【206】さらっていきたい

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男)よっし!じゃあとりあえず
  出発しますか!
女)うん!


私がTくんの車のドアを開けると
Tくんが慌てたように口を開いた。


T)俺のっ…車で…いいの?//
♡)えっ?
T)……//
♡)……


だって…
みんな行きと同じ車に自然に乗ってるし…


♡)帰りは違う方がいいかな?
T)いやっ!そうじゃなくて!!
  いや、うん、乗って!//
♡)……??


私はそのまま助手席に座った。


Tくんはエンジンをかけて黙り込んで
しばらくして私の顔を見た。


T)……
♡)……
T)あの…さ…
♡)うん?
T)昨日の…こと、覚えてる…?
♡)え?


昨日のこと?


♡)足湯…入ったこと?
T)…じゃなくて…
♡)星…見たこと?
T)じゃなくて……
♡)??
T)酒飲んで…部屋戻ってから…
♡)あ、お酒飲んだ後のこと?
  Kちゃんに部屋に連れていってもらって
  そのあとは爆睡してたよー
T)……
♡)なぁに?
T)…いや……
♡)……
T)爆睡……
♡)うん。


臣くんの夢は見たけど
気付いたら朝で…


T)そっか…
♡)うん。


前の車が出たから
シートベルトに手をかけると


♡)いたっ!


髪が金具に絡まった。


♡)いたたっ
T)あ、絡まった?ちょ、じっとしてろ。
♡)…っ


Tくんが腕を伸ばして
絡まった髪をほどいてくれてる。

距離がすごく近くて…


♡)…っ


ふわっと香る、この匂い…


T)ん、取れた。
♡)あり…がとう。
T)ん。


にっこり笑って頭を撫でられた。


♡)(じーーーっ)
T)な、なんだよっ///
♡)……


この匂い…なんでだろう…
なんか…

ぎゅって…したくなる…
優しくて…安心する匂い。


♡)(じーーーっ)
T)見すぎ!!///

こつんっ

♡)いたっ
T)行くぞっ///
♡)……うん。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


朝飯を食うのが
当たり前になってたから

朝になると普通に腹が減って
コンビニで適当に買い物をして
スタジオで食ってた。


隆)おはよーーー
臣)……はよ。
隆)あ、おにぎり食ってる。めずらし…
臣)……


隆二は言いかけて途中でやめた。
♡が毎朝、ご飯を作ってくれてたのを
知ってるから。


E)おはよ〜〜〜
隆)あ、ELLYおはよ!

健)アカン…昨日の酒が残ってる…
岩)昨日も飲んでたんすか?w
健)うん。ううう〜〜
岩)強くないのに飲むから〜〜
健)うっさい。
岩)ぐえっw

N)よっしゃーーー
  じゃあ始めますか〜〜〜
直)みんな揃ったね。


今日はヴォーカルも一緒にダンス練習。
頭から順番に確認していく。

音楽に合わせて身体を動かしてる間は
それに集中できるから
余計なことを考えなくて済む。


N)いい感じいい感じ〜〜♪
E)やっぱり二人が入ると締まるな〜
隆)へへっw


昼過ぎまでぶっ通しでやって
そのままみんな昼飯にがっつく。


岩)美味いっ
隆)あ〜〜みなぎるわ〜〜
E)あはははっw
臣)……


携帯を開くけど


『旅行中にごめん…
 明日は帰って来る?
 もう一回ちゃんと話したい。
 頼むから…まっすぐ帰ってきて。』


昨日送ったメッセージに、
♡からの返事はない。

既読にはなってるけど…


ピロリロリロ♪ピロリロリロ♪


臣)!!!!!


着信が来て画面も見ずに電話に出ると


母『あ、広臣〜〜?』
臣『…っ』
母『もしもし?』
臣『…なんだ…母ちゃんか……』


一気に気が抜けた。


母『なんだとは何よ!
  あんたはいっつも失礼ね!』
臣『ああ、ごめん…w』
母『最近忙しいの?』
臣『うん、リハしてる。』
母『都内に行く用事があるから
  一緒にご飯でもどうかなと思って。』
臣『いつ?』
母『明日♡』
臣『相変わらず急だなw』
母『やっぱり仕事?』
臣『ん、ちょっと待って…』


スケジュールを確認しながら思い出した。

母の日!!!

