(17)無防備な寝顔

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そのまま二人でタクシーに乗ると、
♡はなんだかウトウトしてて。

 

♡)お腹いっぱいになったら
  なんだか眠くなってきちゃった…
臣)え…っ

 

なんだそれ…
子供か!w

 

♡)んーー……

 

♡がパタンと置いた手が、
俺の手にぶつかると…

 

♡)えっ、わ!ごめんね!!

 

♡はその手を慌ててよけた。

 

臣)……

 

そんな勢い良くよけなくても良くね?

 

……って、もう寝てるし!!!

寝んの早っ!!

 

♡)……スー……スーー……
臣)…っ

 

なんなんだよこの無邪気さは…
ほんと子供か…!

 

運)えーと…そこの信号ですよね?
臣)あ、はい。
  そこ左に曲がって
  大きな公園あると思うんで
  そこで一回停めてください。
運)かしこまりました。

 

もう家着いちゃうな…

 

……ゴンッ!!!

 

臣)え??
♡)いたぁい!!
臣)あ…、

 

♡は車が左折する反動で
思いきり窓に頭をぶつけた。

 

臣)大丈夫?
♡)うん…痛い…ぐすん。
臣)ぷっw
♡)なんで笑うのー!
臣)だって…今日、
  頭ぶつけてばっかりじゃんw
♡)あ…ほんとだ…
臣)頭悪くなんぞ…w
♡)ひどーい!!
臣)あはははw

運)着きましたよー

臣)あ、ありがとうございます。
♡)わ!もう着いた!!
臣)お前寝てたからなw
♡)えっと…お金……
臣)いいよ。
♡)えっ。
臣)いりません。
♡)えっと……ありがとう…//
臣)ん。
♡)それじゃあ…

 

タクシーを降りた♡が
腰をかがめてニコッと笑った。

 

♡)今日はありがとう。
  ごちそうさまでした♡
臣)うん。
♡)じゃあね♡
臣)ん。

 

バタン。

 

運)次はどちらまで?
臣)……そこ、右に曲がってください。
運)かしこまりました。
臣)……っ、
  すみません!やっぱり…
運)え?

 

まだ、帰りたくない。

 

臣)ここで降ります!!
運)え???
臣)あ、お釣りいいです、すみません。
  ありがとうございました!

 

俺は5千円札を渡して
急いでタクシーを降りた。

 

俺を見送ろうとしてた♡が
俺が降りたからびっくりしてる。

 

♡)どうしたの??
臣)えっと…

 

タクシーがそのままいなくなると
♡が慌てたように言った。

 

♡)行っちゃったよ?
臣)うん。
♡)え??
臣)んーー……

 

どうしよう…

もういいや。
素直に言お。

 

臣)まだ一緒にいたい。
♡)え?
臣)……
♡)……

 

きょとんとした顔してる。

 

「好きだからまだ一緒にいたい」って
そう言わなきゃ伝わんねぇのかな…。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

♡)えっと…
  どこかお店行けば良かったね?

 

臣くんがいきなりタクシーを降りてきたから
びっくりしちゃった。

臣くんはまだ飲み足りなかったのかな?

 

♡)どうしよう…
臣)別になんでもいいよ。
♡)あ…っ
臣)ん?
♡)見てー!今日満月だよー♡♡
臣)……あ、ほんとだ!

 

見上げた空に
ぽっかりと浮かぶ、白い満月。

 

♡)キレイだね…♡
臣)うん。
♡)この間は一緒に見れなかったもんね。
臣)あ…そっか。
♡)うん。
  でも今日は一緒に見れたねー♡

 

嬉しいな…

 

♡)あ!じゃあ…、屋上行かない?
臣)え??
♡)うちのマンションの…
臣)え、屋上入れんの??
♡)ふふふー♡
  特別に入れるんだよー♡
臣)行きたい。
♡)あ…、屋上なんかで良かった?

 

臣くんはお酒飲みたかったんだよね?

