家に帰ろうとタクシーに乗ると
また電話がかかってきた。
女『今バーで飲んでるのよ。来ない?』
J『うーーん…』
女『会いたいのよ。来て?』
J『どこ…?』
かけてきたのは女社長。
また仕事で悩んでるのかな…?
運転手に行き先変更を伝えて
言われた店に入ると…
バーっていうより少しクラブっぽいな。
カウンターに彼女の姿を見つけて
隣に座った。
J)お待たせ。
女)ありがとう。
J)ウイスキーロック。
店)かしこまりました。
女)相変わらずイイ男ね。
J)何それw
女)目の保養ってこと♡
J)そのためだけに呼び出したの?
女)違うわよw
店)お待たせしました。
J)どうも。
ロックを受け取ると
バーテンが心配そうに
奥のソファーに目をやった。
J)……
誰か酔い潰れてる。
女)ねぇ、たまにはこんな店もいいでしょ?
J)え…?
女)いつものバーより明るい感じで。
J)音楽…少しうるさくない?w
女)そんなことないわよ〜
結構芸能人とかも来るのよ?
ほら、あそこも。
J)……
彼女が指さしたテーブルを見ても
誰かわからない。
女)え、まさか知らないの?
J)誰…?w
女)今人気の女優さんよ〜〜
あと、今共演中の俳優さん。
J)へ〜〜
女)あっちにはモデルっぽい子もいるし。
J)へ〜〜意外だな。
女)え?
J)君ってそんなミーハーだったっけ?w
女)意外と、ねw
そう言って悪戯に笑った。
女)はぁ……
イケメンと飲むお酒は美味しいわね。
J)たまには違う褒め方してくれない?w
女)何よ。イケメンって言われ飽きたの?
J)まぁそんなとこ。
女)あはっw やな男〜〜〜w
店)臣…大丈夫かな…
男)相当飲んでましたからね〜〜
店)なんかあったのかな。
全然起きねぇな…
バーテンがまた心配そうに
ソファーで寝てる男を見た。
今…
「オミ」って…言ったような…
まさかなと思って
そのまま彼女と会話を続けてると…
女)ね、やっぱり臣くんだよぉ♡
女)うっそ、本物ー?///
女)え、あたし行っちゃおっかな♡
女)えっ、ほんとにぃ?//
さっきモデルっぽいって言われてた子たちが
後ろでひそひそ騒いでる。
しばらくすると女の子の一人が
奥のソファーまで近寄って…
酔っ払ってる男の膝に跨った。
J)……
「オミくん」なんて
そうそう聞く名前じゃない。
まさか…な。
女)どうしたの?
J)いや……
女)……
J)ちょっと、ごめん…
ガタッ
まさか…こんなところで…
違うよな…?
女)臣くん大好きだよ♡
暗い照明の下で
女が男に絡みついてる。
男)♡…っ
女)あんっ…もう…w
男)♡…っ
女)苦しいよ…もぉ…♡
女の胸に顔を埋めてた男が
顔を上げた。
J)…っ
彼は相当酔ってるみたいで…
その女の後頭部を掴むと
夢中でキスを始めた。
女)んっ、…ん…ぅ…っ//
臣)♡…っ、…♡……っ
女)はぁ…っ、もう…//
臣)♡……
女)このまま…ここでシちゃう?♡
俺は女の後ろ襟を掴んで
立ち上がらせた。
女)きゃぁっ!!ごほっっ
J)君さ、あっち行っててくれる?
女)急になんですかっ!あなた誰!!
手荒な真似をする男に
怒りの目で女が振り返った。
女)あ…っ、やだ…イケメン…//
J)酔ってる男に襲いかかるほど
欲求不満なの?
女)…っ!!
J)見苦しいから帰ってくれる?
女)…っ//
バタバタ…ッ
臣)♡……
J)……
目を閉じたまま、まだ名前を呼んでる。
今度は彼の胸ぐらを掴んで
立ち上がらせた。
ドスッッ!!!!!!
