【193】親友の涙(KちゃんSide)

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♡は朝からひたすら黙々と
パソコンと向き合ってる。


余計なことは考えたくない
って感じで…

全然休まずにずっと
キーボードを叩いてる。


蒼)♡さん、僕何か手伝いましょうか?
♡)……
K)あ、手空いてんならこっちの仕事やって。
蒼)あ、はい。


こいつは…
すげぇ良い子ぶってるけど
猫かぶってるだけな気がしてならない。

なんとなくの勘で
♡に近付けたくない。特に今は。


K)……


♡が家出してきたってことは
多分あの件で喧嘩したっていうか…
もめたんだと思う。

昨日もずっと放心してたし
やっぱりショックが
大きかったんだろうな…


ーー


お昼になると
Jさんがこっちに来た。

その後ろをTが走って追いかけてくる。


J)姫、美味しいもの食べに行こ。
♡)……


Jさんの誘い方と表情を見て…
♡の異変に気付いてるのかなと思った。


T)♡……?
♡)……
T)飯行こうよ。
♡)……
T)♡……
K)♡、ランチ行こ。
♡)…ううん、行かない。
K)……
♡)この仕事終わらせちゃいたいから
  みんなで行ってきて…
K)……
M)ダメですよぉ!
  お昼はしっかり食べなきゃ!!
♡)大丈夫、ちゃんと食べるから…
M)…っ


ぽん…

J)何か買ってこようか?
♡)あ、いえ、大丈夫です…
  ありがとうございます。
J)……


今の時期に
急ぎの仕事なんてないってわかってる。

でも見つけようと思えば
仕事はいくらでも見つかる。

気を紛らわせるための仕事なんて
いくらでも。


仕方なくあたし達は
4人でランチに出かけた。


K)なんでこんな面子で…
T)ほんとだよ…
M)先輩…大丈夫かな…
K)うーーん…
M)やっぱり…言わない方が
  良かったですかね…?
K)まぁでも…
  聞きたいって言ったのは♡だから。
M)そうだけど…
J)姫が泣いてた理由、教えてくれる?
M)えっ!!
K)泣いて…た?
J)うん。
K)……
J)今朝…泣いてたよ。
K)…っ
T)ちょっと、何だよそれ。
M)……
T)なんであいつが泣いてたの?
M)えっと…
T)話してよ。
K)あんたに話すと面倒臭そう。
T)なんで!!
  明らかに様子変だったろ。
  心配なんだよ。
K)……


ランチを食べながら
Mがこの二日間のことを説明すると
Jさんは困ったように笑った。


J)なるほど…、ねw
M)はい。
T)なんだよあいつ!!
  やっぱりクソ野郎だな!!
K)落ち着け。
T)あんな奴、♡には合わねぇよ!
  とっととフッちまえ!!
M)で、俺が付き合う…と。
T)うん。
K)図々しい奴だな!
T)だって俺、女遊びなんか
  したことねぇもん!!
K)……まぁ確かに。
J)Tくんは真面目だもんねぇ。
K)それしか取り柄ないもんね。
T)おい、他にもあるわ。
K)ほぉ!どこか言ってみやがれ。
T)なんなんだよ!
J)はいはい、二人とも、
  今それどころじゃないからw
T)そうだった…
K)……
J)でも…登坂くんがモテることなんて
  普通にわかるじゃない?
M)うんうん。
J)姫は登坂くんをなんでそんなに
  真面目だと信じてたんだろう…
M)自分には誠実だからじゃないですか?
J)それだけで登坂くんの過去まで
  誠実だって…信じるかなぁ?
M)うーん…
K)あっ…
J)え?
K)……


思い出した。


「あ!!それは聞いたよ!!
 チャラくないって言ってた!!」

「そーゆー変なことはしないって
 言ってたもん…」

「そんな人に見えないよ!!」


K)……


♡は素直だから…
きっと臣広の言葉をそのまま信じてたんだ。


J)なに?Kちゃん。
K)いや…
J)……
K)付き合う前に
  女遊びしてないみたいに言ったのを…
  信じてたんだと思います。
M)あ、そういえばそんなことありましたね!
T)なんだよそれ。
K)……
T)じゃああいつは…
  女遊びしまくりなくせに
  ♡には嘘ついたってことかよ!
J)まぁ付き合う前の話だしねぇw
T)それでも嘘ついたってことですよ。
J)うーーん…
T)とんでもねぇクソ野郎だな。
  とっとと別れろ!!
K)お前はそればっかりだな!
T)許せねぇんだよ!!
K)…っ
T)あいつ…
K)……
T)最近、ほんとに幸せそうで
  指輪だって…あんな嬉しそうにしてて…
K)……
T)なのに…泣かせるなんて許せない。
J)Tくんは二人がうまくいかない方が
  喜ばしいんじゃないの?w
T)……
J)……
T)そう思ってたけど…
  実際あいつが泣いてたって聞いたら
  なんかすげぇ腹立つ…
J)うん。
T)……
J)やっぱり好きな子には
  笑っててほしいよね…
K)……


臣広も…
泣かせたくて泣かせたんじゃ
ないと思うけど…

でも♡が傷ついたのは事実だし…


ーー


オフィスに戻ると
♡は変わらずに仕事を続けてて…

14時になっても
15時になっても

ずっとデスクから離れない。


K)♡……
♡)……
K)♡…!
♡)……
K)ご飯食べな。
♡)…食べたよ。
K)……


嘘つけ。
食べた形跡ゼロだろが!!


