[4]涙のシチュー(海璃Side)

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♡さんの前で泣いて…逃げ出して…
そんな自分が恥ずかしくなって

私なんかのせいで
♡さんがTさんを見る目が変わるのは
絶対に絶対に嫌って思って
お手紙を書いた。


そしたらその夜…
♡さんからメールが来た。


『海璃ちゃん
 お手紙ありがとう。
 Tくんの気持ちにはちゃんと向き合います。
 
 私も海璃ちゃんが大好きだよ。
 気持ちに気付かなくてごめんね。』


そのメールを読んでまた涙が出た。


Tさんがどれだけ♡さんを好きかなんて
わかってる。

わかってて好きになったの。



それから♡さんとTさんが
一緒にランチしてるところは見なくなって…

TさんはJさんとお酒を飲んで
落ち込んでたし…

♡さんとどうなったのかなって
気になってたら…


金曜日。大雨の日。


♡さんが…Tさんのシャツを着て
マンションを出てくるところを見た。


海)…っ


私は…声をかけられなかった。

でも…どうしてだろう。

Tさんが…泣いてる気がして…


何もわからないのに
勝手にそんな気がして


私は鍋を持って
Tさんの家に押しかけた。


ピンポーン!ピンポンピンポーン!!


ガチャ…ッ


ドアの隙間から見えたTさんの目は
やっぱり赤くて…

やっぱり泣いてたんだ。


T)海璃…??
海)お邪魔しますっ!!!
T)ええっ!!


無理矢理上がり込んだ。

自分でももう何をしてるのかわかんない。


T)ちょ、どうした?!
海)…っ
T)その鍋…何?
海)シチューです!!
T)…っ


たまたま作ってたシチュー。
よくわかんないけど持ってきた。


海)一緒に食べてくださいっ!!
T)えっ…
海)…っ
T)……


Tさんが困ってる。戸惑ってる。


T)ごめん…俺…今日は…
海)やですっ!!!
T)…っ
海)や…です…っ


「今日は…一人でいたい」

そんなの聞きたくない。


一人で…♡さんを想いながら
また泣くんでしょう?

そんなの絶対に嫌!!

Tさんが一人で泣いてるとか
そんな悲しいの…やだっ


T)なんで…お前が泣きそうなの…?
海)…っ


気付いたら…勝手に涙がこぼれてた。


海)泣いて…ません…っ
T)…っ
海)泣いてないから…
  一緒にシチュー…食べてくださいっ


もうめちゃめちゃだ…

自分でもわかってる。

でもやだ。Tさんを一人にしたくないの。


T)泣くなよ…っ
海)…っく…、ぐすっ…


Tさんは…泣いてた。
絶対今…傷ついてる。

なのに…私の心配をして
頭を撫でてくれる。

どうしてそんなに…優しいの…


海)シチュー…食べてくれますか…
T)……うん。


無理矢理コンロに乗せて火をつけた。


海)ひっく…っ
T)海璃……


Tさんが隣に来た。


T)なんか…あったの?
海)…っ
T)言いたくないならいいけど…
海)……


多分だけど…
Tさんが♡さんに振られました。

それで…一人で泣いてました。

だから…胸が張り裂けそうで
気付いたら私まで泣いてました。


T)ん……


なでなで…


海)…っ


優しく頭を撫でてくれるTさんの手が
あたたかくて…


海)優しく…しないでくださいぃぃっ
  うわーーんっ
T)え、え、ちょ、ごめん!えっ?!


泣きたいのは…辛いのは…Tさんなのに。
私なんかに…優しくしないで…


海)ふぇぇっっっ
T)ああっ、もう…泣くなっ…


ぎゅっ……


海)…っ


心臓が…止まったかと思った。


T)いや、ごめん。
  泣きたいなら…泣いてもいいんだけど…
海)…っ
T)ん……


Tさんが…私を抱きしめて…
頭をポンポンしてくれてる…

これ…何…?


