(22)オレンジ色の夕陽

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さ)なんかまたお腹空いたーー!
臣)え、うっそ?!
賢)ガチでバレーやったしな。
  俺も空いた。
臣)あははは!マジかい!w
さ)よっし、第二弾やろ!!
賢)おう!!
♡)私…なんか眠くなってきちゃった…
臣)え?
 
 
振り向くと、♡はもうウトウト顔。
 
 
さ)あ、これ寝るね…
賢)な。
さ)めっちゃこっくりこっくりしてるし…
臣)危ねぇ!落ちる!
♡)…わ…ごめん…
 
 
椅子から落ちそうになった♡を
慌てて左腕で止めた。
 
 
さ)寝るならそっちにしなー
♡)うん…
 
 
さくちゃんにそう言われて
♡は大きなビーチタオルを全身にかけて
ビーチチェアーに横になった。
 
 
賢)おい!なんか水死体みたいだぞw
♡)だって…焼けちゃうもん…
さ)あはははw
♡)……
賢)…あ、寝たな。
さ)寝たね。
臣)……
 
 
もう寝たの??
こいつ…のび太なのか??
 
 
賢)ほんとよく寝るよなーー
臣)え?いっつもなの??
さ)うーん。
  アウトドアとかで外で遊んでると
  大体途中で寝るか、帰り爆睡か…
賢)アウトドアに限んなくない?
  飲み会とかでも二次会になったら
  大体寝てない?
さ)あ、そっか!寝てる!
賢)ほんで起きたらめっちゃ体力回復してて
  元気になってんの。
さ)そうそうw
臣)何それ、子供じゃん!!w
さ)そうだよーw
 
 
そっか…
だからこないだも寝てたんだ…
 
 
さ)ねーねー
  てゆーかこないだデートしたんでしょ?
賢)あ、そーだ!!
  さっき言ってたやつ!!
臣)あーー…うん。
さ)え、え、臣くんが誘ったの?
臣)そう。
さ)ひゃ~~♪
賢)手応えどうでしたー?
臣)うーん…わかんねぇけど
  でも楽しかったよ。
賢)ふーーん♪
さ)ふーーん♪
臣)なんだよっ//
さ)でも…
  ♡さっき、臣くんカッコイイって
  言ってたし…
臣)え、うそっ!!
 
 
何それ何それ!!//
 
 
さ)いい方向に進んでるんじゃなーい?
賢)つーか普通に付き合ってるように
  見えるけどなw
さ)だよねw
臣)……//
賢)てゆーかさ、海ん中で
  抱きつかれてなかった?
臣)あ、うん。
さ)あれびっくりしちゃったw
臣)見てたんかい!w
賢)そりゃー見えますわ。
臣)すげーしがみつかれて焦った。
賢)いや~~焦るっつーかさ、
  水着でしょ?生肌でしょ?
臣)…うん。
賢)俺…好きな子に
  あんな抱きつかれたら
  絶対勃っちゃうけど。
さ)あははははw
臣)いやー…ぶっちゃけちょっと…
  つーか、かなりヤバかった///
賢)でしょ?!!
さ)あははw
  男ってほんとにww
賢)いや、こればかりは
  どうしようもないっすから。
臣)そうです。
さ)あはははw
臣)つーか…聞こえてたらどーしよ…
さ)いや、寝てるでしょw
臣)……
 
 
俺は♡の隣に座って
ビーチタオルを少しめくってみた。
 
 
♡)ん……
 
 
あ、良かった。寝てる。
 
 
臣)……
 
♡)んん……
 
 
つーか…
この声ヤバいんだけど///
なんか…エロい…///
 
 
♡はただ寝返りを打っただけなのに…
 
あ~~もうっ!俺の頭!!!
 
