今日は待ちに待った、♧との初デート。
3日前に、初めて連絡先を交換して
そこから数回のLINEのやりとり。
あの場所に行かないと
会えなかった関係から
こうしてLINEのやりとりが
できるようになっただけでも
俺的にはすごく嬉しい。
仕事が少しおして
今から急いで向かうって連絡して
俺は昨日予約を取った店へと向かった。
店に着いて
「お連れ様、もうお見えですよ。」
そう言われただけで
胸がバクバクしてきて、テンションが上がる。
通されたのは、一番奥の個室。
俺がそのドアを開けると
彼女は俺を見て、少し驚いた。
隆)ごめんね、待たせて。
♧)いえ、全然です。
隆)えっと…とりあえず飲み物頼もっか。
♧)あ、はい。
隆)何飲む?
♧)えっと…
慌ててメニューに目を通す彼女。
♧)ウーロン茶。
隆)え、飲まないの??
♧)え?
隆)お酒。
♧)あ、えっと…飲んだ方がいいですか?//
じゃあえっと…
隆)いや、無理しなくていいけど。
♧)……じゃあ…ウーロン茶で//
隆)了解w
お酒弱いのかな?と思いつつ、
ウーロン茶とビールを頼んで
俺はサングラスとマスクを外した。
♧)…びっくり、しましたー。
隆)ん?何が?
♧)なんか、お忍びみたいだなーって。
ふふっw
隆)……
その通りなんだけど…
知らないもんね、俺の仕事。
♧)風邪ですか?
隆)あ、いや、えっと…予防?
♧)ふふっ、偉いですね♡
隆)……//
いつもと同じ、柔らかい彼女の笑顔。
ああ、なんか…
すげぇ嬉しい、ほんと。
どうしよう。
今日は二人でゆっくり話せるんだ。
♧)お料理はどうしますかー?
メニューをパラパラとめくる彼女。
初めて明るい場所で、こうして顔を合わせる。
こんな顔…してたんだぁ……
♧)今市さん?
隆)あ、はい。
♧)聞いてましたー?
隆)ああ、うん。
♧)……どうしたんですか?
隆)いや…その…
見とれてました。
なんて言えない。
♧)(じーーーっ)
隆)……///
え、なんか俺、見られてる?
隆)な、何?
♧)明るいところで、初めて見るなぁって…
今市さんの顔。
隆)…っ
ドキッとした。
同じことを思ってたわけだけど…
もしかして、気付く?
俺に。
隆)どう…ですか。
♧)何がですかー?
隆)明るいところで見て。
♧)…ふふっ、なんですかその質問w
隆)……
くすくす無邪気に笑う彼女を見て
全然気付かれてないってわかった。
やっぱり知らないよね、三代目。
♧)カッコイイです♡
隆)えっ!!!
思いがけない爆弾が飛んできた!
カ、カ、カッコイイ?!!
カッコイイって言った!?///
♧)おじさんなんて言って、
すみませんでした。
そう言ってふにゃっと笑った。
隆)////
ドキドキ…ドキドキ…
♧)私はどうですかー?
隆)え?
♧)明るいところで見て。
今までちゃんと見えてましたー?
隆)見えてたよ!w
♧)そっか……
隆)……
でも…やっぱり、可愛い。
別に特別美人じゃなくても
可愛いわけじゃなくても
俺の目には、可愛く映る。
隆)大人っぽいよね、♧って。
♧)え?
なんか雰囲気が…
すごく落ち着いてるっていうか
大人の女性って感じ。
♧)老けてますか?w
隆)そんな意味じゃなくて!
♧)ふふっ、良かったー。
隆)////
あ〜〜〜〜
その笑い方、ほんと可愛い。
♧)お腹、空いてます?
隆)うん!ペコペコ!
♧)ふふっ、メニューどうぞ♡
隆)あ、ありがとう。
手渡されたメニューをパーっと見て
好き嫌いはないって♧が言うから
食べたいものを適当に色々頼んだ。
隆)じゃあ、乾杯。
♧)乾杯。お仕事お疲れさまです。
さりげないそんな一言が嬉しくて…
隆)……ありがと///
キンキンに冷えてるビールを
喉の奥に、流し込む。
めちゃくちゃ美味い。
♧は洒落たグラスを片手に
ニコッと笑うけど
その中身はウーロン茶。
隆)お酒、苦手?
