あたしは昔から女友達が少ない。
だって…
女子はなにかと面倒臭い。
派閥を作りたがったり、
あることないこと噂するのが好きだし
ブリッコしたり、
なんかあったらすぐ泣いたり…
ほんとめんどくせぇ。
男友達といる方が全然気が楽だし
話も合うし楽しい。
まぁそれは、
兄貴が3人もいるせいだと思うけど…。
そしてあたしはなぜか大人ウケが悪い。
教師にはいつも煙たがられる。
幼稚園の時も
「子供の中に一人だけ
大人が混ざってるみたいで
正直扱いにくい。」
とか言われたらしくお母さんが困ってた。
自分ではそんなつもりないんだけど…。
目付き悪いからか?
何もしてなくても、友達にもよく
「Kちゃん、怒ってるの?機嫌悪いの?」
って聞かれる。
先輩にもよく
「その顔が生意気なんだよ。」
とかつっかかられたり…。
これが標準装備の顔だっつーの!
ま、基本誰に何言われても
気にしないタイプだから
どうでもいいんだけど。
文句とか悪口とか言ってる奴は
好きに言ってろってカンジ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そんなあたしが高校に入って
一番最初に話したのは♡だった。
あたしは大体いつも
話しかけにくい、とっつきにくい、
とか言われることが多くて
相手から話しかけられることなんて
ほとんどないんだけど…
この子はすごく無邪気に話しかけてきた。
♡)隣の席だぁ♡
よろしくね、Kちゃん♡
…って、勝手にKちゃんて呼んじゃった//
K)別にいいけどw
よろしくね。
♡)うんっ!えへへ♡
すっごく可愛くニッコリ笑う。
なんだろ…
ブリッコ系の子なのかな…
だったらちょっと面倒臭い。
と思って
あたしからはそんなに話しかけなかった。
なのに…
この子は人見知りしないのか
いつもガンガン話しかけてくる。
♡)Kちゃん部活何か入るー?
K)入らん。
♡)そっかぁ…
バイトとかするの?
K)しない。家の手伝い忙しいから。
♡)家??
K)うち教会なの。
だから色々イベントの度に
雑用やらされてるし。
♡)教会?!
K)うん。
♡)お父さん牧師さんなの??
K)そうだよ?
♡)すごーーい♡
K)いや、なんもすごくねぇしw
♡)じゃあKちゃんはクリスチャンなんだね♡
K)そ。
何気ない話をしてる時でも
♡はいつもニコニコ嬉しそうに笑ってる。
♡)わぁ!!ノート忘れて来ちゃった!!
K)英語の?
♡)うん!どうしようっ!
今日当たるから
いっぱい予習してきたのにー!!
K)あーあw
♡)ううう…
♡は何をするにも一生懸命なのに
とにかく鈍臭い。
かなりの方向音痴で、
教室から出発しないと
体育館に辿り着けなくていつも迷子だし
「今日は日直だから!」
って張り切ってたかと思えば
黒板消しを窓から庭に落とすし
「今日は奮発して学食のカツ丼食べるー♡」
とか言って、るんるんしながら買ったカツ丼を
お盆からひっくり返して泣いてたし
自転車置き場で
自転車をドミノ倒しにするのも
しょっちゅうだし…
ほんとおっちょこちょい。
K)ほら、とっとと写しな。
♡)え!!
…わっ、Kちゃん全部やってあるー!!
すごい!なんで?
K)英語好きだから。
♡)えーーっ!!すごーいっ!!
…ってゆーか…Kちゃん
すっごく字がキレイだね。
K)別に普通じゃん。
♡)ううん、キレイ!!
字って人を表すって言うでしょ?
ほんとにKちゃんみたい♡
K)はぁ?どこが??
あたしこんなんじゃんw
♡)こんなんって?
K)口は悪いしガサツだし。
♡)でも裏表がなくて
いつも真っ直ぐでしょ?