 
臣)は~~~~
さ)おかえりー
賢)どうしたw
臣)いや…なんでもねぇ。
賢)ははっ、何それw
臣)……
 
 
俺は今日、煩悩の塊なんです…。
 
 
さ)ねぇねぇ臣くんはさ、
  ♡のどこが好きなの?
臣)え!!何いきなり!!
さ)一目惚れ?
臣)…っ
賢)一目惚れとは、ちょっと違いそう…
さ)え?そうなの?
臣)うーん、違うかな…。
  まぁ最初から可愛いなとは思ったけど。
さ)ふんふん。
臣)なんか…わかんね。
  上手く言葉で説明できねぇけど…
  直感っつーか…
  なんか本能で惹かれる。
さ)……ふーん、そうなんだ//
臣)さくちゃんは?
さ)え??
臣)あいつのどこが好き?
さ)え、あたし??w
臣)うん、聞いてみたいw
賢)聞いてみたい♡
さ)ちょっと!賢司までなに!w
賢)あはははw
さ)え~~なんだろ…
  なんか照れるな…//
 
 
そう言いながら
火バサミで炭を転がすさくちゃん。
 
 
さ)なんかさ…、♡って…
  とにかくいい子じゃん?
臣)うん。
さ)すごく真っ直ぐだし、正義感強いし…
  なのに鈍臭くておっちょこちょいで…
  見てて飽きないっていうか…
臣)あはははw
賢)うん、確かに飽きねーなw
さ)……あとは…、…学生時代にね?
臣)うん。
さ)…あたし…不倫してて…
臣)え!!
賢)……
 
 
そうだったんだ。
知らなかった。
 
 
さ)すっごい好きってわけじゃ
  なかったんだけど…
  なんか抜け出せなくて…
臣)……
さ)相手もあたしのことなんて
  別に愛してるわけじゃ
  なかったと思うんだけど…
  でも…このままでもいいかなって
  ちゃんと向き合うのが面倒で…
  なぁなぁにしてたの。
臣)…うん。
さ)そしたら♡がね、
  さくちゃんは今ちゃんと幸せなの?
  って。
臣)……
 
 
さくちゃんの目線は
優しく♡に移動した。
 
 
さ)不倫はよくないとか
  そういう風に言うつもりじゃないし
  さくちゃんが幸せならそれでいいけど
  本当に幸せ?って聞かれて。
臣)うん。
さ)幸せなわけないし…
  でも別に幸せになりたいとも
  思ってるわけじゃないから
  あたしはこれでいいんだって言ったの。
  そしたら…、♡が泣き出しちゃって。
臣)え……
さ)自分のために
  幸せになろうと思えないの?って。
賢)……
さ)あたしがうんって言ったら
  でもさくちゃんには
  大事な人がいるでしょ?
  って聞かれたの。
  家族とか友達とか…って。
臣)……
さ)大事な人は勿論いるけど…って言ったら
  さくちゃんが大事に思ってる人たちも
  さくちゃんのことを大事に思ってて、
  その人たちはみんな
  さくちゃんに幸せでいてほしいって
  思ってるんだよ!!
  って言われたの。
臣)…うん。
さ)自分のために幸せになりたいって
  思えなくても
  自分を想ってくれる人たちのために
  自分が幸せになれる道を選ぼうって
  そう思えない?って聞かれて…。
臣)……
 
 
さくちゃんはまたゆっくりと
パチパチ燃えてる炭に視線を落とした。
 
 
さ)そんなこと考えもしなかったけど
  この子はそういう風に考えるんだ…
  って思って…。
臣)……
さ)私はさくちゃんに
  心から笑っててほしいし
  幸せでいてほしいよ?って言われたら…
  なんか感動して、
  あたしまで泣いちゃったのw
賢)なんか…あいつらしいなw
臣)……
さ)こんな…
  不倫して自暴自棄になってる
  あたしなんかのために
  こんなキレイな涙、
  流してくれるんだ…って思って…
臣)……
さ)それに…♡にそう言われて、
  考えてみたの。
  大好きなお母さんとかお父さんとか…
  この人たちは私が幸せじゃなかったら
  きっと悲しむよな…って。
  そしたら…やっぱり私は
  投げやりになってないで
  この人たちのためにも
  ちゃんと幸せになる努力を
  しなきゃいけないんだって。
臣)うん…。
さ)♡がそれに気付かせてくれたんだ。
賢)なるほど……
さ)♡のことはずっと大好きだったけど
  それからはなんか…
  どこかで尊敬してる気持ちもあるの。
  ♡の考え方とか…価値観とか…
賢)そうなんだ…
さ)うんw
臣)……
 
