〈29〉健ちゃんの失言

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そうこうしてるうちに
健二郎くんと隆二くんが到着して。
 
 
玄関まで迎えに行ったら、
健二郎くんはもう顔が真っ赤で
すでに酔ってるみたいだった。
 
 
隆)もう、ほら健ちゃん。しっかりしてー。
健)俺はしっかりしてるっちゅーねん!
  がははは!w
♡)……。
 
 
大丈夫かな。
 
 
健)あ、俺の彼女やーん♡
  ただいまー♡
♡)え?
健)俺と熱愛の噂になってる姫ちゃんやーん♡
♡)……。
 
 
私が健二郎くんをサッとかわすと、
隆二くんが健二郎くんのおでこを
ぺちっと叩いた。
 
 
隆)なに♡ちゃんに触ろうとしてんの。
  臣に殺されるよ。
健)ひぃぃぃっ!こっわーー!w
 
 
そのままリビングまでたどり着くと、
隆二くんは健二郎くんを床に転がした。
 
 
♧)隆二くん、お仕事お疲れさまー。
隆)へへへ、ただいま♡
  うちじゃないけどw
♧)ふふっw
む)ちょっと健ちゃーーん
  そんなとこに転がってたら
  みんなに踏まれるよー?
健)ほんなら迎えにきてーー♡
む)はぁ?もぉ〜〜
 
 
私は健二郎くんにお水を渡して、
二人が買って来たおつまみとかを
お皿に並べた。
 
 
◇)あ、剛典からLINE来たーー。
  臣さんももうすぐ終わるから
  二人で一緒に帰ってくるってー。
♡)あ、ほんと?
◇)うん。
健)ほんなら先に乾杯しよーー!w
M)まだ飲むんですかぁ?
  大丈夫ですか?山下さん。
健)大丈夫大丈夫、
  明日大した仕事あらへんから!w
  酒くれぇ〜〜〜
♡)はい。
 
 
とりあえず今いる7人で乾杯して…
 
健二郎くんはむーこさんにしなだれかかって
重たいって押しのけられてる。
 
 
健)♡ちゃんこっち来ぃや。
♡)やだよー、健二郎くん酔ってるもん。
健)噂の相手に冷たいやーん。
♧)まだ噂になったままなの?
  ラジオで否定してたよね?
隆)それでもまだ熱愛とか言われててさ、
  臣がふてくされてたもんw
♧)えっ
隆)なんで健ちゃんなんだよとか
  ブツクサ言ってたよw
◇)健さんは嬉しそうだけど…w
健)こんな可愛え子と噂になって
  悪い気する男はおらんやーんw
む)臣くんに殺されるよ、健ちゃんw
隆)それさっき俺も言ったw
M)あはははw
健)あっ!そーいえば!!
 
 
健二郎くんがいきなり大きな声を出すから
みんなびっくりした。
 
 
健)剛典がなぁ、今日手紙もらってたで♡
◇)へ?
健)可愛い女の子から♡
◇)ふーん…。
健)あ、怒ったやろー♡
◇)別に怒ってへんし。
健)ヤキモチやろー♡
◇)手紙一つにヤキモチ妬いてたら
  キリないもん。
隆)健ちゃん、◇ちゃんに絡むのやめなさい。
健)いたっ!
 
 
あ、またおでこ叩かれてる。
 
 
む)女の子って誰ー?
健)E-girls。
む)へ?E-girls??
  なーんだ、じゃあ可愛くないじゃん。
隆)ぶっw
健)むーちゃんさらっと毒吐いたな!w
  荒木くんとおんなしこと言いよって!w
む)だって顔が可愛い子いないよねぇ?
  ◇ちゃんの方がずっと可愛いわ。
M)同感でーす。
  てゆーか、E-girlsって
  妹みたいなもんじゃないんですか?
  恋愛どうこうとかになりえるんですか?
む)まぁ男と女だからねぇ、
  ゼロではないんじゃない?
♡♧)え…っ
 
 
ゼロじゃ…ないの?
 
