Like a flower 〜前編〜

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臣)適当に花束、お願いします。
女)適当に、ですか?
臣)なんか母の日っぽいやつで。
女)かしこまりました。
 
 
ああ、疲れた。眠い。
この後もまた仕事戻んなきゃ。
 
 
女)もし良ければ
  メッセージカード、どうぞ♡
臣)は?母の日ですよ?
 
 
恋人へのプレゼントでもあるまいし。
 
 
女)母の日だから、です♡
臣)…っ
 
 
店員は笑顔で
俺に小さいカードとペンを渡してきた。
 
 
女)お花だけより…
  一言でも添えてあったら
  きっとお母様、喜ばれますよ♡
臣)…いや、照れ臭いんでいいですw
 
 
苦笑いで断ったら、
彼女はふわりと優しく微笑んだ。
 
 
女)男の子なんて、何歳になっても
  お母さんが大好きでしょう?
  年に一度くらい、
  素直にその気持ちを伝えてあげたら
  絶対に嬉しいですよ♡
臣)…っ
 
 
……花が咲くみたいに
笑う人だと思った。
 
 
臣)……じゃあ、一言だけ…///
女)はい♡
 
 
その気なんかなかったのに
俺は彼女の笑顔に不覚にも癒されて、
母親にメッセージを書いたんだ。
 
 
女性の笑顔に
こんなに心を掴まれたのは
初めてかもしれない。
 
 
 

 
 
……
 
 
 
………ワンワン!
 
 
ワンワンワン…!!
 
 
臣)……ルナ…、うるさい。
犬)ワンワン!
 
 
珍しく少し眠れたと思ったのに。
 
 
臣)……。
 
 
何の夢を見てたんだっけ。
 
 
……ああ、そうだ。
何年か前の、母の日の夢。
 
 
なんで今更、思い出したんだろう。
変なの。
 
俺ほんと疲れてんだな。
 
 
……ああ、だからか。
疲れてるから思い出したんだ。
 
きっと脳が無意識に
あんな癒しを求めてるんだろうな。
 
 
……って何言ってんだ俺。
 
もう顔も覚えてない人のこと。
 
 
臣)……馬鹿馬鹿しい。
 
 
女の笑顔には裏がある。
 
 
最近俺はもう、
女にはほとほと嫌気がさしてんだ。
 
どいつもこいつも上辺ばかり。
恋愛なんかする気にもならない。
 
 
臣)はぁ……。
 
 
それに俺は今それどころじゃない。
 
 
仕事も全然上手くいかないし
疲れとストレスで不眠が続いてる。
 
 
犬)ワンワンワン!
臣)ルナーー、お前は……
  ご主人様を寝かせてやろうって優しさは
  ないわけ?
犬)ワンワンワン!
臣)はいはい、散歩ね。
  そうだよな…
  お前もストレス溜まってるよな。
 
 
俺はほとんど家にいないし…
いつも預けてばっかりじゃ
寂しいよな、きっと。
 
 
どうせもう一回目を閉じたところで
寝れるわけなんかないし。
 
俺はスウェットのままスニーカーを履いて
ルナの散歩に出かけた。
 
 
臣)……はぁ、さみ。
犬)ワンワン!
臣)お前は元気だなぁ…。
 
 
もう一枚着てくりゃ良かったと思いながら
俺はポケットに手を突っ込んで
長い散歩道をてくてく歩いた。
 
 
臣)はぁ。
 
 
仕事…行きたくねぇ。
 
何もかも投げ出せたら
どんなにラクだろう。
 
 
臣)……ルナ、わり…。
  もう疲れた。だりぃ。
犬)くぅぅぅ…ん
 
 
ほんのり空が白み始めて
朝の冷たい風が吹き抜けて。
 
俺は木の陰の芝生に寝転んで
右腕で目元を覆った。
 
 
臣)はぁ……。
 
 
こんなに疲れてるのに、眠くない。
 
寝たいのに…なんで寝れないんだろ…。
 
 
犬)ワンワン!
臣)……ルナ、少し静かにして。
犬)ワンワン!
臣)だからうるせぇって。
犬)ワンワン!
臣)……ああ、もう。
 
 
リードを手放したら
ルナはあっという間にいなくなった。
 
もういいや。
どうせ戻ってくるだろ。
 
 
……ああ、疲れた。
 
 
何やってんだろ俺。
 
 
「疲れた」「だりぃ」「眠ぃ」
最近これしか言ってない気がする。
 
 
昔は金さえあれば
幸せになれると思ってた。
 
でも…
 
 
今の俺はいくらでも金はあるけど、
全然幸せなんかじゃない。
 
 
もう…疲れたよ…。
 
 
女)待って!!
犬)ワンワン!
女)返して、お願い!
犬)ワンワン!
 
 
ん…?
まさか…、、
 
 
犬)ワンワン!
臣)…っ
 
 
薄眼を開けてその姿を確認すると…
 
ルナが嬉しそうに咥えてるのは、
女物の鞄。
 
 
臣)バッカ!お前…っ
女)はぁっ、はぁっ、はぁっ…
 
 
慌てて起き上がったら、
息を切らしたその人が
膝に手を付いていて…
 
 
臣)あの、すみませんっ!!
 
 
俺は急いでルナから鞄を引ったくって
その女性に頭を下げた。
 
 
臣)うわ、歯型付いちゃってる…
  ルナ……、
女)はぁ、はぁ、はぁっ…
 
 
どうすんだよこれ…。
 
 
臣)弁償します、本当にすみません。
女)はぁ、はぁ、はぁっ…
臣)てか大丈夫ですか?
  そんなに走らせました?
  ほんとにすみません。
女)ちょっと待って…っ
 
 
ドサッ!!
 
