【223】自己嫌悪の闇と幻

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『♡、今日は本当にごめん。
 もう無理矢理お前が嫌がるようなこと
 絶対しないから。』

『ご飯ありがとう。すごく美味かった。』

『ありがとう。本当にごめんな。』


昨夜俺が送ったLINEに
今朝、返事が来てた。


『私こそごめんなさい。
 嫌なんかじゃなかったよ。
 疲れてるのに会いに来てくれたんだよね。
 泣いてごめんなさい。』

『ご飯、食べてくれてありがとう。』


臣)……


♡は何も悪くないのに
こんな謝らせてることにも
胸が痛くなる。

でも…返事が来て良かった。



♡が作ってくれた料理は
朝も食べたし

仕事にもたくさん持ってきた。


昼、事務所で食べてると
直己さんがそれを見て目を丸くした。


直)♡ちゃん?!
臣)ああ、はい…でも…
直)…っ
臣)帰ってきたわけではないです。
直)……そっか…
臣)大館行ってる間…
  家に帰ってきてたみたいで…
直)……
臣)……
直)作ってくれてたんだ。
臣)はい。
  …冷蔵庫に…いっぱいになるくらい…
直)じゃあしっかり食べて
  力つけないとな。


そう言って直己さんは優しく笑った。


弁当を一粒残らず平らげて
事務所で事務作業を片付けて

夕方、スタジオへ。


着替えてストレッチしてると

すごくバツの悪そうな顔で
三人が入ってきた。

健ちゃん…、岩ちゃん…、隆二…。


臣)…っ


三人が気まずそうに俺の前に並んだ。


臣)どうしたの…?
隆)……
岩)……
健)臣…、…ごめん……
臣)え…?


ごめんって…何が…
なんでこんな三人揃って肩落としてんだ?


岩)また♡ちゃん…泣かせちゃった。
  ほんとごめん……
臣)えっ!!!!!


その言葉に…思わず身体が固まった。


隆)さっきさ…、♡ちゃんと会ってたんだ。
臣)え…?
健)車で丁度会社の前…通って…
  そしたらたまたま偶然、
  ♡ちゃんがおってん。
臣)……
隆)それで俺が思わず…
  連れてきちゃって…
臣)え…?
岩)4人で飯食おうと思ったんだけどさ、
  臣さんの話になって…
臣)…っ


三人して俯いてるから
俺には何が何だかわからない。


直)♡ちゃんが…泣いたっていうのは?
隆)…っ
健)俺ら…めちゃくちゃ説教されて
  めちゃくちゃ泣かせて…
  ほんま最悪ですわ…
直)…っ
健)臣、ほんまごめん…
臣)……
岩)俺が…悪いんだよ。
臣)……


そう言って三人は
♡との会話を話してくれた。


直)♡ちゃんに正論つきつけられて
  ぐうの音も出なかったんだ。
岩)……
健)……
N)岩ちゃんがそんなムキに…っていうか…
  アツくなるの…珍しいね?
岩)……
隆)……
健)結局俺ら…アホな話ばっかりして
  ♡ちゃん泣かせただけな気ぃする…
臣)……
岩)ほんと…ごめん…
臣)……
健)♡ちゃん帰って来んへんかったら…
  俺らのせいやわ…
岩)……
健)……
隆)……


三人は…俺のことを思って
♡と話してくれたんだ。


臣)謝んないでよ……


いつまでもこんな
みんなに心配かけてる俺が悪いんだ。


臣)なんか…さ、
  昨日Kにも言われたんだけど…
隆)え…?
臣)タイミング悪かったんだと思う…
健)タイミング?
臣)……
岩)タイミングって…?
臣)……


俺はKから聞いたことを話した。


N)げっ……それって……
健)うわ…マジか……
岩)モデルって…どの子だろ…
健)そんな性格悪そうな子…おったっけ?
N)まぁ男の前じゃ猫かぶってるだろうね。
健)そうか……
隆)下世話な話って…
直)……
N)臣のピーがピーだったとか?
健)ピーがピーでピーやったとか?
岩)まぁ…そんなんとか…
  もっとひどい可能性もあるよね。
隆)マジか…ほんと下世話だな……
岩)案外女子の方がそーゆーとこ
  えげつなかったりするしね。
隆)……
健)それをモロ聞いたんかぁ…
N)さすがにかわいそうだな…
直)…うーん……
臣)……
E)あ〜〜なんで♡ちゃん
  モデルなんて始めちゃったんだろ〜〜!
N)だよな〜〜〜
E)そんなことが耳に入っちゃうとか〜〜
臣)……でもさ、思ったんだ。
E)え…?