絶対にないと思ってたんだけど…
 
 
◇)いーのいーの!
  剛典はね、E-girlsも全員食ったと
  思っとくから!!
む)出たーーーー!w
  さすが◇ちゃん!あははは!w
健)全員はさすがにないやろ!w
M)山下さんはあるんですか?身内と。
健)んー?んんーー?
♡)…っ
 
 
健二郎くんは何かを誤魔化すみたいに
横にユラユラ揺れてる。
 
 
♧)隆二くんも…あるの…?
隆)えっ!!
♧)E-girlsと…、、
隆)俺っ!?
♧)……Shizukaちゃん…とか…、、
隆)ええ!?
♧)例えばだけど…
  前に一緒にお仕事してたから。
  ダンスアースプロジェクト?で…
健)DANCE EARTH PARTYやろ!w
隆)違うよ!違う違う!!
  Shizukaちゃんは俺じゃないよ!臣!
♡♧)え…っ
隆)あっ…!
 
 
隆二くんはそう言ったあとで
しまった、って顔をして
気まずそうにゆっくりと私を見た…。
 
 
♡)臣…くん…?
 
 
Shizukaちゃんと…、臣くん…?
 
 
健)がははは!懐かしいな、それ!w
♡)え…?
健)しかもあん時あれやんな?
  臣ちゃんストレスで
  一過性の早漏みたいなん
  なってたやんな!w
隆)ストレス?過労じゃなかった?
  あっ…!
 
 
隆二くんはまたしまった、って顔で
今度は自分の口を慌てて塞いだ。
 
 
健)せやったっけ?
  まぁどっちでもええけどw
隆)…っ
健)Shizukaちゃんに乗られたら
  3秒持たへんとか言うてな、
  大笑いしたわー、アレ!w
隆)ちょ、ちょっと!健ちゃん!
健)誰やっけ?
  女子アナの子にも
  文句言われてたやんなw
隆)健ちゃん!
健)それで必死に治そうとして…
隆)健ちゃん!!
健)何やねんお前はうるさいなー!
 
 
そう言って健二郎くんは
またグラスのお酒を飲み干した。
 
 
♡)……。
 
 
……なんか…、
言葉が…出てこない…。
 
 
む)付き合ってたの?
健)へ?
む)臣くんとShizukaちゃんって子。
健)ちゃうちゃう!付き合うてへんよ!
  ただのセフレ!
隆)健ちゃん!もういいって!
 
 
隆二くんが気まずそうに声を荒げて…
健二郎くんはそのまま
むーこさんの膝の上に倒れて
目を閉じちゃった…。
 
 
M)登坂さん…そんな時期があったってことは
  昼間先輩が聞いた話も
  ほんとっぽいですね…。
む)だねぇ…。
♡)……。
◇)ほ、ほら!あれだよ!
  ね、剛典も臣さんも
  E-girlsなんて食い尽くしたと思っとこ!
  ねっ!
♡)……。
 
 
◇ちゃんが必死にフォローしてくれてるけど…
 
私は…
いくら遊んでても、
身内には手を出してないって思ってた。
 
 
隆)あー、、……すっげぇ昔の話だよ?
♡)……。
隆)ほんと昔!
♡)……。
◇)ほら、昔なんて臣さんも若かったしさ?
  女なら誰でも良かったんだよ!
  …って言ったらShizukaちゃんに失礼か!
  でもほら、男なんて酒入ってたら特に!
  女の顔なんか見てないもん!
  女の身体があればそれでいいんだよ!
む)……確かに。
  ヤレりゃー誰でもいいんだよねー。
♡)でも…セフレって…言ってた…。
 
 
それって…
一回だけじゃないってことだよね…?
 
 
◇)ええと、それは、ほら、ええと…
♡)もういいの、ごめん。
 
 
◇ちゃんにフォローしてもらうことじゃない。
 
 
◇)♡ちゃん…
♧)ごめんね、私が変なこと言ったから…
隆)いや、違うよ、俺がうっかり…
  ほんとごめん!
♡)ううん、誰も悪くないもん。
 
 
でも…
上手く笑えない。
 
 
臣岩)ただいまーーーー!
 
 
◇)げっ!帰って来た!
♡)!!!
 
 
その声を聞いて、私は咄嗟に立ち上がって…
 
 
バタン!!!
 