すっかり忘れてた。昨日じゃん!
あれ渡さなきゃ!!


臣『ああ、明日大丈夫だよ。』
母『あら!良かった〜〜♪』
臣『何食いたい?』
母『お寿司かな〜〜♡』
臣『はいはいw
  じゃあ予約しとくから。』
母『お父さんも一緒だからー♡』
臣『あいよー』
母『♡ちゃんも来れないかしら?』
臣『…っ』
母『♡ちゃんに会いたいな〜♪』
臣『……』
母『…広臣?聞いてる?』
臣『ああ、ごめん。』
母『♡ちゃんも誘っておいて♪』
臣『…あいつは…明日は仕事。』
母『そうなのー?!
  やーん、残念だわ〜〜〜』
臣『また今度ね。』
母『わかった。じゃあ明日は三人ね。』
臣『ん。』
母『じゃあ楽しみにしてるわ♡』
臣『ん。じゃ。』
母『は〜〜い♪』

ピッ。


臣)……


N)なになに、臣ママ?
臣)あ…はい。
直)臣ママどうしたの?
臣)あ、明日飯食いに行こうって…
健)おおっ、昨日母の日やったしな〜〜
岩)俺、土曜日渡した〜〜
隆)ああ、結婚式で?
岩)うんw
N)俺、花送った〜〜〜
隆)俺は妹に頼んじゃったw
直)みんなちゃんとしてるんだね。
  偉いな〜〜
臣)……


♡…
連れて行きたかったな…
母ちゃん残念がってたし…


臣)……


今日は…帰ってきてくれるんだろうか…

もし…、もしも仲直りできて
元に戻れたら

明日、一緒に行けたりするかな。


…そんな淡い期待を抱いて
俺は一応、4人で店を予約した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


T)お前は…どこに送ればいいの?
♡)え…?
T)今日。
♡)……


ボーッと窓の外を眺めてると
不意に声をかけられた。


♡)……


どこ…だろう…

家には…帰りたくない。

◇ちゃんの…家…?

でも…

◇ちゃん、好きな人がたまに
お家に来るって言ってたし…
私がいたら邪魔になっちゃうかも。

◇ちゃんの恋の邪魔はできないっ!!


♡)……


じゃあ…どこだろう…


答えられずにいると
赤信号で車が止まった。


T)帰りたくないなら…
♡)……っ


Tくんにほっぺを撫でられた。


T)うち、来る?
♡)……


それはダメって…わかってる。


♡)行かない。
T)……
♡)家に…帰る。
T)…っ
♡)……


一回家に帰って…荷物をまとめて…
そうだ。
実家に行こうかな…


T)あいつと…話すの…?
♡)…(ふるふる)
T)……


臣くんのことは考えない。
まだ…蓋をしておく。


♡)久々に実家に遊びに行こうかなって♪
T)……


Tくんに心配をかけないように
出来るだけ明るく答えた。


♡)ママにも弟にも会いたいし♪
T)……
♡)……
T)そっか…
♡)うんっ!
T)……
♡)……


Tくんは優しく笑って
また私のほっぺを撫でた。


プップーーー


T)!!やべっ…
♡)…っ


信号は青に変わってて
後ろから急かされたTくんが
慌ててアクセルを踏んだ。


♡)……


私は…しばらくTくんの横顔を見つめながら
Tくんのことを考えてた。


前まではTくんのこと
チャラいって勘違いしてて…

でもそれは…
誰にでもしてるんじゃなくて
私のこと、好きって思ってくれてるからだって
わかって…


「お前が彼氏出来る前から
 ずっと好きだったんだよ!」

「ほんと好き。すっげぇ好き。」

「俺はお前がすげぇ好き。
 ずっと…、ずっと前から。」


何度も何度も
真っ直ぐに伝えてくれる気持ち。


T)なんで…
♡)……え?
T)さっきからずっと見てんの//
♡)あ…っ
T)…事故るからやめて//
♡)……
T)……
♡)……
T)なんか…聞きたいことでもあんの?
♡)え…?
T)……
♡)……


聞きたい…こと?