昨日…ずっと一人で考えてた。


臣)これから先だって…
  過去のそういうことが
  ♡の耳に入る可能性は多々あるわけで…
N)…うん…まぁ…そうだよな…
臣)その度に…♡は傷つくんだろうかって…
隆)……
岩)……
E)♡ちゃん…モデル続けるのかなぁ…
臣)それも…


一瞬考えて…

考えた自分が心底嫌になった。


臣)別にあいつがモデルやめたって
  その可能性がゼロになるわけじゃなくて
E)…そう…だけど…
臣)なのに、さ…
  あいつの努力も…知ってるくせに…


♡は…嫌がらせされたって
何も言わずに一生懸命頑張ってたんだ。

それなのに…俺は…

一瞬でもそんなことを思った。


臣)俺…ほんと最低だよ。
E)…っ
臣)……


自分で自分が嫌になる。

全部自分がしてきたことのツケなのに

どんだけ俺は情けねぇんだよ…


臣)ほんとクズだよ……
健)いやいや、自虐すぎるやん……
岩)…そうだよ……
隆)臣……
臣)……
N)あーあ、でもなんでほんと女って
  そーゆーのベラベラ喋るかねぇ!
E)たしかに。
N)ほんと口軽ぃよなーー
健)はぁ……
岩)でも…わっかんね!!


ドサッッ


岩ちゃんが床に寝転がった。


岩)もうわかんねぇ!!!

E)岩ちゃんが暴れてる。
N)どうしたガンボーイ。

岩)あああ〜〜〜〜!!!!

臣)…っ

直)何がわかんないの?岩ちゃん。

岩)…っ


岩ちゃんがパーカーのフードを乱暴にかぶって
起き上がった。


岩)…っ
臣)……
岩)俺ら…おかしいの?
  …麻痺してんの?
直)……
岩)正しいなんて思ってないけど
  おかしいとも思ってない。
  別に普通だって…思ってる……
健)……
隆)……
臣)……
直)何が正しいかわからなくなった時はさ、
  相手の女の子を
  将来の自分の娘だと思えば
  すごくわかりやすいよ。
岩)え…?


みんなが直己さんの顔を見た。


直)要は…
  「自分の娘にされて嫌なことはするな」
  …ってこと。
岩)…っ
N)自分の娘……
直)そうです。
健)…っ
直)自分の娘にされて嫌なことは
  女の子にしない。
  自分が普段女の子にしてることを
  将来自分の娘が男にされてたら…
  どう?岩ちゃん。
岩)……クソすぎる…。
健)殴り飛ばしてるわ…。
N)ゾッとすんな…w
E)……
隆)ああ……すげぇわかりやすい。
直)どんな女の子だって
  誰かの大切な娘さんなんだよ。
臣)……


直己さんって…
ほんとすごいな…

当たり前のことを当たり前にわかってて
俺たちに教えてくれる。


すげぇ優しくて…
びっくりするくらい真面目で…

直己さんみたいな人だったら…


♡を泣かせたりしないで
幸せにしてやれるんだろうな…


臣)……



それからみんなでリハを始めたけど
どこか少し空気が重くて…

ツアー直前の大事な時に
俺のせいでこんな雰囲気になってることに
激しく自己嫌悪……


リハが終わって
Sさんに家まで送ってもらったけど

また♡がいない部屋に帰って
♡がいないベッドで眠るのかと思ったら

なんか今夜は耐え難くて

俺はいつもTAKAHIROさんと行く
近所のバーに向かった。


男)おう!臣!いらっしゃい!
臣)ん……
男)今日は一人?珍しいな。
臣)うん…
  ちょっと飲みたくなって。
男)おう、ゆっくりしてけw
臣)ん……


カウンターに座って酒を飲む。

平日なのに結構混んでんな…


ここのバーは
少しクラブっぽくて
この雰囲気が何か落ち着く。

音楽がガンガン流れてて…

みんな酒と音楽を楽しんでて…

俺がこんなところで
一人で酒を浴びてようと

誰も気にも止めない。



ああ…


このまま音に埋もれたい……



男)おい、臣、飲みすぎじゃね?
臣)……
男)大丈夫かよ、おい…っ
  ソファーいくか?
臣)……いい…、おかわり…
男)…っ


ああ…このまま眠って
起きたら全部夢だったらいいのに…

♡がいなくなってから
何度そう願っただろう。


でも起きる度に
現実は…現実で…

♡がいない部屋で目を覚ます度に
寂しくて…苦しくて…


なんで俺…こんな弱ぇんだろ…

すげぇ情けないよな…。



♡がいないだけで
こんなボロボロになって…

でもこんなにボロボロになるくらい
あいつの存在が大きくて…



臣)♡……






……


………




♡)臣くん…大丈夫?
臣)…っ
♡)もう…飲みすぎだよぉ…
臣)♡?!!
♡)大事な時なんだから…
  こんなに飲んじゃダメでしょ?
臣)♡…っ
♡)もう私…臣くんとは
  一緒にいられない。
臣)え…っ?!
♡)一緒にいたくないの。
臣)…っ


嫌だ…
そんなの嫌だ…っ!!!!


