〈77〉女子たちの覚悟

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ランチを終えてオフィスに戻ろうとすると
エレベーターを降りたところで
猿田さんが私たちを待ってくれていた。
 
 
♡)どうしたんですか?
猿)ちょっと気になる記事を見つけて。
M)え…?
猿)記事っていうか個人がまとめたもので
  ブログみたいなもんなんだけど
  もう既にかなり拡散されてるのよ。
♡)え…っ
 
 
私たちはそれをiPadで見せてもらった。
 
 
♡)え…っ、何…これ…っ
M)なんでこんなプライベートな写真まで…!
 
 
拡散されてるのは
私とハルくんの写真や
またでまかせの内容ばかり…。
 
なんで?
誰がこんなことするの?
 
 
猿)でね、ちょっと裏技でIP辿ったの。
  そしたら、先週あなたと岩田くんの
  写真とガセネタを拡散したアドレスと
  一致したわ。
M)えっ、猿田さん!
  あの犯人わかってたんですか!?
猿)犯人っていうかアドレスだけね。
  アカウントが消される前に調べたから。
K)え、すご…っ
猿)でもそれだけわかってても
  個人は特定出来ないから
  言っても仕方ないと思って
  報告しなかったの。
  そしたら今回、見事に一致したから。
  同一犯よ。
♡)…っ
 
 
だって…
岩ちゃんとのことをSNSに載せたのは
橘さんだよ…?
 
じゃあ今回のこれも、橘さんってこと?
 
 
猿)どうする?
  もっと裏技使えば個人特定できるけど
  やっちゃう?
M)えっ…
K)猿田さん…何者…、
猿)だてに情報管理してないわよ。
♡)えっと…、大丈夫です…、、
  同じ人だってわかっただけで…十分です。
猿)あらそう。
  じゃあまた何か困ったことがあったら
  言ってちょうだい。
  こっちも新しい動きがあれば報告するわ。
♡)はい、ありがとうございます…。
M)よろしくお願いします、猿田さん!
 
 
どうしよう、胸がザワザワする。
 
 
K)すげぇなあの人、
  ただの嫌味なおばさんじゃなかったんか。
M)味方につけたら頼もしいですよね。
  それにしても、また…!
♡)…っ
K)なんでその女が
  あんたとハルくんの幼少期の写真まで
  持ってんの?
M)どこで手に入れたんですかね…。
♡)あ、でも…これ、
K)ん?
♡)全部卒業アルバムの写真だ…。
海)じゃあ…、どこかで卒業アルバムを
  手に入れたんですかね…。
  それもなんかすごく怖いけど…、
M)ハルキさんがアメリカに引っ越したとか
  大人になってから
  運命的な再会を果たしたとか…
  誰に聞いたんだろ…。
K)その相手から卒アルももらった、とか…?
♡)…っ
 
 
誰なの…?
怖いよ…っ
 
 
橘さん…
病院で診断受けてる途中だと思ってたのに
こんなことするなんて…
 
 
M)でも安心してください、先輩。
♡)え?
M)今ざっとエゴサしてみましたけど
  山下さんと岩田さんの件は
  もう誰も信じてないですよ。
  否定コメントのおかげかな。
♡)ほんと?
M)はい!
  でもハルキさんの方は
  みんな信じちゃってるみたいで…
  ハルキさんが先輩の本当の彼氏だと
  思ってるみたいです。
♡)…っ
M)運命みたい、お似合い、すごい、
  って…めちゃくちゃ祝福されてます…。
K)なんてこった。
海)♡さん…っ
♡)…っ
 
 
どうしよう、
ハルくんに迷惑がかかっちゃうよ…っ
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
S)臣、やっぱり橘だった…!
臣)え…っ
隆)どうやってわかったの!?
S)サイバー系に強い人間に調べてもらった。
臣)え、誰それ…
  そんな人いんの?
S)何人かいるよ、うちの会社。
隆)そうなんだ!
S)この記事の出どころ辿って調べたら
  ビンゴ、橘だった!
臣)あいつ…っ
 
 
やっぱりかよ。
なんのためにこんな記事…!
 
そんなに♡が憎いのかよ…!!
 
