レモンの花言葉 〜short story〜

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君を見つけたのは
まだ肌寒く、息も白い冬の日だった。
 
 
連日の仕事の疲れも溜まっていて
仕事でNYに向かう飛行機の中。
 
長時間のフライトがキツイな、なんて
ため息をついて。
 
マスクを鼻の上まで引き上げた、
その時だった。
 
 
N)…っ
 
 
洗練された所作。
輝く笑顔。
 
こんなに綺麗な女性は見たことがない。
 
思わず息を飲むほどだった。
 
 
N)…っ
 
 
俺は言葉も出ずに、
ただただ彼女を視線で追いかけた。
 
 
フライトアテンダントをして
もう長いんだろうか?
そつが無い仕事ぶり、その一つ一つが
上品で、女性らしくて。
 
 
彼女が横を通るだけで
胸が高鳴って、仕方ない。
 
なんだこれは。
自分でも戸惑う。
 
 
寝ようと思っていたのに
眠気なんてどこかへ吹き飛んで。
 
少しでも。
一秒でも長く、彼女を見つめていたい。
 
そんな想いが通じたのか、
彼女が俺を見て微笑んだ。
 
 
N)////
 
 
その美しさに、一瞬で射抜かれて。
 
近付いてくる彼女に、心臓が壊れそう。
 
 
女)お客様…。
N)…っ
 
 
ふわりと優しく香る、彼女の匂い。
 
 
女)もしよろしければ、こちらどうぞ。
 
 
にっこりと手渡されたのは、
レモンののど飴。
 
 
N)え…?
 
 
戸惑う俺に、彼女は続けた。
 
 
女)咳をしてらしたので。
N)…っ
 
 
彼女はそのまますぐにいなくなってしまって…
眩しい笑顔に見とれている間に
お礼すら言えてないことに気付いて、
落ち込んだ。
 
 
咳してただけでのど飴って、くれるもん?
 
彼女はただ単に
自分の仕事をこなしただけなのかもしれないけど
俺はこののど飴が勿体なすぎて
口に入れることが出来なかった。
 
ぎゅっと手の中に握りしめて。
 
 
何度もお礼を言うチャンスを窺ってたけど
彼女はもう俺の隣を通らなくて。
 
最後、降りる時に絶対話しかけよう!
 
そう決めていたのに、
そのチャンスすら、俺には与えられなかった。
 
 
N)はぁぁぁ……。
 
 
もらったのど飴は
大切にポケットにしまって。
 
降り立った真冬のNY。
 
 
N)真っ暗ですね。さみぃ……
男)夜だからねーー
男)明日の昼はもう少しあったかいといいな。
N)うん。
 
 
時間ももう遅いから。
現地のコーディネーターと
マネージャーと三人で
BARで一杯だけ乾杯した。
 
 
会話に相槌を打ちながらも、
俺の頭の中はさっきの彼女のことばかり。
 
 
名前はなんていうんだろう。
何歳なんだろう。
彼氏はいるんだろうか。
 
キラキラと綺麗な瞳に、
スッと通った鼻筋。
 
可愛らしい耳たぶに、優しい口元。
 
 
ああ、どうしてこんなに。
 
 
N)はぁ……。
 
 
てゆーか。
名札見れば名前くらい
わかったんじゃねぇの?!
 
そのことに今更気付いて、また落胆。
 
 
あ〜〜〜〜〜
見れば良かった。
 
何やってんだろ、俺。
 
 
……って、え!??
 
 
N)!!!
 
 
嘘だろ!?
 
 
帰り道、タクシーに乗り込もうとしたら…
向かいの通りのダイナーに彼女を見つけた。
 
窓辺に座ってるあの姿は…
間違いなく、さっきの彼女だ…!!
 
 
N)…っ
 
 
こんな奇跡、あるんだ!
すげぇ!!
神様、ありがとう!!
 
俺は迷わずに道路を渡って、店に飛び込んだ。
 
 
綺麗な長い髪。
細い肩。
 
その後ろ姿だけで、抱きしめたくなるほどに
儚げで。
 
 
N)こんな時間に女の子が一人で危ないでしょ。
  ここアメリカだよ?
 
 
窓際の席。
彼女の隣に腰かければ…
 
キョトンとした瞳が、俺を見た。
 
まだ自分に話しかけられてるって
わかってなさそうで。
 
 
N)飛行機ではお世話になりました。
 
 
やっと言えたお礼。
 
俺の言葉に彼女は少し考えた顔をして、
 
 
女)ありがとうございました。
 
 
柔らかく微笑んだ。
 
 
N)思い出してないでしょ…w
女)…っ
 
 
バレちゃった、みたいな顔。
仕事の時とは違って
くるくる変わる表情が、可愛くて仕方ない。
 
 
N)これ。
 
 
ポケットから出した、レモン飴。
 
そして俺は、マスクを外した。
 
 
女)あ。
 
 
気付いたかなって思ったのに。
 
 
女)喉、大丈夫ですか?
  食べなかったんですか?
 
