[141]本当の気持ち(岩&◇Side)

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♡ちゃんの家を飛び出して
駅までトボトボと歩いた。
 
 
このまま家に帰りたくなくて…
でも…
一人でカラオケ行ったり
飲みに行ったりする気にもなれなくて…
 
だからと言って
友達とかに連絡する気にもなれないし…
 
 
◇)はぁ……。
 
 
暗い気持ちのまま
電車を降りて家までの道を歩く。
 
 
♡ちゃんは…
あたしと一緒に泣いてくれて…
ほんとに素直で優しい子なんだよね…。
 
 
臣さんは…
必死に剛典を庇ってた。
 
きっと、過去の自分と今の剛典を
重ね合わせてる部分もあるんだと思う。
 
 
◇)……
 
 
一応あたしのことも
心配してくれてたんだろうに…
 
あたし、ひどいこといっぱい言っちゃった。
 
臣さんが悪いわけじゃないのに…。
 
 
◇)……
 
 
「俺は、過去のことはもう反省してるし…
 ♡に対して不誠実なことは
 一切してないししたくないし
 それは♡にも言ってるし誓えるから。」
 
 
そう言った臣さんの目は
本当に迷いがなくて、真っ直ぐだった。
 
 
「だから♡は誤解したりしない。大丈夫。」
 
 
信頼し合ってるんだろうな…あの二人は。
 
 
あんな風に大事にされて
愛されてる♡ちゃんが…羨ましい。
 
 
だってあたしは…
まだ付き合って2ヶ月も経ってなくて…
 
それなのにこんなことになって…
 
 
「俺は♡に会えて変わったし変われたし
 変わりたいって思えたし…
 岩ちゃんも…そうなんじゃないかな…。」
 
 
そんな風には、思えない。
 
 
「◇ちゃんに会って、好きになって…
 ◇ちゃんをこんなに泣かせて
 今すげぇ反省してると思う…!」
 
 
◇)……
 
 
もう、考えたくない。
 
知らない、剛典なんか。
 
 
あんなクソ野郎、死んじゃえって…
 
そう思ってる方が、まだラクで…
 
 
悲しみより怒りの感情でいる方が
ずっと…ラク…。
 
 
 
……
 
 
 

 
 
 
◇)…っ
 
 
……なん…で…
 
 
優)おかえり。
◇)……
 
 
なんで…いるの…?
 
 
 
やっと帰ってきたマンションの入り口で
しゃがんで待ってた優助。
 
 
優)少し…いい?
◇)……っ
 
 
えっと…
家に入れてあげた方がいいのかな…?
 
でも…
今日は桜もいないし…
どうしよう。
 
 
優)ここでいいから。
◇)…っ
 
 
優助って…
すぐに空気を読んで察してくれる。
 
 
◇)…な…に…?
優)……えっと…
  昨日…連絡先入れといたんだけど
  気付いた?
◇)え?
優)その…バッグん中。
◇)えっ!
 
 
そう言われてバッグの中を開いてみると…
 
 
◇)あ…っ
 
 
あった!!!
 
白いメモに…
携帯番号と、LINEのID。
 
 
◇)ごめん、気付かなかった。
優)そっか、なら良かった…。
◇)え?
優)捨てられたのかと思って…
  ちょっと心配だった。
◇)捨てたりしないよ!
優)……
 
 
あ、でも…
前にもらったやつは捨てたんだった…。
 
 
優)登録…してくれる?
◇)うん、する!
 
 
あたしがそう言うと、
優助は安心したように
「良かった」って笑った。
 
 
優)えっと…昨日、さ、……ごめん。
◇)……あ、……
 
 
そうだ。
 
いつの間にか優助はいなくなってて、
剛典がうちにいたんだ。
 
 
優)夜中に…あいつが来て…
  勝手に鍵開けた。
◇)……うん。
優)んで…、少し…バトった。
◇)え?!!
 
 
バトったって…
ええ!??
 
