七夕の奇跡 〜short story〜

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店)おう、〇〇ちゃん、いらっしゃい!
〇)いつものやつお願いします!
店)あいよ!w
 
 
ふぅ、暑いな…。
 
私はハンカチで汗を拭って、
冷たいおしぼりで手を拭いた。
 
 
仕事帰りにいつも立ち寄る近所の居酒屋。
 
冬はあったかいおしぼりを出してくれるし
夏はキンキンに冷やしてくれてるから
気持ちいいんだーー。
 
 
〇)はぁ、美味しーーい♡
店)〇〇ちゃんはほんと美味そうに飲むねぇw
〇)だって生き返る〜〜♡
店)ははははw
 
 
こんな田舎の小さな町役場で働く私の
ほんのささやかな息抜きが
こうして一人でお酒を飲む時間。
 
働いた後のお酒はやっぱり最高!
 
 
〇)あ、おじさんっ!
  これすっごく美味しいよ!
店)だろぉ〜〜?
  今朝入った新鮮なやつなんだよ!
〇)美味しすぎる〜〜!♡
店)じゃあお持ち帰り用にも
  少し分けてあげるよw
〇)やったーーー!
  おじさん大好きっ♡
店)ははははっw
  〇〇ちゃんには敵わないなぁw
 
 
私がこのお店を大好きなのは
お酒やお料理が美味しいのはもちろん、
この店長の人柄もある。
 
一人で店を切り盛りするのは大変だろうに
いつも笑顔でニコニコ楽しい人。
 
 
〇)はぁ…LIVE行きたいなぁ…。
店)お、出た出た、〇〇ちゃんの口癖w
〇)だってーー!
店)この間、行ったばっかりなんだろ?w
〇)そう!だから次のLIVEが遠すぎて!
店)年に一回なんだっけ?
〇)そうだよーー。
  だってこんな田舎から遠征するの、
  本当に大変だしお金もかかるし…。
 
 
LIVEに行くのは年に一回のご褒美って
自分で決めてるんだ。
 
 
〇)はぁ…、
  うちにもドームがあれば
  三代目が来てくれるのに…
店)あははは!ドーム!?無理無理!w
〇)わかってるよ!w
 
 
こんな田舎にドームなんて建つわけない。
アリーナもなければ
大きなコンサートが出来るような場所だって
全くないんだから。
 
 
〇)はぁ…生岩ちゃん拝みたいなぁ…。
店)彼、また映画に出るらしいね!
〇)そう!来月公開なの!
  もう楽しみで楽しみで♡
店)ははははw
〇)岩ちゃんは私の生きがいだもん!
店)そこまで言ってもらえたら
  岩ちゃんも本望だろうなぁw
 
 
……ううん。
 
私みたいなファンなんて
きっと日本中、腐る程いるもん。
 
岩ちゃん本人になんて、届くわけがないよ。
 
こんな田舎に住んでる私の
岩ちゃんへの想いなんて。
 
 
店)そういえばさ、こんなど田舎だけど
  昨日から映画の撮影入ってるらしいよ。
〇)へ〜〜〜〜
 
 
前にもあったっけ、そんなこと。
 
ど田舎すぎるからこそ
このロケーションを使いたいって
撮影陣が来てたんだよね。
 
 
〇)今回は映画の撮影なんだー。
店)そう聞いたよー。
  まぁ岩ちゃんはいないだろうけどw
〇)そうだよー。
  岩ちゃんがいるわけないよw
 
 
こんなど田舎に、来るわけない。
 
 
店)でも有名な俳優さんとか来てるかもよ?
〇)私は岩ちゃん以外、興味ないもんっ!
店)どんなイケメンでも?w
〇)興味ない!岩ちゃんだけ!
店)あっははは!
  愛されてるなぁ、岩ちゃんはw
 
 
カランコロン。
 
 
「あ、すみません、まだやってますか?」
 
 
店)らっしゃい!どうぞどうぞ!
 
 
「失礼します。」
 
 
え…?
 
 
〇)…っ
 
 
その声を聞いた私は、身体が固まった。
 
 
「お腹空いちゃって…w」
 
 
店)え…っ
 
 
あ、おじさんも固まった。
 
 
……嘘でしょ?
 
絶対嘘でしょ?
 
 
背中から聞こえる声を確かめたいのに…
身体が固まったまま、動けない。
 
 
でも、私が聞き間違えるわけがない。
彼の声を…。
 
大好きで大好きで仕方ない、岩ちゃんの声を。
 
 
岩)すいません、お隣いいですか?w
〇)…っ
 
 
そう言って隣に座った彼を、
私は見ることが出来なくて。
 
 
店)ええと…、
 
 
おじさんがうろたえてるのがわかるけど
私はおじさんを見ることも出来ない。
 
だって身体が固まってるから。
 
 
岩)どこか食べるところないかなーって
  探してたんですけど…
  どこも閉まっててw
店)…このへんで…遅くまでやってるのは
  うちくらいなんで…、
岩)そうなんですね!
  開いてて良かった〜〜w
  お腹も空いてるし…
  お酒も飲んじゃおうかなw
店)……。
岩)あの…?
店)……。
岩)メニューありますか?
店)あ、ああ!ああ、はい!!
 
 
やっと少し首が動いた私は、
ロボットみたいにゆっくりと顔を上げた。
 
テンパりながらメニューを渡す
おじさんが見える。
 
 
店)あの…、岩ちゃん…ですよね…?
 
 
その言葉に、私はまた固まった。
 
 
もうわかってるんだけど。
何度も耳に届く彼の声で、
とっくにわかってるんだけど。
 
 
岩)え、僕のこと知ってくれてるんですか?
  嬉しいです、ありがとうございます。
 
 
彼がそれを認めた瞬間、
私の全身の血が沸騰したみたいな
電流が走ったような
なんだかわけのわからない状態に陥った。
 
 
店)知ってるも何も…!
  この子なんて岩ちゃんの…
 
 
そう言いかけたおじさんを
私は視線だけで慌てて止めた。
 
 
「この子なんて岩ちゃんの大ファンだよ」
 
 
そう言おうとしたんだろう。
 
 
でも。
その情報が彼にとってプラスになるかは
わからない。
 
もしかしたらマイナスかもしれない。
 
 
だって…
映画の撮影で来てるっていうのが
岩ちゃんのことだったんでしょ…?
 
忙しい中こんな田舎まで来て撮影して
きっと疲れてるだろうに…
そんな場所でまで
ファンに会いたくないかもしれない。
 
ゆっくり休みたいかもしれない。
 
 
岩)お姉さんも僕のこと
  知ってくれてるんですか?
〇)!!!
 
 
ずっと見ないようにしてたのに
岩ちゃんが私の方に顔を傾けた気配がして…
 
もう無視できない、
そう思って覚悟を決めた。
 
 
〇)……あ…の…、
 
 
恐る恐る、視線を上げると…
 
 
〇)////
 
 
本物だ。
 
本物の岩ちゃんが目の前にいる。
 
 
私の隣に座ってる。
 
嘘みたい。信じられない。
 
 
〇)……テレビとかで…たまに観るから
  知ってるよ…。
 
 
私は必死に、それはそれは必死に、
冷静を装いながらそう答えた。
 
 
岩)えーーー、めちゃくちゃ嬉しいっす。
  ありがとうございます。
〇)////
 
 
なんて可愛い笑顔で微笑むんだろう…。
 
 
大好きな岩ちゃんの笑顔を
こんな距離で拝める日が来るなんて
夢にも思わなかった。
 
 
こんな田舎でこんな奇跡が起こるなんて
誰が予想できただろう。
 
 
岩)へへ、じゃあ乾杯してもいいですか?w
〇)あっ…///
岩)良かった、お姉さんがいて。
  一人だったらさみしいもんw
〇)じゃあ、ええと…乾杯///
岩)ありがとうございますw
 
 
岩ちゃんはグイッと一杯飲み干すと、
すぐに「おかわりー」って
おじさんに笑いかけた。
 
 
店)いい飲みっぷりだね、岩ちゃん!w
岩)あはははw
  空きっ腹に飲んじゃった、
  ヤバかったかなw
〇)じゃ、じゃあ…私もおかわり!///
店)あいよ!w
 
 
おじさんはもう嬉しそうにニヤニヤして
チラチラ私を見てる。
 
「良かったね、〇〇ちゃん!」
って顔をして。
 
 
店)今日は二人の飲み比べかな?w
  〇〇ちゃんも強いんだよー?
岩)ええっ!そうなんすか?
〇)……ハイ///
岩)負けてらんないなぁw
店)あはははw
岩)………〇〇さん?
〇)え!??///
 
 
いきなり彼の声が自分の名前を呼ぶから
心臓が止まるくらいびっくりした。
 
 
岩)…っていうんですか?
  素敵な名前ですね♡
〇)////
 
 
褒め上手なのかな。
 
 
〇)おじさん、おかわり!///
店)あいよ!w
岩)じゃあ俺も!w
店)あいよ!w
 
 
もう、こんな状況、飲まなきゃ無理。
 
 
ずっとずっと大好きで
私の生きがいだった人。
 
そんな人が今、隣にいて話してる。
笑ってる。
一緒にお酒を飲んでる。
 
もう地球がひっくり返ったとしか思えない。
 
 
岩)店長、料理どれも美味いっす!!
店)はははは、ありがとうw
岩)こんな美味しいお店が東京にあったら
  俺、毎日でも通っちゃうな〜〜
店)いや〜〜岩ちゃんは上手いねぇ!w
岩)マジっすよ!
 
 
お酒がすすんでくると
岩ちゃんのテンションも上がってきて、
私たちと打ち解けてきた。
 
「僕」から「俺」に変わったし。
 
 
岩)〇〇さんはずっとここに
  住んでるんですか?
〇)はい、そーです!このど田舎に!
岩)ど田舎って!w
  めちゃくちゃイイ場所じゃないですか!
  俺、好きですよ!
〇)えっ…///
 
 
「俺、好きですよ!」
 
その響きに胸を打たれて
勝手にときめいてしまった。
 
 
岩)すげぇ癒されるじゃないですか…。
  ずっとここにいたいくらい。
  東京の喧騒からは程遠い。
〇)…っ
岩)いい場所ですよ、ほんと。
〇)……。
 
 
確かに自然はいっぱいある、ど田舎だから。
 
 
岩)こんなところで
  のんびり暮らしてみたいなぁ…。
 
 
それは…彼には絶対叶わない。
 
 
岩)そこまで贅沢言わないから
  ぐっすり寝たい!一日でいいから!
店)あははは、それもう田舎関係ない!w
岩)あ、そっか!w
店)岩ちゃんが忙しいだけ!w
岩)そうでした、あはははw
〇)……。
 
 
本当に忙しくて大変なんだろうなぁ…。
寝る暇もないくらいに。
 
なのにTVではいつも笑顔で頑張ってる。
 
 
岩)はぁ…少しでいいから…
  休みたいなぁ…。
 
 
ふとこぼれたのは、きっと彼の本音。
 
 
岩)なんて…こんなこと言ってちゃ
  ダメなんだけど…。
〇)…っ
岩)たまに思うんです…。
  こんなに頑張って…
  何になるんだろう、って…。
〇)…っ
岩)……はぁ、何言ってんだろ俺、
  なんか…すいません…。
 
 
ぽろぽろと弱音を吐く岩ちゃんは
普段だったら絶対見られない。
レアな姿だと思う。
 
 
岩)頑張ろう。
  ちゃんと感謝しなきゃ…。
〇)…っ
 
 
必死に自分を律しようとしてる彼に、
私は胸が痛くなった。
 
 
〇)何になるんだろうって…
岩)え…?
〇)岩田くんはそう言ったけど…
岩)…っ
〇)岩田くんが思ってる以上に
  いろんな人の力になってると思う。
岩)……え?
〇)岩田くんの笑顔や頑張ってる姿、
  岩田くんの存在自体が…
  遠く離れた誰かの癒しになってたり…
  心の支えになってたり…、
  生きる糧になってると思う…!!
岩)…っ
 
 
だって私が、そうだから。
 
それくらい、あなたのことが好きだから。
 
 
〇)岩田くんはすごいんだよ!!
岩)…っ
〇)……はっ、
 
 
私ってば、何熱弁してんの!?
どうしよう!
岩ちゃん、引いてない?!
 
 
〇)あの、えっと…、
岩)……ありがとう。
〇)え…?
岩)ありがとう、〇〇さん。
〇)////
 
 
そう言った岩ちゃんは
本当に優しい微笑みで私を見つめた。
 
……頬が、焼けそう///
 
 
〇)えっと…、えっと…、
  私、お手洗い行って来ます!///
 
 
恥ずかしくて耐えられなくなった私は
トイレに逃げた。
 
 
〇)……はぁぁぁぁ///
 
 
改めて今起きてることを冷静に考えると
やっぱりとんでもない。
 
 
たぶん後にも先にも
こんな大事件は起きないと思う、私の人生で。
 
それくらい今日はすごい日だ。
 
 
岩ちゃん、そろそろ帰っちゃうかな。
どうしよう。
 
大好きだって伝えたいけど
こんな年上の女にそんなこと言われても
ドン引きかもしれないし…
 
なんだよお前ファンだったのかよって
嫌な思いさせちゃうかもしれないし…
 
やっぱり私は最後まで
「偶然出会った田舎のお姉さん」
を貫こう!!
 
 
………そう決めて、席に戻ったのに…、、
 
 
岩)へへ、お帰りなさい♡
〇)////
 
 
嬉しそうに笑った岩ちゃんの笑顔が
甘々すぎて…
 
クラッとめまいがした。
 
 
岩)あの…、
〇)え…?
岩)お礼に…、あれ、一緒に行きません?
〇)へ!??
 
 
思わず変な声が出ちゃった。
 
 
〇)あれって…、
岩)「七夕祭」。
〇)…っ
 
 
彼が指差したのは
三日後に行われる、地元のお祭りのポスター。
 
 
〇)お礼…?って…?
岩)話聞いてもらったお礼です♡
〇)////
 
 
言ってる意味が…よくわからない。
 
 
岩)あれ…?
  お礼にお祭り誘うって、変かw
  それじゃ俺が嬉しいだけだもんね。
〇)へ?!!///
 
 
また変な声が出た。
 
 
岩)一緒に行きたいな、〇〇さんと。
  ダメ…?
〇)////
 
 
可愛すぎて…死にそう。
 
 
店)このお祭りはねぇ、
  み〜〜んな浴衣で行くんだよ。
岩)えっ!そうなんすか!?
 
 
固まって返事ができない私を
フォローするように
おじさんが会話を続けてくれた。
 
 
店)そうそう。男も女もみ〜〜んな浴衣。
岩)えーー、じゃあ俺も着て行きたいなぁ!
  ……って、その前にまだ〇〇さんに
  OKもらえてないんだったw
店)あはははw
  〇〇ちゃん、良かったらこの田舎町を
  案内してあげなよ、岩ちゃんに。
〇)…っ///
岩)お願いします♡
〇)……(こくこく!)///
岩)やったぁ♡
〇)////
 
 
私はうなずくだけで精一杯だった。
 
 
岩)この日、夕方には撮影終わるから…
  じゃあここ出たとこの時計台の下に
  18時でどうですか?
〇)……(こくこく!)///
岩)楽しみだなーーー♡
  それまで撮影頑張ろーーっとw
店)あはははw
 
 
どうしよう。
私は三日後に死ぬのかもしれない。
 
いや、それを言うなら
もうこの今、
とっくに死んでてもおかしくない。
 
 
こんなことが私の人生に起こるなんて。
 
生きてて良かったって
こんなにも強く思う日が来るなんて。
 
 
ああ、神様…
本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に
ありがとうございますっっっ!!!
 