そーゆーところカッコイイし
私大好きだよぉ♡
K)……
♡)それが文字にも出てる気がする♡
そう言って、にっこり笑う♡。
K)……///
♡は、思ってることを何でも口にする。
裏表がないのは♡も同じだと思う。
でも、あたしとはちょっと違う。
そう…
♡はすっごく素直。
どうやったらこんな
素直なイイ子に育つんだろうって
不思議なくらい…。
いつも明るくて元気だから
♡を慕ってる子はたくさんいて、
周りにも人が集まってくる。
本当に…太陽みたいな子。
♡は…
クラスメイトのどんな悩みも
一生懸命聞いてあげる。
時には一緒に応援したり
時には一緒に涙を流したり…
何かすごいアドバイスを
するとかじゃないんだけど…
ただ「聞いてもらえる」っていうのが…
「聞いてくれる人がいる」ってことが
みんなにとっては心の癒しなのかな。
カウンセリングの基本は
ヒアリングだっていうしな。
思春期の女子たちには
ありがたい存在なんだろなーー。
とかいつもなんでも
冷静に分析しちゃうから
あたしって大人に嫌われんだろな。
おまけに♡は、
先生たちからも本当に愛されてる。
別に優等生!ってカンジじゃなくて
先生にも平気でタメ口きくんだけど…
でもそれも生意気なカンジじゃなくて
人懐っこいカンジだから
先生たちもいつも嬉しそう。
こんな誰からも愛される才能を
持って生まれてきたような子がいるんだ…。
今まで出会ったことのない存在に
少し戸惑いながら
あたしは家に帰って家族に話してみた。
K)学校にさ…、
イエス様みたいな子がいる。
兄)は??何それ!!
兄)イエス様ー?クラスの男子?
K)いや、女の子。
兄)何それ、おもしれ~~~w
兄貴たちが面白がって、食いついてきた。
兄)可愛いの?
K)うん。
兄)ほ~~~w
どのへんがイエス様なわけ?
K)なんか…あの子から
「憎しみ」とか「怒り」の感情を
感じたことがない。
そういう負の感情を
一切持ってなさそうな子。
兄)どんだけできた女子高生だよw
K)いつも笑顔で…
誰からも愛されるような、そんな子。
兄)すげぇな。
ほんとはすっげぇ裏の顔あるとか
そんなんじゃなくて?w
K)いや、ないわ、あれは。
純度100%ってカンジ。
兄)お前その子と仲いいの?w
K)え?
兄)全然キャラちげぇじゃんw
兄)だよなーーw
K)うっせぇな。
兄)めちゃくちゃ口悪ぃし
すぐ生意気だとか因縁つけられっしw
K)口悪ぃのは兄貴たちのせいだろ!
兄)天の邪鬼でほんと素直じゃねぇしなw
K)~~~//
母)Kはいつも男の子と
遊んでばっかりだもんねぇ。
女の子の友達なんて珍しい♡
仲良くなったんなら
今度うちに連れてきたらー?
兄)いいね!イエス様、見たいわw
K)面白がってんなよ。
でも…ほんとに…
生まれた時から家が教会で
神様の教えをずっと聞かされてきた
あたしなんかより
あの子の方がずっとクリスチャンっぽい。
母)いつも笑顔でいられる人は、強い人。
K)……
母)でも、最初から強い人なんて
どこにもいないのよ?
K)え…?
母)強くなった背景が…
強くなりたいと思った理由が…
強くならざるを得なかった出来事が…
人それぞれにきっとあるはず。
K)……
母)その子がどうかは
わからないけど…、ね。
K)……
そうなのかな…。
そういえば…あたし…
あの子のことそんなに知ってるわけじゃない。
知りたい…
初めてそう思った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
♡)ね、ね、Kちゃん!一緒に学食行こーっ♡
K)あたし今日弁当。
♡)えー!!
じゃあお弁当持って一緒に行こっ♡
K)えーーー
♡)いいでしょ~~
Kちゃんと一緒に行きたいんだもんっ!
K)はいはいw
素直にワガママ言ってくるところも可愛くて。
あたしは…
気付けば♡と一緒にいることが多くなってた。
♡ってほんといつもニコニコしてる。
怒ることとかねぇのかな…
って思ってたら、
学食で横入りしてきた男子に
♡はすぐキレた。
♡)ちょっとぉ!何で横入りするのー!!
男)なんだよっ
♡)ちゃんと並んで!もう!
男)うっせーなーー
♡)みんな並んでるんだから!!
