[152]湧き上がる怒り(隆二&♧Side)

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ゆっくりと目を覚ました♧の瞳から
またこぼれ落ちた一筋の涙。
 
 
隆)…っ
 
 
こめかみに伝ったその涙を
俺が慌てて拭うと、
 
ぼーっと天井を向いていた視線が
ゆっくりと俺を捉えた。
 
 
♧)りゅ…じ…くん…?
隆)うん。
 
 
力ないその声に、
俺は思わず♧の手をぎゅっと握った。
 
 
♧)…ほん…もの…?
 
 
♧の瞳には…またみるみる涙があふれて…
 
 
隆)本物だよ…!
 
 
俺はそのまま覆いかぶさるように
♧を抱き締めた。
 
 
♧)…りゅ……じ…くっ……
隆)うん。
♧)りゅ…う…じく…んっ……
隆)うん。
 
 
ここにいるよ、
ちゃんといるよ、って…
 
しっかり抱きしめれば…
 
♧はまた、俺にしがみついて
震えながら泣いていた。
 
 
隆)大丈夫だよ。
♧)…っ
隆)俺がいるから。
♧)…っ
 
 
どうしてこんなに泣いてるのか
わからないけど…
 
 
隆)大丈夫。
 
 
何度もそう言って、♧を抱きしめた。
 
 
隆)そんなに泣かないで…
 
 
♧がもう壊れてしまいそうで…
 
俺はそっと身体を離して
寝てる♧の頬を両手で包んだ。
 
 
♧)……あ…った…かい……
 
 
そう言って俺の手に自分の手を重ねて
ゆっくり目を閉じた♧の目からは
また涙がこぼれて…
 
 
隆)もう…泣かないで…ほんとに…。
 
 
これ以上泣いたら
♧の中から水分がなくなってしまいそうで…
 
心配で心配で…
 
 
青白い頬をそっと撫でると、
 
 
♧)心配…かけて…ごめんね……。
 
 
♧が小さく呟いた。
 
 
隆)…っ
 
 
もっと…自分の心配しろよ…っ
 
こんなにボロボロになるまで…
一人で我慢して…
 
 
なんで…
 
なんで俺に頼ってくれなかった?
 
 
一体、何があった…?
 
 
♧)…さ…っき…、ごめ…んね…?
隆)え…?
♧)…逃げ…だして…
隆)ああ、いいよそんなの…。
♧)……
隆)あんな格好してた俺が悪いし…。
♧)…う…うん…。
 
 
♧は力無く首を横に振った。
 
 
隆)怖がらせて…ごめんね…?
♧)うう…ん…。
隆)……
♧)顔が…見えなかった…けど…
隆)……
♧)…声…で…すぐに…わかったの…。
隆)…っ
♧)隆二…くんだ…って…。
隆)…っ
 
 
♧は消え入りそうな声でそう言って、
力なく笑った。
 
 
なんでか…俺は…泣きそうで…
 
 
♧)すぐに…わかったんだよ…。
隆)…っ
 
 
我慢できずに、こぼれた涙。
 
 
♧)隆二…くん……
 
 
♧は細い腕を俺に伸ばして、
白い指先で俺の涙を拭ってくれた。
 
 
♧)…隆二く…ん……
隆)ん……?
 
 
ああ、視界が…滲む…。
 
 
♧)おね…がい……。
隆)…なに……?
♧)もう一回…抱きしめて…。
隆)…っ
 
 
その言葉に、また涙があふれた。
 
 
 
……
 
 

 
 
 
俺の腕の中で、また眠りに落ちた♧が
次に目を覚ました時は
もう昼過ぎで。
 
 
♧が少しでも食べれるようにって
食堂のおじさんが作ってくれたお粥を
♧はゆっくり、でもちゃんと全部、食べた。
 
 
今市くんも食べなさいって
用意してもらった定食を
俺はその向かいで平らげて。
 
 
目の前に♧がいる。
ちゃんとご飯を食べてる。
 
それだけで心がほっとした。
 
 
こんなに痩せて、弱りきって。
 
 
♧を見かねた館長さんが
保育園にも連絡してくれて
♧は明日から4連休をもらえることになった。
 
その間にゆっくり休みなさいって…
みんな♧を心配してる。
 
 
俺は、♧を自分の家に連れて帰ろうって
決めた。
 
勝手に決めた。
 
 
幸い今週は仕事も少ない。
 
 
完全オフは今日だけだけど…
臣がいないからレコーディングもないし
大きな仕事は金曜のMステくらい。
 
 
だから…
仕事以外はずっと♧と一緒にいる。
 
美味しいもの食べさせて、
♧を元気にするんだ…!!!
 
