【162】初LIVE(谷本さんSide)

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今日はいよいよ
♡さんのミニLIVEの日。

♡さんは会社のイベントか何かで
今日は大阪から戻ってくるらしい。


会場の入り口で待っていると
♡さんが走ってやってきた。


♡)谷本さん!
  おはようございます♡
谷)♡さん!おはようございます。
  どうですか、調子は!
♡)えっ、調子…は…
  元気です!!!w
谷)はい、元気そうですねw
  緊張してますか?
♡)今のところ大丈夫です♡
谷)それは良かった。


小さい箱とはいえ
初めて人前で歌うわけだから
少しは緊張してるのかなと心配してたけど
いつも通りの可愛い笑顔。

ほっと一安心。


そのまま控え室に入って
今日の出演者の人たちにご挨拶。


♡)どうぞよろしくお願いいたします♡
男)わぁっ…可愛いねぇ!!
  谷ちゃんとこの新人?
谷)ああ、いえ。微妙なところですw
男)ああ、そうなの?よろしくねーー♡
♡)はいっ♡


♡)今日はよろしくお願いします♡
男)ああ、ご丁寧にありがとう。
女)可愛い……
  谷本さんのところの子?
谷)今…いろいろ準備中ですw
女)あら、そうw
  華がある子ね♡
谷)ありがとうございますw


うーん…
少し挨拶して回っただけで
みんな♡さんの笑顔にメロメロだな。

スカウトした俺としては
鼻高々なんだけど…

松浦さんからは
早くYESと言わせろって急かされてるし…
どうしたもんかなぁ…


♡)わぁ!谷本さん!
  この衣装すごく可愛いです♡


本当はこんな小さなイベントなんて
みんな私服だし
衣装なんて必要ないんだけど

♡さんが着たら
絶対似合うし可愛い!!!
と思う服を見つけてしまって
勝手に自分が用意しました、はい。


♡)これ着ていいんですか?♡
谷)はい。
♡)わぁぁぁ♡
  ありがとうございます♡
谷)……//


ああ…そんな喜んでもらえるなら
用意して良かったです。


本当は…
今日のイベントはうちの会社は関係ないし
俺が来る必要もなかったんだけど

♡さんの初ステージなんて
一ファンとしては観たいに決まってる。

松浦さんから
動画を撮ってこいっていう指令もあるし。


♡)谷本さん見て見て〜〜♡
谷)…っ


着替え終わった♡さんが
俺の前で無邪気にくるっと一回転した。


♡)どうですか?♡
谷)か、可愛いでし…///
♡)あははっっw
谷)////


思わず噛んでしまった。

いや、でも本当に…

この衣装を選んだ自分を褒め称えたいほど。

七色のパステルのロングワンピースを
ヒラヒラと広げながら
ニコニコ笑うその姿は

天使…
いや、妖精?
いや…天女か??

その立ち姿だけで
凡人とは明らかに違うオーラがある。

もうすでに歌姫のような輝きを放つこの子が
あんなすごい歌を
今からステージで披露するなんて

いろんなステージを散々見てきた俺でも
鳥肌が立つくらい興奮する。


♡)えへへへ♡
  すごく楽しみになってきたぁ♡
谷)////


可愛いなぁ…ww


俺は…♡さんの出番を一番最後にしてくれって
頼んだけど…

まぁ名無しの素人の要求が
通るわけもなく。

♡さんは7組いる中で
2番目にステージに上がる。


バタバタバタッッ


男)お、やっときたな、トップバッター!
瞬)やっべぇ!超ギリ!!
男)もう始まるぞーーー
瞬)うああっっww
♡)あれ…っ、瞬?!!
瞬)…っ


長身のイケメンが振り向いた。


瞬)え!!姉ちゃん!!!
  え、え、何してんの!!!
♡)えええっ!本物だぁっ!!


え、え、「姉ちゃん」?!
♡さんの…弟?!!


瞬)え、まさか…姉ちゃんも出んの?!
♡)うん!
瞬)え、もしかして…
  俺の次の「NO NAME」って
  姉ちゃん?!w
♡)うん!それー!
瞬)まじかよ!!www
男)え、瞬の姉ちゃんだったの?!
女)さすが瞬の姉ちゃん。美人なわけだ。
瞬)すげぇびっくり。え、何歌うの?
♡)『花火』と『Happiness』だよ♡
瞬)え、『花火』って三代目の?
♡)うん!
瞬)え、音源は?
♡)普通のだよ?
瞬)え、俺弾いてやろうか?
♡)えっ!!
瞬)ギターで。
♡)えっ!!
瞬)姉ちゃんの声は楽器一本とかの方が
  映えるよ。
♡)え……


♡さんが俺を見た。

いきなり現れたイケメン弟君の提案は
確かに間違いない。

♡さんの歌なんて
本当はアカペラで聴かせたいくらいなんだ。


谷)では、順番を入れ替えて
  『Happiness』を先に歌ってください。
♡)えっ
谷)その後にギターで『花火』。


その方が絶対にいい。


♡)わかりました…
  なんか…急にごめんなさい。
谷)いえいえ、全然いいんですよ!
  楽しみにしてます。
♡)はい。
谷)それじゃあ僕は客席に行ってますね?
♡)はい!!


