〈30〉まさかの相手役

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臣)♡、もう別れよっか。
♡)えっ…
 
 
どう…して…?
 
何言ってるの…?
 
 
臣)お前さー、すぐ泣くから
  面倒臭ぇんだもん。
♡)…っ
臣)俺が女大好きなのなんて
  仕方ないじゃん?
♡)…っ
臣)お前と別れたら、俺また自由だし。
  気楽に遊べてその方がいいよw
♡)…っ
 
 
口が、開かない…。
 
何も、喋れない…。
 
 
臣)Shizukaちゃんならお前と違って
  上に乗るのも上手だしw
♡)…っ
臣)セフレなんていくらでもいるから。
♡)…っ
 
 
身体が…固まって、動けない。
すごく…冷たくて…。
 
 
岩)だってE-girlsなんてヤリ放題だしね?w
臣)そうそう、あいつらヤリ放題w
岩)とっくに全員食ったよw
臣)あはははw
 
 
私…なんで泣いてるの…?
……わからない。
 
悲しいのか、悔しいのか、
腹が立つのか、何なのか。
 
 
……ただ、胸が苦しいの。
 
 
♡)はぁっ、はぁ…、っ
 
 
目を覚ますと、2匹のにゃんこが重なって
顔の上にいた。
 
……これで苦しかったのかな…?
 
 
♡)はぁ……。
 
 
嫌な夢、見ちゃった…。
 
 
濡れてる目元を拭って、
ゆっくり起き上がる。
 
 
カーテンを開けたら、空は灰色で。
外は雨がしとしと降ってるみたい。
 
明るい太陽と青空を見て
せめて元気になりたかったのに…
こんな日に限って、雨かぁ…。
 
 
♡)はぁ……。
 
 
臣くんは…まだ寝てるよね。
 
……どうしよう、朝ご飯…。
 
 
臣くんと一緒に食べるような気分じゃないけど
自分のだけ作って自分だけ食べてたら
それもなんか、あれだよね…。
 
 
じゃあ臣くんの分はラップして
テーブルに置いておくとか…?
 
それもなんかやな感じだよね…?
 
どうしよう。
 
 
……もうこうなったら、私も食べない!
どこかで買ってく!
 
もう早く家を出たい。
 
 
私は急いで着替えて顔を洗って、
臣くんから逃げるように家を飛び出した。
 
 
♡)はぁ……。
 
 
暗い雨空みたいに…気持ちが重たい。
 
嫌だな…。
 
 
それから私は近くのカフェで
オレンジジュースとサラダを頼んで
ぼんやりしながら口を動かして…
ぼんやりしながら暗い空を見上げて…
 
また一つ、ため息をついた。
 
 
そういえば旅行も迫ってるんだ…。
どうしよう…。
 
荷造りだってそろそろしなくちゃ…。
 
 
♡)はぁ……。
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
臣)はぁ……。
 
 
大して眠れなくて
ベッドの中、ごろんと寝返りを打った。
 
 
やっぱり、謝ろうかな。
こんなモヤモヤした時間が続く方が
耐えられない。
 
 
臣)……よし。
 
 
小さく拳を握って、寝室を出たら…
 
 
臣)!!!
 
 
♡がもういないんですけど!!
 
え、なんで?!
いつの間に!?
 
 
臣)…っ
 
 
慌てて家中探したけど、
やっぱりどこにもいない。
 
いつ起きたんだ?
物音なんてしなかったのに!
 
 
仕事に行くにはまだ早すぎる時間…。
 
まさか…、本当にまた家出した!?
 
 
臣)…っ
 
 
♡、ごめん!
 
 
悪いとは思いつつ、
ドアが開いてた♡の部屋に入って
クローゼットを開けた。
 
 
……ほっ、良かった。
キャリーケースはここにある。
 
 
……ん?ちょっと待てよ?
キャリーケースがあるからって
家出してないとは限らないか…!
 
違うバッグに荷物詰めたのかもしんないし!
 
