[167]片思い(海璃Side)

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T)お前さ、そろそろ本命に
  ご飯作ってやったら?
海)…っ
 
 
いつものようにTさんのお家で
一緒にご飯を作って。
 
食べ終えた頃、突然そんなことを言われた。
 
 
海)え…っと…
T)料理の腕も大分上達したじゃん?
海)……
 
 
Tさんのお家にお邪魔するようになって
もうすぐ2ヶ月。
 
教えてもらいながら
いろんな料理を一緒に作った。
 
 
海)まだ…自信…ないです…。
T)料理は技術より愛情だって。
  心込めて作ったらきっと伝わるよ。
海)……
 
 
Tさんは優しく笑ってそう言ってくれるけど…
 
 
海)まだ…勇気が…出ません…。
T)……
 
 
好き、なんて…
まだ言えない。
 
   
海)もう少し…練習したいです…。
 
 
もう少しって…いつまでだろう。
自分で言いながら、ふとそう思った。
 
私の好きな人は
本当はTさんなんですって…
そう言える日なんて…来るのかな。
 
 
海)迷惑…ですか…?
T)なんで…w
 
 
私の言葉に、Tさんは優しく笑って
頭をポンポンしてくれた。
 
 
T)可愛い妹がこんな頑張ってんのに
  迷惑なわけないじゃん。
海)…っ
T)言ったろ。
  俺はお前を応援するって。
海)……
 
 
「俺はしばらく恋愛はいいから
 お前の恋を応援するかな」
 
 
♡さんに振られて
泣きながら一緒にシチューを食べた日。
 
Tさんはそう言った。
 
 
「しばらく」って…どれくらいなのかな。
 
 
Tさんが♡さんを忘れられる日は…
来るのかな。
 
 
 
……
 
 

 
 
 
♡)海璃ちゃん、おはよう♡
海)おはようございますっ!
 
 
今日も朝から、♡さんの笑顔は眩しい。
 
 
男)朝から姫と同じエレベーターだった♡
男)今日はついてるな〜w
男)ほんと癒される、あの笑顔。
男)可愛いよなぁ…♡
 
 
他の部署の人がこんな噂をしてるのは
いつものこと。
 
だってほんとに♡さんの笑顔は素敵で
おはようって笑ってくれるだけで
女の私でもキュンとしちゃうくらい
可愛いんだもん…。
 
 
どうしたら…あんな風になれるの…?
 
 
いつも笑顔で…明るくて…
周りを幸せにしてくれる、太陽みたいな人。
 
 
課)おーーい。
  誰かこれ頼まれてくれーーー
♡)ん?
課)〇〇社の部長さんとこに
  これ届けてくれないかーー
K)げっ!あのおっさん性格悪いからやだ!
M)すっごい怖いもん…
課)一瞬渡すだけだから!
先)ちょっとあたし今日は手一杯でーす…
先)私も…すみませーん…
 
 
よくわからないけど
先輩たちが嫌がってる仕事。
 
こういうのは、一番下っ端の私が
手を挙げなきゃダメだよね…!
 
 
海)あ、…えっと…私…っ
♡)私行きますよーー♡
課)おお!ほんとか?助かるよーーー
海)…っ
 
 
出遅れてしまった。
 
 
♡)ダッシュで行ってきます!!!
 