男)わかったよ!ブース!
…って、えっ!!
あ、♡の顔見てびっくりしてる。
ブスじゃないどころか
あの♡だったことにびっくりしてる。
男)すんませんでした…///
♡)うむ!!
K)うむって誰だよ!w
♡が怒ってるとこ、初めて見た。
って思ってたら
その日の帰りにも♡はキレた。
♡)こらーーーッッ!!!
帰り道、公園で小学生の男の子たちが
野良猫に向かって石を投げてて。
♡は全速力で走って行って
猫の前に立ちはだかったけど…
♡)やめてッ!!!!
♡がいきなり割って入ったから、
男の子が投げた小石が、♡の顔に当たった。
♡)いたっっ!!
子)やべ!!!
子)誰だよ…いきなりっ
子)怒られる!!
謝りもしないで逃げようとしたそいつらを
あたしは全員ぶっ飛ばした。
子)いてぇっっ!!!
子)何すんだよ!!!
K)それはこっちのセリフだ。
くそガキ共が!!
子)……っ
K)謝れ。
子)……
子供たちはバツが悪そうに
顔を見合わせて、♡に謝った。
子)すみませんでした。
でも♡はまだ怒ってて。
♡)私じゃなくてにゃんこに謝ってよ!!
子)え……
♡)なんでこんなことするの?
痛いってわかるでしょ?
子)……
K)あんた…顔から血出てる。
♡)私はいいのっ!!!
その気迫がすごくて…
あたしは口出しできなくなった。
♡)ねぇ。こういうことされたら
痛いって、悲しいって
わからないの?
子)……
♡)にゃんこを何だと思ってるの?
子)……
♡)人間は何も偉くないの。
他の動物を
こんな風に傷つけていいだなんて
ありえない。
子)……
♡)自分がしたことが
ひどいことだってわかるなら…
ちゃんとわかるなら…
にゃんこに謝って。
K)……
こんな真剣な顔、初めて見た。
子)ごめんな…さい…
子)ごめ…んなさ…い
子供たちは素直に謝って。
♡)二度とこんなことしないでね?
子)はい…
小さく返事をすると、
子供たちは走って逃げていった。
♡)にゃんこーー!!
良かった。ケガしてない。
石、当たらなかったのかな?
K)そうみたいだね。
♡)良かった。
にゃんこ…ひどい人間はいっぱいいるから
ちゃんとすぐに逃げるんだよ!!
K)……
真剣に猫に話しかけてる。
顔から血出てるっつってんのに
そんなのお構いなしで…。
それからも♡を観察してると、
タバコをポイ捨てしたおっさんに説教したり
(入れ墨入ってるサングラスのおっさんに
普通に話しかけてた。)
本屋で倒れてくる本の
下敷きになりそうになった子供を
体を張って助けたり
(おかげで♡はたんこぶできてた。)
転びそうになった妊婦さんをかばって
自分が転んだり
(膝擦りむいて血出てんのに笑ってた。)
とにかく曲がったことが大嫌いで
困ってる人はほっとけなくて
身体が先に動くような子なんだって
わかってきた。
見てるこっちは危なっかしいんだけど…。
K)あんたって正義感強いよね。
♡)え!!そうかな?
K)うん。
そんなんじゃ大変そう。
♡)え?
K)世の中汚い人間なんて腐る程いるじゃん?
♡)そう…だけど…
K)……
♡)卑怯な人とかズルしたりする人は
いっぱいいるでしょ?
K)うん。
♡)それはその人の勝手だし
誰にも迷惑かけなければ
それでいいんだけど…
それが頑張ってる人の足を引っ張ったり
純粋な人を傷つけたりするのは
私本当に許せないの。
K)…なるほど。
♡)だからそういう悪には負けない!
闘う!!!
K)……
可愛い顔をキリッとさせて、
そう言った♡。
その数日後、
丁度クラスメイトが
「ズル」してる現場に出くわして。
うちのクラスには
ガリ勉タイプの大人しい男子が二人いて
それとは正反対の
チャラチャラした茶髪男子が二人いる。
自習で配られたプリントを
そのガリ勉二人が書き終えると
チャラ男二人がそれを奪った。
男)ご苦労さーんw
これ俺の名前書いて出しといていいー?
