臣)♡?!
♡)…っ
臣くんがすぐに飛んできて
私を抱きしめた。
臣)…っ
♡)……
大好きな…臣くんの匂い…
臣)♡…っ
♡)……
大好きな…臣くんの声…
臣)♡…っ
♡)…っ
何度も名前を呼んで
私を確かめるように
力強く抱きしめる、優しい腕。
たった二日、会ってなかっただけなのに
そのぬくもりに涙が出そうになる。
好き。
臣くんが好き。
身体が無条件にそう言ってる。
でも…
♡)…っ
さっきまで思い返してた
Mちゃんの言葉と
あの臣くんが…また頭によぎって…
♡)離し…てっ
臣)…っ
臣くんを突き放したけど…
顔が…見れない。
♡)…っ
臣)……
私はキャリーケースを自分の部屋まで運んで
ドアを閉めた。
バタン。
♡)は…ぁ…っ
息が…詰まりそう…
気を紛らわせるように
明日からの旅行の準備をする。
バッグに荷物を詰めて
それを玄関に運ぶと
臣くんが私に声をかけた。
臣)また…出てくの?
♡)…っ
臣)……
♡)違うよ。
臣)……
♡)明日からの…荷物。
臣)……
♡)……
臣)旅行…行くんだっけ…
♡)…うん。
臣)……
♡)……
臣)ちゃんと…帰って来るよな?
♡)…っ
臣)……
♡)……
わからない。
帰ってきたくない。
だってまだ…臣くんの顔が見れない。
返事をしない私に
臣くんがまた口を開いた。
臣)帰って…来ないの?
♡)……
臣)お前…どこ行ってたの?
♡)……
臣)……
♡)友達の…家。
臣)……
♡)……
臣)友達って…誰?
♡)…臣くんの…知らない人。
臣)……
♡)……
臣)女?
♡)……
何…それ…
♡)女の子だよ…?
臣)……
♡)男友達の家なんて…
泊まるわけないでしょ…
臣)……
男の子だと…思ってたの?
だって…
臣くんが言ったんだよ?
「嫌だから…他の男、家にあげないで。」
「男の家にも行くなよー?」
まだ付き合う前…
初めて…うちに来た日。
♡)……
ああ…
臣くんが私に嘘をついたのも
あの日だった…
もう…嫌だ…
気持ちが…ぐちゃぐちゃになってく…
♡)私のこと…疑ってたの?
臣)…違うっ
♡)男の子の家にいると思ってたんでしょ?
臣)そうじゃないよ。
♡)私…、そんなことしないっ!!
臣)…っ
♡)臣くんみたいなことしないもんっ!!
涙が…出てくる…
♡)好きでもない男の人と
そういう風になったりなんて
絶対しない!!!
臣)……
♡)臣くんみたいなこと
死んでもしないもんっ!!!
臣)…っ
泣きながら言葉をぶつけた。
こんなことが言いたいんじゃない…
こんな言い方がしたいわけじゃないのに…
臣)ごめん、疑ってたんじゃなくて…
♡)じゃあ何?!
臣)心配だったんだよ!
♡)…心配って何?
疑ってたってことでしょ?!
臣)違うって言ってんだろ!!!
♡)…っ
臣くんが…
初めて大きな声を出した。
臣)電話も全く出ないし
LINEも既読にならない。
どこにいるのかもわかんなくて…
ずっと心配だったんだよ!!!