 
普通に返された返事に、
俺の顔を知らないんだなって…
 
少し残念な気持ちと、少し新鮮な気持ち。
 
 
N)勿体なかったから。
 
 
少し意味深にそう言ってみたのに…
 
 
女)のど飴なんてたくさんありますよw
 
 
ふふっと微笑む彼女。
 
意味が通じてないのが悔しくて、
 
 
N)君にもらったから特別なの。
 
 
そう付け加えた。
 
 
女)え…?
 
 
彼女は俺をじっと見つめた後、
照れたように顔を赤らめて。
 
 
ドクンッ…
 
 
その表情に、また射抜かれる。
 
 
ねぇ。
たった十数時間の間に
俺を何回ドキドキさせんの…?
 
 
N)こんな時間にこんな場所で一人で。
  危ないよ。
 
 
また振り出しに戻す会話。
 
 
女)なんだか…眠れなくて…
 
 
そう呟いた彼女は、儚げで。
 
ふと我に返ったのか、
 
 
女)このへんは…上の方ほど
  治安は悪くないので、大丈夫ですよ。
 
 
柔らかく微笑んで見せた。
 
 
その笑顔はとても美しかったけど…。
 
仕事の時のような笑顔じゃなくて、
俺はさっき一瞬見せた
儚げな表情の方が気になる。
 
 
N)名前、教えて…。
女)…っ
 
 
彼女の小指に、そっと自分の小指を重ねた。
 
 
N)……
女)……
 
 
重なる視線が、熱を持つ。
 
 
N)片岡直人。俺の名前。
女)…私は…〇〇です。
N)〇〇さん…。
〇)はい、片岡さん。
 
 
彼女の綺麗な声が、俺の名を呼ぶ。
なんて色っぽいんだろう。
 
 
N)俺のこと、知らない…?w
 
 
苦笑いで聞けば、首を傾げる彼女。
 
そうだよな。
顔を見てわからないんだから
名前を言ったって、わかるわけない。
 
 
N)なんでもない、忘れてw
 
 
そう言って話題を変えて、
当たり障りのない世間話をした。
 
 
時折笑ってくれる彼女の笑顔に見とれて。
 
ああ、ずっと見ていたい…
 
心からそう思った。
 
 
N)……
 
 
また彼女の小指に触れると、
赤く染まる頬。
 
 
もっと触れたい。
 
そんな思いを堪えて、小指にとどめた。
 
 
〇)私、そろそろ…
 
 
彼女が言いかけて、
 
 
N)送る!
 
 
慌てて立ち上がった。
 
 
〇)一人で大丈夫ですよ?
  ありがとうございます。
N)ダメ、心配だから。
〇)…っ
N)送る。
〇)タクシーだから大丈夫で…
N)送る。心配だから。
 
 
譲らない俺に、彼女はクスッと笑って。
 
 
〇)じゃあお願いします…。
  優しいんですね、片岡さん。
 
 
その笑顔が、あまりに可愛くて、
俺はまた射抜かれた。
 
ドキドキドキドキ、鳴り止まない心臓。
 
 
一緒に乗ったタクシー。
ビーチ沿いを走る車窓からNYの夜景を眺めて。
 
でも見とれているのは夜景じゃなくて、
彼女の横顔。
 
 
ずっと眺めていたいくらい、綺麗で。
 
 
〇)ありがとうございました、片岡さん。
 
 
車を降りた彼女に最後まで見とれながら
その後ろ姿を見送って。
 
走り出すタクシーの中で
連絡先を聞かなかったことに気付いて
また落胆。
 
俺、何やってんの?
 
 
帰りの便で会えるかもって期待したけど
そんな奇跡は、二度も起こらない。
 
 
それからというもの、
俺は飛行機に乗る度に彼女の姿を探した。
 
国内線より国際線の方が可能性あるかも?
どこだ?
どこにいる?
 
毎回必死で探して。
 
 
再会を願い続けて
それがようやく叶ったのは、3ヶ月後。
 
LA行きの便だった。
 
 
N)…っ
 
 
彼女を見つけた瞬間、息が止まって。
 
 
本当に?
本当に、本物?
 
あの日の彼女か?
 
 
嬉しすぎて自問自答するけど、
間違えるわけがない。
 
その美しい姿は彼女以外に俺は知らない。
 
 
俺を覚えてるだろうか。
なんて話しかけよう。
 
いろいろ作戦を考えて、閃いた。
 
 
N)ゴホッ、ゴホッ
 
 
わざと彼女に聞こえるように咳をする。
 
 
すると、目と目が合って。
それだけで俺の胸はときめいてしまう。
 
 
〇)お客様、よろしければ…
 
 
差し出された、あの日と同じ
レモンののど飴。
 
 
N)ありがとうございます。
  でもこれ、勿体なくて
  俺…食べれないんですよね…w
 
 
そう言ってマスクを外し、
彼女の瞳を見つめると…
 
 
〇)……あ、
 
 
ようやく思い出してくれた様子。
 
 
〇)たくさんあるので大丈夫ですよw
 
 
クスッと笑って、差し出された。
 
 
N)たくさんあっても食べれないよ。
  言ったでしょ、特別だって。
 
 
俺を意識してほしくて
小さく握った、彼女の小指。
 
でも。
 
 
彼女は一切動揺することもなく
にっこり笑って
俺の手のひらに飴を乗せて戻っていった。
 
 
N)…っ
 
 
その笑顔が、やっぱり眩しくて。
 
 
ああ。
もう間違いない。
 
この感情は…
この胸の高鳴りは…
 
 
N)////
 
 
間違いなく、恋だ。
 
俺は彼女が好きなんだ。
 
 
そう確信して、
今度こそ連絡先を聞き出そうとするけれど…
 
業務中の彼女にどう聞けばいいか
ためらわれて。
 
トイレに行くふりして話しかける?
手紙でも書いて渡そうか?
 
