(46)溢れる涙 〜臣くんが好き〜

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臣)なんか…大丈夫だった?
  うちの母ちゃんw
♡)え?何が?
臣)なんか…ちょっと天然っつーか…
♡)全然だよー♡
  すっごく楽しかったー!
  お母さん大好きー♡♡
臣)それなら良かったw
 
 
♡がニッコリ笑ってくれて安心した。
 
 
♡)私までご馳走になっちゃってごめんね?
  ありがとう。ご馳走さまでした!!
臣)いや、全然。
♡)一足先に鍋食べちゃったねー♡
臣)ああ、ほんとだ!w
♡)さくちゃんに怒られちゃうw
臣)あはははw
 
 
それからタクシーが♡のマンションに着くと
俺は一緒に車を降りた。
 
 
♡)え…?
臣)んーーと…、明日休みでしょ?
♡)うん…。
臣)折角会えたし…
  まだちょっと話したい。
♡)え…///
臣)あ。
 
 
ふと空を見上げると
今日は晴れみたいで…
 
 
臣)すっげぇ半月!!
♡)え…?あ、ほんとだ!!
臣)めっちゃくっきり。
♡)わぁ~~!キレイだね!!
臣)今日は珍しく星も出てんなーー
♡)ほんとだー♡
  あ!屋上行くー?
臣)あ、いーね!
♡)わーい♪天体観測だ~♪
 
 
二人でエレベーターに乗って、
屋上まで上がった。
 
 
臣)おお、久々。
♡)私も花火以来だよー!
臣)え?
♡)臣くんと…観たでしょ?
臣)ああ!あれから来てないの?
♡)うん!!
  ああ、やっぱり気持ちいいなー♡
臣)うん。
 
 
夜風は少し冷たいけど、
天体観測にはもってこい。
 
 
♡はフェンスまで歩いていって
空を見上げた。
 
 
♡)半月~~♡
臣)……
 
 
なんか…
この場所に来ると…
 
花火もだけど…
手繋いだこと思い出すな…。
 
 
あん時…
めっちゃドキドキして
こいつの顔見れなかったんだよな…。
 
 
それを誤魔化すように…
必死に、花火を見上げて。
 
 
♡)へへ、綺麗だね♡
臣)……うん。
 
 
月の光が、♡の髪をキラキラ照らしてて
すげぇ綺麗。
 
 
♡)臣くんは…お母さん大好き?
臣)なんだよ急にw
♡)お母さんと話してたら…
  本当に臣くんのこと
  大好きなんだなぁって
  今日何回も思ったから♡
臣)ふーん…。
 
 
俺の話もしてたんだ…。
 
 
♡)臣くんすっごく愛されてるなぁって♡
臣)……//
♡)あ…、照れてるでしょ♡
臣)別に!
♡)あははは、可愛い~♡
臣)やーめろ//
 
 
♡がからかうように
俺の顔を覗いてきて。
 
 
臣)お前のお母さんは…どんな人なの?
♡)私のママー??
  は、ねぇ…
  臣くんのお母さんとは
  また全然タイプが違うかなぁ。
臣)そうなの?
♡)うん。
  明るいところは一緒だけどw
  私のママは…
  すっごくサバサバしてて
  なんでもズバーッ!!ってカンジ。
臣)ズバーっと何?w
  切り裂くの?w
♡)うーん、
  オブラートには包まないかもw
臣)あはははw
 
 
なんか意外だな。
♡とも全然違うタイプみたいで。
 
 
♡)でも裏表なくて好きだけどw
臣)そうなんだ。
♡)うん!カッコイイんだよー♡
臣)へ~~~
♡)えへへ♪
臣)お父さんは?
♡)え?
臣)どんな人なの?
♡)パパ…は…
臣)……
♡)……強くて、優しい人。
 
 
♡がにこっと笑った。
 
 
♡)いっつもいっぱいの愛情で
  私と瞬を…
  家族を…包んでくれてたの。
臣)……
♡)私がね、パパ大好き♡って言うと
  いっつも少し照れたように笑うの…
  その笑顔が大好きだった。
臣)……
 
 
少し、引っかかる。
 
 
♡)パパも…
  私の笑顔が大好きだよって
  いつも…言ってくれてたんだ。
臣)……
 
 
なんで…
過去形なんだ…?
 
