M)あ、登坂さん…
今日Rと撮影だったんですか?
♡)えっ
M)写真、載ってるから。
そっか、今日だったんだ。
送ってもらってる帰りの車の中、
私も携帯で臣くんのインスタを開いてみた。
♡)…っ
写真は…
臣くんがRの肩を抱いてて
その手でRのほっぺをつねってて…
二人とも楽しそうに笑ってる。
M)なんかこんな写真、珍しいですね、
登坂さん。
♡)……。
M)いっつもクールな感じなのに、可愛いw
私がぼーっと画面を見てると、
ハルくんが運転席からひょいと覗いてきた。
ハ)どれー?
♡)……。
ハ)ああ、ほんとだ。
なんか兄妹みたいだね、楽しそうw
♡)……。
兄妹なんかじゃないもん…
Rは臣くんのことが好きなんだもん…。
ハ)♡、ヤキモチ妬いてるの?
ハルくんが私を見てクスッと笑った。
ハ)そっか、♡もそういうことで
ヤキモチ妬いたりするんだ。
♡)別に…そんなんじゃないもん…。
ハ)可愛いねw
♡)…っ
そうだよね…、
アキさんはこんなことで
ヤキモチ妬いたりしない人だから。
大人の素敵な女性だから。
……私はいつも、子供みたいで嫌になる。
M)てゆーか先輩がこんな程度の写真に
ヤキモチ妬いてる場合じゃないですよぉ〜
♡)え?
M)手を繋ぐ以上のラブシーンは禁止!
って言われてるのに…
今日はキスシーンまでしちゃった上に
プロポーズされて結婚しちゃって
子供まで産まれちゃって!
もうあんなの登坂さんが見たら
どうなっちゃうか!
♡)…っ
ハ)まずかったかな…?
ハルくんが心配そうに
Mちゃんを振り返った。
M)相当なヤキモチ妬きですからねぇ…
登坂さん。
♡)知らないもんっ!
M)えっ…
♡)私は、仕事だもん!
M)…っ
仕事でもないのに
色んな女の人とそういうことしてた臣くんに
文句言われたくない…っ!
M)先輩…、登坂さんと喧嘩中だからって…
ヤケになってません…?
♡)なってないもんっ!
知らない、臣くんなんか。
Rと仲良く撮影してればいいんだっ!
ハ)♡、口がとんがってるよ…w
♡)…っ
ハ)……また…喧嘩してるの…?
そう聞かれて、思い出した。
「臣くんなんか嫌いだもんっ」
前に臣くんと喧嘩してた時に
私がそう言ったら…
「♡らしくないなぁ…
好きな人のこと、嫌いなんて言うの。
何があったかはわからないけどさ、
本当に思ってないことは
言っちゃダメだよ…?」
って、ハルくんに叱られたこと。
♡)…っ
私はモヤモヤした気持ちのまま、
ぎゅっとスカートを握って俯いた。
M)先輩…、覚えてますか?
♡)……え?
M)うちに来てくれた時に、
登坂さんが言ったこと。
ほら、伊藤さんに絡まれた時…、
♡)……。
M)馬鹿なことしてたなぁって、
昔のこと、反省してるって。
そのせいで未来の大切な人を傷つけたり
嫌な思いさせることになるなら
しなきゃ良かった、って。
♡)……。
覚えてるよ。
M)後悔しても仕方ないけど、
過去は変えられない分、
自分のこれからで
誠意を伝えていきたい、って。
♡)……うん…。
ちゃんと、覚えてる。
M)あの時の登坂さんの言葉も表情も
すごく誠実だなって感じたんです、私。
♡)…っ
M)この人は本当に後悔してて、
大事な人に信じてもらいたいから
二度と同じような過ちは
繰り返さないんだろうな、って…
そう思いました。
♡)…っ
M)それくらい、本当に本当に大事に想ってて
愛してるんだろうなぁ…って。
♡)……。
Mちゃんはそれ以上、何も言わなくて…
私も何も返せなかった。
M)あ、ハルキさん、あのマンションです!
ハ)はーい。どこに停めたらいいかな?
M)地下でもいいですか?
ハ)うん、もちろん。雨ひどいしね。
M)ありがとうございます!
それから車はJさんのマンションの
地下駐車場に入っていった。
M)ハルキさん、わざわざ
どうもありがとうございました!