とりあえず音響に変更を伝えて
俺は客席へ。


しばらくすると照明がついて、
♡さんの弟が現れた。

本当にイケメンだな。


どんな歌を歌うんだろうと
興味津々で耳を傾けていると

さすが♡さんの弟。
なかなかいい声をしてる。


それにこんな小さな箱なのに
彼のファンらしい子もたくさん来ている。


女)瞬ちゃんの歌は本当にいいわぁ…
  ぐすっ…ぐすっ
谷)…っ


隣にいたマダムが泣き始めた。
瞬くん…ファン層が広いな…!!


瞬くんが二曲終わって一旦はけると
♡さんがステージに上がった。


ワァァァッ………


それだけで歓声が上がって、
鳥肌が立つ。


彼女は本当に可愛い。
でも…

可愛いだけじゃなくて、
人を惹きつける力がすごい。

天性の…才能。


♡さんが軽く挨拶をした。
今のところNO NAMEのままだから
自己紹介できないのがかわいそうだな…


『Happiness』のイントロが流れて
♡さんが笑顔で歌い始めると

客席がシーンと静まり返った。


谷)……っ


ああ…そうだ。
たまにある、この感覚。

大物だろうが素人だろうが関係ない。

簡単には生まれない、この空気間。


そう。


観客が…

見とれているのがわかる瞬間。

息を飲んで、彼女の姿を見つめてる。


そんな視線を浴びながら
笑顔で歌う彼女の姿は、やはり天女のようで…

そのやわらかな歌声は…
この小さな会場なんて
簡単に飲み込んでしまうようだった。


ああ…

彼女はこの小さなステージには勿体無い。


俺は心底そう感じた。


♡)ありがとうございました♡♡


彼女が一曲歌い終えると
会場からは拍手の嵐で…

約束通り、後ろから瞬くんが出てきた。


そのサプライズ登場に
彼のファンがどよめいて

それに気付いた彼が機転を利かせて
マイクを手に取った。


瞬)また出てきちゃいました、すいませんw
  ええと、いきなりなんですけど
  「姉」ですw


女)姉っ?!
  あの可愛こちゃん、瞬ちゃんの
  お姉ちゃんだったの!?
谷)……


隣のマダムの目が大きく見開いた。


瞬)なので急遽コラボしまーすw


瞬くんが椅子に腰掛けて頷くと
♡さんは『花火』の出だしを
アカペラで歌い始めた。


いつの間にそんな打ち合わせをしたのか。


突然変わった彼女の声色に…
切なく胸を締め付けられるような歌声に…

また会場が、一瞬で飲み込まれた。



観客が目を奪われてるうちに
ギターが優しく入ってきて…

この曲をギター一本でなんて
聞いたことがなかったけど

雰囲気がガラッと変わるし、何より…
女性の声で…いや、違うな。
♡さんの声でこんな風に歌いあげるから…

知ってる曲なのに
全く違う表情を見せるんだ。


もともと女性詞のこの歌は
突然現れた歌姫によって
また違う輝きを放つ、
切ない恋の歌に生まれ変わった。


この瞬間を一瞬も撮り逃すまいと
俺は必死でカメラを向ける。


彼女が歌い終えると
拍手は鳴り止むことはなくて
ステージからその姿が消えると
一瞬アンコールが沸き起こった。

でもタイムテーブルもあるし…
我に返った人たちは
すぐに大人しくなって

3組目の歌い手がステージに現れた。


こんな雰囲気の中じゃ
かなり歌いにくいだろうなぁ…
だから彼女をトリにしろと言ったのに。


とりあえず任務を終えた俺は
控え室に戻った。


男)丁度1ヶ月後に
  もう少し大きい箱でやるんだよ。
女)ね、あなたも出て!!
♡)あの…っ


ああ…
歌姫にはもうチャンスが舞い込んでる。


男)デビュー予定とかないの?!
女)今回が初めてって本当!?
♡)はい……


少しうろたえた様子の歌姫が
俺の姿に気付いて…


♡)あ!谷本さんっ♡
谷)お疲れさまです。
♡)お疲れさまです♡


パタパタとかけよってきた。


♡)緊張しましたぁ//
谷)またまたw
  すごく堂々としてましたよ?
♡)えーーっ!!
谷)動画もバッチリ撮れました♡
♡)わぁっ


ピロリロリロ♪ピロリロリロ♪


早速BOSSからの連絡だ。


谷『はい、谷本です。』
浦『LIVE終わったかー?』
谷『……』
浦『2番手だったんだろ?
  もう終わったんじゃねーの?』


気になって仕方なかったんだろうな…w


谷『終わりましたよ。
  動画も撮りました。』
浦『ご苦労w
  ♡連れて戻ってこいよ。』
谷『え、会社にですか?』
浦『うん。まだ俺時間あるから。見たい。』
谷『わかりました。』

ピッ。


本当はあの人…
生で見たかったんだろうなぁ…w


谷)♡さん、今から一緒に
  会社まで来てもらえますか?
♡)えっ!今からですか?
谷)はい、ちょっと予定外ですが。
♡)わかりました。


歌姫をさらっていく俺に突き刺さる
うらめしい視線。


♡)瞬じゃあね!ありがとね!♡
瞬)おう!また連絡するわー!
♡)うん!お疲れさまー♡
瞬)おう!