 

臣)全然いいよ。
  一緒にいれんなら何でも。
♡)え…っ

 

そう言うと臣くんは私より先に、
マンションに入っていった。

 

♡)…っ

 

一緒にいれるなら何でも…って…
どういう意味だろ…

 

なんか…

臣くんがドキドキすることばっかり
言ってくる…///

 

深い意味はないんだろうけど…
変に意識しちゃう…///

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

臣)普通屋上って閉まってない?
  なんで入れんの?

 

オートロックを開けて
エレベーターを待ちながら
俺がそう聞くと、♡がニヤッと笑った。

 

♡)ふふふ…あのね、
  寅さんにお願いしたの♡
臣)寅さん?!!
♡)あ、うちの管理人さん♡
臣)え?
♡)せっかく屋上あるのに
  行けないのもったいないなー
  入りたいな~〜、ってお願いしたら
  他の人には内緒だよって言って
  暗証番号教えてくれたのー♡
臣)え、すげぇw

 

何その特別扱いw

 

♡)あ、着いた♡

 

エレベーターを降りて
♡が暗証番号を押すと、
屋上のドアが開いた。

 

♡)わ、気持ちいい風♡
臣)おお…広いなーー
♡)月もちゃんと見えるねー♡
臣)ほんとだ。

 

あたりを見渡すと
ビーチチェアー?みたいな二人掛けの椅子に
ブランケットがかかってる。

 

臣)何これ?
♡)あ、寅さん忘れていってるー!
臣)??
♡)こないだここで
  寅さんと一緒に天体観測したのー♡
臣)何それ!
  めっちゃ仲良しじゃんww
♡)うん!寅さん良い人なんだもん♡

 

え、ちょっと待て…

 

臣)寅さんて何歳??
♡)60歳いってないくらいだと思うー
  たぶん。
臣)そうなんだ。

 

ほっ、一瞬焦った…
おじさんで良かった…。

 

臣)にしても…
  なんでこんな椅子まであんの?w
♡)私がね、ゆっくり座れる椅子とかあったら
  素敵なのに~って言ったら
  寅さんが余ってるビーチチェアー
  持って来てくれたのw
臣)あははw
  寅さん、何でも言うこと
  聞いてくれんじゃんw
♡)すっごくいい人なんだよー♡
  これなら雨降っても大丈夫でしょ?
臣)確かになw
♡)座るー?
臣)うん。

 

椅子に座って背もたれに身体を預けると
椅子同士の距離が近くて、
俺の腕が♡の腕に触れた。

 

臣)…っ

 

またよけられんのかな、と思ったら
♡はそのままで…

 

臣)……//

 

くっついてる部分に意識が集中して、
変に緊張する。

 

♡)なんか……
臣)え?

 

横を向くと
♡の顔がめちゃめちゃ近くて…

 

臣)…っ///

 

思わず俺は、空を仰いだ。

 

♡)…この角度…、眠くなっちゃう…
臣)え???

 

おい!!
まさか…っ

 

臣)!!!

 

起き上がって隣を見れば、
♡はスヤスヤ…。

 

どんだけ寝んだよ!!

 

臣)おい!
♡)んーー……
臣)寝んなって。
♡)……

 

あーあ…ダメだ。

 

つーか…

こんなすぐ隣に俺いんのに
こんな無防備に寝るとか…
俺のこと男として見てんのかよ。

 

意識してんのって、俺だけ?

 

臣)……

 

俺が椅子にもたれながら横を向くと
幸せそうな顔をして寝てる。

その距離は30cmもなくて。

は~~~~
寝顔可愛いし…///

なんなんだよもう…

チューすんぞ…ばかやろー///

 

臣)はぁ…。

 

しばらくその寝顔を見つめてると、
また生温い風が吹いて。

自分の髪が顔にかかると、
♡がうっすら目を覚ました。

 

♡)んん~…
臣)起ーきーろーー
♡)……え……?
臣)あ、起きた。
♡)…私…寝ちゃってた??
臣)うん。
♡)えっ、ごめん!!
臣)……

 

ようやく起きた、お姫様。

 

♡)わ!わ!!
  変な顔してなかった?//
臣)してた。
♡)えーー!!
臣)あほな顔して、口開けて寝てた。
♡)うそーー!!