 
S)でさ、この件と前回のも合わせて
  HIROさんが臣と話したいって、この後。
臣)この後?
S)うん。打ち合わせ終わったら
  奥の部屋で、いい?
臣)わかった。
 
 
それから俺は午後の打ち合わせを終わらせて、
隆二と別れてHIROさんの元に向かった。
 
 
……コンコン。
 
 
臣)登坂です。
 
H)入って。
 
臣)失礼します。
 
 
中にはHIROさんだけだ。
 
 
H)座って。
臣)はい。
H)今日のことはSさんから全部聞いて
  部長にも伝えてある。
臣)…っ、はい。
H)で、橘のことなんだけど…
  精神科で診てもらってて
  妄想性障害か統合失調症の
  どちらかじゃないかって言われてる。
臣)妄想性…障害?
 
 
なんだそれ。
統合失調症も聞いたことはあるけど…
詳しくは知らない。
 
 
H)これがそれぞれの特徴と症状。
臣)…っ
 
 
俺は出された画面をスクロールしてみた。
確かにどっちも橘っぽい…。
 
 
H)で、診断がなかなか難しいらしくて
  今は投薬を始めながら
  様子を見てる段階だったんだ。
臣)はい。
H)会社としての処分は
  もちろん解雇なんだけど
  それは診断がおりてから
  伝えようかと思ってて。
臣)はい。
H)でも、自宅謹慎中の治療中に
  またこんなことしでかしたから…
  まぁ今回は♡ちゃんのことだけど、
  また何するかわかんないから
  困ったなぁ、と。
臣)はい…。
H)で、とりあえず部長には伝えて、
  部長は登坂に謝りたいって言ってて、
  この後、来ることになってる。
臣)えっ…、
 
 
謝りたい…って、あの部長が…!?
 
 
H)一人で来るよう頼んであるから
  橘は来ないよ、大丈夫。
臣)そう…ですか…。
 
 
別に今更謝られたところで…
 
 
コンコン。
 
 
H)ああ、来たかな。
臣)…っ
 
 
俺が振り返ると、そこには…
 
 
部)失礼します。
 
 
少し疲れたような顔をした部長と…、
 
 
橘)失礼します♡
 
 
ニッコリ笑う橘が立っていた。
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
♡)はぁ…。
 
 
ハルくんが心配でさっきLINEしてみたら
こっちは全然大丈夫だよって言ってた。
 
ハルくんがそう言ってるなら
今回はまだ否定コメントとか出さなくても
いいんじゃないかってMちゃんに言われて。
 
 
そうだよね…。
岩ちゃんとのことを否定したばっかりなのに
その二日後に今度は違う人との熱愛を否定とか
そんなのおかしいよね…。
 
 
……私、どれだけ橘さんに
振り回されてるんだろう…。
 
 
でも、絶対負けない!!!
 
 
♡)よぉぉぉぉし!!!
海)ど、どうしたんですか!?
♡)とりあえず帰ります!
  お先に失礼します!
海)お疲れさまです!
蒼)お疲れさまでーす。
 
 
今日は♧さんと約束があるから
私は定時で上がってタクシーに乗った。
 
前回全然出来なかった紙芝居の続きを
作るんだ。
 
 
♧)♡ちゃん、いらっしゃい♡
  ご飯できてるよー♡
♡)♧しゃん…っ
 
 
エプロン姿の♧さんが
癒しの笑顔で迎えてくれて、
なんだか無性に抱きつきたくなっちゃった。
 
 
♡)そうか…
  隆二くんはいつもこんな気持ちなのか。
 
 
だからいつも玄関でぎゅーするんだな?
 
 
♧)なんの話!?w
♡)♧さんの癒し度がすごいという話です。
♧)あははは、なぁにそれーw
  ♡ちゃん今日はスーツなんだね、
  カッコイイ!♡
♡)えへへへ♡
  はっ!洗面所お借りします!
  しっかり手洗いうがいさせてもらいます!
♧)はい、どうぞどうぞw
 
 
それからリビングに向かうと
美味しそうな匂いがして…
 
 
♡)わぁ!
 
 
なんかテーブルが可愛く
デコレーションされてる!
 
 
♧)ふふ、ちょっと可愛くしてみちゃった♡
♡)わぁ♡わぁ♡
 
 
こういうのいいな!
私も今度やってみようかな!
臣くんとご飯食べれる時とかに!
 
