臣)……
帰りの車内は
俺もSさんも何も喋らなくて
家に帰ってきて
玄関のドアを開けてハッとした。
臣)…っ
空気がいつもと違うのが肌でわかる。
電気を点けて部屋のあちこちに目をやると
すごく綺麗になってて…
それがなかったとしたって、空気でわかる。
♡がいたって…
臣)……
家の中はもともと綺麗だったけど…
どこもかしこもピカピカになってて
テーブルの上には…にゃんこがいた。
臣)…っ
にゃんこが持ってるメモを開くと、
『臣くん、おかえりなさい。
お仕事お疲れさま。
もし良かったら、ごはん、食べてね。
ツアーまでもう少しだね。
リハとか色々忙しいと思うけど
身体に気をつけて頑張ってね。
♡より』
臣)…っ
勝手に…涙がこぼれてきた。
臣)なん…でっ…
♡は…帰ってきてたんだ。
俺がいない間…この家に。
臣)……っ
俺の仕事が遅い夜…
先に寝る時は…いつもこうして
手紙を書いてくれてたっけ…
寝室を開けると
すやすや眠ってる♡の姿があって…
ガチャッ…
いるわけないってわかってるのに
ベッドの上に♡の姿を探す。
臣)……
もう一度メモに目をやって
寝室のドアを閉めた。
ごはんって…何だろう…
キッチンに向かうと
何の形跡もないくらい綺麗で…
冷蔵庫を開けると…
臣)…っ
そこには小分けにされたおかずが
たくさん並んでた。
臣)…あの日…みてぇだな……
涙を拭きながら
タッパを取り出す。
俺が熱を出したあの日も
冷蔵庫を開けたら
同じようにびっしり入ってたっけ…
臣)…っ
腹は減ってないはずなのに
♡が作ってくれた料理を食べたくて
一つあたためてテーブルに運んだ。
いつも♡と向かい合ってた食卓。
いつも…二人で笑いながら…
♡の姿はないけど…
俺は一人で座って、一口、口に運んだ。
臣)……っ
さらに一口…
臣)…っ
涙が混ざるけど…
臣)美味ぇな、やっぱり…っ
いくら味音痴の俺でも
一年近く毎日食べてる
好きな女の味くらい、わかる。
臣)はぁ…、美味ぇ……
涙を拭きながら全部平らげた。
ここに…♡がいたらいいのに…
「臣くん、もう全部食べたのぉ?」
「ちゃんと噛んだー?」
そう言いながら…笑うんだ。
臣)美味しかったよ……
俺がそう言ったら…
「えへへー♡ほんとー?
わーいっ!嬉しいなーー♡」
そう言って…ニコニコ笑って…
作ってもらってるのは俺なのに…いつも…
「臣くん、ありがとう♡♡」
太陽みたいな笑顔を…俺に見せるんだ。
臣)……っ
こんな…手紙を残して…
料理まで作ってくれて…
それでも家にはいたくないくらい
♡の心の中は
ぐちゃぐちゃなんだ。
臣)はぁ……
涙を拭いて…色々思い返す。
「悲しくて…苦しいだけだもんっ!!
もう…全部ぐちゃぐちゃで
わけわかんないっ」
「気持ちが…ぐちゃぐちゃで…っ
苦しくて…考えたくなくて…っ
もうやだぁっ!わぁぁんっっ」
臣)……
一週間おいたけど…
あの日と何も変わってなかった。
同じようにまた
あんなに泣かせて…
俺は間違ってたんだろうか。
「悲しい」「苦しい」って
あんなに泣かせて…
「どんだけあいつのこと
泣かせたら気が済むんだよ!!」
そんなの…
俺が聞きたい。
こんなに大事なのに…
どうして傷つけるんだろう…
「もう少し一人にしてあげてよ。」
それが…正解なんだろうか…
俺は結局
自分の気持ちにいっぱいいっぱいで
♡の気持ちも考えずに
無理矢理会いに行って
泣かせて
どれだけ自分勝手なんだろう…
「拒絶…してるんじゃ…ないっ
どうしたらいいのか…
わかん…ないんだも…っ」
そう言ってた。
「シカトっていうか…返せないんじゃない?
なんて返していいかわからない、とか…」
直己さんにも…そう言われてたのにな…
臣)……
『♡、今日は本当にごめん。
もう無理矢理お前が嫌がるようなこと
絶対しないから。』
『ご飯ありがとう。すごく美味かった。』
『ありがとう。本当にごめんな。』
♡にLINEを送った。
♡はあの後…どうしたんだろう…
撮影があるのに
あんなに泣かせて…
目…腫れなかったかな……
「別れたく…なんかっ…ないもんっ」
臣)……
すげぇ情けないけど…
泣きながらもそう言ってくれた
あの言葉だけが
俺が今すがれる全てだ……
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
臣くんから走って逃げた後…
会社の休憩室でずっと目を冷やしてた。
ギリギリまで冷やして
スタジオに行ってバッグを開けると
海璃ちゃんからの手紙が入ってた。
♡)…っ
『♡さん。
お昼は本当にすみませんでした。
私のことは気にしないで下さい。
♡さんには私の気持ちとかは関係なしに
ちゃんとTさんの気持ちと
向き合ってほしいんです。
私のせいでTさんを避けたりとか
そういうことは絶対しないで下さい。
我儘だってわかってます。
でも
Tさんの気持ちがどれだけ真剣か
よくわかるから
♡さんが逃げたり誤魔化したりせずに
ちゃんと向き合ってくれたらなって
思うんです。
生意気なこと言ってごめんなさい。
失礼だったらごめんなさい。
私は♡さんが大好きです。
本当に大好きです。 海璃 』
読み終えて…
また涙がこぼれそうになって
手紙をバッグにしまった。
メ)♡ちゃん、目が少し赤いわね?
