臣)そんな…過去の話、関係ねぇだろ!
♡)…っ
やめろ…
臣)過去のことは
今の俺とお前には関係ないじゃん。
♡)……
やめろ…
臣)俺が今も浮気してるって思ってんの?
♡)…違うよ……
そうだ、違う。
♡はそんなこと思ってないし
俺も思ってない。
臣)信じられないんだろ?
♡)…そうじゃ…なくて…
そんな言い方やめろ…
違う。
臣)そんなこと聞いてどうすんだよ!
♡)…っ
やめろ!!!!!
♡)そうじゃないよ!!!
♡が泣きながら叫んだ。
♡)臣くんが…
そんな人だと…思わなかった…っ
臣)…っ
ぽろぽろと流れる涙…
♡)嘘つきだよ。
臣)……
♡)最低だよ。
臣)……
♡)気持ち悪いっ
臣)…っ
♡)臣くんなんか気持ち悪い!!
泣きながら俺に向かって叫んだ。
♡)触んないで!気持ち悪い!!
臣)…っ
♡)臣くんなんか大っ嫌い!!
臣)…待って…
♡)いや!!触んないでぇっ!!!
臣)…っ
♡)大っ嫌い!大っ嫌い!!
臣)♡…!!!
♡)顔も見たくないっ!!
臣)♡…!!!
♡)いやぁぁっっ!!!!
臣)…っ
うあああああっっっっ!!!!!!!
ガバッッ
臣)はぁっ、はぁ…っ
すげぇ…汗……
臣)はぁ…、はぁ…
今のは…夢…?
臣)…っ
「臣くんなんか大っ嫌い!!」
胸が張り裂けそうだった。
夢だけど…
夢じゃない。
同じようなことを言われたんだ。
「嫌い」
そう言わなくても、♡の目は…
俺への不信感でいっぱいだった。
軽蔑と失望を宿して
俺を悲しそうに見るあの瞳が
脳裏に焼き付いて離れない。
臣)はぁ…っ
結局あまり眠れなくて
重たい身体を引きずってリビングに出た。
シン……
臣)……
なんか…変だな。
臣)♡……?
♡の気配が…ない。
コンコン。
臣)……
コンコン。
臣)……
まだ…寝てる?
いや、違う。
嫌な予感がする。
臣)♡?
コンコン。
臣)♡?開けるぞ?
……ガチャッ
臣)…っ
いない。
臣)♡?!
まだ朝の6時。
GWが終わって今日から会社のはずだけど
こんな早い時間にいないなんておかしい。
臣)♡!!!
バタン!
ガチャッ
ガラガラッ
臣)…っ
洗面所にも風呂場にもトイレにも
キッチンにもベランダにも
どこを探しても♡の姿はなくて…
俺はすぐに携帯を手に取った。
プルルルル…、プルルルル…
出ろ…
頼む…!!!
臣)……ダメだ、繋がらない。
どこに行った??
こんな時間に…
いや、違うのか?
俺が気付いたのが今なだけで
本当はもっと早くに…いなくなってた?
いつだ?
昨日あの後…すぐに??
どこに行ったんだよ……
「今は…臣くんの顔…見たくない。」
夢じゃなくて
昨夜、本当に言われたセリフ。
俺の顔を見たくないから
出て行ったんだろうか…
どうしよう…
どうしよう…
臣)…っ
正しいリズムを刻まない心臓が
すごく苦しい……
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
蒼)おはようございます。
♡)……おはよう。
蒼)今日はすごく早いんですね。
♡)……
蒼)連休長かったから
♡さんに会えるの久々だなー♡
♡)……
蒼)紅の頬もすっかりよくなりましたよ。
♡)……
蒼)バカな弟ですみませんでした。
♡)……
忘れてた。
そんなこと…あったっけ…
「お前が汚いわけないだろ、バカ。」
「もう消したから忘れろ。」
「撮影あったらファンデで隠せ。
俺のキスマーク。」
優しくいっぱい抱きしめてくれて…
溶け合うように
何度も愛し合ったあの夜が
すごく遠いことのように感じる。
蒼)連休中は何してたんですかー?
♡)……
蒼)……
♡)……
蒼)ほんとに嫌われちゃいました?w
そんなガン無視しなくても…
♡)…っ
蒼)えっ…
ガタンッ
バタバタバタッッ
蒼)ちょっと待ってくださいよ!
♡)離してっ!!
蒼)なんで泣いてるんですか!
♡)泣いてない!!
蒼)泣いてる!!
