週末は会えないって言われたから
金曜日の夜。
少しでも会いたくて、顔が見たくて。
俺は◇の好きなゼリーを買って
◇の家まで行った。
前回電話した時に
◇が少し元気なかったのが気になったから
ゼリー食べて笑ってくれたらいいなって。
会えたらラッキーだし
もし会えなくても
ポストに入れていけばいいや、って。
それくらいの気持ちで。
でも…
マンションの下に着いて電話してみたら
なかなか繋がらなくて。
しばらくすると
やっと通話になったその向こうでは
◇の泣いてる声が聞こえて。
優)…っ
俺はびっくりして、
何度も◇の名前を呼んだ。
優『もしもし!?◇っ!!』
◇『……はい…。』
やっと返ってきた返事は
か細く震えてて…
優『なんで…泣いてんの…』
その質問には返事がなく、
聞こえてくるのは
声を押し殺しながら泣いてる
◇の息遣いだけ。
俺は通話はそのままに、
◇の部屋のインターホンを押した。
◇『…え……?』
優『今、下にいたの。開けて?』
◇『どう…して……』
優『いいから…開けて。』
◇『…ひっく…っ』
こんな泣いてんのに…
ほっとけるかよ…。
何も言わずに開いたオートロック。
俺は急いでエレベーターに飛び乗って。
◇の部屋の前まで来たけど、
◇は鍵を開けてくれなかった。
優)◇、開けて。
◇)……ダメ…、っ
ほら、やっぱり泣いてる。
優)いいから、開けて。
◇)……ひ…っく…っ
このドアの向こうで、泣いてる。
◇)どう…して…優助…いるの…っ
優)会いたかったから。
◇)…あた…し…っ
会えないって…言った…っ
優)うん、ごめん…。
でも…会いたくて…勝手に来た。
◇)…っ
別に…
無理やり家に上がろうとか
思ってたわけじゃない。
ゼリーを渡して
元気な顔を一目見たら
そのまま帰ろうと思ってた。
でも…
こんなに泣いてるなら、話は別で。
優)一瞬でいいから、開けて、お願い。
◇)……っ
すがるようにそう言うと、
ゆっくりと鍵の開く音がして。
俺がドアを開けると、
涙で顔をぐしょぐしょに濡らした◇が
そこに立ってた。
優)…っ
その顔を見た瞬間、
俺の身体はもう勝手に動いてて…
◇を腕の中に抱き寄せてた。
◇)ふぇ…っ
優)なん…で…っ
なんで一人で泣いてんだよ。
優)一人で泣くくらいなら…
俺呼べって…言ったろ…。
◇)うぇぇ…っ
◇は俺にしがみついたまま
子供みたいに泣きじゃくって。
◇の力が抜けた瞬間、
俺は慌てて◇を抱きかかえた。
優)◇…?
呼んでも返事がないから
そのまま抱き上げて、
リビングまで連れていった。
優)大丈夫か…?
ソファーに寝かせて声をかけるけど、
その瞳は開かない。
俺は買ってきたゼリーを冷蔵庫に入れて、
冷凍庫を開けた。
優)ああ、あった。
小さい保冷剤を手に取って、
それをタオルでくるんで
横になってる◇の目に当ててやる。
◇)ん…っ
優)ああ、ごめん…。冷たい?
◇)……うう…ん。
一瞬起きた◇は、また目を閉じた。
こんなに瞼を腫らして…。
優)……
眠れるなら少し休ませてやりたくて…
俺は下に座ったまま、
◇の頭をそっと撫でた。
なんで…こんなに泣いてた…?
また岩ちゃんに泣かされたのかよ…。
岩ちゃんとは…
距離置いてたんじゃないの?
……会ったんだろうか。
何か話したんだろうか。
こんな泣くくらい…
また傷ついたんだろうか。
優)…っ
そう思うと、俺まで胸が苦しくて。
……俺にすればいいのに…。
俺を選べばいいのに。
そしたら絶対に泣かせない。
傷つけない。
絶対に、幸せにするから。
◇の泣き顔を見つめながら
この時の俺は
そんな自分勝手なことばかり考えていた。
その考えが、自分勝手だと
気付きもせずに。
……
…
それから◇が目を覚ましたのは
2時間後だった。
優)大丈夫か…?
ゆっくり開いた瞳は
俺を見て、俺を認識すると、
みるみる潤んでいった。
◇)ゆ……すけ…?