 
♧)前にもね、やったの。クリスマスの時。
  隆二くん喜んでたからw
  今日はなんでもないけど
  飾ってみちゃった♡
♡)素敵ですぅ…ううう…
  あ、これ!スイーツです!♡
♧)わぁ、ありがとう!食後に食べよう♡
♡)はいっ♡
 
 
それから私たちは
♧さんの美味しい手料理で
しっかり腹ごしらえをしてから
紙芝居作りに取り掛かった。
 
 
♡)今日はガンガン進めますね!
  頑張ります!!
  前回はポンコツですみませんでした!!
♧)あははは、いいんだよーw
  えっと…、仲直り?出来たのかな、
  臣くんと…、
♡)あ、はいっ!!
 
 
そうだ!
♧さんにはちゃんと報告しないと!
 
 
♡)実はあの後…、、
 
 
私は臣くんと仲直りした経緯を
♧さんに話した。
 
 
♡)心配かけてすみませんでした…。
♧)全然いいんだよー、そんなの!
  二人が仲直り出来て良かった!♡
♡)はいっ♡
♧)♡ちゃんはやっぱり笑顔が一番だもん!
  一番可愛い♡
♡)えっ…///
♧)笑顔が戻って良かった♡
♡)えへへ…ありがとうございます…///
 
 
ピンポーン。
 
 
♧)あ、◇ちゃんかな。
♡)えっ…
♧)今日ね、◇ちゃんも
  来ることになってたの!
  ちょっとパソコン見て欲しくって…
♡)そうだったんですか!?
 
 
スイーツ多めに買ってきて良かったー!
 
 
◇)お邪魔しまーす♡
♡)◇ちゃーーん♡
◇)♡ちゃんもいたーー♡
♧)飲み会、もう終わったのー?
◇)はい!二次会は行かなかったんで。
♧)え、私がお願いしたせいで?!
◇)いえ…カラオケは苦手なので…w
♡)……。
 
 
◇ちゃんってば…
一昨日Jさんがいた時は
喜んで参加してたのに…w
 
 
◇)あたしも色塗りなら出来るよー!
  手伝う!
♡)ほんとー?
♧)じゃあパソコンはあとでお願いしますw
◇)お任せあれー!
♧)じゃあスイーツもう出しちゃおっか♡
  食べながらやろー♡
♡)わーいっ!♡
◇)スイーツ?
♡)あ、大丈夫!
  ◇ちゃんが食べれそうなやつも
  ちゃんとあるよ!
  フルーツ多めクリーム少なめのやつー!
◇)やったー♡
 
 
それから私たちは3人で
ほっこりティータイムしながら
のんびりと紙芝居の作業を進めていった。
 
 
◇)ふふ、♡ちゃんが笑顔に戻って良かった♡
♡)えっ…
◇)やっぱり♡ちゃんは笑顔が一番だもん!
  一番可愛い♡
♡)……///
♧)ふふ、それね、さっき私も言ったの♡
◇)えっ!
♧)やっぱりみんな思うことは一緒だよね♡
◇)あはははw
  ですね♡
  だって♡ちゃんの笑顔って
  見てるだけでこっちまで
  元気になれるんだもん!
♧)うん!そうなの!
  それってすごいことだと思う!
◇)♡ちゃんはこの世の奇跡!天使だね!
♡)言い過ぎだよ…///
◇)そんなことない!
♧)そーだそーだーー!!
♡)////
 
 
でも…、そう言ってもらえるなら
私はいつも笑顔でいたいな…。
 
 
♡)あのね、もう大丈夫なの!
◇)ん?
♡)臣くんとちゃんとラブラブに戻れたからね
  今は何とでも戦えるよ!
  無敵なんだ、私!!
◇)おおっ!いいぞいいぞー!逞しい!
♡)臣くんがそばにいてくれたら
  なんでも頑張れる気がするから。
♧)うん、その気持ちわかるなー♡
◇)それが恋の力なのだ♡
♡)えへへ、うんっ♡
 
 
きっとみんな一緒だよね。
恋する力がパワーになる。
好きな人がいるから頑張れる。
 
 
◇)だってさ、あたし思ったんだ。
♡)ん?
◇)今回さ、三代目のファンの子らが
  会社の前で待ち伏せしてたじゃん?
♧)え、そうなの!?
♡)はい。
◇)でさ、岩ちゃんと別れろーとか
  岩ちゃんを返せーとか言ってたんでしょ?
♡)うん。
◇)それって…本当はあたしが
  浴びる言葉なんだろうなーって…。
♡)…っ
◇)もしいつか世間にバレる日が来たら
  あたしも同じことになるんだよなーって。
♡)うん…。
  私も…思ったんだ。
  今回は事実じゃないから否定できたけど…
  もしこれが臣くんだったら
  付き合ってません、なんて…言えない。
  嘘つくことになっちゃう…。
◇)うん…。
♡)もし相手が臣くんでも
  きっと同じようにファンの子達に
  出待ちされて…
  別れてとか消えてとか
  言われるんだろうなって…。
◇)うん…。
♧)そっか…、そうだよね。
  私も同じだ。
  隆二くんと付き合ってるってことは…
  いつそういうことになっても
  おかしくないってことだもんね…。
♡)はい…。
 