 
♡さんはニコッと笑って
飛び出していった。
 
 
海)……
 
 
私…
なんてダメダメなんだろう…
 
 
♡さんはいつもそう。
周りが嫌がるようなことでも
なんでも笑顔で引き受けるの。
 
だから課長からも
いろんな仕事を振られてて…
 
それでも、嫌な顔一つせず
いつも一生懸命。
 
 
私もそうなりたいから
もっと頑張りたいのに…
 
まだまだ実力も追いつかないし
今は周りに助けてもらいながら
なんとか仕事を覚えていかなきゃいけない
新人で。
 
 
海)はぁ…。
 
 
思わずため息がこぼれた帰り道。
 
 
蒼)元気ないじゃん…w
海)…蒼くん…っ
 
 
エレベーターを降りると
背中をポンと叩かれた。
 
 
蒼)どうしたの。
海)……
 
 
自分が不甲斐なくて、落ち込んでるの。
 
 
海)…早く…一人前になりたい。
蒼)……
 
 
♡さんみたいに…なりたいの。
 
 
蒼)海璃は頑張ってるじゃん。
海)…っ
蒼)って、同期の俺に言われても
  嬉しくないかもしれないけどw
海)ううん…、ありがとう。
 
 
同じ部署で唯一の同期の蒼くん。
私にとっては、心強い存在。
 
 
蒼)俺も早く仕事覚えたい。
海)うん…。
 
 
やっぱりそうだよね。
入社してまだ3ヶ月ちょっと。
私たちはどんなに頑張っても、見習いで。
 
 
海)私、♡さん目指して頑張る。
 
 
私がそう言うと、蒼くんはクスッと笑った。
 
 
蒼)なんで♡さんなの?
海)え…っ
 
 
だって…
 
 
蒼)仕事ならKさんの方が出来るじゃん。
海)…っ
蒼)あの人、めちゃくちゃ仕事早いし
  ミスもないし。
 
 
確かに…。
 
 
蒼)俺から見たら鉄人みたいだよ、あの人w
海)鉄人…っ
 
 
蒼くんは…Kさんみたいになりたいのかな?
 
 
蒼)海璃が♡さんみたいになりたいのは
  仕事が出来るから?
  それとも、Tさんが♡さんを好きだから?
海)…っ
 
 
私の気持ちは
いつの間にか蒼くんにはバレてて…
 
いきなり図星を突かれた質問に、
思わず口ごもる。
 
 
海)……
 
 
どうなんだろう。
 
もし…
Tさんの好きな人が♡さんじゃなかったら…
 
 
海)……ううん。
 
 
想像してみたけど、
やっぱりそれだけじゃない。
 
 
海)Tさんのことも…あるかもしれないけど…
  でも…
蒼)……
海)もしそうじゃなくても…
  私は♡さんに憧れてたと思う。
蒼)……
海)だって…
  あんなにキラキラ眩しくて…輝いてる人、
  憧れない女の子なんて…いないよ…。
 
 
私がそう答えると、
蒼くんは「確かにね」って笑った。
 
 
蒼)あの人のあれは…なんていうか…
  天性のものだよね。
海)え…?
蒼)幸せオーラに包まれてるっていうか…
  人を和ませて笑顔にしちゃう感じ。
海)……
 
 
天性の…もの…?
 
 
蒼)顔が可愛いって話じゃなくてさ、
  内面っていうか…人間性…?
海)……
蒼)自然に人を惹きつけるじゃん。
海)……うん。
蒼)なかなかいないよね、ああいう人。
海)うん…。
 
 
だから余計に憧れるのかな…。
 
 
蒼)ま、Tさんは上手く攻略すれば
  海璃でもチャンスはあると思うよw
海)…っ
 
 
攻略…?!
 
 
蒼)頑張ってw
  じゃ、お疲れ。
海)…お疲れ…さま。
 
 
蒼くんはニッコリ笑ってそう言ってくれたけど
私にはどこにどうチャンスがあるのか
全然わからない。
 
 
わからないくせに…
Tさんと一緒にいる時間が
増えれば増えるほど…
 
好きな気持ちは募っていくばかり。
 
 
 
……
 
 
 

 
 
 
M)ああっ!!
  あの二人ってば写真撮られてる!
海)…っ
 
 
Mさんがそう叫んだのは
ある日の昼下がり。
 
 
♡さんはTさんの商談に同行してて…
SNSに、二人がランチしてる写真が
載せられたみたいで…
 
 
K)どれどれ。あ、マジだ。
M)もぉ〜〜〜
K)マネージャーが怒ってるw
M)先輩はクリーンな感じでいきたいんです!
K)この程度の写真なら問題ないしょw
M)でもぉ〜〜〜
K)てゆーかこれ臣広怒りそぉーw
M)え、登坂さんですか?
  登坂さんは大丈夫ですよぉ〜〜
  あ〜んなに先輩とラブラブなんだから♡
K)あんたは臣広をわかってないね〜w
海)……
 