感謝してもしきれません!!!
 
 
これは神様がくれた
人生最大のご褒美だと思って、
しっかり楽しんできます!!
 
 
 
 
それから三日後、
私は数年ぶりに引っ張り出した浴衣に
袖を通して、
待ち合わせ場所へ向かった。
 
 
いつもはおろしてる髪を
今日はまとめてるから
うなじがスースーして、頼りない。
 
 
〇)はぁ、///
 
 
なんだかそわそわして落ち着かない。
どうしよう。
 
……ってそれは今だけの話じゃなくて
この三日間、ずっとなんだけど。
 
 
本物の岩ちゃんに出逢えてしまったあの夜から
私は何も手につかない。
 
ずっと足が地に着いてないような感覚で
ふわふわ、そわそわ、しっぱなしなの。
 
 
〇)ふぅ……、///
 
 
時計台の下に着いた私は
大きく息を吸って深呼吸をした。
 
 
落ち着いて、私の心臓。
 
今からこんなんじゃ
岩ちゃんが現れたら死んじゃうよ。
 
 
岩)〇〇さん!!
 
 
その声に振り返ると…、
 
 
〇)!!!
 
 
私の元に駆け寄ってきたのは、
浴衣姿の岩ちゃんだった。
 
 
〇)え…、っ///
岩)へへへ、着てきちゃった♡
〇)////
岩)浴衣なんて持ってきてなかったからさ、
  昨日、ちょっと抜け出して
  そこの商店街で買っちゃったもんねーw
〇)////
 
 
彼の浴衣姿は艶やかで本当に素敵で…
なのに無邪気に笑う笑顔は可愛くて…
 
なんなの、もう、どうしたらいいの!///
 
 
岩)〇〇さんも…
  浴衣めっちゃ綺麗。
〇)えっ…///
岩)あ、ちょっと待って、今のじゃ
  浴衣を褒めただけみたいじゃない?
  違う違う!
  浴衣じゃなくて!
  綺麗なのは、浴衣を着た〇〇さんね!
〇)////
 
 
慌てたようにフォローする岩ちゃんに
恥ずかしくなって俯くと…
 
 
岩)なんか俺、必死じゃない?
  恥ず…、///
 
 
岩ちゃんもそう言って、
そっと私の手を取った。
 
 
岩)髪上げてるのも、すごく可愛い///
〇)…あり…がとう…///
岩)浴衣着てきてくれて…ありがとう///
〇)////
岩)はっ、別に俺のためじゃない!?
  自惚れ発言?!
〇)いや、えっと…
岩)なんかもうやだ…俺空回ってるわ///
〇)////
 
 
こんな可愛い岩ちゃん、初めて見た。
 
私なんかに…照れてくれてる。
 
 
〇)岩田くんの…ためだよ…///
岩)えっ…///
 
 
ドキドキしながら…
そっと顔を上げたら…
 
 
〇)////
岩)////
 
 
岩ちゃんと視線が重なって
胸がきゅぅぅっと音を立てた。
 
 
岩)なんか……、、///
〇)え?
岩)……抱きしめたく…なる…///
〇)え?
 
 
岩ちゃんが低い声で小さく何か言ったけど
聞き取れなかった。
 
 
〇)なんて言ったの?
岩)なんでもない!///
〇)???
 
 
岩ちゃんはそのまま私の手をグイッと引いて
歩き出した。
 
 
岩)行こっ♡
〇)////
 
 
繋がれた手と手。
 
 
何これ、やっぱり私、夢見てる?
 
もしこれが現実なんだとしたら…
私は今日で一生分の運を使い果たしてる。
間違いない。
 
 
〇)あ、岩田くん…っ
 
 
そろそろ人通りが多くなるから
慌てて声をかけたら…
 
 
岩)ね、それやめない?w
〇)え?///
 
 
岩ちゃんが笑いながら私を見た。
 
 
岩)「岩田くん」ってなんかやだなぁ…w
〇)えっ…
 
 
心の中では岩ちゃんって呼んでますけど…
 
 
〇)「岩ちゃん」の方が…いい?///
岩)それだと周りにバレちゃうw
〇)そうだよね!
 
 
じゃあどうすれば…
 
 
岩)下の名前は?
〇)えっ!!
岩)俺の下の名前、知ってる?w
〇)知っ……てる、///
岩)あはは、焦ったぁ〜〜〜w
  じゃあ下の名前で呼んでよ、ねっ!
〇)////
 
 
「剛典」なんて…
恐れ多くて呼べませんが!??
 
 
〇)……剛…典…くん……、、
 
 
私が消え入りそうな声でそう呼ぶと、
岩ちゃんはふはっと吹き出した。
 
 
岩)なんかまだ固いなぁ〜〜w
〇)////
 
 
だって…
呼び捨てはさすがに出来ません///
 
 
岩)剛典くんって呼びにくくない?
  もっとくだいて「たーくん」とかは?w
〇)たーくん!?///
 
 
はっ、呼んでしまった!
 
 
岩)そうそう、良くない?w
〇)たー……くん……、、///
岩)ってなんかこんなん自分で提案すんの
  めっちゃ恥ずいんだけど…///
〇)////
 
 
岩ちゃんは照れたように
私の手をきゅっと握って…
 
その仕草に私は心臓をきゅっと握られた。
 
 
〇)たー…くん、///
岩)う…ん、///
 
 
呼ぶ方もめっちゃ恥ずかしいです///
 
 
岩)じゃあ俺も〇〇ちゃんって呼んでいい?
〇)えっ///
 
 
「〇〇さん」から
「〇〇ちゃん」になっただけで
なんだか一気に距離が縮まった気がするのは
私の気のせいかな!?///
 
 
岩)へへ、〇〇ちゃん♡
〇)////
岩)こんな年下にそんな呼ばれ方すんの、
  やだ?
〇)あ、えっと…、///
 
 
ドキドキしすぎて私が上手く反応出来ないから
岩ちゃんが少し心配そうに
私の顔をのぞいてきた。
 
 
〇)ううん、嬉しい…///
岩)ほんとっ?良かったーーー♡
〇)////
岩)〇〇ちゃん♡
〇)////
岩)〇〇ちゃん♡
〇)……あの、呼ぶのは
  用がある時だけにしてくれる?///
 
 
心臓に悪いから。
 
 
岩)あはは、わかったよーw
 
 
岩ちゃんはいたずらに舌を出して
ニコッと笑った。
 
 
〇)////
 
 
ああ、私…、本当に死にそう///
 
 
それから手を繋いだまま
商店街を抜けて、橋を渡って。
 
お祭りの屋台が見えてくると
岩ちゃんはすっとマスクをつけた。
 
 
岩)あ、あった。
  あれ買うまではこれでごめんね。
〇)え?
 
 
そう言った岩ちゃんが
最初に向かったのは…
 
 
〇)あっ。
 
 
お面屋さん。
 
 
岩)どれがいいと思う?
〇)……キティちゃん。
岩)この歳の男にキティちゃん?
  〇〇ちゃんがそんなドSだったとは…。
〇)あはははっw
岩)他には?
〇)……ドラミちゃん。
岩)せめてドラえもんは…?w
〇)……じゃあやっぱりキティちゃん。
岩)なんでだよ!w
 
 
岩ちゃんは言われた通り
キティちゃんのお面を買って
つけてくれた。
 
 
〇)…かわ…いい…ww
岩)笑い堪えてんじゃねーぞーw
〇)だって!w
岩)ま、いーや、これでバレないしw
 
 
ああ、大きな声で言いたい。
 
 
私と手を繋いでるキティちゃんは
お面を取ったら
日本中の女の子が憧れてやまない
岩田剛典なんです、って。
 
めちゃめちゃカッコイイ
岩ちゃんなんです、って。
 
 
〇)ふふふ///
岩)なんだよーーw
〇)なんでもない♡
 
 
それを一人占め出来てる、
信じられないような幸せ。
 
 
岩)あ、ねぇ、あれやろうよ!
〇)うんっ!
 
 
それから私たちは
金魚すくいをしたり、ヨーヨー釣りをしたり
純粋にお祭りを楽しんで、
 
最後は花火を見るために
ちょっと穴場の湖のほとりまで
二人で下りた。
 
 
岩)え、全然人いないじゃん、すごい。
〇)うん!
岩)さては…ここ、常連だな?w
〇)えっ…
岩)彼氏と来たことあるでしょ。
〇)ないよ!ないない!!///
岩)ほんとにぃーー?
〇)ほんと!
  役場の人に教えてもらっただけ!
岩)あ、そっか、
  〇〇ちゃん町役場で働いてるんだっけ。
〇)そうだよ。小さい小さい町役場。
  「人目につかず花火見れる穴場
   知りませんか?」
  なんて私が言ったもんだから
  みんなびっくりしちゃって。
岩)なんで?
〇)どこの男と見る気だーーー!って。
  私いつも浮いた話とかないし
  だから余計にびっくりしたみたいw
岩)そうなんだ。
  浮いた話、ないの?
〇)ないよ?
岩)どこの男と見る気だーーー
  って言われて、ちゃんと答えたの?
  岩田剛典だーーー!って。
〇)そんなの言えるわけないでしょ!///
岩)あはははっw
 
 
岩ちゃんは笑いながら
そっとお面を外した。
 
 
岩)ここなら誰もいないから
  外してもいいかな?
〇)キティちゃん…可愛かったのに…。
岩)こらw
 
 
岩ちゃんは私のおでこを
優しくコツンと叩いた。
 
 
岩)そろそろ男に戻らせてよ。
〇)////
 
 
その言葉と言い方に、
思わずドキッとして…
 
私は岩ちゃんから目を逸らした。
 
 
〇)あ、ねぇねぇ、あっち見て!
岩)……。
〇)ねぇねぇ…
岩)……。
 
 
あれ?
岩ちゃんがこっちを向いてくれない。
 
 
〇)どうしたの…?
岩)俺の名前は「ねぇねぇ」じゃ
  ありませーーん。
〇)えっ…
岩)ちゃんと呼んでくんなきゃ
  返事しないもん。
〇)////
 
 
な、な、なんか…
可愛く口が尖ってるんですけど…?///
 
 
〇)えっと…、、
 
 
どうしよう。
恥ずかしいけど…呼んだ方がいいのかな。
 
 
〇)…た………、……たー…くん、///
岩)ん?♡
〇)////
 
 
満面の笑みで振り返った岩ちゃんに
私は甘く溶かされてしまいそう。
 
 
〇)えっと…、あっち…光ったから…
  花火…始まるよ…?///
岩)お、やったーーー♡
〇)////
 
 
こんなドキドキしてたら…
繋いでる手から…伝わっちゃうよ…。
 
バレちゃうよ…
こんなに岩ちゃんのこと、好きな気持ち。
 
 
パパパパパンッッ!!!
 
 
岩)うおおお!上がったーーー!!!
〇)うんっ!
岩)うおおお!すっげぇぇぇ!!!
 
 
最初は子供みたいにはしゃいでた岩ちゃんも…
しばらくすると静かになって
夜空に咲く火花を、
ただ真っ直ぐに見つめていた。
 
 
岩)……すげぇ…綺麗…。
〇)うん…。
 
 
色とりどりの花火が
夏の夜空を綺麗に彩る。
 
でも私は…、、
 
 
〇)…っ
 
 
ふと見上げた岩ちゃんの横顔が
あまりに綺麗で、
思わず見とれてしまったの。
 
 

 
 
私は花火よりも、この人を見つめていたい。
 
 
好きです、誰よりも…。
あなたのことが、大好きです…。
 
こんな奇跡をありがとう。
 
 
岩)はぁ、ほんと綺麗だったねー。
〇)うん。
 
 
花火を見終えた私たちは
手を繋いだまま、いつもの居酒屋に向かった。
 
 
店)へい、らっしゃーい!
  えええ!???
岩)どーも、こんばんはーーw
店)キティちゃんがヌッと現れたから
  びっくりしたよ!!w
岩)あはははっw
 
 
私と岩ちゃんは
三日前と同じ席にそれぞれ座って、
おじさんから
キンキンに冷えたおしぼりをもらった。
 
 
店)さっすが岩ちゃん、色男!
  浴衣似合ってるねぇ〜〜w
岩)ほんとですか?ありがとうございますw
  でも店長、先に女性を褒めてくださいw
店)ええ!?w
岩)ほら、こんなに綺麗なんだから!
店)いやぁ〜、だってw
  俺なんかが褒めたって
  〇〇ちゃん、喜ばないよ!
  岩ちゃんが褒めてあげてw
岩)えっ…///
〇)えっ…///
 
 
そう言われて、なんかもじもじする私たち。
 
 
岩)俺はもう…褒めたもんね?///
〇)……(こくん)///
岩)あんまり言うと…照れるから///
〇)……うん///
岩)でもほんとはずっと思ってるからね?
〇)え…?
岩)今日の〇〇ちゃん、
  本当に可愛いなーって///
〇)////
 
 
やっぱり岩ちゃんは
褒め上手なのかな…?
 
 
〇)た、たーくん…だって…
  カッコイイもん///
岩)……ありがと///
店)「〇〇ちゃん」?!!
  「たーくん」!???
 
 
おじさんが素っ頓狂な声を上げた。
 
 
〇)あっ、えっと…///
岩)違うんです、人が多いところで
  名前出されちゃうと
  バレちゃうかなって思ってw
  俺がそう呼んでってお願いしたんです。
店)び、びっくりしたぁ〜〜〜///
  二人ってばそういう関係に
  なっちゃったのかと思ったよw
〇)なるわけないでしょ!///
  おじさんのばかっ!!///
店)あはははっw
 
 
こんな年上の私と岩ちゃんが、なんて
絶対にありえない。
 
岩ちゃんに失礼だよ、そんな勘違い。
 
 
岩)なるわけ…ないの…?
〇)え…?
 
 
おじさんが料理を作りに
厨房の方へ行くと
岩ちゃんがそっと私に囁いた。
 
 
岩)店長に…断言してたから。
〇)え…?
岩)そういう関係に…、なるわけないの?
  俺たちって。
〇)えっ…///
 
 
あまりに真剣な岩ちゃんに、息が止まる。
 
 
岩)はは、困らせてごめん、冗談だよw
〇)…っ
岩)〇〇さんから見たら
  俺なんてただの年下だもんね。
  子供っぽいよね。
〇)そんなこと…っ、ない…けど…
岩)何それ、なぐさめてくれてんの?
  ありがとっ!w
〇)////
 
 
そんなんじゃないのに…
岩ちゃんに背中をトントンされて
私はそれ以上、何も言えなかった。
 
 
岩)あ、〇〇さん、これは飲める?
〇)……うん。
 
 
呼び方も…
「〇〇ちゃん」から…
「〇〇さん」に戻っちゃった…。
 
 
そうだよね…
あれはお祭りの間だけの決めごと。
 
 
少しさみしい気持ちになったけど
現実に戻るには、これくらいがいい。
 
ゆっくりゆっくり、夢から覚めていく方が。
 
 
店)そっかそっか、じゃあ岩ちゃんは
  明日からまた撮影で忙しいんだ!
岩)そうなんすよぉーー。
  でも今日こんなに息抜き出来たんで
  頑張りますよ!
  〇〇さんのおかげ。ありがとね♡
〇)あ…、うん。
 
 
私も明日からまた普通に仕事だし。
いつもの日常に戻るだけ。
 
 
私は最後の幸せを一瞬一瞬、噛みしめるように
岩ちゃんとの時間を大切に過ごした。
 
お酒を飲みながら笑い合って
本当に本当に楽しかった。
 
 
〇)ごめんね、ちょっとお手洗い行ってくる。
岩)うん。
 
 
楽しいからこそ、
終わりの時間が近付いてくることが
こんなに切ない。
 
私…いつからこんな贅沢になったの。
 
 
岩ちゃんに出逢えただけでも
十分奇跡みたいで、幸せなことなのに。
 
終わりが来て欲しくないって…
そんなこと、思うなんて。
 
 
岩)ありがとう。
〇)え…?
 