 
優)あいつから何も聞いてない?
◇)うん…。
 
 
剛典は何も言ってなかったもん…
 
 
優)勝手に…なんか…ごめん。
  俺…すげぇムカついて。
◇)……
 
 
まさか…
殴り合ったりはしてないよね?!
 
 
優)向こうも…相当俺にムカついてたと
  思うけど…
◇)……
 
 
一体…何話したの…
 
 
優)女泣かす奴なんて、ろくでもないよ。
◇)…っ
優)ましてや、自分の大事な女
  泣かせるなんて…。
◇)……
優)昨日…◇がすげぇ泣いてるの見て…
  俺なら絶対こんな泣かせないのにって…
◇)……
優)絶対大事にするのにって、
  …そう思った。
◇)……
 
 
優助の真剣な眼差しが、あたしを射抜く。
 
 
優)ほんとは…俺がそばにいたかった。
◇)……
優)泣いてる◇のそばに…
  朝まで一緒にいたかった。
◇)…っ
 
 
そんな切ない顔して…言わないでよ…。
 
 
朝…
起きたらあたしを抱きしめてたのは
剛典だった。
 
 
優)仲直りしたのかな…とか
  もう泣いてないかな…とか…
  今日もずっと気になってて…
◇)……
優)勝手に押しかけて…ごめん。
◇)……ううん…。
優)……
◇)……
優)…あいつのこと…まだ…好き…?
◇)……っ
 
 
その問いに、あたしは答えられない。
 
 
今は…
考えたくないの…。
 
 
優)ああ、ごめん…っ
  泣かせるつもりじゃなくて…っ
◇)…っ
 
 
優助は慌ててあたしを抱きしめた。
 
 
頬を伝っていく涙の感触に
自分がまた泣いてるんだって、気付かされる。
 
 
優)ごめんな…。
◇)……
 
 
優助が悪いわけじゃないのに…
どうしてこんなに優しく
抱きしめてくれるの……
 
 
◇)好きじゃないよ、あんな奴…っ
 
 
声が…震える。
 
 
◇)好きなわけない。大っ嫌い。
優)…っ
 
 
だって……
 
 
◇)…そう思ってないと…
  苦しくて…息が出来なくなる…っ
優)……
◇)大っ嫌い。大っ嫌い。大っ嫌い。
優)うん…。
◇)…っ
 
 
そんな優しく…返事しないで…
 
そんな優しく…頭…撫でないで…
 
 
このまま…
この腕に…甘えてしまいたくなるから…。
 
 
……キィ。……バタン。
 
 
◇)……
優)……
 
 
車が停まってドアが開く音がしたけど…
あたしは優助に抱きしめられたまま。
 
 
しばらくすると
足音がこっちに向かってきて…
 
 
岩)◇……?
 
 
聞き慣れた声が、耳に届くと
 
 
優助があたしの姿を覆い隠すように
さらにぎゅっと抱きしめた。
 
 
岩)お前…
  もう二度と来んなって…言ったよな…?
 
 
剛典の声が
一瞬で怒りに満ちたのがわかった。
 
 
優)お前にそんなこと言われる筋合いねぇって
  言ったはずだけど。
◇)…っ
 
 
さっきまで優しかった優助の声も
全然知らない人みたいで…
 
優助の腕の中であたしは…
心臓がバクバク騒ぎ出す。
 
 
岩)人の女に何してんの…?
優)……
岩)離せよ。
優)……
岩)お前…マジでぶっ殺すよ…?
優)…それでも…離さないって言ったら…?
岩)…っ
 
 
どうしよう…
心臓がバクバクうるさくて…
足が…震える…。
 
 
優助がずっとぎゅってしてくれてるから…
剛典の顔は見えないんだけど…
 
 
岩)離せって言ってんだよ…ッ!!
優)絶対離さねぇ…ッ
◇)…っ
 
 
優助は剛典に腕を掴まれて
でもそれを思い切り振り払った。
 
 
あたしは…
剛典の顔を見たくなくて…
優助にぎゅっと…しがみつく。
 
 
岩)……
優)……
◇)……
 
 
……ぎゅ…っ
 
 
岩)◇……
◇)…っ
岩)…それが…お前の…答え…?
 