ーーーーー



待ってましたと言わんばかりに
俺からカメラを奪った社長は

しばらく映像を眺めて
満足そうにニヤッと笑った。


浦)いいねぇww
谷)……


細めたその目は
期待以上だと言いたげだ。


浦)♡、どうだった?今日。
♡)え…?
浦)実際ステージに立って
  大勢の前で歌ってみて。
♡)えっと…すごく楽しかったです。
浦)何が楽しかった?
♡)なんか…お客さんの顔が
  一人一人見えたんです。
  真剣に聴いてくれてる人とか…
  泣きながら聴いてくれてる人とか…
  本当に一人一人。
浦)うん。
♡)私の歌が…聴いてくれてる人達に
  ちゃんと届いてるんだなって…
  それを実感できたのが嬉しかったです。
浦)うんうん。
♡)……
浦)もっと歌ってみたくなったろ?
♡)え…?
浦)もっと大きい箱で
  もっとたくさんの人に
  聞いてもらいたくないか?お前の歌。
♡)……
浦)お前がYESと言えば
  いくらでもそんなステージを
  用意してやれる。
♡)……
浦)歌えよ。
  お前が歌わないのは勿体無い。
  お前の歌は万人に聞かせる価値がある。
♡)……
浦)…どうしたらその気になる?
♡)まだ…自分でもわからないので…
  時間もらえませんか…?
浦)……
♡)……


うーん、攻防戦だな。
♡さんが決断を迷ってる理由も
俺にはわからないし…

社長は早く動き出したくて
仕方ない感じだし…


浦)わかった、また連絡するよ。
♡)はい、すみません。
浦)今日はお疲れさん。
♡)お疲れ様でした!
  では…失礼します。
谷)お疲れさまでした。


♡さんが部屋を出て行くと
社長がすぐ立ち上がった。


浦)谷ちゃん、
  6月の❀❀フェス、♡にしよう。
谷)えっ!!
  でもあれは…もう
  リノアが出演するということで
  先方の了承ももらってます。
  オープニングアクトで…
浦)わかってるよそんなん。
  ギリギリまでその予定で、
  向こうにはピンチヒッターって形で
  直前で♡を出させる。
谷)え、でも…リノアは…
浦)リノアは違う仕事用意してやって。
  なんか適当に。
  で、♡のスケジュールは
  ちゃんと押さえとけよ?
谷)……


❀❀フェスは…
今日とは規模が全然違う。
5千人くらいが集まる大きなイベントだ。


谷)♡さんには何を歌わせるんですか?
  練習もなしに
  ステージに立たせるんですか?
浦)まぁ一晩あればなんとかなるだろw
谷)…っ
浦)前日にでも
  明日の仕事はフェス出演になったって
  連絡してやれ。
谷)そんな…
浦)大丈夫、あいつはできる。
谷)……
浦)あとはまた仮歌の仕事とか適当なので
  あいつ繋いどいて。
谷)……はい。


あんな宝物を
他に取られないように、って意味だ。

俺が部屋を出ると
♡さんが走って戻ってきた。


谷)どうしました?!
♡)あのっ、はぁっ、…これ!
  衣装お返しするの忘れてたので…っ
谷)ああ、いいですよそれは。
  差し上げます。
♡)えっっ!!!


あなたのために見つけた服だし
その服があなた以上に似合う人を
俺は多分見つけられない。


♡)え、え、でも…っ
谷)いいんです、もらってください。
♡)…いいんですか?
谷)はい。
♡)……嬉しいです///
谷)……
♡)これすっごく可愛かったから…嬉しい♡
  大事にしますね♡♡
谷)はいw
♡)わーーいっ♡♡
谷)くすくすw


本当に無邪気だなぁ。


こんな可愛い歌姫を
早く世に送り出したいと考える社長の気持ちも
俺は痛いくらいにわかる。


谷)♡さん。
♡)はいっ
谷)今日のステージ…
  本当に素晴らしかったです。
♡)…っ
谷)歌も…あなた自身も。
♡)……
谷)良いお返事…お待ちしてますね。
♡)……
谷)僕はあなたのファンですから♡
♡)ありがとう…ございます//


ペコリと頭を下げ、去っていく歌姫の後ろ姿を
俺はしばらく見つめていた。



谷)……



なんとなく感じてる。


俺だって社長と同じ気持ちだけど…

なんとなくの、俺の勘。



あの子はこの道を選ばない。

きっと。



ーendー

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