 
トイレから戻ると、
岩ちゃんが笑顔で私にそう言った。
 
 
〇)何が…?
岩)んー?
〇)なんのこと?
岩)何でもないよ。
 
 
岩ちゃんはとびきり優しい顔で微笑んで、
私の頬をそっと撫でた。
 
 
〇)////
 
 
それだけでもう、
私は何も言えなくなってしまう。
 
 
岩)店長、ごちそうさまでした!
  東京戻る前に絶対また飲みに来ます!w
店)おう、待ってるよ!ありがとう!
岩)それじゃまた!w
 
 
お店を出て、私の家までは歩いて5分くらい。
 
 
岩ちゃんはまたスッと私の手を取って、
家まで送ってくれた。
 
 
今、手を繋いでるこの時間が
永遠ならいいのに…。
 
 
夢みたいなこの時間が、
止まってしまえばいいのに。
 
 
そんなことを願ってるうちに、
あっという間に家の前まで来てしまった。
 
 
岩)〇〇さん、今日は本当にありがとう。
〇)……私こそ…、ありがとう。
岩)楽しかった。
〇)……私も。
 
 
見つめる岩ちゃんの瞳は
天の川を映したみたいにキラキラしてる。
 
 
岩)また夜、時間が出来たら…
  一緒に飲めたら嬉しいな。
〇)うん。
岩)本当にありがとう。おやすみ。
〇)おやすみ…なさい…。
 
 
そう言って別れたけど…
私が岩ちゃんに会えたのは、
その日が最後だった。
 
 
もちろん私はまた会いたかったし
一緒に飲めたら嬉しいなって
岩ちゃんが言ってくれたから…
 
あれから毎日、お店に通った。
 
 
でも、岩ちゃんが来ることは
一度もなかったの。
 
 
店)撮影、スケジュール押して
  バタバタしてたみたいだし
  時間なかったのかねぇ。
〇)うん…きっとそうだと思う。
 
 
東京から来てた撮影部隊は
もうみんな帰ってしまった。
 
もちろん岩ちゃんも。
 
 
そうだよ、これが当たり前。
 
あの岩ちゃんが
こんなど田舎にいたこと自体が
奇跡なんだよ。
 
 
七夕が私にくれた、奇跡みたいな夢。
 
 
そう…思えたらいいのに…
 
 
どうして私はこんなにも、
岩ちゃんに会いたいの…?
 
会いたくて仕方ない。
 
 
〇)…っ
 
 
バカだな…ほんと。
 
もう二度と、会えるわけがないのに。
 
 
私に待ってるのは、いつもの日常。
 
 
朝起きて、役場で仕事して、帰ってくる。
 
 
たまにおじさんのとこでお酒を飲んで
息抜きをして。
 
そして年に一回、三代目のLIVEに行くの。
 
 
それがこの田舎町で暮らす私の
精一杯の日常。
 
 
……さよなら、岩ちゃん…。
 
 
夢のような時間を、ありがとう。
 
さようなら……。
 
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
 
会いたい。
 
会いたい。
 
 
〇〇さんに会いたい。
 
 
こんな気持ちは初めてだ。
 
 
初めてだから、どうしていいかわからなくて
戸惑ってる自分がいる。
 
 
いくら会いたいって思ったって
会えるわけないんだ。
 
あんな地方に住んでる彼女に。
 
 
岩)はぁ…。
 
 
せめてもの、声が聞きたくて…
 
電話をかけようとして…
何度もかけようとして…
結局一度も、かけられない俺。
 
 
だって…
 
勝手にもらったんだもん、彼女の番号。
 
 
七夕祭の夜、二人で居酒屋で飲んだ時。
 
彼女が席を立った隙に、
彼女の携帯を手に取った。
俺の番号を入れたくて。
 
でもその時、見ちゃったんだ。
 
彼女の携帯の待ち受けが、
俺の写真だったのを。
 
 
一瞬目が点になって、意味がわからなくて。
 
固まってる俺に、店長が笑って教えてくれた。
 
 
店)〇〇ちゃんね、
  本当は岩ちゃんのファンなんだよ。
  それはそれは熱心なw
岩)え…?
店)でもなんでかそれを
  岩ちゃんには言わなくて…
  なんでだろね?
岩)…っ
店)彼女、とっても優しくて気遣い屋だから…
  もしかしたらそれで言わなかったのかな。
岩)気遣い屋…?
店)うん。
 
 
彼女が優しい女性なことは
もう俺もわかってた。
 
きっと…
こんなとこでまでファンに会ったら
俺が疲れるとか、いい思いはしないとか、
そんなことを懸念して
気持ちを隠してくれたんだろう。
 
 
岩)ありがとう。
〇)え…?
 
 
戻ってきた彼女にそう伝えたら
彼女は不思議そうな顔をしていた。
 
 
〇)何が…?
岩)んー?
〇)なんのこと?
岩)何でもないよ。
 
 
そうか、俺のファンだったんだ…。
 
 
その事実を知った俺は、
めちゃくちゃ嬉しくて…
ニヤけそうな口元を必死に隠してたんだ。
 
彼女みたいな女性が
俺のことを好きだなんて…
すごく嬉しい。
 
 
あの夜、帰りは彼女の家まで送ったけど…
それ以上、何も出来なかった。
 
 
本当は帰りたくなかった。
帰したくなかった。
 
繋いだ手を、離したくなかった。
 
 
でも…
まだ撮影期間も残ってるし
絶対また会える、って
そう思ったから
あの夜は真っ直ぐに帰ったのに…。
 
 
結局後半の撮影はリテイクとかが続いて
スケジュールが押しまくりで
朝方まで撮影とかもザラにあって。
 
とても抜け出して
飲みに行けるような状況じゃなかった。
 
 
せめて…
せめて東京に戻る前に
もう一目だけでも彼女に会いたい。
 
そう思っていたのに
それも叶わぬまま、俺は戻ってきてしまった。
 
あの癒しの時間が流れる田舎とは
似ても似つかない、
喧騒のど真ん中に。
 
 
岩)はぁぁぁ……。
 
 
どうしよう。
電話かけてもいいのかな。
 
あの時、彼女の携帯に自分の番号を登録して
彼女の番号も勝手にもらった。
 
俺がかけたら「岩田剛典」って
表示されるはずだから
彼女は驚くと思うけど…
 
その前に
「なんで私の番号知ってるの!?」
ってなると思うし…
 
勝手に番号盗むなんて最低!!
ともなりかねないし…
 
 
岩)はぁぁぁ……。
 
 
こんなことになるなら
普通に番号交換すれば良かった。
 
なんで俺ってばあんなことしたんだ。
 
 
そんな風に悶々と悩んだまま、
あっという間に3ヶ月が過ぎた。
 
 
もう俺のこと忘れちゃったかな…。
なんて思いながらも、
俺の彼女への想いは募るばかりで。
 
会いたい。
声が聞きたい。
 
そればかり考えてる毎日。
 
 
これが恋愛感情なのかよくわからない。
そんなのわかる前に、離れてしまったから。
 
彼女が都内に住んでいたら…
間違いなく俺は会いに行ってたと思う。
 
でも現実にはそれは叶わない。
 
 
あんな地方まで、
仕事でもないのに行く時間は
今の俺には全くないから…。
 
 
岩)はぁぁぁ……。
 
 
こんな風に彼女を想ってため息をつくのは
もう何度目だろう。
 
 
もういい!!
かける!!
 
決めた!!!
 
 
俺は決心が鈍らないうちに
彼女の番号を表示させた。
 
 
岩)よし!!!
 
 
タップした後、俺はもうドキドキで…
跳ね上がる心拍数に、内臓が出てきそう。
 
 
〇『……もし…もし…?』
岩『!!!』
〇『あの…、、』
岩『〇〇さん…?』
〇『…っ』
岩『俺です、岩田剛典です。』
〇『う…そ…っ、本物…?』
岩『うん、本物だよ。
  俺の名前、出たでしょ…?』
〇『うん…っ
  だから…びっくりして…
  心臓が止まるかと思った。』
岩『勝手なことして…ごめんね?』
〇『え?』
岩『番号…。』
〇『あ、うん…っ、』
岩『久しぶり。元気にしてた?』
〇『…っ』
岩『俺のこと、覚えてる?w』
〇『…っ』
 
 
彼女の返事が聞こえない代わりに
俺の耳に届いたのは…、、
 
 
〇『ぐす…っ』
岩『え…っ?』
 
 
彼女の泣き声だった。
 
 
〇『覚えてるに…決まってる…っ』
岩『ほんと…?』
〇『忘れるわけ…ないでしょ…っ』
 
 
ああ、彼女の声だ。
 
初めて会った時から思ってた。
すごく綺麗な澄んだ声。
 
 
〇『昨日だって…TVで見たもん…っ』
岩『ええっ!うっそ!』
〇『一週間遅れだけど…』
岩『え?』
〇『うちは田舎だから放送が遅いのっ』
岩『ああ、なるほど…!』
〇『でも…いつも楽しみにしてる…
  岩ちゃんのこと見れるの…。』
岩『…っ』
〇『あ、別に変な意味じゃなくて!///
  ほら、本人に会ったし…
  あれからどうしてるかなって、』
 
 
俺のファンだってことを
必死に隠そうとしてくれる彼女が
なんだか愛おしくなった。
 
 
岩『もしかして…さ、』
〇『え…?』
岩『あの時言ってくれたのって…
  まんま、〇〇さんの気持ちだった?』
〇『え!?』
岩『言ってくれたじゃん、俺に。』
〇『…っ』
岩『俺の頑張ってる姿とかが…
  遠く離れた誰かの癒しになってたり
  心の支えになってたり…
  生きる糧になってると思う、って。』
〇『!!!』
岩『あれって今思えば
  〇〇さんのことだったのかな、って。』
〇『…っ』
岩『てゆーか…、、
  〇〇さんだったらいいなって。』
〇『え?///』
岩『////』
 
 
だってあの言葉、本当に嬉しかったから。
 
 
〇『もしかして…
  おじさんから聞いたの?
  私が本当は…岩田くんのファンだって///』
岩『聞いたし…、、
  待ち受けも見ちゃった。』
〇『ええええ!!///』
岩『ごめん、///』
〇『……恥ずかしい…死にたい///』
岩『なんで!w』
〇『必死に隠してたのに///』
岩『うん…。』
 
 
俺のためだよね。
その気持ちも嬉しかったんだよ。
 
 
〇『バレちゃったら仕方ないから…
  自白するけど…///』
岩『うん…w』
〇『私ね、岩ちゃんのこと…
  本当に本当に大好きなの///』
 
 
そう言われて、
自分の胸が早鐘のようにうるさくなるのが
自分でわかった。
 
 
〇『ずっとずっと大好きだった///
  いつも岩ちゃんからパワーもらってるの。
  本当に大好き、ありがとう///』
岩『////』
 
 
これは…恋愛の告白じゃなくて…
普通にファンとしての想いを
伝えてくれてるだけだってのは
わかってるんだけど…
 
なんでこんな嬉しいんだろう。
胸が熱くて、なんか俺、泣きそうになってる。
 
 
〇『岩ちゃんのファンは日本中にいるし
  私なんかにこんなこと言われても
  あれだと思うけど…』
岩『何言ってんの!?』
〇『えっ…』
岩『めちゃくちゃ嬉しいから!///』
〇『えっ…///』
岩『嬉しすぎて、ヤバイから、今///』
〇『…っ///』
  
 
目の前にいたら…絶対抱きしめてる。
 
 
会いたい。
どうすんの。こんなに会いたくさせて。
どうしてくれんだよ、もう…///
 
 
岩『てか…「岩ちゃん」って…、』
〇『はっ!///』
 
 
言ったよな、今。
 
 
岩『もしかして普段はそう呼んでた?w』
〇『うん…、ごめん///』
岩『謝ることないし!w
  「岩田くん」より全然いい!』
〇『ほんと…?』
岩『うん!』
 
 
でも…
ほんとはあの時みたいに
「たーくん」とか呼んでほしいけど…
 
そんなことを今言うのは
さすがに恥ずかしい。
 
 
〇『岩ちゃんは…
  どうして電話くれたの…?』
岩『えっ…』
 
 
どうして、と聞かれると…
なんて言ったらいいんだろう。
 
 
声が聞きたかった。
我慢できなかった。
 
どれも本当なんだけど
今の昂ぶってる気持ちでその言葉を言ったら
それはもう、愛の告白みたいになりそうで。
 
 
岩『ええと…///』
 
 
答えに困っていると
電話の向こうの彼女がふふっと笑った。
 
 
〇『ふと思い出してくれたのかな、私のこと。
  ありがとう♡』
岩『////』
 
 
違う。
そんなんじゃない。
 
ふと思い出したとかそんなレベルじゃない。
だって毎日想ってた。
あなたのことを考えない日はなかった。
 
 
でもそれをどう伝えればいいのか
わからなくて。
 
伝えたところでどうするんだ。
彼女を困らせるだけじゃないのか。
 
 
岩『元気にしてるかなって…思って…、』
〇『うん、元気だよ♡
  元気に田舎で働いております♡』
岩『はは、いいなーー
  また行きたい。癒されたい。』
〇『癒しぐらいしか長所がないからね、
  この田舎はw』
岩『はははw』
 
 
違うんだよ。
あの田舎の風景をもう一度見たいって気持ちも
もちろんあるけど…
 
一番はあなたに会いたい、それだけなんだ。
 
 
岩『また…さ、電話しても…いい?』
〇『えっ…』
岩『あ、迷惑じゃなかったら…だけど…
  てか迷惑な時は出なくていいから!
  無視してくれていいから!』
〇『あの…、私の話、聞いてた?///』
岩『えっ?』
〇『私、岩ちゃんのファンなんだよ?
  岩ちゃんのこと、大好きなんだよ?
  岩ちゃんからかかってくる電話が
  迷惑だと思う?///』
岩『あ、えっと…、///』
〇『迷惑なことなんて死んでもないから!』
岩『////』
〇『嬉しいから!
  死ぬほど嬉しいから!!』
岩『////』
 
 
そこまで言ってもらえて…
俺こそ本当に嬉しくて。
 
 
岩『じゃあまたかけちゃうからね///』
〇『うん///』
岩『そのうち嫌になっても知らないよ///』
〇『ならないもん///』
岩『////』
 
 
彼女は年上なのに
たまにこうやって可愛い口調になるのが
ほんとに可愛い。
 
 
岩『じゃあ…また時間出来たら…
  連絡するね、///』
〇『うん、ありがとう///』
 
 
電話で話したのは、それくらい。
 
 
でも…
久々に彼女の声を聞けて…
好きだって言ってもらえて…
 
その上また連絡してもいいっていう
お許しまでもらえて…
 
その日の俺はもう、飛び上がりそうなくらい
嬉しかった。
 
 
岩)はぁ…///
 
 
なんでなんだろ。
 
 
偶然あの日に出逢って…
七夕の夜、一度デートしただけだ。
 
ただ、それだけなのに…
なんでこんなに俺の心をさらっていく…?
 
 
そもそもあれを「デート」だって思ってんのも
俺だけかもしんない。
 
彼女はただ俺に
地元を案内してくれただけなのかも…。
 
 
いや、でも!
手、繋いだし!!
嫌がんなかったし!!
 