 
それは仕方のないことで…
私たちはみんな、そんなのわかってる。
 
覚悟の上なんだ。
 
 
♡)もしそうなっても…
  私はファンの人たちにごめんなさいって
  言いたくない。
◇)…っ
♡)だって…誰かにごめんなさいって
  思うような気持ちで
  臣くんを好きなわけじゃない…っ
◇)そうだよね…。
♡)臣くんを好きな気持ちは私の誇りだし
  誰よりも臣くんが大好きで
  何よりも大事って胸を張って言えるし…
♧)うん。
♡)臣くんが私の生きる意味だもん!!
◇)おおお…っ!
  そこまで言うたか!すごいぞ♡ちゃん!
♡)あれ…っ、◇ちゃんは…違うの?
♧)私はそうだよ!
  隆二くんと出逢うために
  今まで生きてきたんだって
  そう思ってるもん!!
  ……って、言葉にしたら
  なんか少し恥ずかしいけど…///
  でも…、本当に思ってるの。
  それくらい…隆二くんのこと、
  大好きだから///
♡)♧さん…っ
 
 
照れながらそう言った♧さんは
なんだかキラキラしてる。
 
 
◇)なんか…二人のピュアパワーに
  圧倒されてマス///
♡)◇ちゃんは…?
♧)岩ちゃんのこと、
  それくらい愛してるよね?
◇)////
 
 
あ、◇ちゃんが真っ赤になって
俯いちゃった…。
 
 
◇)愛して…、、、
♡)うん?
◇)愛して…、、、
♧)うん?
◇)…………る、///
♡)わーいっ!♡
♧)あははは、良かったーー♡
◇)なんだこの小っ恥ずかしい展開は///
♡)あはははっ♡
 
 
そうだよ、私たちはみんな、
それくらい本気で恋してるんだ。
 
だから何があったって、負けないもんっ!!
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
部長の後ろから入ってきた橘を支えるように
もう一人、女の人が立っていた。
 
 
H)え…っ、橘…!?
  どうして、部長…っ
臣)…っ
 
 
なんで橘を連れてきたんだ、と
言いたそうなHIROさんは
驚いたように部長を見上げた。
 
 
部)一緒に話をさせてもらいたくて。
  私の妹です。いいですか?
母)突然すみません。
H)わかりました、どうぞ。
臣)…っ
 
 
そっか、この人が橘のお母さんか。
 
 
母)この度はうちの娘が
  大変なご迷惑をおかけしましたこと
  本当に心からお詫び申し上げます。
臣)…っ
 
 
なんだよ。
お母さんはめっちゃマトモな人じゃん…。
 
 
H)お母さん、顔を上げてください。
橘)そうよ、どうしてお母さんが謝るの?w
 
 
え…っ
 
 
橘)お母さんにも会わせたかったの、
  登坂さん♡
  ね、素敵な人でしょう?♡
母)は…?
橘)こんな人と愛し合えて、
  私本当に幸せなの♡
母)だからそれはあなたの妄想でしょう!?
部)いい加減にしろ、もうやめるんだ。
橘)どうして…?
  みんな何言ってるの…?w
臣)…っ
橘)ね、登坂さん♡
  私に会えなくて寂しかったでしょう?
臣)は…?
橘)私はずーーーっと登坂さんのことばかり
  考えてたの♡
部)お前はさっきから何を言ってるんだ。
  お前も登坂に直接謝りたいと言うから
  一緒に連れてきたんだぞ?
橘)きゃはははっっ!!ww
  やーだおじさま、
  私が登坂さんに何を謝るの?!
  あははははっww
母)すみません、すみません…っ!
  もう連れて帰ります!
橘)離してよ!触らないで!!
臣)…っ
 
 
橘はすごい勢いで母親の手を振り払った。
 
 
橘)登坂さぁん♡
  いい加減、あの女と別れてくれましたぁ?
臣)…っ
橘)私がぜぇんぶ調べてあげたんですよ?
  幼馴染と浮気してること。
臣)……♡は…浮気なんかしてない。
  俺たちは別れない。
橘)まだそんなこと言ってんのかお前はぁぁ!
臣)…っ
 