いろいろ考えたけど、結局出来ない
意気地なしな俺。
 
 
結局最後は
どうもありがとうございました、って…
最高の笑顔で見送られて、
俺はLAに降り立った。
 
 
大好きなLA。
 
 
一人、夜景を眺めながら思い出すのは
彼女と見た、NYの夜景。
 
綺麗だった。
夜景も、彼女の横顔も。
 
 
………ああ。
もう会えないんだろうか。
 
折角のチャンスだったのに
俺は何をしてるんだろう。
 
 
後悔しても、時間は戻らない。
 
連絡先、聞けば良かった…。
 
 
会いたい。
会いたい。
 
もう一度…。
 
 
切ない思いに、胸が締め付けられるようだ。
 
 
 
 
 
それからまた同じように
彼女との再会を願って、半年が経った。
 
その月日はあまりに長くて。
 
 
もしまた彼女と会えるなら
今度こそ連絡先を聞くし、
なんなら告白までしてしまうかもしれない。
 
それほどまでに彼女への想いは募っていた。
 
 
少ししか話したことがないのに
こんなのおかしいだろうか。
 
でも俺の直感が言ってるんだ。
彼女だ。
間違いない、って。
 
こんなに惹かれる女性は初めてなんだから。
 
 
 
 
女)ね、NAOTOくん、
  もう少し一緒にいたいな♡
 
 
仕事で一緒になったモデルと
軽く飯を食って。
 
そのまま夜の街を歩いていたら…
 
見覚えのある後ろ姿を見つけた。
 
 
N)!!!
 
 
儚げな細い肩。
 
間違いなく彼女だと確信した俺は
モデルの手を振りほどいた。
 
 
N)ごめん、今日もう解散で!
女)ええっ?!
 
 
俺はそのまま、彼女の元まで走った。
 
もう絶対無駄にしない。
このチャンスをものにする!
 
 
N)〇〇さん!!
 
 
人目も憚らずに呼んだ名前。
 
振り向いた彼女は、俺を見つけて不思議顔。
 
 
もしかして…忘れられてる…?
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
名前を呼ばれて振り向いたら
見覚えのある人。
 
ああ、そうだ、思い出した、「小指の人」。
 
 
彼に初めて会ったのはNYのダイナー。
機内で一緒だったみたいなんだけど
私は覚えてなくて。
 
 
名前を教えてって言われて、
私の小指にそっと触れた、彼の指。
 
色っぽい声で思わせぶりなことを言う
静かな横顔。
 
 
二度目に会ったのはLA行きの飛行機の中。
 
のど飴を渡したら
勿体なくて食べれないなんて言われて、
彼だって気付いた。
 
 
そして彼は、また思わせぶりなことを言って
私の小指を掴んだの。
 
 
ドキドキ音を立てる心臓に
気付かないフリをして。
営業スマイルをするのが、精一杯だった。
 
 
二度も触れられた小指が熱を持つように
なんだかその光景が、印象的で。
 
だから、「小指の人」。
名前はもう、覚えてない。
 
 
N)〇〇さん。
 
 
もう一度名前を呼ばれたけど
どうしても彼の名前が思い出せなくて。
 
 
N)俺のこと、覚えてない?
 
 
苦笑いする彼に、胸が痛んだ。
 
 
〇)ええと、ごめんなさい。
N)これ。
 
 
彼がポケットから出したのは、レモン飴。
 
ああ、違う。
レモン飴の人だっていうのは覚えてるのに。
 
彼は私が存在自体を覚えてないって
勘違いしたみたい。
 
 
〇)覚えてますよ。
N)ほんとかよ…w
 
 
彼はまた苦笑い。
 
 
N)何してんの?時間ある?
〇)ええと…
 
 
フライトから帰ってきて
同僚とご飯を食べて。
 
これから帰るところなんだけど…
 
 
N)付き合って。
 
 
耳元に唇を寄せて、囁かれた。
 
その低くて色っぽい声にドキッとする。
 
 
女)もうNAOTOく〜ん!
N)あ。
 
 
駆け寄ってきた女の子が、
彼の腕に抱きついた。
 
 
女)勝手に解散なんてひどーい!
N)ちょ、離して。
女)この人だぁれ?
N)いいから。
 
 
彼女かな?
 
 
〇)じゃあ私はこれで。
 
 
頭を下げて立ち去ろうとすると、
 
 
N)待ってって!
 