 
週末お呼ばれした、♡さんのお誕生日会。
 
確かに登坂さんと♡さんは
ものすごくラブラブで仲良しで
幸せそうだった。
 
 
M)あ、お似合いのカップルとか書かれてる!
海)…っ
 
 
そう言われて私もTwitterを開いてみると…
 
そこにはTさんと♡さんがお似合いって
♡さんを見るTさんの目がすごく優しいって…
そんなことがたくさん書かれてた。
 
 
K)あーー…、気にすんな、うん。
  あいつはもう吹っ切れてるでしょ。
海)…っ
 
 
私に気を遣ってそう言ってくれるKさん。
 
 
M)そうだよ海璃ちゃん。
  Tさんはもう前と違うもん。
  今は先輩とはほんとただの同期って感じ。
K)うんうん。
海)……
 
 
そんなの、嘘。
 
Tさんはまだ♡さんが好き。
 
でも…
みんなの前ではそれを悟られないように
必死で普通に振る舞ってるの。
 
私にはわかる…。
 
 
M)あ、でも…これって…
  逆に話題性あっていいのかも。
K)え?
M)今日、MVの会食なんですよねー。
K)ああ、なんだっけ。
  ラブラブするやつだっけ?
M)それは先輩に内緒ですw
  内容言っちゃったら断られそうだし。
K)確信犯だな…。
M)ふふー♡
海)……
 
 
今日はTさんは会食だから
夜は一緒にご飯を食べられなくて。
 
今も♡さんと一緒にいて…
 
 
……寂しい。
 
Tさんの顔が見たい…。
 
 
 
……
 
 
 

 
 
 
夜、お風呂を上がった後も
なんだか気分は晴れなくて。
 
 
今頃会食してるのかな、とか…
 
♡さんと一緒にいて
あの眩しい笑顔を隣で見て
やっぱり好きとか思ってるのかな、とか…
 
そんなことばかりが頭に浮かんで…
 
 
海)……はぁ…。
 
 
こんな自分、すごくやだ。
 
 
なんだか泣きそうになって
気分転換に外へ出た。
 
 
コンビニでアイスを買って
戻ってくると…
 
バタンと車のドアが閉まる音。
 
 
海)…っ
 
 
そこにいたのは、Tさんだった。
 
車の中には…
♡さんと…、……登…坂さん…?
 
 
どうして…
 
 
あ、もう行っちゃった。
 
 
海)……
 
 
二人に、送ってもらったのかな?
 
それって…
なんだか気まずくないのかな…?
 
 
海)Tさん…っ!
 
 
私は慌ててその背中を追いかけた。
 
 
T)……っ
 
 
振り返ったその表情は、
やっぱりなんだか複雑な色で。
 
 
海)えっと…お帰りなさい…。
 
 
私がそう言うと、Tさんは力なく笑った。
 
 
T)ただいま…。
 
 
そう言って、何かを誤魔化すように
私の頭に手を乗せた。
 
 
T)こんな時間に買い食いか〜?w
海)…っ
T)あ、アイスじゃん、美味そー。
 
 
袋の中を覗かれて…
 
 
海)い、い、一緒に食べませんか?!
 
 
思いきってお誘いしてみた。
 
 
T)え、くれんの?
海)全部は…っ、あげません…
T)あははは、わかってるよw
  そこまで図々しくないわw
海)半分こ…ですよ…?///
T)うん、じゃあ半分ちょうだいw
 
 
そんなやりとりの結果、
エレベーターはTさんのフロアで止まって。
 
私はドキドキしながら
後ろをついていった。
 
 
……はっ!
 