優)うん。
しばらく無言で俺を見つめると、
ゆっくり起き上がろうとしたから
俺はそれを手伝った。
◇)寝ちゃ…ってた…?
優)…うん。
寝たっていうか…
意識を失った、の方が近いけど。
優)大丈夫…?
隣に座って、その小さな手をそっと握ると…
◇)……ごめんね。
◇は小さな声でポツリ、そう言った。
優)……
何がごめんねなんだろう?
一人で泣くなって言ったのに、
泣いてたこと?
それとも…さっき泣いたまま
寝ちゃったこと?
そのどれもが見当違いな気がして、
次の言葉を待ってると…
◇)ごめん…ね…っ
◇はまたそう言って、ポロリと涙をこぼした。
優)なん…で…っ
泣かなくて…いいから…っ!
俺は慌てて◇を抱きしめた。
◇)待ってて…って…言ったのに…
優)…っ
◇)捨てられなくて…ごめんね…っ
優)……
◇は俺の腕をぎゅっと掴んで
肩を震わせてる。
◇)ちゃんと…捨てるから…
優)……
◇)全部…捨てるから…っ
優)……
◇)…ごめん…ね、優…助…っ
優)…っ
その言葉の意味が、よくわからなくて…
優)大丈夫だから。
泣かなくていいから…。
俺はそんなことしか言えなくて、
ただ、◇を抱きしめた。
何度も腕や背中をさすりながら…
大丈夫だよって、繰り返して。
◇は泣きながらも、
◇)優助が…こうしてくれるの…
…すごく…安心する…。
小さな声でそう言った。
◇)優助が…ぎゅってしてくれるの…
すごく安心するの…。
優)…っ
その言葉が…すごく嬉しくて。
優)いつでもするから。
◇)……
優)いつでも…側にいるから。
◇)……
抱きしめながらそう伝えれば、
小さく「ありがとう」って返ってきた。
しばらくすると、◇は少し落ち着いて。
やっと泣きやんだから俺も安心して。
優)なんか食べた…?
◇)…ううん…。
優)なんか買ってこようか?
◇)ううん、いいや…。
優)食欲ない?
◇)……(こくん)
力なく頷く◇。
優)ゼリー買ってきたけど…ゼリーは?
◇)え…?
優)フルーツいっぱいのやつ。
◇)…っ
少し表情が変わったから
「食べる?」って聞いたら
小さく頷いて。
嬉しくなった俺はすぐに冷蔵庫から
冷えたゼリーを持ってきた。
優)ほら、どれがいい?
◇)…あたしが…好きなやつだ…。
優)そうだよ、もう覚えたもんw
俺が笑うと、
◇)えへへ…、ありがとう…。
そう言って◇も笑ってくれた。
そんな些細なことが、すごく嬉しい。
◇)…剛典に…別れたいって言ったの。
優)……え?
ゆっくりとゼリーを食べ終わった頃、
◇が急にそんなことを言い出した。
◇)…昨日…、別れたの。
優)は…?
…ほんと…に…?
◇)……
優)……
どういう話し合いをしたのかわからないけど
◇の表情は生気がない。
優)…岩ちゃんは…なんて…?
◇)……
◇が別れたいって言って…
それを了承したんだろうか。
◇)……もう、戻れないって言ったの。
優)……
◇)あたしは…優助が好きって…
そう言った…。
優)……え…?
一瞬、その言葉の意味がわからなくて。
優)……
時間を置いて、理解して。
本当なら死ぬほど嬉しいその言葉に
「嬉しい」っていう感情が湧いてこないのは
きっと…
◇の目に、感情が込もってないから。
◇)優助とデートもしたし
優助の家にも泊まったって言ったの。
優)え…っ
なんで…
◇)だから別れたいって。
優)…っ
なんでそんな言い方したんだよ…。
優)そんな風に言ったら…
誤解…されんじゃん…。
◇)……
優)◇と俺がなんかあったって…
そう思われるよ…?
◇)……うん、それで…いいの…。
優)…っ
全然…良くなさそうな顔してるのに…。
◇)だって…あたし…
優助と一緒にいると…
すごくほっとするんだもん…っ
優)…っ
◇)優助がぎゅってしてくれたら…
すごく安心するのっ…
優)……
◇)優助のことが好きってことでしょ…?
◇は涙を浮かべながら
すがるように俺を見つめた。
◇)ぎゅって…して…っ
優)…っ
そう言った◇の目から
また涙がこぼれてしまいそうで、
俺は慌てて抱きしめたけど…
◇は結局、俺の腕の中でまた泣いてる。
◇)いっぱい…甘えて…ごめんね…?