 
臣)…っ
 
 
どうしよう。
 
やっぱり昨日、先に謝るべきだったのかも。
 
ビビって放置したのが間違いだったんだ。
 
土下座でもなんでもすれば良かった。
 
どうしよう!
 
 
……いや、落ち着け。
落ち着け、俺。
 
まだ家出したとは限らない、うん。
 
 
……でも、本当に家出だったらどうしよう。
 
 
臣)はぁぁ……。
 
 
俺はその場に情けなく座り込んで…
仕方なく携帯を手に取った。
 
 
『♡が無事に現場入りしたら教えてください。
 ごめんね🙏』
 
 
カッコ悪いけど、MちゃんにLINEを送ったら
すぐに返事が来た。
 
 
M『どうしたんですか?』
臣『起きたらもういなかったから
  なんか心配で。』
M『随分早いですね😳了解です!
  昨日はあの後、話せたんですか?』
臣『一言も。』
M『そうですか、了解です💦』
 
 
はぁ…、ほんと情けない。
 
 
♡は怒ってるのかな。呆れてるのかな。
それすらわかんないから、余計不安になる。
 
 
やっぱり今日ちゃんと話そう。
 
ちゃんと帰って来てくれたら、もう逃げない。
謝るんだ。
 
 
だからどうか…
家出じゃありませんように…。
 
うちに帰って来てくれますように…。
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
♡)おはよう。
M)おはようございます。
 
 
ビルの前でMちゃんと合流したら、
Mちゃんは私を上から下までマジマジと見た。
 
 
♡)なぁに…?
M)いえ、なんでも。
  ……昨日、あの後大丈夫でしたか?
♡)あ、…お見送り出来なくて…ごめんね?
M)それは全然いいんですけど…
♡)大丈夫!
  今日は撮影頑張るねっ!!
M)…っ
 
 
私は自分の両頬を叩いて、気合いを入れた。
 
 
♡)おはようございます!!
 
 
スタジオに入ると、
アキさんがすぐに気付いて
こっちに来てくれた。
 
 
ア)♡ちゃん、おはよう。
♡)おはようございます!
ア)今日はよろしくね♡
♡)はい!よろしくお願いします!
ア)早速メイクして着替えちゃってねー。
♡)はいっ!
 
ハ)えええ!?
男)お願いします、社長!
男)驚かせてすみません!!
 
 
ん…?
 
 
ハルくんの声がした方を振り返ったら…
 
スーツの人たちに頭を下げられて
ハルくんがなんだか困ってるみたい。
 
 
ア)くすくす…w
♡)え?
 
 
アキさんは笑ってる。
 
 
ハ)無茶だよ、いきなりそんな…
男)大丈夫です、社長なら!
ア)引き受けてあげてよ、ハルw
ハ)アキ…!
ア)驚かせてごめんね?
  でもこうしようって
  実は全員一致で決めてたのw
ハ)えええ!?
♡)…っ
 
 
どうしたのかな?
 
 
ア)CMの主役は、ハルにやってほしいって。
♡)えええっ!!
 
 
驚いて、つい私も声を出しちゃった。
 
 
男)CMコンセプトもイメージも
  社長にピッタリなんです!
男)爽やかで清潔感があって、
  好印象で笑顔があたたかい人!
  探しても社長以上の人はいませんでした!
男)♡さんと同じくらい
  このCMのイメージに合うのは
  社長しかいないんです!
男)お願いします!やってください!
♡)…っ
 
 
それって…
 
私の相手役が、ハルくんって…こと?
 
 
ハ)アキ…、なんで言ってくれなかったの。
ア)だって。言ったら断るでしょ?絶対w
ハ)…っ
ア)ほら、ハルも早く着替えて来てよ。
  衣装は全部ハルにぴったりなはずだからw
ハ)……はぁ、もう。
 
 
ハルくんは困りながらも
降参って顔で笑って…
 
その笑顔を見て、社員さんたちはみんな
嬉しそうに笑ってる。
 
 
ハ)……というわけで、♡。
  なんか急遽、俺が相手になっちゃったけど
  ごめんね?
♡)…っ
ハ)よろしくね?
♡)う、うんっ!
 
