(12)TくんStory ①

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俺の好きな女は泣き虫だ。

嬉しくても泣く。
悲しくても泣く。
悔しくても泣く。

本当にすぐに涙を流す。

俺は…
あんなに純粋な奴を
見たことがない。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あいつに初めて会ったのは
入社式の日の朝だった。

その日は少し緊張もしていたし
少し早めに家を出た。

余裕をもって会場に向かったけど
途中の駅前の公園で
迷子になっている子供を見つけた俺は
放っておけなくて…

入社式に遅刻覚悟で一緒に親を捜した。

子)うわぁぁん!ママ~!
T)あ~~もう泣くなw
  絶対見つかるから!
子)だって~~
T)ほら、一緒に探すぞ。
子)ううう泣
T)ほらっ。
子)わっ!!

俺が肩車をすると
男の子はとりあえず泣き止んで。

T)とりあえず交番向かうけど…
  ママ探せよー?
子)うん!!
  ママー!!どこー!!

男の子が俺の頭の上で
大きな声で叫んだ。

周りの奴らがすげぇ見てくる。
こんだけ目立ってたら
親も見つかんだろ…

10分くらい歩くと、女の人の声がした。

母)さとし?!!
子)あ!!ママだ!!
母)さとしー!!!!!

母親は泣きながら駆け寄ってきた。

母)良かった!!さとし!!
子)うわぁぁん!!ママー!!

見つかって良かった…
と安心していると
母親の横で一緒に泣いてる女がいた。

♡)わぁぁ…良かったですね…
  ぐすっ
母)ああ、ありがとうございました!!
  一緒に探してくださって!!
♡)いえ!!
  見つかって本当に良かったです♡♡
母)本当にありがとう!!
  あの…あなたも…っ

母親が涙目で俺を見上げた。

母)さとしと一緒にいてくださって
  ありがとうございました!!
T)いえ!!
さ)お兄ちゃん!ありがとう!!!
T)おう!良かったな。
さ)うん!!!
母)本当にご迷惑をおかけしました。
  すみませんでした。
  ありがとうございます!!
♡)さとしくん、
  もうはぐれないように
  ちゃんとママと手繋いでてね♡
さ)うん!!!
♡)それじゃ、失礼します♡
母)はい!!

もらい泣きしてた女は
俺に会釈をすると
思い出したように時計を見た。

♡)わぁっ!!どうしよう!!

そう言って、焦ったように走り出した。

つーかやべ!!
俺も入社式!!

本社のビルに向かって走ると
方向が同じみたいで
なんか彼女の後をつけてるみたいに
なってしまった。

♡)あなたも急いでるんですか?
T)はい!
♡)私も!今日入社式で!
T)あ、俺もです!
♡)わ!ほんとですか?
T)○○ビルで!
♡)え!私もです!!
T)え?●●社ですか?
♡)そうです!!
T)え!!一緒だ!!
♡)えー!!びっくりです!!
T)あははw

すごい偶然に驚きながら
一緒に走ったけど

結局俺たちは揃って入社式に遅刻して
人事課の主任に仲良く怒られた。

♡)怒られちゃったねw
T)だなw
♡)でも一人じゃなくて良かった♡

そう言って笑いかけてきた笑顔が可愛くて
俺は思わず目を逸らした。

T)……//
♡)えっと…Tくん?
T)うん。
♡)私、♡です。
  これからよろしくね♡
T)うん。よろしく。

これが♡との出会いだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

入社式から一週間、
びっしり新人研修があって
その期間で同期のメンバーは
一気に仲良くなった。

♡はすごくいい子で…
その親友らしいKって奴は
めちゃめちゃ口が悪くて…
でも二人ともキレイだから
周りの男どもは色めき立ってた。

新人研修が終わると
それぞれ現場に配属されて
地獄のような日々が始まった。

俺らの代は一番厳しく育てられた代で
業務量もハンパじゃなかった。

毎日夜遅くまで仕事をしては
朝早く出社する。

特に俺と♡は
いつも0時近くまで残業をしては
朝来るのもどちらかが一番だった。

T)お前…ちゃんと寝てんの?
♡)寝てるよーw
  Tくんこそ寝てるの?
T)うん。つーか俺は男だから
  大丈夫だけどさ…
  お前身体大丈夫??
♡)大丈夫だよ!!
T)なんでそんな頑張んの?
♡)だって…早く仕事覚えたいんだもん。
  私、頭も良くないし
  要領も良くないし…
  人より頑張らないと
  ダメだってわかってるから…
T)……

