
 
 
◇)あ!なんでまた起きてるの!!
 
 
やべっ、見つかった。
 
 
◇)あっ!!!
 
 
飛んできた◇は、
クリアファイルを掴み取って
慌てたように背中に隠した。
 
 
◇)…っ///
 
 
隠しても…もう見ちゃったんだけど…
 
 
岩)……全部…読んでくれてたんだ。
◇)…当たり…前でしょ…っ
岩)捨てないで…取っておいてくれたの…?
◇)…捨てるわけ…ないもん…っ///
 
 
そう言って唇を噛んだ◇が可愛くて…
無性に抱きしめたくなった。
 
 
◇)もういいから座ってて!!///
  てゆーか横になっててって言ったでしょ!
  何ウロウロしてんの!バカっ!!///
岩)…っ
◇)あ、てゆーか!
  お風呂溜まったから入ってきて!!
 
 
そう言って、◇は少しハッとした顔をして。
 
 
部屋の隅にあった白いダンボール。
その横に置いてあった紙袋から
俺の着替えと歯ブラシを持って走ってきた。
 
 
◇)はいっ!!
岩)…っ
◇)ゆっくり入ってちゃんと疲れ取ってね?
岩)……はい。
 
 
そう言われるがままに洗面所に向かって、
風呂に入ったけど…。
 
 
岩)……
 
 
俺があげたものだけじゃなくて…
俺の服やら歯ブラシも封印されてたみたい。
 
 
……そりゃそうか…。
 
 
◇はそういうところキッチリしてそうだし…
俺と距離置くって決めて
すぐに片付けたのかな…。
 
 
岩)……
 
 
「捨てようと思っても…捨てられなくて…
 三日前に…封印を解いたところ…。」
 
 
俺があげたプレゼントたちは
なんとかギリギリセーフだったみたいだけど…
 
 
……捨てようとしてたってことは…
忘れようとしてたってことで。
終わりにしようとしてたってことで。
 
 
……そりゃそうだ。
 
俺、別れたいって言われたんだし…。
 
 
「優助が…好きなの…っ
 だから剛典とは別れたいの…っ!」
 
 
思い出す、あの夜。
 
 
「あたし、優助とデートもしたし…
 優助の家にも泊まったの!!」
 
 
……そう言われた。
 
 
◇は…
あいつとはどうなったんだろう。
 
本当に…好きだったのかな…。
 
 
じゃあ…俺を好きって言ってくれたのは…?
 
 
「もう、剛典とは戻れない。
 ……別れて…ください。」
 
 
あれが◇の本心かどうかは
今でもわからないけど…
 
そう言われたのは事実で。
 
 
岩)……
 
 
なんかどんどん、不安になってくる。
 
 
さっき…
俺のこと好きって言ってくれたけど…
 
あれは俺と戻ってくれるって意味なんだろうか。
 
 
もしかして…違うんじゃ…
 
 
岩)…っ
 
 
◇の「好き」は…
俺と同じ「好き」なのかな…?
 
 
俺が死ぬと思ってびっくりして
思わずそう言っただけとか…
 
俺が倒れたから、
心配して…同情して…、とか…。
 
 
岩)……
 
 
さっきは気持ちが通じた気がして
嬉しくて、涙が止まらなかったけど…
 
俺の一人よがりだったらどうしよう。
 
 
「剛典が…元気になるまで…
 そばにいてもいい…?」
 
 
それって…
俺が元気になったら
また離れていくって意味じゃない?
 
 
◇が今俺といるのは義務感…?
自分のせいで俺が倒れたって思ってるから…
 
は…っ
 
 
だって、そうだよ。
あいつ元々責任感強いし、
困ってる奴ほっとけないタイプだし…
 
 
岩)…っ
 
 
どうしよう…
なんかどんどん自信なくなってきた。
 
 
花と手紙を大事に取ってくれてたのは
本当に嬉しいけど…
 
いろいろ封印されてたのも事実だし…
 
 
「ちゃんと…話すから…」
 
 
さっき◇はそう言ったけど、
俺に何を話すつもりなんだろう。
 
 
俺は…
聞きたいことも、話したいことも、
たくさんある。
 
 
岩)……っ
 
 
なんか無性に◇の顔が見たくなって、
俺は急いで風呂を上がった。
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
よし!おじや完成!
 
消化にいいものなら
お粥の方がいいかなって思ったけど
でもちゃんと栄養も摂ってほしいから
野菜をいっぱい入れた。
 
 
とにかく、剛典が休みの間に
いっぱいいっぱい休ませて
栄養あるもの食べさせて、
剛典を元気にしなくっちゃ!!!
 