K)なんでもいいからなんか食え。
♡)……いらない。
K)……
♡)……


強情な奴だなーー!もう!!


あたしは無理矢理
近くのおにぎり屋さんで
おにぎりとスープを買ってきた。


K)♡。
♡)……
K)♡。


パタン。

♡のパソコンを閉じた。


♡)なに……
K)ちょっとおいで。
♡)……やだ。
K)おいで。
♡)…っ


♡を休憩スペースに連れていくと
Mもついてきた。


K)なんであんたまで来んの。
M)だって…心配なんですもん…
K)……


三人でテーブルを囲って座った。


K)とりあえずこれ食べな。

どん。

♡)……
K)何も食べてないでしょ。
♡)……
K)どうせ朝も食べてないんでしょ。
♡)……
K)今日何時に来たの?
♡)……6時。
K)はぁ?!
♡)……


どんだけ早く来たんだよ!!


K)とりあえず食べな。
♡)……うん。


♡が食べ終わるまで
何も言わずに黙ってた。


♡)…ありがとう…
  ごちそうさま。お金払うね…
K)いらんわそんなもん。
♡)……
K)…今日…帰んないつもり?
♡)……
K)うち来る…?
♡)……
M)先輩、家出してるんですか?!
♡)……
K)キャリーケース持ってきてた。
M)えっ!もしかして裏にあったやつ??
K)うん。
M)あれ…誰かがGWの旅行明けに
  そのまま出社したやつかと思いました…
K)違うよ、♡の。
M)……
♡)……
M)登坂さんのこと…
  嫌いになっちゃったんですか…?
♡)……(ふるふる)
M)私のせいですよね…
♡)違うっ
M)…っ
♡)違うよ。私が聞いたんだもん。
  それに……
  知らなきゃ良かったとも思ってない。
K)……
♡)……
M)ショックかもしれないですけど…
  過去の話ですよ?
♡)……
M)昔のことなんて
  気にしたってしょうがないですよ!
K)うん…
  今はあんなにあんたのこと
  大事にしてんだし…
♡)……
K)過去のことはもう忘れなよ。
♡)…っ


ぽろっ


K)!!!


♡の目が涙でいっぱいになって
一粒こぼれた。


K)♡……
♡)過去のことって…
  昔のことって…
  臣くんにもそう言われたよ!
K)…っ
♡)過去のことだったら
  今には関係なかったら
  考えちゃダメなの?
  気にする私がおかしいの?!
K)そんなこと言ってない!
♡)もうこの話したくないっ!!
K)ちょっと待って!!


立ち上がって背中を向けた
♡の腕を掴んだ。


♡)やだっ!!!
K)落ち着けって!!!
♡)…っ
K)……


ポロポロ涙をこぼす♡を見てると
あたしまで苦しくなる。


K)ダメだとか
  あんたがおかしいとか言ってない。
♡)言ってるもん!!
  割り切れない私がおかしいんだもん!!
K)言ってない!!!
♡)…っ


とりあえず♡をもう一度座らせた。


♡)ふぇっ、ぐすっ…
M)先輩……
♡)ぐすん…っ
K)……
M)……
K)臣広は…
  あんたを傷つけようとしたわけじゃない。
♡)…っ
K)あんたがそんな傷ついてたら
  臣広もかわいそうだよ。
♡)…なに…それ…
K)臣広はあんたのことを
  すごく大事に思ってる。
♡)……
K)すごく大事にしてるのに…
  そんな出会う前のことで
  あんたを泣かせてるなんて…
  耐えられないと思う。
♡)…っ
K)……


なんでこんなこと言ってるのか
自分でもわからない。

でも…

♡が泣いてて苦しいって
あたしが思う以上に

臣広は苦しく思ってる気がして…


K)臣広をかばうわけじゃないけど…
♡)かばってるよ!
K)…っ
♡)だって臣くんは
  私に嘘ついたんだもん!!
K)…っ
♡)遊んでないって…
  そんなことしないって
  あの時言ったのに…っ
K)でもあたし言ったじゃん!
♡)…っ
K)チャラいの?って聞かれて
  はい、チャラいです。
  って答える男がどこにいんだよって。
♡)……
K)ましてや好きな女に聞かれて
  正直に答える男がいるかよ。
♡)…っ
K)そんなん…嫌われたくないから
  嘘つくに決まってんじゃん。
♡)……
K)……
♡)でも…嘘…ついたもん…
K)じゃああんたは
  臣広に嘘ついたことないの?
♡)…っ
K)心配させたくなくて
  嘘ついたこと、ないの?
♡)……
K)臣広は確かに嘘ついたかもしれないけど
  あんたを騙そうと思って
  悪意をもってついた嘘だとは思えない。
♡)……
K)そんなの許してやんなよ。
♡)…っ
K)臣広は…あんたのことが好きだよ。
♡)そんなの…
K)すごく大事にしてる。
♡)そんなのわかってる!!!
K)…っ
♡)わかってるもん!!
K)…っ