 
いきなり声の調子が変わって
別人みたいになった橘に、
俺は思わず後ずさった。
 
 
橘)何回言えばわかるんだよ?
  お前は浮気されてるんだよ!
  裏切られてるんだよ、あの女に!
母)もうよしなさい!
橘)うるさい!黙れ!
H)橘!
橘)うるさいうるさいうるさぁぁいッッ!!
臣)…っ
 
 
この前と一緒だ。
やっぱり狂ってる。
 
 
橘)私のこと殺すんですもんね?
臣)は…?
 
 
またトーンが変わった…。
 
 
橘)私のこと、普通に殺せるんでしょ?w
  あの子に何かしたら。
  そう言ったじゃない。
臣)…っ
橘)殺してみなさいよ、ほら!!
部)もうやめろ!!
橘)早く殺しなさいよ私をぉぉぉおおお!!
母)もうやめて!!
臣)…っ
 
 
橘のお母さんは泣きながら橘を抱きしめた。
 
 
母)本当に申し訳ありません!
  連れて帰ります!
 
 
お母さんに無理やり連れられて
部屋を出て行こうとした橘は
最後まで俺に叫んでた。
 
 
橘)あの夜のこと、私一生忘れませんから!!
  あなたと愛し合ったあの時間、
  本当に幸せだったから…!!
 
 
……怖すぎて、鳥肌立ってるよ俺…。
 
 
バタン。
 
 
H)妹さんだけで大丈夫ですか?
部)はい、すみません。
 
 
二人が出て行くと、
部長は深く息を吐いて、俺の方を向いた。
 
 
部)本当にすまなかった、登坂。
臣)え…っ
部)あの子があんなに壊れていたなんて…
  全然気が付かなかったんだ…っ
臣)…っ
 
 
部長の大きな拳が…震えてる…。
 
 
部)あの子はもともと…
  前の会社で苛められていて…
  転職したいと悩んでいたんだ。
  だから私がここを紹介した。
臣)…っ
部)三代目が好きだと言っていたから
  ここで仕事をするうちに
  元気になるんじゃないかと思って…。
 
 
そうだったのか…、知らなかった…。
 
 
部)思っていた通り、あの子は
  本当に楽しそうに働いていた。
  だから私は安心していたんだ。
  それがまさか…こんなことになるなんて!
 
 
部長は両手でテーブルをダン!と叩いて
そこに額をつけた。
 
 
部)さっきは…おそらく登坂を前にして
  それがまた引き金になったんだろう…。
  あんな風じゃない時は
  もう少しまともに会話が出来るんだ…。
臣)……。
部)全部聞いた、あの子から。
  登坂のことが好きで、
  その気持ちが暴走して
  自分でも止められなかった、と…。
臣)……。
部)勝手に撮ったというあの写真も
  ちゃんと全て削除したから
  安心してくれ…。
臣)…ありがとう…ございます。
部)本当は何もなかったのに、
  登坂と関係を持ったと思い込みたかった、
  それくらい好きだった、と
  あの子は泣きながら言ってたんだ…。
臣)…っ
部)カウンセリング中は
  それくらい普通に話せてたんだ。
  でも…、
  たまにさっきみたいに別人のようになって
  暴れ出したりする。
臣)…っ
部)ああなると自分でも自分を止められなくて
  心が憎しみに支配されるらしい。
  それで今回の記事も書き上げた、と。
臣)…っ
部)登坂の彼女と幼馴染のことを調べ上げて
  同級生から情報と卒業アルバムを
  買い取ったと言っていた。
臣)え…っ
 
 
そこまで…!?
 
 
部)そこまでするのかと正直驚いたが…
  すべて、病気のせいなんだ…!
  許してくれ、すまん…!!
臣)…っ
 
 
気付けば強面の部長の目からは
涙がこぼれ落ちていて…
 
 
部)私はあの子を実の娘のように
  可愛がってきたんだ…。
  だからあの子の言うことを信じていた。
  信じてやりたかった…!
  それゆえに…、登坂や岩ちゃんに
  心無い言葉をぶつけてしまったこと、
  本当に反省している。
  すまなかった…!!
臣)…っ
 
 
部長は泣きながら俺に頭を下げた。
 
 
臣)もういいです、やめてください!
  顔を上げてください!
部)本当にすまなかった…!!
臣)わかりました!わかりましたから…!!
 