T)……落ち着いたか?
海)……
T)海璃…?
海)……


身体がそっと離れて
顔を覗かれた瞬間…


海)…っ////


火がついたかと思った。


T)お前…熱あんじゃねぇの?
海)あ…っ、…う…
T)顔真っ赤だぞ?
海)////
T)ちょっと待って。薬ないか見てくる。


そう言ってTさんはキッチンを離れた。


海)////


心臓が…バクバク暴れてる。

わかってる。

Tさんは…泣いてる妹をなぐさめる感覚で
深い意味なんてなく
抱きしめてくれたって。

でも…

私は……


T)薬ないから買ってくる!
海)えっ!!!いいです!!!
T)だってお前…
海)大丈夫です!!
T)…っ


熱なんかじゃない…

ううん…熱だけど…

薬を飲んでも…治らないから…


T)じゃあとりあえず栄養摂れ!
  シチューいっぱい食うぞ!
海)…っ
T)どうした…?
海)……


どうしてこんな時まで
私のこと心配してくれて
そんなに優しいの?


海)…Tさんが…っ、
  いっぱい…食べてください…っ
T)……


テーブルを準備しようとすると
椅子に足をひっかけてつまずいた。


T)おわっ!
海)すみま…せん…っ
T)あぶね、大丈夫?
海)…っ


抱きとめてくれたその腕から…
甘い匂い。

さっきは気が動転して
気付かなかった。

この甘い匂いは…♡さんの…


海)……
T)どうした?


Tさんは…♡さんを…抱きしめたのかな。

こんなに…匂いがうつるくらい…
きつくきつく…抱きしめたのかな。


T)なんで…っ
海)ふ…っ…ぇ…っ


嫌だよ…

嫌だよ…

わかってる。

Tさんの気持ちはわかってるのに…

想像したら…苦しくて…
苦しくて…


泣いてる私を椅子に座らせて
結局Tさんがシチューを運んできてくれた。


T)ほら、食うぞ?
海)…っ
T)泣き止んだか?

ぽんっ


海)……
T)いただきます。
海)……いただきます。
T)これ、お前が作ったの?
海)……(こくん)
T)なんでいきなり俺んちに
  持ってきたわけ?w
海)……


Tさんは一口食べてにこっと笑った。


T)美味い。
海)……
T)美味いよ。
海)…っ


そんな赤い目して…
無理に笑わなくても…いいのに…


T)うん、美味い。


そう言って一生懸命食べてくれるから…
私はまた…


海)うう…っ


涙が…こぼれる。


T)お前は…泣き虫だなぁ…
海)……
T)俺も…人のこと言えないか。
海)…っ
T)俺も今日…同じくらい泣いたかもw
海)……
T)……
海)無理して…笑わないでくださいっ
T)え…?
海)…っ


そんな…泣きそうな顔して…


海)泣きたかったら…
  Tさんも泣けばいいのにっ
T)…っ


私…泣きながら何言ってるんだろう。


海)無理しないでくださいっっ
T)……
海)……
T)…っ


Tさんが…涙をこぼした。


T)はぁ…っ、かっこわる…w


そう言って袖口で涙を拭くけど
赤い目からは止まらずに涙が溢れ出す。


T)お前ももしかして…失恋?
海)…っ
T)泣いてたから…
海)……
T)違ったらごめん。
海)……
T)俺は今日…綺麗サッパリ振られましたw
海)…っ


Tさんが…
泣きながら…シチュー…食べてる。


T)はぁっ、美味い。
海)……
T)一人じゃなくて…良かったかも…
海)…っ


私…少しでも役に立ったの?


海)失恋した時に…一人でいたら…
T)……
海)その人のことばかり考えて
  余計好きになっちゃいます…
T)……うん。
海)……
T)ありがとう…海璃…。
海)…っ


ありがとうなんて…言わないで…


T)お前の好きな人は…
  どんな人だったの…?
海)え?
T)いや…、一人でいたくなかったんだろ?
海)……


そっか…
私も失恋したと思ってるんだ。


海)私の…好きな人は…
  すごく優しくて…お人好しで…
  純粋で…素直で…真っ直ぐで…
T)ははっ…w
海)え…?
T)いや、なんか…似てるなって思って。
海)え?
T)俺が好きな奴に。
海)…っ


Tさんが優しく笑った。


海)私…♡さんになりたい…
T)へ?!!
海)……
T)♡?!!
海)……(こくん)
T)なんで……
海)……


こんな風にTさんに愛される♡さんが
羨ましい。

いつも優しく見つめられて…


海)私の好きな人…
  ♡さんのことが好きなんです。
T)えっ!!!!
海)……
T)マジか…、会社の奴?
  …あいつ…モテるからな……
海)……だから…私は…
  ♡さんになりたい。
T)何言ってんだよw
海)……
T)海璃は海璃だろ?
海)……