てゆーか…!!
 
私ってば今、すっぴんじゃない?!
 
だってお風呂入っちゃったもん!!
 
Tさんに会えてびっくりして
そんなことも忘れてた!どうしよう!!
 
 
海)あの…っ
 
 
一回帰ってお化粧しちゃダメですか…
 
 
T)ん?
 
 
Tさんのその手は、もう鍵を開けてて。
 
 
海)わ、わた…しっ…
  お風呂入ったから…すっぴんで…
T)うん。見てわかるけど。
海)…っ
 
 
そうだよね!バレてるよね?
 
 
T)それがどうかした?
  はい、どうぞ。
海)…っ
 
 
開かれた、玄関の扉。
 
……そうか。
 
Tさんは別に
私がすっぴんだろうと何だろうと
興味なんかないよね…。
 
一人であたふたして、バカみたい…。
恥ずかしい。
 
 
海)あ、えっと…アイス……
 
 
リビングのテーブルに
袋を広げると…
 
 
T)あ。
海)あ。
 
 
しまった。
 
なんか溶けてる。
 
 
海)ごごごめんなさいっ
T)はははw
  どうする?このまま食う?
海)…っ
 
 
そう聞かれて、閃いた。
 
 
海)少し冷凍庫入れませんか?!
  そしたらまたすぐに凍ると思うし!
T)ああ、そうする?
 
 
Tさんは私の提案にニコッと笑って
アイスを冷凍庫にしまってくれた。
 
 
T)じゃあしばし待ちますか。
海)はいっ!!
 
 
だって…
だって…
 
そしたら、待ってる少しの間も
Tさんと一緒にいられるもん…
 
 
T)あー、じゃあ俺シャワー入ってきていい?
海)は、はいっ!!
T)暇だったら…なんかTV見てて。
海)大丈夫です!!
T)……てゆーか…
海)???
T)なんでさっきから顔隠してんの?
海)…っ
 
 
だって…
 
つい、無意識に…手が…
 
 
海)あの…すっぴん…なので…
 
 
Tさんはどうでもいいかもしれないけど…
私はやっぱり、見られたくない。
 
 
T)ははは、ばーかw
  隠さなくていいじゃん。
 
 
Tさんは笑いながら、私の手を剥がした。
 
 
T)すっぴんでも可愛いって。大丈夫。
 
 
ぽんぽん。
 
 
海)////
 
 
Tさんはニコッと笑って
頭ポンポンを置いて、いなくなった。
 
 
バクバクバク…
 
バクバクバク…
 
 
か、か、か、可愛いって…
言われた……
 
 
海)////
 
 
私なんかの…すっぴんを…
 
 
海)ううう…///
 
 
お世辞だってわかってても
嬉しすぎて、キュンキュンしすぎて…
なんだか死んでしまいそう。
 
 
何度も…何度も…
 
Tさんの言葉と笑顔が
頭の中で再生されて…
 
 
一人でぽわんと座っていると、
 
 
T)あれ?TV付けてないじゃんw
 
 
Tさんはすぐに戻ってきた。
 
 
T)何ぼーっとしてんの。
海)……///
 
 
だって。
 
 
T)待たせてごめんな。
  アイス凍ったかなー?
 
 
そう言って冷凍庫を覗きに行くTさん。
 
 
T)お、いい感じ!食おうぜーw
海)はいっ!
 