 
岩)////
 
 
あの夜を思い出すと、ドキドキする。
 
 
彼女の匂いとか…
繋いだ手のぬくもりとか…
 
そういうのがリアルに蘇ると
もういてもたっても
いられない気持ちになるんだ。
 
  
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
あの夢みたいな七夕の夜からもう3ヶ月。
 
季節が一つ巡って…
私は日常に戻っていた。
戻ろうとしていた。
 
 
でも現実にはどうやったって忘れられない。
 
岩ちゃんとの楽しかった時間を。
幸せだったあの夜を。
 
 
岩ちゃんの可愛い笑顔も、
男らしくて優しい微笑みも、
低い声も、繋いだ手のぬくもりも
 
どれも全部、リアルなままで
私の胸に残っていた。
 
 
そしたら突然かかってきた、
岩ちゃんからの電話。
 
 
嘘みたいで、信じられなくて、
でもその声は間違いなく
私の大好きな岩ちゃんの声だった。
 
 
〇)はぁぁ……///
 
 
電話が終わった後も私は夢見心地で…。
 
 
だって、あれきりだと思ってた。
あれは神様がくれた奇跡だって。
 
奇跡が二度、起こるはずない。
そう思ってたのに…
 
 
〇)ううう…///
 
 
嬉し過ぎて、頬が熱い。どうしよう。
 
 
全然気が付かなかった。
 
岩ちゃんが自分の番号を
入れてくれてたなんて。
 
私の番号を知ってくれていたなんて。
 
 
「じゃあ…また時間出来たら…
 連絡するね、///」
 
 
さっきの岩ちゃんの声が
耳元で何度もリプレイされてるみたい…。
 
頭から離れないの。
 
 
〇)////
 
 
また連絡くれるって言ってた。
 
また岩ちゃんの声が聞けるんだ。
 
もうそれだけで本当に嬉しくて嬉しくて。
 
 
それに…
私がファンだってことも
引かずに喜んでくれた。
 
本当に岩ちゃんは優しい…。
 
 
ああ神様…、
こんな奇跡をもう一度与えてくれて
本当に本当に、ありがとうございます!!!
 
 
 
 
それから岩ちゃんは、週に一回くらい
電話をくれるようになった。
 
 
1時間以上話す時もあれば、
5分くらいで終わる時もある。
 
でも話せる長さなんて、何分でもいい。
 
 
忙しいのに時間を見つけて
連絡くれてるのかなと思うと
それだけで嬉しくてありがたくて
たまらない気持ちになった。
 
 
ピロリロリロ♪ピロリロリロ♪
 
 
〇『はいっ!もしもし!///』
岩『あはは、出るの早〜〜w』
〇『////』
 
 
だって…
岩ちゃんが電話をくれるようになってから
携帯は本当にいつも携帯してるんだもん…。
 
 
岩『今、大丈夫?』
〇『うん!』
 
 
岩ちゃんは最初にいつもそう聞いてくれる。
 
岩ちゃんから電話が来てるのに
大丈夫じゃない時なんて、あるわけない。
 
何よりの最優先事項だもん!!
 
 
岩『さっき撮影終わって帰ってきたんだぁ…』
〇『お疲れさま。』
岩『〇〇さんの声聞いたら
  なんか落ち着くなぁ…。安心する…。』
〇『えっ…///』
 
 
そんなこと言われたらドキッとしちゃうよ…。
 
 
岩『〇〇さんは?
  今日は何してたの?』
〇『私なんて…
  別に代わり映えのない毎日だよ///』
岩『そんなことないでしょw』
〇『毎日同じ時間に役場に行って
  働いて帰ってくるだけだもん。』
岩『職場の人みんな仲良いのー?』
〇『うーん、まぁそれなりに。』
岩『職場恋愛とかないの?』
〇『ああ、してる人いるよー。
  一応周りには隠してるけど
  そろそろ結婚するんじゃないかなー。』
岩『え、すごいね!
  ……〇〇さんは?』
〇『え?』
岩『職場恋愛…。』
〇『ないよないよw』
岩『そうなんだ…。』
 
 
そんな浮いた話は一切ございません…。
 
 
〇『……岩ちゃん…は?』
岩『え…?』
〇『職場恋愛…。』
岩『俺ぇ!?w』
〇『うん…。』
 
 
だって岩ちゃんの周りには
若くて綺麗な子がいっぱいいるだろうし。
 
 
岩『俺の場合「職場」って言ったら
  幅広すぎて…w』
〇『そっか、そうだよねw』
岩『それに今は恋愛してる暇もないかな…。』
〇『そっか…。』
岩『仕事頑張って早く一人前になりたいから。』
〇『…っ』
 
 
岩ちゃんが目指す「一人前」って
どこなんだろう。
 
今でも十分すごいと思うんだけどな…。
 
 
岩『とか言って…
  好きになる時はなっちゃうと思うけどね。』
〇『えっ…』
岩『恋ってそんなもんじゃない?
  気付いたら堕ちてるでしょ。』
〇『…っ』
 
 
岩ちゃんが恋をするのは…
どんな人なんだろう。
 
 
〇『もしそんな日が来たら…
  私が相談に乗ってあげるねw』
 
 
なんて言いながら、少し胸が痛んだ。
 
 
岩『なんだよそれ…。』
〇『だって私の方が長く生きてるし…。』
 
 
恋愛経験は多いとは言えないけど…。
 
 
岩『変に年上ぶんないでよ。』
〇『だって年上だもん…。』
岩『普通に可愛いくせに。』
〇『え!?///』
 
 
思わず声が裏返った。
 
 
岩『年上なんて思えないくらい
  可愛いもん、〇〇さん。』
〇『////』
 
 
また出た岩ちゃんの褒め上手。
 
 
〇『岩ちゃんの方がずっと可愛いもん…///』
岩『はぁ?何それ!w』
〇『ずるいんだから…///』
岩『俺可愛くなんかねぇし!
  子供扱いすんのやめて。』
〇『してないよ。』
 
 
そうじゃないもん。
 
可愛かったり男らしかったり
魅力がありすぎて、ずるいんだもん。
 
 
岩『てかさ…、』
〇『うん…?』
岩『「岩ちゃん」やめない?』
〇『はっ…///』
 
 
また言われた。
 
実は最近、よく言われるんだ。
「岩ちゃん」って呼ばれるの、やだって。
 
 
〇『だって…岩ちゃんは岩ちゃんだもん…///』
岩『そうだけど…』
〇『「たーくん」は恥ずかしいからやだよ///』
岩『あの日は呼んでくれたくせに…。』
〇『あの日は…お祭りマジックだったの///』
岩『じゃあ別に
  「たーくん」じゃなくていいから
  下の名前で呼んでよ。』
〇『……///』
岩『ね?』
〇『……そのうち、ね///』
岩『まーたそれだーーーw』
 
 
だって、照れ臭いんだもん///
 
 
岩『ふぁぁぁ……。』
〇『あ、眠くなってきた?』
岩『うん、少しだけ…。』
〇『いつでも寝ていいからね。』
岩『うん…、あり…がと…。』
 
 
電話の終わりはいつも、
岩ちゃんが眠る時。
 
 
最初の頃は、
まだ切りたくないって言われて
困ってたんだけど…
 
「じゃあ俺が眠るまで繋いでて」
って言ってくれるようになってからは
そうすることにしてる。
 
 
岩『明日は…晴れるかなぁ…。』
〇『うん…、晴れるといいね…。』
岩『…う…ん…。』
 
 
ゆっくり静かな声で返事を返すと、
しばらくして岩ちゃんの寝息が聞こえてくる。
 
 
〇『おやすみ…岩ちゃん…。』
 
 
静かに囁いて、そっと電話を切る。
 
それがいつもの流れになりつつあった。
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
相変わらず目まぐるしく過ぎていく毎日。
仕事に追われて、追われて、追われて。
 
でもそんな俺の唯一の息抜きが
彼女との電話だった。
 
 
週に一回くらいのペースだけど
お互いにいろんなことを話した。
 
 
彼女は俺のくだらない話も
笑って聞いてくれるし…
仕事の話は真剣に聞いてくれる。
 
そしていつも俺の背中を押してくれるんだ。
 
 
彼女も日常の何気ないこととか
職場のこと、友達のこと、家族のこと、
なんでも俺に話してくれた。
 
 
どんどん俺に
心を許してくれてるのがわかって
それがすごく嬉しくて。
 
俺は彼女のどんな話にだって
喜んで耳を傾けた。
 
 
彼女の声を聞くと癒される。
 
でも声を聞けば毎回会いたくなって…。
 
 
会いたい、会いたい、会いたい。
 
その気持ちが募って、苦しくなる。
 
 
「今は恋愛してる暇もないかな…。」
 
 
なんてカッコつけて言ったくせに、
俺はとっくにあなたに恋してる。
 
 
「好きになる時はなっちゃうと思うけどね。
 恋ってそんなもんじゃない?
 気付いたら堕ちてるでしょ。」
 
 
そう、気付いたら好きになってた。
あなたに恋に堕ちてたんだ。
 
 
でもあなたは俺を子供扱いばかりして。
 
年下は対象外?
俺は男として見てもらえてないの?
 
そんなもどかしさがつきまとう。
 
 
岩『ねぇ、名前で呼んでってば。』
〇『またそれ…、///』
岩『いいじゃん。ね?』
 
 
たびたびお願いしてるのに、
彼女は一向に聞いてくれない。
 
 
俺のファンでいてくれてるのは
わかってるし嬉しいけど…
 
だから尚更。
 
 
彼女に「岩ちゃん」って呼ばれると
「ただのファンですよ、それだけですよ、」
って言われてる気がして…。
 
もっと特別感が欲しくなるんだ。
 
 
〇『気が向いたら、ね///』
岩『もーーー。』
〇『だって…岩ちゃんだって
  「〇〇さん」って呼ぶじゃない///』
岩『え?』
〇『お祭りの時は…
  「〇〇ちゃん」だったのに…。』
岩『……だって…、年上だし…。』
 
 
ほんとは呼びたいんだよ。
「〇〇ちゃん」じゃなくて…「〇〇」って。
 
 
岩『呼んで…いいの?』
〇『…っ』
 
 
年下のくせに生意気、とか
思われるかなって思って…。
 
 
岩『嫌じゃないなら呼びたい…。』
〇『嫌なわけ…ないよ///』
岩『……じゃあ…、〇〇。』
 
 
初めて呼び捨てで呼んだ彼女の名前。
 
呼んでみて、すげぇ照れ臭くなって
顔が赤くなったのが自分でわかった。
 
 
岩『……返事…してよ、///』
〇『う…ん…///』
岩『〇〇。///』
〇『うん、……もっと…呼んで?///』
岩『え…っ///』
 
 
少し甘えた彼女の声に、ドキッとした。
 
 
岩『〇〇///』
〇『////』
 
 
名前を呼ぶだけで、
愛しい気持ちになるのはどうしてだろう。
 
 
〇『私…、岩ちゃんの声、大好き///』
岩『えっ…///』
〇『名前…呼んでくれてありがとう///』
岩『うん///』
 
 
ああ、胸がドキドキしてる。
 
 
岩『〇〇、会いたい…///』
〇『////』
岩『会いたいよ。』
〇『////』
 
 
それから俺は彼女を「〇〇」って
呼ぶようになって…
 
電話するたびに
会いたい気持ちは加速していった。
 
 
でも「会いたい」って言葉にするのは
いつも俺だけ。
 
彼女は何も言わない。
 
 
こんなに会いたいのに…
俺から〇〇のところまで会いにいくのは
スケジュール的にどうしても無理だし…
 
〇〇に会いに来て欲しいって簡単に言えるほど
俺たちの距離は近くない。
物理的に、遠すぎるんだ。
 
 
でも…、、
チケットも何もかも全部俺が手配するから
休みの日にこっちに来れない?
 
そう聞こうとしてるうちに
季節は巡って、春が来た。
 
 
 
〇『もうすぐツアーだね。』
岩『うん。毎日リハしてるよw』
〇『そっか、お疲れさま♡』
 
 
そうなんだよ、もうすぐツアーなんだよ。
 
 
〇〇を呼ぶのにこれほど都合のいい名目が
あるだろうか。
 
〇〇をLIVEに招待したい。
それなら来てくれるんじゃないか、って。
 
 
俺は今日こそ〇〇を誘う覚悟を
決めていた。
 
 
〇『楽しみだなぁ…♡』
岩『え?何が?』
〇『LIVE。』
岩『えっ!?』
〇『大阪公演のチケット、取れたんだ♡』
岩『えええ!??
  何それ、どーゆーこと?!!』
 
 
俺は思わず大声になった。
 
 
〇『FCで当たったんだよ?』
岩『いや、そうじゃなくて!!
  来れるなら言ってよ!
  俺が席用意したのに!!』
〇『ええっ!?』
岩『なんで言ってくんないの!
  そんなの用意するに決まってんじゃん!!』
〇『だって…っ
  いつも自分で取ってるから…///』
岩『え、そうなの!?
  LIVE来てくれたことあんの?!』
〇『当たり前でしょ///
  って言っても年に一回しか行けないけど…
  いつも行ってるよ?』
岩『////』
 
 
それを聞いて、
めちゃくちゃ嬉しい気持ちになった。
 
 
俺と出会う前から
〇〇は俺を観に来てくれてたんだ…。
 
応援してくれてたんだ。
 
 
……よし、決めた。
今度のLIVEは
過去イチカッコイイ俺を見せよう!
 
全身全霊でパフォーマンスする!!
 
 
岩『〇〇が来てくれるとか
  ヤバいんだけど…///』
〇『////』
岩『ハチキレすぎてステージから落ちそう…。』
〇『それはダメ!w』
岩『あはははw』
 
 
でも嬉しい。
ほんとに嬉しい。
 
やっと会えるんだ、〇〇に。
 
 
岩『てかなんで大阪?
  東京じゃないの?』
〇『だって東京は外れちゃったんだもん。』
 
 
大阪公演って確か…、、
 
 
岩『七夕じゃん!!』
〇『え?』
岩『LIVEの日!次に会えるの!』
〇『あ、そうだ、七夕だ!』
岩『すげぇ…っ』
 
 
何この奇跡。
 
 
岩『織姫と彦星かよ…///』
 
 
こんなに会いたいのに
一年も経っちゃったとか。
 
 
〇『岩ちゃんに会えるの楽しみだなぁ///』
岩『えっ…///』
 
 
その言葉にドキッとした。
 
 
だって…
〇〇はいつも俺に会いたいなんて
一言も言ってくれないから。
 
楽しみって言ってくれるなんて…。
 
 
〇『やっと…会えるね…///』
岩『うん、///』
 
 
嬉しい。嬉しい。どうしよう。
 
 
岩『楽しみすぎて…ニヤけてる…
  どうしよう///』
〇『……私もだよ///』
 
 
会ったらもう、すぐにでも
抱きしめちゃいそう。
 
暴走しそうな自分が怖い。
 
 
岩『早く会いたい///』
〇『うん///』
 
 
〇〇に出逢えて一緒に過ごした
あの七夕からもう一年。
 
 
もう一度俺に奇跡をくれた神様、
本当にありがとうございます。
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
いよいよ遠征まであと1ヶ月。
 
 
私は楽しみすぎて
毎日そわそわして仕方なかった。
 
 
〇)はぁ……///
店)まーたため息ついてるw
〇)だって!LIVEまで
  あともうちょっとなんだもん!!///
店)うん、嬉しいため息でしょ?
  遠征前はいつもそうだよね、〇〇ちゃんw
〇)////
 
 
だって…だって…
私の人生の一番の楽しみなんだよ?
 