 

嘘だけど…。

 

♡)恥ずかしい…///
  ごめんね?
臣)別にいいけど。
♡)ダメだこの椅子~、眠くなっちゃう!
臣)天体観測の時は寝なかったの?
♡)……少しだけ…
臣)寝たんかい!w
♡)だって~~

 

俺以外の奴の前で
そんな無防備に寝るなよ!!

あ~~~もう……

 

♡)でも寅さんも気付いたら
  寝ちゃってたんだよw
臣)なんだそれw
♡)あはははw
臣)つーかこれ…
  調節できねーの??
♡)え?

 

椅子の後ろを見てみると
調節レバーがついてる。

 

臣)あんじゃん。

 

キコキコキコ。

 

♡)あ!普通の角度になった!!
臣)これなら眠くなんない?w
♡)うん!w
臣)ははっw

 

俺たちはもう一回椅子に座った。

 

臣)このマンションさ…
  会社のマンションなんだっけ?
♡)うん!そうだよー!家賃半額なの♡
臣)おお、すげーな!
♡)えへへ♡
  本当はね?
  もう一つマンションあって
  そっちの方が会社には近いんだけど…
臣)うん。
♡)でも、こっちの方が
  隣に公園あるし近くに川もあるし
  なんか自然が多いから…
  こっちにしたんだー♡
臣)そうなんだ。
  自然の匂いが好きなんだっけ?
♡)あ、覚えてた?
臣)うん。
♡)そう♡自然が大好きー♡

 

こっちのマンションで良かった。
俺んちからも近いし。

 

臣)♡ん家は何階なの?
♡)私の部屋は711号室だよー♡
臣)え!誕生日じゃん!!
♡)…っ、覚えててくれたの??
臣)当たり前でしょw
♡)えー!嬉しい♡
  そうなの、誕生日なのー♡
臣)すごいね、敢えて?
♡)ううん、偶然!……あ…っ
臣)……あ。

 

少し暗くなって空を見上げると…
雲で月が翳ってる。

 

♡)満月…、隠れちゃった…。
臣)うん。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

臣)あ、そーだ!
♡)ん?
臣)マフィン食っていい?
♡)あ、いいよー♡

 

臣くんは嬉しそうに、
マフィンの袋を開けた。

 

臣)いただきまーす。
♡)どうぞー♡
臣)……ん。
♡)ドキドキドキ…
臣)……美味い。
♡)ふわ~~良かったぁ~~

 

毎回緊張する、この瞬間。

 

臣)すげーー
  よく作れんな、こーゆーの。
♡)えへへ♡
  あ、でもそんなの食べたら
  喉かわいちゃうね?
臣)あ…、確かに。
♡)ごめんね?
臣)いや、全然いいけどw
  ほんと美味いわ、ありがと。
♡)良かったぁ♡

 

美味しいって言ってもらえると
すごく嬉しいな♡

 

♡)今日の分は何がいーい?
臣)え??
♡)これはこの間のお礼だから…
  今日ご馳走になった分…
臣)あははw
  何、また作ってくれんの?w
♡)うん!!
臣)どうしよっかなーー
♡)何食べたいー?
臣)うーん…
  お菓子じゃないとダメ?
♡)え??
臣)手料理食いたい。
♡)えっ!!

 

て、て、手料理…!!

 

♡)手料理ってなぁに??
臣)なんでもいいけど。
  料理も得意なんでしょ?
♡)えー!えー!
  するけど…得意かどうかは…
臣)いいじゃんw 作ってよ♪
♡)……わ、わかった!!
  頑張る!!!
臣)やった♡
♡)…っ

 

臣くんが、嬉しそうに笑った。

その笑顔に、一瞬ドキっとして…

 

♡)……///

 

でも…
なんで手料理なんだろ??

てゆーか…
作るって言ったけど、
どこで作るんだろ???

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

臣)月…、全然出てこねぇな~
♡)雲あつくなってきちゃったね。
臣)うん。

 

さっきまで折角綺麗に見えてたのになーー

 

♡)…もう…帰っちゃう?
臣)え?
♡)……
臣)……

 

「帰っちゃう」ってなに!!?