 
部長は涙を豪快に手のひらで拭いながら
俺を見た。
 
 
部)お前の彼女にも
  すまなかったと伝えてくれ…。
臣)はい…。
部)あの子は…実家に連れて帰る。
  実家は徳島なんだが…
  そこでゆっくり療養させることにするよ。
  さっき妹と話してそう決めたんだ。
臣)そう…なんですか…。
H)部長、もう大丈夫ですから…
  妹さんのところに行ってあげてください。
部)はい、わかりました。
  ありがとうございます。
  ……この度は本当に
  申し訳ありませんでした。
 
 
部長は最後にもう一度深く頭を下げて
部屋を出て行った。
 
 
臣)……。
 
 
なんか色々と圧倒されて、言葉が出てこない。
 
 
H)橘は…幼い頃に
  お父さんを亡くしてるらしくて…
  だから部長も尚更…
  自分が父親代わりのように
  可愛がって育ててきたんだそうだよ…。
臣)そう…なんですね…。
 
 
だから…あんな溺愛してたのか…。
 
 
亡くなった理由まではわからないけど…
同じように幼少期に父親を亡くしていて
それでも♡と橘は全然違う。
 
 
♡はあんなにいつも笑顔で
みんなから愛されてて…
 
でも橘は前の会社で苛められてて
今ではあんな病気になって…
 
 
二人の間にどんな差があるのかって言われたら
わからない。
 
わからないから…
橘を可哀想だなと思ってしまう。
 
 
H)橘がこれ以上何かをすることは
  もうこれでないと思うから…
  今までのことは
  不問にしてやってくれるか?
臣)……はい、わかりました…。
 
 
部長にあそこまで言われたら、
もうなんも言えない。
 
 
……病気、治るといいな…。
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
♡)ふぅ…。
 
 
今日はずっとスーツだったから
ちょっと疲れちゃった。
 
毎日着てる人ってすごいなぁ。
 
 
臣)ただいまー!
 
 
あっ!
臣くんが帰ってきた!
 
 
♡)……おかえりなさい。
 
 
私は洗面所からひょっこり顔だけ出した。
 
 
臣)ん?なんで顔だけ?w
♡)今、お風呂入るとこだったの。
臣)お!じゃあ俺も入るー!
♡)えっ、やだっ!///
臣)はぁ!?
 
 
あ、臣くんがふくれちゃった…。
 
 
ガラガラ!
 
 
♡)きゃぁっ!///
臣)あ、脱ぎかけだ…///
♡)なんでいきなり開けるの!!
臣)俺も入るもん。
♡)やだって言ったでしょ!///
臣)つーか…脱ぎかけもエロいな、それ…///
♡)は…っ!
 
 
そういえば…
今朝は…ここで…、、///
 
 
♡)出てってーー!///
 
 
また襲われちゃう!!
 
 
臣)俺も入るんだっつーの!
  一緒に入りたいのっ!!
♡)…っ
臣)言っとくけどな、
  そんな恥ずかしがったって
  一昨日、散々酔っ払ったお前を
  洗ってやったのは俺なんだからな!
♡)えっ…
臣)ウォッカ飲んで帰ってきた時!
♡)はっ…!
臣)そん時、散々見ましたから、もう!
♡)ひどいっ!!///
臣)どこがひどいんだよ!
  優しいだろ!洗ってやったんだぞ!
♡)見た…の?///
臣)んなもんとっくに隅々見てるっつーの!
♡)やだぁっ!ばかっ!エッチ!!///
臣)はぁ!??
♡)きゃぁっ!やだっ!離してぇっ!///
臣)おとなしくしろ、こんにゃろ!!
♡)いやーんっ!!
 
 
………抵抗むなしく、
あっさり脱がされました。
 
 
臣)ほら、入るぞ。
♡)あっち向いててね!///
臣)はいはい…w
 
 
臣くんってば呆れてる。
でも恥ずかしいものは恥ずかしいんだもんっ!
 
 
それから私たちは交代で洗いっこして
背中を流し合って、
湯船に身を沈めた。
 
 
臣)ぷは〜〜〜っ、生き返るなぁ〜〜〜w
♡)出た、おじさん臣くん。
臣)なんだとw
  じゃあお前が見本を見せてみろ。
♡)ふぁぁ〜〜〜っ♡
  気持ちいいなぁ〜〜〜〜♡
臣)……可愛い。
  もうこのまま入浴剤のCM出来そう…。
♡)あはははっ、何それー!w
臣)俺の完敗だ。
♡)あはははw
 
 
そもそも何の勝負だったんだろうw
 
 
臣)……あのさ、橘のことなんだけど…、
♡)あっ!
 