 
後ろから掴まれた左腕。
 
 
〇)…っ
 
 
彼に触れられたところがまた、熱を持つ。
 
 
離してくださいって言おうとしたけど
彼の名前を思い出せなくて…
 
 
〇)ええと…、、
N)?
〇)名前……、
N)やっぱ覚えてないんじゃん!
 
 
ひどいなーって笑う彼の横で
彼女が目を丸くした。
 
 
女)嘘でしょ?
  NAOTOくんのこと知らないの!?
〇)えっ…
N)いいから。もう帰ってよ。
女)やだ!
N)…っ
女)ねぇ、NAOTOくんのこと知らないの?
  それとも知らないふりして
  彼の気を引こうとしてんの?w
〇)…っ
 
 
何を言ってるんだろう。
 
 
女)NAOTOくんだよ?!
N)いいから!もう帰れって!
女)EXILEのNAOTOくん!!
〇)…っ
 
 
EXILE…?
グループ名は聞いた事ある。
 
うそ……、、
芸能人だったの…?
 
どうりで何かオーラがあると思った。
 
 
〇)あの……、、
  失礼します。
 
 
もう一度頭を下げて立ち去ろうとしたのに、
いきなり視界が90度回転して。
 
 
〇)!!??
 
 
男らしい、力強い腕。
たくましい胸板。
 
気付けば彼は、私を抱き上げたまま
走り出していた。
 
 
……嘘でしょ?
 
夜とはいえ、人目もあるのに。
 
こんな東京の街を
女を抱きながら走るなんて。
 
この人、何を考えてるの?
 
 
後ろではさっきの彼女が
彼の名を叫んでる声が聞こえたけど
 
しばらくすると、それも消えて。
 
 
N)はぁっ、はぁっ。
 
 
息を切らしながら
私を優しく下ろした彼は…
 
 
N)さらってきちゃった…w
 
 
そう言って、無邪気に笑った。
 
 
〇)////
 
 
ダメ。
ときめかないで。
 
そう自分に言い聞かせるけど…
 
 
N)ね、付き合って。
 
 
彼はまた耳元で色っぽく囁いて。
自然に、私の腰を抱き寄せる。
 
 
ドキン…
 
ドキン…
 
 
ダメ、って思う気持ちと反して
胸の鼓動は強くなるばかり。
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
自分のあまりの強引さに、
自分でも笑ってしまう。
 
こんなこと、したことないし。
 
 
適当に入ったバーで、
カウンターに並んで座った。
 
彼女の顔をちゃんと見て話したかったから
本当は向かい合う席が良かったけど…
そうなったら刺激が強すぎるかもだから。
 
今はこれでいい。
 
 
だって。
顔を見ずに隣に座っているだけで
こんなにも、心臓がうるさい。
 
 
緊張を誤魔化すように饒舌になる自分にも
苦笑い。
 
さっきの子は彼女なんかじゃないって
必死に否定して。
 
とにかく〇〇さんのことが知りたくて
話題を振りまくって、
質問もしまくった。
 
 
忘れられててすげぇショックだったけど
忘れられてたのは名前だけだってわかって
少しほっとして。
 
 
N)NAOTOって呼んで。
 
 
「片岡さん」「片岡さん」って繰り返す
彼女の小指に、そっと触れた。
 
 
返事をしないから…
 
 
N)NAOTOって呼んで、〇〇。
 
 
初めて下の名前で、呼んだ。
 
 
〇)どうして…ですか…。
N)理由、いる?
 
 
もっと仲良くなりたいから。
近付きたいから。
 
そんなの言わなくてもわかってよ。
 
 
N)敬語も禁止。
〇)…っ
N)俺の名前、忘れてた罰。
 
 
そう言えば彼女は小さく笑って、
 
「NAOTOくん」って…
初めてそう呼んでくれた。
 
 
N)////
 
 
自分で言わせたくせに、
一気に熱くなる身体。
 
だって…
彼女の甘い声が呼んだんだ。
俺の名前を。
 
 
N)もっかい…、呼んで…、///
 
 
テーブルの上。
そっと触れてる彼女の小指を
優しくノックする。
 
 
〇)……NAOTO…くん///
N)////
 
 
ああ、一気に…
甘い雰囲気が二人を包む。
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
ドキドキが、止まらない。
 
触れられてる小指が、火傷しそう。
 
 
N)〇〇…。
 
 
この人の声は、ずるい。
 
そんな甘く囁きかけるように、
私の名前を呼ばないで。
 
 
〇)私…、もう帰ります。
 
 
そう告げたら…
 
 
N)……まだ。
 
 
小指ごと、包み込むように…
彼の右手が私の左手を覆った。
 
 
N)帰したくない。
〇)////
 
 
こういうことを
こんなにためらいなくハッキリ言う人に、
初めて出会った気がする。
 
 
〇)……帰り…ます。
 
 
これ以上流されたくなくて
小さく呟いたら…
 
次に彼が求めてきたのは
「今」じゃなく「今度」だった。
 
 
必ずまた会ってくれるって約束して、って
言われて。
 
 
この瞳から少しでも早く逃げ出したくて
頷いたのに…
 
 
N)良かった。
 
 
彼がすごく嬉しそうに笑うから
胸の音は余計に大きくなった。
 
 
彼がポケットから財布を出した拍子に
レモン飴がころんと転がって…
 
 
〇)この飴、気に入ったんですか?
 