でもそれじゃあ
あなたは好きになってくれない。


T)海璃には海璃のいいところが
  あるんだから。
海)Tさんも♡さんが好きなのに?
T)…っ
海)……
T)…それとこれは…別。
海)……


別じゃ…ないもんっ


T)俺はあいつしか見えてない馬鹿だからw
海)…っ
T)でもそいつはさ、
  海璃が頑張れば振り向くかも
  しんないじゃん。
海)……
T)俺くらいコテンパンに振られるまで
  諦めるなよw
海)……
T)……
海)Tさんは…どうやったら
  ♡さんを忘れられますか…?
T)は?俺…?
海)……
T)俺の話はいいよ…w
海)……
T)どうやったら忘れられんのかって
  そんなん俺が…教えて欲しい…
海)……
T)……
海)……
T)暗くなったな、ごめん。
  俺の話はやめよう。
海)……
T)俺はしばらく恋愛はいいから
  お前の恋を応援するかなw
海)……


だったら…
応援してくれるなら…


海)協力してくださいっ!
T)へ??
海)Tさん…いつも…
  夕食はどうしてるんですか?
T)え??…えっと…その辺で食ったり
  自分で作ったり?
海)だったら私と食べてくださいっ!!
T)はい???
海)私…好きな人のために
  お料理の勉強したいんです!!
T)…っ
海)だから…作ったら誰かに
  味見して欲しいというか…
  感想が欲しいし…っ
T)……
海)Tさんだったら同じマンションだし…
T)……
海)協力してください!!
  毎日じゃなくてもいいからっ
T)……
海)////


Tさんは困ったように笑った。


T)俺が協力しなくても
  お前十分…料理美味いと思うけど?w
海)…っ
T)……
海)私…カレーとシチューしか
  上手じゃないですっ//
T)へ???
海)……//
T)…ぶはっっww
海)…っ
T)なるほどね、あははっっw


Tさんが笑ってる…

それだけで…すごく嬉しい。


T)了解。じゃあ妹の特訓に
  付き合いますよw
海)ほんと…ですか?!
T)応援するって言ったしなw
海)…っ///


どうしよう…っ

どうしようっっ!!

すごく嬉しい……


T)じゃあその男が何好きか
  リサーチしとけよーーw
海)はいっ!!!!!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


それから土曜日も日曜日も
私はTさんのおうちにお邪魔した。


前に一回だけ
来てくれたことがあるのに

一人暮らしの女の子の部屋に上がるのは…
って言われて

Tさんのキッチンを借りることになった。


T)ちゃんとリサーチしたか?
海)あっ、えっと…//
  Tさんは何が好きですか…?
T)俺をリサーチしてどーすんだよw

ぺしっ

海)いたっ//
T)まぁ…男なら…王道メニューは
  大体好きなんじゃね?
海)王道メニュー…
T)ハンバーグとかコロッケとか
  肉じゃがとかオムライスとか…?
海)なるほど!
  Tさんは全部好きですか?
T)うん。好き。
海)じゃあそれにしますっ!!
T)あんまり俺をあてにすんなよ?w


鈍い鈍いTさんは
私の好きな人が自分だなんて
これっぽっちも思わないみたい。

でも今はこれでいいんだもん…


海)え…すごく…上手…
T)ほら、お前もやれw
海)自信喪失しました……
T)喪失すんのはえーよ!!w


Tさんはなんと…
イケメンで優しくて仕事が出来る
すごい人だと思ってたら…

お料理まで出来ちゃうみたい…


T)俺だってそこまで上手くないって。
海)……
T)適当なのしか作れないし。
海)……
T)ほら、好きな奴のために
  頑張るんだろー?w
海)はい!!!


そうだった。
せめて好きな人よりは上手になりたい!!