 
……自分の部屋に、逃げ込んじゃった。
 
 
♡)…っ
 
 
逃げたって…どうしようもないのに…
 
今は臣くんの顔を見たくない、
反射的にそう思っちゃったの…。
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
岩)ただいまーーー♪
◇)…おか…えり。
岩)ん?
◇)……。
 
 
岩ちゃんを困ったように見上げた
◇ちゃんとむーこさんの間で
健ちゃんが酔い潰れて寝てる。
 
 
臣)あれ?♡は?
 
 
キッチンにもいない。
どこだ?
 
 
臣)ねぇ、♡は?
皆)……。
 
 
……え、何この空気。
 
 
臣)♡は?
皆)……。
 
 
なんで誰も喋んないの。
なんでみんなこんな気まずそうなの。
 
チラチラ顔を見合って口をつぐんでる。
 
 
臣)どうしたの?♡どこ?
◇)ええ…と…、
む)臣くん…、あのね…、
臣)何?
む)実は…、
隆)ごめん!!
臣)え?
 
 
隆二がいきなり手を合わせて
俺に頭を下げてきた。
 
 
隆)ほんっとにごめん!
  口が滑った!ごめん!
臣)は?何が?
♧)違うのっ!私が余計なこと
  聞いちゃったから…!
隆)違うよ、俺が悪いんだって。
♧)でも…っ
臣)なんの話??
 
 
全然話が見えないんですけど。
 
 
む)♧も隆二くんも悪くないじゃん!
  悪いのはここで潰れてる
  酔っ払い健ちゃんだよー!
M)私もそう思います!
む)ベラベラ喋っちゃってさーーー。
M)ほんと酔ってましたもんね、
  起きたら覚えてなさそう。
臣)だからなんの話??どういうこと??
 
 
なんで♡はいないの?
 
 
◇)臣さん、♡ちゃん…、、
  部屋に行っちゃいました…。
臣)は?部屋?どこの?
◇)……。
 
 
◇ちゃんが気まずそうに視線をやったのは
♡の部屋。
 
 
臣)ん?自分の部屋にいんの?
  何してんの?
◇)ええと…、
臣)行ってくるわ。
◇)だーーーっ!待った!待った!
  ストップ!!!
臣)へ??
◇)今は行かない方が…
臣)なんで?何なの?
む)今は臣くんの顔見たくないんだと思う…。
  見たくないのか、見れないのか、
  どっちかわかんないけど…
臣)は!?なんでよ?!
む)健ちゃんが余計なこと言ったの。
臣)余計なことって何!!
む)臣くんとShizukaちゃんが
  昔セフレだったって。
臣)……は!??
 
 
その言葉に、俺は思わず固まった。
 
 
岩)え…、なんで今更そのネタ…、、
◇)やっぱほんとなんだ…。
岩)あ、いや……、
  え、でもなんで?
  なんでそんな話になったの?
隆)ごめん、俺が言っちゃった…。
  ♧に言われて焦って。
◇)あたしが言ったの。
  剛典なんてそのへんのアイドルも
  そのへんのモデルも
  E-girlsだって、全員食い尽くしてる!
  って。
岩)なんの話だよ!w
◇)いや、元クソ野郎だから
  それくらい遊んでてもおかしくないし
  それくらいに思ってた方がいい、
  って意味で。
岩)どんだけだよ!w
♧)それで私が…、、
  隆二くんにShizukaちゃんのこと
  聞いちゃって…
隆)そう、DEPで一緒に仕事したから、って。
  で、俺が思わず…
  それは臣だよって言っちゃったの。
  ごめん。
臣)……。
む)その後が割と悲惨だったんだよ。
  健ちゃんが色々喋っちゃって。
M)登坂さんが過労性?早漏だった話とか。
臣)ぶっ、ごほっ!
む)結構生々しい話を、ね。
臣)…っ
 
 
健ちゃん…、踏み潰していいかな…?
 
 
む)でも♡ちゃんが
  どの部分にショックを受けたのかは
  よくわからない…。
M)今は絶倫な登坂さんが
  昔は早漏だったこと…?
臣)ぶっ、ごほっ!
 
 
絶倫!??
 