 
店)一年越しの七夕に
  また岩ちゃんに会えるなんて
  なんかロマンチックだなぁ♡
〇)うう…///
店)岩ちゃんによろしく伝えてね!w
〇)ええ!?
  岩ちゃんには会わないよ?!
店)ええ!?
  LIVE行くんでしょ?!
〇)行くけど…直接会うわけじゃないもん!
店)そうなの?!
  俺てっきり会うもんだと…
〇)まさか!違う違う!
店)なーんだ、そうなのかー、残念。
〇)でもね、岩ちゃんいつも
  このお店の話してるよ。
  ほんと美味しかったなー
  また食べたいなーってw
店)おおお!ありがたいねぇ〜〜〜w
〇)ねっ♡
 
 
明日は仕事も休みだし
三代目のDVDでも見ようっと♡
 
なんて、ほろ酔い気分で帰ってきたら
岩ちゃんから電話がかかってきた。
 
 
〇『はいっ!もしもし!///』
岩『あはは、出るの早〜〜w』
〇『////』
 
 
このやりとり、いつもだな。
 
だってすぐ飛びついちゃうんだもん///
 
 
岩『今、大丈夫?』
〇『うん!今帰ってきたとこだよー!』
岩『お、俺も!』
〇『えへへ、お疲れさまー♡』
岩『〇〇はこんな時間ってことは
  また店長のとこで飲んでたな?w』
〇『あはは、バレてるー!そうだよw』
岩『いいなーー、俺もまた行きたいよー。』
 
 
岩ちゃんが「〇〇」って
呼んでくれるようになって
最初は嬉しくて照れ臭くて
死んじゃいそうだったけど、
最近ようやく少し慣れてきた。
 
 
岩『〇〇ー?』
〇『は、はいっ///』
 
 
それでもまだドキッとするんだけど。
 
 
だって大好きな岩ちゃんの声が
私の名前を呼び捨てしてくれるなんて。
 
ドキドキするなって方が無理だよ///
 
 
岩『あのさ、LIVEの日って
  もう交通手配しちゃってる?』
〇『うん!もちろん!』
岩『あああ〜〜しちゃったか〜〜〜』
〇『え、どうして?』
岩『俺が用意したかったの。』
〇『えええ!?』
岩『だって…
  チケットは〇〇、もう取っちゃってたし…
  ほんとは俺が招待したかったのに。』
〇『////』
 
 
その言葉だけでありがたすぎるよ…///
 
 
岩『なにかしたかったのに。』
〇『大丈夫だよ、ありがとう///』
岩『ホテルは?キャンセルできないの?』
〇『えっ!?』
岩『せっかく来るんだから
  俺のホテルの部屋、来ればいいじゃん。』
〇『……。』
 
 
その言葉の意味がわからなくて
私は目が点になった。
 
 
岩『ね、キャンセルしてね、決まり!』
〇『えっと…、え…?///』
岩『スタッフには俺から言っとくから。』
〇『あの…、えっと…、
  岩ちゃんに…会うって…こと?///』
岩『は??』
〇『え?』
岩『会わない気だったの??』
〇『だって…、』
岩『「会えるね」って言ってくれたじゃん!』
〇『それは…、ステージと客席で、
  って意味で…///』
岩『はぁ!?
  んなわけないじゃん!!
  俺がどんだけ会いたいと思ってんの!!
  LIVE見て帰るとか許さないよ?
  そんなん「会う」って言わないから!!』
〇『////』
 
 
そう言われても…
どうしたらいいの…?
 
岩ちゃんに直接会えるなんて
思ってもみなかったから
心臓がまたバクバクしてるよ…?///
 
 
岩『話噛み合ってなかったとか
  ショックすぎる…。』
〇『えっ…』
岩『会いたいのは俺ばっかで…
  〇〇は俺と会う気なかったんだ。』
〇『そうじゃないよ!!///
  私だって…、、』
 
 
「会いたい」
 
 
どれだけそう思ってるか。
 
でも言葉にする勇気がなくて。
 
 
岩『俺今拗ねてるからねー。』
〇『////』
 
 
か、可愛い…///
 
 
岩『……って、こんなんだから
  ガキ扱いされんだよなぁ…、はぁ…。』
〇『え?』
 
 
なんかぼそぼそ言ってるけど聞こえない。
 
 
岩『〇〇は会いたくないの?俺に。』
〇『////』
 
 
そんなわかりきってること、
聞かないでほしい。
 
 
〇『……会いたい…///』
岩『聞こえない。』
〇『会いたい!!///』
岩『////』
 
 
言っちゃった。どうしよう。
 
 
岩『へへ…///
  やべ、嬉しいな…、
  ……はぁ、ヤバい///』
〇『////』
 
 
胸がドキドキする。
 
 
岩『じゃあLIVE終わったら
  俺の部屋おいでね。』
〇『う、うん…///』
 
 
思わずそう返事したけど…
 
 
岩『じゃあ…おやすみ///』
〇『おやすみなさい///』
 
 
電話を切ってから、我に返った。
 
 
岩ちゃんの部屋に行くって
どういうこと??
 
ホテルキャンセルしろってことは…
岩ちゃんの部屋に私も泊まるってこと?
 
 
〇)え…?///
 
 
顔がボボボッと熱くなった。
 
 
えっと…、
……岩ちゃんの部屋は広いのかな?
 
ベッドもきっと二つとかあるんだよね?///
 
 
こんなど田舎から遠征する
私の遠征費用を気遣って
そう言ってくれたんだよね?
 
 
〇)////
 
 
大丈夫。
変な勘違いとかはしてません。
 
 
LIVEで岩ちゃんを見れるだけでも
幸せなのに…
 
また直接会えるなんて、夢みたい。
 
 
嬉しい。嬉しい。
もうどっか飛んでいっちゃいそう///
 
 
岩ちゃんが好き…。
 
岩ちゃんが好き…。
 
 
最近もう、自分の気持ちを止められなくて
苦しいの。
 
 
好きすぎて…
岩ちゃんのことが大好きすぎて…。
 
 
神様…、、
どうして私なんかに
こんな奇跡を与えてくれるんですか…?
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
臣)それってつまりもう
  そういうことでしょ?
隆)やるなぁ、岩ちゃん。
岩)えっと…///
臣)LIVEの後に朝まで燃えちゃうわけね♡
隆)ひゅぅ〜〜〜w
岩)////
 
 
俺はそんなストレートな意味で
誘ったわけじゃないんだけど…
やっぱりそういう風に受け取られたかな…?
 
 
臣)でもよくやるねぇ、岩ちゃん。
  一年越しの片想いとか。
  遠距離な時点で俺なら無理。
隆)俺もちょっとツラいなぁ〜〜
臣)全然ヤレないじゃん。
  プラトニックとかありえない。
隆)ヤレないのは無理だ。絶対無理だ。
岩)こら!///
 
 
七夕の日に〇〇に会えるのが嬉しすぎて
初めてメンバーに〇〇のことを話してみたら
これだもんw
 
 
でも…、
そういう意味で誘ったんじゃないとか言いつつ
〇〇を前にしたら
自分を抑えられる自信なんて、あるわけない。
 
 
だって…
こんなに会いたくて、ずっと会いたくて、
一年も我慢したんだ。
 
 
そんな〇〇が目の前に現れたら…
絶対抱きしめちゃうと思うし、
それ以上だって…、、
 
 
岩)////
 
 
〇〇はどうなんだろう。
 
 
なかば無理やり
俺がホテルキャンセルさせたけど…
 
同じ部屋に泊まってくれるってことは
そういうことでいいのかな…。
 
 
隆)でもあれか、片想いじゃなくて
  両想いか、岩ちゃんの場合。
岩)えっ…///
隆)両想いならなんとか耐えられるのかなぁ…
臣)ヤレなくても?
隆)うん。
臣)無理。絶対無理。
隆)……うん、俺もやっぱ無理だ。
岩)どんだけヤリたいんだよ二人とも!///
  それに…、両想いとか…
  そんなんじゃないから、俺たち!
隆)え、じゃあやっぱ岩ちゃんの
  片想いなの!?
臣)だって岩ちゃんのファンなんでしょ?
  そんなん好きじゃん。
  同じことじゃん。
岩)違うよ…、全然違う。
 
 
ファンとして俺を応援してくれてる気持ちと
恋愛感情は、全然違う。
 
〇〇は俺を好きだって言ってくれるけど…
〇〇が好きなのは
三代目の「岩ちゃん」なんだ。
 
 
一人の男としてなんて、見てくれてない。
いつも子供扱いされるし。
 
 
でも…
LIVEでカッコイイとこ見せたら
少しは対象として見てくれるかなって
そんな邪なこと考えてる俺。
 
だって…
好きな女にカッコイイって思われたいなんて
男としては当たり前の感情だから。
 
 
隆)つーかその人、彼氏いないの?独身?
臣)えっ、確認してないの?
岩)したよ!
 
 
本人には曖昧にしか聞けてないけど…
七夕祭の日、店長に聞いたんだ。
 
そしたら独身だし彼氏もいないって言ってて
心の中でガッツポーズしたもん。
 
 
隆)そっか、フリーなんだ。
臣)それで岩ちゃんのファンとか。
  もう間違いなく上手くいくじゃんw
隆)朝まで燃えちゃおw
臣)燃えろ燃えろw
岩)////
 
 
そんな簡単な話じゃないんだけど…
 
でもやっと俺の気持ちを伝えられる。
 
 
もうとっくにバレバレだと思うけど…
ちゃんと直接、伝えたいから。
 
こんなに好きで、どうしようもないって。
 
 
もしも…
もしも〇〇も同じ気持ちでいてくれるなら…
 
俺は〇〇に伝えたいことがあるんだ。
 
 
ああ早く7月7日にならないかな…。
 
 
待ち遠しくて、
あなたが恋しいよ、こんなにも。
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
いよいよ明日は七夕だ。
 
 
私はドキドキしながら
何度も遠征の荷物を確認して
深呼吸した。
 
 
〇)はぁぁぁ……///
 
 
LIVEも楽しみすぎるけど
また岩ちゃんに会えるということが
本当に夢みたいで
 
もうどうしていいのか、わからない。
 
 
ピロリロリロ♪ピロリロリロ♪
 
 
〇)ひゃぁっ!///
 
 
岩ちゃんだ!!!
 
 
〇『はいっ!もしもし!///』
岩『出るの早〜〜w』
〇『////』
 
 
ドキドキドキ…ドキドキドキ…
 
 
岩『ね、明日だね。』
〇『うん///』
岩『なんかもうそわそわして
  何も手につかないんだけど
  どうしたらいい?w』
〇『えっ///』
 
 
それはまさに今の私ですけど…
 
 
岩『やっと会えると思ったら…もう、さ///
  なんかほんと…ヤバイ///』
〇『////』
 
 
岩ちゃんはいつも私に
「会いたい」って言ってくれる。
 
どうしてなの?
 
 
勘違いなんてしないけど、
いつも嬉しすぎて
おかしくなりそうなんだよ…?
 
 
岩『もう荷造りした?』
〇『うん、したよ///』
岩『忘れ物、ない?w』
〇『もう10回くらい確認してる///』
岩『あははは!w』
 
 
ああ、この笑い声を聞くと、
あなたの笑顔が目に浮かぶ。
 
早く会いたいよ、岩ちゃん…。
 
 
岩『ねぇ、そういえばさ、
  明日の席、どこらへんなの?』
〇『え?えっとね…、
  スタンドの△△列の…、』
岩『は?ちょっと待って!
  それめっちゃ後ろじゃん!
  見えないくらい後ろじゃん!!』
〇『ええと…、うん、
  FCっていつもこんなだよ…?』
岩『はぁ!?
  どうなってんのうちの会社!!』
〇『ええと…、』
 
 
それは私に言われましても…、、
 
 
岩『FCは前の方の席なんだと思ってた、俺。』
〇『違うんです…。』
岩『FCの意味…。』
〇『ね…w
  でもいいんだよ、
  見れるだけで嬉しいもん。』
岩『見えないじゃん、そんな後ろじゃ。』
〇『見えるよ、ちゃんと。大丈夫w』
岩『ねぇ、やっぱ俺が用意した席で…』
〇『ダメダメ。
  そんなことしたら私の席が
  空席になっちゃうもん。』
岩『いいじゃん…。』
〇『だーめ!勿体無いよ!』
岩『俺はいい席で俺のこと見て欲しい。』
〇『大丈夫!安心して!
  どんなに遠くても穴が開くくらい
  見ちゃうんだから!!』
岩『そんなに見てくれんの?///』
〇『見るよぉ〜〜〜〜!!』
岩『あはははw』
 
 
早くキラキラ輝く岩ちゃんが見たい。
 
 
岩『わかったよ。じゃあさ、
  〇〇の席まで届くくらい
  思いっきりパフォーマンスするから。
  ちゃんと見とけよ?』
〇『う、うん…///』
 
 
急に男らしくなる岩ちゃんに
ドキッとする。
 
 
岩『あ、あとそれから。
  LIVE終わってホテル来る時さ、
  エレベーター降りたら
  見張りのスタッフいると思うから
  〇〇の名前言えば大丈夫だから。』
〇『えっ…』
 
 
見張りのスタッフなんかいるんだ…
すごい。
そうだよね。三代目だもんね。
 
 
岩『荷物も先に預けるなら
  フロントに部屋番号言えば
  大丈夫なようにしてあるよ。』
〇『ありがとう…ございます///』
 
 
なんか本当に感謝しかない。
 
 
岩『大丈夫だと思うけど
  何か困ったことあったら
  すぐに俺に連絡してね?』
〇『うん、ありがとう。』
 
 
優しいな、岩ちゃんは…。
本当に本当にありがとう。
 
 
岩『じゃあ明日…、楽しみにしてるね。』
〇『うん。』
岩『早く会いたい。
  …って俺何回言ってんだろ///』
〇『////』
岩『でもほんと会いたい。
  あ〜〜〜もう、……はぁ///』
〇『////』
 
 
もうこれ以上ドキドキさせないで。
 
 
岩『じゃあ…、明日…、
  気をつけておいでね///』
〇『うん///』
岩『待ってる///』
〇『うん///』
岩『……おやすみ、///』
〇『おやすみ…なさい…///』
 
 
その夜は、ドキドキして眠れなかった。
 
 
だから次の日、大阪までの道のりを
私はほとんど眠って過ごした。
 
おかげで大阪に着いた時には
もう目もパッチリ!頭が冴えてる!
 
 
ドキドキしながらまずはホテルに向かって
岩ちゃんに言われていた通り、
フロントに荷物を預かってもらった。
 
それからお昼を食べて会場に向かって、
チケットに書いてある座席に腰をおろした。
 
 
〇)はぁ……///
 
 
確かに遠い。
すっごく後ろの席だから。
 
でもいいの。
岩ちゃんが見れるんだもん。
 
それだけで本当に幸せなことなんだから。
 
 
今までだってずっと
この年に一回の楽しみのために生きてきた。
 
毎日仕事を頑張るのも全部全部、
岩ちゃんのため。
 
 
ドキドキしながらその時を待っていたら…
開演時間になって、会場が真っ暗になった。
 
湧き上がる歓声。
 
 
〇)////
 
 
どうしよう…
私今までで一番ドキドキしてる。
 
 
オープニングが始まって
ドキドキしながら見とれてると、
大きな音が鳴り響いて
三代目の7人がステージに現れた。
 
もう会場が割れそうなほどの歓声で。
 
 
〇)////
 
 
岩ちゃんがいる。
今、同じ時、同じ場所に、ここにいるんだ。
 
 
力強いダンス。
キラキラ飛び散る汗。
眩しいほどの笑顔。
 
 
「〇〇の席まで届くくらい
 思いっきりパフォーマンスするから。
 ちゃんと見とけよ?」
 
 
ああ…ほんとだね、岩ちゃん。
 
すごい。すごいよ。
 
 
〇)ぐす…っ///
 
 
私は感動して、涙が止まらなかった。
 
 
今まで見たどのLIVEよりも
胸が熱くなる、魂が震える、
そんなパフォーマンスだった。
 
 
アンコールも終わって
退場のアナウンスが流れてるけど
私はしばらく放心状態で動けなくて。
 
気付けばもうほとんどのお客さんが
いなくなってた。
 
 
「お帰りはこちらになりまーす。」
 
 
スタッフの人に
不思議そうに見られちゃった。
 
 
〇)す、すいません!すぐに出ます///
 
 
私は慌ててフラッグをバッグにしまって
会場の外に出た。
 
 
それからLIVEの興奮も冷めないまま
どこか夢見心地でホテルに戻って。
 
 
言われていた部屋番号に向かって
エレベーターに乗った時に
ようやく実感が湧いてきた。
 
 
〇)////
 
 
大丈夫…なのかな…。
 
今更というか…
何度も想像はしてたけど
岩ちゃんと同じ部屋に泊まるって
とんでもないことだよね?
 
