女)♡ってば家出してるって噂じゃん。
男)彼氏と喧嘩?
男)お前やっとチャンスなんじゃねぇの?
女)ほんとあんたずっと一途なのに
かわいそうすぎるもんねーー
女)頑張っちゃえば??
男)奪うなら今かもねーー
T)……
♡があんなでかいキャリーケースを持って
2回も出社したから
同期の間では♡が別れるんじゃないかって
噂になってて…
男)明日俺も車出すからさ、
お前♡と二人で来いよ。
女)それいいねー!
片道2時間も二人なら
いろいろ話せるじゃん!
女)頑張れ〜〜!!
俺がずーーーっと♡に片思いしてるのは
同期の間じゃ有名で…
みんななぜか
俺を応援してくれてる。
行きが俺と二人で
嫌だとか言われたらショックだし
俺は当日まで黙ってた。
そしたら当日の朝…
いきなり♡が行かないとか言い出して…
無理矢理でも迎えに行こうとしたら
♡はなんと
また俺のマンションにいた。
また家出して
またお嬢の家に泊まってたみたいで…
行きたくないって言う♡の荷物を持って
とりあえず出ようとすると
お嬢がアイスノンとタオルを持ってきた。
◇)♡ちゃんね、朝までずっと泣いてたの。
一睡もしてないから
車の中で寝れるなら寝かせてあげて。
T)わかった……
◇)これも…目、腫れてるから…
T)ありがとう……
帰ろうとする♡を
「家まで送ってやる」って言って
とりあえず車に乗せた。
お嬢からもらったアイスノンを渡すと
♡はタオル越しに目の上に乗せて
そのまま喋らなくなった。
T)……
♡)……
寝た…かな…?
…ガタン…ッ
シートを倒してやると
♡はそのまま動かなかった。
「一睡もしてないから」
T)…っ
こんなに目が腫れるまで
いっぱい泣いたんだろうか…
家に送ってやろうかと思ったけど…
あいつがいる家になんか
帰したくない。
帰したってどうせまた泣かされるんだ。
もういい。
このままさらっていってやる。
俺は勝手に栃木へ向けて、車を走らせた。
♡は2時間、ずっと眠ってて
現地に着くと
無理矢理連れてきた俺に
文句を言うことはなくて
すぐにKに抱きついた。
K)あれ…あんた…目少し腫れてる?
♡)ううん、大丈夫…
K)……
♡)ぎゅ……
K)ん、よしよし…
T)……
俺にもあれくらい…
心を許してくれたらいいのに…
そしたら俺、
絶対全力で守ってやるのに。
♡はその後、
みんなのテンションに合わせるように
無理矢理元気にはしゃいでて…
カラ元気なのには気付いてたけど
誰もつっこまなかった。
でも…
無理矢理はしゃいだのと
片道2時間しか寝てないのとで
その夜♡は
コテージの部屋ですぐに眠ってしまった。
女)いや〜今日楽しかったね!
男)ほんとほんと!
Tありがとな、いろいろやってくれて。
T)うん。
女)ほんと何から何までありがとう!
よっ!名幹事!!♡
T)ははっw
K)♡も…連れてきてくれてありがと。
T)……うん。
焚き火を囲みながら、みんなで酒を飲む。
T)ほんとは…あいつ…
最初来ないって言ってて…
K)……
T)……
K)でも…あんな顔してるし…
無理矢理にでも連れてきて
少しは気分転換になったんじゃない?
T)そうかな…
K)うん…
T)……
Kも♡が心配なんだと思う。
いつもより覇気がない。
女)ちょっと目、腫れてたもんね。
男)そんな大喧嘩したのかな?
女)なんか聞いてる?
K)いや、今日はその話してない。
女)そっか…
K)……
男)今の彼氏がどんな奴か知らないけどさ、
あんなに泣かされんなら
なんか…かわいそうだよ。
女)うん……
女)あたし…♡はほんと
Tと一番合うと思うんだけどなーー
T)えっ
女)別にうちらさ、無駄にあんたを
応援してるわけじゃなくて。
男)うん。
女)あんた達、価値観も似てるし…
男)そうそう、くそ真面目なとことか。
女)うん。
女)あんたがどれだけ♡を好きかも
もうずっと見てて
嫌ってほどわかってるから…
男)だよな。
女)♡が今の彼氏と合わないなら
あんたと付き合えばいいのにって思う。
男)俺もーーー
T)…っ
K)……
女)あんただったら
絶対泣かせないし
死ぬ気で幸せにすると思うから。
T)…っ
本人には全然伝わってないのに
周りがこんなに
俺の気持ちをわかってくれてて…
なんか泣きそうになった。
T)ありがとう…
女)……
男)……
T)とりあえず俺は俺で…頑張る。
女)うん。
K)……
T)お前は反対してるんだろうけど…
俺…あいつのこと好きな気持ちは
本気だから。
K)…んなこと…わかってるよ。
T)…っ
K)あたしは別に口出ししないから…
好きにしなよ。
T)……
K)あたしは…
♡が笑顔なら…それでいい。
T)…っ
女)そうだよね。♡には笑っててほしい!