 
優助にしがみついたままのあたしに
剛典が泣きそうな声で、そう言った。
 
 
◇)…っ
 
 
思わずあたしは優助から離れて…
 
 
岩)……
◇)……
 
 
やっとあたしの目に映った剛典は…
やっぱり泣きそうな顔で、あたしを見てた。
 
 
どうして…
 
どうしてこんなに胸がズキズキするの…。
 
 
岩)……
◇)……
優)……
 
 
しばらく…沈黙が続いて…
 
あたしが何も言えなくて俯くと…
 
 
優)俺…帰るね。
 
 
優助がそう言って、あたしの頭を撫でた。
 
 
顔を上げると、
優助はすごく優しい顔であたしを見てて…
 
 
優)大丈夫だから。
◇)…っ
優)なんかあったら連絡して。
  すぐに飛んでくるから。
◇)…っ
 
 
その言葉に、自分でもびっくりするくらい
心がほっとした。
 
 
優)な。
 
 
優助は優しくあたしの頭を撫でて…
優しく笑って…
 
その後、あたしが見たことないような顔で
剛典を睨みつけて
マンションを出て行った。
 
 
◇)……
岩)……
 
 
残されたあたし達は…
やっぱり沈黙で…。
 
 
岩)……家…入れてくれる…?
 
 
遠慮がちにそう言われたけど…
あたしは返事できなくて…
 
 
岩)撮られたりしたら…
  お前にも迷惑かけるから…
  中で話させて。
 
 
そう言われて断れなくて、
あたし達はマンションの中に入った。
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
朝、あんな別れ方をしたから
今日の撮影が終わってすぐに
もう一度、◇に会いに来た。
 
 
まさかそこで
他の男に抱きしめられてる場面に
出くわすなんて、
 
思ってもみなかったけど。
 
 
俺がいるって…わかってるのに…
俺の目の前で他の男にしがみつく◇を見た時、
心は一瞬で絶望に支配された。
 
 
マジで俺…
捨てられんのかな…って…。
 
 
岩)……
◇)……
 
 
部屋に入ると…
◇は床にバッグを置いて
ベランダのカーテンを閉めた。
 
その腕に、サンストーンは光ってない。
 
 
俺がその場に立ち尽くしてると…
 
 
◇)…座れば…?
 
 
力なくそう言われて…
俺は静かにソファーに腰掛けた。
 
 
岩)……
◇)……
 
 
◇はこっちを見ないまま…
閉め切らないカーテンの隙間から
空を見上げてる。
 
 
……今、何考えてる…?
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
岩)…こっち…来て…。
◇)……
 
 
後ろからそう言われたけど…
 
 
◇)剛典の顔、見たくない…。
 
 
窓の外を向いたまま、そう答えた。
 
 
岩)……全部…話すから…
  聞いてくれる…?
◇)……
 
 
全部って…何を話すの…。
 
 
岩)俺のこと軽蔑するかもしれないし…
  嫌いになるかもしれないけど…
◇)……
 
 
もう…嫌いだもん…。
 
 
岩)それでも…全部話すから…
◇)……
 
 
そう言った剛典の声は…
覚悟を決めたような、泣きそうな声で。
 
 
さっきから…
そんな弱いところ…見せないでよ。
 
 
あたしが…
 
泣きそうになるから。
 
 
岩)朝も…言ったけど…
◇)……
岩)俺は…お前が好き。
◇)……
岩)信じてもらえなくても…
  好きだから。
◇)……
 
 
そんな「好き」…いらないもん…
 
 
岩)でも…俺は実際に…
  今まで散々遊んできたし…
◇)……
岩)お前が最低だって思うようなことも
  数え切れないくらいしてきた。
◇)……
岩)好きでもない女とでも
  平気でヤれるし…
  飲みに行ったら大体そうなるし…
◇)……
 