 
どうしよう…足が震えてきた。
 
 
ポーーーーン…。
 
 
到着音が鳴っておずおずと箱から降りると…
 
 
は…っ、なんか立ってる人がいる。
あの人がスタッフさんかな?
 
ええと…部屋は…、こっちだ。
 
 
私が一歩踏み出した瞬間、
すぐに声をかけられた。
 
 
男)すみません、ここから先は
  関係者以外は…
〇)あ、あの、えっと…、
  すみません、私〇〇と申します…。
男)〇〇さん…、ああ、はい。
  確認取れました。どうぞ。
〇)ありがとうございます…。
 
 
男の人は持っていた端末と照合して
私を通してくれた。
 
 
ドキドキ…、ドキドキ…、ドキドキ…、、
 
 
たどり着いた部屋の前。
 
どうしよう、なんかもう
息が出来なくなりそうなくらい緊張してる。
 
 
〇)////
 
 
このドアの向こうに、岩ちゃんがいるの…?
本当に…?
 
 
………よし!///
 
 
私は意を決して、部屋のチャイムを鳴らした。
 
 
シーン…。
 
 
〇)あれ…?
 
 
もう一度、鳴らしてみる。
 
 
シーン…。
 
 
〇)……え?
 
 
いないのかな?
 
それとも疲れて寝てるとか?
 
 
どうしよう。
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
臣)岩ちゃん、飯は?
岩)いらない!
隆)シャワーは?
岩)いらない!
N)岩ちゃ…
岩)お先に失礼します!!!
 
 
俺は猛ダッシュで会場を出た。
 
 
〇〇はどこにいるんだ?
いくらLINEしても既読にならないし
電話してみても、繋がらない。
 
一体どうなってんだ。
 
 
まさか…まさか…
帰っちゃった、なんてないよな?
 
てか帰れるわけないよな、この時間で。
 
もう、なんで連絡つかないんだよ!
 
 
焦る気持ちでホテルに着いて
エレベーターに飛び乗って。
 
箱を降りたら見張りのスタッフが
俺に会釈で合図をした。
 
 
岩)え…?
 
 
促された方を見てみると…
 
 
〇)あ…っ
 
 
部屋の前で困ったようにオロオロしてる
〇〇がいた。
 
 
岩)〇〇…っ!!
 
 
俺はすぐに駆け寄った。
 
 
岩)なんで…っ、なんで電話出ないの!
〇)えっ!?
岩)LINEも見てないし!
〇)あっ、うそ…っ、えっと…
岩)もういいや、入って。
 
 
ピッ。ガチャッ。
 
 
俺が〇〇の腕を掴んで部屋の中に入れると
鍵は勝手にロックされた。
 
 
〇)あの、ごめんねっ、携帯…っ
岩)…っ
 
 
俺は気付けば彼女を腕の中に抱きしめてた。
 
ぎゅっと、強く、
その存在を確かめるように…。
 
 
〇)岩…ちゃ…っ///
岩)もういいから。
〇)…っ
岩)こうさせて、お願い。
〇)////
 
 
腕の中に今、〇〇がいる。
 
ずっと会いたくて仕方なかった〇〇がいる。
 
それだけでいい。
もう何もいらない。
 
 
岩)〇〇…っ
〇)////
岩)〇〇…っ
〇)////
 
 
どれだけこの時を待っただろう。
 
一年は長すぎた。
長すぎたよ、〇〇。
 
 
〇)岩ちゃ…っ///
 
 
気付けば彼女の声は震えてて…
 
 
岩)〇〇…?
 
 
そっとその顔を覗けば、
彼女の目から綺麗な涙が一筋、
伝い落ちていった。
 
 
岩)なん…で…、っ
 
 
とめどなくぽろぽろと
こぼれ落ちていく涙。
 
 
岩)なんで…泣いてるの…?
〇)だ…って、///
 
 
俺まで泣きそうになるから、やめてよ。
 
 
〇)夢じゃ…ないんだ…、って…。
岩)…っ
〇)ほんとに岩ちゃんが…
  目の前に…いるんだ、って…。
岩)…っ、いるよ。目の前にいる。
〇)……っ
 
 
それ以上、言葉にならないのか
彼女は涙を流しながら、
俺の腕の中に戻ってきた。
 
 
岩)〇〇…っ
 
 
俺はしばらく彼女を抱きしめて
そのぬくもりを味わった。
 
 
岩)……〇〇。
 
 
そっと触れた頬は、
柔らかく俺の手に吸い付いて…
 
潤む瞳と見つめ合えば、
まるで引き寄せられるように。
 
 
……俺は彼女にそっと、口付けた。
 
 
それから何度も何度も。
 
角度を変えて、重なる唇。
 
 
柔らかく触れるたびに…
熱く絡み合うたびに…
 
止まらなくなる。
 
 
彼女を好きな気持ちがあふれ出して
もっともっと、求めてしまう。
 
 
〇)岩…ちゃ…、///
岩)もういいから。
 
 
彼女の言葉を、キスで塞いだ。
 
 
岩)もういいから…何も言わないで。
〇)…っ///
 
 
何もいらない。
もう何もいらないから…
ただ、あなただけが欲しいんだ。
 
 
岩)このまま…俺のものになって///
〇)////
 
 
抑えられるわけがない、
これほどの気持ちを。
 
そんな術を、俺は知らない。
 
 
岩)〇〇…っ
 
 
夢中でキスを続けながら
どうやってベッドまでたどり着いたのかなんて
思い出せない。
 
それくらい、〇〇に夢中だったから。
 
 
夢中で、夢中で、自分を止められなくて…
 
ただひたすらに、〇〇を求めて。
 
 
もうわけがわからなかった。
 
泣き出しそうなくらいの愛しさと情熱が
そこにはあって。
 
 
熱くなった肌と肌を合わせた瞬間、
〇〇が言ったんだ。
 
「剛典」って。
 
 
初めてそう、呼んでくれた。
 
 
岩)なんで今言うの…?///
〇)だ…って…///
岩)ずるいでしょ、そんなの…///
〇)呼びたく…なったの///
 
 
ああ…もう…
溶け出してしまいそうなくらい
甘いこの幸せは一体なんなんだろう。
 
 
岩)〇〇…っ、は…ぁっ、///
〇)……剛…典…っ///
岩)〇〇…っ///
〇)あっ、あ…っ、ぁぁ…っ、///
 
 
もうずっとこのままでいたいくらい。
 
深く…深く…、ひとつになる。
 
 
岩)あ…ぁぁ…っ///
 
 
繋がってる、こんなにも。
 
 
〇)剛典…っ!///
 
 
もっと呼んで、俺の名前を。
 
今こうしてあなたを抱いてるんだって
もっと俺にわからせてよ。
 
 
俺に刻みつけるくらい…
もっと熱く、もっと乱れて、
あなたの全部を、俺に見せて…。
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
〇)……くすぐったい…よ?///
岩)うん…?w
〇)////
 
 
甘い甘い、ベッドの中。
 
くすくす笑う剛典は
一向に私を離してくれない。
 
 
岩)ね、一緒にお風呂入ろっか♡
〇)え!?///
岩)がっついちゃってごめんね///
〇)////
 
 
シャワーも浴びずに
こんなことになっちゃって…
恥ずかしくて、死んじゃいそう。
 
 
〇)一緒にお風呂は…恥ずかしいから…
  お先にどうぞ…///
 
 
そう言ったのに…
 
 
岩)絶対やだ!
  一秒だって離れてたくないんだよ!
 
 
そう言い張る剛典に、
強制的に抱っこされて…
 
 
岩)ね?気持ちいいでしょ?
〇)////
 
 
結局一緒に、入ってます。
 
 
泡で身体が見えなくて、良かった。
 
 
岩)ね、もっとこっち来て。離れないで。
〇)////
 
 
ぎゅっと抱きすくめられて
泣きそうなくらい、幸せ。
 
 
岩)話したいこといっぱいあったのに…
  〇〇の顔見たら、もう我慢できなくて。
  止まんなくて。
  ほんとにごめんね…?///
〇)……(こくん)///
 
 
私だって、そうだった。
 
剛典の顔を見たら、勝手に涙があふれて…
もう自分の気持ちを、抑えられなかった。
 
 
岩)えっと…さ、ほら、そうだ、
  LIVE!どうだった?///
〇)えっ…
岩)ちゃんと見えた?俺のこと。
〇)見えたよ!もちろん見えたよ!
  カッコ良かったよ!すごかったよ!
  もうね、今までで一番感動しちゃった!
岩)えっ、……ほんと?///
〇)うんっ!!
 
 
私はついつい熱くなって
LIVEの感動を力説しちゃった。
 
 
岩)すげぇ見てくれてる…感動///
〇)剛典しか…見てなかったもん///
岩)何それ…、かわい…///
〇)////
 
 
ああ、なんだろうこれは…
やっぱり夢かな?
私、夢見てるのかな?
 
一緒にお風呂に入って
こんな風に抱っこされて
可愛いとか言われて
 
なんかもう…
何もかも信じられないことばかりで…
 
 
岩)さっきも…すげぇ可愛かった///
〇)え…っ///
岩)可愛すぎて…ヤバかった///
〇)////
 
 
信じられないけど、やっぱり夢じゃない。
 
だってあんなに優しかった剛典の熱が
まだ身体に残ってるもん…。
 
 
それから私たちは、のぼせそうになるまで
お風呂の中でいろんなことを話した。
 
今までだって電話で話してたのに
こうして直接だと
やっぱり全然違って。
 
話は尽きなかった。楽しかった。
 
 
お風呂から上がると
剛典がルームサービスを頼んでくれて
二人で一緒に食事しながら
またたくさん話して、笑って。
 
 
夢みたいに幸せな時間。
 
 
岩)〇〇…、
〇)…っ
 
 
夜景を見つめていたら、
窓ガラスに触れてる私の手に、
剛典の手が優しく重なった。
 
 
岩)あの…さ、
  また俺きっと…
  歯止め利かなくなっちゃうと思うけど…
〇)え…っ///
岩)ごめんね?先に言っとく///
〇)////
 
 
触れられてる手から
剛典の熱がゆっくりと私に移ってくる。
 
トクン…トクン…トクン…
 
 
岩)だって…
  抑えれるわけねぇんだよ、
  こんな気持ち///
〇)////
岩)やっと会えたんだよ?
  会いたくて…会いたくて…
  一年も我慢して、やっと今日。
〇)……うん、///
岩)もう離さないから、絶対///
〇)////
 
 
後ろから包み込むように抱きしめられて…
 
 
そっと振り返ったら、
甘くて優しいキスが、唇に落とされた。
 
 
〇)…剛…典…、///
 
 
背伸びをして、彼の首に手を回したら…
 
 
岩)〇〇…、///
 
 
私の身体はそのまま抱き上げられて、
ベッドに連れていかれた。
 
 
岩)あっち、ぐちゃぐちゃにしちゃったから…
  こっちのベッドね、///
〇)……うん///
 
 
あっちのベッドは
私たちが抱き合ったままだから
ひどく乱れてて、恥ずかしい。
 
 
岩)ね、俺の目、見て。
〇)…っ///
 
 
熱い瞳に、吸い込まれそう。
 
 
岩)好きだよ、〇〇。
 
 
それは…
彼の口から初めて聞いた言葉。
 
 
岩)こんなに好きなんだ。
  もうどうしていいかわかんない。
〇)////
岩)ちゃんと責任、取ってね?
〇)え…?///
岩)〇〇の全部で、ちゃんと感じて?
  俺がどんだけ〇〇のこと好きか。
〇)////
岩)わかるまで、教えてあげるから。
〇)////
 
 
夢か現実か、もうわからない私を
剛典のぬくもりが包んでくれる。
 
 
夢中で、夢中で、自分を止められなくて…
 
ただひたすらに、剛典を求めて。
 
 
もうわけがわからなかった。
 
泣き出しそうなくらいの愛しさと情熱が
そこにはあって。
 
 
熱くなった肌と肌を合わせた瞬間、
剛典が呼んでくれた。
 
とても愛おしそうに、私の名前を。
 
 
〇)どうして…今呼ぶの…?///
岩)だ…って…///
〇)ずるい…よ…、///
岩)何度だって…呼びたいんだよ///
〇)////
 
 
ああ…もう…
溶け出してしまいそうなくらい
甘いこの幸せは一体なんなんだろう。
 
 
〇)剛典…っ、は…ぁっ、///
岩)……〇〇…っ///
〇)剛典…っ///
岩)あっ、あ…っ、ぁぁ…っ、///
 
 
もうずっとこのままでいたいくらい。
 
深く…深く…、ひとつになる。
 
 
〇)あ…ぁぁ…っ///
 
 
繋がってる、こんなにも。
 
 
岩)〇〇…っ!///
 
 
もっと呼んで、私の名前を。
 
今こうしてあなたに抱かれてるんだって
もっと私にわからせて。
 
 
〇)剛典…っ///
 
 
涙があふれる。
 
 
好き。
 
この人が好き。愛してる。
 
 
こんなにも尊い気持ちが
この世にあるんだって…
 
今初めて知ったの。
 
 
剛典に愛されて、生まれ変わるみたいに…
 
私の身体は溶けて、熱く、熱く、燃え上がる。
 
 
 
ねぇ剛典…。
 
本当に愛してる。
 
 
あなたのことが、こんなにも好き。
 
好きで好きで、仕方ないの。
 
 
……ありがとう。
 
 
私、一生忘れないよ…。
 
ありがとう。
 
 
……さようなら。
 
 
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
 
 
「剛典…」
 
 
あなたがやっと呼んでくれた俺の名前。
 
やっとあなたの特別になれた気がした。
 
 
もう離さない、絶対に。
 
 
俺はあなたに話したいことがあるんだ。
 
 
目が覚めたら聞いてくれる?
 
夢の続きを二人で一緒に、見たいんだ。
 
 
 
 
……
 
 
 
 

 
 
 
 
岩)え…?
 
 
 
目が覚めると、俺はベッドに一人だった。
 
一瞬、事態を把握出来なくて
頭が真っ白になる。
 
 
岩)〇〇…?
 
 
俺はすぐに起き上がって
彼女を呼んだ。
 
 
彼女の気配が消えてる。
 
この部屋から、消えてる。
 
 
岩)〇〇…!!
 
 
俺は慌ててベッドを降りて
部屋中、探した。
 
彼女の姿を。
 
 
でもどこにもいなくて…
 
 
岩)そうだ、電話!!
 
 
そう思ってかけて、
目の前が真っ暗になった。
 
 
電話の向こうから聞こえてきたのは
電信音でも、
電波が届かないお知らせでもなくて…
「この番号にはお繋ぎ出来ません」
 
そんなアナウンスだったから。
 
 
岩)なん…で…?
 