 
そうだ、私も臣くんに話さなくっちゃ!
 
…って、思ったんだけど…、、
 
 
♡)えっ…、そう…だったの…?
 
 
臣くんが今日の出来事を全部、
私に話してくれた。
 
 
♡)部長…、、泣いてたんだ…。
臣)うん…俺もちょっとびっくりした。
♡)…っ
 
 
きっと…
本当に橘さんのことを愛してて
橘さんのことを信じてたんだよね…。
 
娘のように思ってたなら
仕方ないのかもしれない…。
 
 
臣)お前にもすまなかったって言ってたよ。
♡)うん…。
 
 
私も…言い過ぎちゃったかもしれない…。
橘さんや部長を「悪」って
決めつけてたし…。
 
 
♡)橘さん…良くなるといいね…。
臣)……お前ならそう言うと思ったw
♡)え…?
臣)いや、結構ひどいことされてるっていうか
  一番被害に遭ってんのお前じゃん?
♡)そうかな!?
臣)うん。
♡)でも…、そんな話聞いちゃったら
  可哀想だなって思うし…。
  臣くんは?どう思ったの?
臣)病気…早く治るといいなって。
♡)ほらー!
臣)はははw
 
 
臣くんは笑いながら
私の頭をなでなでした。
 
 
臣)だって…どっからどこまでが
  病気のせいだったのかわかんないしさ。
♡)うん。
臣)本当に三代目が好きで
  楽しく働けた時間が少しでもあるなら
  憎むべきはやっぱり
  それを奪った病気なのかな、って。
♡)うん、私もそう思う…。
 
 
だって…
一番最初に会った時の橘さんは
あんなんじゃなかった。
 
同い年だし仲良くなりたいなって
そう思ったんだもん…。
 
 
臣)でもさ、環境が人を創る…じゃないけど…
  ほんと育った環境っていうか…
  周りの環境って…
  人格形成に大きく関わるよな。
♡)うんっ、そう思う。
臣)お前は早くにレイジさん亡くしてるのに…
  こんな素直でいい子に育って。
♡)だって…私にはママも瞬もいたもん!
  ハルくんもお父さんも!
 
 
もしも一人だったら、
絶対に耐えられなかった。
 
心が壊れちゃってたと思う…。
 
 
♡)周りの人たちのおかげだよ、
  今の私があるのは。
臣)…っ
♡)いつもそう思うんだ。いつも感謝してる。
臣)……お前は…さ、
  そういう感謝の気持ちを
  いつも忘れないでいるから
  こんなに周りに愛されるんだろな。
♡)え?
臣)家族もそうだし、
  友達も、職場の人も、みんな。
  あ、もちろん俺もねw
♡)…っ
臣)お前みたいに愛に満ちた子って
  そんなにいないよ?
♡)そうなの?
臣)うん。
  人を疑ったり騙されたり裏切られたり
  生きてる限りそういう経験って
  絶対あると思うけど…
  なんかお前って
  そーゆー闇がないんだもん。
  いつもペカーッてしてる。
♡)ペカーッ!?
臣)そう。太陽みたいにペカーッてw
 
 
そう…なのかな?
 
 
臣)だから人を惹きつけるし
  眩しいんだろうな。
♡)私には臣くんも眩しいよ…?
臣)俺ぇ?!w
♡)うん!私にとっては臣くんが太陽だもん!
臣)お前はいつもそう言ってくれるけど…
  俺なんてほんとダメダメ彼氏だよ…?w
♡)そんなことないっ!!
 
 
私は振り返って
臣くんにぎゅむっと抱きついた。
 
 
♡)私には世界一の彼氏なの!!
  いつも言ってるでしょ!!
 
