それから俺は中学高校をアメリカで過ごして
飛び級でカリフォルニアの大学に進んで
3年で卒業した。
父さんは日本とアメリカを行き来しながら
見事に会社を軌道に乗せて
俺が大学を卒業する時、
「三年間働いた後、お前が会社を動かせ。」
そう言った。
9年ぶりに帰る日本。
ずっとずっと会いたかった女の子。
一度も忘れたことなんてない。
いつも同じ空の下…
その笑顔を思い浮かべてた。
何も言わずに離れてしまったことを
幼かった自分を
何度後悔したかわからない。
会いたい。
会いたい。
俺は帰国後、必死に♡を探して
友達のツテをたどってようやく見つけた時、
♡は大学4年生で、彼氏がいた。
当たり前だ。
もう9年も経ってる。
もう俺のことなんてきっと忘れてる。
何も言わずに姿を消した
俺のことなんて……
友)会わなくていいのかよ?
ハ)…いいよ。
友)ずっと…会いたかったんだろ…?
ハ)……
♡の姿を見ずに、もう会わないと決めた。
会ってしまったら
気持ちが溢れるとわかっていたから。
♡には♡の幸せがある。
♡が笑ってるなら。
今、幸せなら。
それ以上望むことは何もない。
そう思って諦めようとしたのに…
季節は巡って…、数年後。
修)ハルキ!ハルキ!
ハ)どうした?
修)昨日偶然バッタリ♡に会ってさ、
一緒に飲んだんだよ!
ハ)…っ
修)あいつ今、彼氏いないって!
ハ)……
修)俺も1年ぶりに会ったんだけどさ、
やっぱ変わってないわ、あいつw
ハ)え?
修)なんか相変わらず無邪気で
可愛かったよ。
ハ)……
修)あ、俺は全くその気ないからな?
昔から。
ハ)わかってるよ…w
修二は小学校の同級生で
日本に帰ってきてから
俺に連絡をくれて
今はうちの会社で働いてる。
昔から本当いい奴で…
修)会いたく…ないの?
ハ)……会いたいよ。
修)だったら…
ハ)……
修)お前がいっつもフラれんのも
♡のせいだろ?
ハ)…っ
大事にしたいと思って
付き合い始めても
「ハルキの心はここにない気がする。」
そう言って毎回フラれる。
だって…どうやったって…
心のど真ん中にある俺の陽だまりは
絶対に消えない。
修)一回ちゃんと会ってみたら?
ハ)……
そう言われても
俺は動けなくて…
♡に会うのが怖かった。
もう俺のことなんて
忘れてるんじゃないかって…
俺の知らない♡になってるんじゃないかって…
怖くて会いに行けなかった。
会いに行くことも、心の中から消すことも、
出来なくて。
また季節は巡り……
春。
どうしてだろう。
もうずっと会っていないのに…
顔だって…
わからないはずなのに…
どうしてこんな一瞬で
♡だってわかったんだろう。
ハ)♡!?
こんなに人がいるのに
どうして俺は…見つけてしまったんだろう。
ハ)♡!!
振り向いたのは
間違いなく、♡だった。
♡)……ハル…くん…
駅の人混みの中で
まるで二人だけ…
時間が止まったみたいだった。
ハ)……
見つめ合ったまま…
…言葉が…出てこなくて……
ハ)…♡…だよね?
♡)……うん…
懐かしい…声…
いつも隣で聞いていた…♡の声。
ハ)びっくり…した…
♡)う…ん…
ハ)こんなとこで…会えるなんて…
♡)……
ハ)…すぐに…わかった…
♡)……
あの頃とは何もかもが違うのに
すぐにわかった。
ハ)大人に…なったね…
♡)ハル…くん…も…
ハ)……
♡)……
あの頃は同じ目線だったのに…
♡はすごく小さくて…
♡)……
ハ)……
♡)…元気…だった…?
ハ)……
♡は震える声でそう言うと
ポロポロと涙をこぼした。
ハ)♡…っ
♡)…っ
次々と…♡の頬を滑り落ちる、涙の雫。
♡)ごめん…ね…っ
ハ)…っ
こんなに…傷つけたんだろうか。
俺は…
俺は…
♡)元気…だった?