♧)あ、いえ。
飲むと寝ちゃうんです。
隆)えっ
♧)すぐ眠たくなっちゃってー。
隆)そっか。
それは、弱いってことか?
♧)せっかく今市さんとご飯食べるのに
眠くなっちゃったら勿体ないから。
隆)…っ
あの、さ……
たまにそういう思わせぶりな爆弾を
落としてくるのは
わざとなの?
無意識なの?
俺、期待するよ?///
隆)じゃあ今日は寝かせないね。
♧)ふふっ、ちゃんと起きてますよーー
隆)……
ちょっと意味深に言ってみたのに
はい、コレ。
手応え、なし。
隆)♧ってさ、「ふふっ」って笑うの
クセだよね。
♧)え、そうですか?
自分じゃわかんないです。ふふっ
隆)ほらw
♧)あ、ほんとだー!w
隆)あはははw
ほんと可愛い。
あともう一つある、
語尾が間延びする話し方も
なんか独特ですごく癒されるから、好き。
♧)自分のクセって、
自分じゃわからないですよねー。
隆)うーん、確かに。
俺、なんかあるかな?
♧)うーん…じゃあこれからじっくり見て
見つけてみますね。
隆)……うん。
じっくり見られるのか…
なんか照れるな///
♧)私は直そうっと。
隆)へ?何を?
♧)え、笑い方…
隆)なんで!直さなくていいって!!!
びっくりして思わず声も大きくなる。
何言い出すんだよ!
♧)だって変なんですよね?
隆)変なんて一言も言ってないじゃん!!
♧)え……
隆)可愛いの!!!
それすっげー好きなの!!!!
直さなくていいから!!!!
♧)…っ
隆)…っ
慌てすぎて
必死になりすぎて
言ってから、我に返った。
隆)////
すげぇ恥ずかしい///
♧)なんか恥ずかしいです///
隆)いや、それは俺です///
♧)ふふっ、なんですかそれーー
あ、また笑ってくれた。
よかった。
♧)可愛いなんて…初めて言われました…
隆)え?
♧)男の人に…
隆)……
え、え、ちょっと待って。
そんな可愛いのに言われたことないわけ?
一体どんな人生歩んできたの?
謎すぎる!!
「お待たせしましたーー」
料理がパラパラと運ばれてきて
テーブルを鮮やかに彩っていく。
♧)ふふっ、美味しいーー♡
幸せ…♡
隆)……
可愛いなーーーー
♧)ふふっ、今市さんって
すっごく美味しそうに食べますね。
隆)え、そう?///
♧)はい。なんか可愛いです。
隆)んぐっ、ごほっ///
♧)ふふっ、大丈夫ですかー?
隆)///
可愛いって何。
俺、子供みたいじゃん。
♧)今市さんの将来の奥さんは
幸せ者ですねー。
隆)へ?なんで??
♧)こんな美味しそうに
食べてくれる旦那さんなら
絶対幸せですよ♡
隆)……///
そう思うなら…
立候補してくれませんでしょうか。
隆)♧はすごくいい奥さんになりそうだよね。
♧)え??どうしてですか?
隆)なんとなく。
♧)もう…なんですか、それw
ちょっと嬉しかったのに、
なんとなくってーw
隆)いや、別に適当に言ったんじゃなくて…
♧)ふふっw
隆)……///
ああ…
なんか…
ほんと♧の雰囲気が好き。
すげぇ癒されるっていうか
落ち着くっていうか…
なんなんだろう。
なんかそういう成分、出してるでしょ?
♧)お料理は得意なんで
あとは相手を見つけるだけです。
隆)へ??
♧)いい奥さんになるには。
隆)あ、ああ、その話ね?
♧)ふふっ、今市さんってばボーッとしてー。
隆)……///
君のオーラに和んでました。
隆)じゃあうちに来ませんか。
♧)え?
隆)お嫁に。
♧)え?