 
岩)ただいま…。
◇)あっ!!
 
 
剛典が頭を拭きながら戻って来た。
 
 
◇)はい、ここ座って!!
 
 
あたしはドライヤーを持ってきて
剛典の髪を乾かしてあげた。
 
 
岩)なんでここまでしてくれんの…
◇)いいから!おとなしくしてて!!
 
 
また倒れちゃったら大変だもん!
 
 
◇)よし、乾いたかな?
 
 
洗いたてのさらさらの髪に指を通すと、
剛典が振り返って、あたしの手を掴んだ。
 
 
◇)どうしたの…?
岩)……
 
 
じっと見上げるその瞳が、
子犬みたいでなんだか可愛くて…
 
あたしは思わず、剛典の頭を撫でた。
 
 
◇)ちゃんと乾いたよ♡
岩)……
◇)ご飯用意するから待っててね!
岩)…待って…っ
◇)…っ
 
 
キッチンに戻ろうとしたあたしは
立ち上がった剛典に、腕を引かれた。
 
 
◇)……
 
 
振り返ると、
今度は剛典があたしをじっと見下ろしてて…
 
その瞳の奥が、少しだけ揺れた気がした。
 
 
◇)…っ
 
 
……何か、言いたそう…。
 
どうしたのかな…。
 
 
スッと伸ばした手で
剛典のほっぺを撫でると…
 
剛典はその手を掴んで、目を閉じた。
 
 
何か…確かめるみたいに…
あたしの手を、ほっぺに当てたまま。
 
 
◇)……
岩)……
 
 
……どうしたの…?
 
 
◇)剛…典…?
 
 
そっと名前を呼べば、
ゆっくりと目を開けて…
 
 
岩)……ごめん、なんでもない。
 
 
剛典は力なく笑った。
 
 
やっぱりまだ、体調悪いのかな?
 
 
◇)ご飯食べようっ!!
 
 
そして、早く寝て休ませなきゃっ!!
 
 
おじやをお皿に移して、
テーブルに向かい合って座って。
 
久しぶりのこの感じが、
懐かしいんだけど、少しぎこちなくて。
 
 
でも…
 
一口食べると、剛典が美味しいって
少しだけ笑ってくれたから…
 
 
◇)…っ
 
 
なんだか胸の奥がジーンと熱くなった。
 
 
岩)……お前の味…、なんかほっとする。
◇)…っ
 
 
今、目の前にいる。
 
あたしのご飯、食べてくれてる。
 
剛典が、ちゃんと生きてる。
 
 
◇)……
 
 
帰ってきてからバタバタで
それどころじゃなかったけど…
 
改めて、今剛典が目の前にいてくれることに
なんか感動して…
 
 
勝手にこぼれてきた涙を、慌てて拭った。
 
 
岩)え、ちょっ…!なんで泣いてんの!?
◇)…っ
 
 
だって…
 
 
岩)え、え、なんで?!どうした!?
◇)…っ
 
 
剛典が生きてるから。
 
そんなこと言ったら、
 
まだそんなこと言ってんのって
呆れられそうだから、言わない。
 
 
◇)ごめんね…。
岩)…っ
 
 
剛典と一緒にいられて、嬉しいんだよ…。
 
 
早く…元気になってね…?
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
ご飯を食べながら、
◇がいきなり泣き出して。
 
 
その涙の意味がわからないから
めちゃめちゃ焦る俺。
 
 
どうしたって聞いても、
ごめんねとしか言わなくて。
 
 
岩)……
 
 
ご飯を食べ終わって、◇が片付けてくれて。
 
 
美味しかったよありがとうって言ったら
明日もいっぱい食べてねって言われた。
 
 
明日も一緒にいられるんだって…
嬉しくなって…
 
でも、いろいろ複雑な思いも消えなくて…
 
 
岩)……あの…さ、
 
 
洗い物をしてる◇に、横から話しかけた。
 
 
岩)…ほんとに…
  明日も一緒にいてくれんの…?
◇)うん!
岩)会社は…?
◇)明日から夏休みだよ。
岩)……
 
 
そっか、臣さん言ってたもんな。
 
 
◇)剛典が元気になるまで
  ずっとそばにいるっ!!
 
 
また言われた、同じ言葉。
 
 
それは…なんで?
義務感じゃ…なくて…?
 
 
◇)てゆーか剛典は寝てってば!!
 