ハ)いえいえ。
こちらこそ今日は
ありがとうございました。
M)出来上がり、楽しみにしてます♡
じゃあ先輩は、また明日!
おやすみなさい。
♡)うん、お疲れ様でした。
おやすみなさい。
Mちゃんの背中を見送って
車が地上に顔を出すと
相変わらずひどい雨が
フロントガラスを容赦無く叩いた。
ハ)すごい雨だね…。
♡)うん。
外の景色なんて、何も見えない。
私はまた膝の上で…
スカートをぎゅっと握った。
♡)……帰りたく…ないな…。
ぼそっと呟いたら…
ハ)気晴らしに、ドライブでもする…?
こんな天気だけど…w
ハルくんがそう言ってくれて…
その優しい声に顔を上げたら、
ハ)ん?
私の顔を覗き込む、優しい笑顔。
♡)……(こくん)///
安心する、ハルくんといると…。
ハ)ん、わかったよ…。
ハルくんは私の頭を優しく撫でて
またハンドルを握り直した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
R)はぁ、暑くなってきちゃった…///
ここの料理ほんとに美味いなー。
でも俺はやっぱり♡の料理が
食いたいんだよなぁ…。
R)なんか…酔っちゃったかも…///
帰ったら謝んなきゃな…
♡…、許してくれるかな…。
R)って、ねぇ!聞いてる?!
臣)あ?ん?何?
ぼーっとしてたら
いつの間にかRが上着を脱いで
キャミソールみたいなやつ1枚になってる。
臣)お前何おっぱい出してんの!!
R)ちょっと、言い方!///
臣)寒くねぇの!?上着ろよ!
R)火照ってるから…いいの///
臣)でもおっぱい出てるし。
やめなさいよまったく。
R)……だって出ちゃうんだもん…。
臣)大きいから?w
R)そう!///
Rは開き直ったように
自分の胸を揺らして見せた。
R)大きいでしょ?
臣)そうですねー。
R)臣さんの彼女より大きいよ。
臣)だから何だよw
R)どこがいいのあんな子。
臣)別におっぱいで選んだわけじゃねぇわ!w
つーか大きさなんて別にいいし。
R)嘘つき!
臣)ほんとだって。
大きさよりなんつーかさ、
形とか、弾力とか…、
こう…、どう馴染むかじゃない?
自分の手に。
R)空中でエロい手つきするの
やめてくれない///
臣)お前がおっぱいの話してきたんだろ!w
R)そうだけど!///
なんで俺がセクハラみたいに言われんだよ
ったく。
R)でも形とか弾力だって…
そもそものおっぱいが大きい方が
絶対にいいじゃない。
臣)そうとも限んねぇよー?
R)…っ
臣)まぁほんとおっぱいって
いろいろと個人差あるけどさー、
俺は♡のが好き。
R)はぁ!?
臣)♡のが好きっていうか
♡のだから好きなんだよ、うん。
誰だって好きな子のおっぱいが
一番なんじゃね?
R)そうかな。
臣)なんだよ。
R)絶対あたしの方がいいもん。
臣)お前はどんだけ自信あるんだよ!w
R)だってほんと綺麗だもん。
臣)いや、♡だってほんと綺麗だよ!
すげぇもん!
R)はぁ!?
臣)綺麗だし可愛いし…
なんつーか、ほら!その、えっと…、///
……♡は…、だから…///
R)ちょっと!!!
臣)えっ…
Rがいきなり怒ったように
テーブルを叩いた。
R)目の前のあたしのおっぱいじゃなくて
彼女のおっぱい思い出して
デレデレ照れるのやめてくれない!!
臣)だ、だって…///
なんか恥ずかしくなってきた。
臣)もうおっぱいの話やめよ…///
脳内に♡の裸がチラついて…
ダメだこりゃ。
R)そんなに言うなら…
比べてみる…?
臣)は?何を?
R)あたしのおっぱいと。
臣)はぁ!??
何言ってんだコイツは。
酔ってんのか?
臣)お前のおっぱいは
その好きな人とやらに
見せてやればいいじゃん。
R)……見たい…?
臣)は?!
R)臣さんは…見たくないの…?
臣)いや、だから…
R)見たいなら…見せてあげる///
そう言ってRが片方の肩紐を落としかけて
俺は慌ててその手を止めた。
臣)いらねーわ!!!