男)お!それいいアイディアじゃーんw
数学とかかったるくてやってられっかよ。
男)か、返してよ。
男)なんだよ。
お前勉強好きなんだろ?
俺の白紙の方やるからもう一回解けよw
男)俺のもやるやる。ほらw
ガリ勉二人が困り果ててる。
高校生になっても
こんなくだらねぇ男子っているんだな。
マジうざい。
♡)ちょっとーー!!
あーあ。
♡…正義感強いから
そんなのダメーとか言うのかな。
男)なんだよ。
♡)そんなのずるいー!!
私だって数学嫌いなんだから!
男)は??
え…
なんだそれ。
♡)□くんだって本当は数学嫌いなんだよ!
ねっ?
男)あ…あの…、うん…
そうなのかよ!
ガリ勉でも嫌いな教科とかあんだ!
…って、なんで♡がそれを知ってんだ?
♡)嫌いだけど一生懸命教科書見て
解いてたんだよーー
男)うるせぇなぁ。
♡)それを横取りするなんて…
男)…
♡)そんなのサッカーなら
レッドカードなんだからー!!
男)は??
♡)だって二人とも…
サッカーはいつも一生懸命でしょ?
男)え…?
♡)練習とかキツそうなのに
いつもボール磨いたり掃除したり
遅くまで頑張ってるもん。
男)…っ
♡)一生懸命で男らしいなって
私いつも思ってたのに…
男)え……///
♡)こんなとこでこんなズルするなんて
△くんらしくないよぉ…
折角いつもカッコイイんだから!
男)……っ///
♡)ねっ、じゃあ一緒にやろ?
男)は??
♡)数学嫌いならこのプリント一緒にやろー!
男)なんで…
♡)ほらーー早く!
そう言って♡は机をくっつけて
一緒に勉強を始めた。
♡)私も苦手だけど…
みんなでやれば出来るはずだもん!
男)なんなんだよお前は…///
とか言いながらニヤけてるし。
♡)ほら、これ、この公式じゃない?
男)ばーか、ちげぇよ。
これはこっちだろ!
♡)あ!!ほんとだ!!
男)お前…バカなの?w
♡)数学苦手なの!!
…って、△くん普通に解けてるし。
男)別に…めんどくさかっただけだし…
♡)すごーいすごーい♡
なんだぁ~出来るんだ~!!
男)……///
♡)ね、じゃあここも教えてー♡
男)これは…わかんねぇ…
なんだこれ…
♡)ねぇ、□くん、ここわかる?
男)あ…ここは…
えっと、ここにこれを代入して
先にこっちを計算すると…
♡)わぁ!!ほんとだ!!
男)さすがガリ勉、やるな。
男)いや、でも僕もここは本当に嫌いで…
♡)あははは♡
嫌いなんだ!w
男)おいガリ勉、ここも教えろ。
♡)ちょっと!!
□くんと○くんは
「ガリ勉」じゃないー!!
男)わぁかったよ、うるせぇなーー
□、ここ教えろ。
男)ここはね、こうやって…
♡)あ!!わかった!!出来たー!!
ね、ね、見てー♡
男)あ、ほんとだ。出来てる。
♡)わーい!えらいー?
男)ぶっw
えらいえらいw
♡)えへへー♪
頑張れば出来るもーん。
男)このグラフは?何これ。
男)このグラフはこの計算を使って…
男)ほぅほぅ
チャラ男二人はすっかり♡のペースで
一緒に勉強させられてて…
チャイムが鳴って、
あたしは♡に聞いてみた。
K)ガリ勉が数学苦手ってなんで知ってたの?
♡)え…?
…だって…□くんね、
いつも数学の時間の前だけ
一生懸命、教科書開いてるの。
K)……
♡)だから、数学好きなの?って聞いたら
苦手だから他の教科よりも
勉強してるんだ、って前に言ってたから。
K)…そうなんだ…
♡)苦手なこともちゃんと頑張ってて
□くんってすごいよねー♡
ガリ勉ともそんな会話を交わしてたとは…。
K)……
あたしは
ガリ勉がそんな頑張ってることも
もちろん知らなかったし
チャラ男二人がサッカーやってるのだって
女子にモテたいだけだと思ってたから
そんな一生懸命やってるって
知らなかったし…
♡は…すごく周りを見てる。
K)♡って…誰にでも話しかけるよね。
♡)そうかな?