 
洗い物を終えた◇は、
またグイグイと俺の背中を押してきた。
 
 
◇)安静にしてて!起きてちゃダメ!
  寝てっ!!
岩)…っ
 
 
そう言われても…
 
 
岩)待って。
  ……話、したい。
◇)え?
 
 
話したいことも聞きたいことも
たくさんあるから。
 
 
◇)話って…
岩)俺たちのこと。
◇)…っ
 
 
俺がそう言うと、◇は少し困った顔をして…
 
 
◇)今は…剛典が心配だから
  先に休んでほしい。
 
 
そう言った。
 
 
◇)明日でも遅くないでしょ?
  剛典がちゃんと元気になってから
  話したい。
岩)…っ
 
 
それは…
俺がダメージ受ける話だから?!
 
 
岩)俺、元気だよ!今話したい!
◇)…っ、……ダメ。
  早く寝て。
岩)…っ
 
 
なんで…っ
 
気になって寝れるわけないじゃん。
 
 
俺の背中を押してくる◇の手を掴んで、
真っ直ぐに見つめた。
 
 
岩)じゃあ一つだけ聞いていい…?
◇)……なに?
 
 
こんなこと聞くの…情けないけど…
 
 
岩)ほんとに…
 俺のこと…好き…?
 
 
さっき言ってくれたのに…
不安でどうしようもない。
 
 
◇)大好きだよ…?
岩)…ほん…と…?
◇)……(こくん)
 
 
◇が頷いてくれたから、
抱きしめようとしたら…
 
 
◇)……ダメ、…ほら、早く寝て。
 
 
俺の腕をすり抜けて、
寝室に入っていった。
 
 
岩)…っ
 
 
さっきはあんなに抱きしめ合ったのに…
なんでダメなんだよ…。
 
 
◇)なんかあったら呼んでね?
岩)は…?
 
 
布団をめくって、そう言う◇。
 
 
◇)だから、喉が渇いたとか…
  お腹空いたとか…
  なんでもいいから!
  何かあったらすぐに呼んでね!
岩)いや、意味わかんない…
 
 
お前は看護師さんかよ。
 
 
◇)あたしはソファーにいるから。
岩)なんで?一緒に寝ないの?
◇)寝ないよ。
岩)なんで?
◇)だってこのベッド、狭いもん。
  剛典ちゃんと寝ないと疲れ取れないから…
岩)そんなんいいから。
 
 
俺は◇の言葉を遮った。
 
 
岩)そんなんいいから、一緒に寝て。
◇)ダメだってば!
  身体ちゃんと休めないと剛典が…っ
岩)いいから!
 
 
俺は思わず、◇の肩を掴んだ。
 
 
岩)お前と一緒にいるのが
  一番疲れ取れるから。
◇)…っ
岩)癒されるから。
◇)……
 
 
◇のぬくもりを確かめたい。
 
別に何もしないから。
 
抱きしめて眠るだけで…
それだけでいいから。
 
 
◇)でもあたし…まだお風呂入ってないもん。
岩)じゃあ待ってるから。
◇)…っ
岩)寝る時は絶対ここ来て。
 
 
俺の子供みたいなワガママに、
◇はわかったよって言って
風呂に向かった。
 
 
岩)……
 
 
好きだって…言ってくれてるのに…
 
距離を置いてた間の
空白の時間が…
 
◇の気持ちが…
 
わかんなくて。
 
 
好きだって言ってくれて嬉しい気持ちと
 
また失うんじゃないかっていう不安が
 
胸の中でグルグルしてて…
 
意味もわからず、泣きそうになる。
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
「ほんとに…俺のこと…好き…?」
 
 
そう聞かれて、
大好きだよって答えたら
剛典に抱きしめられそうになった。
 
 
思わず逃げちゃったけど…
 
 
◇)……
 
 
話がしたいって言われて…
それは当たり前だし
あたしもちゃんと話さなきゃとは思ってる。
 
でも今はそれより
剛典の身体が心配だから
ちゃんと休んでほしいし…
 
 
順番的には剛典と話すよりも
優助と話す方が先じゃないかなって
思ってる自分がいて。
 
 
◇)……
 
 
剛典との答えを先に出すんじゃなくて、
まずはあたしの気持ちがハッキリした時点で
先に優助に伝えるのが筋だと思う…。
 
 
それまでは…
剛典に抱きしめられたりするのは
なんか違う気がして…
 
…って言っても
病院ではいっぱいいっぱいになっちゃって
ずっとしがみついてたのは
あたしなんだけど…。
 
 
◇)はぁ……。
 
 
あったかいお風呂。
剛典はちゃんと休めたかな。
 
 
浴槽の淵に頭を乗せて、深呼吸をした。
 
 
◇)……
 
 
「ほんとに…俺のこと…好き…?」
 
 
少し不安そうにそう言った剛典。
 
……あたしの気持ち、
信じられないのかな…?
 