 
いきなりすぎて私もびっくりしてるけど…
しっかり頑張らなくっちゃ!!
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
M『先輩、無事に到着しました。
  家出っぽい荷物は持ってないので
  大丈夫だと思いますよ!
  また何かあればご報告します!』
臣『ありがとう。
  ほんとごめんね🙏』
M『いえ!
  登坂さんもお仕事頑張って下さいね😃』
 
 
Mちゃんからの返事で
とりあえずはほっとしたけど…
 
家出じゃないにしろ、
俺を無視して出かけて行ったことには
変わりなくて。
 
 
臣)はぁ……。
 
 
凹む…。
 
 
リ)顔色悪いっすね、登坂さん。
臣)あ、ごめん。
リ)化粧ノリも悪いっす。
臣)ごめんなさい。
リ)大丈夫ですけど…寝てないんすか?
臣)……ハイ。
 
 
今日のヘアメイクはリンちゃん。
最近一人立ちしたみたい。
 
 
ヨ)登坂さん、衣装置いておきますね。
  ……あ、……大丈夫ですか?
  体調悪いです?
リ)寝てないらしいよ。
ヨ)え、大丈夫ですか!?
臣)うん、ごめん。
 
 
ヨッシーにまで心配されちゃった。
 
 
リ)彼女にフラれたんすか?
臣)え!ちょ!縁起でもない!やめてよ!
ヨ)だって登坂さん、
  彼女とすごく仲良しなんですよね?
  ラブラブだって噂よく耳にしますし…
  別れるなんて絶対ないですよーw
リ)「絶対」なんて恋愛において
  ありえないよー。
  別れは突然やってくるものなり。
ヨ)ええっ…
臣)…っ
 
 
リンちゃんのその言葉が…
今はグッサリ突き刺さります…。
 
 
橘)登坂さん、栄養ドリンク買って来ました!
  飲みますか?
臣)……ああ、うん。飲んどこうかな。
 
 
しかもこんな日に限って
送迎と現場付き添いが橘っていう、
最悪なやーつ。
 
 
ス)登坂さん入られまーす!
臣)よろしくお願いします。
ス)先にこちらで対談インタビューの方から
  よろしいでしょうか?
臣)あ、はい。
ス)Rさん入られまーす!
R)おはようございます。
  よろしくお願いします。
 
 
Rは周りに挨拶を済ませて
俺を見つけると、ぎこちなく笑った。
 
 
臣)おはよ。
R)おはようございます。
臣)何その顔。
R)え。……緊張…?してて…。
臣)はぁ?お前がぁ?
R)何よその言い方!///
臣)そもそも緊張しなくて済むからって
  俺選んだんだろうが。
R)そうだけどっ!
臣)ほら、行くぞ。
R)…っ///
 
 
俺たちはそのまま別室に移動した。
 
 
女)今日はどうぞよろしくお願いします。
  事前にお伝えしていたような内容を
  お伺いしていきたいと思います。
R)はい。
臣)よろしくお願いします。
 
 
…って、こいつまだ緊張してんじゃん。
 
 
臣)顔。
R)えっ…
臣)引きつってるっつーの。
R)いちゃい!
臣)……ぷっ!w
R)何すんのよ!///
 
 
俺にほっぺたをつねられたRは
めちゃくちゃまぬけな顔で俺を見た。
 
 
臣)変な顔…w
R)登坂さんがつねるからでしょ!///
臣)あはははw
 
 
……あれ。
なんか変なの。
 
久しぶりに笑ったような感覚。
 
固まってた頬の筋肉が少し緩んだ気がした。
 
 
臣)いてぇ…。
R)ぷっww
臣)何してんだコラ。
R)しかえし!w
臣)俺は別に引きつってねーんだよ!
R)あはははw
女)くすくすw
  お二人とも仲がよろしいんですねw
臣R)は?全然っ!!
女)あははは、息もぴったりw
 