 
こんなに大好きなんだから。
こんなに大切なんだから。
 
 
臣)うん、ありがと…♡
♡)うんっ…♡
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
俺に抱きついてきた♡は
ほっぺが赤くなってて、なんだか可愛い。
 
 
臣)暑い?のぼせた?w
♡)ううん、まだ大丈夫だよ♡
臣)そっかw
 
 
♡はまた後ろ向きになって
俺の膝の間にすっぽりおさまった。
 
 
臣)なんか今日は色んなことありすぎて
  疲れた…w
  お前がエッチな下着着て可愛かったのが
  すげぇ前のことみたいw
♡)えっ
臣)つい昨日のことなのに。
♡)それは…忘れても良いのですよ?///
臣)忘れるわけねぇじゃん、
  可愛すぎて死んだもん。
♡)////
 
 
あ、照れてる。
 
 
♡)あれね、みんなで買いに行ったの…///
臣)みんなで!?
  そうだったの?!
  みんなっていつものサマンサ女子?
♡)ううん、会社のみんな。
  KちゃんとMちゃんと海璃ちゃん。
臣)ほ〜〜〜おw
 
 
きっとMちゃんが先陣切って
買いに行ったんだろな…w
 
 
臣)Kも買ったの?
  あいつ結婚するまで出来ないんでしょ?
♡)うん、それなのにね、
  買ったやつ着てビデオ通話したんだって、
  ポールと。
臣)どえええ!??
 
 
何それ…生殺しじゃん…
 
 
臣)てか海璃ちゃんがエッチな下着なんて
  着るの?
  あんなピュアピュアな初心者なのに?
♡)うん!
  海璃ちゃんね、普段は
  白とかピンクばっかりらしいんだけど、
  なんと!黒買ったんだよ!
臣)おおおお!!
 
 
それはすげぇイメチェンだな。
Tのヤツ…さぞ喜んだこったろー。
 
 
♡)私も違う色と迷ったんだけど…
  二つとも白にしちゃったんだ///
臣)二つ!?
♡)はっ…!
臣)二つ買ったの!?
♡)…っ
 
 
♡はしまった、言っちゃった、
みたいな顔してる。
 
 
臣)え、じゃあ今日はもう一つの方を
  着てくれる…とか?///
 
 
どうしよう、
想像したら興奮してきた。
 
 
♡)着ないよ!///
臣)なんで!折角買ったのに!!
 
 
もう一つはどんなやつなんだろ…
可愛いのかな…エロいのかな…
うううう…たまらん///
 
 
♡)とっておきの時にしか着ません!///
臣)えーーー!なんで!ケチ!着てよ!
♡)着ません!///
臣)くぅぅ〜〜〜〜
 
 
とっておきの時って何だよぉ〜〜
 
……あ、そっか。
今回は仲直りHだったから…?
 
じゃあ次回のとっておきはいつだ…?
 
 
臣)あっ!!
♡)ん?
臣)そっかそっか、俺の誕生日に
  着てくれるつもりだったか♡
♡)えっ…///
臣)あーあ、楽しみだなぁ〜〜〜♡
♡)////
 
 
ふっふっふ、誕生日だったら
さすがに断れまい。
 
 
臣)ほんと可愛いなぁ…。
♡)え?
臣)いや、昨日も言ったけどさ?
  その気持ちが嬉しいなぁって…。
♡)気持ち?
臣)うん。お前なんて特に恥ずかしがりなのに
  俺のために自分で選んで
  買ってきてくれた、ってのが。
  嬉しい。感動。
♡)そ…っか///
臣)よし、じゃあそろそろ上がって
  Hしよっか♡
♡)えっ!なんで?!///
  今日は着ないってば!
臣)別にいいよ、着なくたって。
♡)え…っ
臣)着てたら可愛いし興奮するけど…
  別に俺、下着が好きなわけじゃないし。
  好きなのはその中身だし。
♡)中…身…?///
臣)そ、中身♡
♡)////
 
 
俺は♡の肩先にそっと口付けた。
 
 
臣)布なんかなんでもいい。
  なくたっていい。
  
 
俺はこの身体を抱けるなら
なんだっていいんだ。
 
 
臣)♡が好き。
  ♡を抱きたい。
♡)////
 
 
♡はゆっくりと俺を振り返って、
柔らかい唇で小さくキスをくれた。
 
 
臣)ここでする?ベッドがいい?
♡)……どっちでも…
  臣くんの好きな方でいいよ?///
臣)ん、///
 
 
お前が言ってた通り…
ちゃんとお前と愛し合ってたら、
何があっても平気な気がする。
 
戦える気がする。
 
 
だから俺たちはこれからも
何度だって愛し合おう。
 
 
こんな風に、想いを重ねて…
身体を合わせて。
 
 
 
 
 
 
 
ーendー

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  1. ひな より:

    橘さんやっと落ち着いてくれてよかった!!ラブラブはやっぱり幸せですね♡

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