 
俺は力が抜けて、ガクッと膝をついた。
 
 
電話が繋がらないからLINEを送ってみたけど
既読にならない。
いくら送っても。
 
きっと、ブロックされてる。
 
 
岩)…っ
 
 
なんで?なんで?なんで?
 
頭の中は、そればかりが駆け巡ってる。
 
 
慌てて服を着て部屋を出たら
見張りのスタッフが俺に気付いて
頭を下げた。
 
 
岩)女の人は!?
  俺の部屋に来てた女の人!
  ここ通った!?
男)はい…っ
 
 
スタッフは俺の勢いに少しビビってて
でも、答えてくれた。
 
 
男)あの女性でしたら荷物を持って
  下りていかれましたよ。
岩)は!?いつ?!
男)かなり早い時間だったかと思います。
岩)なんで…っ
  なんか言ってなかった!?
男)いえ、何も。
岩)…っ
 
 
なんで帰った?俺に何も言わず。
なんで、なんで、なんで!!
 
 
俺は思考感覚が麻痺して
もう何も考えられなくて
 
覚束ない足取りで部屋に戻ってきて、
ベッドに倒れこんだ。
 
 
岩)…っ
 
 
シーツからはまだ彼女の匂いがする。
 
甘くて柔らかい、彼女の匂いが。
 
 
だって、現実だ。
夢なんかじゃない。
 
俺は彼女を抱いた。
 
 
このベッドだってあっちのベッドだって
乱れたまんまだ。
 
俺たちがあんなに、抱き合った証拠だ。
 
 
岩)〇〇…っ
 
 
通じ合えたと思った。
 
同じ気持ちなんだと。
 
 
涙が勝手に頬を伝うから…
俺は天井を見上げながら、そっと目を閉じた。
 
 
まだあなたに伝えてないことがある。
 
 
俺はあなたを東京に呼ぶつもりだった。
 
 
俺のそばにいてほしい、
 
そう伝えるつもりでいたんだ。
 
 
もう声しか聞けないのは嫌だ。
顔を見られないのは嫌だ。
 
 
俺のそばで、笑って。
俺と同じ時間を、生きてほしい。
 
そう伝えたかった。
 
 
岩)〇〇…っ
 
 
俺は好きだって言った。
 
あんなにも、伝えた。
 
言葉で、身体で、何度も、何度も。
 
 
伝わったと思った。
 
あんなにひとつになって、愛し合って…
同じ気持ちだと思ったのに…。
 
 
思い返せば俺を好きだとは
彼女は一度も言わなかった。
 
そういう…ことなんだろうか…。
 
 
全部、俺の勘違い…?
ただの一人よがりだった?
 
 
 
 
 
俺はしばらく立ち直れないまま、
また季節がひとつ、過ぎていった。
 
 
女)がーんちゃんっっ♡
  ね、一緒に抜けようよぉ♡
岩)んー、ごめん…。
臣)岩ちゃんはやめときな、
  絶対無理だよw
女)えーー、どうしてぇ?
臣)俺が相手してやるから、な♡
女)うんっ♡
 
 
あの夢みたいな夜から一転、
俺はまた喧騒の中にいた。
 
 
女)ね、岩ちゃん…好きなの///
岩)うん…。
女)付き合ってくれる?♡
岩)ごめん…。
隆)ごめんね、岩ちゃんのことは
  ほっといてあげて〜〜w
女)ええっ!どうして?
  やだ、岩ちゃん…っ!
岩)ごめんね…。
 
 
誰に何を言われても、心が動かない。
 
どんな甘い誘惑も、俺には響かない。
 
 
俺の心の中にいるのは、
ずっと彼女だけだから。
 
 
臣)岩ちゃんもたまにゃ遊べばいいのに。
隆)ねー。
岩)そんな気にならないんだ…。
臣)もう忘れろって、あんな女ー。
隆)そうだよ。いきなりシカトとか
  ひどすぎんじゃん!
臣)どうせアレだろ、ワンナイ目当て。
  一回ヤレりゃ満足だったんだよ。
隆)そーゆー女いっぱいいるもんね。
臣)向こうはただの記念だったんだよ、記念。
隆)岩ちゃんももう割り切ってさ、
  他の女の子と遊んでみたら?
岩)……うん。
 
 
適当に返事をしたけど
そんな気になんてなれるわけがなかった。
 
 
ワンナイ目当て…?
そんなわけない。
〇〇はそんな女じゃない。
 
ただの記念…?
違う。絶対に違う。
 
 
だって伝わったんだ。
あの夜、間違いなく。
 
抱いた時に〇〇の気持ちが流れ込むように
伝わってきた。
 
 
絶対に俺たちは、同じ気持ちだった。
 
 
岩)前に撮影した、△△って場所、
  覚えてる?
男)ああ、あのど田舎ですよね?
  どうしたんですか?
岩)あそこに行きたいんだけど…
男)えええ!?なんでですか?!
  あんなとこまで行くなら
  一日じゃ無理ですよ!
岩)うん。なんとかならないかな、
  スケジュール、どっか空けられない?
男)しばらく厳しいですねぇ…
  無理ですよ。
岩)…っ
 
 
ダメ元で聞いたけど、やっぱり無理か。
 
 
今の俺に、オフなんてあるわけない。
でもオフがなきゃ、あそこへは行けない。
〇〇には会いに行けないんだ。
 
 
岩)お願い。なんでもするから。
  ほんっっっとに頑張るから。
  頼むから俺にオフちょうだい。
 
 
俺は必死にスタッフに頼み込んだ。
 
 
男)いや、ほんとに無理ですって!
  全部調整して組んでて
  岩田さんは一番カツカツなんですから!
岩)そこをなんとか!頼む!!
男)ほんとに無理です、諦めてください。
 
 
そう言われて
簡単に諦められるような気持ちじゃない。
 
 
でも休めないもんは休めない。
どうしようもない。
 
〇〇に会いに行きたいのに
それが叶わないまま
歯がゆい毎日を送って…
 
気がつけばまたひとつ、季節が巡っていた。
 
 
相変わらず電話もメールも通じない。
 
理由もわからない。
 
 
もしかしたらもう
恋人が出来たのかもしれない。
結婚してるかもしれない。
 
俺のことなんて、とっくに忘れてるかも…。
 
 
そうは思っても、
俺のファンだって言ってくれた彼女の気持ちを
忘れたくなくて、
俺は仕事だけは必死に頑張った。
 
どこかで彼女が見ててくれてる。
それだけを、願って。
 
 
「岩田くんの笑顔や頑張ってる姿、
 岩田くんの存在自体が…
 遠く離れた誰かの癒しになってたり…
 心の支えになってたり…、
 生きる糧になってると思う…!!」
 
 
初めて会った時に、
彼女が言ってくれた言葉だから。
 
 
岩)頼むから休みちょうだい。
男)まだ目処が立ちません。
 
 
どんなに却下されても、俺は諦めなかった。
 
 
絶対に〇〇に会いに行く。
 
もう俺を好きじゃなくても
俺のことを忘れてても
それでもいい。
 
会いたいんだ。
このままじゃ諦められるわけがない。
 
 
 
「剛典…、」
 
 
岩)はっ…!!
 
 
彼女の夢を見て目が覚めるのも、
もういつものことだった。
 
 
岩)…っ
 
 
思い出すのは、初めて彼女と結ばれたあの夜。
 
 
彼女の優しい匂い、甘い声、
とろけるような温度、
 
 
全部全部、俺に深く刻み込まれたから
 
今でもこんなリアルに、蘇る。
 
 
好きだ。
 
好きだ。
 
 
狂おしいくらいの気持ちを
もうずっと、持て余してる。
 
 
 
 
岩)ねぇ、頼むから今年のどっかで…
 
 
もう何度目かわからない。
季節はもう春になっていた。
 
 
男)すぐには無理なんですけど…
 
 
俺がオフを頼もうとすると、
スタッフが初めて違う反応を見せた。
 
 
男)7月の頭らへんなら
  なんとかなりそうです。
岩)ほんと!??
 
 
俺は思わずスタッフの腕を強く掴んだ。
 
 
岩)ほんとに?!ねぇ!!
男)いた、いたいですっ、岩田さん!
岩)ほんとに休めんの?!
男)はいっ、
  一年もかかっちゃって申し訳ないです。
  でもそこなら、なんとか空けてみせます。
岩)ありがとうっ!!!
 
 
俺は嬉しくて、もう泣きそうだった。
 
やっと会える、〇〇に。
 
 
もうあの家には住んでないかもしれない。
あの町にもいないかもしれない。
 
それでも俺はあそこへ行って
時間の限り、〇〇を探す。
 
決めたんだ。
 
 
それからも俺は休みなしの怒涛の日々を送って
正直、ぶっ倒れそうだった。
 
 
〇〇の存在がこんなにも俺の中で
大きくなってたんだって、
失って改めて気付いた。
 
彼女との何気ない会話が
週に一回の電話が
俺の支えになってたんだ。
 
 
一年も会えなくて声も聞けなくて
望みなんてもうゼロだろうに
 
それでもまだあなたを忘れらない俺は
愚かだろうか。
 
こんなにもあなたを好きなままの俺は
どうしたらいい?
 
 
あの日のままなんだ。
 
俺の心も身体も。
 
 
あなたと深く愛し合った…
熱く繋がり合った…
 
あの夜の、まんまなんだよ…。
 
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
 
〇)はぁ…。
店)……。
 
 
あれ、おじさんが困ったような顔で
私を見てる。
 
 
店)もう数え切れないね、
  〇〇ちゃんのため息。
〇)え…?
店)自覚なし…?w
〇)…っ
 
 
ため息なんて、ついてないよ。
 
だって私は
一週間頑張って働いて
ご褒美にここでお酒を飲んで
楽しい時間を過ごしてるはずで…
 
 
店)また来月、岩ちゃんの映画
  公開になるねぇ。
〇)!!!
店)ほんと彼、倒れないかな?w
  一体何本出てるんだろ。
  引っ張りだこだよね、ここんとこずっと。
〇)……うん…。
 
 
全部見てるよ。
欠かさずチェックしてる。
 
 
店)よし、〇〇ちゃん!
〇)え?
店)他に何か好きなもの見つけなよ!
〇)ええ!?
店)だってさ、前までは
  岩ちゃんの話をすれば
  〇〇ちゃんはあっという間に
  元気だったけど…
  今は逆なんだもんな。
〇)…っ
店)岩ちゃんの話は〇〇ちゃんを
  寂しそうな顔にさせる。
  無理してファン続けなくたっていいさ!
  違う趣味見つけよう!
〇)……。
 
 
無理して…続けてるわけじゃない…。
 
好きだもん。
大好きだもん…。
 
ファンをやめれるわけがない。
 
 
〇)はぁぁぁ……。
店)ほらー!またため息〜〜!
〇)だって…、、
 
 
力が出ないの。
 
夢から覚めて、もうすぐ一年になる。
 
もうとっくに日常に戻ったはずなのに
どうして…?
 
 
剛典の存在がこんなにも私の中で
大きくなってたんだって、
失って改めて気付いた。
 
彼との何気ない会話が
週に一回の電話が
本当に私の支えになってたんだ。
 
 
ついつい前みたいに
聞いて欲しいことが出来たりしても
もうそれを話す相手はいない。
 
 
〇)よし、ごちそうさま!
  また来るね!
店)〇〇ちゃん…。
 
 
私はお金を払って店を出た。
 
とぼとぼと歩く、家までの道。
 
 
この道を歩くたびに思い出す。
剛典が送ってくれた七夕祭の夜のこと。
 
二人で手を繋いでこの道を歩いたんだ。
 
 
思い出して…
思い出すたびに、私は泣いてる。
 
 
〇)…っ
 
 
バカだよね、ほんと…。
 
 
好きになりすぎたの、剛典を。
 
気付いた時には
どうしようもないくらいに好きになってた。
取り返しがつかないくらい。
 
 
いつの間にか
「岩ちゃん」じゃなくて
彼を一人の男の人として、
好きになってしまったの。
 
 
だって抗えるわけがなかった、
あんな引力に。
 
強く強く、惹かれて。
 
 
心も身体も、剛典でいっぱいになって…
 
あんな幸せ、初めてだった。
 
 
でもだから、怖くなった。
 
 
わかってたから、叶わない恋だって。
 
 
現実には住む世界が違いすぎる。
 
都会のど真ん中で輝き続ける彼と
ど田舎で暮らす私の人生が
交わるわけ、ないんだ。
 
 
一年ぶりに会えただけで奇跡だったの。
 
それ以上、求めちゃいけない。
 
 
これ以上、好きになるのが怖いから。
苦しいから。
 
……あの朝、さよならしたの。
 
剛典の寝顔にそっと口付けて、
別れを告げた。
 
 
さよならすれば
忘れられると思った。
 
日常に戻れば時間が忘れさせてくれるって
そう願ってた。
 
 
ほんとバカだよね、私…。
 
 
その程度の気持ちじゃないことなんて
自分が一番わかってたくせに。
 
 
どうしようもないくらい
好きになっちゃったんだから…
 
離れたくらいで
その気持ちが消えるわけなかった。
 
 
でもいいの、それならそれで。
 
 
私はずっとこの気持ちを抱えて、生きていく。
 
 
剛典が好きだって言ってくれた。
私を愛してくれた。
 
初めて結ばれた、あの夜。
 
 
剛典の優しい匂い、甘い声、
とろけるような温度、
 
全部全部、私に深く刻み込まれたから
 
今でもこんなリアルに、蘇る。
 
 
それだけで、生きていけるよ…。
 
 
好き。
 
好き。
 
 
狂おしいくらいの気持ちを
ずっとずっと、持て余してる。
 
 
〇)あ…。
 
 
家に帰ってテレビをつけたら
ちょうど来月公開の映画の宣伝で
剛典が出てた。
 
もちろん録画してるけど…。
 
 
〇)……。
 
 
剛典…少し痩せた?
元気に…してるのかな。
 
 
もしかしたらもう
恋人が出来たかもしれない。
 
私のことなんて、とっくに忘れてるよね…。
 
 
それでもいい。
 
私はこれからも
「岩ちゃん」を応援するから。
 
 
「岩田くんの笑顔や頑張ってる姿、
 岩田くんの存在自体が…
 遠く離れた誰かの癒しになってたり…
 心の支えになってたり…、
 生きる糧になってると思う…!!」
 
 
初めて会った時に、あなたに伝えた言葉。
 
それは今でも何ひとつ、変わってないよ。
 
 
愛してる…、剛典。
 
今でも、こんなに…。
 
 
 
 
……
 
 
 
 

 
 
 
 
店)いよいよ明日だねぇ、七夕祭!
〇)あ、そっか、もうそんな時期だ!
 
 
どうりで最近、町が騒がしいと思った。
 
 
店)〇〇ちゃんはまた浴衣着るのかい?
〇)着ないよー!w
  行く相手もいないし。
店)そんなさみしいこと言わないの!w
 
 
そっか…七夕ってことは…、
 
剛典と一緒に浴衣を着て手を繋いで…
お祭りに行ったあの日から
もう二年が経つんだ。
 
一緒に見た花火、綺麗だったな…。
 
 
でも私は花火よりも
剛典の横顔に見惚れちゃったんだけど…。
 
 
〇)はぁ…。
 
 
あのお祭りからもう二年だし、
 
剛典と結ばれたあの夜から、もう一年。
 
 
一年ってこんなに早いんだ…。
 
 
〇)やっぱり浴衣…着ようかなぁ…。
店)おおお!!
 
 
一人で家で腐ってても
なんか虚しいし…。
 
 
〇)お祭り行こうかな。
店)うんうん、行っといで!
 