何やってんだお前は!!!
R)…っ
びっくりしたーーー
R)少しは…ドキドキしないの?
臣)違う意味でめっちゃドキドキしたわ!
R)さっき撮影の時は…照れてたくせに。
臣)あれはいきなり背中に
おっぱいがぼよーん!て当たったから!
びっくりしただけ!
R)……。
Rは不満そうに口を尖らせてる。
臣)お前は一体何がしたいんだよw
♡と張り合うってより、
おっぱいでナンバーワンになりたいのか?
何なんだ???
R)少しくらい…ドキドキしてよ。
臣)はぁー?
俺はさぁ、もうあれよ。
視覚的なエロに興奮する歳じゃない。
R)おっさん。
臣)誰がおっさんだコラw
まぁでもそうかもねー。
昔とは違うし。
R)昔は…どうだったの?
臣)えーー、目の前におっぱいありゃー
喜んでいただきます、でしょw
R)昔の登坂さんだったら…
今、ドキドキしてる?
Rが谷間を強調しながら
俺に上目遣いしてきた。
臣)喜んでたんじゃない?
お前、食われてたかもな、俺にw
R)////
俺の言葉に、Rはふと目を伏せた。
R)あたし…もっと前に…
臣さんに出逢いたかった…///
臣)へ?
R)そしたら…抱いてくれたんでしょ…?
臣)は!?
なんか目を潤ませて
俺を見てるんだけど…。
R)一回でもいいから…抱かれたかった///
臣)は?俺に!?
何言ってんの?!
R)好き…なの…///
臣)…っ
泣きそうにウルウルした目が
俺をじっと見つめてる。
R)ね…、今の臣さんじゃ…
もう…ダメなの…?///
あたしに…何も感じてくれないの…?
臣)…っ
R)好き…。
臣さんが…好き…///
キャミソールの前を少しずつ開きながら
前のめりになるRが…
おっぱいをむぎゅむぎゅ見せつけながら
俺に触ろうとしてきたから
でこをびしっと叩いてやった。
R)いったぁーーーい!///
臣)俺で練習すんのいい加減にしろ。
R)…っ
俺の言葉にRはハッとして腰を戻した。
R)なんでバレちゃったの…。
臣)ほんと怖いわー女優って。
R)今度は…少しくらいドキッとしてくれた?
臣)しねーよ!w
R)……ひど…。
臣)俺で練習してないで好きな奴にやれよw
うまくいくんじゃねぇの?
R)……。
臣)でも真面目に好きならやめとけよ。
軽い女だと思われるから。
R)…っ
臣)俺はお前だからいいけど
もし他の女にこんなことされたら
ああこいつ俺と一回ヤリたいだけだなって
思うもん。
R)……あたしならいい、って何…?
臣)だからお前相手だったら
勘違いしないけど、ってこと。
R)…っ
そう言うと、Rは俺を睨み付けて
おしぼりをぶん投げてきた。
臣)何すんだよ!!
R)うるさい!ばか!!!
ほんっと意味わかんねぇ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
土砂降りの雨の中、
どこを走ってるのかもわからなくて
私はただ、ぼーっと…
雨で歪む外の景色を眺めていた。
ピロリロリロ♪ピロリロリロ♪
ハ)ああ、アキだ。ごめん、出るね。
♡)うん…っ
ハルくんはハンズフリーにして
そのままアキさんからの着信に出た。
ハ)もしもし?
ア『ああ、ハル?今どこ?
撮影は終わったんでしょ?
今日は会社に戻ってくる?』
ハ)撮影終わって、今は♡とドライブしてる。
ア『え、ドライブ?』
その声に、一気に罪悪感が押し寄せた。
♡)…っ
仕事はもう終わったのに、
こんな風にハルくんに甘えてること。
アキさん、快くは思わないよね…。
ア『こんな天気でドライブしてるの?w』
ハ)うんw
ア『もっといいところ連れていって
あげなさいよーw』
ハ)あはははw
あれ…?
アキさん…、全然普通だ…。
ハ)だから今日は直帰するよ。
ア『ああ、そうなのね。了解。
♡ちゃんに今日のお礼伝えておいてね。
すごくいい映像が撮れたって
監督もカメラマンも喜んでたみたい。』
ハ)ああ、本当?良かった。
ア『ハルもお疲れ様でしたw』
ハ)こんなサプライズは二度とやめてねw
ア『あはははw
じゃ、♡ちゃんと楽しんでね♡
また明日。』
ハ)うん、お疲れさま。
電話が切れると、
ハルくんは「だって」って笑いながら
私を見た。
♡)え…?