 
それからソファーに座って
二人でアイスを開けた。
 
 
実は昔、♡さんが冷蔵庫と冷凍庫を間違えて
社長が買ってきてくれたアイスを
全部でろんでろんに溶かしたことがあるなんて
 
アイスを頬張りながら、
懐かしそうに話してくれるTさん。
 
 
T)ほんと鈍臭いよな、あいつw
海)……
 
 
そう言いながらも、
その目は愛しさでいっぱい。
 
まだ好き、って…
Tさんの目が言ってる。
 
 
海)えっと…今日…
  商談決まったんですよね?
  おめでとうございます…。
T)ああ、うん。あいつのおかげ。
海)……
 
 
その言葉が、羨ましかった。
 
私もTさんの役に立てるくらい
早く一人前になりたいのに…
 
 
海)♡さんは…
T)ん…?
海)いつも…周りが嫌がることとかでも
  進んで引き受けるんです…。
T)ああ、そうだねー
海)…嫌な顔したりしないで…
  いつも笑顔で…
T)うん。
 
 
私の言葉に、Tさんは優しく頷いて。
 
それがあいつのいいところだからね、って…
優しく笑った。
 
 
T)今日、さ…、商談行った時…
  あいつが言ってくれたんだ。
海)……
T)俺の成績とか、そんなんとは関係なしに
  俺のこと、信頼してるから
  紹介してくれたって。
海)……
T)俺の仕事とか…人間性とか…
  そういうの全部信頼してるから、って。
海)…っ
T)ほんとに…すげぇ嬉しくて…
  俺、感動しちゃって…
 
 
Tさんは少し照れたようにそう言った。
 
 
T)もっと頑張ろうって思った。
海)……
T)あいつの言葉に応えられるくらい、
  もっと。
海)……
 
 
Tさんは…
今でも十分、すごい人なのに…
 
 
T)あいつが笑ってくれると、
  そう思えるんだ、昔から。
海)……っ
 
 
その言葉に、二人の絆を感じて…
 
胸がぎゅってなった。
 
 
海)♡さんのこと…
T)……
海)…まだ…好きですか…?
 
 
そんなこと聞いて、どうするんだろう。
 
答えはわかってるのに。
 
 
T)うん…、めちゃくちゃ好き…。
 
 
そう呟いて上を向いて
顔にクッションを乗せたTさんを見て、
 
やっぱり私は今の質問を後悔した。
 
 
わかってたくせに…
聞いたのは自分のくせに…
 
こんなに胸が、痛くなるなんて。
 
 
海)やっぱり…
  そんなすぐには…忘れられないですよね…
T)……
 
 
大好きだったんだから…
 
 
T)それも…あるし…
  忘れなくてもいいかなとも、思ってて…
海)え…?
T)なんか…どう足掻いても好きだし…
  忘れるなんて無理で。
海)…っ
T)だったらこのままでいいやって。
海)……
T)俺の気持ちは表には出さないし
  ♡の前では隠し通すし…
海)……
T)あいつの前では、普通の友達でいる。
  それはもう決めたから。
海)……
T)でも、あいつを好きな気持ちは
  無理にどうこうできるもんじゃないから
  時間が解決してくれるなら
  それを待とうかなって…。
海)……
 
 
時間が解決なんて…
してくれるのかな…
 
だって…
 
Tさんの想いはこんなに強いのに…っ
 
 
T)ははっ、そんな顔すんなよ…w
海)…っ
T)こんな情けない兄ちゃんでごめんな…?
  妹はこんなに頑張ってんのになぁ。
海)……
 
 
大きな手が、頭を撫でてくれる。
 
 
T)俺はこんな感じで
  どうしようもないけどさ?
  お前はちゃんと頑張れよ?
  応援してるから。
海)……
 
 
どう頑張ったらいいのか…
教えてほしいです…
 
応援されたって…
1mmも進んでない、私の恋。
 
 
海)……えっと…会食!は…
  どうだったんですか?
 