男)うん!!
男)あいつが笑ってると
なんかこっちまで嬉しくなるんだよなw
女)それわかるーー!w
女)よし!明日はめいっぱい♡を励まそう!
男)よっしゃーーーーー!!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
旅行二日目。
♡は朝から元気だった。
♡)楽しいねぇっ♡
K)うんw
♡)えへへへーー♡
女)今日は夜は温泉だしね!
♡)わーい!楽しみだぁっ♡
女)うんw
♡が元気に笑ってる。
男)よし、飯食ったら移動するぞーー!
女)はーい!
男)あ、お前はTの車な。
♡)はーい。
また車内に二人になった。
♡)二人だと寂しいね…
T)えっ!!
♡)……
T)あっちの車が良かった??
一緒にいたいけど…
今は♡の笑顔には代えられない。
♡が楽しい方が優先!!
T)あっちに移ってもいいよ?
♡)え…っ、だって…
Tくん一人になっちゃうよ?
T)全然いいよ。
♡)……
T)……
♡)ううん、こっちで大丈夫。
T)……
♡)にこっ
T)///
不意に見せた笑顔が可愛くて
俺は思わず目を逸らした。
♡)みんなすっごく楽しそうだよね♡
T)うん。
♡)Tくんがいっぱい
準備してくれたからだよ。
T)……
♡)ありがとう♡
T)なんも…
♡)今回だけじゃなくて…
T)え…?
♡)いつもありがとう♡
T)…っ
♡)いつも…みんなのために
いろいろしてくれるでしょ?
T)……
♡)本当にありがとう♡
T)////
♡がありがとうって言ってくれるのが
何よりも一番嬉しい…
ピロピロ♪ピロピロ♪
びくっ
♡)…っ
LINEの音がしたけど
♡は携帯を開かなかった。
あいつ…からかな…
T)♡…?
♡)…なぁに?
T)……
♡)……
T)お前は…楽しい?
♡)え…?
T)……
♡)……
T)……
♡)うん、楽しいよ…♡
T)……
そう言って微笑んだ♡が
すごく儚げで…
なんでだろう。
笑ってるのに…
今にも消えてしまいそうだった。
それから予定通りアスレチックについて
みんなで思い切り遊んで
♡はずっと元気だった。
無理してるのか…
無理矢理考えないようにしてるのかは
わかんないけど…
♡)はぁっ、疲れたーーw
K)あんた全力すぎw
♡)あははは♡
あ、飲み物買ってくるねー!
K)うん。
♡がテーブルの上に
携帯を置いていって…
丁度その携帯が鳴った。
ピロリロリロ♪ピロリロリロ♪
画面には「H T」。
俺とKは思わず顔を見合わせた。
着信はしばらくすると止まって…
ピロピロ♪ピロピロ♪
今度はまた、LINEの音がした。
K)旅行中にごめん…
明日は帰って来る?もう一回…
までしか見れない。
あ、てゆーか見ちゃった。
T)…っ
K)♡…ごめん。
T)……
もう一回…なんだろう…
もう一回…話したい、とかかな…
それでまた、♡を泣かせるんだろうか。
帰したくない。
あいつのとこなんか…
♡)はいっ、Kちゃんのも買ってきたよー♡
K)あ、ありがと。
♡)ぷはーーっ
♡は椅子に座って
携帯に目をやった。
さっきは開かなかったのに…
今度はゆっくり画面を開いた。
ピッ……
♡)……
あいつからのメッセージを読んで…
何も喋らなくなった。
K)……
T)……
♡)……
K)今日の温泉、楽しみだな。
T)あ、ああ…
K)すっごい動いたし
温泉でリフレッシュしよっと。
T)だなーー
K)明日筋肉痛かもなーー
ね、♡。
♡)あっ…、うん…ほんとだねw
T)……
無理して…笑うなよ…
てゆーか…あいつ何なんだよ!!
もう電話もメールもしてくんな!!
♡の笑顔が曇るんだよ!!
くそっ……
宿についてから晩飯まで
少し時間があって…
みんなお土産を買ったり
近くをぶらついたり
好きに過ごしてた。
裏庭に小さい足湯があるって聞いて
俺が♡を呼び出すと
♡は浴衣姿で現れた。
♡)わぁっ!
こんなところに足湯あるんだね!
T)うん。
♡)やったーー♡
T)……
良かった…
笑ってくれた…
♡)でも…狭いね…
T)うん。
♡)みんな入れない…
T)あ、お前しか呼んでない。
♡)えっ…
T)もうすぐ晩飯だし…
いいじゃん。二人で入ろうよ。
♡)幹事特典?
T)そ。
♡)あはははっw
T)……//
浴衣…すっげぇ可愛い…//
T)もう温泉…入ったんだ?
♡)うん!すっごく広かったよーー
わ、あったかい!