 
初めて聞いた、二人の昔の話。
 
 
臣)誰かのために幸せになる、…か…。
さ)……
 
 
そうだよな…
 
 
臣)…誰だって絶対…
  想ってくれる人や心配してくれる人が
  いるはずだもんな…
賢)うん。
 
 
昔を懐かしむように
そう語ってくれたさくちゃんは
ニコッと笑って…
 
 
さ)だから私も不倫なんかやめて
  ちゃんと幸せになれる恋を
  しようって思って…
  そしたら今の彼氏に出会えたの♡♡
 
 
幸せそうに、そう言った。
 
 
賢)そんでそんなラブラブになったわけねー?
さ)えへへー♡♡そうだよー♡♡
臣)……
さ)…って、なんかごめんね?
  長々と語っちゃって//
臣)いや、全然…
  話してくれてありがと。
 
 
聞けて、良かった。
 
 
さ)だから…あたし…
  本当に…♡のこと大好きだから…
臣)……
さ)もし付き合うんだったら、
  絶対絶対大事にしてね?
臣)……っ
賢)うん。それは俺からも。
臣)え?
賢)あんな純粋な奴あんまいないからw
  …大事にしてやれよ?
臣)……
さ)ってなんかもう、
  付き合う前提みたいになってるけど!w
賢)だな!あはははw
  広臣フラれるかもしんねぇのにな!w
さ)あはははw
臣)おいっ!笑うとこじゃねーし!!w
賢)あはははw
臣)絶対付き合うし!
 
 
俺は思わずそう言った。
 
 
賢)ふーん?
さ)自信あんの?w
臣)自信なんて…ねぇけど…
  でも、絶対振り向かせる。
さ)ふーんw
賢)頑張ってねー?w
さ)頑張ってねー♡
臣)……///
 
 
頑張るし!!!
 
 
臣)……つーか…、全然起きねーな?
賢)だな。
 
 
俺がもう一回、ビーチタオルをめくってみると
♡がうっすら目を開けた。
 
 
臣)!!!
 
 
うそっ、起きてた?!!
 
 
♡)んーーー…
臣)お、おはよ…
♡)ん~~
臣)起きてる?
♡)んーーー
臣)……
 
 
なんかよくわかんねぇけど
全然起きてねーな。
 
良かった…、焦った///
 
 
臣)まだ寝んの?
♡)んー…起きるー…
臣)起きろーー
♡)うん…
 
 
♡はむにゃむにゃと起き上がって
思いきり伸びをすると、
目をパッチリ開いた。
 
 
♡)寝たぁ!!!
臣)うん、寝てた。
♡)スッキリしたぁ!!!
臣)良かったなw
♡)うんっ!!
  あ!!またBBQしてるー!!
さ)第二弾だよーw
♡)私も食べるー♡
さ)じゃあおいでーw
♡)うんっ!!
臣)ぷっ…w
 
 
起きたらほんとに元気になってるしw
  
 
 
……
 
 

 
 
 
4人でBBQを続けてると、
暑い陽射しもだんだん落ち着いてきて…
  
空の色が少しずつ変わり始めた。
 
 
賢)陽が沈んできたなー
さ)ほんとだねー
♡)わー♡ 夕陽見れるかな?
賢)あ、見たいんなら
  あっち行くとすげぇキレイに見れんぞ。
♡)え?あっちって??
賢)ここ真っ直ぐ行って、
  少し足場悪いけど岩場通り過ぎると
  水平線もキレイに見えるし
  サンセットの穴場だねー
♡)えー!!すごーい♡♡
  なんで賢司くん知ってるのー?
賢)俺海大好きだから何回も来てるし♪
♡)わぁわぁ♡
  じゃあ後でみんなで見に行こうよ~♡
賢)う~~ん…
  俺は見飽きてっからいーや。
♡)えーー!!
  やだぁっ!!行こうよぉ!!
賢)ってお前は子供かw
さ)あたしもまだ食べてたいからいーや。
♡)え~〜!さくちゃんまで!!
  絶対キレイだよ??
さ)うーん、あんま興味ない。
♡)えーーーー!!!
臣)……
♡)臣くん…は?
臣)見に行く?
♡)いいのっ??
  うんっ!!行くーー♡♡
 