 
インタビュアーの女性はおかしそうに
くすくす笑ってる。
 
 
臣)ほんと生意気なんですよ、こいつ。
R)はぁ!?
女)ちなみにお二人の第一印象は?
臣)えーー、なんだっけ。
  最悪だったのは覚えてんだけど。
R)ちょっと!!
臣)まだブリッコしてる時だったし。
  変な女ーって。
R)失礼しちゃう!!
女)ちなみにRさんの方は?w
R)あたし…?
  あたしは…、、
  なんかチャラい男!って。
臣)はぁ!?ふざけんなよお前コラ!
R)何よ!
臣)俺のどこがチャラいんだよ!
  硬派だろうが!
R)硬派な人は自分で硬派とか
  言わないんですーー!
女)あはははw
 
 
こんな予定じゃなかったのに
気付けばお互い、素で話してて。
 
「兄妹みたいな雰囲気ですね」
なんて、笑われた。
 
 
臣)ほんとクソ生意気な妹みたいな感じ。
女)でもなんだかんだ言って、可愛い…
  みたいな?w
臣)可愛くない、全然!
女)Rさんは?
  こんなお兄ちゃんいたらいいな、
  みたいな?
R)全然!絶対いらない!
女)やっぱり息ぴったりですね、お二人共!w
 
 
インタビュアーも周りのスタッフも
みんな笑ってる。
 
てゆーかこのままじゃろくな記事にならない。
まともな会話もしないと。
 
 
女)ではお二人の恋愛観について
  お聞きしてもよろしいですか?
  好きな異性のタイプは?
R)…っ、///
臣)んー、なんだろ…。
  って何お前ちょっと照れてんの。
R)別に照れてないし!///
臣)お先にどうぞ?
R)そっちがどうぞ。
臣)えーー。
  笑顔が素敵な人。
R)何それ、曖昧。
  笑ったら誰だって素敵になるでしょ。
臣)そうだけど…
  太陽みたいな明るい笑顔。
  笑ったらそこに花が咲いて
  春が来るみたいな…
  そんな笑顔が素敵な子がいいです。
女)なんだか具体的ですね…w
臣)えっ…///
R)何照れてんの。
臣)別に照れてないし!///
R)そんなこと言いながら
  趣味悪そうだもん、登坂さん。
臣)はぁ?!悪くねーし!!
R)見る目なさそ〜〜〜〜
臣)ある!大いにある!!
  俺の目に狂いはない!
  つーかお前こそどうなんだよ!
  男見る目なさそーー。
  変なのにつかまりそーー。
R)ちょっと!何それ!ひどい!
  男見る目あるもん!大いにあるもん!
臣)ふーーん?w
R)何その顔!ムカつく!
臣)いってぇ!暴力反対!!
女)あはははw
 
 
こんなアホみたいなやりとり、
記事にされたら困るんですけど。
 
 
臣)さ、真面目に答えよ。
女)ありがとうございますw
  では…、恋愛している時は
  マメなタイプですか?
臣)んーー、、
  すげぇマメだと思う、俺。彼女には。
  普段は適当なんだけど
  彼女にはすごくマメなタイプですw
女)へぇ!
臣)彼女のためならなんでもしてあげたいし…
  でもそれは無理して、とかじゃなくて
  すごく自然なことで。
  それが自分の幸せ、みたいな。
女)すごく尽くすタイプなんですね、
  登坂さん!
臣)ええと…、そう、かもしれないです///
R)好感度上げようとしちゃって…。
臣)そんなんじゃねーし!w
  お前はどうなんだよ!w
R)あたし…は…、
  わかんない。相手によるかも。
  でも…好きだったら…
  相手が望むことは、なんでも
  してあげたいと思うかも…。
臣)ほんとかよ…w
R)はぁ!?
臣)お前こそ今、好感度意識したろw
R)してないし!///
女)あはははw
 
 
ああ、思ってたより楽しいな。
 
俺もR相手だと気を遣わなくていいし。
ラクだわ。
 
 
……って思ってたら
なんか橘がすげぇ顔で見てるんですけど!?
 
こわっ…!!
 