ちゃぽん…
ぱしゃぱしゃっ
♡)足湯もいいなーー♡
T)……
♡)露天風呂も景色がすっごく綺麗で
最高だったよーー♡
T)……
♡)男子は入ったー?
T)あ、うん。
♡)ほんと素敵なところだね♡
ありがとーーーー♡
T)……//
ああ…ほんと…
笑ってくれるだけで
すげぇ嬉しい……
♡)わーいわーい♪
ぱしゃっ
T)浴衣濡れるからやめろw
♡)あはははっw
てゆーか…
少し捲ってる浴衣からのぞく太ももが…
すげぇエロいんだけど…///
♡)あ、見て見てーー!!
T)え?
♡)もう星が見えるよー!
T)…あっ、ほんとだ……
♡)綺麗だね!!
T)すげぇ……
屋根から少し頭を出して
空を見上げると
星がたくさん光ってる。
♡)星空一人占めだぁ〜〜〜♡
T)いや、俺もいるけどな?w
♡)あ、そっか…
じゃあ二人占め〜〜!w
T)あはははw
可愛いなぁ…
ほんと…
ずっとこうやって笑っててほしい…
もう…泣かせたくない…
T)……
ぱしゃ…
♡)……
ぱしゃっ
T)お前…さ、
♡)…んーー?
T)明日…
♡)……
T)自分ち…帰んの?
♡)…っ
♡の顔から
一気に笑顔が消えた。
T)…っ
♡)……
T)帰りたく…ないんなら…
♡)その話はしたくないっ。
T)…っ
♡はそう言って足湯から上がった。
そのまま柵まで歩いて行って…
また星空を見上げてる。
T)……
俺が隣に行くと
♡が小さくつぶやいた。
♡)宇宙から見たら…
……ちっぽけなのかなぁ……
T)……
♡)……
T)……
♡は柵の上に両腕を乗せると
俯いて、ため息をついた。
♡)Tくん…
T)ん…?
♡)金曜日…ごめんね?
T)……
♡)心配…してくれてたのに…
なんか…
T)……
♡)気持ちがぐちゃぐちゃで…
冷静じゃなかったの。
T)……
♡)あんな言い方して…ごめんね?
T)……
俺のことなんか、いいのに…
T)♡……
♡)……
T)明日…
♡)その話はしたくないってばw
T)……
まただ。
無理して笑ってるけど…
今にも消えてしまいそうな、悲しそうな顔。
T)明日…帰るの嫌なら…
本当に…俺んち来いよ…
♡)行かないよ。
T)家ん中…好きに使っていいし…
俺はソファーで寝るから
お前はベッド使っていいし…
♡)行かないよ。
T)朝飯も晩飯も…
俺が美味いの作ってやるから。
♡)行かないよ。
T)気が紛れるなら…
ゲームしてもいいし、映画観てもいいし…
♡)…行かない…よ。
T)とにかく俺は…
お前が一人で泣いてんのだけは
嫌だから。
♡)…っ
T)泣くなら…家に帰るなよ。
♡)…っ
T)俺んとこに…来い。
♡)…行かないよ。
T)……
♡)……
T)……
♡)行かない。
この話はもう終わりっ…
T)…っ
♡)私…、戻るねっ
T)待って!!
ぐいっ
T)なんで…泣いてんだよっ
♡)泣いてないっ
T)…っ
泣いてんだろ…っ
ぎゅっ……
♡)…っ
T)泣くなよ…っ
♡)……
T)頼むから……
♡)……
T)お前が…泣いてると…
♡)……
T)俺まで…心臓が痛くなる…
♡)…っ
ぎゅ…っ
きつく抱きしめると…
腕の中で…♡の身体が、少し震えた。
♡)ふ…ぇっっ
T)…っ
♡)ううっ…、うわぁんっっ
T)……
♡がまた泣き始めて…
俺の手を振り払わずに
俺の腕の中で泣いてくれてるのが…
弱ってるからなのか
俺に心を許してくれたからなのか、
どっちかはわからない。
でも…
そんなのはどうでも良くて…
♡が泣いてる時に
♡が苦しい時に
こうして抱きしめて
側にいてやれるだけで
それだけでいいって、俺は思った。
♡)ひっく…、っく…、ぐすっ
お前の悲しさとか痛みとか…
全部このまま
俺に移ればいいのに…
お前が笑ってくれるなら
俺はなんだってする。
泣いてる♡の頭を撫でながら
ずっと背中をさすってると
♡が俺から離れて、俺を見上げた。
♡)…ごめんね。
T)…っ
♡)いっぱい泣いて…ごめん…
T)……
謝らなくて…いいのに…
♡)……
T)……
♡)心が苦しくなるから…
もう臣くんの話はしないで。
T)…っ
俺は別に…
あいつの話をしたんじゃなくて…
♡)もう…戻ろっ?
ご飯…食べよっ?
T)……
自分の無力さが…虚しい…
ー続ー
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