ハ)あれ、聞いてなかった?
いい映像が撮れたって
みんな喜んでるって。
♡)あ、ああ!うん…っ
ハ)本当にありがとうね、お疲れさまでした。
♡)…っ
ハ)…ん?どうしたの?
♡)あ、ううん、…えっと…
ハ)ん?
♡)…っ
どうして、なのかな…。
♡)アキさん…は…、
ハ)うん?
♡)…っ
ハ)アキがどうかした?
♡)……どうして…、
ハルくんにヤキモチ妬いたりとか…
しないの?
ハ)え…?
♡)あ、もちろん私とは全然違って
アキさんは大人な女性だって
わかってるんだけど…、
ハ)……。
♡)私はすぐに…ヤキモチ…妬いちゃうから…
ハ)……うーん、そうだなぁ…。
私は真っ直ぐに前を見てるハルくんの横顔を
そっと見つめた。
ハ)アキは、わかってるから。
♡)え…?
ハ)俺が何よりも一番、
♡を大事にしてること。
アキが一番わかってくれてるから。
♡)…っ
何よりも…一番…?
……どうして?
一番は…アキさんじゃ…ないの…?
ハ)だから♡は俺に甘えたい時は
遠慮しなくていいよ。
♡)え…?
ハ)例えば今日みたいに。
気晴らしにドライブしたい時とか?
♡)…っ
ハ)いつでも付き合うからw
どうして…?
どうしてハルくんはそんなに優しいの?
私は…
ハルくんに甘えても…いいの…?
ハ)でも今日の撮影はほんとびっくりしたなー
♡)え…?
ハ)のんびり見学するつもりで行ったらさ、
いきなりあんなことになってw
♡)あ、そ、そっか!そうだよね!
ハルくんはいきなりだったもんね!
ハ)心の準備も何もないままw
♡)そうだよね!びっくりだよね!
ハ)あはははw
ああ…ハルくんが笑ってくれるだけで…
なんだか穏やかな空気が流れる。
♡)撮影とか…初めて…?
ハ)もちろん。やったことないよw
♡)でも、ハルくん落ち着いてた。
ハ)それは必死に冷静を装ってたんだよw
だって俺が慌てたり緊張してたりしたら
♡が困るでしょ?
♡)…っ
ハ)…って言っても…
隠しきれなくて…
普通にテンパったシーンも
あったけど///
「ほんっとにごめん!///」
キスシーンで…
唇が触れちゃって、
真っ赤になってたハルくんを思い出した。
♡)////
……そうだった。
私、ハルくんとキスしたんだった…。
♡)ハルくん…アドリブ…上手だったもん…。
ハ)え…?
♡)誓いの言葉だって…
とっさにあんな出てくるの、すごい。
ハ)……。
「愛してる。これから先、ずっと。
この命が尽きるまで。
一生変わることのないこの気持ちを今、
ここに誓います。」
♡)私、感動しちゃったもん…///
あんなの、泣いちゃうよ…。
ハ)……アドリブ…か、
♡)え?
ハルくんが呟いた声が、
窓に打ち付ける雨音で聞こえなかった。
♡)なんて言ったの?
ハ)ううん、なんでもないよ。
ハルくんはどこか寂しそうに笑って
そう言った。
ハ)綺麗だったなぁ…♡の花嫁姿。
♡)えっ…
ハ)本当に綺麗だった。
まるでそこだけ時間が止まったみたいで
俺、動けなかったもん。
♡)////
ハ)本当に綺麗だったよ。
♡)……あり…がとう///
ハルくんの優しい瞳に見つめられると、
胸がとくんとくんって音を立てるの。
♡)ハルくんも、素敵だったよ///
ハ)ははは、ほんと?w
♡)うんっ!
すっごくすっごくカッコ良かった!!
見惚れちゃったもん!///
ハ)あははは、ありがとうw
♡)////
外は冷たい雨が降ってるのに
車の中は、すごくあたたかい。
ハルくんが笑ってくれるだけで
まるでここだけ春みたいなの。
♡ハ)……あっ!