 
……最低。
 
 
岩)こんな仕事してたら…
  お前が言う馬鹿女みたいなのが
  いくらでも寄ってきて…
  馬鹿みてぇって思いながら…
  それでいいって思ってた。
◇)……
岩)誰も俺のことなんて
  ちゃんと見てなくて…
  俺も今は仕事に集中したいし…
  適当に遊んで適当にストレス発散して…
  それでいいんだって思ってた。
◇)……
岩)周りもみんなそんなんだし…
  それでいいって…思ってたのに…
◇)……
岩)どこかで…気付かないうちに…
  フラストレーションみたいなのが
  溜まってて…
◇)……
岩)適当に遊んでんのも
  馬鹿馬鹿しくなってきて…
  遊んでは嫌になってやめて…
  また遊んで…
  そんな馬鹿みたいな生活、繰り返してた。
◇)……
 
 
窓ガラスに映る剛典は…
まっすぐにあたしの背中を見ながら話してる。
 
 
岩)でも…お前に会って…
  お前は他の女と違って…
  すっげぇ俺のことボロクソ言うし…
◇)……
岩)お前の前では俺…いつもカッコつかなくて
  すげぇダサくて…
◇)……
岩)そんな俺を馬鹿にして
  ケタケタ笑うお前が、
  なんか気持ち良かった。
◇)……
岩)俺のこと…
  全然「岩ちゃん」って見ないお前が
  なんか…嬉しかった。
◇)……
岩)いつも…ハッとさせられるようなこと
  サラッと言ったりして…
  俺の気持ち…かっさらってくし…
◇)……
岩)自分のこと、誰かにわかってほしいなんて
  そんな風に思うこと、
  あまりなかったのに…
  お前にはわかってほしいって…
  ちゃんと伝えたいって…
  思うようになって…
◇)……
岩)お前といると…
  自分でも知らない自分に
  気付かされることがいっぱいあった。
◇)……
岩)あっという間に好きになった、
  お前のこと。
◇)……
 
 
振り向きもしない、目も合わさない。
 
そんなあたしに、
剛典はゆっくり丁寧に、話してくれる。
 
 
あたしはただ、
カーテンをギュッと…握るだけ。
 
 
岩)全然俺のこと…男として見てくれなくて…
  いつもは口悪ぃのに…
◇)……
岩)たまに笑ってくれた時とか
  素直な時とか…
  めちゃくちゃ可愛くて…
  もっと俺に甘えてくれたらいいのにって
  そう思うようになって…
◇)……
岩)お前が恥ずかしがったりしながらも
  たまに素直に甘えてくれたりすると
  死ぬほど嬉しくて…
◇)……
岩)可愛くて可愛くて、仕方なかった。
◇)…っ
岩)どんどん惹かれて…好きになって…
◇)……
 
 
剛典の言葉に…
目に涙が溜まってくる。
 
 
岩)好きだなって、とっくに思ってたのに…
  俺は馬鹿だから
  他の子とも…遊んだりしてて…
◇)……
岩)今までと同じように、
  そういうこと…してた。
◇)……
岩)好きになられたら面倒くさいから
  適当にかわしたり…
  彼女いるから好きになるなとか
  適当な嘘ついたり…
◇)……
岩)そこに罪悪感なんて少しもなくて…
  平気でそういうことしてた。
◇)…っ
岩)あの頃ちょうど…
  ♡ちゃんが家出して
  揉めてた時だったけど…
  俺は♡ちゃんが理解出来なかったし
  臣さんが可哀想だぐらいに思ってたし…
◇)……
岩)どうでもいい女とするSEXなんか
  ただのストレス発散みたいな
  無意味な行為でしかなくて…
  そんなのと恋愛感情は全く別なのにって
  ……そう思ってた。
◇)……
 