 
拾って手渡したら、
 
 
N)これ、あの時のだよ?
 
 
クスッと優しく、耳打ちされた。
 
 
N)言ったじゃん、特別だ、って。
〇)…っ
 
 
同じ飴をたまたま買ったんだと思った。
まさかあの時の飴だなんて思わなかった。
 
 
店を出た後、一人で帰ると言った私に
彼はあの日と同じように
心配だから送ると言い張って
タクシーでマンションまで送ってくれた。
 
 
〇)ありがとうございました…。
 
 
頭を下げて車を降りようとしたら…
キュッと掴まれた、小指。
 
 
N)忘れたの…?
〇)…っ
 
 
何を…?
 
と、聞き返せないのは
小指がまた、火傷しそうだから。
 
お願い、これ以上ドキドキさせないで。
 
 
N)………敬語、禁止だって言ったろ。
〇)…っ
N)おやすみ、〇〇。
〇)……おや…すみ、NAOTOくん…。
 
 
言った後で、顔が一気に熱くなった。
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
彼女と何度かデートを重ねて、
その度に「好き」が積もっていって。
 
ジリジリ距離を詰めていくのも楽しかったけど
いい加減、付き合いたくて。
 
 
何度目かのデートの帰り、
「付き合って」と言ったら
「ごめんなさい」と、断られた。
 
 
予想外の答えに、切り返しも思いつかず。
 
 
情けないことに
その日はいつも通り彼女を送り届けて、
一日が終わった。
 
 
俺の名前を甘く囁く、小さな唇。
 
俺を見つめて甘く潤む、綺麗な瞳。
 
俺が触れると甘く染まる、赤い頬。
 
 
同じ気持ちだと思ってたのに、どうして?
 
 
まぁ一度フラれたからって
それで終わり、っていうような
簡単な気持ちじゃない。
 
諦める気なんて毛頭ない。
 
 
N)好きだよ。
〇)…っ
 
 
懲りずに誘ったデートで、また伝えた。
 
 
N)俺はお前が好き。
 
 
俺の告白に、
困ったような表情を浮かべる彼女。
 
 
〇)言ったでしょ…?
  私…NAOTOくんとは…
N)なんで?
〇)…っ
 
 
俺のこと、どう思ってんの?
 
 
N)付き合えないって言いながら
  今日、来てくれたじゃん。
〇)……だって…、……会いたかった。
N)…っ
 
 
そう言って視線を上げた彼女は
潤んだ瞳で俺を見つめる。
 
 
N)好きだろ?俺のこと。
〇)……
 
 
もどかしくて、彼女の手を握った。
 
 
N)好きでもない奴に、会いたくなんの?
〇)……
 
 
YESが欲しくて問い詰める俺に
彼女は口を閉ざすばかり。
 
 
女)あれぇ?〇〇先輩??
〇)……あ、っ
女)…って、え!!??
  NAOTOさん!!??
 
 
俺を見て目を丸くした女の子は
〇〇の後輩らしい。
 
こんなところで偶然ですね、
どうしてNAOTOさんといるんですか?
私NAOTOさんの大ファンなんです、
 
と、
俺たちに話す隙を与えないくらい
興奮して話し続ける彼女。
 
 
女)付き合って…るんですか…?
 
 
その質問に〇〇が首を横に振ると、
 
 
女)ですよねぇ!
 
 
彼女は安心したように笑った。
 
 
女)私、ほんとに大ファンなんです!♡
  彼氏いません!
  良かったら連絡先交換しませんか?
N)……
 
 
空気も読まずに強引なこの子が嫌になったのか
それとも、〇〇との距離感が
もどかしかったからなのか、
 
 
N)付き合ってないけど、
  俺好きなんだよね、〇〇のこと。
  今口説いてるとこだから
  二人にしてくれる?
 
 
ハッキリそう言った。
 
 
女)えーー………、そうなんですか。
  でも先輩、芸能人とは
  もう付き合わないって言ってましたよね?
 
 
え…?
 
 
女)だって…
〇)私、帰るね、ごめんねNAOTOくん。
 
 
ガタッと席を立った〇〇を
引きとめようとした俺の腕を
彼女に掴まれた。
 
 
女)先輩はやめて、私にしませんか?♡
N)何言ってんの?離して。
女)だって…
N)離せって。
女)…っ
 
 
不満そうに俺を見る彼女の手を振り払った。
 
 
女)先輩、ひどい男と
  付き合ってたんですよぉー
N)…っ
女)NAOTOさんと同じ、芸能人。
N)……
女)夢を追いかけて、先輩の前から
  いなくなっちゃった人。
  だから先輩、芸能人はもうこりごりって。
N)……
女)だから私と…
 
 
俺は急いで店を飛び出して
〇〇の姿を探した。
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
私、何してるんだろう。
 
 
NAOTOくんの告白を断ったくせに
デートに誘われたらまたのこのこと
来てしまった。
 
最低な女だと思う。
 
 
でも…
 
 
「……だって…、……会いたかった。」
 
 
あの時勝手にこぼれたあの言葉が
私の本当の気持ち。
 
 
好きになっちゃダメ。
 
もう傷つきたくない。
 
 
そう思ってブレーキをかけても
それを上回るスピードと勢いで
私の心に入り込んでくる人。
 
 
名前を囁かれたら耳が熱くなって…
 
見つめられたら、涙が出そうで…
 
触れられたら、火傷しそうになる。
 
 
「好きだろ?俺のこと。」
 
 
………やめて。
これ以上、入ってこないで…お願い。
 
 
N)〇〇!!
 