 
♡)パパは…
臣)……
♡)私が8歳の時に…死んじゃったの。
  交通事故で…。
臣)え!!!
♡)……
臣)……
 
 
知らなかった…
 
…そう…だったんだ…
 
 
あ…
 
もしかして…
 
 
臣)…っ
 
 
だからこの間、泣いてたのか?
お父さんの夢見て…
 
 
臣)……交通事故…?
♡)うん。
  土砂降りの雨の日で…
  本当に雨がすごくて
  家は停電になっちゃって…
臣)……
♡)やっと電気が戻ったと思ったら
  電話が鳴って…
  病院からだったの。
臣)……
♡)車のブレーキが
  雨で利かなくなったみたいで…
臣)……
 
 
停電の…日…?
 
 
臣)だから…暗いのダメなの?
♡)……
臣)……
♡)わかんないけど…そうなのかな?
  真っ暗になると…
  すっごく怖くなるっていうか…
臣)……
 
 
めちゃめちゃ怯えてたもんな…
トラウマ…なのかな…。
 
 
♡)あはは、そんな顔しないで♡
臣)え?
♡)私ね、パパが大好きなの♡
  本当に大好きなの♡
臣)……
♡)会えなくなっちゃったけど…
  パパが大好きって気持ちも
  ずっと消えないし、
  パパがたくさん愛してくれた記憶も
  ちゃんと残ってるから…
臣)……
 
 
そう言って♡はまた、にこっと笑った。
 
 
臣)そっか。
♡)うん。
臣)ほんとにいいお父さんだったんだな。
♡)うんっ♡
 
 
♡の顔を見てたらわかる。
本当にたくさん、愛してもらったんだなって。
 
 
臣)寂しいな……
♡)……え?
臣)会えなくなってさ。
♡)え……
臣)……
♡)寂しく…ないよ?
臣)え…?
♡)寂しくないもん。
臣)……
 
 
♡の表情が変わった。
 
 
なんで…
 
 
臣)だって大好きだったんだろ?
  今も大好きなんだろ…?
♡)うん。
臣)だったらやっぱりさ…、
  会いたくなんじゃん。
♡)……
臣)そんな大好きな人に…
  会えなくなっちゃうのは
  やっぱり寂しいなって…
♡)寂しくないっ!!
臣)え…っ
 
 
なんで…さっきから…
 
 
臣)……
 
 
♡の様子がなんかおかしい。
 
 
臣)…どうした?
♡)私、寂しくなんかないもん!
臣)…っ
♡)パパがちゃんと愛してくれてたって
  わかってる…
  わかってるもんっ!
臣)うん。
♡)だから…っ
臣)愛してくれてた記憶があるのと
  寂しくないかどうかは別だろ?
♡)え…?
臣)……
♡)……
 
 
俺の言葉に、
♡は少し止まって下を向いた。
 
 
♡)だって…
臣)……
♡)寂しいなんて…思ったら…
臣)……
♡)悲しく…なっちゃうでしょ…
臣)…うん。
 
 
♡が…ポツリポツリ、話す。
 
 
♡)パパは…私にはいつも
  笑顔でいてほしいって…
  そう言ってたの…。
臣)うん…。
♡)大好きな家族に会えなくなって
  一番ツライのは…パパでしょ?
臣)……
♡)それなのに…
  私が寂しいなんて言ったら…
  パパが…悲しむもん…っ
臣)……
♡)だから…
 
 
♡は唇を固く結んだ。
 
必死に涙を堪えてる顔…。
 
 
臣)……
 
 
お父さんに会えなくなって…
自分だってツライはずなのに…
 
 
そんな自分のことよりも
お父さんの気持ちを先に考えて…
 
寂しいって口に出さず
無理してきたんだろうか…。
 
 
臣)大好きな家族にさ…
♡)……
臣)会えなくなって…
  お父さんももちろんツライと思うし…
  お前にはいつも笑顔でいてほしいって
  きっと今でも思ってると思う。
♡)……
臣)でも…
 
 
でも、きっと…。
 
 
臣)ツライ時とか悲しい時にまで
  無理に我慢して笑っててほしいとは
  思ってないんじゃないかな…
♡)…どう…して?
臣)……
♡)……
臣)大事な娘が…泣きそうな時に…
♡)……
臣)誰かが側にいてくれますように…
  側で支えてやってくれますように…
  泣ける場所が…
  ちゃんとありますようにって…
♡)……
臣)俺ならそう思うと思うから。
♡)…っ
 
 
自分が側にいてやれない分、
きっとそう思う。
 
 
臣)自分の心に無理しないで
  泣きたい時は泣いて…
  笑う時は心から笑って…
♡)……
臣)そんな風に
  自分の気持ちに素直になれる環境で
  幸せでいてほしいって…
  そう思う。
♡)…っ
臣)俺がお父さんだったら…。
♡)…っ
 