不器用なのに
自分なりに一生懸命頑張ってんだな…

♡)それに…
  どうせ同じことやるなら
  全力でやった方が絶対自分も
  成長できると思うから!
T)それは俺も思う!!
♡)え?
T)手抜きしたり
  中途半端にやるよりさ…
  全力でやった方が
  気持ちいいっていうか…
  達成感とか成長感も感じられるよな。
♡)うん!!
T)俺も…早く一人前になりたい。
  まずは契約一本取るところから
  なんだけどさw
♡)頑張ってね!!
  応援してるよー!!
T)ありがとw
  一緒に頑張ろうな。
♡)うん!!!
  頑張ろう♡♡

そう言って笑う
♡の笑顔に癒されて…

俺はがむしゃらに毎日働いた。

それでも…
覚える仕事もやらなきゃいけない仕事も
山積みで…

でもどんなにキツくても
諦めたくなかった。

♡は…
絶対ツラいはずなのに…
いつ顔を合わせても笑顔だった。

でも…

いつも皆の前で笑顔を絶やさない♡が
一人で泣いているのを二度見たことがある。

一度目は入ってまだ1ヶ月くらいの頃。
仕事でミスをしたみたいで
給湯室で一人で悔し泣きしてた。

俺は声をかけられなくて…
涙を拭いて給湯室からデスクに戻って行く
♡の後ろ姿をただ見てた。

でもやっぱり心配で気になって…

コーヒーを買って
♡のところに持っていくと…

♡は何事もなかったかのように
笑って「ありがとう」って…。

二度目は半年後くらいだったかな…

♡が悪いわけじゃないんだけど…
こっち側のミスでクライアントに
迷惑をかけてしまった日のことだった。

休憩室で♡は一人で泣いてて…

今度こそ声をかけようと
俺がドアを開けようとした瞬間、

「よしっ!!!!」

♡は大きな声でそう言うと
勢い良く立ち上がって
走って部屋を出て行った。

様子が気になった俺はその後
♡がいる部署の方をうろついてみたんだけど…

♡はまた笑顔で仕事をしてた。

なんなんだあいつは…

きっと…俺が知らないだけで…
みんなが知らないだけで…

こうやって一人で泣いてることも
何度もあるんだろうな。

それでも負けないで
諦めないで立ち直って、また頑張る。
すげぇ強い女だなと思った。

いや、違う。

強いわけじゃないのに強くあろうと
頑張ってる。

♡はそんな、前向きで真っ直ぐな奴だった。

俺は…
そんな強さやひたむきさに
気付いたら惹かれ始めていた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

自分の気持ちを確信したのは
♡が貧血で倒れた日だった。

一緒にエレベーターに乗ってる時に
♡はいきなり倒れて。

心臓が止まるかと思うほど
焦ったのを覚えてる。

俺はすぐに♡を医務室に運んで
心配でずっと付き添ってた。

目を覚ますと♡はゆっくり起き上がって
力なく笑った。

T)無理しすぎだよ、少し休め。
♡)情けないなぁ…
T)何が?
♡)もっと頑張りたいのに
  こんな…倒れちゃうなんて…
T)お前十分頑張ってんじゃん。
♡)……
T)……

♡は悔しそうな顔をして
目に涙を溜めながら…

それでも、ぐっと堪えて
笑ってみせた。

♡)ありがとう。
  心配かけてごめんね?
  もう大丈夫だから。

泣きそうなくせに
無理して笑う♡の顔を見てると
俺は胸がしめつけられて…

気付いたら、♡を抱きしめてた。

♡)Tくん??
T)……

なんでこんな一生懸命なんだろう。

絶対弱音を吐いたりしない。

たまには弱いとこ見せてくれたって…
頼ってくれたって、いいのに。

俺が守ってやりたい。
側にいて支えてやりたい。

ああ…そうか。

俺…こいつが好きなんだ。

♡への気持ちに気がついて、
俺は抱きしめる腕に力が入った。

♡)Tくん??苦しいよ…
T)うん……
♡)??

力をゆるめて♡の顔を覗くと
きょとんとしてる。

ああ、やっぱり好きだ。

そうか…
きっとずっと、好きだったんだ俺。

愛しい気持ちが込み上げて
♡の頬にそっと触れると

♡は顔を真っ赤にして
俺を突き飛ばした。

T)何すんだよ!
♡)何するのー!//
T)え?
♡)変な顔して
  いきなり触ってくるんだもん!//
T)ダメなのかよ!
♡)エッチ!!
T)は、はぁ?!///
♡)触んないで!//
T)嫌だ。
♡)え…っ
T)触りてぇもん。

やっと自分の気持ちに気付いたんだ。
♡のことが好きだって…。

少しくらい触ったっていいじゃん!