急に雨音が消えて…
窓ガラスの外の景色が、クリアになった。
ハ)止んだ…ね、
♡)…っ
土砂降りだったのが嘘のように、
雨がピタリと止んでる。
♡)……あ、海…っ
ハ)うん、気が付いた?w
雨だから見えないよなーと思いつつ
海岸沿い走ってたんだよ。
♡)…っ
全然気付かなかった。
ハ)降りたい?
♡)…っ
どうしてハルくんはなんでもわかるのかな。
♡)少しだけ、外の空気吸いたいな…。
ハ)いいよ、寒いけど。降りようか。
そう言ってハルくんは、
車を停めるとわざわざ外から
助手席側に回ってきてくれて…
ドアを開けて、降りた私の首に
私が返したばかりのマフラーを
また巻いてくれた。
ハ)寒くない?大丈夫?
♡)また…貸してくれるの…?
ハ)風邪引かないようにね。
ハルくんは優しく笑って
私のほっぺを撫でてくれた。
♡)……あり…がとう///
ハルくんは本当に優しい。
今、思わずぎゅって抱きつきたくなった…。
ハ)足元気をつけてね。
♡)うんっ
外はやっぱりすごく寒い。
真冬の海は、真っ暗で…
冷たい冬の匂いがする。
ハ)……やっぱり♡が寒そう…w
♡)えっ…
ハ)おいで。
♡)…っ
差し出してくれた手を掴んだら、
ハルくんは自分のコートの大きなポケットに
私の手を一緒に入れてくれた。
♡)////
とくん…とくん…とくん…
♡)……私、なんか今日…変なの…///
ハ)え…?
♡)撮影がすごく長かったからかな…?
なんか…役から抜け出せない…。
ハ)え…?
♡)ハルくんが優しいと…
ドキドキする///
ハ)…っ
♡)いつもは撮影が終わったら
すぐに切り替えられるのに…
今日はなんか…おかしいの…。
ハ)……。
どうしてなのかな…。
変だよね…。
♡)ありがとう、大丈夫。
そう伝えて私は
ハルくんのポッケから自分の手を引き抜いた。
本当はまだ繋いでいたかった、
あたたかい手を離して。
♡)あ、波の音、聞こえるね。
ハ)うん…。
♡)真冬の夜に、海に来たのなんて…
初めてだよ、私。
ハ)…俺も初めてだよw
♡)そっか…、えへへ…w
ハ)素敵なドライブじゃなくてごめんねw
♡)あはははw
そんなことないよ、ありがとう。
連れてきてくれた、
ハルくんの気持ちが嬉しいもん。
♡)……はぁ…。
小さくこぼれたため息が白く曇った。
ハ)♡の息が白い。
♡)ハルくんも…白いよ。
ハ)うん。
こんなに寒いのに、付き合わせてごめんね。
でも、まだ……
♡)帰りたく…ないなぁ…。
弱々しい本音が…
白い息と一緒に、小さくこぼれた。
ハ)♡……。
♡)……。
冷たい風が止んで…
ハルくんが自分の身体で
風除けになってくれてるんだって、気付いた。
ハ)そんな顔でそんなこと言うなら…
俺がさらっちゃうよ…?
♡)…っ
さっきまでの優しいハルくんじゃない。
真剣な眼をしたハルくんが
真っ直ぐに私を見つめていた。
♡)さらって、って言ったら…
さらって…くれるの…?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
R)てゆーか…
長谷川さんがベタ褒めしてた
笑顔の破壊力がすごい新人さん?
臣)え?
R)そっちもなんか盛り上がってるわよ。
今日の写真で。
臣)今日の写真…?
そう言われて、
♡のホームページを開いてみたら…
臣)!!!
な、な、な、何これ…っ!!!
臣)…っ
な、な、な、なんで…
♡とハルくんが…
制服姿で…恋人繋ぎして…
こんな仲良さそうに…、、
R)思ったよりダメージ受けてる…。
大丈夫?
臣)…っ
R)なんの撮影なの?
イケメンさんね〜〜〜
なんで?
なんでハルくんと?
相手役、ハルくんだったのか!?
そんなん俺聞いてないけど!!
ハルくんの会社のCM、としか……
R)ちょっと、聞いてる?
写真ガン見しすぎじゃない?