臣)げほっっ!!ごほ…っ!!!
おえっ…げほげほっっ
J)目ぇ覚めた?
臣)……っ
彼はそのまま床に転がった。
臣)げほっ、げほっ…
J)手加減しなかったから、ごめんね?
臣)…っ
腹をおさえながら
フラフラとソファーにつかまった。
J)顔殴らなかっただけ感謝して。
臣)……
彼はゆっくり顔を上げたけど
俺を認識してない。
J)姫とはもう別れたってことで
いいのかな?
臣)……
J)これ以上傷つけるなら
俺がもらってくから。
臣)……
J)そう言っておいたはずだしね。
臣)……
俺はそのまま
うずくまる彼を残してその場を離れた。
女)ちょ、どうしたの??
J)ああ、ごめん、今日は帰るよ。
女)…っ
J)また今度ご馳走させて。
女)……
俺は金だけ置いて店を出た。
J)……
姫の名前を何度も呼びながら…
ほんとバカだな。
Tくんにキスされても
文句言えないよ、あれじゃ。
起きたらどうせ覚えてないだろうし。
J)はぁ……
あんなになるまで飲んで…潰れて…
J)…そりゃ…そうか……
俺には分かり得ないけど
毎日姫と暮らして毎日姫の笑顔を見て
毎日幸せだった彼が
いきなり姫を失った寂しさなんて。
J)はぁ……
それにしても…
お互いに相手の名前を呼びながら
相手だと思い込んで
他の女(男)とキスしてるとか…
何やってんだろうな…あの二人。
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ー翌日ー
M)Jさんおはようございまーーす♡
J)ああ、おはよう。
朝から元気だねw
M)昨日はごちそうさまでしたぁ♡
J)いいえーー、足りた?
M)余りましたよぉ!はいっ♡
J)……
渡されたのは可愛い封筒に入った…
おそらくお釣り。
J)いいよw
M)えっ!!
J)いりませんw
M)……じゃあ海璃ちゃんと
スイーツでも食べちゃおっと♡
J)どうぞ、ご自由にw
M)ありがとうございまーす♡
なんて言ってたのに
営業から戻ってくるとデスクの上には
『昨日のお礼です♡
ありがとうございました♡
また一緒に飲んでくださいねー♡』
俺の好きな和菓子が置いてあって…
J)くくくくww
あの子…
こういうところは律儀なんだよなぁww
J)……さて。
昼休みの音楽が流れて
俺は姫の元へ。
J)ひーめっ
♡)あっ…Jさん……
J)……
あれ?
いつもよりさらに元気ないな…
J)ちょっと仕事の話したいんだけど
ランチも兼ねてどう?
付き合ってくれる?
♡)えっ、あ、はいっ!わかりました…
J)……
なんちゃって。
そうでも言わないと断られるしね。
T)あっ!
J)あ、Tくん。ごめんね。
今日は借りてくよーーー
T)あ、はい……
あっ!!Jさん!!
昨日はありがとうございました!
J)いいえ〜〜〜
そのまま姫を連れて
近くの蕎麦屋に入った。
注文し終えて
メニューをメニュー立てに戻すと
姫が俺の顔をじっと見た。
J)どうしたの?
♡)あっ、えっと…
Jさんとお昼食べるの…
久しぶりだなって…思って。
J)だって最近姫ってば
Tくんとばっかりいるから。
俺だって妬いちゃうよー?w
♡)えっ…
J)ってことで、仕事の話は嘘。
姫と少し話したかっただけ。
♡)…っ
J)怒った?
♡)いえっ!!
そう言って必死に首を横に振った。
J)良かったw
♡)……
可愛く俺を見つめる瞳。
柔らかそうな紅い唇。
酔ってたとはいえ
Tくんはこの唇にキスしたのか…
ちょっといいななんて思ったり…
J)……
♡)……
俺だったら多分…
Tくんみたいに途中でやめてあげてないな。
J)……
♡)……
J)指輪…まだしてる…
♡)…っ
J)……
♡)……
J)まだ…登坂くんが好き…?