 
臣さんと…
同じこと…言ってる。
 
 
岩)さすがに…
  付き合ってる時だったら浮気になるけど…
  そうじゃないし、って…
◇)……
岩)だから…
  いくらそういうことしても…
  俺が好きなのはお前だし…
  自分の中では矛盾はなかったんだけど…
◇)……
岩)お前が…
  泣いちゃうと思う、って…
◇)…っ
岩)怒るより悲しくて…
  泣いちゃうと思うって…
  言ったの…覚えてる…?
◇)……
 
 
それは…
 
 
「もしも◇の好きな相手が
 そーゆー男だったらどーすんの?」
 
 
そう聞かれた時だっけ。
 
そういえば…そんなこと言った。
 
 
岩)あん時のお前の顔見て、
  なんかもう…わかんなくなって…
◇)……
岩)俺にとってはこんなに無意味なことでも
  お前は傷つくのかな…って…
◇)……
岩)泣いたりすんのかなって…
◇)……
 
 
窓ガラスに映る剛典が俯いて…
あたしがゆっくり振り返ると、
 
 
岩)そんなこと考えたら…なんか…
  苦しくなって…
◇)……
岩)そこからは、できなくなった。
◇)……
 
 
剛典が苦しそうに、そう言った。
 
 
「俺たちバカだから…
 好きな子の涙を見て
 初めて気付くこともたくさんあって…」
 
 
臣さんの言葉が、蘇る。
 
 
◇)……
 
 
剛典…
後悔…してるの…?
 
 
「そこから後悔してももう遅いし
 過去なんて消したくても消せないんだけど
 でもほんとに…
 反省…してると思う。」
 
 
◇)……
 
 
そうなんだろうか…剛典も…。
 
 
岩)…初めて…お前が…
  俺のこと…好きって言ってくれて…
◇)……
岩)すげぇ可愛くて…嬉しくて…
◇)……
岩)いつもはツンデレで
  素直じゃなかったりするけど…
  そこも可愛くて…
◇)……
岩)いっぱい甘えさせてやりたいって…
  ずっと…そばにいたいって…
  付き合ったあの日、そう思った。
◇)…っ
 