 
臣)…っ
 
 
あいつ…
三代目担当熱望なのはわかったけど
俺からは外れてくんねぇかな…。
 
俺はSさんがいい!
Sさんを熱望する!!
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
  
♡)////
ハ)////
 
 
私たちは今、
お互いに制服姿で固まっています。
 
 
♡)ハルくん、高校生みたい…
ハ)うん、///
 
 
ブレザーを着てるハルくんはとっても新鮮。
 
 
ハ)♡も…、女子高生みたい。
♡)……うん、///
 
 
胸元のリボンが、若々しくて
なんだかとっても恥ずかしいです。
 
 
男)お二人ともお似合いです!
男)本当の高校生カップルみたいです!
ハ)それ褒めてんの?!w
ア)あはははw
♡)……///
 
 
今回のCMは…
高校時代から付き合ってたカップルが
大人になって、結婚して、子供が出来て。
 
新しい家族で新しいマイホームで
幸せに暮らす、っていう
人生の流れに沿ったストーリーみたいで…
 
 
だから最初は、高校生の二人が
手を繋いで登下校するシーンから。
 
 
監)では。
  付き合いたての初々しさを出しながら
  二人で手を繋いで、この桜並木を
  真っ直ぐ歩いてきてください。
♡ハ)……はい///
 
 
なんだか少し照れ臭いな…
って思って隣のハルくんを見上げたら…
 
 
ハ)あーー、……ほんとにごめんね、
  いきなり相手が俺になって…///
 
 
ハルくんも照れ臭そうに
眉間をコシコシしてる。
 
 
♡)ううん、ハルくんで良かった!
ハ)え?
♡)だって知らない人と手繋ぐより
  ハルくんとの方がいいもんっ!
ハ)…っ、そ…、そっか…、///
♡)うんっ!
 
 
私が片手を差し出したら、
ハルくんは優しく笑って
その手を握ってくれた。
 
 
♡)…っ
 
 
その瞬間、胸がトクンって…音を立てた。
 
 
♡)あ…れ…、///
ハ)ん…?
♡)やっぱり…少し、恥ずかしい…ね///
ハ)……うんw
 
 
ハルくんは「でしょ?」って顔で
また優しく笑った。
 
 
♡)……///
 
 
繋いでる手と手が、あったかい。
 
 
M)あ、じゃあ今、宣材用の写真
  一枚撮っちゃってもいいですかぁ?
♡)えっ!
M)情報解禁までネタバレ出来ないから、
  出すなら高校生時代の写真が
  一番いいかなーって思って♡
♡)あ、うんっ!
M)手の繋ぎ方、ちゃんとカップル繋ぎに
  してもらっていいですかぁー?
ハ)えっ、……あ、えっと…、///
 
 
Mちゃんにそう言われて、
私たちはもじもじと手を繋ぎ直した。
 
 
ハ)////
♡)////
 
 
なんか…、ドキドキ…する。
 
 
M)可愛い!こんな高校生カップルいたら
  美男美女すぎるーw
  はい、OKでーす♡
ア)うちの会社のSNSにも
  宣材載せようかしら。
M)あ、いいですね!
ア)じゃあもう一枚撮ってもいーい?
  二人ともこっち見てーー♪
♡)…っ
 
 
アキさんにそう言われて、ハッとした。
 
アキさんは…嫌じゃないのかな?
ハルくんが他の人と手を繋いでること。
 
 
ア)うん、本当に可愛いカップルw
  お似合いよーーー♡
 
 
あれ…?
全然そんな感じじゃなさそう…。
 
でも…
アキさんは大人だから
表に出さないだけで…
 
 
ア)この後の撮影も本当に楽しみ♡
  早く♡ちゃんのドレス姿見たいわ♪
♡)!!!
 
 
そっか、そうだ。
相手がハルくんってことは…
結婚式のシーンもハルくんとやるんだ…!
 
 
♡)…っ
ハ)ん?どうしたの…?
 
