【198】信じられない

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臣)♡?!

♡)…っ


臣くんがすぐに飛んできて
私を抱きしめた。


臣)…っ
♡)……


大好きな…臣くんの匂い…


臣)♡…っ
♡)……


大好きな…臣くんの声…


臣)♡…っ
♡)…っ


何度も名前を呼んで
私を確かめるように

力強く抱きしめる、優しい腕。


たった二日、会ってなかっただけなのに
そのぬくもりに涙が出そうになる。


好き。

臣くんが好き。


身体が無条件にそう言ってる。

でも…


♡)…っ


さっきまで思い返してた
Mちゃんの言葉と
あの臣くんが…また頭によぎって…


♡)離し…てっ
臣)…っ


臣くんを突き放したけど…
顔が…見れない。


♡)…っ
臣)……


私はキャリーケースを自分の部屋まで運んで
ドアを閉めた。


バタン。



♡)は…ぁ…っ


息が…詰まりそう…



気を紛らわせるように
明日からの旅行の準備をする。

バッグに荷物を詰めて
それを玄関に運ぶと

臣くんが私に声をかけた。


臣)また…出てくの?
♡)…っ
臣)……
♡)違うよ。
臣)……
♡)明日からの…荷物。
臣)……
♡)……
臣)旅行…行くんだっけ…
♡)…うん。
臣)……
♡)……
臣)ちゃんと…帰って来るよな?
♡)…っ
臣)……
♡)……


わからない。

帰ってきたくない。

だってまだ…臣くんの顔が見れない。



返事をしない私に
臣くんがまた口を開いた。


臣)帰って…来ないの?
♡)……
臣)お前…どこ行ってたの?
♡)……
臣)……
♡)友達の…家。
臣)……
♡)……
臣)友達って…誰?
♡)…臣くんの…知らない人。
臣)……
♡)……
臣)女?
♡)……


何…それ…


♡)女の子だよ…?
臣)……
♡)男友達の家なんて…
  泊まるわけないでしょ…
臣)……


男の子だと…思ってたの?


だって…
臣くんが言ったんだよ?


「嫌だから…他の男、家にあげないで。」
「男の家にも行くなよー?」


まだ付き合う前…
初めて…うちに来た日。


♡)……


ああ…
臣くんが私に嘘をついたのも
あの日だった…


もう…嫌だ…


気持ちが…ぐちゃぐちゃになってく…


♡)私のこと…疑ってたの?
臣)…違うっ
♡)男の子の家にいると思ってたんでしょ?
臣)そうじゃないよ。
♡)私…、そんなことしないっ!!
臣)…っ
♡)臣くんみたいなことしないもんっ!!


涙が…出てくる…


♡)好きでもない男の人と
  そういう風になったりなんて
  絶対しない!!!
臣)……
♡)臣くんみたいなこと
  死んでもしないもんっ!!!
臣)…っ


泣きながら言葉をぶつけた。


こんなことが言いたいんじゃない…
こんな言い方がしたいわけじゃないのに…


臣)ごめん、疑ってたんじゃなくて…
♡)じゃあ何?!
臣)心配だったんだよ!
♡)…心配って何?
  疑ってたってことでしょ?!
臣)違うって言ってんだろ!!!
♡)…っ


臣くんが…
初めて大きな声を出した。


臣)電話も全く出ないし
  LINEも既読にならない。
  どこにいるのかもわかんなくて…
  ずっと心配だったんだよ!!!
♡)…っ
臣)……
♡)……
臣)お前がそんなことするわけないって
  わかってる。
♡)…っ
臣)俺みたいな馬鹿な真似、
  するわけないって…
♡)……
臣)わかってるよ。
♡)…っ