隆)美味しそうに食べる旦那さん、
ついてきます。
♧)…っ、あはははっ♡
隆)////
半分冗談で、半分本気だよ?
そんな可愛く笑ってるけど。
♧)じゃあお料理の腕、
もっと磨いておきますねー♡
隆)……
軽く流されたーーーーーーー
♧)あ、これもすごく美味しい。
幸せ…♡
隆)……
一口一口、噛み締めるように食べる彼女。
可愛いアヒル口が、
余計に美味しそうに見せる。
もともとタレ目な目尻が
さらに下がって
本当に幸せそうに、頬に手を当てる。
隆)また…美味しいもの食べに行こうね。
♧)……まだ、食べ始めたばっかりですよー?
隆)そうだけど…//
いいじゃん!次の予約!
♧)ふふっ、気が早いですねー。
隆)……///
♧)行きましょうね♡
隆)////
え、ほ、ほんと??
♧)今市さん、美味しそうに食べるから
一緒にご飯、楽しいです。
隆)////
そんな嬉しそうに笑ってくれんの?
だから…そんなの俺、
期待するって…!!///
隆)それ、俺のセリフだから///
♧)え…?
隆)すげぇ美味しそうに食べるから…
また食べさせたくなる。
♧)……なんですか、それー。
私、小動物みたい。
隆)…っ、ほんとだww
♧)も〜〜〜〜!w
そう言って頬を膨らませる彼女。
隆)いや、でも…ほんとに。
美味しそうに食べてんの
すげー可愛いから…
絶対また行こうね。
♧)……はい、///
あれ?
小さく俯いた顔が…
ゆっくり上がって、また俺を見た。
♧)あの…
隆)ん?
♧)今市さんのクセ、見つけました。
隆)え!!何?!!
この何分かで!??
俺、なんかした???
隆)な、なんでしょう…
♧)……
ドキドキドキ…
隆)それは、直した方がいいやつ?
♧)……はい。
隆)!!!
ガーーン!!
なに?なに?
なんか俺、嫌われるようなことした??
隆)何なんでしょうか…
♧)それは…
隆)……
♧)……
ドキドキドキ!!!
♧)友達にもサラっと
「可愛い」って言っちゃうところです!!
隆)……
……へ?
なんか…
ドヤー!みたいな顔してるけど…
はい???
隆)……ダメなの?
♧)えっ
隆)……
♧)……他の女友達にはいいですけど…
できれば私には、やめてください。
隆)なんで。
♧)…この間も言いましたけど、
私本当に、男性に免疫がないので…
ちょっと…その、困るんです…///
隆)……
赤くなった彼女を見て
俺のS心が顔を覗かせる。
隆)じゃあ、♧が可愛い時は
どうしたらいいの?
♧)はいっ?
隆)可愛い時、たくさんあるんだけど
どうしたらいいの?
♧)なっ…///
隆)……
また赤くなっていく、彼女の顔。
ヤバい。楽しい。
隆)可愛いのに可愛いって言っちゃダメなんて
逆に俺が困ります。
♧)////
隆)それに俺、別にこれ
クセとかじゃないから。
♧)……え?
隆)誰かれ構わず言うわけじゃないし。
♧)…えっと……
隆)♧が可愛いから言ってんの。
♧)////
♧は顔を赤くしたまま、もごもご口を開いた。
♧)私に…っ、可愛いとか言っても…
何も出てきませんよっ///
隆)あはははw
残念、なんか出してよw
♧)もぅっっ///
隆)はははw
何も出てこないことないじゃん。
そんな可愛い反応見れるだけで
俺にとっては十分、スペシャル。
隆)……男性に免疫ないって、なんで?
♧)えっ…
隆)普通に彼氏とかいたでしょ?
♧)…っ
隆)いつから彼氏いないの?
♧)……に…っねんまえ…とか…
隆)2年前?
ふーん…、そっか。
2年も彼氏いないんだ。
引きずってるとか?
♧)私…っ、女子校だったんです!
隆)あ、そうなんだ。
♧)高校も大学も女子ばっかりだったから
ほんとに…男の人に関わることがなくて…
隆)なるほど。
♧)だから…
隆)……
♧)初めての男友達、すごく嬉しいです♡
隆)……
そんな嬉しそうに言われたら…
なんか…ずるい///
隆)男兄弟とかもいないの?