臣)…っ
……ヤバイ。
なんか今の俺、ショックすぎて
もう思考能力がゼロ。
……バタッ。
R)ちょっとーーー!!
力なくテーブルに突っ伏したら
Rが俺の頭をバシバシと叩いてくる。
R)なんなの。
そんなにイケメンとの共演が
ショックなの?
仕事でしょ。子供じゃあるまいし。
臣)…っ
ただのイケメンなら…
俺だって我慢するけど…
わかってんのかよ。
そのイケメンはなぁ、あのハルくんなんだぞ!
R)それにしてもほんとイケメン。
何この人。どこの事務所だろ。
見たことないけど。
臣)……タレントじゃないよ。
建築会社の社長。
R)えっ!!
高校生の格好してるけど!?
臣)そういうCMなんじゃねぇの?
知らねぇよ…。
R)……ちょっと。
落ち込みすぎじゃない?何なの?
臣)……。
R)……。
臣)……それ、♡の初恋の男。
R)えっ!!
俺がそう言うと、Rは何も喋らなくなって…
ふと顔を上げたら、
食い入るようにスマホの写真を
もう一度見てた。
R)初恋の男と…こんなお似合いとか…
ヤバイね臣さん。
臣)何がだよ…。
R)取られるんじゃない?この人に。
グサーーッ
R)だってラブラブ感すごいもん。
どっからどう見てもお似合いの
ラブラブ高校生カップルだよ。
二人とも若いな。
臣)……。
俺だって…
制服着れば…きっといけるもん…。
R)…取られちゃえば…いいのに…。
臣)オイ!縁起でもねぇこと言うな!
R)なんでそんなに自信ないの?
登坂広臣のくせに。変なの。
臣)…っ
だって…
臣)はぁぁぁ…。
仕事の間は考えずに済んでたけど…
一気に現実に引き戻された気分。
臣)今、喧嘩してんだもん…。
そう呟いた自分の声が、
想像以上に弱々しくて、
余計に自分が情けなくなった。
R)喧嘩ーー?
仕方ないな、相談に乗ってあげるから
話しなさいよ、ほら!
臣)……なんでお前に…。
R)いいから!
臣)しかもなんか偉そうだし…。
R)いいから話しなさいって!
女子の意見も大事でしょ!
臣)……。
相談したところで
別にどうにもならないんだけど…
俺はビールを飲みながら
昨日の情けない話をRにぽつぽつと
話し始めて…
最後には今までのこともほとんど全部、
喋っちゃってた。
R)何それ。変なの。
臣)えっ…
R)純情ぶってんだかなんだか知らないけど
今は自分が愛してもらってるくせに
臣さんの過去に
いちいち文句つけるなんて小さい女!
臣)…っ
Rはドンとグラスを置いた。
R)やめたら?そんな女!
臣)いや、そういう話じゃなくて…
純情ぶってるとかじゃなくて…
あいつはほんとにピュアなんだよ。
R)はぁ!?
臣)俺以外の男も知らないし、
そういうところ潔癖っていうか、
ちゃんとしてるから。
R)は!?臣さん以外としたことないの!?
臣)う、うん…///
R)ふーーん。
だから余計に理解も出来ないし
嫌悪感を感じるんだとも思うし…
R)もうやめたらー?
臣)えっ…
R)だって考えてみてよ。
そんなピュアなお嬢ちゃんだっていうなら
これから先、毎回そうなるわけよ。
臣)…っ
R)臣さんなんて散々遊んでたんだから
そういう話はこれからも
耳に入ってくるだろうし。
臣)…っ
R)その度に、嫌がられて、
その度に、臣さんは凹んで。
毎回毎回、家出されないかなって
怯えるの?
そんなの疲れない?嫌じゃない?
臣)だってそれは…俺が悪いし、
自業自得っていうか…
R)なんで?相手があの子じゃなきゃ
そんなことにならないじゃない。
臣)え?
R)過去は過去でしょ?
そんなのいちいち気にしないで
今臣さんに愛されてることを
大事に思える人なら
そんな風にならないと思うけど。
そういう人と付き合えば?
臣)いや…、
R)根本的に合わないんだと思う、
臣さんと彼女って。
甘えてんのよ、あの女。
ほんと頭にくる。
臣)いや、なんで…
R)あたしならそんなこと気にしないもん。
臣)は?