♡)……(こくん)
J)…っ
そう…なんだ…
J)Tくんは…?
♡)え…?
J)どう思ってるの?彼のこと。
♡)……
姫側はキスしたこと…覚えてないにしたって
あそこまで頑張ってるTくんが
少しくらい姫の心を
動かせてたりしないのかな…って
♡)……
J)……
♡)臣くんが…好きです。
J)……
やっぱりダメなのか。
J)そんなに好きだったら
家に帰ってあげたら?w
♡)……
あんなに酔い潰れて
ボロボロだったよ?登坂くん。
J)登坂くんの過去が
どうしても許せないなら…
Tくんにしたらどう?
♡)えっ…
J)Tくんなら姫にお似合いだよ。
♡)……
J)彼は…本当に良い子だし…
姫のことだって
絶対幸せにしてくれると思うし。
死んでもね。
♡)…っ
そう、わかってた。
あんなに大好きだった登坂くんでも
過去を受け入れられないなら
もしこの先…
姫が俺を選んでくれる日が来たって
俺は同じように泣かせることになるって。
わかってたからきっと…
「念願叶って良かったね、おめでとう。」
あの言葉もすんなり出てきたんだ。
J)……
「これ以上傷つけるなら俺がもらってくから。
そう言っておいたはずだしね。」
昨夜は腹が立って
彼にあんなこと言ったけど…
俺じゃダメだって…もうわかってる。
J)……
♡)……
J)Tくんじゃ…ダメなの?
♡)……
二人はよく似てる。
いつでも真っ直ぐで…一生懸命で…
明るくて素直で…
真面目な努力家で…
J)お似合いだと…思うんだけどなぁ。
♡)……
姫は何も言わず俯いたまま…
♡)…っ
ぽ…たっ…
J)えっ!!!
静かに涙をこぼした。
J)えっ…、姫…?
♡)臣くんが…っ
J)…っ
♡)臣くんが…好きです…っ
J)……
♡)臣くんが…好き…っ
J)……
♡)ふぇぇ…っっ
J)……
どうしてそんなに
彼じゃなきゃダメなんだろう。
姫は俺が差し出したハンカチを
そっと握った。
J)そんなに好きなら…
許してあげればいいのに…
♡)ふぇっっ…
J)……
まぁ…好きだからこそ…
許せないのかな。
♡)許せない…とか…じゃっ…なくて…
J)え…?
♡)ただ…っ
J)……
♡)悲しいんです…っ
J)…っ
ぽろぽろと…
綺麗な涙がこぼれていく。
J)何が…悲しいの?
♡)…っ
彼が女遊びしてたのは
姫と出会う前の話で…
ああ…でも…
姫は彼が初めての相手なんだっけ…
J)……
ほんとどこまでもムカつくな、登坂くん。
J)姫、いいこと教えてあげるよ。
♡)…ひっく……
J)男はね?
心と身体なんて別なんだよ。
♡)え……?
J)まぁ…女の子でも
そのへん割り切ってる子はいるけど…
男ほど器用には使い分けてない。
♡)……??
J)男は…まぁ「本能」って言うと
理性のない動物みたいでアレだけど…
でも事実としてそうなんだ。
♡)……
J)心と身体は全く別。
♡)……
J)好きな女がいても
全然関係ない女を平気で抱ける。
♡)…っ
J)そこに感情なんて何もないんだよ。
♡)……
J)感情のない行為なんて
何の意味も持たない。
♡)……
J)身体が一瞬満足するだけで
心とは何の関係もないんだ。
♡)…っ
そう。
愛のないキスやSEXなんて
何の意味もない。
Tくんが姫としたキスも
あの女が登坂くんとしたキスも
二人にとっては何の意味もないように。
J)女の子には…っていうか
姫には特に…
理解し難いことだと思うけど…
♡)……
J)女の子ってさ、ほらよく言うじゃない?