 
む)それは別にショックじゃなくない?
  今もう治ってんならいいじゃん。
M)そっか…。
む)それで女たちに文句言われたことかなぁ…
  いや、それを今でもネタにされてて
  自分の耳に入ってきたことかな?
M)そうかも…。
臣)え…?
◇)あ、♡ちゃん…
  今日モデル同士のランチ会で
  その話聞いたらしいです。
  臣さんと昔遊んだ女から。
臣)…っ
岩)なんつータイミング…。
  じゃあただでさえ落ちてる時に
  健二郎さんがトドメ刺したの?
◇)うん、たぶん…。
臣)……。
 
 
どうしよう。
どうしよう。
どうしよう。
 
♡は今、怒ってんの?泣いてんの?
 
 
臣)いつから部屋に引きこもってんの?
◇)あ、臣さん帰って来てすぐ、です。
臣)…っ
 
 
ってことは…
俺に会いたくないから、だよな…。
 
 
◇)臣さんが元クソ野郎なことは
  もう乗り越えたと思ってたけど…
  やっぱりショックなんだよね…。
♧)それは何回聞いてもショックだと思う。
臣)…っ
♧)それと…
  相手がShizukaちゃんっていうのも
  ショックなんじゃないかな…。
む)なんで?
♧)もし私だったら、だけど…
  LDHの人たちって
  なんか家族みたいに仲が良いから…
  そんな身内の人とまで
  そういう関係だったんだ…
  っていうショックもある気がして。
岩)見境ない、みたいな…?
♧)……うん…。
臣)……。
 
 
Shizukaちゃんがセフレだったのは事実だし…
 
飲み会とかでベロベロになったら
他の子とも適当に
ヤッたりしてたけど…
 
身内って、イメージ悪いのかな?
♡的に…。
 
 
どうしよう。
他のもバレたらもっと嫌われるかも…。
 
 
む)臣くん…
  Shizukaちゃんだけじゃないな…?
臣)えっ!!
 
 
思わず声が裏返っちゃったよ。
 
 
む)他のE-girlsも食ってるな…?
  そんな顔してる。
臣)…っ
む)男は窮地に立たされると
  なんでも顔に出るからねぇ…。
M)勉強になります、むーこ姉さん!
臣)…っ
 
 
だって…
俺ほんとクソ野郎だったし…
 
正直、酒が入ってる時なんて
女なら誰でもいいっつーか…
相手が誰かなんて認識してない時もあるし
女の身体さえ目の前にあれば
もうそれでいいっていうか…
 
 
臣)はぁぁぁぁ……。
 
 
マジでクソだったな、俺…。
 
今じゃ考えられない。
 
 
隆)また♡ちゃん…
  出てっちゃったらどうしよう…。
岩)縁起でもないこと言わないでよ隆二さん。
隆)あ、ごめん…。
臣)…っ
 
 
あんな地獄を味わうのは、
もう二度とごめんだ。
 
絶対に嫌だ。
 
 
む)また、って…
  家出したことあるの?♡ちゃん…
隆)……うん、それが原因で…。
む)臣くんの昔の女遊びが?
隆)うん…。
む)……。
岩)でもちゃんと和解して
  戻って来てくれたんだよね?
◇)……「和解」とは…
  少し違うかも…。
岩)え?
◇)嫌でショックっていう気持ちよりも
  臣さんを好きな気持ちが勝っただけ
  っていうか…。
  過去に囚われるよりも
  二人で未来を見て頑張ろうって
  そう思おうとしてる感じだったよ、
  あの時。
M)そうですよね…。
  過去を全部許して
  受け入れたわけじゃないから
  そこに対しての嫌悪感は
  ゼロにはなってないと思います…。
♧)…それは…、仕方ないよね…。
む)そっか、なるほど…。
  じゃあやっぱりそういう話が
  耳に入るたびに
  ♡ちゃんは悲しいし嫌な気持ちに
  なっちゃうわけか…。
岩)はぁ……、
  せめて健二郎さんが
  余計なことを言わなければ…、、
む)それな…。
臣)……。
 