♡)…っ
臣)……
♡)……
臣)お前がそんなことするわけないって
わかってる。
♡)…っ
臣)俺みたいな馬鹿な真似、
するわけないって…
♡)……
臣)わかってるよ。
♡)…っ
臣くんが悲しそうにそう言った。
こんなこと…
言わせたいわけじゃない。
臣くんが…すごく心配してたのも
わかってるのに…
♡)もう…やだよ…っ
臣)…っ
♡)うう…っ、ふ…ぇっ
臣)……
心がこんなぐちゃぐちゃのまま話したって…
全然ダメだ。
臣)ちゃんと…話したいから…
こっち来て…
♡)…っ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
玄関で話してても仕方ないから
とりあえず♡をリビングまで連れてきた。
♡をソファーに座らせて
斜め向かいに俺も座った。
♡)……
臣)……
♡に泣かれると…
俺もすぐ冷静じゃなくなる。
ダメだ。
ちゃんと落ち着いて話さないと。
しばらく黙ってると
♡は泣き止んで…
様子も少し落ち着いた。
臣)……
ちゃんと…話したい。
重たくのしかかる空気を
深く吸い込んで
口を開いた。
臣)あの…さ…
♡)……
臣)お前に…ちゃんと
言っておきたいことがあって…
♡)……
「♡ちゃん、勘違いしてんじゃない?」
勘違いしてるのかはわからないけど…
俺にはこれしか
言えることがないから…
臣)俺さ、お前と付き合ってからは
そういうこと一切してないって
言ったけど…
♡)……
臣)お前と出会ってからも
そんなの一切ないから。
♡)…っ
臣)……
♡)……
臣)お前と出会ってからは…
他の女とそういうことは
ほんとにしてない。
♡)……
俺がそう言うと
俯いてた♡が、ゆっくり顔を上げて
俺の目を見た。
♡)……
臣)……
まっすぐ俺を見つめてくる。
♡)ほんと…?
臣)え…?
♡)…ほんと?
臣)……
♡の真っ直ぐな視線が
俺を捉えて離さない。
疑われてるのか何なのか
よくわからなくて…
♡)本当に…何もしてない?
一切してない?
臣)…っ
何も…?
一切…?
臣)……
ホテルは…行ったけど…
そんなことを今言うのは
間違いな気がする。
でも…
もし♡がそれも知ってて
聞いてきてるんだとしたら
また嘘をつくことになる。
冷静じゃない頭の中で
必死に答えを探すけど
何が正解かなんて
相変わらずわからない情けない俺は…
この真っ直ぐな瞳に
もう嘘をつきたくないと
無意識にそう思って、口を開いた。
臣)最後までは…してない。
♡)……
臣)……
♡)…何…?それ……
臣)……
♡)……
臣)酔った勢いで…
一回だけ…ホテル行ったけど…
♡)…っ
ああ…
間違いだったかもしれない。
言わない方が良かったのかもしれない。
でも…
頭の中でパニックになりながらも
もう嘘はつきたくないって…
その気持ちだけは強くあって。
♡)ホテル…行ったの…?
臣)うん。
♡)誰…と?
臣)……
誰…だっけ…
臣)…モデル…?
♡)覚えてないの?
臣)……
♡)……
臣)酔ってたから、あまり覚えてない。
♡)…っ
臣)……
♡)「最後まで」って…何?
臣)…っ
♡)……
臣)……
♡の瞳に…涙がたまっていく…
♡)私と出会った…後…?
臣)……うん。
♡)私のこと…好きじゃなかった?
臣)好きだったよ。
♡)…っ
好きだったから…
途中でやめたんだ。
♡)好きって…思ってくれてたのに…
他の人と…ホテル…行ったの?
臣)…っ
♡)どうして?
臣)……
♡)……
臣)理由とか…別にない。
すげぇ酔ってたから…
♡)酔ってたら好きじゃない人と
ホテル行くの?!
臣)…っ
♡)……
臣)その一回だけ。
♡)……
臣)お前と出会ってから…付き合うまで…
その一回だけ。
♡)…っ
臣)……
ぽろぽろとこぼれる♡の涙が
俺の心に、鉛のようにたまっていく…
♡)ずっと…好きだったって…
言ってくれたの…
臣)…っ
♡)嘘だったの…?
臣)嘘じゃない!!!