♧)あ、はい。
隆)一人っ子?
♧)あ…、えっと…はい。
隆)そっかーー
♧)……今市さんは?
隆)俺は兄貴と妹がいる。
♧)わぁ!いいなーー♡
今市さんの家族の話が聞きたいです♡
隆)えっ?w
彼女が目を輝かせてそう言うから
俺は適当に家族の話をして聞かせた。
どんなネタでも
彼女は本当に嬉しそうに聞いてくれて…
♧)厳しいお父さんだったんですね。
隆)そうだよーー
ほんと外とかに出されんだから。
♧)ふふっw
でもお母さんが私と同じ仕事だったのは
なんだか嬉しいですー
隆)でも、♧みたいな感じじゃないよ?
♧)え?
隆)うちのお母さん、すげぇドライだし。
♧)そうなんですか?
隆)♧は俺の中で
保母さんのイメージにピッタリだけど
うちのお母さんはなーー
♧)私、ピッタリなんですか?
隆)うん。癒し系じゃん。
♧)癒し系!?
隆)よく言われない?
♧)……///
隆)……
俺がそう聞くと、彼女は黙り込んで
恥ずかしそうに小さな声で
♧)一度だけ…言われたことあります///
隆)……
その雰囲気でなんとなく
その「一度」を言ったのが男な気がして
俺はそれ以上聞かなかった。
隆)♧の家族の話も聞かせてよ。
♧)…っ
隆)お父さんとお母さん、どんな人なの?
♧)……えっと……
彼女はふわっと笑って
俺の顔を見た。
♧)私、両親いないんです。
隆)え…?
いないって…
どういう…
♧)私、施設で育ったんです。
隆)…っ
彼女は柔らかく笑って
その後を続けた。
♧)本当に小さい時に
施設の前に捨てられてたらしくて
だから両親の顔も知らないんです。
隆)……
捨てられてた…?
自分の子供を…捨てたってこと?
♧)あ、でもそんな悲しい話とかじゃ
ないですよー?
隆)……
何も返せない俺に、
彼女は優しくそう言った。
♧)じゃあ、私の憧れの人の話、
してもいいですか?♡
隆)え…、憧れの…人?
♧)はい♡
一瞬ドキッとする言葉。
隆)……うん。
キラキラ輝く彼女の目に、
俺は頷くしかない。
♧)その人は…
必ず月に一回、うちの施設に
寄付のお金を届けてくれるおじさんで…
隆)……
♧)本当に優しいおじさんで
みんなそのおじさんのことが
大好きだったんです♡
隆)うん……
おじさんか。
どこか少しほっとした。
♧)私が捨てられたのは赤ちゃんの時だから
本当に記憶になくて、
でも…小学校に上がるくらいの頃には
なんで捨てられたんだろうって
そんな気持ちも芽生える年頃になってて…
隆)うん……
♧)そしたらそのおじさんが言ったんです。
おじさんも赤ちゃんの時に
同じ場所に捨てられてたんだよ、って。
隆)……
♧)一緒だな、って…笑ってくれて。
隆)……
♧)そのおじさんも私と同じように捨てられて
同じ施設で育って…
だから大人になってからも
寄付のお金を持ってきてくれてたみたいで。
隆)……
♧)いつも笑顔で
すごくあたたかい人だったんです。
隆)……うん。
♧)だから…私もいつか大人になったら
おじさんみたいに
この施設に寄付しようって決めてて…
隆)……だから、それで?
♧)はい♡
隆)……
そうだったんだ。
何も…知らなかった。
♧)施設の子、みんなじゃないですけど…
やっぱり中には
学校で虐められちゃう子もいて…
隆)え、なんで?
♧)え…?
隆)なんで虐められんの?
♧)えっと…
お前親いないんだろー、とか
施設にいるんだろー、とか…
隆)何それ!!
♧)…っ
なんでそんなんで
虐められるんだよ?!
意味わかんねぇし!!!!
♧)ふふ…っ
隆)……
♧)怒ってくれるんですね。
隆)だっておかしいじゃん!そんなの!