 
ハルくんの顔を覗いたら、
ハルくんは優しく笑って私を見た。
 
 
♡)結婚式のシーンとか…
  アキさん、嫌じゃないのかな…?
ハ)だって見てよ、あんなノリノリだよw
♡)…っ
ハ)アキだってみんなと一緒に
  このサプライズ、共犯してたんだから…
  ♡は気にしなくていいよ、大丈夫。
♡)…っ
ハ)ほら、笑って。
 
 
そう言ってくれたハルくんの顔が
すごく優しくて…
 
 
♡)うんっ♡♡
 
 
私も自然と笑顔になれた。
 
 
監)じゃあ自然に会話しながら
  歩いてきてください。
 
 
監督の声がかかって、
私たちはスクールバッグを肩からかけた。
 
高校生のカップルの自然な会話って
なんだろう…。
 
 
監)いきます、3、2、……
 
 
♡)もうすぐ学校祭だね♡
ハ)うん、そうだね。
♡)えへへ、楽しみ♡
ハ)一緒に回ろうね、当日。
♡)うんっ♡♡
 
 
なんだろう、本当にハルくんが彼氏みたい…。
 
 
♡)美味しいものいっぱい食べたいなー♡
ハ)何が楽しみ?
♡)クレープ!あ、パフェも食べたい♡
ハ)あははは、いいよ、買ってあげる。
♡)じゃあたこ焼きと焼きそばもー!
ハ)はいはい♡
♡)えへへへ♡
 
 
もしも…
 
もしもハルくんがアメリカに行かなかったら…
 
本当にこんな放課後を
二人で過ごしていたのかな…。
 
 
♡)ハルくんも浴衣着るでしょ?
ハ)ええっ!俺も着るの?w
  女子だけでいいんじゃない?
♡)ダメだよー!せっかくの学祭だもん!
  ハルくんも着るのー!
ハ)うーん、わかったよw
♡)やったーー♡
  浴衣着てね、二人で回ろうねっ♡
ハ)そうだねw
 
 
こんな風に…笑い合ってたのかな…。
 
 
ハ)花火も一緒に見ようね。
♡)花火っ!!
ハ)♡、大好きでしょ?
♡)大好き!楽しみっ!
  絶対ハルくんと一緒に見る!!♡♡
ハ)うん、約束ね。
♡)…っ
 
 
こんな高校生活になるんだ、って…
子供の時は、信じてた。
 
いつもハルくんが隣にいてくれて…
毎日二人で笑ってるんだ、って…。
 
 
思い描いてた未来が
今、一瞬だけ…、ここで叶えられたみたい。
 
 
♡)ハルくん、大好き…。
ハ)俺も大好きだよ、♡…。
 
 
監)はい、カットーーー!!
  いいですね、すごく。
  無邪気な可愛らしさが出てて!
  彼氏の隣でニコニコ笑ってる彼女が
  すごく可愛いから…、
  話してる途中でほっぺにキスとか
  してみてもらってもいいかな?
♡)えっ!!
監)お願いしまーす。
  じゃあ2テイク目いきまーす!
♡)…っ
 
 
ほっぺに、キス…?
 
どうしよう。
いきなりそんなこと言われて
胸がドキドキしてる。
 
 
えっと…、えっと…、
ちゃんとなりきらなきゃ!
 
私は今、高校生で、ハルくんと付き合ってて…
大好きなハルくんと、
楽しい帰り道を二人で歩いてるの。
 
……うん、よし!!
 
 
監)いきます、3、2、……
 
 
♡)夏休みになったら
  どこか行きたいなぁ♡
ハ)どこがいい?
♡)ハルくんは?
ハ)♡が行きたいところに行こうよ。
♡)えーー、どこがいいかなぁ。
  ハルくんと一緒だったら
  どこでも絶対楽しいもんっ♡
ハ)俺も。♡とならどこでも楽しいよ。
♡)////
 
 
優しく笑うハルくんに
胸がキュンってする。
 
私の大好きな、彼氏。
 
 
♡)えへへへ♡
ハ)どうしたの?急にw
♡)ううん、なんでもなぁい♡
ハ)なんだよーーw
 
 
手はぎゅっと繋いだまま、
ハルくんにぴたっとくっついた。
 
 
♡)楽しみだなぁ、夏休み♡
ハ)宿題もあるけどねw
♡)それはね、ハルくんと一緒にやるのー♡
ハ)あはははw
♡)わからないところは
  ハルくんが教えてくれるんだー♡
ハ)はいはい、お任せくださいw
♡)あははは♡
 
 
大好き。大好き。
 
 
♡)ねぇハルくん、
ハ)ん?
 