K)あたし…興味ない人間には
話しかけないから。
♡)そっかぁ…
私は…人と話すのが好きだからかなぁ?
K)好きなの?
♡)うんっ♡
人と話すのが…っていうか…
人が好きなの♡
K)……
うん、やっぱり
クリスチャンの鏡みたいな奴だ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
♡はこんなにイイ奴なのに
可愛い子の宿命というか…
やっぱり♡をやっかむ女子はいて。
「私が○○くんのこと好きって知ってるくせに
♡ちゃんが仲良く喋ってた!」
「♡ちゃんが△△くんの気を引こうとして
ブリッコしてる!」
とか、色々勝手なこと言われてんだよなー。
今日も放課後、教室に入ろうとすると
女子たちが話してるのが聞こえてきて。
女)あたしさー、Kちゃんって苦手ー。
女)わかるーー!
なんかさ、あたし達のこと
バカにしてるカンジしない?
女)そうそう!ちょっと美人だからって!
女)いっつも男子とばっかり一緒にいるし。
女)男好きなんじゃない?あはははw
女)ってゆーかあたし、♡ちゃんもイヤ。
女)うんうん。
女)男子は全員自分のこと好きだとでも
思ってるんじゃない?
女)絶対思ってる!
女)あたし達はお前の引き立て役じゃ
ねぇっつーの!
女)ほんとー!!
ちょっと可愛いからってさ~~
女)とにかくあの二人きらーい。
女)2年になったら絶対クラス離れたい!
女)だね!!
ほぅほぅ。
好き勝手言ってくれちゃって。
クラスには♡を慕ってる子がたくさんいるけど
こういう嫉妬女子も何人かいるんだよな。
あたしは…
自分は何を言われてもいいけど
♡が悪く言われるのは
なんか無性に腹が立った。
そんな女子たちの嫉妬は募るばかりで
ある日教室でお昼を食べてると
♡につっかかってきた。
女)そんなにお弁当食べるんだーー
太らない体質って得だよね~
女)ほんとほんとw
ああ…そういや昨日こいつら
また1kg太っただのなんだの騒いでたな。
♡)だっていっぱい食べないと
お腹空いちゃうもーん♡
♡は無邪気に答えた。
確かに♡のお弁当は結構ボリュームがあって
必ずフルーツも持ってきてるし
とにかくバラエティ豊かだった。
女)そんなに食べたらあたしなら
太っちゃうもんw
女)無理無理~w
♡)そんなことないよっ!!
おいおい…
マトモに相手すんなーーw
ただの嫌味だって。
♡)朝と昼はしっかり食べないと
新陳代謝が悪くなるの!
女)は?
♡)だからいっぱい食べていいんだよー♡
女)何それ。
女)そんな食べたら太るっつーの。
♡)太らないよっ!!
太るとしたら他に原因があるの!!
女)えっ!!
そこから♡は
嫌味女子たちに一生懸命
ダイエット方法を説明し始めた。
夜遅い時間に食べるのは絶対ダメだとか
出来るだけ朝はフルーツも摂れとか
同じ量食べるなら
1種類でも多い食材を摂れとか…
気付いたら嫌味女子たち、
めっちゃ真剣だし…。
女)ほんとにそんなんで痩せれんの…?
♡)偏った食事とか
バランス悪いダイエットとかよりは
身体も健康になるし
新陳代謝も活発になって
お肌もキレイになるよー♡
女)マジで…
女)ちょっとやってみようかな。
♡)○ちゃんって割と夜更かしタイプじゃない?
女)は?なんで?