俺は自分の気持ちを確かめるように
もう一度♡を抱きしめた。

♡)ちょっとぉ!!//
T)……
♡)離してよぉ!!
T)嫌だ。
♡)やぁっ//
T)お前貧血なんだから大人しくしろよ!
♡)…っ
T)……

♡が大人しくなって
しばらく抱きしめた後、

俺が力をゆるめると
思いきりビンタを食らった。

T)いってぇ!!!!
♡)ばかぁっ!!!!

そう言うと♡は
ふとんを顔までかぶって隠れた。

T)……///

あ~あ…可愛いなぁ~~

俺…、絶対こいつの側にいて
こいつのこと守ろう…。

そう思った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

それからしばらくして
俺は初受注を決めた。

同期の中で一番だった。

ずっと断られていたクライアントで
何回も何回も通って
しつこいってキレられたこともあった。

それでも諦めずに通い続けて
やっと取れた契約だった。

俺は本当に嬉しくて
会社に戻ると一番に♡のところに飛んでった。

俺が報告すると、
♡はびっくりして立ち上がって
目からポロポロ涙をこぼした。

♡)わぁぁ…良かったね!!
  ぐすっ…ぐすん…
T)なんで泣くんだよ…っ
♡)だって…嬉しいんだもん…
T)…っ
♡)Tくんが本当に頑張ってたの
  私知ってるもん…
T)うん。
♡)本当に本当におめでとう…っ

こんなキレイな涙…流すんだ。

T)……

俺は…契約が取れたことは
もちろん嬉しかったけど…

自分のことのように喜んでくれる♡の気持ちが
何より嬉しくて。

思わず抱きしめたら、突き飛ばされた。

でも…
この笑顔が見られるなら
俺はいくらでも頑張れるって…

そう思った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

俺のことを生意気だとか言って
陰で文句言ってる奴や
嫌がらせしてくる奴もいたけど
俺はそんなのに構ってる暇はなかった。

俺もそんなに要領がいいタイプじゃないけど…
でもやる気と根性だけは
誰にも負けない自信があったし

とにかく早く一人前になりたくて
早く数字を上げたくて
必死に頑張った。

そのうち俺が数字を上げはじめると
そんな奴らも何も言えなくなって
大人しくなった。

その頃には現場の状況を見かねた社長が
現場改革をしてくれて
人員も増えて業務負荷も減り、
俺らの次の代からは育成制度も整って…
やっと人らしい生活が送れるようになってた。

30人いた同期はもう半分に減ってたけど…。

メンタルをやられて辞めてく奴や
実際に身体を壊して辞めてく奴もいた。

だから…今残ってる奴は
みんな強い奴ばっかりだ。

キツい時期をなんとか乗り越えてきた仲間。

仲間の存在や♡の存在が
俺には本当に大きくて…
それからも俺はメキメキ数字を伸ばした。

でも…

どんなに頑張っても…
絶対抜けない男が一人だけいる。
Jさんだ。

ある日の営業会議で
Jさんのクライアントを
振り分ける話になった。

部長が困ったように切り出して…

部)Jがガンガン契約取ってくるから
  Jの件数増えすぎてるんだよ。
  だからJの顧客を
  何人かに振り分けようと思ってる。
J)うーーん。
部)どうした。
J)振り分けたいのは
  やまやまなんですけど…
  難易度高いですよ?w
部)そこなんだよな~
J)僕、自分で言うのもなんですけど
  グリップも強いですし。
部)引き継ぎに出したら
  クレームになりそうか?
J)まぁそれは後任の腕次第ですけど。

なんだよ。
俺たちじゃ力不足だって言いたいのかよ…

J)でも結構クセがあったり
  やりとりするのが難しい
  お客さんも多いんで。

でも…あんたはそれをやってんだろ。
そんなのをこなしながら
それでもガンガン数字上げてんだろ。

部)誰か、やりたい奴いないか。
  って、お前ら目そらすなよ!w
  もらいたくない気持ちはわかるけどさw
J)あはははw
  やっぱりそうなっちゃいます?
T)俺やります!!
部)おお!T!!
T)くれるんなら、くれるだけください。
J)え?本気?
T)本気ですけど。
J)相当大変だよ?
T)やります。
部)いや~良かった!!
  お前ほんと頑張るよな~~
  Tなら大丈夫なんじゃないか?
J)そうですねぇ…
部)よし!!
  じゃあ詳しくは明日三人で
  打ち合わせして決めよう!
T)はい。わかりました。
J)了解でーす。