 
私は小さく背伸びをした。
 
 
♡)ハルくん、大好き♡♡
 
 
チュッ♡
 
 
ハ)////
♡)えへへ///
 
 
監)はい、カットーーー!!
  すごくいいね!ありがとう!
 
 
監督の声がかかって、ハッとした。
 
 
♡)……。
 
 
そうだ、撮影中だったんだ。
 
 
♡)あ、ご、ごめんね、チューしちゃった///
ハ)いや、うん、…撮影だから///
♡)////
ハ)////
 
 
あれ?なんか…
上手く切り替えられない。
 
……こんなの…初めて…。
 
 
M)いつまで手繋いでるんですかぁ?
  もうカメラ回ってないですよー?
♡)はっ!///
ハ)あ、ほんとだ!ごめん!///
♡)ううん、ごめんね、///
ハ)////
 
 
私たちは慌てて手を離して、少し離れた。
 
 
M)先輩、大丈夫ですか…?
 
 
Mちゃんが私の顔をじーっと覗いてきた。
 
 
♡)な、何が?大丈夫だよ?え?
M)……。
♡)…っ
M)今日、なんか…
  いつもと違うから。
♡)…っ
 
 
やっぱり私、何か変なのかな!?
 
 
M)演技はすごく自然で良かったですよ?
  すごーーく、自然で。
♡)ほんと?良かった…。
ア)♡ちゃん。
♡)!!!
ア)じゃあ私はそろそろ会社戻るけど…
  この後も引き続きよろしくね♡
♡)あ、は、はいっ!
 
 
アキさんはニッコリ笑って
そのまま外に出て行った。
 
 
M)アキさんって…
  本当にハルキさんと
  付き合ってるんですか…
♡)えっ、うん。どうして?
M)やっぱり全然そんな感じがしないので。
♡)そうかな…?
  お似合いだと思うけど…
M)先輩とハルキさんのラブシーンも
  微笑みながら見てたし。
♡)…っ、それは…
  アキさんは大人だから
  仕事だって割り切ってるのかな、って…
M)そうかなぁ…。
 
 
もし私だったら嫌だなって
思っちゃうと思うけど…
アキさんは大人なんだもん…。
 
私も、最後までちゃんと頑張ろう…!!
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
長)なんか二人が兄妹みたいに
  仲がいいって聞いたんで、
  そんな感じで撮っていくからーw
臣)え!?
 
 
対談が終わった後は、写真撮影。
 
セットのソファーに
二人で並んで座ったら、
カメラマンの長谷川さんに
いきなりそんなことを言われた。
 
 
女)あの、先ほどの対談の時みたいな…
  ほっぺつねり合ってるのが
  すごく良かったので、
  もう一回やってもらえますか?
臣)ええ?w
女)登坂さんからお願いします。
臣)はーい。
 
 
そう言われたから隣を向いて
Rのほっぺたをつねろうとしたら…
 
 
R)////
 
 
ん?
なんかこいつ、顔赤くね?
 
 
臣)熱あんの?お前。大丈夫?
 
 
でこを触ってみたら、別に熱くはない。
 
 
R)ね、熱なんか、ないしっ!///
 
 
でも顔が赤いんだよなー。
今度は手の甲でほっぺたを触ってみた。
 
 
臣)やっぱ少し熱くない?
R)////
 
 
あ。なんか目もウルウルしてるし。
 
 
R)さ、触んないで!///
臣)はぁ?!
R)登坂さんが触るせいだもん!///
臣)なんでだよ!
  俺がうつしたっての?
  俺、熱なんかねーし!
R)……違うってば…、もう…ばか///
臣)は??
 