 
臣)…っ
 
 
彼女はいきなり芝生に寝転んで
空を仰いだ。
 
 
女)そんなに走ったよ!
  こんなに全力疾走したのいつぶり?
  死ぬっ!
臣)マジ…?ごめん。
 
 
女性は息が整うまで
さっきの俺みたいに右腕で目元を覆ってて…
 
しばらくすると、
笑いながら起き上がった。
 
 
女)君、ルナちゃんて言うの?
  随分パワフルだったねぇw
臣)あ、こいつオス。
女)え?「ルナ」でしょ?
臣)うん。
女)ルナなのにオスなの?
臣)え、なんで?
女)……ごめん。
  セーラームーンのイメージで…
  ルナといえばメスかな、って。
臣)ああw
女)って言ってもわかんないよね、
  セーラームーン知らないでしょ。
臣)知ってるし!w
  姉ちゃん見てたもん。
女)あ、ほんと?良かったw
臣)こいつの「ルナ」は月から取ったの。
女)ふーん、そうなんだ。
臣)オスならアルテミスにしろとか
  思ったっしょ。
女)あははは!
  ほんとにセーラームーン知ってる!w
 
 
彼女は嬉しそうに笑って
ルナを撫でてて…
 
ルナは元気いっぱいに尻尾を振ってる。
 
 
臣)めずらし…。
女)何が?
臣)ルナが女に懐くの。
女)そうなの?
臣)初めて見た。
  いつもは唸るのに。
女)うそー!この子が?
  こんなにいい子なのに?
臣)うん。
女)オスなのに女性嫌いなのかな?
  私は女として見られてないのかもw
臣)なんだよそれw
 
 
彼女があまりにフランクに話すから
俺も気付けばつられてて。
 
なんで初対面の女と
こんなに話してんだろ、俺。
 
 
女)はーあ、疲れたー。
臣)…っ
女)久しぶりにこんな風に
  芝生に寝っ転がったなーー。
  気持ちいいね。
 
 
そう言って彼女はまたごろんと寝転んで…
 
ルナは嬉しそうにその隣に寄り添ってる。
 
 
臣)……。
 
 
仕方ないから俺もその隣に寝転んだ。
 
 
女)もうすぐ朝ですよー。
臣)そうですねー。
 
 
ゆっくりのんびり話す彼女の口調が
耳に心地良い。
 
 
臣)俺のこと…知らないの?
女)え…っ
 
 
俺の言葉に彼女は恐る恐る起き上がって
隠れるように俺をじーっと見た。
 
 
女)なんなの…?
  指名手配犯とか…?
臣)はぁ?!
女)だって顔色悪いし…。
臣)…っ
 
 
指名手配犯に見えるほど?
終わってない?俺w
 
 
臣)知らねんならいーよ。
女)え、良くないよ。怖い。
臣)いいって。
女)……じゃあいっか。
臣)早っ!w
女)だってw
  悪い人じゃなさそーだし。
臣)なんで?
女)ルナの飼い主だから♡
臣)なんだよそれw
犬)ワフッ♡
女)ほら、ルナもそう言ってる。
臣)お前…懐きすぎだろ…
女)あはははw
 
 
……なんだろう。
なんかすげぇ居心地がいい。
 
 
今俺、心からリラックスしてるかもしんない。
 
 
臣)……なぁ。
女)なに?
 
 
なんでこんな普通に話せんだろ。
 
 
臣)幸せって…何?
 
 
あまりに彼女が気さくだから…
俺は唐突にそんなことを聞いてしまった。
 
 
女)「幸せ」…?
  そうだなぁ…。
  家族が災いなく健康に暮らせることかな。
臣)……家族?
女)うん。
臣)……。
女)多くは望まないよ。
  それだけで、幸せ。
 
 
彼女はそう言って…
ふわりと優しく微笑んで。
 
 
その笑顔はまるで、花が咲いたみたいで…
 
どこか既視感を覚えた。
 
 
臣)…っ、ねぇ、時間ある?
 
 
俺は気付けば彼女の腕を掴んでいた。
 
 
女)時間って…?
臣)今。
女)今?
臣)うち、来て。
女)え??!
臣)少しでいいから。
女)そんな突然…、
  旦那さんと子供が心配するから…
臣)結婚してんの?
女)うん。
 
 
ほんとだ。結婚指輪してんじゃん。
 
 
臣)結婚してんなら余計都合いい。
  来て。
女)…っ
臣)5分でいいから。
 
 
自分の強引さに、自分で呆れたけど…
本能が彼女を求めてた。
 
 
戸惑いながらもついてきてくれた彼女を
部屋に連れこんで、ベッドに押し倒して。
 
 
臣)そばにいて。
女)え…?
臣)5分でいいから。
女)…っ
 
 
眠れそうな気がするんだ。
そばにいてくれたら。
 
なんでかは、わからない。
ただ本能で、そう思う。
 
 
臣)添い寝するだけでいいから。お願い。
女)…っ
 
 
俺がそう言うと、
彼女は少し困ったような様子で…
でも、俺を抱きしめてくれた。
 
 
臣)…っ
 
 
優しく優しく、抱きしめてくれて…
 
俺はそのあたたかいぬくもりに、
気が付けば、意識を手放していた。
 
 
5分とは言わずに…秒で落ちたと思う。
 
それくらい、心地良くて…癒されたんだ。
 
 
 
……
 
 
 

 
 
 
犬)ワンワンワン!
臣)……うる…せぇ…。
 
 
またルナが吠えてる。
 
 
犬)ワンワンワン!
臣)……うるせぇって…。
 
 
あれ…?
でも…、、
 
 
臣)…っ
 
 
なんだこれ。
めちゃくちゃ頭がスッキリしてる。
 
俺、どんだけ寝たんだ?!
 
すげぇ!!
 
 
時計を見て感動した。
8時間も眠れた!!
 
 
臣)マジか…これはすげぇぞ。
 
 
嬉しくてルナの頭をワシャワシャと撫でて、
ハッとする。
 
 
臣)女は!??
 
 
あたりを見回してもどこにも姿がない。
どこ行った!??
 
 
臣)ルナ、さっきの女は!?
犬)くぅぅん…
臣)どこ行った?確かにいたよな!?
  一緒に寝てたよな?!
犬)くぅぅん…
 
 
夢なんかじゃない。
ハッキリ覚えてる。
 
 
いつ帰ったんだ!?
ほんとに5分で帰っちゃった?!
 