優)いいよ、そんなの…
◇)いっぱい…ぎゅって…してくれて…
ありがとう…っ
優)……うん。
◇)…あた…し……、
優助の…そばに…いたい…。
優)…っ
◇がそう言ってくれたのが嬉しくて、
俺は一層ぎゅっと、◇を抱きしめた。
これが…◇の本音なら…
どれだけ嬉しいだろう。
◇)ちゃんと…捨てるから…っ
優)……
◇)全部…捨てるから……
優)……
◇)……ごめん…ね…っ
優)……
◇はまた同じ言葉を繰り返して
俺の腕の中で泣き続けて…
さすがに体力も限界だったのか、
すぐに意識を失った。
優)……
俺はそんな◇をベッドまで運んで。
しばらく側にいて、髪を撫でてると…
◇は眠りながら…
◇)…剛…典……、
岩ちゃんの名前を口にして。
その目尻からは一筋の涙が伝っていった。
優)…っ
瞼に当てる保冷剤を替えてやろうと
寝室を出て。
俺の目に入ったのは、
リビングの隅に転がってる
白いダンボール。
少し違和感を感じて
開いてる口をチラッと覗けば…
一番上で輝いてる、
オレンジ色のブレスレット。
優)…っ
他にも…
マグカップとか髪飾りが見えて…
もしかして…
優)……
◇が言ってた意味が、
やっとわかった気がした。
捨てられなくてごめんねっていうのは…
きっとこの箱のこと。
この中身はきっと…
岩ちゃんとの思い出なんだろう。
気持ちを閉じ込めるみたいに
この箱の中に全部詰めたけど…
それでも、捨てられなくて。
「ちゃんと…捨てるから…」
泣きながら何度も俺にそう言った◇は…
本当は「捨てたくない」って…
そう叫んでるみたいだった。
優)……
ゆっくりと立ち上がると、
次に目に入ったのは赤いバラ。
いろんな種類の花が入ってる花瓶の前に
そっと置かれていて。
その横にはクリアファイルに入った
白いメモがたくさん。
『FNS見てくれた?
俺は今日からハイローの撮影ラッシュです。
暑くなってきたから
◇も体調壊さないようにな。』
一番上の紙にはそう書かれていて、
岩ちゃんからの手紙だってわかった。
優)……
クリアファイルの中に、何枚も入ってる。
勝手に見るつもりはないけど、
見なくても全部わかった気がした。
不自然に飾られてる色とりどりの花。
きっとこれは…
この手紙と一緒に、
岩ちゃんが毎日届けてるんだ。
そして…
まだ挿さってないこのバラは…
今日届いた花…?
この花言葉は…
「あなたしかいない。」
優)……
きっと岩ちゃんは…
花言葉も含めて
自分の気持ちを、◇に届けてたんだ。
そして…
それを捨てたりしないで、
こうして大事に取ってある。
◇はまだ…岩ちゃんのことが…
優)…っ
…
……
………わかってた。
さっきだって、何度も感じた違和感。
◇は…泣きながら…
岩ちゃんとは別れたって…。
でも…
これを捨てられない事実と
◇の涙が
もう、物語ってる。
岩ちゃんのことが好きなんだって。
忘れられないんだって。
だったらどうしてそんな無理してまで
岩ちゃんに別れたいなんて言ったんだろう。
せっかく距離を置いてたのに、
焦ったように答えを出したんだろう。
そう思って、すぐに気付いた。
きっとそれは、俺のせい。
優)……っ
それに気付いて、俺は自分を殴りたくなった。
何やってんだろ、俺…。
◇があんなに泣いてんのは、俺のせいだ。
◇が傷ついて…ボロボロで…
側にいてやりたいって思ったけど…
そんなことをしたら、
そういう逃げ場所に甘えたくなるのは当然で。
俺は自分の気持ちにいっぱいいっぱいで…
◇が少しでも元気になってくれたら…
少しでも笑ってくれたら…
そんな思いばかりが先走って…
無理やり一緒にいる時間を作った。
それで◇の気持ちは紛れたかもしれないけど…
俺は間違ってたんだ。
せめて…あの時…
◇が俺にも会わないってそう言った時に…
それを了承すれば良かった。
そしたらきっと…
◇はここまで迷子にならずに済んだのに。
◇と一緒にいれた時間が嬉しくて…
チャンスを逃したくなくて…
そんなの嫌だって言った俺の我儘のせいで…
◇は結局、俺とは会ってくれた。
会ってるうちに、