涙を拭いた♡が顔を上げて
もう一度そう聞いた。
俺は…喉が詰まって…苦しくて…
ハ)……うん…
♡)……
ハ)元気…だったよ…
♡)……
なんとか返事を返した。
ハ)♡は…元気だった…?
♡)……
泣かせてごめん…
勝手にいなくなってごめん…
会いたかった。
ずっと会いたかった。
泣きそうになる気持ちを
必死に堪える。
俺が泣くなんて…勝手すぎる。
あの日何も言わずに
♡から離れたのは…俺なのに。
でも…
♡が何も言わずに
またポロポロ涙をこぼすから…
♡)…っ
ハ)♡…っ
ぎゅっ……
♡)…ハル…くん…?
ハ)…っ
身体が勝手に動いた。
無理だ。
こんなの無理だ。
♡が泣いてる時は…
いつだって抱きしめた。
俺は……
ハ)♡……、♡……っ
ごめん…
泣かせてごめん…
きっと…俺がいなくなってから
何度も泣かせた。
寂しい思いをさせた。
本当にごめん……
♡)ハル…くん…
ハ)♡…っ
ずっと…抱きしめたかった。
ずっと…ずっと…
好きだ。
♡が好きだ。
離れている間もずっと好きだった。
ずっと……
ハ)会いた……
♡)……
ハ)……
♡)…ハル…くん…?
ハ)……
「会いたかった」
その言葉が口からこぼれそうになって…
俺は腕をゆるめた。
ハ)ごめん……
♡)……
ハ)……
♡)……
俺はどれだけ自分勝手なんだろう。
「会いたかった」なんて
言っていいわけがない。
♡)…大丈…夫…?
ハ)…っ
泣きそうな俺に
♡の手が優しく伸びてきた。
♡)……
ハ)……
ぎゅっ…
♡)…っ
頬に触れた小さな手を
そっと握った。
ハ)大丈夫…だよ……
♡)……
♡…
好きだ…
好きだ…
今でも…こんなに……
__プルルルル!!
ハ)あっ…
♡)……
ハ)ごめん、行かなきゃ。
♡)…っ
でも…終わりにしたくない。
ここで会えた奇跡を
なかったことにしたくない。
ハ)♡、これ…っ
俺は急いで名刺を取り出して
♡の手に握らせた。
ハ)連絡して!!
♡)…っ
ハ)それじゃ…
♡)……
そのまま急いで改札に入ろうとしたけど…
やっぱり…
俺は立ち戻って
♡の頬を撫でた。
♡)…っ
あの頃と何も変わらない綺麗な瞳。
好きだよ。
♡…、ありがとう。
会えて良かった。
俺はそのまま新幹線に駆け込んだ。
♡……
♡……
連絡してきてくれるだろうか。
話したいことがたくさんある。
伝えたい想いがたくさんある。
でも…
一番伝えたいのは
会えなかった何年分もの「愛してる」。
もう大人になった今なら
この言葉を口にしても
許される気がして…
まだ、誰にも言ったことがない。
言うなら、♡しか考えられない。
誰と付き合っても…
好きだと思うことはあっても
大事にしたいとは思っても
こんなに愛しい気持ちになんて
なったことがない。
いつも俺の心の真ん中にいる
陽だまりのような存在。
初めて俺に、「愛」を教えてくれた女の子。
俺が「愛してる」のは、♡だけなんだ。
その気持ちが、♡と再会して
一気にあふれ出した。
もう誰にも、止められないくらいに。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
修)昨日、♡に会ったんだって?
ハ)!!!
カフェで企画書に目を通してると
修二がそう言った。
修)昨日、電話で聞いたよ。
ハ)…っ
そうか。
修二は♡の連絡先を知ってるんだ。
でも…
昨日、名刺を渡したし…
♡から連絡してきてくれるかもしれない。
修)クラス会しようって、前から話してて
それで電話したんだけど…
……お前も来るだろ?
ハ)…っ
クラス会…?
修)お前に会いたいって奴も
いっぱいいるし…
ハ)うん、行きたい。
修)……
俺もみんなに会いたいし
何より、♡にもう一度会いたい。
修)♡に…会いたい?
ハ)会いたい。
2年前には素直に答えられなかった
その質問に
俺は即答した。
修)なんで…今なんだよ。
ハ)……
修)2年前に俺が会いに行けって言った時
なんで行かなかった?