 
臣)……ダメだ。書き置きもなんもねぇ。
 
 
家中探したけど彼女の痕跡は何一つなくて。
 
 
臣)どうしよう。
  もう会えないじゃん…。
 
 
彼女のことを、何も知らない。
どこに住んでるのか、何歳なのか、
名前すら知らない。
 
 
臣)……あ。
 
 
知ってることが一つだけあった。
彼女には家庭があるということ。
 
 
臣)…って、それだけでどうすんだよーー
 
 
鞄だって弁償したかったのに…。
 
 
臣)はぁぁぁ……。
 
 
それから俺はとりあえず仕事に行って。
 
 
夜中に終わって帰ってきたら、
また眠れなくて。
 
彼女が抱きしめてくれた感触を
思い出しながらも
また眠れない日々を過ごした。
 
 
彼女は一体何者だったんだろう。
 
 
既婚者のくせに…
俺が頼んだら家までついてきて…
添い寝までしてくれて。
 
 
でもそれは
いつもみたいにほいほいついてくる女達とは
全然違って…
 
なんていうか、人助け、
みたいな感じだった。
 
 
そうだよな、俺のこと知らなかったし。
指名手配犯だと思われるくらいだし…。
 
 
もう一度会えるなら、
聞きたいことがたくさんある。
 
 
臣)ルナーーー、頼むよ……
  もう一度あの人に会わせてよ…
犬)ワンワン!
臣)はぁぁぁ…。
 
 
ルナの散歩に行けばまた会えるかもなんて
期待して…
 
あれから無理してでも
散歩の回数を増やしてるのに
彼女に会えることは全くない。
 
 
臣)ルナ、今日こそ頼む。
  どんな高い鞄でもいいぞ。
  俺が弁償するから!
  がっつり盗んで来い!!
 
 
なんてアホな命令をして、
芝生に寝転んだ、冬のある朝。
 
 
俺の願いは、ついに叶った。
 
 
女)待って!!
犬)ワンワン!
女)こらー!ルナーー!!
犬)ワンワン!
 
 
その声に俺は一瞬で飛び起きた。
 
 
犬)ワフワフ♡
臣)…っ
 
 
ルナが嬉しそうに咥えてるその鞄には
またもや歯型がぐっさり。
 
 
……よくやった!!
 
と、心の中で褒めながら
ルナの頭を撫で回した。
 
 
女)ちょっともぉ〜〜〜
  どういう教育してるのー?
臣)あはははw
 
 
彼女はまた息を切らしながら
芝生の上に倒れるように寝転んだ。
 
 
女)ルナ足速いんだもん…、はぁ、はぁっ
臣)ごめんね、毎度毎度w
女)疲れたぁっ…
 
 
会えた。
やっと会えた。
 
ルナ、ほんとにありがとう。
 
 
女)まだ逃げ回ってるの…?
臣)はい??
 
 
彼女は息を整えてる間、
俺の顔をじーっと見てて。
 
 
女)相変わらず顔色悪いなーって。
臣)…っ
女)指名手配されてるからでしょ?
臣)ちげーわw
 
 
俺は思わず笑って、
彼女の隣にあぐらをかいた。
 
 
臣)……寝れねぇの。
女)え?
臣)最近。
女)秒で寝た人が…??
臣)ああ、この間でしょ?w
女)うん。
臣)あれはあんたがいたから。
 
 
自分でも驚くくらい一瞬で眠れた。
 
 
臣)普段は全然寝れない。
女)女に添い寝してもらわないと?
臣)違う。女がいても無理。
  てか女とかもうコリゴリだから。
女)何それ。私も女ですけど?
臣)ああ、そうだっけw
女)も〜〜〜!w
 
 
彼女は笑いながら俺の太ももを叩いてきた。
 
 
女)ルナと一緒じゃない!
  二人揃って私のこと
  女扱いしてくれないんだからーw
臣)え?
女)ほら、言ってたでしょ?
  ルナはオスなのに女性嫌いだって。
  なのに私にはこんな懐いてくれてる。
犬)ワフーー♡
 
 
ルナは嬉しそうに尻尾を振って
彼女にスリスリしてる。
 
 
臣)今日は時間ないの…?
女)え…?
臣)もっかい人助けしてくんない…?
女)……。
臣)お願い…。
 
 
窺うように彼女の顔を覗いたら、
彼女はゆっくりと起き上がって
ルナの頭を撫でた。
 
 
女)そういう風にお願いしたら
  助けてくれる女の子、
  他にもいると思うけど。
臣)だから女ならいいってわけじゃ
  ないんだって。
女)……。
臣)あんたがいい。
女)…っ
 
 
なんでだろう。
一緒にいるとすげぇ落ち着くんだ。
 
 
臣)5分でいいから。
 
 
俺は前と同じように頼み込んで
また彼女を部屋に連れてきた。
 
 
またベッドに押し倒して
俺も身を投げるようにその隣に寝転んで。
 
 
臣)……ねぇ、名前なんていうの。
 
 
彼女が隣にいてくれるだけで
もう眠気に襲われながら
小さく呟いたら…。
 
 
女)おいで…。
 
 
優しい優しい声に吸い込まれるように
抱き寄せられて…。
 
 
女)ゆっくり眠れますように…。
 
 
俺は彼女に抱きしめてもらいながら
また秒で眠りに落ちた。
 
 
まるで幼い子供が母親の胸で
安心して眠るみたいに。
 
 
 
 
……
 
 
 

 
 
 
 
ピロリロリロ♪ピロリロリロ♪
 
 
 
臣)んぁ……うる…せぇ…
 
 
ピロリロリロ♪ピロリロリロ♪
 
 
臣)うるせぇぇぇ〜〜〜
 
 
ピロリロリロ♪ピロリロリロ♪
 
 
臣『うるせぇって!』
マ『はぁ!?とっとと降りてこい!
  いつまで寝てんだ!』
臣『え…。』
 
 
寝ぼけながら電話に出た俺の耳に届いたのは
マネージャーの怒鳴り声だった。
 
 
マ『スタジオ行くぞ!生放送!!』
臣『あ!やっべ!!』
 
 
その言葉に一気に頭が覚めて
大慌てでシャワーを浴びた。
 
 
臣)ごめん!ほんとごめん!
マ)珍しいな、寝坊なんて。
  最近なかったのに、全然。
臣)うん。
 
 
急いで車に乗り込んだ俺の顔を見て
マネージャーはハッとしたように
俺を二度見した。
 
 
臣)なに?
マ)……いや、珍しく顔色いいなって。
臣)うん。今日はすげぇ眠れた。
  たぶん電話来なかったら
  まだまだ寝れたと思う。
マ)それは悪かったなw
臣)あはははw
 
 
だって今日は彼女がいたから。
俺を抱きしめてくれたから。
 
 
臣)なんでなんだろ…。
マ)何が?
臣)……いや。
 
 
他の女で試してみようかなんて
そんな気すら全く起こらないのは、
絶対無理だってわかってるから。
 
彼女じゃないとダメなんだ。
 
 
なんでだろ。
 
俺のこと知らないから?
 