なんだろう……


♡)Tくんは…
T)うん?
♡)昔から…真面目なの?
T)はい??
♡)……
T)真面目??
♡)うん……


だって…


「付き合ってなかろうがなんだろうが…
 俺は…自分が好きな女に
 ちゃんと胸を張れる自分でいたいから。」


この前、そう言ってた。


T)真面目って…どういう…
♡)えっと…、女…遊びとか…
T)ああ…
♡)……
T)昔からしないけど。
♡)……どうして?
T)じゃあお前が男遊びしないのは
  なんで?
♡)え…っ


男遊び?!…を、しない理由!?


♡)男遊びなんか…したくない。
T)うん。
♡)好きじゃない人に
  触りたくなんかないもん。
T)うん。
♡)したいとも…思わないし…
T)うん。
♡)……
T)それと一緒。
♡)え…っ


一緒…?


T)好きでもない女に
  別に触りたいとか思わない。
♡)……
T)好きだから…
  触りたいとか思うわけだし…
♡)……
T)それに俺、好きになった子が
  そんなチャラい女だったら
  すげぇやだもん。
♡)え…?
T)相手にされて嫌なことは
  自分もしない。
♡)……
T)過去は消せないからさ、
  いつ後悔するかわかんないじゃん。
♡)……
T)……
♡)…好きな人に…
  胸を張れる自分で…いたいから?
T)……ああ、覚えてた?
♡)……


だって…
私とおんなじだって…思ったんだもん。

覚えてる。


好きだから…触りたいって思う。
好きでもないのに…触りたいとか思わない。

でも…
臣くんは違うんだよね…

好きじゃなくても…平気で…


♡)…っ


蓋をしたはずなのに
気付けば臣くんのこと考えてる。

やだ!!
考えない!!

考えたくない!!!!


T)……着いたよ。
♡)……


帰ってきた。

金曜日に…泣きながら飛び出した家。


T)あいつ…いんの?
♡)…ううん、お仕事だと思う。
T)そっか…
♡)……
T)……
♡)……
T)…なんか…、…帰したくねぇな…
♡)……


Tくんが…
ハンドルに手を重ねて頭を置いた。


T)俺だったら…
  今までだって…これからだって…
  他の女なんか見ない。
♡)…っ
T)お前だけ…見てる。
♡)……
T)……


Tくんがゆっくりこっちを見た。


♡)……
T)お前を泣かせるようなこと…
  死んでもしない。
♡)…っ
T)……
♡)……


真っ直ぐ見つめられる瞳に
動けずにいると


Tくんの手が伸びてきて
また私のほっぺを優しく撫でた。


T)誓えるよ…?
♡)…っ
T)……
♡)……


切なそうな顔をして笑うから…
胸が詰まる…


T)お前のためなら何でもするし
  お前のためならいつでも飛んでくるから…
♡)…っ
T)無理とかしないで…
  強がったりしないで…
  困った時は…いつでも呼んで。
♡)……
T)…困った時じゃなくても
  いつでも……
♡)……


そう言ってまたハンドルに頭をつけた。


T)……
♡)……
T)ほんとは…帰したくないし…
♡)……
T)このままさらっていきたいけど…
♡)…っ
T)いいよ、行って……
♡)……


私は…シートベルトを外した。


♡)……
T)……
♡)送ってくれて…ありがとう…
T)……
♡)じゃあ…明日、会社で…
T)……
♡)……


バタン。


車を降りて
もう一度、運転席を見たけど
Tくんは顔を上げなかった。


私はそのまま…マンションに入った。


Tくんの気持ちに対しては
何も答えられなかった。

でも…


真剣な表情も、
真っ直ぐな言葉も、
全部全部…胸に刺さってる…




ーendー

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