 
そう言われて蘇る、
サプライズづくしのあの夜。
 
 
岩)好きな相手と…
  心が通じて、身体が繋がるって…
  こんなにめちゃめちゃ幸せなんだって…
◇)…っ
岩)お前が…教えてくれた。
◇)……
 
 
剛典は顔を上げて、
愛おしそうにあたしを見つめる。
 
 
ガラス越しじゃなくて…
まっすぐに重なる視線。
 
 
岩)ほんとに好きだって思って…
  大事にしたいって…
  愛しい気持ちでいっぱいになった。
◇)…っ
 
 
それは…
あの時のあたしの気持ちと一緒で…
 
あんなに満たされて
幸せって思った夜、
 
あたしは一生忘れない。
 
 
岩)俺…馬鹿だし…
  お前から見たら…
  どうしようもない男だと…思うけど…
◇)……
 
 
涙で滲む視界の先で、
剛典の目にも涙が溜まってるのが見える。
 
 
岩)お前のこと好きだって思った気持ちも
  大事にしたいって思った気持ちも…
  全部…嘘じゃなくて…ほんとで…
◇)…っ
 
 
なんで…泣くの…
 
やめて……
 
 
岩)こんなに…失いたくないって思うのも…
  自分でわけわかんなくなるくらい
  必死で好きなのも…
  お前が…初めてで…っ
◇)…っ
 
 
もう…あたしの顔も…
濡れて…ぐちゃぐちゃで…
 
 
岩)お前がもう…俺のこと信用できなくても…
  俺は…お前が…好き…っ
◇)…っ
 
 
瞳から溢れ落ちる涙を
剛典は気にも留めずに雑に振り払う。
 
 
岩)いっぱい…傷つけて…
  いっぱい…泣かせて…
  …ほんとに……ごめん……。
 
 
そんな…泣きながら…言わないで…
 
 
◇)…っ
 
 
あたしは…
気付いたら…剛典の元に…歩み寄ってた。
 
 
泣いてる剛典の頭を…
撫でてあげたいのに…
 
身体は動かない。
 
 
そんなあたしを、剛典が見上げて…
 
 
岩)ほんとに…ごめんな…。
 
 
そう言って、あたしの手をそっと握った。
 
 
◇)…っ
 
 
その手のぬくもりに、
また涙がいっぱいあふれてきて…
 
 
◇)ふ…ぇ…っ
 
 
それに気付いた剛典は、
立ち上がってあたしを抱きしめた。
 
 
岩)ほんとに…ごめん……
◇)…っ
岩)ほんとにほんとに…ごめん。
◇)…っ
 
 
ぎゅって…
腕の中に…閉じ込められて…
 
あたしを抱きしめる剛典の腕は
少しだけ、震えてる…。
 
 
岩)俺は…お前が好き…。
◇)…っ
岩)ほんとに…。
◇)…っ
 
 
朝と同じ…繰り返し。
 
 
あたしはまた…
剛典の背中をぎゅっと掴んでて…
 
この手を、離したくない…。
 
 
岩)お前と一緒にいる時間が…
  俺はほんとに幸せだから…
◇)……
岩)全部忘れるって言われたのが…
  ほんとに…痛かった…。
◇)…っ
 
 
…あれは……
 
 
岩)忘れて…ほしく…ないし…
  俺は死んでも忘れたくない…。
◇)…っ
岩)でも…お前は…忘れたいくらい…
  俺のことが嫌で…
  俺がそれだけ傷つけたんだって…
◇)……
岩)ほんとに……ごめん……っ
◇)…っ
 
 
胸が…苦しい…。
 
 
そんなに…泣かないで…。
 
 
岩)でも…自分勝手だけど…
  最低だけど…
  頼むから…忘れないで…。
◇)…っ
岩)まだ…短いかも…しんないけど…
  好きだって思った気持ちとか…
  全部…嘘じゃないから…っ
◇)……
岩)こんなにお前のこと、好きで…
  愛しいって、大事だって…
  そう思う気持ち、嘘じゃないから…
◇)…っ
 
 
そう言って、
剛典の腕はもっとぎゅっと
あたしを抱きしめた。
 
 
岩)……好きだよ、◇…。
◇)…っ
 
 
……あたしだって……
 
こんなに……
 
 
岩)好きだよ…。
◇)……
 
 
ダメ、涙が…止まらない…。
 
 
岩)……ほんとに…ごめん。
◇)……
 
 
あたしも好きって
そう言えたらいいのに……
 
 
………傷はそんなに、浅くない。
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
いくら抱きしめたって…
 
