［67］君が眠るまで

臣）でさぁ、俺ここの出だし
　　歌いたいんだよね。
隆）……

俺がそう言うと、
隆二がジトーッと俺を見て。

隆）はいはい、満足するほど
　　抱きしめ合ったのね。
臣）いや、そんなこと言ってねぇじゃん！w
隆）じゃあこの曲は臣スタートね。
臣）うん。
　　あとさ、俺ここも歌いたいの！
隆）どこ。
臣）君が先に眠りなよ、のとこ！
隆）……
臣）…なんだよ。

またジト目。

隆）はいはい、♡ちゃんの寝顔が
　　見たいのね。
臣）さっきから全部♡にすんなし！w
隆）あ、でも順番で歌ってけば
　　そこも臣じゃん。
臣）あ、ほんと？
隆）……

隆二はじっと歌詞を見て…

隆）あと何時間か経てば…
　　また別々だね…、うんうん。
　　この別れの切なさ、臣には
　　わかんねぇだろうなぁ…
臣）はぁ？w
隆）男の方が気持ちが小さいって？
　　はいはい、すいませんね〜〜
臣）……

自分が歌うところを読んで
口を尖らせてる。

隆）次のデートする時は…
　　うんうん、どこでも好きなところ
　　連れてくから…
　　もっかいデートしてください！！
臣）ぶはっww

なんか、いいな。
初々しくて。

付き合う前のそーゆーのって、
すっげぇドキドキするしわくわくするし

舞い上がっては落ち込んで、
その繰り返しで。

浮き沈み激しいんだよねーー

懐かしいなw

デ）あ、もう二人とも来てた。
　　つんくさん渋滞で少し遅れるって。
隆）そうなんすね！了解っす！
臣）はーい。

待ってる間に、今決めたパート分けを
紙に落としていく。

隆）わざわざ来てくれるとか…
　　ほんとありがたいよね。
臣）うん。

つんくさんは去年、癌を公表して
この間、声帯摘出の手術をしたことを
公表したばかり。

手術自体は去年の秋だったみたいで

今はもう回復して
仕事も再開してるらしいけど…

そんな大変な時に依頼するのも…って
俺らは少しためらったんだけど

つんくさんは快く引き受けてくれた。

臣）前に一緒に歌った以来だよな。
隆）うん。

前は番組でTAKAHIROさんと一緒に
『シングルベッド』を歌った。

つんくさんのあの歌声を
すぐ横で、聞いてたのに。

臣）……

ヴォーカルが何より一番大事な
「声」を失うって…
どんな気持ちなんだろう。

つんくさんはそれでも
音楽に携わり続けてるけど…

俺だったらもう何もかも嫌になって
音楽とは無縁の道を選ぶかも。

だって、どんなに望んだって
もう二度と、自分は歌えないんだ。

そんなの…耐えられない。

隆）俺がもし歌えなくなったら…
臣）……
隆）俺もやっぱり、ピアノ弾いたりとか…
　　何かしら音楽に関わっていたいかも。
臣）……

俺の相方は、
俺と反対のこと考えてたみたい。

隆）なんかさ、自暴自棄に
　　なっちゃいそうだけど…
　　歌えなくても、音楽は耳に
　　入ってくるわけでしょ？
臣）うん。
隆）この世にはこんなに音楽が溢れてるのに…
　　それを断つなんて、俺には無理だな。
臣）……
隆）たとえ、歌えなくても。
臣）……