♧)……子供って…
全然おかしいようなことが
虐めの原因になったりするんですよ。
隆)……
そんなの許せない。
♧)でも、そんな時
そのおじさんが言ってくれたんです。
隆)……
♧)私たちもそうだし、世界中の人も。
肌の色や、髪や瞳の色が違っても
何一つおかしいことなんてなくて
みんな同じ人間なのに
人はそうやって
偏見を持ってしまったりする。
隆)……
♧)だからお前たちは
ちゃんと自分の目で真実を見れる大人に
なるんだよ、って。
隆)……
♧)人生は、親子の愛だけじゃなくて
いろんな形の愛がある。
親がいなくても、愛はたくさんあるし
これから生きていく中で
色んな愛に出会えるから
強く生きていきなさいって。
隆)…っ
♧)そう教えてくれたんです…
隆)……
♧は顔をあげて優しく笑った。
♧)施設の子たちは
みんな仲が良かったし…
こうやって仲間を思う気持ちも
一つの愛なんだなって思ったし…
隆)……
♧)そのおじさんが…大切なことをたくさん
私たちに教えてくれたんです。
隆)……
♧)カッコイイでしょう?
私の憧れの人♡
隆)……うん、すげぇカッコイイ…
♧)ふふーっ♡
隆)……
そうだったんだ。
♧には家族がいなくて…
でもこうして笑っていられるのは
いろんな愛を、知ってきたから。
さっき俺の家族の話を
すごく嬉しそうに聞いてくれたのも…
♧)だから私、いつか自分の家族を作るのが
小さい頃からの夢なんです。
隆)…っ
♧)だから…
今市さんが「いい奥さんになりそう」
って言ってくれたの…
お世辞でもすごく嬉しかったです///
隆)…っ
なんか…
なんだろうこの気持ち。
隆)お世辞なんかじゃないよ。
♧)……だったらもっと嬉しいです。
ふふっ…♡
隆)…っ
お世辞なんかじゃなくて…
本当にそう思ったし
それに…
隆)本当に…
「お嫁に来ませんか。」
また言いそうになった言葉。
♧)なんですか?
隆)……ううん。
そんな軽々しく言っちゃダメだ。
でも…
♧の小さい頃からのその夢を
叶えてあげたいって思った俺の気持ちも
嘘じゃなくて…
♧)今市さん、ビールおかわりしますか?
隆)…ああ、…うん。
俺、好きなんだ。
同情とかじゃない。
ほんとに…
隆)素敵なおじさんだね……
しばらくして俺がそう言うと
♧は誇らしげに笑って見せた。
♧)ふふ…♡
本当に憧れの人なんです。
でも「おじさん」って言っていいのか…
みんなおじさんって呼んでたけど
全然若くてカッコ良かったんですよー
隆)えっ!!
なんだって?!!
「おじさん」って言うから
足長おじさんみたいなの想像して
完全に油断してたのに…
若くてカッコイイ!!?
隆)す、す、好きなの!?
♧)えっ……
…そうだなぁ……
もしかしたら私の初恋かも///
隆)えっ!!!
初恋ってことは…
今は違うよな?
どうなの?
今も好きだったり…
♧)でもそのおじさん、家族がいたし
奥さんの事、すっっごく大事にしてて…
隆)……ああ…っ
よかった〜〜〜〜〜〜〜
♧)そこがまた素敵でした♡
隆)……
飲み物のおかわりがくると
彼女はニコッと笑って
♧)私の小さい頃の話はもういいですよー
今市さんの話が聞きたいです♡
そう言った。
♧の話を聞いた後だと
俺なんて、なんてぬるい環境で
育ったんだろうって思うくらい
なんか情けなくなったけど
どんな話をしても
やっぱり♧はすごく嬉しそうに聞いてくれて
そんな姿が可愛くて嬉しくて
なんかすごく癒された。
♧)へ〜〜〜
じゃあ今市さんはピアノ弾けるんですね!
隆)意外でしょw
♧)はいっ!