そんなこんなで
3日連続Tさんのお家にお邪魔して
一緒にご飯を作って食べて…

月曜日。


Tさんは…♡さんに
どんな顔して会うんだろう…

大丈夫かな…

そもそも♡さんは…登坂さんと
仲直りしたのかな…

なんて心配してたら


♡)海璃ちゃんおはようっっ♡♡
海)はぅっ…


眩しいくらいの
天使みたいな笑顔。


♡)あ、Mちゃん、昨日はありがとね♡
M)いえいえーー♡


すっかり元気な♡さんに見とれてると
Mさんが私に耳打ちしてきた。


M(Tさん、先輩にスッパリ振られたって。
  海璃ちゃん、頑張れ!!)
海)……


頑張ります。

私…頑張ります。


だって…本当に…大好きだから。


お昼になると
♡さんはKさんと二人でランチに行っちゃって

私はMさんに引っ張られて
営業部まで連れていかれた。


M)ランチ行きましょーー♡
TJ)えっっ
M)4人で〜〜♡
J)いいけど…珍しいね?
  こっちまで誘いに来てくれるなんて。


それから4人でランチへ。


M)先輩、登坂さんとラブラブに戻りました♡
海)…っ


そ、そんな…
Tさんの前で…


J)家出娘は家に帰ったのかな?
M)はいっ♡
  もうすっかり元通りみたいでーす♡
J)良かったね。
M)……
J)ん…?
M)本当に…そう思ってます?
J)思ってるよw
M)…ふーーん……
海)……


Mさん…どうしたんだろう…


M)たぶんもう…誰が何しても
  壊れないと思いますよ?
J)なんで俺に言うのw
M)だって…
J)壊す気なんてもうないよ。
M)え……
J)俺はもうとっくに諦めてますーー
M)えっ!!
T)そう…だったんすか?
J)うん。
海)……
J)姫が登坂くんをどれだけ好きか
  痛いくらいわかったからねーーw
T)……うん、俺も。
J)…Tくんももう諦めるの?
T)……
J)……
T)はい。
J)……
M)Tさん、新しい恋しましょっ♡
T)へ?
M)失恋には新しい恋ですよーー♡
  ね?Jさん?
J)うーんw そうだね〜〜


Jさんが私を見て笑った。
恥ずかしい〜〜//


T)俺はしばらくいいです。
J)え、もったいない。
T)……
J)イケメンが泣くよ。
T)別にイケメンじゃないしw
M)イケメンですよ!!!!
  周りに殺されますよ!
  その顔でそんなこと言ったら!!
T)すみ…ません…
M)先輩のこと…
  すぐには忘れられないかもしれないけど…
T)……
M)ちゃんと周りにも目を向けなきゃ!
T)……うん。


無理なんだろうな…今はまだ。

だって…
本当にずっとずっと…♡さんのことが
好きだったんだと…思うから…


ーー


ランチから戻ってエレベーターを降りると
♡さんが走ってきた。


♡)Tくん!Jさん!
J)え、俺?
T)…っ


どうしよう…
Tさん…大丈夫かな…

私まで…心臓がバクバクする。


♡)これ…ありがとうございました!


♡さんが…
JさんとTさんに何か手渡した。


海)あ…っ


Tさんに渡したのは
金曜日に♡さんが着てたシャツだ。


J)ああ、わざわざありがとう。
T)ありがとう。
♡)いえ、私こそありがとうございました♡
J)…すごく元気だねw
♡)え?
J)にこにこだな〜ってw
♡)はいっっ♡♡
J)…っ
T)……


♡さんはニコッと笑って
オフィスに戻っていった。

そんな♡さんの背中を見届けて、
JさんとTさんは顔を見合わせて
笑い出した。


J)ほんと…w
T)はい…w
J)敵わないなぁ…あの笑顔にはw
T)ですね…
J)……
T)……
J)笑顔が戻って…良かった。
T)はい。
J)……
T)すげぇ…幸せそうだった。
J)うん。


私が二人を見てると
Tさんが振り返った。


海)…っ
T)お前は…なんつー顔してんのw
海)えっ…


私…変な顔してた?


T)心配しなくても大丈夫。
海)えっ…

ポンポン。

T)ありがと。
海)…っ


そのまま戻っていったTさんを追いかけた。


ぐいっっ


T)おわぁっ!!
海)はぁっ、はぁっ
T)どうした?!
海)…っ


ぎゅっ…


Tさんの袖を掴むと
また頭をポンポンしてくれた。


T)ん…?
海)////


優しい…顔…


T)どうした…?
海)////


好き!!!

絶対絶対…私、諦めないっ!!


海)今日は…何食べたいですか?///
T)ああ、今日も作ってくれんの?
海)////
T)なんでもいいよ?
海)…Tさんが食べたいものっ
T)……じゃあ…ハンバーグ?
海)はいっ♡
T)…っ
海)美味しいの…作りますっ♡
T)うん…w
海)じゃあまた!!




ー続ー

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