臣くんが悲しそうにそう言った。


こんなこと…
言わせたいわけじゃない。

臣くんが…すごく心配してたのも
わかってるのに…


♡)もう…やだよ…っ
臣)…っ
♡)うう…っ、ふ…ぇっ
臣)……


心がこんなぐちゃぐちゃのまま話したって…

全然ダメだ。


臣)ちゃんと…話したいから…
  こっち来て…
♡)…っ


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


玄関で話してても仕方ないから
とりあえず♡をリビングまで連れてきた。


♡をソファーに座らせて
斜め向かいに俺も座った。


♡)……
臣)……


♡に泣かれると…
俺もすぐ冷静じゃなくなる。

ダメだ。
ちゃんと落ち着いて話さないと。


しばらく黙ってると
♡は泣き止んで…
様子も少し落ち着いた。


臣)……


ちゃんと…話したい。

重たくのしかかる空気を
深く吸い込んで
口を開いた。


臣)あの…さ…
♡)……
臣)お前に…ちゃんと
  言っておきたいことがあって…
♡)……


「♡ちゃん、勘違いしてんじゃない?」


勘違いしてるのかはわからないけど…
俺にはこれしか
言えることがないから…


臣)俺さ、お前と付き合ってからは
  そういうこと一切してないって
  言ったけど…
♡)……
臣)お前と出会ってからも
  そんなの一切ないから。
♡)…っ
臣)……
♡)……
臣)お前と出会ってからは…
  他の女とそういうことは
  ほんとにしてない。
♡)……


俺がそう言うと
俯いてた♡が、ゆっくり顔を上げて
俺の目を見た。


♡)……
臣)……


まっすぐ俺を見つめてくる。


♡)ほんと…?
臣)え…?
♡)…ほんと?
臣)……


♡の真っ直ぐな視線が
俺を捉えて離さない。

疑われてるのか何なのか
よくわからなくて…


♡)本当に…何もしてない?
  一切してない?
臣)…っ


何も…?
一切…?


臣)……


ホテルは…行ったけど…
そんなことを今言うのは
間違いな気がする。

でも…

もし♡がそれも知ってて
聞いてきてるんだとしたら

また嘘をつくことになる。


冷静じゃない頭の中で
必死に答えを探すけど

何が正解かなんて
相変わらずわからない情けない俺は…


この真っ直ぐな瞳に
もう嘘をつきたくないと
無意識にそう思って、口を開いた。


臣)最後までは…してない。
♡)……
臣)……
♡)…何…?それ……
臣)……
♡)……
臣)酔った勢いで…
  一回だけ…ホテル行ったけど…
♡)…っ


ああ…
間違いだったかもしれない。

言わない方が良かったのかもしれない。

でも…

頭の中でパニックになりながらも
もう嘘はつきたくないって…

その気持ちだけは強くあって。


♡)ホテル…行ったの…?
臣)うん。
♡)誰…と?
臣)……


誰…だっけ…


臣)…モデル…?
♡)覚えてないの?
臣)……
♡)……
臣)酔ってたから、あまり覚えてない。
♡)…っ
臣)……
♡)「最後まで」って…何?
臣)…っ
♡)……
臣)……


♡の瞳に…涙がたまっていく…


♡)私と出会った…後…?
臣)……うん。
♡)私のこと…好きじゃなかった?
臣)好きだったよ。
♡)…っ


好きだったから…
途中でやめたんだ。


♡)好きって…思ってくれてたのに…
  他の人と…ホテル…行ったの?
臣)…っ
♡)どうして?
臣)……
♡)……
臣)理由とか…別にない。
  すげぇ酔ってたから…
♡)酔ってたら好きじゃない人と
  ホテル行くの?!
臣)…っ
♡)……
臣)その一回だけ。
♡)……
臣)お前と出会ってから…付き合うまで…
  その一回だけ。
♡)…っ
臣)……


ぽろぽろとこぼれる♡の涙が
俺の心に、鉛のようにたまっていく…


♡)ずっと…好きだったって…
  言ってくれたの…
臣)…っ
♡)嘘だったの…?
臣)嘘じゃない!!!
♡)…っ
臣)好きだったよ。
♡)……
臣)ずっと好きだったよ。
♡)……
臣)……
♡)……
臣)その女に感情なんてないし
  顔も覚えてない。
♡)……
臣)好きなのはお前だったし
  お前に言った気持ちは
  何一つ、嘘じゃない。
♡)そんなの信じられないよっ!!
臣)…っ