周りはみんなほっとしたように
会議室を出て行った。

J)Tくん…ほんとにやるの?
T)やります。
J)どうして?
T)だって…俺、一番になりたいんです。
J)え?
T)いつか絶対、Jさん抜きたいから。
J)……
T)Jさんのクライアント…
  大変なのはわかりますけど
  大変な仕事だからってずっと避けてたら
  いつまでも成長出来ないし
  Jさんに追いつけないから。
J)……
T)俺もっと早く成長したいんです。
J)ふっw
T)なんで笑うんすか!
J)ほんとに素直だなーって思ってw
T)え?
J)Tくんって思ったこと
  ほんと何でも言っちゃうよね。
  憎めないんだよな~
T)だったら…
  どうやったらそんなに売れるか
  教えて下さい。
J)そのうちね~♪
T)あ!またそうやってはぐらかす!
J)あはははw
  でも…
T)え?
J)俺のクライアント…
  任せるならTくんかなって思ってたよ。
T)え…っ!マジっすか?!

うわ…、すげぇ嬉しい。
俺のこと…認めてくれてるってことか?

J)頑張ってね♪
T)はい!!頑張ります!!

俺は…
どう足掻いてもJさんに敵わないのが
いつも心底悔しいんだけど…

Jさんのことは本当に尊敬してた。

めちゃめちゃ仕事が出来るし
その実力は周りの比じゃない。

こんなすげぇ人がいるんだ…って
入社したばかりの頃は
衝撃を受けたのを覚えてる。

でも…絶対…
絶対いつか抜いてやる!!

そう思うとまたやる気がみなぎってきた。

♡)Tくん?
T)あ!♡!お疲れ!
♡)なんかご機嫌だね?♪
T)うん!
♡)あはは♡お疲れさまー♪

そう言ってそのまま通りすぎようとした♡を
後ろから抱きしめると
振り返ってまたビンタされた。

T)いてぇっ!!
♡)何するのー!!//
T)なんか…テンション上がってたから…
♡)テンション上がってたら
  いきなり抱きつくの?!
  もう!最低!!

♡はそう言うと怒って
そのままいなくなった。

うーーん…

♡への気持ちに気付いたものの、それ以降
俺はそれをどう表現していいのか
わからないでいた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

♡はとにかくモテる。

とりあえず見た目はめちゃくちゃ可愛い。

芸能界にいてもおかしくないくらい…
いや、芸能界にいても
ダントツ人気なんじゃないかっつーくらい
本当に可愛い。

♡が仕事でたまに
俺らの部署の方に来ると
それだけで周りの野郎共はうるさかった。

連絡先知りたいだの…
デートしたいだの…
ひどい奴だと一回でいいからヤリたいだの…
みんな好き勝手言ってて。

いっそあいつが俺の女だったら
手ぇ出すな!!近寄んな!!
って言えんのに…

♡は確かに可愛いけど…
中身もろくに知らないで
あいつの見た目だけで
可愛い可愛いって騒いだり
簡単に告白したりするような奴が多くて
俺はうんざりだった。

俺はというと…
同じように俺の見た目だけで
寄ってくる女がたくさんいる。

俺の中身なんて見てない。

俺は女姉弟ばっかりの中で育ったから
女に幻想なんて抱いてないし
女がどれだけ現実的で
裏表があって
恐ろしい生き物かよくわかってる。

ぶりっ子してる女も
猫かぶってる女もすぐ見抜ける。

女だって平気で浮気したりするのも
わかってる。

周りの友達は結構遊んでるし
女の子がいる店に誘われたりもするけど…
俺はそーゆーのにあまり興味がない。

俺が欲しいのは
見た目だけキレイな女でも
うわべだけの甘い言葉でも
一瞬の快楽でもない。

それに…
♡は真面目だから
そーゆーのを絶対嫌がるってわかってる。

付き合ってるわけじゃないけど…
あいつのことが本当に好きだから

あいつが少しでも嫌がりそうなこととか
あいつに対して後ろめたくなるようなことは
絶対したくない。

なのに…

真面目すぎるとか
カタいとか
周りに笑われるくらいなのに…

肝心のあいつは俺のこと
チャラいと思ってる。

こんなにあいつしか見えてないのに
なんでだよ。

ー続ー

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