 
俺の返事に♡は目を輝かせた。
 
 
賢)陽、落ち出したら速いから
  もう行っとけば?
♡)じゃあ行ってくるー♡
  臣くん行こーっ♡♡
臣)うん。
 
 
まぁ…この二人が
行かないって言った理由は
想像つくけど…
 
 
賢さ)……ww
 
 
やっぱりニヤニヤしてるし…//
 
 
♡)臣くん早くーー♡♡
臣)はいはいw
 
 
♡と二人で砂浜を歩いてると
徐々に陽が落ちてきて…
 
昼間は青空にクッキリと浮かんでた白い雲も
ゆっくり溶けていくみたいだ。
 
 
♡)あ…ここから岩場なんだ…
臣)ほんとだ。…ん。
♡)え?
臣)ん。
 
 
俺が右手を出すと、
♡は一瞬止まって…
でもちゃんと俺の手を握ってくれた。
 
 
そのまま手を繋ぎながら、
二人で足場の悪い道を歩く。
 
 
臣)……
 
 
さっきも…少し繋いだけど…
なんか…緊張するな…///
 
 
つーか…
手ぇちっせーー
 
 
とくん…
 
とくん…
 
 
ずっと…繋いでたいな…
離したくない…
 
 
臣)……
 
 
繋いでる手から…
少しでも伝わればいいのに…
 
 

好きだ。
 
 
好きだ。
 
 
 
俺がゆっくり振り返ると、
♡はきょとんとした顔で
俺を見上げてきた。
 
 
手…繋いでんのに…
ドキドキしてんの俺だけなのかな?
 
 
臣)……
♡)…臣くん??
臣)……
♡)あっ!!あそこだー!!
臣)え?
 
 
岩場を抜けると、平らな砂浜に戻って
賢司が言ってた通り
水平線がキレイに広がってる。
 
 
♡は俺の手を離して、
嬉しそうに走り出した。
 
 
♡)わぁ~~♡
  すっごくキレイだね♡♡
臣)うん。
♡)賢司くんに感謝ーー♡♡
臣)だなw
♡)うん!!
  臣くんも一緒に来てくれて
  ありがとう♡♡
臣)ん。
 
 
二人で空を見上げてると…
 
静かに陽が落ちていって、
空がオレンジ色に染まっていく。
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
♡)わぁ……
 
 
少しずつ色付いていく空が綺麗で
ぽーっと見惚れてると…
 
 
臣)あっぶね!!
 
 
砂に足を取られて
後ろにひっくり返りそうになって、
また臣くんが支えてくれた。
 
 
♡)わっ!ごめん!!
臣)バッカ!危ねぇから気をつけろ!
♡)はい…っ
 
 
強めに言われて、ビクッとしたけど…
私を支えてくれてる腕は、優しくて。
 
 
♡)……
 
 
臣くんはいつもそう。
 
 
♡)えへへ♡
臣)…なに?
♡)んー?…なんか…
  臣くんって優しいなって思って…。
臣)え?口悪くない?
♡)あははw
  うん、悪いけど、でも優しいよ。
臣)……
♡)いつも周りを見てくれてるし…
 
 
わかりやすい優しさじゃなくても…
ぶっきらぼうでも…
本当はすごく優しい人だと思う。
 
 
臣)……
♡)……
 
 
ほら、瞳はこんなに優しい。
 
 
臣くんて…
なんかパパに似てるなぁ。
 
 
♡)臣くんのそういうところ…
  大好きだよ♡♡
臣)え…っ
♡)えへへ♡
臣)……///
 
 
臣くんが優しいって、
私はもう、いっぱいいっぱい知ってるもん♡
 
 
臣)なんか…お前は…
♡)ん?
臣)誰にでも素直に大好きって言うよな?
♡)え?
臣)賢司とかさくちゃんとかさ。
♡)あ…言ってるかな?
臣)うん。
♡)……
 
 
臣くんはふっと笑って、私を見た。
 
 
臣)なんでそんな素直に…
  大好きって出てくんの?
♡)え…っ、なんで…?…だろう…
臣)……
 
 
私を見つめる臣くんの瞳は
周りと同じ、オレンジ色。
 
 
♡)あんまり自分で…
  意識はしてないけど…でも…
臣)……
♡)好きって思った時に
  好きって伝えないと…
  いつ伝えられなくなっちゃうか
  わからないでしょ?
臣)え…?
♡)……
 
 
どんなに大好きって思っても…
届かなくなる。
伝えられない時が来る。
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
♡)大切な人に…
  いつ会えなくなっちゃうか
  わからないから…
  だから…
臣)……
♡)「好き」とか…自分の大事な気持ちは
  いつでもちゃんと素直に伝えたい。
臣)……
♡)……
臣)そっか…
♡)うん。
 