 
自分を女として見てないとか
文句言ってたけど…
 
あっちこそ俺を男として見てない気がする。
まぁそりゃそーか。結婚してんだし。
 
だからかな?
俺に色目使ってこないから
こんなに居心地いいのかな?
 
 
普段は目をハートにしながら
媚びたようにすり寄ってくる女しかいないから
それがすげぇ疲れんだよ。
 
 
臣)また名前聞けなかった…。
  てか連絡先…、、
マ)ん?なんか言った?
臣)なんでもない。
 
 
どうしよう。
またしばらく会えないのかな。
 
せっかくルナが頑張って
捕まえてきてくれたのに。
 
俺ってば睡魔に負けて寝ちゃったし。
 
 
 
……
 
 
 

 
 
 
臣)ルナ様!もう一度チャンスください!!
 
 
生放送の歌番組を終えて
家に帰ってきて。
 
今日は珍しく調子も良かったし
このまま眠れるかな、なんて期待したけど
やっぱり無理だった。
 
 
臣)もっかい会わせて!お願い!
 
 
結局、鞄を二つもダメにしちゃったのに
どっちも弁償できてないし!
 
 
臣)今度こそ名前も連絡先も聞くから!
  お願いします!ルナ様!
 
 
頭を下げて頼み込んだら
ルナはワフワフ言いながらドヤ顔で俺を見た。
 
 
臣)よし!じゃあ行くか!
 
 
期待を込めて、昨日と同じ時間、同じ場所。
 
祈るような気持ちで
ルナと二人、てくてく歩いてたら…
 
 
女)あ。
臣)あ。
 
 
………嘘だろ、会えた…。
 
 
犬)ワンワン!
臣)…っ
 
 
ルナは嬉しそうに飛び上がって。
 
 
女)ふふ、おはよ…w
臣)…っ
 
 
花が咲いたみたいに笑う彼女の笑顔に
俺は思わず、息を飲んだ。
 
 
臣)……えと…、おはよ。
女)今日は少し顔色いいね。
臣)…っ、昨日…眠れたから。
女)そっか。
臣)ありがとう。
女)うん。
 
 
彼女は優しく笑いながら
ルナと抱き合ってる。
 
 
女)今日は眠れそう?
臣)……いや、寝れないから…散歩きた。
女)ええ?w
 
 
俺の言葉に、彼女は困ったように笑って
俺を見上げた。
 
 
臣)今日も来て…とか言ったら…怒る?
女)怒らないけど…
  どうにかならないのかなぁ…。
臣)え?
女)その不眠症。
臣)……。
犬)くぅぅぅん…。
女)ね?ルナも心配だよね?
犬)ワン。
 
 
ルナも、ってことは…
この人も俺のこと心配してくれてんの?
 
俺のこと全然知らないのに?
 
 
臣)ねぇ、名前教えて。
女)……。
臣)何歳なの?
女)……女性に歳聞くのは失礼だよー。
臣)えーー。だって。気になる。
 
 
俺よりちょっと下くらいだと思うけど。
 
 
臣)何歳?
女)失礼だって言ってるのに!w
  あ、わかった。
  また私を女として見てないからだ。
臣)そんなんじゃないって!w
  じゃあ俺より上か下かだけでも教えて。
  俺、32。
女)……上。
臣)えええええ!!
女)……そんな驚く?
臣)上なの!?嘘でしょ?!
  どんぐらい上!?
女)ほんの少し。
臣)ほんの少しって何個!?
女)もぉ、しつこいなー!w
 
 
彼女は笑いながら立ち上がって
俺にデコピンしてきた。
 
 
臣)……名前はなんていうんですか?
女)ちょっと!w
臣)え?
女)年上だってわかった途端、敬語とか!
  なんかやだ!w
臣)だって…
女)〇〇だよ。
臣)〇〇さん…。
〇)うん。
 
 
やっと知れた、彼女の名前。
 
 
臣)うち…来てくれる?
〇)……。
臣)わかってると思うけど
  別に口説こうとか思ってないし
  そういう風に見てないから。
〇)出た!また女扱いしてない宣言!
臣)いや、そういうわけじゃないけどw
 
 
だって俺今、そういうスイッチ
完全にオフだし。
 
 
臣)〇〇さんも既婚者なんだから
  その方がいいでしょ?
〇)え?
臣)俺が本気出して口説いたらどーすんのw
  迷惑じゃん。
 
 
それから結局、ルナが彼女の側を離れなくて。
 
諦めたように俺に付いてきてくれた彼女を
また部屋に招き入れた。
 
 
臣)あのさ、鞄弁償したいんだけど。
〇)え?今日は噛まれてないよ?
臣)だから、前回と前々回の分!
  二つ、弁償させて。
〇)でも…、
臣)一緒には買いに行けないけど…
  はい、これ。
〇)…っ
臣)これで好きなの買ってよ。
  いくらでもいいから。
〇)……。
 
 
俺がクレジットカードを渡すと
彼女は固まったようにそれを凝視した。
 
 
臣)えっと…、
 
 
俺の仕事知らないんだよな。
いきなりカード渡したりして怪しいだけかな?
 
 
臣)現金の方がいい…?
  今手持ち10万くらいしかないんだけど…
〇)……いらない。
臣)え?
〇)いいよ、弁償しなくて。
臣)いや、だって!
〇)ルナの歯型、可愛いじゃん。
臣)ええ?!w
 
 
クスッとイタズラに笑う彼女に
ルナはまた嬉しそうに尻尾を振ってる。
 
 
臣)いや、でも、やっぱり…
〇)いいから早く寝るよー
臣)えっ…
〇)そんな長くいられないから。
臣)あ、そっか、ごめん。
 
 
それから二人でベッドに入って
俺がチラッと彼女を見ると、
 
彼女はふわりと優しく微笑んで、
俺を抱きしめてくれた。
 
 
臣)あ、そーだ。〇〇さん…。
〇)んー?
 