♡)いっつも手作りの小物とか持ってて
可愛いなぁって思ってて♡
女)え?//
♡)そういうの作ってると
夢中になって夜中まで
やっちゃったりしそうだから。
女)うん…。気付いたら夜中になってる。
♡)22時~2時は極力寝た方がいいから
そういうの作る時間を
夜から朝に変えるだけで
絶対お肌にいいと思うよー♡
女)そうなんだ…。
♡)△ちゃんはいっつも
髪のお手入れちゃんとしてて
ヘアアレンジもすっごく可愛い♡
女)え…っ
♡)私不器用だから羨ましいなー♡
女)…教えて…あげてもいいけど…
♡)えっ、ほんとー??♡
K)……
なんだなんだこれは…。
♡が無邪気すぎて
みんな調子狂ってんじゃん。
K)……
嫉妬って…結局は憧れなんだよなーー。
みんな♡のキレイな卵肌とか
ふわっふわの髪の毛とか
屈託のない笑顔とか
そういうのが羨ましいんだろうな。
♡)見てみてー♡
△ちゃんにやってもらったー♡
K)はいはい、可愛い可愛いw
♡)わーいっ♡♡
ああ…無邪気すぎる…w
結局♡をやっかんでた女子たちも
少しずつ♡と仲良くなって。
♡はいつも周りを見てる。
人のいいところをすぐ見つけてあげられる。
それをためらいなく口にする。
素直に言葉で伝えてあげる。
チャラ男たちも
あの女子たちも
そんな♡に毒気を抜かれたんだろうな…。
♡のこれはある意味才能だと思う。
一緒にいると
思わずこっちまで笑っちゃうくらい
無邪気に笑うし…
愛が常に溢れてるカンジ。
これは…勘違いする男子多いだろうな…
って思ってたら、
早速勘違いしたチャラ男が調子に乗って
あたしに言ってきた。
男)なぁなぁ…
♡って俺のこと好きだと思うんだけど。
K)は???
めでたいラーメン頭だと思ってたら
頭の中身までめでたい奴だな、オイ。
男)だってさ、俺と話す時だけ
すっげぇニコニコしてんだよ。
めちゃくちゃ可愛い///
K)……
はいはい残念でしたーー
♡は男女問わずいつでもああなんですーー
男)俺、告ったらいけっかな?
K)無理だろ。
男)なんでだよっ!!
お前はほんと鬼だな!!
K)ほんとのことだし。
でも…
勘違い野郎は
チャラ男だけにとどまらず
♡がちょっと笑顔で会話するだけで
顔を赤くしてる奴がそこら中にいた。
♡は本当に可愛い。
多分あたしが今まで出会って来た中で
ダントツで可愛い。
こんだけ可愛いから…
もちろん相当モテるわけで。
入学して間もない頃から
わざわざ♡を見に教室に来る男子が
後を絶たない。
2年生や3年生まで見に来てるし…
かなり有名人になってる。
でも当の本人は全く気付いてない。
K)あんたって…好きな人いないの?
♡)えっ!!///
あたしの唐突な質問に、目を丸くする♡。
♡)えっと…Kちゃんは?
K)いない。
♡)そっか…。
K)あんたは誰が好きなの?
♡)えっ!!!
K)いるんでしょ?好きな人。
その反応なら。
♡)……///
♡は顔を真っ赤にして俯いた。
♡)あのね…、ずっと…片思いなの…。
K)片思い?
♡)うん…
今度は少し寂しそうな顔を見せる♡。
こんな♡が片思いしてる相手がいるなんて。
K)どんな人なの?
あたしがそう聞くと、
♡はゆっくり話してくれた。
小学校の6年間、ずっと好きだった人で
6年生の3学期にいきなり転校しちゃって
それから全く会えてないって。
それでも…ずっと忘れられなくて
ずっと好きだって…
そう言って笑った笑顔がいつもとは違って、
すごく寂しそうだった。
♡)ハルくんに何も言わないまま…
言えないまま…
会えなくなっちゃったから…
K)会いたい?
♡)うん…。
K)もう3年経ってるのに…
まだ好きなんだ…。
♡)うん。大好き。
K)……
♡はこんなに一途にハルくんを想ってるけど…
もちろん周りはそんなこと知らなくて。
あたしと仲がいい男友達は最近、
あたしを経由して、♡に近付こうとしてくる。
男)なぁなぁ…♡とさ、
アドレス交換したいんだけど。
K)で?
男)お前仲いいじゃん。うまいこと頼むよ。
K)知らん。自分で何とかしろ。
男)冷たいな~~!!
K)それより漫画貸して。さっきの新刊どこ?