♡の瞳から
次々に涙がこぼれる。


♡)本当に好きだったら
  ホテルなんか行かないもんっ!!
臣)…っ
♡)嘘だったんだ…
臣)違う!
♡)嘘だったんだ!!
臣)違うっ!!!
♡)…っ
臣)嘘なんかじゃない!!
♡)…っ
臣)お前だって言ったじゃん!!
  本当に好きだったら寸前に絶対
  顔がよぎるはずだって!!
♡)…っ
臣)お前の顔が浮かんできて…
  出来なかった。
♡)……
臣)お前のことが好きだから
  お前にやましいこととか
  後ろめたいことはしたくないって…
♡)……
臣)そう思ったから途中で帰った!!
♡)……
臣)お前のこと好きだったのは
  嘘じゃない!!!
♡)……


それだけは…信じてほしくて…


♡)さっきから…
臣)…っ
♡)寸前とか…途中でとか…
  なに…?
臣)…っ
♡)その人…と…っ
  チューとか…したの…?
臣)……
♡)寸前まで…したんでしょ?
臣)…っ
♡)…ふ…っ…、ふぇっっ
  ううう…っ


♡がまた泣き出して…


♡)すっごく…やだ…っ
臣)…っ
♡)悲しい…よぉ…っ
臣)…っ
♡)やだよぉっ…うわーーんっっ
臣)……


俺は…何も言えなくて…


♡)悲しい…っ
臣)……
♡)ひっく…、ふぇぇっっ
臣)…っ


俺まで…泣きそうになってくる…


♡)うわぁぁんっ
臣)ごめん…っ
♡)ふっ…ううっ
臣)♡、…ごめん……
♡)なんで謝るのっ?!
臣)…っ
♡)付き合ってない時なんだから
  臣くんは悪くないもん!!
臣)…っ
♡)付き合ってない時なら
  何したっていいって…
  臣くんはそういう考え方なんでしょ?!
臣)……そうじゃ…
♡)だからそういうことしたんでしょ!?
臣)…っ
♡)謝らないでよっっ!!
臣)……
♡)私に責める権利ないもん!!
臣)……
♡)ただ…悲しいだけだもんっ
臣)…っ
♡)悲しくて…苦しいだけだもんっ!!
臣)……
♡)ふぇぇっ、うわぁぁんっ
臣)…っ


どうしていいのかわかんなくて
♡が泣いてんのがすげぇ辛くて

思わず♡に伸ばした手は
見事に一瞬で、振り払われた。


♡)やだっ!!!
臣)…っ
♡)もう…やだっ……
臣)……


胸が締めつけられて
息が上手く吸えない……


♡)もう…全部ぐちゃぐちゃで
  わけわかんないっ
臣)……
♡)全部全部やだっっ!!!
臣)……
♡)もう全部わかんないよっ!!
臣)……


泣きじゃくってた♡は
最後に一言…


♡)もう…一緒にいたくないっ


そう言い捨てて
家を出て行った。



……




♡がいないこの二日間…
本当に心配で…すげぇ辛くて…

帰ってきたら…
♡の顔が見れたら…

もう絶対離さないって思ってた。


もしまた出て行こうとしても
力ずくでも止めるんだって
そう思ってた。


でも…俺の足は鉛のように重くて
身体は一歩も動かない。


「もう一緒にいたくない」


俺が…あんなに泣かせた…


「悲しい」って…
「苦しい」って…


あんなに泣かせた。



臣)…っ



全部…自業自得なのに
自分勝手な涙が頬を伝って

自分が嫌になる。


もうこのまま…消えてしまいたい…


喉が締まって…苦しくて…


どんなに足掻いても抜け出せないような
深い深い自己嫌悪の闇に


どこまでも…堕ちていく……




ーendー

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