 
♡さんを想うTさんを
もう見たくなくて…
 
自分の情けない気持ちから
目を背けたくて…
 
 
咄嗟に話題を変えてみたけど…
 
 
T)料理すげぇ美味かった!
  てゆーかさ、MVの内容が
  俺メインらしくて。
海)えっ!♡さんじゃないんですか?
T)そう。男目線で撮りたいんだって。
  彼女のことが好きで仕方ない感じでとか
  言われた。
海)…っ
T)俺、演技とか出来る自信ないんだけど…w
 
 
そう言って心配そうに笑うTさん。
 
 
海)……
 
 
そんなの演技じゃなくて、
普通に出来る気がする。
 
だって…
私が見てるTさんはいつだって
♡さんのことが好きで好きで
仕方ない感じだもん…。
 
 
T)てゆーか…
  昼間さ、ランチしてるとこ
  写真撮られてたみたいで…
海)はい、見ました。
T)え!お前も?
海)はい。
T)マジかーー
  …なんか…そのせいで先方に
  ほんとに付き合ってると思われてて…
海)えっ…
T)ちょっと気まずい…。
海)……
 
 
その誤解は、解かなかったのかな…
 
 
T)ほんと誰だよあんな写真撮った奴…
  ふざけんなよ…
海)……
T)あいつも無駄にキレてるし…
 
 
あいつ…って…
 
 
海)登坂…さん…?
T)……
 
 
マスクしてたからよくわからなかったけど
さっき運転席にいたのはやっぱり…
 
 
海)送ってもらったんですか?
T)……うん。
 
 
仲良しな二人を目の当たりにして…
Tさんは大丈夫だったのかな…
 
 
T)…俺…さ、あいつに結構
  勝手なこと言っちゃったから…
  それ、謝りたかったんだけど…
海)……
T)あいつが大人気ないから
  俺までイラッとしちゃって…。
海)……
 
 
バトル…したのかな?!汗
 
 
T)はぁ……
  大人気ないのは…俺か…。
海)……
T)なんか…俺からしたらさ、
  ♡に想われてるだけで
  十分幸せじゃんって、
  贅沢言ってんなよって…思っちゃって…。
海)……
T)♡に八つ当たりしてんなよって…
  もっと大事にしろよって…
海)…っ
T)そんなん俺の勝手な気持ちなんだけど。
 
 
登坂さん…
そんなに怒ってたのかな…
 
 
「登坂さんは大丈夫ですよぉ〜〜
 あ〜んなに先輩とラブラブなんだから♡」
 
 
Mさんはああ言ってたけど…
 
 
「これ臣広怒りそぉーw」
 
 
Kさんが言ってたことの方が
正しかったのかな。
 
 
海)Tさんは…
  登坂さんが…嫌いですか…?
 
 
聞いてから、
また変な質問しちゃった!って思ったけど…
 
 
T)嫌いじゃないよw
 
 
Tさんは優しく笑ってくれた。
 
 
T)別にあいつ…嫌な奴じゃないし…
  どんだけ♡のこと好きなのかは
  見てたらわかるし…
海)……
T)好きだからヤキモチ妬いたりも
  するんだろうし…
海)……
T)それに…
海)……
 
 
Tさんはクッションをポンと膝の上に置いて
背もたれに頭を預けた。
 
 
T)♡があいつを選んだんだからさ…。
海)……
T)あいつの愛情が…それだけ伝わって…
  ♡の気持ちを動かしたんだろうから…
海)……
T)嫌いとかじゃないよ。
  …ただ…ちゃんと…
  幸せにしてやってほしいなって…
  そう思うだけかな…。
海)……
 
 
Tさんは強がってるわけでもなく
心からそう言ってるように見えた。
 
 
自分も♡さんが好きなのに…
♡さんの幸せを一番に願ってる。
 
 
海)…っ
 
 
私は…
Tさんをぎゅっと抱きしめたいのに…
 
そんな勇気はないから。
 
代わりに、膝の上の手をそっと握った。
 
 
T)…っ
 
 
ぎゅって…握って…
Tさんが…幸せになれますように、って…
 
 
T)急に…どうした…?
 
 
優しい声に、そっと目を開けると…
 
Tさんが心配そうに私を見つめてた。
 
 
T)ん…?
 