 
あっという間に眠気に襲われながら
必死に抗うように口を開いた。
 
 
臣)連絡先…、教えて…。
 
 
背中に手を回して、
自分の携帯を探し当てた。
 
 
臣)番号言って。
 
 
彼女が教えてくれた番号に
ワンコールする。
 
 
臣)ちゃんと登録しといてね、俺。
〇)うん。…って、名前知らないや。
臣)あ。
 
 
そういえば俺、名前聞いといて
自分は名乗ってなかったっけ。
 
 
〇)いいや。ルナって入れとこ。
臣)え。
〇)ふふ、見てw
臣)…っ
 
 
彼女の携帯画面に登録された
ルナの名前と俺の番号。
 
 
臣)変なのw
〇)え?
臣)……なんでもない…。
 
 
俺の名前を知ろうともしない。
 
俺に大して興味もなさそうなのに
それでもこうして、添い寝してくれる。
 
 
臣)聖母マリア様かよ…。
〇)え?
 
 
その奉仕精神に、救われてます。
 
 
〇)ほら…、喋ってないで寝なさい。
  ……って、もう寝てたw
臣)……。
〇)おやすみ…。
臣)……。
 
 
心地良いぬくもりに包まれて
俺は安心しきって、
眠りの中へ落ちていった……。
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
ルナくんと連絡先を交換してから、
たびたび彼からヘルプ要請を
受けるようになった。
 
 
その時間はいつもバラバラで。
 
不規則な仕事をしてるんだなぁ…
なんて思いながら、
都合がつく時はなるべく家まで行ってあげて。
 
 
だって本当に眠れなくて
困ってるみたいだから。
 
かわいそうだなって心配になっちゃう。
 
 
ちょっと年下の彼はとても甘え上手で。
 
〇〇さんのおかげで
すごくよく眠れるんだ、なんて
無邪気に笑う姿を見たら
 
仕方ないなぁー
って、ついつい助けたくなっちゃうし…
 
 
〇〇さんがいない日は
やっぱり全然眠れない、なんて
寂しそうに呟かれたら
 
ルナにするみたいに
よしよしよしーー!
ってしてあげたくなっちゃうし。
 
 
困った男の子だな…。
 
 
でも彼が求めてるのはあくまで「安眠」で、
そのために添い寝してくれる人が必要で。
(彼曰く、誰でもいいわけじゃないらしいけど…)
 
 
だから別に変なこともしてこないし
下心なんて全く感じない。
 
 
添い寝してるだけだから
これくらい、浮気にはならないよね?
って思いながら、私もついつい今に至る。
 
 
だって彼は私を女として見てないし、
私も彼を男として見てない。
 
そう、強いていえば…
私は彼にとって「おかん」的存在だと思う!
 
そして私にとっての彼は
寝かしつけの必要な小さい子供。みたい。
 
 
〇)ねぇ、お母さんいないの?
臣)え、急になに。
〇)ふと思って。
臣)いるけど。
〇)眠れないって言ったら
  絶対してくれると思うよ、添い寝。
臣)はぁ!??
  この歳で母ちゃんにんなこと頼めるかよ!
〇)えーー。ダメ?
臣)ぜってぇヤダ!!
〇)えーー。
臣)母ちゃんだってドン引きするわw
〇)そうかなぁ。
  男の子なんて、何歳になっても
  お母さんが大好きでしょう?
  素直に甘えてくれたら
  お母さんも嬉しいと思うけど…。
臣)……。
 
 
私の言葉に彼は少し考えたような顔をして、
こっちにごろんと寝転んできた。
 
 
臣)やだ。
〇)あら。
臣)それに母ちゃんでも寝れる保証ねぇもん。
〇)え?
臣)俺は〇〇さんがいい。
〇)…っ
 
 
出た、甘え上手。
ずるいんだから。
 
 
〇)早く一人で寝れるようになるんだよー?
臣)……何それ。
〇)えっ…
 
 
あれ。
今度は不貞腐れたように口を尖らせてる。
 
 
臣)早くお役御免したいってこと?
〇)そういうわけじゃ…
臣)だったらいいじゃん。
〇)…っ
 
 
彼は拗ねた表情で私の胸に顔を埋めて
そのまま静かに、寝息を立てた。
 
 
〇)……。
 
 
今日も私の胸で安心したように眠る彼。
 
 
お母さんは無理でも、
こんな風に彼のそばにいてあげられる
彼女とかがいたらいいのになぁ。
 
 
……なんて思っていたある日。
 
 
夫)TV何見るー?
子)ミュージックステーション!
夫)おう。久々だなー。
子)あ、今日は三代目だ。
夫)ほんとだ。
 
 
家族で晩御飯を食べていたら、
画面に映ったその人に、思わず箸が止まった。
 
 
〇)あ…れ…?
 
 
……ルナくんにすごく似てる。
 
 
夫)どうした?
〇)……ううん。
 
 
夫は不思議そうに私を見ながら
そのままテレビに視線を戻した。
 
 
〇)……。
 
 
ただの…そっくりさんかな?
 
 
……って、数日気になってて…
ある朝、またルナくんから呼び出された。
 
 
臣)こんな時間にごめんね。
〇)ううん。
 
 
……やっぱり似てる。
 
 
臣)いつも時間バラバラで。
〇)うん。無理な時は断ってるし大丈夫だよ。
 
 
私は数分添い寝をして帰るだけだし。
 
 
〇)……。
 
 
それにしても、似てる。
もしこの人が三代目の登坂さんなら
不規則な仕事にも納得がいく。
 
 
〇)ねぇ。
臣)ん?
 
 
よし、聞いちゃおう。
 
 
〇)そっくりさんだったらごめんね、
  あなたまさか、登坂さん?
臣)……。
〇)えっと、その…、三代目の。
  レコ大取った人たち。
 
 
私はそこまで詳しくないけど…。
世間じゃ有名だよね?
 