 
どうして…。
 
 
N)待てよ、〇〇!!
 
 
強く引かれた左腕。
 
 
触れられたらまたそこから熱を持って
私はおかしくなってしまう。
 
 
〇)離して…、
N)勝手に帰んなよ。
〇)ごめんね、もう会わない。
N)は?
 
 
彼の目が見れない。
 
 
〇)さっきの子ね、ナナちゃんっていうの。
  すごく可愛くていい子だよ。
N)は?
〇)NAOTOくんのこと好きって言ってたし…
  私なんかやめてあの子と…
N)何言ってんの?
〇)…っ
 
 
最低だってわかってる。
こんなこと言う私、嫌いになってよ。
 
 
〇)ナナちゃんが彼女だったら
  きっと楽しいよ。
 
 
嫌な女。
こんな自分が、嫌い。
 
 
N)俺はお前が好き。
〇)…っ
N)なんで?
  俺が芸能人だからダメなの?
〇)…っ
 
 
なんで…
 
ナナちゃんが言ったのかな…
 
 
N)なんでそれが理由になんのか
  全然わかんない。
〇)……
N)こっち見ろよ、〇〇。
〇)…っ
 
 
そんな曇りのない瞳で、私を見ないで。
 
 
N)俺は自分の仕事にプライド持ってる。
  人生捧げるつもりでやってるから。
〇)…っ
 
 
大事な夢だからって言うんでしょ…?
だって…
あの人と同じ、目をしてる。
 
 
N)叶えたい夢がまだたくさんあるんだ。
〇)…っ
N)だから…
〇)だから…嫌なの…っ!
N)え……?
 
 
NAOTOくんの手を振り払った。
 
 
〇)夢があるなら
  夢を追いかければいいじゃない!
  私のことなんてほっといて!
N)そうじゃない!俺は…
〇)もう嫌なの!!
N)…っ
 
 
勝手にこぼれた涙が
過去の傷がまだ塞がってないことを
私に教える。
 
思い出したくない。
もう忘れたと思っていたかったのに。
 
 
〇)夢を叶えるんだって…
  いつも言ってた。
N)え……?
 
 
上手くいかないと…泣いて、暴れて、
私に当たった。
 
それでも支えたいって思った。
彼の夢を応援したかった。
 
でも…
仕事で忙しい私に耐えられなくなって
彼は他の女に、甘えた。
 
 
〇)彼は結局、私のことなんて見てなかった。
  自分のことばかりで…
  夢をひたすら追いかけて…
N)……
〇)私の前から、いなくなった。
N)…っ
 
 
もう嫌なの。こりごりなの。
 
 
〇)夢を口にする人なんて信じられない。
  私にはもう無理なの。
  ……さようなら。
 
 
ひどいことを言った。
 
もういいの、これで終わりだから。
 
 
さようなら、NAOTOくん。
さようなら、私の恋心。
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
全然納得いかない。
 
 
要は、夢を追いかけてる芸能人と
付き合ってたけど
そいつがろくでもない奴だったから
もう芸能人なんてこりごり、ってことだろ?
 
なんだよ、それ!!
 
 
そんなん、初めて食べたセロリが
不味かったから
もうトマトもピーマンも
野菜全部食べません!って
言ってるようなもんじゃん。
 
なんだよ、それ!!
 
 
『電話出て。』
 
『話したい。』
 
 
あの日から、何度連絡しても返事は来なくて。
 
 
『もう一度、話させて。』
 
『俺はお前が好き。絶対諦めない。』
 
 
返事がなくても、送り続けた気持ち。
 
 
これじゃあ埒があかないから
俺は彼女のマンションの前で
待ち伏せすることにした。
 
 
N)くっそ…さみぃ…。
 
 
風邪引いたらどうしてくれんだ。
今絶賛ツアー中なんだぞ。
 
なんて、好きで待ってるくせに
心の中で文句を言って。
 
 
それでも、会いたい。
彼女の顔が見たい。
 
会えない分、想いは大きくなるばかり。
 
 
……ドサッ。
 
 
N)……
 
 
聞こえた物音に顔を上げると、
彼女がその手からバッグを落として
俺を見て立ち尽くしていた。
 
 
N)何それ。
  びっくりして落としたの?
  ベタだねw
〇)…っ
 
 
動かない彼女の前まで行って
バッグを拾ってやった。
 
 
N)はい。
 
 
右手にはバッグ、左手には紙袋を持たせた。
 
 
〇)え……?
 