♡)…っ
掴まれた腕を振り払おうとしても
離してくれない。
♡)触らないでぇ…っ、ぐすっ
蒼)…っ
J)今度はお兄ちゃんが悪さしてんの?
蒼)えっ
ぐいっっ
蒼)いって…
J)女子に手荒な真似はやめようね?
蒼)そんなんじゃ…
J)……
蒼)……
J)泣いてるけど…泣かせたの?
蒼)違います…っ、俺じゃ…
J)じゃあもう行っていいよ。
トンッ
蒼)…っ
蒼くんはそのままデスクに戻って
私はJさんに手を引かれて
給湯室に連れて行かれた。
J)…大丈夫……?
♡)……
J)何かされたの?
♡)…違い…ます……
J)じゃあ…どうして泣いてるの?
♡)…っ
J)……
♡)……
私が黙ったまま俯いてると
Jさんは優しく頭を撫でてくれた。
J)…言いたくないならいいよ…
♡)……
J)……
♡)……
何も言わずに…
私が落ち着くようにずっと頭を撫でて
そばにいてくれてる…
♡)もう…大丈夫です…
J)……
♡)戻ります…
ありがとうございました…
ぺこっ
……
♡)…はぁ……
デスクに戻ると
もうKちゃんが来てた。
K)おはよ。
♡)おはよ……
K)……
やだな…
Kちゃんにはすぐ気付かれそう…
私は誤魔化すように
ブルーライトのメガネをかけて
パソコンの方を向いた。
K)ねぇ。
♡)…っ
K)……
♡)……
K)裏に置いてあるキャリーケース、
あんたのでしょ?
♡)…っ
K)……
♡)……
K)あんなでっかいのどうしたの?
♡)……
K)旅行でも行く気?
♡)……
K)……
♡)これっ、…急いでるから
話しかけないでっ!
K)……
♡)……
わかってる。
Kちゃんは心配してくれてるのに…
こんな言い方して、私…最低だ。
K)……
ぽんぽん。
Kちゃんは私の頭をぽんぽんして
それ以上は何も言わずに
自分の席についた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
臣)ーーっす。
隆)あ、臣…おはよ。
臣)……
健)おはよ〜〜!!!!
隆)健ちゃん…朝から元気だねw
健)おうよっ!!♪
N)おはよーーーー
隆)おはようございまーす。
まだ時間あるよな…
臣)はぁ……
俺はパーカーのフードをかぶって
机に突っ伏した。
臣)……
♡は全然電話に出ないし
LINEしても全く既読にならない。
本当に…
どこに行ったんだろう…
ピロピロ♪ピロピロ♪
臣)!!!!
ガバッ
画面を開くと
LINEは♡じゃなくてKからだった。
K『会社には来てるよ。大丈夫』
臣)…っ
よかった……
とりあえず無事だった…
俺はすぐにKに電話をかけた。
プルルル…
K『はいよ。』
臣『仕事中にごめん!』
K『いや、手空いてたから大丈夫。』
臣『♡、生きてる?』
K『うん、一応。』
一応って…
臣『様子は?』
K『まぁ…うん、変。』
臣『……』
K『しばらく帰らないつもりかも。』
臣『え?!!』
K『一番でかいキャリケース持ってきてる。』
臣『キャリーケース?!』
K『うん。』
臣『……』
K『まぁ♡のことだからあまり計画なしに
とりあえず詰め込んで
出てきたんだろうけど…』
臣『……』
そんなに…
うちにいるのが嫌だったのかな…
俺の顔…見たくなかったのかな…
K『とりあえず行くあてもないだろうし
今日はうちに泊めるよ。』
臣『ああ…ありがとう…
それなら安心だわ…』
K『じゃあとりあえず仕事戻るね。』
臣『ああ…うん、ごめん、ありがとう。』
ピッ。
臣)……
一番でかいキャリケース…
「しばらく帰らないつもりかも。」
臣)……
ああ…ヤバい…
なんか…ダメージでかい…
臣)…………
俺がそのまま突っ伏してると
健ちゃんが頭を撫でてきた。
なでなで…
健)…泣いてんの?
臣)泣いてない…
健)よしよし…
臣)……
むくっ
ぎゅっっ
健)また甘えてきよった。
臣)……
直)どうしたの?
臣)……
直)♡ちゃんと仲直りできた?
臣)……
岩)昨日ちゃんと話せたの?
E)ちゃんと伝えたー?
隆)♡ちゃん、なんて?