 
〇)家族でテレビ見てたら
  三代目が出てて、ね。
  そっくりだなぁ…って。
  よく言われる?
臣)俺だしw
〇)え?
臣)なんだ、三代目は知ってたんだ。
〇)えっ
臣)知ってたくせに気付かなかったの?
  ひどくね?w
  指名手配犯とか言うしさー。
〇)…っ
 
 
……本当に?
 
 
〇)本当に…登坂さんなの?
臣)うん。
〇)…っ
 
 
私、何も気付かずに…
相当失礼だったんじゃ…
 
 
〇)今までごめんね、その…っ、
臣)いいよ別に。
〇)…っ
 
 
彼は全然構わない様子で
ルナと戯れてる。
 
 
〇)ええと…、登坂さん。
臣)やだ、その呼び方。
〇)えっ。
 
 
でも…
名前を知ってしまったのに
ルナくんて呼び続けるのも…
 
 
〇)……じゃあ、登坂くん。
臣)なに?〇〇。
〇)えっ!
  どうしていきなり呼び捨て!?
臣)ダメなの?
〇)…っ
 
 
今まで〇〇さんって呼んでくれてたのに!
 
 
〇)私一応年上だけど。
臣)知ってる。
 
 
登坂くんは笑いながら立ち上がって
私の手を取った。
 
 
臣)ベッド行こ。
〇)……うん。
 
 
なんだか不思議。
 
 
今目の前にいる登坂くんは
本当にテレビに映ってた登坂広臣なんだよね?
 
 
〇)登坂くん、ごめんね…?
臣)え?
〇)私…、あまり知らなくて。
  三代目のことは知ってたけど…
臣)……そんなんどうだっていい。
〇)え…?
 
 
彼はまた甘えるように私の胸に顔を埋めた。
 
 
臣)知らなくていい。
〇)…っ
臣)俺のことなんか…知らなくていいから…
  ただこうして、抱きしめて。
〇)…っ
 
 
ああ、そうか。
やっとわかった。
 
 
登坂くんは「登坂広臣」だから。
 
だから私が居心地いいんだ。
 
 
結婚もしてるから彼をそういう目で見ないし
彼のことも知らないから
彼はただ素直に甘えられる。
 
 
彼は自分のことなんて知らない相手に
ただただ、甘えて癒されたかったんだ…。
 
 
そんな相手、彼の今の立場じゃ
きっと見つからないだろうから…。
 
 
〇)ゆっくり…おやすみなさい…。
 
 
安心しきったように寝息を立てるその寝顔に
そっと呟いて。
 
私は静かに部屋を出た。
 
 
〇)……。
 
 
「女とかもうコリゴリだから。」
 
そういえば前にそんなこと、言ってたっけ。
 
 
寄って来る女性は
きっとたくさんいるだろうに。
 
 
彼にそういう相手が無事に見つかるまでは
私がそばにいてあげよう。
 
それで彼が少しでも眠れるなら。
彼の助けになるなら。
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
元から俺に興味がなかった〇〇は
俺が三代目の登坂広臣だってわかってからも
その態度を変えることはなかった。
 
 
最初はそれに安心して甘えていたのに
気付けば少し物足りなく感じてる自分もいて。
 
 
それは、スター扱いしてほしいとか
そんなんじゃなくて。
 
なんていうか…
 
 
臣)うーーん…。
 
 
上手く言葉に出来ないけど、
なんか物足りないんだよ。
 
 
〇)あははは、くすぐったいよルナ〜〜w
犬)ワンワン♡
 
 
相変わらずルナは彼女のことが大好きで…
 
相変わらず彼女は、
花が咲いたように笑うんだ。
 
 
〇)あ、おかえりなさーい。
臣)ん。
 
 
シャワーを浴びて戻って来た俺を見つけて
彼女は柔らかく微笑んだ。
 
 
臣)今日は俺ね、泥のように眠るから。
〇)何それ、なんの宣言?!w
臣)だって今日オフなんだもん。
〇)えっ、そうなの?
臣)うん。
〇)せっかくのオフに
  泥のように眠っていいの?
  勿体無くない??
臣)勿体無くない。
  今の俺は睡眠が一番大事。
  〇〇がいる時じゃないと
  眠れないんだから。
  今日はとことん寝るの。
〇)……そっか。
 
 
俺の言葉に彼女は少し申し訳なさそうで。
 
 
〇)登坂くんに呼ばれた時に
  いつも来てあげられたらいいんだけど…
  ごめんね。
臣)いや、いいよそんなんw
  仕方ないじゃん。
 
 
家族がいるってわかってるし。
 
 
〇)私も今日はオフなんだー。
臣)え、そうなの?
 
 
二人でベッドに入ると
彼女がのんびりとそう言った。
 
 
臣)てかさ、仕事してんの?
〇)してるよー。専業主婦じゃないよー。
臣)何してんの?
〇)お花屋さんで働いてるの。
臣)…っ
〇)だからたまに朝も早いんだよ。
臣)散歩で会う時ってそうだったの?
〇)うん。
臣)……。
 
 
そうか、花屋か…。
 
ってぼんやり思いながら、
俺は頭のどこかで、思い出していた。
 
遠い記憶の、優しい笑顔を。
 
 
臣)オフなら…帰んなくてもいいじゃん。
〇)え…?
臣)いつも起きたらいなくなってるけど。
〇)……。
臣)今日はいれば?
〇)……いてほしいの…?
臣)……。
 
 
彼女は小さな子供をあやすように
俺の頭を優しく撫でた。
 
 
臣)起きたらいつも一人って
  結構寂しいんですけど…。
〇)……あはっ…w
臣)なんだよ///
〇)ううん、可愛いなーって思って。
臣)子供扱いすんなよ///
〇)はいはいw
臣)////
 
 
こんな抱きしめてもらってて
そんな強がり言ったって、ダサいだけか。
 
 
臣)……いてよ。
〇)…っ
臣)起きていなくなってんの、いつも寂しい。
〇)…っ
臣)仕事ないなら、いて。
 
 
俺は抱きしめてくれてる彼女の背中に
腕を回して
 
子供みたいに甘えた。
 
 
臣)……そばに、いて…。
〇)……うん。///
 
 
彼女の返事が優しく響いて、
心の底から安心して。
 
俺はいつものように、秒で眠ったと思う。
 
 
いつもと違ったのは、
目が覚めてからも、彼女が隣にいたこと。
 
 
臣)……。
 
 
俺は、彼女の寝顔を初めて見た。
 
 
臣)////
 
 
……あれ?
……なんだろ…、この感じ…。
 
 
胸の奥に変な感覚が広がる。
ずっと忘れていたような。
 
 
抱きしめてもらってたはずが…
気付けば俺が彼女を抱きしめてて…
 
彼女は俺の腕の中で、
スヤスヤと寝息を立ててる。
 
 
……こんなに…まつ毛、長かったっけ…?
 