ハ)……
修二のその表情を見て、すぐにわかった。
修)あいつ今、……彼氏いる。
ハ)……
修)…で、多分だけど…
一緒に暮らしてると思う。
ハ)…っ
全くショックじゃないといえば
嘘になる。
でも、それでも♡に会いたいと思う気持ちは
全く変わらなくて
そんな自分に、少し驚いた。
ハ)クラス会、行くよ。
修)……
ハ)決まったら、教えて。
修)ん、わかった。
♡が…
どんな相手とどんな恋愛をしてきたのかなんて
俺には全くわからない。
俺が何人かと付き合ってきたように
♡だって恋愛をしてきたわけで
お互いに、お互いの知らない時間を
過ごしてきてる。
でも
昨日会った♡は
昔と何も変わってなくて
綺麗な澄んだ瞳も
泣き虫なところも
俺を「ハルくん」って呼んでくれる
優しい声も
抱きしめた時のあたたかいぬくもりも
何一つ、変わっていなかった。
会うのが怖いだなんて、
臆病に思っていた自分が
信じられないくらい…
会いたい。
♡に会いたい。
会って話がしたい。
その想いは、募るばかりだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
♡と駅で会ってから
俺が名刺を渡したあの日から
もう2ヶ月が経った。
2ヶ月が経ったけど
♡からの連絡は一切なくて
それが♡の答えなんだって思った。
それでも俺が♡に会いたい気持ちは
少しも消えない。
恋人がいるのはわかってる。
♡が幸せならそれでいい。
でも
ただ、会いたい。
この気持ちは
一体なんなんだろう。
修)クラス会の店、決まったぞーー
ハ)おう。
修)昨日、♡が選んでくれた。
ハ)会ったの?
修)いや、電話して…
LINEで候補送って選んでもらった。
ハ)そっか…
修)モデルの話したら、なんか照れてたわw
ハ)……そっかw
♡は最近雑誌に載ってて
モデルとして活動してるみたいで。
昔からどんな人にも愛される♡を
いつも隣で見ていて
そのスター性は俺自身、すごく感じていたし…
♡はもしかしたら
これからどんどん有名になるのかもしれない。
多分あの日、♡に会っていなかったら
俺の知らない♡になってしまったみたいで
その存在を遠く感じたかもしれないけど
あの日会えて、話せて
抱きしめたことで
どんな♡でも受け入れられる覚悟が
俺の中で出来てて…
なんて言ったらいいかわからないけど
どんな♡でも、驚かない。
そんな気持ちになれていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
クラス会の前日。
ア)ふふ、なんか落ち着きないわね。
珍しい。
ハ)え…?
ア)明日だもんね、クラス会。
ハ)…っ
ア)緊張してるの?
…それとも…楽しみでそわそわしてる?
ハ)……
上手く言葉で表現できないけど
確かに俺の頭の中は
明日のことでいっぱいだった。
ア)♡ちゃんと…話せるといいわね。
そう言って優しく笑ってくれるのは、
俺の義姉。
父さんは帰国してから
アメリカで一緒だった女性と再婚して…
そこで新しく家族になったのが、アキ。
一緒に暮らしてはいないけど
今は俺の秘書をしてくれてる。
♡のことも知ってて…
なんでも話せる相手だ。
ア)ハルが一歩前に進めますように…。
ハ)…俺……
ア)……
ハ)止まってるように…見える?
ア)…うーん…、そうね。
ハ)……
止まってしまってるのか、
止まっていたいのか
それすら自分でもわからない。
ア)ハルキくんは優しくてカッコ良くて
彼氏としては完璧なのに
どうしてか一緒にいても寂しいんです。
ハ)……っ
ア)なんて、もう女の子に言われないように…
ハ)……
ア)新しい恋を見つけるなり
♡ちゃんとの恋を進めるなり、
どんな形であれ
ハルが前に進めたらいいなって。
ハ)……
ア)私はそう思ってるわよ。
そう言ってアキはまた優しく笑った。
♡と会って、話が出来たら…
この気持ちは何か変わるのかな。
やっぱりどうしても好きだって
思ってしまうのか
それとも…
幸せそうな♡を見て、
自分の気持ちに区切りをつけられるのか。
__答えが出るのは、明日。
ー続ー
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