♡)…っ
我慢…しなきゃ…っ
メ)あら…このへんもちょっと荒れてる…
♡)すみません…っ
メ)ま、これくらいなら大丈夫よ♡
アイメイクで隠せますから♪
♡)ありがとう…ございます。
ダメだ…笑わなきゃ…っ
メ)はい、完成♡
今日も可愛いわよ♡
♡)ありがとうございますっ♡
メ)あら、元気になった♡
♡ちゃんはやっぱり笑顔じゃないとね♡
♡)行ってきますっ♡
メ)行ってらっしゃい♪
今日の撮影は一人だった。
さすがに今日
あの人たちと一緒だったら
笑える自信がないから
一人で良かったって安心してる…
本当は…
どんな状況だろうと
ちゃんと笑えないとダメなのに。
それがプロだから。
カ)いや〜!良かったよ!!
お疲れさん!!
♡)ありがとうございましたっ!♡
撮影を終えて控え室に戻ると
臣くんからLINEが来てた。
『♡、今日は本当にごめん。
もう無理矢理お前が嫌がるようなこと
絶対しないから。』
『ご飯ありがとう。すごく美味かった。』
『ありがとう。本当にごめんな。』
♡)……
食べて…くれたんだ。
撮影はもう終わったし…
ここには誰もいないし…
もう…泣いてもいいかな…
♡)…っ
届いたLINEの時間は…20時。
あの後、真っ直ぐ家に帰ったのかな。
手紙…読んでくれて…
ご飯…食べてくれたのかな…
想像するだけで
涙が出てくる。
♡)ふぇぇっっ…
臣くん…ごめんね…
私…こんな弱虫でごめんね…
♡)うぇぇぇんっっ
また涙がいっぱいこぼれる。
臣くん…きっと
秋田から戻ってきて
すぐに会いに来てくれたんだ。
疲れてるはずなのに…
なのに私は…
あんなに泣いて…
「別れたいの…?」
言いたくない言葉を…
臣くんに言わせた。
♡)ううっ、うううっ…
臣くん…すごく悲しそうだった。
私が家を出て行った日も、
同じ顔をしてた。
私が…傷つけてる。
臣くんに…あんな顔させてる。
♡)うわぁぁぁんっっ
臣くん…
臣くん…
本当は帰りたい。
臣くんのところに…帰りたい。
こんなにいろんな人のこと傷つけて
そのくせ自分ばっかりこんなに泣いて
もう自分で自分が嫌だよ。
今の自分が大っ嫌い……
ひとしきり泣いて鏡を見ると…
♡)ひどい…顔……
目は真っ赤でまた腫れてる…
♡)……
私は荷物をまとめて
トリちゃんの家に向かった。
ト)♡ちゃん!お疲れさま!
上がって上がって♡
♡)ありがとう……
泊まってもいい?って聞いたら
いつでもいいって言ったでしょ!
って…
快く迎えてくれたトリちゃん。
♡)トリちゃん……
ト)どうしたの?上がって??
♡)…あの…ね?
ト)うん?
♡)一週間…お世話になってもいいですか?
ト)え?一週間?
♡)一週間っていうか…
金曜日…まで…。
土曜日には…家に…帰るから。
ト)えっと…
全然いいよ?好きなだけいて?
♡)迷惑じゃない…?
ト)♡ちゃんだもん!
迷惑なわけないでしょっ♡
♡)…っ
ト)ちょ、♡ちゃん!!えっ、わっ…
♡)うわーーんっっ
ト)泣かないでーーっ!!
こんなずるずるしててもダメだって
わかってるから
自分で期限を決めた。
ちゃんと考えて…
一週間ちゃんと考えて…
家に帰るんだ。
帰れる自分に…なりたい。
お風呂から上がって
私が落ち着いたのを見て
トリちゃんがホッとしたように笑った。
ト)じゃあ短い間だけど
♡ちゃんはシェアメイトだね♪
♡)えっ…
ト)ルームシェアみたいに
楽しんじゃおっ♡
♡)……
ニコッと笑ってくれるトリちゃん。
私が気を遣わないように
そう言ってくれてるのかな…?