 
どうしよう。
 
 
さっきから頭の中が、そればっか。
 
 
謝りに行った方がいいのかな…。
 
……でも、足が固まってて動かない。
 
 
「最低……」
「気持ち…悪い…」
 
 
臣)…っ
 
 
「触ん…ないで…っ」
「今は…臣くんの顔…見たくない。」
 
 
あの時言われた言葉たちが、一瞬で蘇る。
 
 
「もう…一緒にいたくないっ」
 
 
そう言って♡は
泣きながら家を飛び出したんだ。
 
 
隆)ちょ、臣…、顔色悪いよ、大丈夫?
臣)…っ
岩)思い出しちゃったの?
  家出された時のこと。
臣)……うん…。
岩)気持ちはすげぇわかるけど…。
 
 
岩ちゃんは心配そうに
俺の背中を上下にさすった。
 
 
♧)私…、様子見てくるね…。
◇)あ、あたしも…っ。
 
 
♧さんと◇ちゃんはためらいがちに
♡の部屋のドアを小さくノックして…
そのまま中に入っていった。
 
 
岩)なんとか上手くフォローしてくれ〜〜
 
 
岩ちゃんが祈るようにそう言った。
 
 
む)とりあえず…座ったら…?
  臣くん、固まりっぱなし。
臣)あ、……、はい。
M)飲みますか?
臣)あ、……いや。
 
 
Mちゃんが酒を渡してくれたけど、
とても飲む気分にはなれなくて、断った。
 
 
む)うーん…、
  あたしもMちゃんも…ほら。
  奔放に遊んできた方じゃない?
M)そうですね…w
む)だから…なかなか…
  ピュアな女の子の気持ちは
  理解し難い部分もあるけど…
M)うーん…
む)きっと、あれかもね。
  実際に相手の顔がわかっちゃうと
  余計に嫌だったりするかもね…。
M)あ、それはありますね。
  特定の誰かってわかっちゃうと
  なんか想像しちゃうし…
む)うんうん。
 
 
むーこさんとMちゃんは
酒を飲みながらそんなことを話してる。
 
 
臣)……。
 
 
ゆっくりと息を吐いて。
 
 
水を飲みにキッチンに向かったら…
 
昨日二人で作ったグラスが
寂しげに二つ、静かに並んでた。
 
 
臣)…っ
 
 
♡、あんなに喜んでくれてたのに…
 
今朝まではあんなに嬉しそうに
笑ってたのに…
 
 
俺が過去にしてきた馬鹿なことのせいで
またその心を傷つけるんだ。
 
 
臣)はぁぁぁ……。
 
 
もう自分が嫌になって…
 
にゃんこのグラスを手に、
俺はその場に一人、しゃがみ込んだ…。
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
部屋に入ってきた♧さんと◇ちゃんは…
私の隣に座って、
何も言わずに背中をさすってくれてる。
 
 
♡)……。
 
 
なんかもう、嫌だな…。
……こんな自分が。
 
 
そう思ったら、涙がぽろっとこぼれてきた。
 
 
♧)♡ちゃん…っ
♡)…っ
◇)♡ちゃん…、
♡)…っ
 
 
もう、やだよ…。
 
 
♡)臣くんの顔、見たくないの…っ
♧)うん…、
♡)そう思っちゃう自分もやなの…っ
◇)うん…、
♡)ふえっ…
 
 
大好きなのに。
 
大好きなのに。
 
 
……考えたくない。
 
 
私はまたそうやって逃げるのかな。
 
 
◇)♡ちゃんは自分を責めがちだけど…
  そんな必要ないよ。
♡)え…?
◇)嫌なもんは嫌なんだもん!
  しょーがないじゃん!
♡)…っ
◇)しかも今回は身内でさ、
  名前まで出ちゃって。
  嫌悪感とか感じるのも仕方ないよ。
♧)うん、そう思う…。
  私でも、嫌な気持ちになったと思う…。
♡)…っ
 
 
でも…
私が臣くんを避けたら…
臣くんが傷ついちゃう…。
 
 
♡)……過去の話だって…わかってるの…。
◇)うん…。
♡)わかってるのに…
  やっぱりやだなって思う自分が
  どうしても…いて…
♧)うん。
♡)嫌なら考えなければいいのに…
  考えちゃうし…
◇)うん、仕方ないよ。
♧)うん、そうだよね。
 