 
俺はそんな使命に燃えていた。
 
 
♧)おじさん…ごちそうさまでした…。
男)お!全部食べたか!良かった良かった!w
隆)自分まですみません、
  ありがとうございました!
  ごちそうさまでした。
男)いつでもまた食べにおいで!w
 
 
この施設の職員さんは
本当にみんな良い人ばかりで
空気があたたかい。
 
 
隆)美味しかった。
 
 
俺がそう言うと、
 
 
♧)おじさんの料理は
  私にとってお母さんの味なの。
 
 
♧はそう言って、微笑んだ。
 
 
……そうか。
ここは、♧が育った施設なんだ。
 
 
そう思うと、いろいろ見てみたくなって…
 
 
隆)今度ゆっくり案内して。
 
 
そう言うと、
♧はいいよって笑ってくれて
また心がほっとした。
 
 
その笑顔はやっぱりまだ元気がないけど
それでも笑ってくれるだけで安心する。
 
 
もう泣かせない。
絶対泣かせない。
 
俺が守るから。
 
 
 
でも…
 
事務室に荷物を取りに行った♧を
休憩室で待ってると…
 
戻ってきた♧は
また暗い表情になっていた。
 
 
隆)どう…した…?
♧)……
 
 
何も言わずに俯いて
そこに立ち尽くしてる♧。
 
俺はその手を引いて、隣に座らせた。
 
 
隆)どうした…?
♧)……
隆)今日はもう帰っていいんでしょ?
♧)……(こくん)
隆)一緒に帰ろ…?
♧)……
隆)ゆっくり休も…?
♧)……
 
 
俺が何を言っても
♧は俯いたままで…
 
 
しばらくその手を握ってると、
 
 
「帰りたくない。」
 
 
小さな声がポツリ、そう呟いた。
 
 
隆)…っ
 
 
握った手は、小さく震え始めて…
♧の膝にポタポタ落ちる涙。
 
 
隆)泣かないで…っ
 
 
俺は慌てて♧を抱きしめた。
 
 
隆)俺ん家に帰ろ!!
  一緒に帰ろ!!
♧)…っ
隆)ずっと一緒にいるから!ね?!
♧)…っ
 
 
家に帰りたくないって…
なんで……
 
必死に♧を宥めながら
頭をフル回転させた。
 
 
もしかして…
 
 
隆)隣の…部屋の男…?
 
 
家に帰りたくない理由なんて
それしか思いつかない。
 
 
隆)また嫌がらせされたの?!
♧)……(ふるふる)
隆)…っ
 
 
違うのか…?
 
じゃあ…なんで……
 
 
♧)…こわ…い…っ
隆)…っ
 
 
怖いって…何が…?!
 
 
♧)ひ…っく…っ
 
 
腕の中で震えてる♧は、
身体だけじゃなくて…
もう心も限界なんだってわかった。
 
 
隆)大丈夫、俺がいるから。
♧)…っ
隆)もう怖くないから。
♧)…ひ…っ…く……
隆)安心して。大丈夫だから。
♧)…っ
 
 
何度もそう言い聞かせて。
 
 
♧が心配でたまらない気持ちの裏側で
♧をこんなに怯えさせている何かに
 
沸々と怒りが湧いてくるのを感じた。
 
 
隆)…何が…あった…?
 
 
それを聞いていいのかもわからないし
聞いたら余計傷つけるかもと思ったけど
 
聞かないと何も始まらない。
 
 
意を決してそう切り出したけど、
♧は何も答えなくて…
 
 
「言えない」
 
「言いたくない」
 
 
泣きながらポツリポツリと
そんなことを言うだけで。
 
 
でも、何度も宥めて…
大丈夫だよって繰り返して…
 
 
隆)絶対に俺が守るから。
 
 
そう言うと
♧はやっと、口を開いてくれた。
 
 
泣きながら…
 
震えながら…
 
全てを話してくれて、
話し終えると、また意識を失った。
 
 
隆)…っ
 
 
俺はもう一度♧を医務室へ運んで…。
 
 
眠ってる♧の頭を撫でながら、
もう片方の手が怒りで震える。
 
 
……許せない。
 
絶対に許せない。
 
 
♧をこんなに傷つけて…
ここまでボロボロにして…
 
肉体的にも精神的にも追い込んで…
 
 
隆)ぶっ殺す……!!
 