そうか…
歌えなくても、耳には流れ込んで来るんだ。

いろんな声が、音が。

それって…
余計に歌いたくなりそうだけど

どうなんだろう。

俺も結局、なんだかんだで
音楽とは離れられずに
生きていくのかな。

隆）俺がもし歌えなくなったら、
　　臣に曲書いてやるよ。
臣）……

深い意味はなさそうに
無邪気にそう言う隆二。

お前はいいよな、ピアノ弾けるから。
そんなカッコイイこと言っちゃって。

臣）じゃあ俺は…
隆）……
臣）お前の後ろで、ギター弾いてやるよ。
隆）え、うっそ！

また無邪気に喜ぶ隆二。

隆）臣、ギター弾けたっけ？
臣）……

その時は、猛練習するに
決まってんじゃん。

＿＿コンコン。

デ）あ、どうぞ！お入りください！

つんくさんが到着して
俺たちは二人同時に立ち上がった。

臣）おはようございます！
隆）今日はありがとうございます！
つ）……

つんくさんはニッコリ笑って
パソコンを開いた。

俺たちとやりとりするのに、
LINEが一番早いからってことで
LINEグループを作って…

パソコンでタイピングされた言葉が届いて
その中で会話していく。

つ『俺からは特にないから
　　二人の好きなように歌ったらいいよ。』

臣隆）えっ！！

その言葉が予想外で。

だって俺たち、ASAYANでモー娘が
細かくレコーディング指導されてるの
見てた世代だし…

てっきり俺たちもああなるのかと…

俺たちの戸惑いが、顔に出てたのか…
つんくさんはまた優しく笑って、

つ『じゃあ一回通して聞かせてくれる？』

そう言われたから、ブースにはまだ入らずに
二人でその場で歌ってみた。

臣）〜♪My Babe　君が先に眠るまで
　　もったいないから 起きてる
　　そう 明日の仕事とか
　　たぶん つらいんだけど♪〜

隆）〜♪My Babe　このまま起きているなら
　　二人の夢を語ろうか
　　ああ 幸せ奪うように
　　朝が来る　My Babe♪〜

最後まで歌うと、つんくさんは満足そうで。

つ『全然いいよ。二人の歌になってる。』

そう言われた。

つ『今市くんのココは、すごく感情が伝わる』

つんくさんがペンで指したのは
さっき隆二が話してたフレーズ。

つ『好きで好きでもどかしい切なさが
　　出てて良かったよ。』
隆）へへへ…//
つ『全体のバランスを取るなら
　　登坂くんのココ、色気ありすぎかな。』
臣）え？？

俺が指されたのは、1番のBメロ。

つ『ここは、女の子から
　　欲しいって言って欲しくて
　　ニヤける感じじゃなくて…』
隆）ぶっw
臣）……//

俺、ニヤけてた？

つ『欲しいって言って欲しいのに…っていう
　　男の切なさとか、
　　欲しいって言ってくれてもいいのに…って
　　もどかしさとか、
　　そういう感じで歌った方が
　　二人のバランスにはいいかも。』
臣）なるほど……

そう言われて
もう一回、歌詞を読み直す。

隆）これさー、きっとまだ
　　一線超えてないんじゃない？
臣）へ？？
隆）手ぇ出したいけど、出せなくて。
　　抱きしめてるだけで幸せで…
　　でもやっぱり抱きたいけど勇気出ないし、
　　彼女から言ってくれてもいいのに…
　　みたいな、切なさ？
臣）……

え、どうなの？

満足するほど抱きしめ合ってんのに？

隆）なのに臣がヤッた後みたいなテンションで
　　エロス出してくるからさぁ〜〜
臣）何それ！！w
　　いや、だって…、え？
　　これ…抱いた後でしょ？
隆）違うよ〜〜
臣）そうだって！
　　満足するほどヤッた後だって！
隆）はぁ！？
臣）だから不思議と幸せ感じてんでしょ？
隆）違うよ、もう！
　　もうちょっとピュアな感じで来いよ！
臣）はぁ？！
隆）「なんにもしなくても朝が来る」んだよ？
臣）……
隆）一緒にいれるだけで嬉しくて
　　手も出さずに抱きしめてるだけなのに
　　幸せな時間はあっという間で
　　別れの朝が来ちゃうの。
臣）……

そう言われて見直すと
……そんな気もしてきた。

隆二はあまりに自信満々だし。

俺が助けを求めるように
つんくさんに視線を向けると

つんくさんは笑ってて。

つ『歌の解釈なんて自由だから
　　正解はないしどっちでもいいんだけど、
　　二人で歌うなら
　　今市くんの設定に合わせた方が
　　いい感じになると思うよ👍』
臣）……なるほど。