 
俺がそう言うと、
♡の目にはみるみる涙が浮かんで…
 
 
♡)…じゃあ…
  ………泣いても…いいの…?
臣)え…?
♡)本当は…寂しいって…
臣)……
 
 
それはきっと、
♡がずっと我慢してきた…本当の気持ち。
 
 
♡)パパに会いたいって…
  思っても…いいの?
臣)うん。当たり前じゃん。
♡)…パパは…悲しまない?
臣)自分に会いたいって思ってくれて…
  なんで悲しむんだよ。
♡)…っ
臣)お父さんだって…
  お前に会いたいって思ってるよ。
 
 
俺がそう言うと、
♡の大きな瞳から…
一気に涙がこぼれ落ちた。
 
 
♡)ほん…とは…
  ずっと…寂しかったっ…
臣)うん。
♡)パパに会いたくて…っ
  会いたく…て…
臣)うん。
♡)もう会えないって…
  わかって…るのに…っ
臣)…っ
 
 
あまりにポロポロと涙をこぼすから、
俺は思わず♡を抱きしめた。
 
 
♡)パパは…あんなに愛してくれたのに…
  寂しいなんて…思って
  ごめん…なさっ…い、…っ
臣)うん。
♡)ごめ…なさ…、っ…
臣)謝ることじゃねーよ。
♡)…っ、…ふぇ…っ…
臣)愛されてたって…
  その愛情をちゃんと感じてたからこそ
  失って寂しいって思うんだろ?
♡)…う…、…うっ…
臣)寂しいって思ったからって
  その愛情が消えるわけじゃない。
♡)うううっ…っ…
臣)だからもう…無理すんな…。
♡)わぁぁぁんっ…
 
 
♡は俺にぎゅっとしがみついて、
思いきり泣いた。
 
 
臣)…っ
 
 
今までずっと我慢してた気持ちが
一気に溢れたみたいに…
ひとしきり泣いて。
 
 
俺は…
 
 
そんな♡を抱きしめたまま、
ずっと背中をトントンとたたいてた。
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
どうして…
 
どうしてだろう…
 
 
臣くんの言葉が…
スーッと胸の中に染み込んできた。
 
 
 
大好きなパパが急に消えてしまったあの夜。
 
 
私は布団の中で声を押し殺しながら
一人で涙が枯れるほど泣いた。
 
 
でも…
パパが死んじゃったことで
誰かの前で泣いたりはしなかった。
 
 
ママや瞬の前でも…ハルくんの前でも
絶対に泣かなかった。
 
自分一人の時にしか。
 
 
パパを最後見送る時だって…
絶対…
絶対泣かないって決めて…
 
 
私が泣いたりしたら…
パパが悲しむから…
 
私はいつも笑ってるんだって…
 
 
きっとパパが空の上から見てるからって…
 
ずっとそう思って生きてきたのに。
 
 
 
どうして…
 
 
どうして臣くんの前だと
こんなに涙が出るんだろう…
 
 
♡)ふぇ…っ…
臣)……
♡)私…無理…してたの?
  ずっと…
臣)無理っていうよりは…
  頑張ってたんだろ?
  お父さんのために。
♡)……っ
 
 
パパのために…?
 
 
そうだ。
 
私は…パパに笑っていてほしくて…
 
 
臣)お前はほんと…
  自分のことより人のことを
  先に考えるんだな。
♡)……
臣)強くて優しい。
  お前のいいところだと思う。
♡)…っ
 
 
パパが言ってた。
強くて優しい子になるんだよって。
 
 
私…
 
ちゃんとなれてるの…?
 
 
臣)でも…たまにはちゃんと…
  自分の気持ちも大事にしろ。
 
 
自分の…気持ち…?
 
 
♡)……
 
 
臣くんが…
 
ずっと優しく…
背中をトントンってしてくれてて…
 
このぬくもり…覚えてる。
 
 
あ…そうだ…
 
この間…パパの夢を見た時…
 
夢の中でパパがずっと
背中をトントンって……
 
 
♡)……っ
 
 
え……
 
あ……っ
 
 
あれ…もしかして…
 
臣くんだったの…?
 