 
何を聞いても平気になりたい。
 
 
♡)◇ちゃんみたいに…強くなりたい…。
◇)いやいや…、あたしだって…
  ネタでああ言ってるだけで
  実際はめちゃくちゃ嫌だよ?w
♡)えっ…
◇)嫌に決まってんじゃん!
  ほんと気持ち悪っ!最悪!最低!
  何やってたのあいつ!バッカじゃないの!
  って思うけどさ、今でも。
♡)…っ
◇)でもそこは♡ちゃんと一緒っていうか…
  過去を軽蔑しても、
  それはやっぱり「過去」だし。
  「今」の剛典を好きになっちゃったから
  一緒に「未来」を作っていくしか
  ないよなーって。
♡)…っ
◇)♡ちゃんが教えてくれたから
  あたしもそう思えたんだよ、あの時。
♡)…っ
 
 
そう…だよね…。
◇ちゃんも…いっぱい泣いたもんね…。
 
 
◇)まぁそう決意したってさ、
  またそういう話が耳に入ってくれば
  ふざけんなよこのヤローー!!
  とはなるわけだけどw
  そこまで人間出来てないしね。
♡)…っ
◇)でもこっちが腹を立てたり
  悲しく思うのと同じように
  向こうは反省の気持ちを抱くと思うんだ。
  その度に。
♡)…っ
◇)それでおあいこっていうか…
  バランス取れてるのかな、って。
 
 
私が悲しくなる分、臣くんも悲しくなって…
同じってことなのかな、二人とも。
 
 
◇)だから今は臣さんの顔見たくないなら
  それはそれでいいと思うよ。
  ♡ちゃんが無理することじゃないから。
♡)…っ
◇)絶対にまた、臣さんを好きって気持ちが
  いっぱいになって、
  顔が見たくなって、
  抱きしめたくなるから。
  それまでは無視してやればいーさ!
♧)あははは、◇ちゃん…w
  でも私もそう思う。
  無理して笑ったりする必要は
  ないと思うな。
♡)……。
♧)大丈夫。
  一度は乗り越えられたことなら
  また乗り越えられるよ。
  それくらい二人が想い合ってることは
  ちゃんと私たちもわかってるから。
♡)♧…さん…っ
 
 
そう言われて、また涙があふれてきた。
 
 
私はいつもこうして
周りの人たちの言葉や想いに、助けられてる。
 
 
♡)……ありがとう。
 
 
……コンコン。
 
 
◇)……あ、剛典…。
♧)隆二くん……。
♡)……。
 
 
岩ちゃんと隆二くんが
ゆっくり開けたドアから
すごく心配そうにこっちを見てる。
 
 
岩)今日はもう…帰ろっか…?
隆)って話してたんだけど…、
 
◇)あ、そっか…、そうだね。
♧)帰ろうか…。
 
 
二人は気まずそうに立ち上がって…
リビングに戻る?って
視線で聞いてきたけど、私は首を横に振った。
 
 
◇)そっか、じゃあ…
  あたし達は今日はこれで帰るね?
♡)うん、ごめんね、ありがとう。
♧)無理しないでね、♡ちゃん。
  夜中でも何時でもメールも電話もしてね!
♡)ありがとうございます。
 
 
またパタンと閉じたドア。
 
 
むーこさんが大きな声で
健二郎くんを必死に起こしてるのが
ドアの向こうから聞こえてくる。
 
 
♡)……。
 
 
みんな帰っちゃったら
臣くんと二人になっちゃう。
 
 
でも…、
まだ会いたくない。
 
顔、見たくない。
 
 
だって…
どんな顔したらいいのかわかんない。
 
何を話したらいいのかわかんない。
 
 
今日は私、ここで寝よう。
 
 
それからリビングが静かになるのを待って
私は一人でこそこそとシャワーだけ浴びて
すぐに自分の部屋に戻ってきた。
 
 
♡)はぁぁぁ…。
 
 
臣くんいなかった。良かった。
自分の部屋にいるのかな?
 
 
……私が出てこないこと、
変に思ってるかな…?
 
みんなから聞いたかな、きっと…。
 
 
もういいや。考えたくない。
明日は大事な撮影だし、今日はもう寝よう!
 