 
戸惑って俺を見上げる瞳に
夜の街灯が映り込んで、キラキラしてる。
 
 
N)好きだよ。
 
 
先にこぼれた言葉。
 
 
N)その紙袋に俺の夢が詰まってるから
  ちゃんと全部見て。
〇)…っ
N)全部見て、それでも俺が嫌なら
  振ればいいよ。
〇)……
N)前にも言ったけど、
  俺はこの仕事にプライド持ってる。
  夢を追いかけることは、幸せだよ。
〇)…っ
N)俺は夢を理由にして
  大事な女を泣かせたり傷つけたり…
  逃げたりなんて、絶対しない。
〇)…っ
N)夢を叶える幸せを、
  隣で一緒に、感じ合いたいから。
 
 
本当は抱きしめたい。
でも、必死で堪えた。
 
 
N)俺は逃げない。
  だからお前も、俺から逃げんな。
〇)…っ
 
 
冬の寒空の下。
 
震える冷たい頬に、手のひらで熱を与えて。
 
 
N)好きだよ。
 
 
最後にもう一度、そう伝えた。
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
NAOTOくんがくれたのは、彼の作品集。
 
 
全部見てって言われたから、全部見た。
 
 
ダンスにかける想い。
弱さを見せない漢気。
 
静かに燃えるような彼のプライドと情熱が、
そこには詰まっていた。
 
 
NAOTOくんはあの人とは違う。
 
わかっていたのに、怖くて。
臆病になって逃げ出した。
 
だって…
あんな思い、もう二度としたくなかったから。
 
 
だから…
どんどん惹かれる気持ちにも
気付かないフリをしてたのに…
 
 
「好きだろ?俺のこと。」
 
「俺から逃げんな。」
 
 
どうしてあんなに何度も真っ直ぐに
ぶつかってきてくれるんだろう。
 
 
『〇月〇日、絶対に空けといて。』
 
 
NAOTOくんから連絡が来たのは
2週間後だった。
 
 
その日は丁度オフの予定で…
前日の夜、フライトを終えて帰宅すると
また、マンションの前に彼の姿を見つけた。
 
 
〇)…っ
 
 
固まる私に、彼は白い息を吐きながら…
 
 
N)今日はバッグ落とさないんだw
 
 
クスッと笑って、立ち上がった。
 
 
〇)どうして…
  風邪引いたらどうするの?
 
 
こんな寒いところで…
いつから待ってたの?
 
 
N)見て…くれた…?
〇)……(こくん)
 
 
全部、見たよ。
何度も…見たよ。
 
 
N)〇〇…。
 
 
甘い声を耳元で聞いたと思ったら
次の瞬間、私はふわりと彼の腕の中にいた。
 
 
N)……好き。
〇)…っ
 
 
ドクン…
 
ドクン…
 
 
心臓が、早鐘のよう。
 
 
N)俺さ、……ダンスしかないんだよ…。
〇)……え…?
N)自信を持って、差し出せるもの。
〇)…っ
 
 
私を抱きしめる腕が少し震えてるのは…
この寒さのせい…?
 
それとも…
 
 
N)だから…どうしてもLIVE来て欲しくて…
  お前のスケジュール見たら
  明日一日しかチャンスないんだもん…w
〇)…っ
 
 
そっと離れた身体。
 
手渡されのは…
チケットと、手紙…?
 
 
N)明日、必ず来て、頼むから。
 
 
彼の真剣な眼差しが
私の心を射抜いた。
 
 
名残惜しそうに離れた指先、
 
私の小指に熱い熱を残して
彼はそのまま帰って行った。
 
 
〇)……
 
 
一人、部屋の中で…
彼の手紙を開けてみると
 
そこには私への真っ直ぐな想いが
丁寧に丁寧に、綴られていて。
 
 
私は彼と出会った日から今日までを
目を閉じて振り返ってみた。
 
 
今からちょうど一年前。
初めて会った真冬の寒い日。
 
雪をも溶かしてしまうような
とても熱い人だと思った。
 
 
ふと気付いたら、目に浮かぶのは涙。
 
 
明日も私は、泣くだろう。
彼の姿を見て、泣くだろう。
 
 
そう覚悟して、訪れた会場。
 
 
こんな広い場所で
こんなにも多くの人を
感動の渦に巻き込む彼の姿を目の当たりにして
私は震えた。
 
 
本当はもうとっくにわかってた。
 
彼のひたむきな情熱。
真っ直ぐな純粋さ。
 
彼の人間性がこれだけの人を惹きつける。
 
 
私の前から消えたあの人とNAOTOくんは
違う。
 
 
自分一人で勝手に夢を見て、追いかけて。
私に深い傷を残したあの人。
 
でもNAOTOくんは…
私にも一緒に、夢を見させてくれる人。
 
 
「夢を叶える幸せを、
 隣で一緒に、感じ合いたいから。」
 
 
そう言ってくれた、あの言葉が忘れられないの。
 
 
NAOTOくんの想いの深さを
十分すぎるほどに感じた。
 
 
ねぇ…もう一度…
信じてもいいの…?
 