男)ああ、今あいつ読んでるわ。
K)じゃあ次あたしね!
男)はいはい…
ちえーーっ
みんな♡と話したくて近付きたくて
必死なのはわかるけど…
♡が好きなのはハルくんだし。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
それから結局、
あっという間にクラス中が仲良くなって
一年の冬。
♡がニコニコしながら言ってきた。
♡)私ね、家でいっつも
Kちゃんの話してるから
ママが会いたがってたよー♡
今度遊びに来てー♪
K)へ~~、じゃあお邪魔しよっかな。
それから週末、
あたしは初めて♡の家に遊びに行った。
レ)おお!!この子がKちゃんかい!!
家に入ると
いきなり勢い良く話しかけられた。
K)お姉さん?
♡)え!!違うよ!!ママだよ!!
K)えっ!!!!
レ)あっははははw
嬉しいこと言ってくれんね~~ww
K)マジか…
ママって…
全然母親に見えないくらい若いし…
K)すっげぇ美人ですね。
レ)あははははw
K)ああ、すいません、あたし口悪くて。
レ)♡から聞いてるよ~~w
♡はいっつも
Kちゃんの話ば~っかりだから。ね。
♡)うん♪ えへへー♡
レ)Kちゃん大好きなんでしょ?w
♡)大好き~~~♡♡
♡がニコニコ笑って抱きついてきた。
K)わかったってば///
♡)えへへ♡
バタン!!
瞬)ただいまー!!!
♡)あ、お帰り~~!!
瞬)うわぁ!!びびった!!
男の子があたしを見てびっくりしてる。
瞬)何このキレイな人。
♡)私の親友だよーー♡♡
K)え…っ
「親友」って…
そう言われたことが
なんかすごく嬉しかった…。
瞬)うちの姉ちゃんが
いつもお世話になってます。
K)あはははw
できた弟だな、おいw
瞬)ほんと鈍臭い姉なんで…
迷惑かけてると思いますけど…
♡)ちょっとぉー!何それー!!///
瞬)ほんとのことだろー!
♡)もう!あっち行っててよぉ!
瞬)はいはいw
なんか賑やかな家族だなーw
K)お父さんは?今日は仕事?
♡)あっ…
K)?
♡)パパは…ね、いないの。
K)え?
♡)……
離婚でもしたのかな。
まぁ…珍しい話じゃないし。
って…
その時は思ったけど、そうじゃなかった。
リビングを見渡すと
家族4人が仲良さそうな写真が
たくさん飾られてて…。
そっか…
亡くなったんだ、きっと。
K)…お父さん…カッコイイね。
あたしは一つの写真立てを、手に取った。
♡)ほんとっ??
K)うん。
すごく優しそうな…
でも、男らしくて…
K)イケメン。
♡)あはははw
やったぁ~~♡パパ喜ぶよーー♡
レ)なになに?パパがどうしたってー?w
♡)Kちゃんがね、パパイケメンってw
レ)あははは、見る目あるねぇ!!w
♡)あははは、ママってばw
瞬)レイコーー!牛乳あるー??
レ)まだ残ってるはずーー
瞬)おっけーー
K)レ、レイコ?!
♡)あ、うん。
瞬はママのこと名前で呼んでるの。
K)何それ!!
♡)ママが「お母さん」って呼ばれるの
嫌だからって。
レ)そ!!
なんか一気に老けこんだ気すんじゃん。
「お母さん」なんか絶対やだね。
K)じゃああたしもレイコさんて呼ぼ。
レ)あははは、どうぞどうぞ♡
豪快に笑うレイコさんは
昔モデルをやってたらしくて…
だからこんなにキレイなんだって
すげぇ納得。
美容情報にも詳しくて…
♡が詳しいのもレイコさんの影響だな。
♡は実際に自分でも
色々毎日頑張ってるらしくて…
腹筋100回とかあたしは無理だ。
すげぇ。
なんでそんな頑張るのか聞いたら、
いつかハルくんに会えた時に
もし自分を好きじゃなくても
また好きになってほしいからって
♡はそう言った。
もう3年も会ってない
連絡先もわからない男のために
そんなに頑張れるんだ…
よっぽど好きだったんだな…
会えるといいのに…
ハルくんに…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そして…
次の日曜には
♡がうちの教会に遊びに来て。
♡を見た瞬間、兄貴たちの目の色が変わった。
兄)可愛いっ!!///
兄)すげぇ!名前なんていうの??