また♡の瞳から
涙がぽろぽろ、こぼれ落ちた。


♡)臣くんが私のこと好きじゃないとか
  大事にしてくれてないとか…
  そんなこと思ってない!!
K)……
♡)そんなんじゃないもんっ!!
K)……
♡)信じてないとか…
  疑ってるとか…そんなんじゃないのに
  どうしてそんなこと言うの?!
K)え…?
♡)違うもんっ!!
K)いや、そんなこと言ってないじゃん。
♡)浮気してるって疑ってるとか
  そんなこと思ってない!!
K)わかってるよ!
  んなこと言ってないじゃん!!
♡)もうやだっ!!
  こんな話したくないっ!!!
K)ちょっと待ちなって!!
♡)いやっ!!離して!!
M)先輩っ!!
K)とりあえず今日帰んないなら
  うち来なって!
♡)行かないっ!!!
K)は??
♡)Kちゃんちなんか行かないっ!!
K)…っ
♡)離してっ!!


♡はあたしの腕を振り払って
泣きながら出て行った。


K)…っ
M)……
K)……
M)……
K)あんな感情的な♡、初めてかも…
M)…私もです…
K)……
M)もしかしたら
  登坂さんに言われたんですかね…
K)え…?
M)さっき、様子おかしかったから。
K)……  


「浮気してるって疑ってるとか
 そんなこと思ってない!!」


K)……
M)……
K)あたしが…泣かせちゃった…
M)違いますよ!
K)……


デスクに戻ると♡は…
泣きはらした目をメガネの奥に隠して
また仕事を続けてた。

あたしの顔を見ることは
一度もなくて…


気付けば時計はもう20時。
ほとんどみんな帰ってるのに
♡は帰る気配がない。


K)何時までやんの?
♡)……
K)少しは休みなよ。
♡)……


ブルルルッ…


返事をしない♡の代わりに
机の上の♡の携帯が揺れた。


K)あ……


臣広からだ。


K)……


画面も見なければ出ようともしない。


バイブが止まって画面には…
「不在着信 22件」


K)…っ


こんなに…かけてきてるのに…


K)♡……
♡)……
K)電話、出ないの?
♡)……


ダメだ…
返事してくれない。


K)今日…本当に帰らないなら
  行くとこないでしょ?
♡)……
K)何時でもいいから…
  夜中でもいいから…
♡)……
K)本当に行くとこなかったら
  うちにおいで。
♡)……


カチャ…


あたしは家のスペアキーを
♡の机に置いて
そのままオフィスを出た。


K)はぁ……


ちゃんとうちに来るかな…

ほんとは…
自分の家にちゃんと帰って
臣広と仲直りしてくれるのが
一番いいんだけど…


K)……


♡の泣き顔が
頭から離れない。


♡があんなに泣いてるのに
あたしは何も上手な言葉が出てこなくて…

むしろ…
余計泣かせた。


「もうやだっ!!
 こんな話したくないっ!!!」


K)……


あたしも…

臣広がそういうことしてたって
お義姉さんに聞いて知ってたのに

♡には黙ってたから…
すごく罪悪感…


もしあの時、♡に話してたら…
♡は臣広を好きでいることを
やめたんだろうか…

付き合ったりしなかったんだろうか…


そしたら
あんなに泣くこともなかったのかな…

そしたら…
もしかしてTとかと付き合って
それはそれで幸せに笑ったりしてたのかな…


ピロリロリロ♪ピロリロリロ♪


K『はい。』
臣『何回もごめん、俺。』
K『うん。』
臣『今大丈夫?』
K『うん。』
臣『あいつさ…何回かけても
  電話出なくて…』
K『うん。』
臣『まだ…会社にいんのかな?』
K『…うん。』
臣『……』
K『臣広、ごめん。』
臣『え…?』
K『……』
臣『……』
K『…うちにおいでって言ったんだけど
  断られた。』
臣『えっ!!!』
K『…一応鍵は渡しておいたけど
  来るかどうか…わかんない。』
臣『……マジか』
K『うん…ごめん。』
臣『いや、なんでお前が謝んだよ。』
K『……』
臣『俺の方こそ…ほんとごめん。』
K『……』
臣『わかった。
  もし何かあったらまた教えて?』
K『うん…』
臣『じゃ、また連絡する。』
K『うん…』

ピッ。


K)……


臣広…心配だろうな…

あんなに電話かけてきてたし…

♡は…全く出る気配なかったし…


♡は今…きっと一生懸命
心に蓋をしてるんだと思う。

なのにあたしは
それを無理矢理外して
あんなに泣かせた。


♡…、ごめんね……

泣かせて…ごめんね……




ー続ー

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