彼氏の浮気がバレた時に
「他の女に触った手で私に触らないで!」
とか…w
♡)……
J)そういうセリフが出てくるところが
やっぱり男と女の違いかなーって…
…って俺は
なんでこんな話を姫にしてるんだろうな。
登坂くんを庇う気なんて
サラサラないのに。
J)登坂くんが過去に遊んできた女の子たちと
姫とじゃ…
全然違うんだよ。
♡)……
J)……
なんて言ったら…この子に伝わるだろう。
遊びの女なんて
男にとっては本当に遊びでしかなくて
何の意味もないこと。
好きな子となんて…
比べるにも値しないこと。
J)彼は…あんな仕事だし…
そりゃモテるだろうから…
彼女になれなくてもセフレでもいい、とか
一回だけでもいいから抱かれたい、とか
そういう浅はかな女が
掃いて捨てるほど寄ってくると思うけど…
♡)……
J)そういう相手には
何の感情も生まれないよ、きっと。
♡)……
J)そんな女への接し方と…
姫への接し方が…一緒だと思う?
♡)……
J)私にしたみたいに…触れたんだ、とか
私にしたみたいにキスしたんだ、とか
♡)…っ
J)女の子はそんな風に考えがちだけど
全然違うんだよ。
♡)……
J)本当に好きだからこそ生まれる
相手を大事にしたいって思う気持ちとか
相手への愛しさや思いやりとか…
そういう感情が
あるのとないのとじゃ全然違う。
♡)…っ
だってもし俺が姫を抱けるなら…
きっとそんな感情で
いっぱいになると思う。
J)登坂くんは…姫に…
そうやって接してなかった…?
♡)…っ
大きな瞳からぽろぽろあふれる涙。
♡)臣くん…はっ…
…いつも…優しく…て…っ
J)……
♡)いつも…っ…私のこと…
…大事に…して…くれてたっ…
J)うん……
♡)…うう…っ、うっ…
J)……
♡)いつも…いっぱい…いっぱい…っ
J)……
♡)優しくて…あったかく…てっ…
J)……
俺としては
やっぱり登坂くんは気に入らないけど
……でも
姫が今まで
あんなに幸せそうに笑っていられたのは
登坂くんの側にいて
たくさん愛されていたからだと思う……
♡)臣…くん……っ
J)ほんと泣き虫だなぁ…姫はw
♡)ふぇぇ…っ
J)ほら、もう泣かないの…
また…目、腫れるよ?
♡)うう…っ
J)……
もう俺のハンカチが
びしょびしょになるくらい泣いてる。
J)登坂くんの…どこが好きなの?
そんなに……
♡)……
J)……
俺の質問に、姫がゆっくり顔を上げた。
♡)……
J)……
♡)臣くんは…私にとって…
太陽みたいな…人。
J)……
♡)…優しくて…あったかくて…
……っ
J)……
♡)だいすき…なんです……
J)うん…
♡)……
J)……
あーあ…
昨日もう一発くらい
殴っても良かったかな……
「お待たせしましたーー」
J)よし、じゃあ食べよっか。
♡)はい…っ
J)……
♡)えへへ…っ、美味しいです…っ
J)……
そんな真っ赤な目で
無理して笑わなくていいのに…
♡)Jさん……
J)なに…?
♡)ありがとうございます…
J)……
♡)Jさん……
なんだか…優しいお父さんみたい…
J)……
♡)えへへ…♡
J)……
お父さんって……
J)参ったな…w
♡)ふふ…っ
J)……
そんな可愛い顔で笑われたら
もうお父さんでも何でも良くなるよ…
俺は結局…
この笑顔に惚れたし
この笑顔には敵わないんだ。
ー続ー
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