♡)私、直己さんみたいな人がいい。
臣)え…っ
♡)直己さんだったら
  私のこと幸せにしてくれるもん♡
  ね、直己さん♡
直)うん。
臣)!!!!!


え…直己さん?!
なんで直己さんが…っ


直)俺だったら絶対泣かせないよ。
♡)ふふ…♡
  直己さんだったら安心♡
臣)待って!!♡、待って!!
♡)臣くんに泣かされるの、
  もう嫌なの。苦しいの。
臣)…っ


♡の肩を抱く直己さんが
俺を睨んだ。


T)♡が泣いてるところなんか
  もう見たくねんだよ!!
臣)…っ


なんで…
直己さんが…Tに……


T)泣かせてんのはお前だ。
臣)…っ
T)♡の側には俺がいる。
臣)ふざけんな…!!
T)お前はもういらない。
臣)…っ
♡)もう会いに来ないでね。
臣)待てよ!!
  ♡……っ!!!


行くな…

俺の前から…いなくなるな…!!


臣)頼む。戻ってきて。
♡)……
臣)俺…お前がいないとダメなんだ。
♡)……
臣)…っ


涙で視界が滲んで…
♡の姿がぼやけていく。


臣)好きだ。お前が好きなんだ。
  お前じゃなきゃダメなんだよ!!
♡)……本当?
臣)…っ


♡が俺に手を伸ばした。

俺はその手を必死に掴む。

♡が二度と…俺の前から
消えたりしないように…


………


……






女)臣くん…
臣)……
女)臣くん、大丈夫?
臣)……


頭がグラグラして…起き上がれない。


女)臣くんっ
臣)ん……
女)臣くん、起きた?大丈夫?
臣)……


誰だ…この女……


女)もう…飲みすぎだよぉ…


あれ…?
♡…?


女)こんなになるまで飲んでぇ…
臣)……


柔らかい…感触……


臣)♡…?
女)え…?
臣)♡……
女)……
臣)戻ってきて…くれたの?
女)……


よく見えないけど…
♡が俺の膝に乗ってきた。

そうだ…
♡は「抱っこして♡」って…
甘えてくるのが好きで…


臣)♡……
女)うん♡
臣)会いたかった…っ
女)うん♡


酒で頭がフラフラで
視界がぐるぐる回るけど

俺は♡だけはしっかり抱きしめた。


臣)もう二度と離さない。
女)うん♡臣くん大好きだよ♡
臣)…っ


♡が…帰ってきた…
それだけで…もう…


臣)♡…っ
女)あんっ…もう…w
臣)♡…っ
女)苦しいよ…もぉ…♡


♡の胸から顔を上げると
♡の唇が…俺に重なった。

俺はそのまま
後頭部を掴んで夢中でキスをする。


女)んっ、…ん…ぅ…っ//
臣)♡…っ、…♡……っ
女)はぁ…っ、もう…//
臣)♡……
女)このまま…ここでシちゃう?♡
臣)……


お前がいれば
もう何もいらない。


また…一つになりたい。


何度も何度も一つに繋がった夜。

幸せだった…あの頃に…





!!!!!!



臣)げほっっ!!ごほ…っ!!!
  おえっ…げほげほっっ

男)目ぇ覚めた?

臣)……っ


死ぬほど痛ぇ…
なんだこれ……


気付いたら俺は
床に転がってて…

腹には強烈な痛み。


臣)げほっ、げほっ…

男)手加減しなかったから、ごめんね?

臣)…っ


気持ち悪い。吐きそうだ。
マジで…腹が痛い……


全然現状が把握できなくて…
グラグラの頭で必死に周りを探って

なんとかソファーにつかまった。


なんで俺…ここにいるんだ?
ここ…どこだ?


男)顔殴らなかっただけ感謝して。

臣)……


さっきから…誰だよ…っ


男)姫とはもう別れたってことで
  いいのかな?
臣)……


聞き覚えのある
ムカつく声と喋り方…

でも…視界はぼやけてるし
頭がガンガンしてわけわかんねぇ…


男)これ以上傷つけるなら
  俺がもらってくから。
臣)……
男)そう言っておいたはずだしね。
臣)……


さっきの…夢の続きだろうか…


男の声は…しばらくすると聞こえなくなって

残されたのは
強烈な腹の痛みと…


臣)うっっ……


俺は…
飲んだ酒を全部吐き出した。


……



♡が帰ってきて…
♡と…キスして…何度もキスして

♡を抱いてたはずなのに…


夢だったなら…
覚めないで欲しかった。


ずっと夢の中で
…♡を抱いていたかった。



臣)……っ



夢が現実であれと願ったり
現実が夢であれと願ったり


もう…誰か俺を…どうにかしてくれ。




ーendー

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