ほっぺた…柔らかそーー……。
 
 
臣)……。
 
 
こんなに彼女の顔をまじまじ見るのは
初めてかも。
 
 
……唇も…すげぇ柔らかそうで…、、
 
 
これ以上盗み見するのは
なんだかいけないような気がして…
 
俺はまた目を閉じて、
彼女をぎゅっと抱きしめた。
 
 
……ドキドキドキ…、ドキドキドキ…、
 
 
…って、あれ!?
 
俺、ドキドキしてんの?!
なんで!?
 
 
臣)////
 
 
あれ?
マジでどうしたんだろ。
 
 
……てか…身体もちっさ。
すげぇ華奢なんだけど…。
 
こんなちっせぇのに、
いつも俺のこと…抱きしめてくれてたんだ…。
 
 
〇)……ん…、
 
 
わっ…
寝ぼけてんのか!?
 
なんかすり寄ってきたんだけど…///
 
 
……あ、もしかして旦那と間違えてるとか?
そうだよな、絶対そうだ!うん!
 
 
……って、あれ…?
なんで今少し胸がズキッとしたんだろ…。
 
 
〇)……登坂…くん…?
臣)…っ
 
 
……良かった。
旦那の名前でも呼ばれたら
どうしようかと思った。
 
 
〇)一緒に…寝ちゃってたぁ…。
臣)うん…///
 
 
ぼんやりした声が、なんだか妙に色っぽい。
 
……てか俺の腕の中にいるのが
すげぇ可愛い。
 
 
臣)////
 
 
ほんと、何この感覚。
久しぶりすぎて、戸惑う。
 
 
〇)登坂くんは…眠れた?
臣)…っ
 
 
彼女が腕の中から俺を見上げてくるもんだから
顔と顔がめちゃくちゃ近くて…
 
 
臣)////
〇)////
 
 
俺が固まると、
彼女もふいっと視線を逸らした。
 
 
臣)あ…、ええと…、うん。寝れた。
  ありがと///
〇)そ、そっか…良かった///
臣)うん///
 
 
なんだこれ。なんだこれ。
 
 
臣)あーー、腹減ったなーーー///
 
 
俺はこのドキドキを誤魔化すように
彼女を離して、起き上がった。
 
 
〇)なんか作ろうか?
臣)えっ!!
 
 
うそっ…
 
 
〇)そんな驚く?
  これでも一応主婦ですよ?
臣)…っ
 
 
その言葉に、一瞬複雑な気持ちになった。
 
 
〇)なんでそんなにじっと見てるの?
臣)いや…、、〇〇がいるのが不思議で。
〇)え?
臣)いつも起きたらいないから。
  なんの痕跡も残さず消えてるから。
〇)…っ
臣)今いるのが夢じゃないんだなぁって…。
〇)だって…
  いてって言ったの登坂くんだよ…///
臣)うん、そうなんだけど…
  ……だから、…嬉しいって意味、///
〇)////
 
 
あれ。
なんだこれ。なんだこれ。
 
また照れる雰囲気になったぞ…///
 
 
臣)飯!作ってよ!!///
 
 
誤魔化すようにベッドを降りたら
彼女はまたふわりと微笑んで、
「了解」って返事をしてキッチンに向かった。
 
 
俺もそのまま寝室を出て…
ダイニングに座りながら
彼女が料理する姿を見守りつつ、
また色んなことをあれこれ考えていた。
 
 
この人…こんなに綺麗だったっけ。
 
綺麗っていうか…可愛いっていうか…
 
……いや、うん。
綺麗で可愛い。
 
 
〇)そんな今か今かと待つほど
  お腹空いてるのー?w
臣)えっ…
〇)ずっと見てるからw
  もう少しで出来るから待ってねーー
臣)……うん。
 
 
この声も……好き。
話し方も。
 
ゆったりしてて落ち着くっていうか
癒されるっていうか…。
 
 
仕草や表情はいちいち色っぽいし…
 
……俺、何やってたんだろ。
なんで今まで気付かなかったんだろ。
 
どんだけスイッチオフになってたんだよ?
 
 
こんな人にずっとそばにいてもらってたのに
ずっと対象外として見てたなんて
男として、信じらんねぇ。
 
……てゆーか
今でも本当は対象外として
見なきゃなんないんだけど…。
 
既婚者だし。
 
 
〇)はい、お待たせー。
  できたよーー♡
臣)おわ…、美味そ……
〇)「美味そう」じゃなくて、「美味い」の!
臣)え?w
〇)これは旦那さんも子供も
  いつも美味しいって言ってくれる
  自信作なんだから!
 
 
彼女はドヤ顔で可愛く笑うけど…
俺は内心、複雑な気持ち。
 
 
臣)……マジで美味い。
〇)でしょぉーー?
臣)こんな美味い料理、毎日食えて…
  旦那さん幸せだね。
 
 
自虐的にそんなことを言っても…
 
 
〇)ふふ、そうかな?ありがとう♡
 
 
彼女はただ無邪気に笑うだけ。
 
 
臣)……あの、さ。
  買い物行かない?一緒に。
〇)え?なんの?
臣)鞄。弁償したいから。
〇)それはいいってば!
臣)良くない。一緒に行くから。
〇)一緒には行けないって
  前に言ってなかった?
  誰かに見られたら困るからでしょう?
臣)変装するもん。
〇)ダメだよー。
  まぁ一緒にいるところ見られても
  私とだったら怪しまれることは
  ないかもしれないけど。
臣)は?なんで?
〇)もし見つかったら
  登坂くんのお母さんですよー
  とか言っちゃおうかなw
臣)何言ってんの?
〇)だってそんな感じでしょ?私。
臣)は?
〇)眠れない登坂くんを寝かしつけてあげてる
  お母さん。
臣)…っ、何言ってんの。
  歳だって変わんねぇくせに。
〇)年上だもん。
臣)ほんの少しだろ。
〇)そうだけど…。
  登坂くんは私にとっては
  小さな子供みたいだから。
臣)…っ
 
 
何これ。ひどすぎない?
 