 
そう言った♡の瞳は、力強くて…
…でもどこか、切なくて。
 
 
臣)……
 
 
なんで…
そんな風に考えるんだろう…
 
 
その横顔を見つめていると
俺の視線に気付いた♡が、にこっと笑った。
 
 
♡)見て、もう半分沈んだよーー!
臣)ほんとだ。
♡)空の色がほんとにキレイ…
臣)な。
♡)なんか…地球ってすごいなー♡
臣)いきなり観点が壮大だなw
♡)えーーw だって…
  こーゆーキレイな自然とかに触れると
  そう思わない? 
臣)うん、確かに。
♡)えーい♪
 
 
♡が無邪気に、砂浜に寝転がった。
 
 
臣)砂つくぞ…w
♡)いいもーんw 気持ちいーい♡
臣)じゃあ俺も。
♡)あはははw
 
 
二人で砂浜に寝転がって、空を見上げた。
 
 
臣)あ、もう月見えんじゃん!
♡)ほんとだーー!
  まだ太陽いるのにー!!
臣)星も見えたりするかな…
♡)え!いる??
臣)わかんない。
♡)え~~探してみよ~~
臣)あはははw
 
 
空の端から端まで、視線で追いかけて。
 
 
♡)あ!てゆーか寝転がってたら
  陽が沈むの見えないや!
臣)あ…確かに。
 
 
そう言われて起き上がると
♡も起き上がって…
 
髪から砂がパラパラと落ちた。
 
 
臣)まだついてる。
♡)あ…ありがとう。
 
 
♡の髪についた砂を、手で払ってやって…
 
そのやわらかい髪を
俺がずっと触ってると、
 
不思議に思ったのか
♡がこっちを向いた。
 
 
♡)……
臣)……
 
 
見つめる瞳は、あたりの色が反射して
オレンジ色。
 
 
俺は…髪から手を離して…
♡の頬に、そっと触れた。
 
 
♡)……
臣)……
 
 
キスしたい…
 
ダメかな…
 
 
嫌いだって言ってたよな、そんな奴。
 
でも…したい…
 
 
♡)臣くん??
臣)……
♡)またつねる気でしょーー!
臣)え??
♡)えいっ!!
臣)は??
 
 
♡がいきなり俺のほっぺたを
つねってきた。
 
 
♡)先に攻撃してみたw
臣)なんだよそれ!w
♡)あはははw
臣)こんにゃろーっ
 
 
俺が♡のほっぺたをつねると
今度は俺を叩いてきて。
 
 
♡)やっぱりー!もうっ!w
臣)あはははw
♡)なんか察知したんだもん!
臣)え?
♡)私、勘いいでしょー♪
臣)……
 
 
いや、恐ろしく鈍いですけど…。
 
さっきの雰囲気で
なぜそう思ったよ…
 
 
俺はキスしたかったのに。
 
 
はぁ……
いいけどさ…もう…
 
 
♡)あ…沈むね…。
臣)あ…ほんとだ…。
 
 
夕陽が静かにゆっくりと…
水平線に消えていく。
 
 
すげぇ…キレイだな…。
 
 
隣の♡に目をやると、
その目から涙が一筋こぼれていって…
 
 
♡)キレイ…
 
 
小さくそう、呟いた。
 
 
臣)…っ
 
 
え?
 
え?!!
 
なんで泣くし!!!
 
 
♡は…何も言わずに…
ただ静かに涙を流してる。
 
 
空の色が反射して…
 
♡の横顔がオレンジ色に染まって
涙がキラキラと光る。
 
 
こんな…キレイな涙…、
見たことない…。
 
 
俺は思わず見とれて…
♡から目が離せなかった。
 
 
臣)……
 
 
しばらくそのまま見つめていると
♡がようやく、俺の方を見て…
 
 
♡)え……、
臣)……
♡)あ…あれ??
 
 
自分が泣いてたことに
今気が付いて、びっくりしてる様子で。
 
慌ててその涙を拭いてる。
 
 
♡)なんでだろ……
  わ、わ、ごめんね?
臣)……なんで…
♡)…え?
臣)泣いたの…?
♡)……
臣)……
♡)…わかんない。
臣)……
♡)キレイだったから…
臣)……
♡)……
臣)それだけ?
♡)……
臣)……
♡)それと…少し…、
臣)……
♡)思い出しちゃった…のかな。
臣)え?
♡)……
臣)何を…?
 