本当に優しいなぁ…
♡)トリちゃん…大好き…
ありがとう……
ト)私も♡ちゃん、大好きだよ♡
♡)……//
嬉しくなってトリちゃんの横に飛び乗った。
ト)わっ!びっくりしたっw
♡)トリちゃんっっ
ぎゅむぅっっ
ト)あはははっw
♡ちゃんってば甘えんぼ〜〜w
♡)トリちゃん好きーー♡
ト)もう〜〜〜w
こんな甘えんぼだったら
臣くんも大変だなーw
♡)臣くんはね、こうやって抱きついたら
「懐かれてるーー」とか言って
たまにイノシシ扱いされるの。
ト)イノシシ?!
♡)うん。ひどいでしょ?
ト)あはははっっww
イノシシって!!ww
♡)ふふっw
トリちゃんが優しく背中をさすってくれた。
ト)臣くん…の、話…
してもやじゃない?
♡)え…?
ト)……
♡)うん…やじゃないよ……
ト)……
いっぱい泣いて
不思議と今は…
無理矢理心に蓋をしたいとは思わない。
ト)私しか知らない臣くんの話…
♡ちゃんにしちゃおっかな♪
♡)えっ!!
ト)正確には…「私たち」しか知らない、
だけどねw
♡)なぁにー??
ト)♡ちゃんと付き合う前の臣くんの話、
♡ちゃんにしたことなかったなぁって♪
♡)…っ
付き合う…前…?
一瞬…不安がよぎったけど…
トリちゃんの笑顔で
嫌な内容じゃないって、わかる。
♡)なぁ…に…?
ト)実はね、私たち…
テラハの収録の度に
結構臣くんの恋バナを色々聞いてて…w
♡ちゃんと初めて出会って
いきなり告白しちゃった次の日から。
♡)えっっ!!!
ト)その日はね?
確か臣くん、ずっと元気なくて。
どうしたの?って誰かが聞いたら
フラれたーーーって落ち込んでたのw
♡)…っ
フラれたって…
本当に出逢ったあの日だ!
ト)で、話を聞いたら
「好き」って言わずに
「付き合って」だけ言ったって言うから
私がありえない〜〜って話して。
♡)うん。
ト)で、みんなに「告白し直せ〜」とか
好き勝手言われててw
♡)うん。
ト)その二週間後にはもう臣くん、
♡ちゃん大好きみたいになってて。
♡)え…っ//
ト)サッカー行った話とか
お花あげた話とか
照れ臭そうに話してて
すっごく可愛かったの♡
♡)……//
ト)YOUさんはもうしきりに
早くチューしちゃえーーとか言うしw
♡)ええっ!!
ト)山里さんは、♡ちゃんが実は魔性で
臣くんは転がされてるんじゃないかとか
言い出すしw
♡)ええっ!!
ト)あはははw
トリちゃんから聞く臣くんの話は
なんだかとても新鮮で…
ト)♡ちゃんと花火?見た話なんてね、
私もキュンキュンしちゃって///
♡)えーーっ!!
そんな話もしてたの?!
ト)うん。「めっちゃ恥ずいな///」
とか言いながら顔赤くしてたよw
♡)……///
ト)とか、全部バラしちゃう私ーーw
♡)あはははっ♡
そんな臣くんを想像すると…
なんだか私まで照れくさくって
恥ずかしいな…//
ト)だからね、いつもそんな話を聞いてて
みんな♡ちゃんに会ってみたいー!
ってなって、それであの日。
♡)あっっ!!
ト)みんなで飲んだでしょ?w
♡)うんっ!
ト)私…入り口で初めて♡ちゃん見た時、
臣くんから聞いてた通りのイメージで
「この子が臣くんの好きな子だー!」
ってすぐにわかったんだぁ〜♪
♡)……///
トリちゃんが少し自慢げで
なんだか可愛い。
ト)なんかね?なんとなく
私と似てるっていうか、
考え方とか近いかも、って
臣くんに聞いてて…
♡)そうなんだ!!
ト)うん!だから仲良くなれたらな〜って
思ってたの♡
♡)わぁぁ…♡
ト)でもね、私たちが仲良くなって
一緒にランチしたりしたでしょ?
♡)うん。
ト)もう臣くんがね、
すっごく気にしてて…ww
何話したのー?とか。
♡)えっ!!
ト)もちろんその時は
両思いだなんて教えてあげなかったけどw
♡)……///
ト)Xmasもバレンタインも…
ほんと臣くん、必死だったなーーw
♡)……
ト)♡ちゃんの前ではね?
クールぶってるかもしれないけど、
臣くんって♡ちゃんのことになると
ほんといつも必死で…
大好きで仕方ないんだなーって感じ♡
♡)……
ト)その意外性が可愛くて
私は好きだよーーw
♡)……
トリちゃんが話してくれる臣くんに…
心があったかくなった。
私も好きだよ。
そんな臣くんが大好きなの。
ト)こんないっぱいバラしたら
きっと怒られちゃうな…ww
♡)あはははっw
ト)じゃ…そろそろ寝よっか♡
♡)うん……♡
電気を消して…
目を閉じて…
今日は悲しい夢を見ない気がする。
♡)……
臣くん……
早くお家に…帰りたい……
ーendー
コメントを残す