 
私の手を…握り返してくれて…
 
優しく顔を覗き込むようなその仕草に…
 
胸がぎゅってなって…
 
 
海)…っ
 
 
私は思わず、そのままTさんに抱きついた。
やっぱり我慢できない。
 
 
T)海璃…っ??
海)…っ
 
 
……好き。
 
こんなに…好き。
 
 
T)どうした…?
海)……(ふるふる)
 
 
どうもしないです…
 
ただ、好きなんです。
 
 
海)幸せに…なって…ください…っ
T)……え、俺…?
海)……(こくんっ)
T)…っ
 
 
こんなに優しくて、良い人なのに…
 
どうして神様は意地悪なの。
 
 
Tさんが…
♡さんの幸せを願うように…
 
私だってTさんに幸せになってほしい。
笑顔でいてほしい。
 
 
T)…俺…、そんな可哀想に見えた…?w
海)…そういう…わけじゃ…っ
T)……ありがとな。
海)…っ
 
 
背中をポンポンと叩いてくれる、優しい手。
 
 
T)お前はほんと優しいな。
海)…っ
 
 
優しくなんか…ない。
 
私はただ…Tさんが好きだから…
Tさんには笑っていてほしいだけ。
 
 
T)俺は大丈夫だから。
 
 
そっと離された身体。
 
 
海)……
T)……
 
 
好き、って…見つめても…
伝わるわけ、ない。
 
 
T)ん。
 
 
よしよし、って…
子供をあやすみたいに頭を撫でてくれるけど…
 
 
私はどうしたらTさんの目に
一人の女の子として映ることが出来ますか…?
 
妹じゃなくて…
 
 
海)……
 
 
私の「好き」っていう気持ちが
少しでもTさんの心を癒せたらいいのに…
 
何の役にも立たない私の気持ち。
 
 
ただ、一方的に
こんなに好きなだけで……
 
 
Tさん。
 
いつか…
ほんの少しでいいから…
 
私のことも見てください。
 
 
私はきっと…
ずっとずっと、Tさんが大好きだから。
 
 
 
 
 
ーendー

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  1. ちえ より:

    やっぱりTくん、車を降りる時のあの男前なセリフの裏側はこんな気持ちだったんですね~(ToT)✨カッコいいー♥️♥️♥️
    報われなかったTくんと気付いてもらえない海璃ちゃん…(。´Д⊂)Tくんの思いは素敵だけど、海璃ちゃんの可愛い片思いに気付いて、その気持ちに向き合える日が早く来ると良いですね♡

    • マイコ より:

      ちえしゃん!!。゚(゚´ω`゚)゚。そうなんですよ!!
      覚えてくれていましたか!!!✨
      あの時はジェラ臣が暴走しちゃったから…笑

      この二人も道のりは遠そうだけどいつか幸せになってほしい…

  2. さゆれ より:

    あぁ、癒される。
    岩ちゃんstoryは見たいけど、見たくないので、Tさんとのほんわかstoryは癒しだし、応援したくなる!

  3. ユキ より:

    海璃ちゃん臣君の彼女さんに憧れてるのですね私も彼女さんに憧れてますし尊敬します(^.^)マイコさん昨日雅貴(TAKAHIROさん)のチケット届きました何と1階の7列目でしたもうすぐ大阪楽しみです(*^^*)

    • マイコ より:

      めちゃくちゃ良席やないかーー!!❣‹‹\(///‘ω’///)/››❣
      楽しんできてくだされ♡♡

  4. 明日花 より:

    おぉ!!!久しぶりの海璃ちゃんだ!!!頑張れ~~~~!女の子として見てほしい気持ち分かります(ウンウン
    海璃ちゃん凄い積極的で偉い偉い。

  5. Omilove Morning より:

    なんか見ていて泣きそうになりました。気持ちがすっごい分かります!
    なんか失恋した時を思い出してしまったw
    思ったんですけど、どうして男って恋愛の事になると鈍感なんですかね?
    他のことにはめっちゃ敏感なのに笑笑
    鈍感すぎてもう笑うことしかできないですよね笑笑 家に男女2人だけだなんて意識しちゃわないのかな…?
    次も楽しみにしてます!

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