 
私は家に帰って、二年前に着たあの浴衣を
もう一度引っ張り出した。
 
 
そして次の日、一人でカランコロンと
下駄を鳴らしながら
お祭りに出かけた。
 
 
〇)あ…、
 
 
キティちゃんのお面、今年もある。
 
剛典、似合ってたなぁ…w
 
 
〇)あ…、
 
 
金魚すくいに、ヨーヨー釣り。
全部おととしと一緒だ。
 
 
剛典と笑い合った記憶が
鮮明に蘇る。
 
 
〇)……そろそろ…花火の時間だ。
 
 
カラン…コロン…。
 
 
たどり着いたのは、湖のほとり。
花火がよく見える穴場。
 
 
パーン!パンパンパンパンッ!!
 
 
〇)綺麗…だなぁ…。
 
 
剛典にも…見せてあげたい。
 
 
剛典が褒めてくれた、この田舎町。
癒されるって言ってくれた、この景色。
 
 
〇)ふふ…、
 
 
剛典がここに来ることは
この先もう一生ないんだろうなって思ったら
また泣きそうになった。
 
 
奇跡は起きない。もう二度と。
 
あれは神様が七夕に見せてくれた、
特別な夢だから。
 
 
カラン…コロン…。
 
 
一人で歩く、帰り道。
 
 
カラン…コロン…。
 
 
〇)……剛…典…。
 
 
ほんとはもっと早くそう呼びたかった。
 
でも照れ臭くて
ずっと「岩ちゃん」って呼んでたの。
 
 
〇)剛…典……。
 
 
カラン…コロン…。
 
 
……いいんだ。
 
あの夜、何度も、呼んだから。
大好きな剛典の名前を、一生分、呼んだから。
 
 
カラン…コロン…。
 
 
〇)…っ
 
 
涙って…枯れないのかなぁ…。
 
 
もう何度、泣いてるだろう。
大好きなあの人を想って。
 
何度こんな夜を、超えてきたんだろう。
 
 
〇)……剛…典…、っ
 
 
そしてこれから何度、
こんな夜を迎えたらいいの…?
 
 
会いたい。
会いたいよ、剛典…っ。
 
 
カラン…ッ
 
 
もう歩けない。
さみしくて、苦しい。
 
あの夜に帰りたい。
 
剛典の腕の中に、帰りたい。
 
神様、お願い。
 
 
私をあの夜に戻して。
 
そこで私の時間を止めてください。
 
 
涙がぽろぽろと頬を伝っていく。
 
 
家の前に着いたのに
しゃがみこんだまま、立ち上がれなくて。
 
 
〇)剛…典…っ
 
 
泣きながら、彼の名を呼んだ。
 
 
岩)……呼んだ?
 
 
え…?
 
 
私は思わず息を止めた。
 
 
……幻聴…かな…。
 
 
岩)俺のこと、呼んだ?
〇)…っ
 
 
信じられない気持ちで
ゆっくり顔を上げたら…
 
私の家の前で、玄関にもたれてる剛典がいた。
 
 
岩)おかえり。
〇)…っ
 
 
……どう…して…?
 
 
何?
 
私また、夢見てるの…?
 
 
岩)お祭り…行ってたの?
〇)…っ
岩)そんな可愛い格好して、デートだった?
〇)…っ
 
 
現実を理解できないまま、
私はなんとか返事をした。
 
 
〇)これは…
  二年前と…同じ格好だもん…。
 
 
剛典と出かけた時と
同じ浴衣、同じ髪型。
 
剛典が可愛いって言ってくれた
あの日の私に戻りたかったの。
 
 
〇)一人で…行ったの…、お祭り。
岩)なんで…?
〇)…っ
岩)なんで俺とデートした時と同じ格好で
  一人で行ったの?
〇)…っ
 
 
大事な思い出を、もう一度辿りたかったから。
 
 
岩)なんで泣いてるの…?
〇)…っ
岩)なんで俺のこと呼んだの…?
〇)…っ
 
 
涙で視界が滲んで、
もうこれ以上、喋れない。
 
 
剛典がなんでなんでって聞いてくるけど
なんでって聞きたいのは、私の方。
 
 
なんでここにいるの?
 
本物なの?
 
夢じゃないの?
 
なんで?
 
なんでこんなところに、剛典がいるの?
 
 
岩)なんで俺がここにいるの、って
  顔してる。
〇)……(こくんっ)
 
 
私は泣きながら、頷いた。
 
 
岩)そんなの、ひとつしかないでしょ。
 
 
え…?
 
 
岩)理由、ひとつしかないでしょ。
  わかんないの?
 
 
そう言われた瞬間、
私は剛典の腕の中で、抱きしめられていた。
 
 
岩)はぁ…、っ
〇)…っ
 
 
剛典…、震えて…る…?
 
 
岩)やっと…、会えた…っ
〇)…っ
 
 
やっぱり、剛典の声が震えてる。
 
 
岩)勝手に消えて…いなくなって…
  俺のこと無視して…
  …なのに…っ
  俺の名前呼んで…泣いてるとか…
  いい加減にしろよ…っ
〇)…っ
 
 
剛典も泣いてるんだってわかって
私は余計に涙が止まらなくなった。
 
 
岩)なんなんだよ、どうしたいんだよ…っ
〇)…っ
岩)言えよ、〇〇の気持ち…!
〇)…っ
岩)俺ばっか…こんな好きで…
  ずっと忘れらんなくて…
  好きで、好きで、好きで…!!
〇)…っ
岩)また一年、我慢した。
  どんな気持ちだったか…わかるかよ…っ
 
 
私のほっぺたを両手で包んだ剛典の瞳から
涙が静かにこぼれ落ちてる。
 
 
私はもう、言葉にならなくて…
ただ、剛典を抱きしめた。
 
 
ぎゅっと、この手で、強く、強く、
抱きしめた。
 
 
好き。
 
好き。
 
 
こんなにも、この人のことが好き。
 
 
離れたって、変わらなかった。
少しも色褪せなかった。
 
もうこの気持ちに抗うなんて、
不可能なの。
 
 
お互いにきつくきつく、抱きしめ合って…
二人の涙が落ち着いた頃。
 
剛典が、もう一度そっと…
私の頬を包み込んだ。
 
 
ああ、また…。
 
天の川を映したような
キラキラ光る、濡れた瞳が
真っ直ぐに私を見つめてる。
 
 
この瞳に、私はもう、嘘をつけない。
 
 
岩)好きだよ、〇〇。愛してる。
  ……〇〇の気持ち、聞かせて。
 
 
私もそっと剛典の頬に、手を伸ばした。
 
 
〇)……好き。
岩)…っ
〇)剛典が好き…っ。
 
 
涙の跡を、そっと拭う。
 
こんなに泣かせて、ごめんね。
傷つけて、ごめんね。
 
 
〇)こんなに好きな気持ち、
  もう何したって…消えないよ…っ
  死んでも消えないと思う…っ
岩)…っ
〇)それくらい、好きなの。
  剛典のこと、好きで好きで
  仕方ないの…っ
岩)…っ
〇)……好きになりすぎて、
  怖くなって、逃げ出したの…。
  住む世界が違うことはわかってたから。
 
 
私は泣きながら伝えた。
 
 
岩)住む世界が違うって…
  なんだよ、それ…っ
〇)だ…って…
岩)違わないだろ、何も。
  同じ時代に生きてて、同じ国にいる。
  同じ世界にいるじゃん!
〇)…っ
岩)もう絶対離さないから。
  絶対離さない…っ
〇)…剛…典…、っ
岩)………開けて。
 
 
剛典が玄関のドアをコンと叩いた。
 
 
岩)家、入れて…。
〇)……うん。
 
 
濡れた頬を拭いながら
巾着の中から鍵を出したら…
 
玄関に入った瞬間、
私の唇は、剛典に塞がれた。
 
 
ドンッ…!
 
 
〇)んん…っ///
 
 
壁を背に、キスを受け止めるけど…
あっという間に何も考えられなくなる。
 
 
岩)あの日…あんなに愛したのに…。
〇)…っ
岩)言ったのに、
  俺がどんだけ〇〇のこと好きか
  わかるまで教えてあげるから
  〇〇の全部で、ちゃんと感じて、って。
〇)あ…、///
 
 
思い出して、蘇る甘い熱。
 
 
岩)もっと教えなきゃダメだね…。
〇)…っ
岩)〇〇が悪いんだよ?
〇)あぁ…、っ///
 
 
目眩を覚えるようなキスに
思考を奪われて。
 
……もうわけがわからない。
 
 
剛典がいつ靴を脱いだのか…
私の帯はいつ解かれたのか…
 
何もわからないまま、
私たちはベッドの上で
激しくもつれ合っていた。
 
 
肌と肌が触れるたびに
熱が高まって。
 
どうしようもないほどに、愛おしい。
 
 
痛いくらいに、
剛典の気持ちが流れ込んでくる。
 
こんなにも愛してくれてる、私を。
 
 
岩)〇〇…っ、///
 
 
私を呼ぶ剛典の声が、
切なくて、泣きそうになる。
 
 
岩)ほんともう…狂いそう…///
〇)////
 
 
甘い快感に支配されて、
堪えてた涙がこぼれ落ちた。
 
 
岩)好きだよ…、っ
〇)…っ
岩)好きすぎるんだ…。
  もう狂いそうなくらい…
  〇〇…っ
 
 
私は泣きながら、
剛典の頬にそっと手を伸ばした。
 
 
〇)剛典、愛してる…///
岩)////
〇)好きすぎるのは、私だよ…?
  狂おしいくらい…愛おしいの。
  愛してる///
岩)////
 
 
今、気持ちがひとつになった。
 
身体の奥で、ゆっくりと、溶け合うように。
 
 
「愛してる」
 
 
今私たちには、それだけでいい。
 
何よりも大切で、尊い感情。
 
 
もう逃げたりしない。
 
 
剛典の愛を全身に浴びながら、
私はそう心に決めたんだ。
 
 
 
 
……
 
 
 

 
 
 
 
〇)……ね、…くすぐ…ったいよ?///
岩)うるさい。
〇)////
 
 
ベッドの上で、
一向に私を離してくれない剛典。
 
 
岩)言ったろ。
  一秒だって離れてたくないんだよ、俺は。
〇)////
 
 
一年前も、同じこと言ってくれてたよね…。
 
 
岩)それに…
  離れたらその隙に誰かさん、
  姿消すからね。
〇)消さないもん!///
岩)……。
〇)もう…逃げたりしないもん…///
岩)……。
 
 
剛典が私をじーっと見つめてる。
 
 
〇)なかなか会えなくても…寂しくても…
  もう逃げたりしない///
岩)え?
〇)神様がもう一度くれた
  七夕の奇跡…、、
  今度こそ、大事にする…///
岩)え?
〇)年に一度しか会えなくても…
  それでもいいよ。
岩)はい???
 
 
あれ…?
 
 
〇)だって…
  剛典と付き合うって…
  そういうことでしょ?
岩)はぁ!?
 
 
え、違うの!?
 
 
はっ、そういえば…
別に「付き合って」って
言われたわけじゃない。
 
好きだとは言ってくれたけど…
もしかして私、勘違いしてる?!
 
 
〇)あの、えっと…///
岩)年に一度ってなんだよ!
  そんなん俺がやだよ!!
〇)だって…七夕だから…
  そーゆーことなのかな、って…
岩)はぁ!?
〇)神様からの試練なのかな、って。
  織姫と彦星みたいに…。
岩)ばーーーかっ!!
〇)ええっ!!
 
 
後ろから抱っこしてくれてた剛典が
横にずれて私のほっぺをむにっと摘んだ。
 
 
岩)あのねぇ、知ってる?
  織姫と彦星って年に一度だけ会える
  ロマンチックなカップル〜〜
  とかじゃ、全然ないから!!
〇)ええっ!?違うの?!
岩)違うよ!!
  あいつらはね、ラブラブすぎて
  仕事サボって働かなくなったの!
〇)ええ!?
岩)それで神様が怒って、
  二人を引き離したんだよ。
 
 
そんなの…初耳…。
 
 
岩)でも引き離したら
  尚更働かなくなったから
  仕方なく、年に一度だけ
  会えるようにしてやったの!
〇)…っ
岩)そしたらやっと働くようになったんだよ、
  二人とも。
〇)そう…だったんだ。
岩)全然ロマンチックじゃないだろ?
〇)うん…。
 
 
びっくりしちゃった。
 
 
岩)大体さ、
  こんなに休みなしで働いてる俺に
  神様がそんなひどい仕打ちすると思う?
〇)は…っ
岩)そんな怠け者と一緒にしないでよ。
  愛する人と年に一度しか会えないなんて
  こんな頑張ってんのにあんまりじゃん。
〇)…っ
岩)だから…
  もし神様がいて…
  本当に見ててくれてるなら…
  ……はい。
〇)え…?
 
 
剛典は床から拾ったジャケットのポケットから
何かを取り出して…
 
それを、私の薬指にそっとはめた。
 
 
〇)…っ
 
 
これ…、、、
 
 
岩)俺は年に一回しか会えないなんて無理。
  もうほんとに狂うと思う、そんなの。
〇)…っ
岩)ほんとは一年前、言おうと思ってた。
〇)…っ
岩)俺は〇〇と一緒にいたい。
  離れたくない。
〇)…っ
岩)こんないい場所で暮らしてる〇〇に
  こんなこと言うのは
  俺のワガママだってわかってるけど…
  でも言う。
 
 
剛典の真剣な眼差しが、キラキラ眩しい。
 
 
岩)……東京来て。俺のそばにいて。
〇)…っ
岩)この先ずっと、一緒にいたい。
  〇〇と、ずっと。
 
 
その言葉に、ぶわぁぁっと涙が浮かんできて
私はまた、喋れなくなった。
 
 
岩)ちなみにもう…
  〇〇に選択権はないから///
 
 
え…?
 
 
岩)嫌だって言っても連れてく。
  絶対連れてく!
〇)////
 
 
嫌だなんて…言うわけないよ。
 
 
岩)誰に反対されても
  納得してもらえるまで
  俺が説得するし、絶対諦めない!!
〇)…っ
岩)俺は絶対もう…、
  お前を離さないから///
〇)////
 
 
……大好き、剛典…。
 
ありがとう。
 
 
離さないで、この先ずっと。
 
もう離れたくないよ、二度と、絶対。
 
 
ずっとずっと、あなたといたい。
二人で笑っていたい。
 
 
一生大切にするから、だから。
 
 
私たちの最後の願いを
どうか聞き届けてください…、
七夕の神様…。
 
 
岩)愛してるよ。
〇)……(こくん)///
 
 
私は剛典の瞳を
真っ直ぐに見つめ返した。
 
 
〇)私もずっとずっと、愛してる…剛典。
 
 
七夕を三度も経て
やっと結ばれた私たち…。
 
 
今度こそ、幸せになろうね。
 
 
 
 
 
 
 
ーendー

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  1. さゆれ より:

    マイコさーん。こっちでも読み返しちゃいました!!
    storyももちろん大好きなんだけど、マイコさんの書くshortstory本当にどれも大好きです!!

    • マイコ より:

      さゆれさーーん!(๑✪ω✪๑)
      ありがとうございます!嬉しいです!!♡♡

  2. ひな より:

    こんなことってあるんですか?!笑
    あるならいますぐにでもど田舎行きたいんですけど!!!!!笑
    久しぶりのショートストーリー嬉しかったけど、臣くんがクズ役なんですねd( ̄  ̄)臣くんverも待ってます!!無理のないように!

  3. のあのあ より:

    マイコさん、もうさいこーです
    さいこー過ぎます
    年上設定も田舎設定も、もう、臣ちゃん♡ちゃんのStory越えちゃうくらい好きです✨
    もう、すでに何度も読み返してますこれからも色んなお話楽しみにしてます☺️

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