♡)あ、あの…♡です…っ
K)怯えてんだろが!がっつくな!!
兄)だってすげぇ可愛いじゃん!!
兄)なんでKと仲良いの?w
兄)ほんとに仲良いの?w
K)おいw
♡)仲良しです♡
Kちゃん大好きです♡♡
兄)うああああ~~
マジでヤバい///
兄)可愛すぎる…///
兄)ちょっと、今の「大好きです♡」って
もっかい言って?w
兄)俺に言って!!
K)だ~~!!もううるさいっ!!
兄)なんだよ~!!
K)ちょっと。
兄貴たちうるさすぎるから
あっち行こ。
♡)あ、うん!
兄)♡ちゃんまた後でね!!♡♡
♡)はいっw
K)ごめんね、マジで。
♡)え?
K)兄貴どもうるさくて。
♡)え?全然だよーーw
すごいね!お兄ちゃん3人もいるなんて
楽しそう~~♪
K)全然。
♡)あはははw
私、上の兄弟いないから羨ましいよ~~♡
K)うちの兄貴で良かったら
いつでも貸すけどw
♡)あははは、Kちゃんってば~~w
それからリビングに行くと
お父さんとお母さんが、♡に挨拶した。
母)初めまして~♡
父)今日はゆっくりして行ってね。
♡)はいっ!ありがとうございます♡
えっと…牧師先生なんですよね?
父)ああ、そうだよw
♡)わぁ…♡♡
何に感動してるのかよくわからんw
それから♡は本棚を眺めて、
聖書に目を留めた。
♡)これ…見てもいいですか?
父)ああ、いいよ。
聖書をパラパラめくると
♡はちんぷんかんぷんといったカンジで
目をパチクリさせてて。
父)あはははw
それはちょっと難しいかな。
♡)あの…
父)何か読みたい部分があったのかい?
♡)いえ…、えっと…
私全然何も知らないので
キリスト教ってどんなんなのかなって…
すみません。
父)いや、いいんだよ。
興味を持ってくれてありがとう。
♡)……
父)人間は誰しもが罪深い生き物です。
それを認め、自らの罪を神に告白し
心から悔い改めれば許されます。
神はどんな罪からもあなたを救ってくれます。
♡)罪を…?
母)罪って言うと重く感じるかもしれないけど
嘘一つでもね、罪なの。
嘘をついたことがない人なんて
この世にいないでしょう?
♡)はい。
母)だから…この世に生きる全ての人々は
罪人なの。
♡)罪人だと…どうなるんですか?
母)死んだ後、天国に行けないわ。
♡)えっ……
母)だからみんな神様に祈るの。
自分の罪を悔い改めようとするの。
父)そうすれば神は全てをお許しになる。
母)天国に行けるのよ。
♡)……
K)ごめん、わかんないよね?
♡)ううん。
K)…
♡)えっと…祈ってなかった人は
今は天国にいないってことですか?
父)……
母)天国にいてほしい誰かがいるの?
♡)はい…。
母)じゃあね、♡ちゃんが祈ってあげて?
♡)え?
母)その人の笑顔を、幸せを、
心の底から祈ってあげて。
♡)……
そう言われて、♡は素直に目を閉じた。
天国にいてほしい誰か…
きっと…お父さんのことだよな…。
最初から強い人なんてどこにもいないって
お母さんが言ってた。
♡が強いのは…いつも笑顔なのは…
お父さんを失った悲しみがあるから…?
あたしも…祈りたい。
あたしは♡と一緒に目を閉じて
神様に祈った。
父)あなたの大切な人が
いつもあなたを見守ってくださいますよう…
神にお祈りいたします。
お父さんはそう言って
♡の頭を優しくポンポンとたたいた。
♡は…
目に涙を浮かべてたのに
唇をキュッと結んで、ニコッと笑った。
♡)ありがとうございます。
なんか…その姿が切なくて、
あたしは思わず♡を抱きしめた。
ー続ー
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