俺がこんな意識し始めたってのに、
そっちは子供扱い。お母さん宣言。
 
 
まぁ…
今まで睡眠薬代わりにしかしてなかったのに
いきなりこんなドキドキしてる俺も
悪いんだけど…。
 
 
〇)ふふ、怒ったのー?w
臣)…っ
 
 
クスッと笑った彼女に
鼻の頭をツンと突つかれて…。
 
全然俺を男として意識してない彼女に
なんだか悔しくなった。
 
 
……ああ、そうか。
 
最近、漠然と感じてた「物足りなさ」は
これだ。
 
 
俺は彼女に、男として見てほしいんだ。
 
 
散々子供みたいに甘えてきて、
すげぇ今更なのはわかってるけど。
 
すげぇ我儘だってわかってるけど。
 
 
〇)鞄はね、本当にもういいんだよ。
  旦那さんが買ってくれたから。
臣)……え?
〇)歯型が付いてるのに気付いてね?
  事情を話したら、笑ってて。
  新しいの二つ買ってくれたのw
臣)…っ
 
 
……俺が…買いたかったのに…。
 
 
臣)事情って…どこまで話したの?
〇)仕事に行く途中で
  ワンちゃんに噛まれたんだよって。
臣)俺のことは?
〇)言うわけないでしょw
臣)ふーん…。
 
 
良かった。
二人の秘密のままで。
 
 
臣)ごちそうさまでした。
  美味しかった。ありがとう。
〇)どういたしましてーー♡
 
 
彼女は食器を下げると
そのまま洗い物を始めて…
 
俺はそんな彼女の後ろにスッと立った。
 
 
臣)ほんとに美味しかった。
〇)…っ
臣)ありがとう。
〇)////
 
 
わかってるよ。
好きになったって意味ないって。
 
 
でも…
気付いちゃったのに…。
 
久々にこんな気持ちになったのに…
 
そんな矢先に失恋って、
切なすぎんじゃん…。
 
 
だからせめて…
 
俺のこと、意識くらいしてよ。
男だって。
 
子供なんかじゃないって。
 
 
〇)とさ、とさ、登坂くん?///
臣)……。
〇)何…してるの?///
臣)……ありがとうのハグ。
 
 
洗い物中で逃げられないのをいいことに
後ろから勝手に抱きしめてる。
 
 
〇)離して…くれる…?///
臣)……ヤダ。
 
 
彼女の優しい匂いに、胸をくすぐられる。
ドキドキする。
 
俺は彼女の肩口に鼻を埋めたまま、
深呼吸した。
 
 
〇)ね…、離して…?///
臣)……ヤダ。
 
 
俺がこんなドキドキしてんだから…
〇〇だって少しはドキドキしてよ。
 
 
臣)〇〇…。
〇)////
 
 
好きだって、言いたい。
 
けど、言えるわけない。
 
 
臣)〇〇…。
 
 
気付けば彼女の手は止まってて。
 
ふと顔を上げて後ろから彼女の顔を覗いたら…
彼女は耳まで真っ赤にして、固まってた。
 
 
臣)////
 
 
……え、何この反応。
 
 
〇)////
 
 
……え?///
 
 
ゆっくり振り向いた彼女と
視線がぶつかって…
 
キスできそうなほどの近い距離に
また胸がうるさく音を立てる。
 
 
〇)……ね?…もう…離して…?///
臣)////
 
 
そんな色っぽく言うなよ…。
色っぽく俯くなよ。
 
無理やりこっちを向かせて、
その唇を塞ぎたくなる…。
 
 
臣)……ん、ごめん。///
〇)うん…、///
 
 
俺は必死に気持ちを抑えて、彼女から離れた。
 
 
そんな頬を赤らめて…
そんな反応をされたら…
 
……期待する。
 
 
少しは俺のこと、意識してくれたのかなって。
 
 
……期待、したのに…
 
その日は彼女はすぐに帰ってしまって…
 
 
それからは何度連絡しても
時間が合わないって言われて
来てくれなくなった。
 
 
俺は…
彼女への恋心に気付いたからか、
 
この間たっぷり一緒に
添い寝してもらえたからか、
 
幸い、不眠症は治っていて。
 
 
でも彼女に会いたいから
まだ眠れないフリをして連絡してるのに、
彼女は全然来てくれない。
 
 
臣)……はぁ、会いたい…。
 
 
今度ばかりはルナに頼ったって仕方ない。
 
偶然会えることを願ってたあの時とは
状況が全然違うから。
 
 
臣)ルナぁ…、お前も会いたいよな?
犬)くぅぅぅん…。
 
 
ほら、ルナだって寂しがってる。
なんで来てくれないんだよ。
 
 
臣)仕事…忙しいのかな?
犬)くぅぅぅん…。
臣)あ…、そういえば。
 
 
花屋で働いてるって言ってた。
 
その時、俺は…
何か思い出しかけたんだ。
 
なんだったっけ。
 
 
「男の子なんて、何歳になっても
 お母さんが大好きでしょう?」
 
 
そう言って…
花が咲いたみたいに笑って…、、
 
 
臣)あ!!!
犬)ワンッ!!
 
 
もしかして。
 
……いや、まさか。
 
 
臣)…っ
 
 
俺が何年か前に母の日の花束を買ったのは…
確か……、
 
 
臣)あそこの花屋だ!
  行くぞ、ルナ!
犬)ワンッ!!
 
 
もしも〇〇があの時の彼女なら、
もうこれは運命だと思う。
 
そうであってほしい。
 
 
でも運命だからってなんだっていうんだ。
 
彼女には家庭があるのに。
 
 
そんなことを延々と考えながら辿り着いた、
駅から少し離れた小さな花屋。
 
 
臣)……っ、
 
 
………ああ、やっぱり…いた。
 
 
彼女だったんだ。
 
 
あの日、花が咲いたような笑顔で
俺を癒してくれたのも…
 
今、俺が必要としてる癒しも…、
 
 
……全部全部、彼女だったんだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
ー続ー

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