えええーーーー

じゃあ…

俺が思い出すべきは。

最近の積極的でエロくて可愛い♡じゃなくて、
まだ俺を知らない頃の♡ね？

俺のこと振り回しまくって、
俺に死ぬほど我慢させて。

抱きたくて抱きたくて、爆発寸前で。

でもそれより何より
♡が大好きで仕方ないから

抱きしめて眠るだけで
すげぇ満たされて。

でも、やっぱり抱きたくて。

臣）よし！イメージできた！
隆）ふはっw

それから二人で交代で
ブースに入って歌ってみたけど。

俺たちの歌い方は綺麗すぎて
遊びがないって言われて。

真面目な歌詞を真面目に歌うと
普通に真面目になっちゃうから、

歌詞が真面目な分、
もう少しチャラく歌ってもいいかもって
言われて。

ちょっと力抜いたり
アレンジ入れたりして。

良い意味で崩れた仕上がりになった。

隆）なんかいいね、コレ。
　　俺らっぽくないってゆーか…
　　なんか新しいw
臣）うん、思った。

自分たちでも結構満足。

つんくさんは最後は
「いつも通りな二人を見られて楽しかったよ」
って言ってくれて。

隆）自分も…すごく勉強になりました。
　　ありがとうございました！
臣）僕も…ありがとうございました。

つ『俺はもう歌えないから。
　　この歌に、二人が新しく
　　命を吹き込んでくれたみたいで
　　俺も嬉しい。』

隆）……
臣）……

つんくさんは優しく微笑んだ。

隆）…手術…するの…、迷いましたか？

つ『もちろん。』

臣）……

つ『多分、俺一人だったら
　　手術しなかったかもしれない。』

隆）え…？

つ『自分一人なら、命が短くなろうとも
　　歌える人生を選んだかもしれないけど…』

臣）……

つ『守る物があると、選ぶ道も変わる。
　　守りたいって大切に思える人がいて
　　一緒に「生きたい」と思ったから
　　俺はこの道を選んだ。
　　迷ったけど、後悔はしてないよ。』

隆）……
臣）……

つんくさんの笑顔は、とても穏やかで。

「自分のため」じゃなくて…

誰かのために…

大事な人のために…

何かを頑張りたいとか
生きていきたいとか

そう思えるのって

「自分のため」よりも
何倍もの力を発揮するんだ。

俺がそれをもう知ってるのは、
♡が俺に…教えてくれたから。

隆）本当にどうもありがとうございました！
臣）ありがとうございました！

二人でつんくさんを見送って、
荷物を片付けて。

思ったことは、多分二人とも同じだった。

隆）早く会いたい…
　　……お疲れ、//
臣）ん、お疲れw

隆二は例の彼女に会いに行くんだろう。

少し照れ臭そうに
いそいそと部屋を出て行った。

俺も早く、♡に会いたい。

なんだか無性に、そう思った。

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♡）ふにゃ……

……ぱたり。

今日Ｍちゃんと話してたこと。

経理のこととか節税対策とか…

加奈子さんと猿田さんに相談する前に
自分でもちゃんと調べてみないと
失礼かなって思って…

パソコンでいろいろ検索してみたけど…
難しくてよくわからない。

♡）ふえーーん……
　　にゃんこ、助けてぇ……

なんか、周りの人に助けてもらってばかりで
私、全然自分で出来てない気がする。

せめて…
今、出来ること。

♡）よしっ！筋トレだぁっ！！

腹筋だけ鍛えても意味がないから
背筋もしっかりやって。

体幹トレーニングも。

1時間くらい黙々と続けてると、
臣くんが帰ってきた。

臣）ただいまーーー
♡）おかえりなさーいっ♡

臣くんは、入ってくるなり
私を抱きしめて。

♡）どし…たの…？//
臣）ぎゅーに理由が要りますか！！
♡）要らない…ですね。
臣）そうでしょう！
♡）……//

私もぎゅむっと
抱きしめ返してみたけど…

♡）あ、私今…汗臭いかも…//
　　筋トレしてたから…

慌てて離れた。

臣）はぁ？！

グイッ！

♡）…っ///

また、抱きしめられちゃった。

臣）お前が臭いことなんてないの！！
♡）…いや、あるでしょ…//
臣）ないの！

そう言って、首筋をクンクンしてくる。

♡）やだ、やめてーー！//
臣）ほらーー、甘い匂いしかしねーじゃん！
♡）そんなことないもん//
臣）あるーー！

ぎゅむっ。

♡）……//

もう何を言っても意味がないみたいだから
臣くんの気が済むまで
ぎゅむぎゅむされておこう。

………ぐーきゅるるーー

♡）あっ。
臣）……
♡）誰かのお腹が鳴りました！
臣）……
♡）…お腹が空いてるくせに…
　　ぎゅーをやめない人がいます！
臣）……
♡）ご飯の用意、してあげたいなぁ…
臣）……
♡）……