 
♡)…っ
 
 
私は臣くんの顔を見上げた。
 
 
臣)どうした?
♡)前も…
  トントンって…してくれた?
臣)え…?
♡)……
臣)…っ
♡)……
臣)…知らね…///
 
 
臣くんはそう言ってまた私を抱きしめた。
 
 
♡)……
 
 
私がパパの夢を見てる間…
きっと…
 
こうやって優しくぎゅってしながら
ずっとトントンって
してくれてたんだ…。
 
 
臣くん……
 
 
 
そんな臣くんの優しさに
心があたたかくなるのを感じた。
 
 
 
臣くん…
 
ありがとう。
 
 
 
私…きっと…ほんとはずっと
気付いてたのかもしれない。
 
 
臣くんだけは他の人と違うって
最初からわかってた。
 
 
でも…
 
そんな初めての感覚に戸惑って…
自分でもよくわからなくて…
 
 
でも…
 
側にいると嬉しくて…
心があったかくなって…
 
気付いたら素直な気持ちになれてたり…
 
 
臣くんのために出来ること
何かないのかなって思ったり…
 
もっと臣くんに笑っててほしいって
そう思ったり…
 
 
♡)……
 
 
その人の幸せを願う気持ちが
「好き」って気持ちだって、
お母さんが教えてくれた。
 
 
私…、
 
臣くんのことが好きなんだ。
 
 
ほんとはずっと…
好きだったのかな。
 
 
 
臣くん……
 
…好き。
 
 
 
臣くんが…好き。
 
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
 
泣いてる♡をずっと抱きしめてると
♡がギュッと俺を抱きしめ返してきた。
 
 
臣)……
 
 
俺はそのままずっと、
♡の背中をゆっくり優しくたたいて…
 
 
なんか…
色々思い返してみると
全てが繋がる気がした。
 
 
さくちゃんが海で話してくれた話も…
 
自分の幸せを願ってくれる大切な人のために
幸せになる義務があるって…
 
あれ…きっと
一番はお父さんのことだよな…。
 
 
臣)……
 
 
大切な人にいつ会えなくなるか
わからないから…
 
自分の大事な気持ちは
いつでも素直に伝えたいって言ってたのも…
 
突然会えなくなる痛みを知ってるから。
 
 
 
♡がいつも一生懸命なのは
いつも元気に笑ってるのは
 
お父さんの愛情が…
お父さんへの愛情が…
あるからなのかな…。
 
 
きっと…
 
本当に愛されてたんだろうな。
 
 
臣)……
 
 
大切な人を突然失って
絶対寂しくて辛かったはずなのに…
 
こんな小さな身体で…
ずっと頑張ってきたんだ。
 
 
そんなこと感じさせないくらい
いつも笑顔で…
 
 
臣)…っ
 
 
そう思ったらなんか
胸が締めつけられるようだった。
 
 
守ってやりたい。
ずっと側にいてやりたい。
 
 
そう思った。
 
 
♡)…臣く…ん…
臣)……
♡)あり…がとう…。
 
 
♡は俺からそっと離れると
にこっと笑って、涙を拭いた。
 
 
♡)えへへ//
  いっぱい泣いちゃった!!
臣)うん…。
♡)あ~~スッキリした!!
臣)……
♡)パパがいつも言ってたの。
臣)……
♡)私や瞬や…家族みんな…
  いつも幸せでいてほしいって。
臣)うん…。
♡)だから…
  自分の大好きな大切な人が
  そう願っててくれるなら…
  私はちゃんと幸せにならなきゃ!!
臣)……
♡)それに…パパにも
  幸せでいてほしいから…
臣)……
♡)私の笑顔がパパの幸せだって
  そう言ってくれてたの。
臣)……
♡)だから…いっぱい笑って
  ちゃんと幸せになる♡
 
 
そう言って笑って見せた♡の瞳は
キラキラ滲んで、本当に綺麗だった。
 
 
♡)だから…パパ、見ててね♡
 
 
♡はフェンスにつかまりながら
空を見上げてそう言った。
 
 
♡)でも…それでも…
  それでもやっぱりたまに…
  パパに会いたくなっちゃったら…
臣)……
♡)その時は…また…
  泣いちゃうかもしれないけど…
臣)……
♡)…いーい?
 
 
♡が俺の方を振り向いてそう言った。
 
 
臣)いいよ…?
 
 
もう我慢しなくていい。
 
俺が側にいるから。
 
 
泣きたい時は
俺がいつでもお前を抱きしめるから。
 
 
好きなだけ、泣いていいよ…。
 
 
臣)……
 
 
♡の頭にそっと手を乗せて、
柔らかい髪を撫でると…
 
 
♡)えへへ…///
 
 
♡がはにかんだように笑った。
 
 
♡)臣くんありがとう♡♡
臣)え…?
 
♡)臣くん大好き♡♡
臣)え…っ
 
♡)大好きだよ♡♡
臣)………////
  あ…りがと…///
 
 
 
 
 
ーendー

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