 
そりゃそうだよね…。
 
 
「優助が…好きなの…っ
 だから剛典とは別れたいの…っ!」
 
「あたし、優助とデートもしたし…
 優助の家にも泊まったの!!」
 
 
あたし、あんなこと言ったんだもん。
 
 
きっと剛典は
あたしと優助がそういう関係になったって
思ってるだろうし…
 
何もしてないよとか…
今更すぎて、言い訳がましくて
言いたくない。
 
気持ちが動いたのは事実だし。
 
 
あたし…
 
ひどいこと、いっぱい言ったし、
いっぱい傷つけた。
 
 
それなのに…
 
どうして剛典は
あたしのこと好きって言ってくれるんだろう。
 
 
距離を置いてた間の、空白の時間。
 
 
あたしの気持ちを
ちゃんと全部話して…
 
もし剛典が離れていくなら仕方ない。
 
 
それでもあたしは剛典が好きだもん…。
 
 
そんなことを考えながら
気付けば長風呂になってて…
 
少しのぼせながらリビングに戻って
冷たい水を飲み干した。
 
 
寝る準備を済ませて寝室を覗くと、
剛典はもう眠ってて。
 
 
◇)……
 
 
やっぱり、疲れてたよね。
 
過労で倒れたんだもん。
 
毎日忙しいのに…
毎日お花届けてくれて…
 
 
「無理なんかしてないっ!」
 
 
剛典はそう言ってたけど…
 
やっぱりあたしは、罪悪感を拭えない。
 
 
剛典が大変な時にこんなことさせて…
あたし…彼女失格だよ…。
 
 
◇)…っ
 
 
……でも…、
 
 
その分も…これからは
ずっとそばにいるから…
 
剛典のこと支えたいから…っ
 
 
あたし…
剛典の隣にいてもいい…?
 
 
本当に本当に…ごめんね…?
 
 
こぼれてくる涙を拭いて、
やっぱり剛典にはゆっくり休んで欲しいから
あたしはソファーで寝ようって思った。
 
 
でも。
 
 
岩)……◇…、
 
 
眠ってる剛典が
寝言であたしの名前を呼んで…
 
そっと手を握ると、
眠ったままあたしの手をぎゅっと
握り返すから…
 
 
「寝る時は絶対ここ来て。」
 
 
さっきの言葉を思い出した。
 
 
◇)……
 
 
「お前と一緒にいるのが一番疲れ取れるから。
 癒されるから。」
 
 
そう言ってくれた。
 
 
ためらう気持ちもあったけど、
剛典を起こさないように
そっとベッドに入ると、
 
あたしの手を握ってた剛典の手は
条件反射みたいにあたしの背中に回って…
 
あっという間に、
剛典の腕の中に抱きしめられた。
 
 
◇)…っ
 
 
起きたのかな?って思ったけど…
剛典の寝息はそのままで。
 
 
抱きしめられたまま
剛典の胸に耳を寄せれば
 
聞こえてくる、トクン、トクンっていう
胸の音。
 
 
あたしを包み込むような
剛典のぬくもりに…
 
愛しい気持ちと泣きたい気持ちが
同時に込み上げてくる。
 
 
………好き。
 
剛典が好き…。
 
 
◇)……ぐす…っ
 
 
どうしてだろう…
 
すごく不思議だけど…
 
 
あたしが帰ってくる場所は
ここだったんだって…
 
そう思うくらい、安心するぬくもり。
剛典の匂い。
 
 
………剛典…大好きだよ…。
 
 
大きな身体に身を委ねながら
心の中で何度もそう呟いて、
 
あたしはゆっくりと…眠りに落ちた。
 
 
 
 
 
ーendー

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  1. さゆれ より:

    もどかしい、、、。隆二と♧ちゃんのもどかしさはキュンキュンが詰まってるけど、この二人はお互いまだ本音で全部話してないし、まだまだラブラブになるのは先かな、、、。でもとりあえず元に戻ったし、それだけでも良しとしないといけないのかな(><)

    • マイコ より:

      それだけでもヨシとしておいてください。゚(゚^∀^゚)゚。
      ラブラブは…まだまだ先ぃ〜〜( ;゚³゚);゚³゚);゚³゚)ふんふふ〜〜んw

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