臣)……
みんな心配してくれてたのに…
不甲斐なさすぎる…
臣)♡…、出て行った。
皆)……
シーン……
臣)俺の顔、見たくないって…
隆)…っ
岩)出ていった…って…
N)家出…??
E)…っ
健)え、ほんまに??
臣)……うん。
直)♡ちゃんが…家出……
E)え、昨日話したんじゃないの?
臣)話したよ……
話したけど…
健)なんでそれで家出になんねん!
臣)……
N)どんな話し合いになったの?
臣)……
俺は…
昨日の流れをみんなに話した。
N)ええと……
岩)……
N)とりあえず臣の悪行は
全部バレたわけね?
健)悪行って…w
N)いや、ほら、過去のさ?
健)うーん、そうっすね。
N)なんでバレたんだろね?
岩)うーーん…
直)まぁ今はなんでバレたかよりも
どうフォローするかじゃないですか?
N)そう!その通り!
臣)……
隆)でも話聞いた感じだと
フォローしようがなさそう…
E)うん……
N)でもねぇ!
臣が言ったことは間違ってないよねぇ!
岩)うん、そうですよね。
N)そんな過去のことグチグチ掘り返したって
何も生まれないんだし!
岩)うんうん。
N)そんなん聞かれたって
こっちも困っちゃうよ。
健)ですよね…w
隆)まぁでも…
♡ちゃんも言ってた通り
ただ気持ちが追いつかないんじゃ
ないですかね…
N)でもさ、そんなん♡ちゃんが勝手に
臣のことを誠実な真面目野郎だと
思い込んでたわけでしょ?
岩)うーん、そんなイメージだったんすかね。
N)別に臣がさ、
俺すっげぇ真面目で付き合った女としか
そんなこといたしませんよーー
とか言ったわけでもないのにさ。
岩)まぁ勝手なイメージといえば
そうかもしれないっすね。
臣)……
「臣くんは…相手がどうとかじゃなく
浮気とかしない人だって
勝手に思ってたから…」
♡もそう言ってたっけ…
臣)でも…
♡に聞かれた時に、嘘をついたのは俺だ。
臣)勝手にじゃなくて…
そう思わせたのは…俺だから…
E)でもな〜〜〜〜
健)んー?
E)好きな子に遊んでるの?って聞かれて
遊んでますなんて言うわけないよねw
N)その通り!w
E)絶対遊んでないって答えるよ。
岩)そりゃそーだ。
隆)臣だって別に
♡ちゃんを騙してやろう!って
嘘ついたわけじゃないんだし…
臣)……
N)うん、臣は悪くないよ。
健)でもまぁ…♡ちゃんは純粋やから
臣のその言葉を信じたんやろなーー
隆)うーーん……
そう考えるとちょっと可哀想…
N)いや、臣のがよっぽど可哀想だよ!w
隆)え?
N)今はこんな一筋なのに
そんなどうでもいい過去のことで
家出までされてさ!
臣)……
E)うん、可哀想。
岩)確かに。
誰だって過去に遊んだことくらい
ありますよねーー
N)そうだよ。別に俺たちじゃなくたって
そのへんの一般人だって
合コンしてお持ち帰りしてるっつーの。
隆)確かに。
E)そんな男いっぱいいるよーー
健)まぁせやなーー。
だって男やし!
N)そうそう、男はそういう生き物よ。
直)まぁ♡ちゃんはそういう人は
好きにならないって話じゃない?
直己さんが静かに口を開いた。
直)そういう価値観の人が嫌だから
そうじゃないと思ってた
自分の好きな人が
昔そうだったって知って…
受け止められなくて
家出したんだと思うな。
臣)…っ
N)でもさ、そんな男が嫌だとか言ったら
男と付き合えなくない?
岩)うんうん。
N)現在も過去も女遊びしたことない
超真面目な男なんている??
直)いや、いるでしょw
N)あ、いますか?
直)少ないだろうけど、ゼロじゃないでしょw
N)そうか……
臣)……
♡が…そういう男が嫌なのは
わかってたのに…
なんで俺、嘘つかなかったんだろう…
ほんとバカだ…
ああでも…
嘘ついたところで一緒だよな。
♡はもうわかってたんだから…
直)なんかさ、男はすぐに
男であることを言い訳にするけど…
隆)言い訳?
直)うん。
「男なんだから仕方ない」とか
「男は浮気する生き物だ」とか…
N)だって事実だし…
直)そこがまず違う気がするな…
E)えー?
直)だって、逆だったら納得できる?
E)ん??