R)あたしだったら、
今愛してもらえるならそれでいい。
それ以上なんて求めない。
臣)いや、♡だって別に…
R)あたしにすればいいのに。
臣)は?
R)あたしと付き合えば?
臣)なんでそうなるんだよ。
意味わかんねぇ。酔ってんの?
R)酔ってないし!
臣)はぁぁぁ……。
俺はまたテーブルに突っ伏した。
そういう話じゃないんだよ。
俺と♡が合わないとか…
他の女にすればいいのにとか
そんな話じゃ、全然なくて。
臣)♡のこと悪く言うのやめて。
あいつは何も悪くないから。
悪いの全部俺だから。
R)はぁぁ?!
ばっかじゃないの!
どこまで愛しちゃってんの?
臣)……。
だって…
臣)バカでいいよ…。
俺、そんくらいあいつが好きなんだもん。
あいつじゃなきゃダメなんだもん…。
俺の言葉に、Rは大きなため息をついて…
寝てる俺の頭をぺしぺし叩いて
髪を引っ張ってる。
R)そう思い込んでるだけじゃないの…?
臣)え…?
R)俺はあいつが好き、
あいつじゃなきゃダメ、
自分でそう思い込んでるだけで
別にそんなこと、ないと思うけど?
臣)は?
R)そんな一緒にいてしんどい相手より
ラクな相手、選べばいいじゃない。
臣)いや、しんどいとかそういう話じゃ…
R)どうせ!あの子は今頃、
臣さんの気持ちを知りもしないで
初恋のイケメンと
イチャイチャしてんだから。
臣)は?イチャイチャ?
R)してたじゃない。
仲良くおてて繋いで。
臣)…っ
R)どうせあれじゃない?
今彼氏と喧嘩してるのぉー♡
とかベタベタ甘えて。
そんな男やめて俺にしろよ
とか言われて舞い上がってんのよ。
臣)は?
R)だってイケメンだって
彼女のことが好きなんでしょ?
だったら彼氏と喧嘩してるなんて
絶好のチャンスじゃない。
絶対そこにつけ込むに決まってる。
臣)…っ
R)俺の方が幸せに出来るよとか
適当なこと言って
彼女の心を揺さぶって。
二人で臣さんの悪口でも言って
盛り上がってるんじゃない?w
臣)…っ
なんか…
弱ってるせいか…反論できない…。
R)フラれたら慰めてあげるから、
あたしが…。
臣)……。
不吉なこと言って
なんか頭撫でられてるんだけど…。
R)「姫ちゃんとイケメンさん
すっごくお似合いー♡」
臣)……は?
R)「なんの撮影か気になるー♡
情報解禁楽しみにしてるね!
二人とも爽やかで可愛くて
とってもお似合い♡」
臣)…っ
R)「もしかしてこの人が姫の彼氏?
美男美女でぴったり♡」
臣)なんなんだよさっきから!
俺が起き上がると、
Rは携帯の画面を見せてきた。
R)あの二人の写真の反響。
コメント読んであげたの。
臣)…っ
R)評判いいみたいねーー。
臣)……。
R)ま、いいんじゃない?
あっちはあっちで。
あたし達の写真もファンの人たちに
お似合いとか言われてるし♡
臣)…っ
♡たちの写真もコメントも、見たくなくて。
俺がまたテーブルに突っ伏すと、
Rが俺の頭を撫でながら、手を握ってきた。
R)もっと…他の人にも目を向けたら…?
臣さん、周りが見えなくなってる
だけな気がする。
……盲目になっちゃってるんじゃない?
臣さんに合う人、もっと他に…いるよ。
臣)…っ
R)臣さんのこと、
もっとちゃんと…想ってる人だって…
いるから。ね?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
見つめ合う私たちの間を
冬の冷たい風が吹き抜ける。
ハルくんは綺麗な瞳で
切なげに私を見つめた後、
ふと頬を緩めて、笑って見せた。
ハ)……今日、最初のシーンで…
♡と制服を着て並んで、手を繋いだ時。
……思ったんだ…。
俺があのまま日本にいたら…
こんな日常が、存在したのかな…って…。
♡)…っ
ハルくんも…
私と同じこと、思ってたの…?
ハ)毎日手を繋いで帰って。
当たり前のように側にいて。
♡が隣で笑ってくれる。
たまにはあんな風に可愛く、
キスしてくれる。
そんな暮らしが…あったのかな、って…。
♡)…っ
私も同じこと、思ってたんだよ…。
ハ)♡は…どう思う?