♡も…まだ一緒にいたいって意味かな…

 

え、違う?
俺…都合良く解釈しすぎ?

 

♡)……
臣)……

 

♡の表情から読み取ろうとすると、
可愛い目で俺をじっと見てくる。

 

臣)何それ。
♡)え?
臣)寂しい?
♡)え??
臣)帰っちゃう?って聞くから。
♡)えっ!あ…っ、ほんとだ…///
  え??寂しいのかな??
臣)それを俺が聞いてんだっつーのw
♡)え…、わかんない…///
臣)なんだよそれw

 

俺がつっこむと、
恥ずかしそうに慌てながら、
でもやっぱり可愛く俺を見てきて…

 

うわ~~~
もうこれ何!!

天然?計算?

あ~~~~~///

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

♡)え…、痛い…

 

いきなりむにっとつねられたほっぺ。

 

臣)ぶっw
♡)なにするのー///
臣)あはははw

 

私が臣くんの手を掴んで抵抗すると、
臣くんは笑いながら
ごめんごめん、って。

 

♡)もう…///
臣)……
♡)……

 

あ…れ…?

 

ぽんっ。

 

♡)…っ

 

頭に優しく置かれた、大きな手。

私を見つめる臣くんが…
すごく優しい顔をしてる。

 

どう…して……

 

♡)どうして…そんな…
  優しい顔して…笑うの?
臣)え??

 

私の質問に、臣くんは少し照れたように
視線を逸らして…

 

臣)知らね…///

 

そう言った。

 

♡)……

 

その横顔を、じっと見つめてると…

 

臣)…お前と…いるからじゃない?
♡)え…?

 

またこっちを向いた臣くんが、そう言った。

 

私といるからって…

???

私といて優しい顔するって…

あ、わかった!!!

 

やっぱり私のこと
子供扱いしてるんだ!!

さっきの頭ポンも
子供だと思ってしたんだ!!

 

♡)むぅぅぅ……
臣)え??
  なんでふくれてんの?w
♡)別にふくれてないもんっ。
臣)じゃあ何このほっぺ。
♡)いたい~~///

 

またむにむにされて。

 

臣)あはははw
♡)もうっ!!//

 

臣くんはそのまま、
笑いながら立ち上がった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

臣)じゃあ…そろそろ帰ろっかな。
♡)…うん。

 

これ以上一緒にいたら、
ほんとに帰りたくなくなる。

 

臣)寂しい?w

 

からかうようにその顔を覗けば、

 

♡)寂しくないよっ!///

 

そう言って俺の背中を叩いてきた。

 

臣)あっそw

 

あ~あ、可愛いなーー
ほんと…もっと一緒にいたい…。

 

♡)次は海だねー
臣)え?
♡)え?
臣)すげぇ先だけど。
♡)え?
臣)来月でしょ?
♡)うん。
臣)それまで…

 

それまで会えないカンジ?
俺…明日にでも会いたいくらいなんだけど。

 

臣)時間あったら、また誘っていい?
♡)え?
臣)飯とか。
♡)……
臣)つーか誘うわ。
♡)うん…。
  …あ!そーだ!
  私ご飯作るんだった!
臣)あ、そーだ…
♡)あははw
  時間合う時あるといいね♡
臣)うん…。

 

手料理は死ぬほど楽しみだけど…
お前に会えるなら何でもいい。

 

♡)じゃあ…ね?
臣)うん。…おやすみ。
♡)おやすみなさい♡

 

俺は♡に玄関まで送ってもらって
マンションを出た。

 

角を曲がる手前で振り返ると
♡が見送ってくれてて
また可愛く手を振ってて。

 

あ~~もう///

引き返して抱きしめたいんだけど…。

そんな気持ちを抑えて、
俺は手を振って角を曲がった。

 

臣)……はぁ。

 

次会えんのいつだろ…。

仕事早く終わる日あったら
絶対誘おう。

 

 

ーendー

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