臣くんの腕から
そーっと抜け出して動こうとすると

そのまま後ろからずるずると付いてきて。

臣）今日のご飯、なぁにーー♡

ご機嫌な臣くん。

♡）今日はヘルシー和食です！
臣）おおっ
♡）明日外食だからね。
　　その分、今日はヘルシーに♪
臣）へ？
♡）ちょっとーー
　　明日は岩ちゃんと◇ちゃんとの
　　お食事会でしょ！
臣）あ！そうだったそうだった！！
♡）も〜〜〜〜

私はもう食べ終わってるから
臣くんの分だけテーブルに並べて。

向かいに座って眺めてると
美味しそうに食べてくれる臣くんが可愛い。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

臣）美味しい♡
♡）へへ、ありがとう…♡
臣）ありがとうは、俺。
♡）あはは♡

俺がご飯にがっついてると
♡が思い出したように言った。

♡）そうだ！私ねっ！
　　MV出演依頼がきたのーー！♡
臣）……

もう話したんだ、Ｍちゃん。
仕事が早いな。

♡）西野カナちゃんのMVなんだよ！
臣）ごふっ
♡）わ！大丈夫？！！
臣）……

そんな大物だったの？！
初耳なんですけど！！

臣）すげーじゃん…
♡）うん！
　　すっごく楽しみなのー！♡
臣）……
♡）私ね、本当は演技もしてみたかったーって
　　前に話したこと、あるでしょ？
臣）うん。
♡）その夢が叶ったーー♡
臣）……
♡）写真じゃなくて、動画だから…
　　緊張するけど頑張る！
臣）……

そうだった。

♡の夢が叶うような話だったのに…
一瞬でも却下しようとした俺を
許してください、ごめん。

♡）あ、そうだ。なんかね、
　　Ｔくんと一緒の仕事みたいなの。
臣）へぇ……
♡）少しは安心できそうで、良かったーー♡
臣）……

あいつと一緒だと安心なのかい。

臣）撮影いつ頃なの？
♡）来月の後半…？って言ってた気がする。
臣）そっか。頑張れよ。
♡）うん♡

なんて言ったものの、
モヤモヤモヤ。

あんなにLAで愛を確かめ合ったのに
こんなことでモヤモヤするのは、きっと。

帰国してからＨしてないせいだ！
絶対そうだ！

臣）ごちそうさま！
　　風呂入ってくるから絶対待っててね！
♡）あはは、なぁにそれ♡
　　待ってるよーー♡

…とか、言ったくせに。

……

……

臣）……

「待ってて」って…
起きて待っててって意味だったんですけど…

♡はパソコンの前で、スヤスヤ。

臣）おーーい。
♡）……
臣）♡さん〜〜〜
♡）……

起きる気配、なし。

今日もまたベッドへ運んで、
♡を抱きしめる。

臣）……

Ｈしたかったのに…
安心したように爆睡して…

こうなったらおっぱい触ってやるー！！
おっぱいくらい触らせろーー！！

「手ぇ出したいけど、出せなくて。
　抱きしめてるだけで幸せで…」

臣）……

ふと思い出した、今日のレコーディング。
隆二の言葉。

そういえば今日は
懐かしいあの頃を、思い出したんだった。

臣）……

おっぱい触ってやろうと思ったけど
やっぱやめた。

触りたいけど、触らない。

触らない代わりに…

触りたくて仕方ない気持ちを溜めておいて
明日爆発させてやろう。

抱きたい熱量を明日に持ち込んで
明日、思いっきり抱いてやる。

覚悟しとけよ！！

ーendー