 
私はにゃんこ2匹をぎゅむっと抱きしめて
無理矢理に固く目を閉じた。
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
♡の部屋の電気が消えてる。
 
 
いつの間にかシャワーは浴びたみたいだけど
結局、最終的に部屋から出てきては
くれなかった。
 
 
臣)……。
 
 
どうしよう…
どうしよう…
 
そればかり考えながら、
無心でリビングの片付けをして…
 
気付いたらキッチンまでピカピカにしてた。
 
 
何やってんだ俺…。
 
 
臣)はぁぁ……。
 
 
ほんとどうしよう。
 
 
謝った方が…いいのかな?
 
でも謝るって何を?
 
 
Shizukaちゃんとセフレでしたごめんなさい、
って?
 
E-girlsにも手を出してました、
女なら誰でもいいクソ野郎でした、って?
 
 
臣)はぁぁ……。
 
 
嫌われる気しかしないよ、そんなん。
 
 
また家出したらどうしよう。
 
そう思ったら、怖くて何も出来ない。
 
 
触らぬ神に祟りなしって言うし…
下手に動かない方がいいのかな、俺からは。
 
明日にはいつも通りになってたりして…。
 
 
♡が笑っておはようって起こしてくれて
一緒に朝ご飯食べよー♡
なんて…
 
……ことにはならないよな、絶対……。
 
 
臣)はぁぁ……。
 
 
……何回目だろ、ため息…。
ため息しか出てこねぇよ、マジで…。
 
 
臣)はぁぁ……。
 
 
俺はそのままいつも二人で寝てるベッドに
一人寂しく身を投げて、目を閉じた。
 
 
……こんな状態で…
♡は明日、ハルくんに会うわけで。
 
どうしよう…。
 
 
落ち込んでる♡をハルくんが優しく慰めて…
そんな男最低だ、やめておけ、
みたいな流れになって…
 
俺なら絶対にそんな思いはさせない、
傷つけたりしない、
俺の方が♡を幸せにできる!
 
とかなんとか言い出しちゃったら…
 
 
臣)…っ
 
 
ありえる。
大いにありえる。
 
 
♡だって弱ってるから
誰かに甘えたくなるかもしれないし…
それがハルくんなら、尚更。
 
 
「もう家には帰りたくないの…。
 臣くんの顔なんて見たくない…。」
 
「だったらうちにおいで、♡…。
 今夜は俺と一緒にいよう。」
 
 
なんてことになったらどうすんだよ!!
 
 
「もう臣くんのこと…考えたくない…
 つらいの…苦しいの…」
 
「考えなくていいよ、もう。
 俺が忘れさせてあげる…、おいで…。」
 
「ハルくんでいっぱいにして…
 臣くんのことなんて…忘れさせて…。」
 
 
ああああああああっ!!!!
 
 
ダメだ!
脳内の二人が勝手に俺を捨てて
浮気し始めてる!!!
 
 
「♡、愛してるよ…
 誰よりも愛してる…。」
 
「ハルくん…私も…、愛してる…。」
 
 
臣)!!!
 
 
ダメだ!!
悪い妄想が止まらない!!!
 
 
………やめろ。
♡を誰よりも愛してんのは俺だ。
 
♡が愛してるのも俺だ!
 
 
そう必死に言い聞かせるけど…
 
 
「恋愛なんて…
 いつどんなキッカケでどんなタイミングで
 何が起こるかなんて、
 わからないじゃないですか。」
 
 
なんでこんな時に橘の言葉が
浮かぶんだよ〜〜〜!!
 
ふざけんな橘てめぇこの野郎!!
 
 
臣)…っ
 
 
俺のピンチは、ハルくんにとっては
チャンスなわけで…
 
こんなキッカケで
もしかしたらハルくんが動き出すことだって
あるかもしれない。
 
 
♡を奪われる可能性は
いつだって、ゼロじゃない。
 
 
ゼロじゃないんだ。
 
 
 
 
 
ーendー

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  1. ひとみん より:

    健ちゃ〜ん〜
    ♡ちゃんが落ちてる時にさらに
    失言してくれちゃって…
    (#^ω^)ピキピキ
    臣くんがまた苦しんでるし
    .˚‧º·(°இωஇ°)‧º·˚.
    あああ(」゚ロ゚)」
    暗黒期思い出す…(´இ﹏இ`)
    再び暗黒期突入…?

    • マイコ より:

      その通り!(っ≧ω≦)っ突入でござる〜〜!w
      でも今回はプチ暗黒期ですよ、プチ!w

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