ハルくんは切ない笑みを浮かべて
私を見た。
♡)側に…いたと思う…。
毎日一緒にいて、手を繋いで…、
ハルくん大好きって、毎日のように思って
毎日二人で、笑ってたと思う…。
中学生の時も、高校生の時も、
きっとそんな風に、
私たちは絶対…一緒にいたよ…。
ハ)そしたら…今日のストーリーみたいに…
大学生になって…社会人になって…
……♡は…俺のお嫁さんに…、
なってたかな…?
♡)…っ
……ダメ。
あふれてこないで…。
目に滲む涙を、必死に止める。
ハルくんがいなくて寂しかった昔の私が…
泣きそうになってる。
側にいたかった。いてほしかった。
♡)ハルくんのお嫁さんに…
なりたかったよ…っ
幼い頃の恋心が…
涙になってこみ上げてくる。
♡)将来はハルくんのお嫁さんになりたいって
ずっと思ってた、子供の頃…っ
ハ)…っ
♡)ハルくんが大好きで、
いつかハルくんのお嫁さんになるのが
夢だったの…っ
ハ)…っ
そんな未来を、純粋に夢見てた…。
♡)…だから今日、
ハルくんのお嫁さんになれて…
嬉しかったんだよ…///
ハ)え…?
堪えきれずにこぼれた涙を振り払うように
私は顔を上げて、笑って見せた。
♡)ハルくん、言ってくれたでしょ…?
今だけ俺のお嫁さんになって、って。
ハ)うん…。
♡)子供の頃の夢が、あの一瞬だけでも
叶った気がして…
すごく嬉しかったんだよ…///
ハ)…っ
幸せだった、あの瞬間。
ハルくんが愛してるって言ってくれて…
誓いのキスをして、抱きしめてくれて…
私はすごく幸せな、花嫁だった。
♡)ありがとう、ハルくん…。
ハ)…っ
誤魔化しきれない私の涙を
ハルくんの手が優しく拭ってくれて…
その綺麗な瞳も、涙で濡れてる。
私は冷えた指先で…
同じようにその涙を拭ってあげた。
♡)……。
ハ)……。
抱きしめたい、こんなに。
抱きしめて欲しい、強く。
でも今目の前にいるハルくんは、もう違う…。
魔法はもう、解けたから…。
私はハルくんのお嫁さんじゃないから…。
ハ)♡……、
♡)うん……。
お互いに、わかってる。
ハ)♡がさらってほしいなら、
俺はいつでもそうするよ…。
ハルくんがゆっくりと
さっきの続きを話し始める。
冬の冷気で少し掠れてるけど、でも優しい声。
ハ)♡が笑顔になれることなら、
俺は何でもする。
今もこの先も、いつだって。
♡)…っ
ハ)でもそれは、♡が笑顔になれることなの?
♡)……。
ハ)俺がさらって、
♡が笑えるなら、幸せになるなら、
いいよ?
今すぐさらってあげる。
♡)…っ
胸がぎゅって、痛くなる。
ハ)俺のところに、来るの?♡。
優しく私の名前を呼んでくれるハルくんに
私はゆっくり首を横に振った。
♡)……(ふるふる)
それは違うって、わかるから。
私がYESなんて言わないことを
ハルくんもわかってて、言ってるんだ。
私に気付かせるために、
優しい問い方で。
♡)ハルくん、ありがとう…。
……寒いから…もう帰ろう?
ハルくんは両手で私のほっぺたにそっと触れて
あたためてくれて…
優しくゆっくり、頷いてくれた。
ー続ー
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♡ちゃんって、思った事や気持ちを何でも口にしちゃう(> <)
良いのか悪いのか...
臣くんと、元通り仲良くなってくれたら良いな❣
そうなんですよねぇ…( ̄^ ̄゜)長所でもあり短所でもあり…
仲直りできるのかな〜〜〜
うわぁぁぁ、ハルくん、、、
臣くんがキスしたって知ったらどうなるんだろうか。。。
あと私の頭の中のハルくんは真剣佑の顔のイメージでニヤけます(笑)
そんなイケメンで想像してもらって…ありがとうございます。゚(゚^ω^゚)゚。笑