 
もう一度だけ…素直になれるなら…
 
私は…
 
私は…
 
 
あなたのそばにいたい。
 
 
ああ、涙で滲んで…
あなたの眩しい姿が、ぼやけてしまう。
 
 
………好き。
 
 
私も好きです、NAOTOくん。
 
 
あなたのことが、大好きです。
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
彼女は来るだろうか。
 
LIVEが終わった後…
 
伝えておいた、この部屋番号。
 
 
頼むから来てくれと、願いながら
ホテルの部屋の中から窓の外を見上げた。
 
そこには珍しく、満天の星。
 
今日…こんなに晴れてたっけ。
 
 
こんなに星が見えるなら、
俺の願いだって叶いそうな気がする。
 
 
俺の願い…
 
俺の願いは…
 
 
____コンコン。
 
 
N)…っ
 
 
息を飲んで、開けたドア。
 
 
そこに立っていたのは
もう迷いなんてない澄んだ瞳で俺を見つめる
真っ直ぐな彼女だった。
 
 
〇)NAOTOくん……っ
N)〇〇…!
 
 
___バタン。
 
 
ドアが閉まるのと、ほぼ同時。
 
俺たちは、強く強く、抱きしめ合っていた。
 
 
もう、言葉なんていらない。
やっと通じた想い。
 
それを互いに確かめ合うように
夢中で唇を重ねた。
 
 
そのままもつれ合うように
服を脱がし合って…
倒れこんだ、ベッドの上。
 
 
〇)……好き。
 
 
たった一言、彼女のその言葉に
こみ上げてくるものがあって。
 
 
〇)泣かない…で…。
 
 
俺の頬に手を伸ばした彼女の目元にも
キラリ、涙が光っていた。
 
 
触れて、触れて、口付けて。
 
互いの体温をこれほどまでに、感じ合って。
 
 
眠ったのは、どちらが先だったか…
それもわからないほどに、
幸せなぬくもりに…、二人で溺れた。
 
 
 
……
 
 
 

 
 
 
N)…何…してんの…?
 
 
気付けば窓の外に広がる景色は
綺麗な夜景と星空から
 
ほんのり淡い朝焼けに変わっていた。
 
 
〇)想いを伝えてるの…。
N)……
 
 
絡ませた、小指と小指。
 
 
あんなに激しく、熱く、
身体中で愛を伝え合った後なのに
 
まだ足りないと言うように
こんな小さく指を絡ませてくる彼女が
なんだか愛おしくてたまらなくなる。
 
 
N)…手、繋ごうよ…。
〇)ううん…、小指がいいの。
 
 
そう言って彼女は嬉しそうに笑った。
 
 
〇)…なんだか…お腹空いちゃった…。
N)ああ、そうか…。
 
 
昨夜は何も食べずに
二人で何度も愛し合ったから。
 
 
N)何か頼もうか。
〇)うん…。
N)でもその前にさ、いいものあるよ。
〇)え…?
 
 
脱ぎ落としていた服を手繰り寄せて
そのポケットから、取り出した二つの飴。
 
 
〇)これ…やっぱり気に入ったの…?w
N)だーかーらーー
 
 
何回言わせんだよw
 
 
N)お前にもらったやつだってば。
〇)えっ…
N)2回、くれたろ。その2個。
〇)…っ
 
 
もったいなくて食べられなかった。
 
想いが叶ったら食べようって
願掛けみたいな部分もあって。
 
 
N)一緒に食べよ。
 
 
2個同時に自分の口に放り込んで…
そのまま彼女にキスをした。
 
口移しに一つだけ飴を分けて。
 
離れがたく舌を絡ませれば
甘く広がる、レモンの味。
 
 
〇)本当に…ずっと大事に持ってたの…?
N)そうだよ。
〇)……ねぇ。
N)ん…?
 
 
俺の腕の中。
彼女が柔らかく、微笑んだ。
 
 
〇)レモンの花言葉、知ってる?
N)え?レモンって花じゃないじゃん。
〇)うん、そうなんだけど…
  フルーツにも花言葉みたいなものが
  あるんだよ。
N)え、知らない。
 
 
初めて聞いたよ。
 
 
N)で?
〇)……
N)レモンの花言葉は何なの?
 
 
ふわりと微笑む彼女。
 
 
〇)……NAOTOくん。
N)は??
〇)NAOTOくんだよ。
N)……
 
 
意味がわからずに、可愛い顔をそっと覗けば
彼女はクスッと笑って俺の耳に唇を寄せた。
 
 
「誠実な愛」「情熱」
 
 
耳元で甘く溶けた、彼女の囁き。
 
 
〇)ね…?///
 
 
また嬉しそうに笑うその笑顔が愛しくて。
 
 
俺はめいっぱい、彼女を抱きしめた。
 
 
 
 
 
 
ーendー

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  1. ユキ より:

    マイコさんお久しぶりです臣君と隆二さんのライブ観に行けて良かったですね(* ´ ▽ ` *)私も10月に隆二さんのソロライブ楽しみです後はフードドリンクも楽しみです来月ウルトラMステスペシャルに三代目出ますね楽しみ(〃艸〃)

  2. HIROOMIYUKI より:

    こんばんわ!!
    なんなんですかー一途なNAOTOにやられました…
    short storyには勿体ないくらいの内容ですね

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