 
何言ってんだこいつ。
意味わからん。
 
 
長)じゃあどんどん撮ってくねー!
臣)はーい。
 
 
シャッターが切られ始めて
俺は言われた通り、
Rのほっぺたをつねった。
 
 
臣)ぶっ、やっぱり変な顔…w
R)ひどい!///
臣)ブースw
R)あたしブスじゃないもん!
  誰に向かって言ってんの!///
臣)すげぇ自信だな、オイw
 
 
生意気だから
今度は両方のほっぺを引っ張ってやった。
 
 
臣)みよーーーんw
R)////
臣)ぶはっw
R)////
臣)あれ?今度は怒んないの?
  すげぇブサイクだぞ、お前。
R)うるさい、バカッ!///
 
女)じゃあそろそろRさんも
  つねり返してください…!
 
R)えいっ!!
 
 
スタッフから声がかかったら、
待ってましたと言わんばかりに
俺のほっぺをつねってきやがった。
 
 
臣)いてーなこの!
R)えい!えい!
臣)おい、やりすぎだろ!w
 
 
立ち膝で前のめりに
俺のことつねってくるんですけど!
 
 
R)変な顔!
臣)この〜〜〜〜!
R)ていっ!!
 
 
俺もつねり返したら、
Rは今度は俺のでこを叩いてきた。
 
 
臣)新しい攻撃追加してくんなし!w
R)ふんっ!えいっ!
臣)こら!w
R)わっ!///
 
 
俺がRの手を掴んだら、
Rはそのままバランスを崩して
俺の方に倒れてきた。
 
 
臣)びっくりしたー、大丈夫か?w
R)////
臣)おい?
 
 
全然俺の上からどかないから
顔を覗いたら…
 
 
R)////
 
 
Rは俺に抱きついたまま、固まってる。
 
 
臣)どうした?打ち所悪かった?w
R)////
臣)おい、って。
 
 
俺がもう一度ほっぺをむにっとつねると
Rはやっとゆっくり起き上がった。
 
 
R)////
 
 
口を尖らせて、目を潤ませて、
俺をじーっと見てるけど…
 
この顔は、何の顔なんだ?
 
 
長)いいねいいね〜!
  じゃあ次行こうか〜〜
  次は登坂くんがソファーの後ろに回って
  後ろから話しかける感じで。
臣)はーい。
 
 
Rには洋書が渡されて…
それを俺は背もたれ側から覗き込んだ。
 
 
長)うんうん、じゃあ登坂くん、
  そのままRちゃんの頭に
  ポンと手を置いてみてーーー
  あ、そうそうそんな感じ!
  じゃあ撮りまーす。
 
 
カシャ!カシャ!
 
 
長)じゃあ今度はそのまま目を合わせてー
 
 
そう言われて、
俺はRの頭に置いてる手で
そのままRをグイッとこっちに向かせた。
 
 
R)…っ////
 
 
目を合わせるってこんな感じでいいのかな。
 
 
臣)……。
R)////
長)もう少し自然な感じでーー
  なんか普通に会話してーー
臣)……じゃあ。
 
 
ゴチッ
 
 
R)な、何すんのよ!///
臣)え、なんとなくw
R)石頭!!///
臣)はぁ?!
 
 
軽く頭突きしたらめっちゃ怒られた。
 
ぴーちくぱーちくうるさいRのでこを
そのまま人差し指で押し返したら
長谷川さんが笑いながら
そのままシャッターを切ってる音がした。
 
 
長)あ、ごめん、ちょっと待ってーー
  一旦休憩でーー。
臣)はーい。
 
 
その声で一旦Rと離れたら、
橘がすごい形相で走ってきた。
 
 
橘)お疲れ様です、どうぞ!
臣)ああ、さんきゅー。
 
 
渡された飲み物に口をつけたら
橘はなんか怖い顔でRを睨んでる。
 
 
R)何よ。
橘)…っ
R)なんかあたしに文句でもあるわけ。
橘)べ、別に…っ
 
 
自分から睨んどいて
睨み返されたらビビってるし。
 
なんなんだよこいつは。
 
 
 
 
 
 
ー続ー

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