いくら好きだって伝えたって…
 
 
そんなんで◇の気持ちが戻ってくるなんて
思ってない。
 
 
でも…
俺は気持ちを伝えるしか出来ないし…
 
泣いてる◇を抱きしめる腕を、ほどけない。
 
 
泣かせてごめん…
傷つけてごめん…
 
 
どうして…
 
どうしてこんなに好きで…
こんなに大事なのに…
 
俺、あんなバカなことしたんだろう…。
 
 
今更後悔しても遅いし
どうにもならないんだけど…
 
 
腕の中に抱きしめてる◇を
愛おしいと思えば思うほど
 
バカな過去の自分が
嫌で嫌で、仕方なくなる。
 
 
岩)……
◇)……
 
 
静かに腕を緩めると…
 
涙に濡れた瞳で俺を見上げる◇は
 
俺の頬にスッと手を伸ばして…
 
 
◇)……
 
 
何も言わずに、俺の涙の跡を拭ってくれた。
 
 
岩)……っ
 
 
小さな手の、やさしい感触に…
胸がぎゅっと掴まれる。
 
 
男のくせに…こんなに泣いて…
ほんとカッコ悪いよな、俺…。
 
 
でも…
◇の前ではいつもカッコつかないし…
これがほんとの俺だから…
 
今更取り繕っても仕方がない。
 
 
◇)泣か…ないで……
 
 
そう言って俺の頬を撫でてくれる◇こそ
涙で顔がぐしゃぐしゃで…
 
 
俺も同じように、
その涙の跡を手のひらで包んで…
親指でそっと拭った。
 
 
岩)……
◇)……
 
 
吸い込まれそうなくらい…
綺麗な瞳。
 
 
まだ離れたくなくて…
俺はもう一度、◇を抱きしめた。
 
 
今はもう…
◇の気持ちがわからない。
 
さっきの男に惹かれ始めてるのか…
まだ俺のことを少しでも、
想っていてくれてるのか。
 
 
◇)……あた…し……
岩)…っ
 
 
腕の中で、小さく言葉を発した◇に
心臓がバクバクと音を立て始める。
 
 
◇が…
今の気持ちを伝えようとしてくれてるのが
わかったから。
 
 
 
◇)…あたし…、……距離…置きたい…。
岩)……っ
◇)そんな…すぐに…
  戻るような気持ちには…なれない…。
岩)…うん……。
 
 
距離…、か。
 
 
◇)でも…そんなの嫌なら…
  剛典が別れたいなら、別れる。
岩)……は?!
 
 
俺は慌てて
抱きしめてる腕に力を入れた。
 
 
岩)別れたいわけないじゃん!!
◇)…っ
岩)俺は…こんなに……
 
 
お前のことが…好きなのに…
 
 
◇)でも……
  …時間おいても…
  戻る気持ちになれないかもしれない…。
岩)……っ
 
 
だから…
無駄に待たせる可能性があるから
別れてもいいってこと…?
 
俺の気持ち…ナメてる…?
 
 
岩)俺、いつまででも待つよ?
 
 
そんなんで別れるなんて
死んでも言うわけないだろ。
 
 
◇)離れてる間にいい人いたら
  そっちと付き合えばいいよ…。
岩)…っ
 
 
なんで…そんなこと言うんだよ…
 
 
◇)時間おいて…距離おいて…
  それでもやっぱり無理って…
  なるかもしれないし…
  自分でも…わかんないもん…
岩)……
 
 
それだけ、◇の傷は深くて…
 
それは全部全部、俺のせい。
 
 
◇)剛典があたしのこと
  好きって想ってくれてる気持ちは
  …わかった…けど……
岩)……
◇)人の気持ちなんて変わるから…。
岩)…っ
◇)別にあたしじゃなきゃダメな何かなんて
  ないと思うよ……。
岩)……
 
 
力のない声で、そんなことを言う◇が
悲しくて…
 
いくらこうして抱きしめても、
伝わらない、俺の気持ち。
 
 
岩)お前が距離置きたいっていうなら
  それでいいよ…。
◇)……
岩)でも俺は、絶対気持ち変わんないから。
◇)……
岩)……
◇)「絶対」なんて…ないよ…。
岩)あるよ。
◇)…っ
 
 
絶対に失いたくない、お前のこと。
 
 
岩)俺はお前が好きだから。
◇)……
岩)離れてても、好きだから。
◇)……
岩)離れてても、電話もLINEもする。
◇)…っ
岩)嫌なら無視していいよ。
◇)……
岩)でも、俺はするから。
◇)……
 