隆)あはははw
俺もね、それはほんと感謝してる。
♧)お母さんにありがとうですね♡
隆)うんw
じゃなきゃ…
LIVEで弾き語りとかすることも
なかっただろうし…
♧)私も感謝してるんです♡
隆)え…?
♧)おじさんに♡
隆)出た!!!w
おじさんの武勇伝、聞かせてよw
♧)ふふーーっ♡
嬉しそうにドヤるアヒル口が可愛い。
♧)私たち、もちろん習い事なんて
出来なかったんですけど…
そのおじさんが、子供たちの側には
いつも音楽があった方がいいって。
隆)……
♧)音楽は人の心を
幸せにしてくれるからって。
隆)……
♧)うちに、ピアノを置いてくれたんです。
隆)ええっ!!
♧)だからみんなで交代で使ったり…
私はもう独学で弾く練習をして…
隆)……すげぇ。
♧)ふふーー♡
今でもあるんですよ、そのピアノ。
今も子供たちが使ってます。
隆)すごいな……
なんか…
聞けば聞くほど、なんて素敵なおじさん。
♧)今市さんは今でも弾いたりしますー?
隆)うん、するよ。
♧)いいな〜〜〜♡
隆)……
なんか…
そんなこと言われたらプレゼントしたくなる。
…って、俺は臣か!って。
隆)今さ、友達が…
彼女の誕生日プレゼントに
必死でピアノ探してて…w
♧)えっ!ピアノをプレゼントに?!
隆)そう。
♧)……素敵…。
隆)そいつさ、もうほんっっっとに
彼女のこと好きなのw
♧)へぇ……
隆)で、何色がいいかなーとか
すげぇ必死に悩んでてw
♧)……ふふっ♡
彼女絶対喜んでくれますねー♡
隆)うん、そう思う。
そして
そんな♡ちゃんを見て
臣もまた喜ぶんだろうなーー
あーあ……
俺も♧を喜ばせたい。
笑顔にさせたい。
どうやったら君は、笑ってくれる?
何をしたら…喜んでくれる?
早く君の「特別」になりたい。
♧)美味しかったですねーー♡
隆)そうだねw
♧)はぁ…楽しかったなー♡
隆)よかった♡
俺といてそう思ってくれるなんて
めちゃめちゃ嬉しい。
隆)じゃあそろそろ行こうか。
♧)はい。
時間はまだあるし
上のバーに連れていきたいな。
付き合ってくれるかな?
隆)ごちそうさまでしたー
店)またお待ちしております!
店の人に見送られて
そのまま外へ出ると
♧がキョロキョロして、俺の袖を引いた。
♧)今市さん!お会計は?
隆)ああ、済んでるよ。ねぇ、この後さ…
♧)え!!済んでる?!
隆)ああ、うん。
♧)え?!!
隆)……
そんなに驚く?
♧が席を立ってる間に
済ませておいたけど…
♧)いくらでしたか??
隆)えっ
慌てたように財布を出す彼女。
隆)いいって、いいってw
♧)ダメです!!
隆)ほんとにいいからw
♧)…っ
♧が困ったように俺を見上げた。
男に免疫がないなら
こうして奢られることもなかったのかな?
いや、彼氏はいたんだから
それはないか。
隆)いいこと教えてあげよっか。
♧)え…?
隆)女の子はね、お金は出さなくていいの。
♧)……
俺は少し体勢を屈めて
♧の前に顔を近付ける。
隆)こういう時は女の子は
ありがとう、って
ほっぺにキスしてくれたら
それでいいんだよ。
♧)えっ?!!!
隆)知らないのー?
♧)え……
ほっぺむにむにの刑の時みたいに
まるでそれが当たり前みたいな温度で
言ってみる。
隆)それが正解なの。
はい、どーぞ♡
♧)…っ!??
なんてね。
ほろ酔いな俺の戯言なんて
怒られちゃうかな……
……チュッ!
隆)!!!!!
目を閉じてる間に頬に触れた、柔らかい感触。
♧)あ、ありがとう…ございます///
隆)////
え、え、うそ…っ
嘘でしょ!??
ほんとに…した?!!!
目の前の♧を見つめても
♧はただ、俯くばかり。
隆)今…、何したの?///
♧)何って…、ほっぺに…キス…///
隆)も…、もっかい///
♧)え…?