♡)…っ
臣)好きだったよ。
♡)……
臣)ずっと好きだったよ。
♡)……
臣)……
♡)……
臣)その女に感情なんてないし
顔も覚えてない。
♡)……
臣)好きなのはお前だったし
お前に言った気持ちは
何一つ、嘘じゃない。
♡)そんなの信じられないよっ!!
臣)…っ
♡の瞳から
次々に涙がこぼれる。
♡)本当に好きだったら
ホテルなんか行かないもんっ!!
臣)…っ
♡)嘘だったんだ…
臣)違う!
♡)嘘だったんだ!!
臣)違うっ!!!
♡)…っ
臣)嘘なんかじゃない!!
♡)…っ
臣)お前だって言ったじゃん!!
本当に好きだったら寸前に絶対
顔がよぎるはずだって!!
♡)…っ
臣)お前の顔が浮かんできて…
出来なかった。
♡)……
臣)お前のことが好きだから
お前にやましいこととか
後ろめたいことはしたくないって…
♡)……
臣)そう思ったから途中で帰った!!
♡)……
臣)お前のこと好きだったのは
嘘じゃない!!!
♡)……
それだけは…信じてほしくて…
♡)さっきから…
臣)…っ
♡)寸前とか…途中でとか…
なに…?
臣)…っ
♡)その人…と…っ
チューとか…したの…?
臣)……
♡)寸前まで…したんでしょ?
臣)…っ
♡)…ふ…っ…、ふぇっっ
ううう…っ
♡がまた泣き出して…
♡)すっごく…やだ…っ
臣)…っ
♡)悲しい…よぉ…っ
臣)…っ
♡)やだよぉっ…うわーーんっっ
臣)……
俺は…何も言えなくて…
♡)悲しい…っ
臣)……
♡)ひっく…、ふぇぇっっ
臣)…っ
俺まで…泣きそうになってくる…
♡)うわぁぁんっ
臣)ごめん…っ
♡)ふっ…ううっ
臣)♡、…ごめん……
♡)なんで謝るのっ?!
臣)…っ
♡)付き合ってない時なんだから
臣くんは悪くないもん!!
臣)…っ
♡)付き合ってない時なら
何したっていいって…
臣くんはそういう考え方なんでしょ?!
臣)……そうじゃ…
♡)だからそういうことしたんでしょ!?
臣)…っ
♡)謝らないでよっっ!!
臣)……
♡)私に責める権利ないもん!!
臣)……
♡)ただ…悲しいだけだもんっ
臣)…っ
♡)悲しくて…苦しいだけだもんっ!!
臣)……
♡)ふぇぇっ、うわぁぁんっ
臣)…っ
どうしていいのかわかんなくて
♡が泣いてんのがすげぇ辛くて
思わず♡に伸ばした手は
見事に一瞬で、振り払われた。
♡)やだっ!!!
臣)…っ
♡)もう…やだっ……
臣)……
胸が締めつけられて
息が上手く吸えない……
♡)もう…全部ぐちゃぐちゃで
わけわかんないっ
臣)……
♡)全部全部やだっっ!!!
臣)……
♡)もう全部わかんないよっ!!
臣)……
泣きじゃくってた♡は
最後に一言…
♡)もう…一緒にいたくないっ
そう言い捨てて
家を出て行った。
……
♡がいないこの二日間…
本当に心配で…すげぇ辛くて…
帰ってきたら…
♡の顔が見れたら…
もう絶対離さないって思ってた。
もしまた出て行こうとしても
力ずくでも止めるんだって
そう思ってた。
でも…俺の足は鉛のように重くて
身体は一歩も動かない。
「もう一緒にいたくない」
俺が…あんなに泣かせた…
「悲しい」って…
「苦しい」って…
あんなに泣かせた。
臣)…っ
全部…自業自得なのに
自分勝手な涙が頬を伝って
自分が嫌になる。
もうこのまま…消えてしまいたい…
喉が締まって…苦しくて…
どんなに足掻いても抜け出せないような
深い深い自己嫌悪の闇に
どこまでも…堕ちていく……
ーendー
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