 
離れてる間に、忘れられたくない。
少しでも繋がってたいから。
 
 
◇)……もう…帰って。
岩)……
◇)……
岩)……わかった…。
 
 
呆れるくらいずっと抱きしめてたら…
そう言われて。
 
 
でも、今朝と違うのは
玄関まで見送ってくれること。
 
 
岩)……
◇)……
 
 
靴を履いて振り返ると、
◇は俯いたままで…
 
 
岩)……
◇)……
 
 
何度こうやって、見送ってもらっただろう。
 
いつもキスをして、
行ってらっしゃいって…笑ってくれて…
 
 
岩)…っ
 
 
そんなことを思い返すと
また泣きそうになるけど…
 
 
岩)◇……、
 
 
そっと◇の頬に手を伸ばせば、
◇がゆっくりと顔を上げた。
 
 
岩)……
◇)……
 
 
好きだよ。
 
信じてもらえなくても…
伝わらなくても…
 
 
俺は、お前が好き。
 
 
その気持ちを全部全部、込めるように
そっと顔を近付けて…
 
◇の頬を包んだまま…
柔らかい唇に、想いを重ねた。
 
 
好きだって…
 
愛しいって…
 
 
キスから全部全部、伝わるように。
 
全部全部、流れこむように…。
 
 
……◇は…
抵抗することなく、
俺のキスを受け止めてくれて…
 
そっと唇が離れると…
 
 
俺の気持ちを確かめるように
俺の瞳を真っ直ぐに見つめた。
 
 
岩)好きだよ。
◇)……
 
 
名残惜しい気持ちでそう告げて、
最後にもう一度だけ、キスをして。
 
 
俺は◇の部屋を後にした。
 
 
 
 
 
ーendー

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  1. りん より:

    はじめまして!
    いつも楽しく読ませてもらってます!( ^▽^)
    距離をおくか………
    絶対優助出てくるじゃん!(ToT)
    岩ちゃん諦めないで頑張ってー!

    • マイコ より:

      りんさん(o^^o)いつもありがとうございます♡
      優助ガシガシ出てきます、よろしくw

  2. さゆがん より:

    マイコさんの文才天才的すぎて。。。尊いです✦ฺ◇ちゃんの絶妙な心理的距離のバランスがもう素晴らしすぎます。帰り際のキスも好きな気持ちがあるからこそ拒絶しなかったんですよね⁈少しは傾いてきてそうだけど粘れタカノリ‼︎

    • マイコ より:

      おおおお…┣¨‡ (♡°ω°♡)┣¨‡
      ありがとうございますw
      剛典…男の見せ所やで…!!諦めずに頑張れ〜!!

  3. ユキ より:

    ポメちゃん泣いてたね
    距離を置いて臣君カップルみたいイチャイチャラブラブモードして欲しい
    マイコさん来年三代目オリジナルアルバム出るの楽しみですね
    隆二君と臣君のソロのアルバム付きだから凄く嬉しいですね(^.^)

    • マイコ より:

      アルバム楽しみ〜〜((((o゚▽゚)o)))
      でもソロより三代目の新曲が楽しみだなっ♪
      いい加減ラブソング歌ってくれ〜〜〜

  4. のんちゃん より:

    岩ちゃんも岩ちゃんなりに後悔してるんだ
    岩ちゃん頑張って伝えた事、きっと♢ちゃんにだって伝わったと思うよ。♢ちゃんは、♢ちゃんなりに辛いし、岩ちゃんは岩ちゃんなりに辛いんだよね(涙)
    臣くんと、♡ちゃんみたいに絆が強く深まって岩ちゃんも♢ちゃんと元に戻れるかなぁ。優男くん応援してたけど、何だか馴れ馴れしい感が出てて嫌!

    • マイコ より:

      あら。優助まだまだ出てくるよ…ごめんね…。゚(゚^∀^゚)゚。ww

  5. 明日花 より:

    距離置いちゃうの~?。まぁ流石にすぐには仲直り出来ないけどね。
    岩ちゃんの顔見たくないって言ったのに、振り返った時はもう、心がじーんとなりました!
    今の岩ちゃんは距離置いても絶対◇ちゃんの事想い続けている事を信じてます!
    もう本当に感動します!

    • マイコ より:

      そうなの!。゚(゚´ω`゚)゚。
      心動かされて振り返ったんだよぅ!
      そこ気付いてくれてありがとう!

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