隆)もっかい…して?///
♧)えっ!///
ドキドキ…ドキドキ…
こんなに胸が高揚してるのは
ほろ酔いだからじゃない。
隆)もっかい、して///
♧)だ、だめです…///
隆)やだ!して!
♧)////
……チュッ
隆)////
♧)////
ねぇ…
これって、そういうこと?
俺、すっごい期待してる。
このまま家にさらって帰りたい。
♧)ごちそう…さまでした…///
隆)////
それは俺のセリフです。
♧)あの……
隆)ねぇ、この後…
♧)私、帰りますね!///
隆)えっ…
エレベーターに向かう♧を
慌てて引き止める。
隆)待って待って。
もう一杯、付き合ってよ!上の…
♧)帰ります!/// もう遅いし…
隆)帰りは送ってくから!
♧)…っ
隆)だからもう少しだけ…
♧)帰りますっ///
隆)なんで!!
♧)……恥ずかしく…なっちゃったから///
隆)////
え、え、何。
ほんっっっっっっっっとに可愛い。
今すぐ食べちゃいたい。
どうしよう。
もうほんとに…今すぐ抱きしめたくて
身体がすげぇ熱い。
♧)帰り…ます…///
隆)……じゃあ…送る///
すっげぇドキドキして
すっげぇ嬉しくて
バーでの時間を失った代わりにもらった
2回のキス。
それは、俺を舞い上がらせるには
十分すぎて
俺はずっとニヤニヤを隠すのに必死で。
舞い上がりすぎてたから
強気な言葉だっていくらでも出てきて…
1階に着いたエレベーター。
隆)ほんとに…帰るの…?
♧)……(コクン)///
隆)俺は…まだ一緒にいたい。
♧)///
隆)帰っちゃう…?
♧)///
彼女の手を取ってそう言うと
しばらく彼女は俯いたままで…
もう少し…押してみてもいいかな?
隆)まだ、帰したくない。
♧)///
俺がそう言うと…
♧)今日は…帰ります。
隆)……
そう言われて…
これ以上言ったら
さすがにしつこいなって思って
今日は諦めることにした。
だって
「今日は」ってことは
また次があるってことだから。
それに今日の俺は
さっきの2回のキスだけでもう
舞い上がるくらい、嬉しいから。
♧)今市さん、酔ってるんですか…?
隆)うん。
帰りのタクシーで手を繋ぐ俺に
少し困ったようにそう聞いてきた彼女。
酔ってるせいにして
触れていたい。
少しでも、君に。
♧)今市さんってば…お酒弱いんだ…
隆)……
うん。
そんな可愛い誤解、しといてよ。
♧)……
隆)……
繋いだ手から伝わる彼女の温度に
ドキドキはもちろんすれど
なんだかすごく癒されて
さっきのキスを思い出したり
今繋いでる手の温度を噛み締めたり
そんな忙しさに気持ちが追いつかなくて
俺が幸せなのは、この時までだった。
嘘をついて、キスさせた罰?
酔ってるフリをして、手をつないだ罰?
最後に俺は、地の底に突き落とされる。
♧)今市さん、送ってくれて
ありがとうございました。
隆)うん。
名残惜しくその手を離して
彼女が車を降りようとすると、
彼女の携帯が足元に転がってきた。
♧)あっ…
隆)ああ、落としたよ。
それを拾おうとした瞬間、
画面に映し出されたのは…
♧)わっ///
慌てたように、俺の手から
それを奪い取る彼女。
♧)み、見ました?///
隆)……
言葉が出てこない俺。
♧)恥ずかしい…///
隆)……
そう言って動揺する彼女は
さっき俺に恥ずかしいって言った時とは
全然違って…
そう。
恋する女の顔をしていて…
♧)好きな人なんです///
__その言葉に俺は、
その後なんて返したかも
もう、覚えていない。
どうやって自分の家に帰ってきたかも
よく覚えていない。
彼女の携帯の待ち受けは
彼女と男のツーショット。
一瞬しか見えなかったけど
幸せそうに笑い合う、二人の写真だった。
ー続ー
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