心が弱ってるから俺に甘えてくれて…
その居心地の良さを…
「好き」だって思おうとしたんだ…。
そんな逃げ場所が心地良いのは当たり前で…
それは、恋愛感情とは違う。
そこから恋愛感情になることもあるだろうし
俺もそれを願ってたけど…
◇の場合は、明らかに違う。
だって…
あんなに泣いてる…。
少しでも側にいて、
少しでも俺のこと見てくれて…
少しずつでいいから
好きになってくれたら…なんて
思ってたけど…
◇が言ってたように
本当に俺のことを好きになったから
岩ちゃんに別れたいって言ったんだったら
あんなに泣いたりしない。
◇が「ごめんね」って思ってるのは…
岩ちゃんに対してじゃなくて…
俺に…じゃないのかな…。
俺に甘えちゃって…
それが好きだからだって思い込もうとしてて…
でも本当に好きなのはまだ岩ちゃんだから
その歪みに苦しんでるんじゃないのかな。
優)……
そんな風にさせたのは、全部俺のせいだ。
俺は…
俺を選んでくれたら絶対泣かせないのに
幸せにするのにって…
そう思いながら、きっと強引すぎた。
振り向かせることばかりに必死になって…
◇の気持ちがどうなるかとか…
ちゃんと考えてやれなかった。
好きな女は絶対泣かせないなんて…
あんな偉そうに言っときながら…
今、◇を泣かせてんのは…俺じゃん。
優)…っ
すげぇ情けない…。
優)……
新しい保冷剤を出して、
またタオルでくるんで。
寝室に戻って、◇の瞼の上にそっと乗せた。
……こんなに泣かせて…ごめんな。
優)……
初めてだったんだ、俺…。
あんな風に知らない子に声をかけたのも
そうだけど…
あんな少しの時間で…
一気に気持ちを持ってかれたの…
生まれて初めてだった。
泣いたり…怒ったり…笑ったり…
くるくる変わるその表情から
目が離せなくて…
一緒にいると…楽しくて…可愛くて…
もっと一緒にいたい、
俺がそばにいたい、って…
強く思った。
俺にとっては…
運命だって思えるような出会いだったんだ。
岩ちゃんのことが忘れられなくても…
引きずったままでも…
それでもいい。
そんなの、俺が忘れさせてやるし
岩ちゃん以上に俺が幸せにしてやる。
そう思ってたけど…
今でもそう思ってるけど。
岩ちゃんがちゃんと◇のことを好きで…
◇も岩ちゃんを好きなんだとしたら…
それは違う。
岩ちゃんは…
ただの遊び人なクソ野郎なんだと思ったけど…
俺が見る限り、
◇に対してはすごく必死だし…
浮気じゃないって言い張ってた。
現に…
こうして毎日花と手紙を届けるくらい
◇のことをまだ想ってる。
でも…
俺だって◇を想う気持ちは本物だし…
それは今でも変わってない。
岩ちゃんより日は浅くても…
◇のこと好きな気持ちは負けないと思う。
だけど…
強引に気持ちをぶつけすぎて
◇の気持ちをわからなくさせるのは、違う。
それはほんとに間違ってた。
◇…、ごめん…。
優)……
一番大事なのは、◇の気持ちで。
◇がちゃんと笑えること。
幸せになれること。
それが一番だから…
◇が目を覚ましたら
もう一度ちゃんと話そう。
そう決めて、
俺はソファーに横になった。
ー続ー
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確かに弱ってる時に優しくされると、その人の事良いかもと思いますよね〜。けど、そこで揺らいじゃったのは優助のせいではないと思う。♢ちゃんの弱さだったと思う。
♢ちゃんが自分で気づいて、二人のことどうするか考えるべきだなと思いました。
ポメちゃんのプレゼント箱に沢山あったんだやっぱり大好きな人のプレゼントは捨てないで欲しいです(;_;)EXILEの優しい光を聞きながら想像しました(^.^)マイコさん寒波続いてますけどいつも更新ありがとうございますm(__)m
ドキドキ止まら〜〜ん!!!
岩ちゃんと◇ちゃんが戻りますように…
優助の後悔だったのかぁ、
優助優男ww
(^ω^ ≡ ^ω^)おっおっおっ
岩ちゃんと◇ちゃんまた、
元に戻るんかなぁー?
戻ってほしいーーーー
優助結構いい人やーんwww