男)ひ…っ
 
隆)!!!
 
 
その声に振り向くと、
氷とタオルを持ってきてくれた
館長さんが立っていた。
 
 
館)ごめんね、びっくりして…。
隆)いえ、すみません。
館)……随分…物騒だなぁ…w
隆)……
 
 
俺のさっきの言葉に
困ったように笑う館長さん。
 
 
館)何があったのかはわからないけど…
  怒りに任せて行動してはダメだよ。
隆)…っ
 
 
そう言って館長さんは
冷えたタオルを♧の頭に乗せてくれた。
 
 
館)大事な人が傷つけられた時、
  腹が立つのも許せないのもわかる。
隆)…っ
館)でも…一番大切なのは…
  その大事な人を
  それ以上傷つけないことだから。
 
 
♧を…これ以上…
傷つけないこと。
 
 
隆)……
 
 
俺は…
犯人を見つけたら
本気でぶっ殺してやろうって思ったけど…
 
それじゃあダメだ。
 
 
大事なのは…
♧をもう危険な目に遭わせないこと。
 
何がなんでも守ること。
もう泣かせないこと。
 
 
館)でも…
  ♧ちゃんのことを
  そんなに大事に思ってくれてありがとう。
隆)……っ
館)…支えて…やってね…。
隆)はい…。
 
 
♧の表情はさっきよりもラクになってて。
 
タオルが気持ちいいのかな…?
 
 
俺は♧の頭をそっと撫でて
部屋を出た。
 
 
電話をかけたのは健ちゃん。
 
俺一人じゃ冷静になれないし
相談したくて。
 
 
電話で大体のことを説明すると
同じくオフだった健ちゃんは
家具屋めぐりを切り上げて
すぐに駆けつけてくれた。
 
 
健)大丈夫か?!♧ちゃんは??
隆)まだ寝てる。
健)そうか。
隆)ごめんね、急に。ありがとう。
健)何言うとんねん!全然ええよ!
  作戦会議すんで!!
隆)うん。
 
 
俺は♧から聞いた情報を
全部健ちゃんに話した。
 
 
健)はぁ……最悪やな。
隆)……
健)盗聴器やろな、多分。
隆)盗聴器?!
健)おん。
隆)…誰が…そんな…っ
健)隣の男やろ。
隆)えっ!!!
 
 
やっぱりあの男!??
 
 
健)盗聴器は大体身近な奴が
  仕掛けるからな。
隆)だって…
  俺、♧の家の窓もドアも
  全部替えたよ?!
健)せやから…
  その前から付けとったんやろ。
隆)…っ
 
 
確かに…
前のあのボロいドアと鍵なら…
 
誰でも簡単にピッキングできる。
 
 
健)手紙の内容からしてもそうやん。
  ずっと前から盗聴してへんと
  わからんようなことも書いててんやろ?
隆)……
 
 
そうだった。
 
 
健)隣に住んでるから…
  帰ってきたタイミングもわかるし…
  手紙を入れた後も
  すぐ自分の部屋に逃げれる。
隆)…っ
健)AVの音で嫌がらせしたり…
  手紙で脅したりして…
  その反応を盗聴器で聞いてたんちゃう?
隆)クソ野郎…っ
健)落ち着け。
 
 
健ちゃんの手が
俺の握り拳を押さえた。
 
 
健)とりあえず証拠押さえな。
隆)…っ
健)お前の正体がバレてるってとこも
  要注意やな。
隆)…そんなの関係ない!
健)冷静になれ。
隆)…っ
 
 
だって…
 
 
健)♧ちゃんはお前に迷惑かけたないから
  ずっと言えへんかったんやろ?
隆)…っ
 
 
そんなの…
 
言ってくれたら良かったのに…っ
 
 
隆)俺が…この仕事してるせいで…
健)こら。
隆)いたっ
健)なんかのせいとか、悲観的に考えるな。
隆)…っ
 
 
でも……
 
 
健)そこをネタに脅してくるんやったら
  警察に突き出すまでや。
  とりあえず証拠押さえに行くで。
隆)え、…どうやって……
健)盗聴器仕掛ける場所なんて
  大体決まってんねん!
隆)…っ
健)検知器持ってくで。
隆)えっ…そんなん持ってんの?
健)100均に売ってるわそんなもん。
隆)……
 
 
なんか…
健ちゃんがすげぇ頼もしい。
 
 
健)もし見つかっても、
  ブチ切れて壊したりすんなよ。
隆)…っ
健)大事な証拠やからな。
隆)……はい。
健)部屋に入ったら喋るな。
  会話はLINE。
隆)はい。
健)ほんなら行くで!
隆)はい!!
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
私が目を覚ますと
隆二くんと健ちゃんが
心配そうに私の顔を覗き込んでて。
 
 
♧)び…っくりした……。
 
 
どうして健ちゃんがいるの…?
 