直)「女なんだから仕方ない」
「女だって浮気する生き物だ」
とか言われたら。
N)いやいやいや、
それはおかしいでしょ!w
岩)生物学的に男は子孫繁栄のために
性欲が強いわけだし…
直)そんなの女にだって備わってるよ?
岩)…っ
直)なのに昔から
女は一途であるべきで
男は浮気してもいいって…
そこがおかしいよね。
N)……
直)逆の立場になってされて嫌なことは
誰だって嫌なんだよ。
隆)逆の立場…?
直)♡ちゃんがさ、過去に
好きでもない男とヤリまくってて
お持ち帰りされまくり…
みたいな子だったらどう?
皆)え〜〜!!!ぜってぇやだ!!!
直)そーゆーこと。
臣)…っ
俺がしてたようなことを…
♡が過去に…してたら…?
直)男がキャバクラ行きまくるみたいに
♡ちゃんがホストクラブに
通い詰めてたら?
E)え、え、すっげぇやだ!
隆)ありえない…w
岩)ありえなさすぎて想像できないw
直)それが今、♡ちゃんの身に
起こってるってこと。
臣)…っ
直)ずっと信じてて…
ありえなさすぎて
想像できないようなことが
現実として降ってきたんだよ。
隆)うわ……
E)え…すげぇ可哀想……
N)臣…、お前ひどい奴だな…
岩)NAOTOさんが手のひら返した!!w
E)さっきまで臣かばってたのに!!
N)いや、だって…
直己先生の言う通りだなって…w
臣)……
なんで♡を傷つけたわけじゃないのに
♡は泣くんだろう…
そう思ってた。
「平気でそういうこと
してたんだって思ったら…
すごく…悲しい…っ」
なんでそれでお前が悲しいんだよ…
なんでお前が泣くんだよって…
そう思ってた。
でも…
もし逆だったら…
俺、立ち直れないくらいショックかも…
臣)……
今はしてないとか…
過去の話だとか言われても…
今好きなのはお前だって言っても…
そういうことじゃなくて…
ショックなもんはショックなんだ。
臣)……
健)それに、あれちゃう?
隆)ん?
健)♡ちゃんは臣しか知らんから
余計ショックなんちゃう?
岩)えっ
隆)臣しか…?
E)知らないの…??
健)あれ、これ知ってんの俺だけやった?
臣)…うん。
健)♡ちゃんは臣が初めてらしいで。
N)えーーーっ!!
岩)マジか……
隆)それは確かに…ショック大きいかも…
E)うーーん……
臣)……
N)♡ちゃんもそこそこ遊んでた子なら
そこまでショック受けなかったのにね…
隆)そうかなぁ…
岩)てゆーかそんな♡ちゃん、やだし!w
健)うん、そこやんな。
岩)♡ちゃんは…すげぇ純粋で
なんかそーゆー汚れを知らずに
無邪気に臣さんを好きって言ってるのが
なんか可愛いんだもん…
健)いやいや、だもんって言うても…w
その純粋な♡ちゃんが
こんな汚れにつかまったんやから。
E)汚れって!!w
健)だからこんな大問題に…
N)うんうん。
隆)…でも……
N)ん?
隆)さっき…直己さんが言ったこと。
直)ん?
隆)♡ちゃんにとっては…
「ずっと信じてて、ありえなさすぎて
想像できないようなこと」って…
直)ああ、うん。
隆)そう♡ちゃんが信じ込むくらい
臣は♡ちゃんをずっと
大切にしてきたってことでしょ?
N)おおっ!!隆二!!いい着眼点!!
隆)まぁそりゃー付き合う前に
小さい嘘はついたのかもしれないけどさ、
♡ちゃんが臣の過去を
一度も疑わないくらい…
臣は♡ちゃんの前ではきっと
優しくて誠実だったんだと思うから…
臣)…っ
隆)俺はそこを評価してほしい…
臣)……
隆二の言葉に…なんか泣きそうになった。
健)せやんな!!そこ評価大!!やんな!!
隆)うん。
岩)臣さんは…
本当に♡ちゃんを大事にしてたもん。
隆)うん、そうだよ。
直)それは♡ちゃんにもちゃんと
伝わってると思うよ。
臣)…っ
直)でも…だから余計に
苦しいのかもしれない。
隆)ああ、そうか……
逆にそういう葛藤にもなるのか。
直)♡ちゃんじゃないから
わかんないけどさ。
N)ああ〜〜〜難しいな〜もう。
E)うーん……
臣)……
ー続ー
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