 
俺がそう聞くと、
♡は少し切なそうに遠くを見つめて。
 
 
♡)何をだろ…、えへへ///
臣)…っ
♡)戻ろっか!
 
 
そう言って、立ち上がった。
 
 
臣)……
 
 
思い出したって…何をだろ…。
 
泣いたってことは…
なんか辛いこととか…なのかな…。
 
 
引きずってる男がいるとか?
 
そんなカンジもしないけど…
 
 
もしかしたら忘れられない男とか
いんのかな…
 
 
臣)……
 
 
♡の綺麗な横顔と涙が、
頭から離れない。
 
 
……
 
 
 

 
 
 
それからまた来た道を辿って
二人のところに戻ると、
 
もう全部片付けてくれてて。
 
 
♡)わわわ!ごめん!!
さ)全然いいよー♪ 夕陽見れた?
♡)うんっ!すっごくキレイだったよー♡
 
 
そう言って笑う♡は、もういつも通り。
 
 
賢)そりゃ良かったw
♡)ありがとー♡♡
賢)どいたまーー
臣)片付けさんきゅー。俺運ぶわ。
さ)ありがと♪
  はい、こっちよろしゅーー
臣)あいよw
 
 
荷物を積み終わって、帰りの車の中。
 
さっきも寝てたくせに、♡はまた爆睡。
 
 
さ)まーた寝てるw
賢)しょうがねぇ奴~w
臣)ははっw
賢)二人も眠かったら寝てていーよ。
さ)え、何その優しさ。
賢)その代わり俺も眠くなったら寝る!!
さ)ちょっと!!死にたくないわ!!
賢)あはははw
臣)……
 
 
すげーぐっすり寝てんなー…
 
 
臣)あっ…
 
 
俺が♡の寝顔を見てると、
 
車の振動で♡がまた
窓に頭をぶつけそうになった。
 
 
臣)あっぶね!
 
 
慌てて♡の頭を手で覆うと、
♡はそのまま俺にもたれかかってきて…
 
 
臣)え……///
 
 
わ…わ…
俺の肩に頭が乗ってる…。
 
うわ…こんな近くで見んの初めてだ…。
 
 
まつ毛ながっ!!!
何これ…
 
つーかこんな近くで見ても
めっちゃ肌キレイだな…
 
 
臣)……///
 
 
あ…、
 
ふわふわの髪が
少しくすぐったい…///
 
 
さ)♡が臣くんにもたれてる。
賢)あ、ほんとだ。
臣)……
賢)役得~w
臣)別に…//
さ)あはははw
 
 
賢司がルームミラーから
ニヤッと笑ってきた。
 
 
臣)…つーかさ…、
賢)んーー?
臣)♡って…
賢)??
さ)なにー?
臣)……
 
 
寝てるよな?
起きないよな?
 
 
臣)♡って…、引きずってる男とかいる?
さ)はい??
賢)何それ。
さ)聞いたことないけど。
  いないと思う。
臣)……そっか…。
さ)なんで?
臣)いや…なんとなく…。
 
 
俺の考えすぎ…?
 
 
賢)だって今度は本気で
  誰かを好きになりたいって
  言ってたじゃん?
臣)うん。
賢)ってことは今まで誰のことも
  本気で好きじゃなかったって
  ことじゃねーの?
さ)うん。
臣)そっか…なるほど…。
 
 
……じゃあ…さっきの涙は
なんだったんだろ…。
 
 
「思い出しちゃった」って
言ってたし…
 
すげぇ…気になる…。
 
 
……
 
 

 
 
 
さ)♡が…なんか言ってたの?
臣)……
さ)臣くん?
臣)……
さ)あれ?
賢)……あ、寝てる。
さ)ほんとだ!
賢)珍しいな、広臣が寝んのw
さ)そうなの?
賢)うん。
さ)なんか仲良く寝てるけどw
  また写真撮ってやろーっと♪
賢)あはははw
  ♡がくっついてきて
  つられて寝たんかなw
さ)なんか可愛いなーこの二人w
  お似合いだよね♡
賢)ですよねー♪
 
 
 
 
 
ーendー

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