 
隆)良かった、さっきより少し
  顔色がいい。
 
 
隆二くんはそう言って
私のほっぺを優しく撫でてくれた。
 
 
♧)…っ
 
 
状況がつかめなくて…
 
からからに乾いた喉に
ポカリを流し込んで一息つくと、
 
健ちゃんと隆二くんが
ゆっくり説明してくれた。
 
 
♧)…盗聴…器……
健)うん、多分やけど。
  盗撮まではしてへんと思う。
♧)…っ
 
 
その言葉に、少し怖くなった。
 
もしも…盗撮だったら…?
 
 
だって…
 
毎日毎日…行動を把握されてて…
 
毎日部屋の中を監視されてる気分だった。
 
 
健)大丈夫やから。
♧)…っ
 
 
そんな私の不安を察してくれたのか
健ちゃんが優しく笑ってくれた。
 
 
健)どっちにしても、もう大丈夫。
  俺も隆二もおるから。
♧)…っ
 
 
でも…
 
 
♧)隆二くんに…何か…あったら…
隆)大丈夫だから!!
健)こんなガタイのええ元ヤンが
  変態ひょろひょろヲタクに
  負けるかいな!w
♧)え…?元ヤン…?
隆)余計なこと言わなくていいから、
  健ちゃん…//
♧)でも…っ
 
 
あの手紙の内容は…っ
 
 
♧)もしも隣の人じゃなかったら?!
健)…っ
♧)もしも…もっと怖い人だったら…
隆)……
♧)隆二くんが…何かされたら…
隆)大丈夫だって!!
♧)…でもっ
 
 
また涙が出てきた。
 
 
♧)隆二くんに…何か…あったら…っ
 
 
そう言いかけた私は
隆二くんの腕に力強く抱きしめられた。
 
 
隆)♧が俺のこと心配してくれるのは
  わかるけど…
♧)…っ
隆)俺だって同じように
  ♧のことが心配なんだよ…?
♧)…っ
隆)……わかってよ……。
 
 
隆二くんの声が…
少し震えてる…。
 
 
本当に私のこと…心配してくれてる。
 
 
♧)隆二くん…、…っ
 
 
ごめんね…
 
……ごめんね……
 
 
隆)♧はもう安心して。
  大丈夫だから。
 
 
そのあたたかい言葉と
優しいぬくもりが
 
心をゆっくり、落ち着かせてくれる。
 
 
健)ほなそろそろ行こか。
隆)うん。
健)まぁこんな案件で
  いきなりヤバい奴出てきたり
  ナイフ出てきたりとかないから。
  大丈夫やって。
隆)絶対大丈夫。
健)任しとき!!
 
 
私を安心させるように、
二人は何度も大丈夫って言ってくれて…
 
 
♧)…ありがとう…。
 
 
その優しさに、また涙がこぼれた。
 
 
 
それから私たちは施設を出て
 
健ちゃんの車に、
3人一緒に乗り込んだ。
 
 
 
 
 
ー続ー

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  1. NATSUKI より:

    健ちゃんカッコいい❗
    惚れ直した❗

  2. Omilove Morning より:

    めっちゃ健ちゃん頼もしい!!!
    めっちゃ続き気になるー!どうなるんやろ……。
    紅白歌合戦観ました?オープニングがヤバすぎてキュン死しましたw
    今年はお世話になりました!良いお年をー!

    • マイコ より:

      リムジンヤバかったね〜〜(●♡ᴗ♡●)
      今年もよろしく〜〜〜

  3. みー より:

    健ちゃん頼もしすぎるっ!さすが✧︎*。惚れ直したーっ( ¯﹀¯ )♡︎ʾʾ

  4. ユキ より:

    本当に健ちゃんは三代目の頼れるお兄ちゃん的存在ですよね
    マイコさんの更新読むの来年で3年目になりました(^^)これからも三代目story読みます
    それから話は変わりますけどEXILE再活動するのでポメちゃんは体壊さないで欲しいです(^o^)

    • マイコ より:

      そんな長くお付き合いいただいてありがとうございますヽ(*^ω^*)ノ

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