[89]ハルキStory ④

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それからまた季節は巡り、
俺たちは6年生になった。

 

瞬はいつもギターを弾いていて、
♡はいつも絵を描いていて。

俺はその隣で本を読む。

そんな何気ない時間が心地良かった。

 

♡)ハルくん、何の本読んでるの?
ハ)これはね、世界建築の本だよ。
♡)……難しそう…
ハ)ははは、そんなことないよ。
  ♡は何を描いてたの?
♡)これはねぇ、ウエディングドレス!
ハ)わぁ…上手だねぇ。
♡)こんなの作りたいなぁ♡
ハ)♡なら作れるよ、いつか必ず。
♡)えへへ…///
  …ね、ハルくんもこんな建物が
  造りたいの?

 

俺が開いていたのは
平屋の校舎のページ。

 

ハ)うん。俺は学校を建てたいな。
♡)わぁ……
ハ)まだ学校がない国や地域に
  学校を建てて、増やしたい。
♡)すごい!!
  私もそれ、お手伝いするっ!!
ハ)ほんと?
♡)うんっ!♡

 

♡は嬉しそうに笑って
玲司パパのアルバムを持ってきて。

たまに一緒に開いては、
玲司パパが話してくれたことを
二人で思い出していた。

 

♡)学校がないって言ってたのは…
  ここだね!
ハ)うん、そうだね。
♡)ハルくんと一緒に
  学校を建てるんだ♡
ハ)……
♡)将来の夢がいっぱいありすぎるなぁ…
  贅沢かなぁ?
ハ)どうして?
♡)だって…そんなにいっぱい
  叶えられるかなぁって…
ハ)叶えられるよ。
♡)…っ
ハ)可能性はひとつじゃない。
  俺は建築士の資格を取って
  父さんの会社を継ぐ。絶対に。
  そして、こういう国にも学校を建てる。

 

玲司パパが、父さんに話していたのを
俺は覚えてた。

その想いを受け継ぎたいっていう
気持ちもあって。

 

ハ)♡は絵本や服を作るのが夢なんだろ?
♡)うん!
ハ)そしたらいつか、日本だけじゃなくて
  この国の子供たちにも
  届けてあげたらいいよ。
♡)わぁ……そっかぁ!!
ハ)うん!
♡)夢は繋がるんだね!!

 

♡は眩しい笑顔を俺に見せてくれた。

 

ハ)夢も繋がるし、
  誰かを想う気持ちも、愛も
  繋がっていく。
♡)パパがいつも言ってたことだね…
ハ)うん。
♡)ハルくんと一緒に…
  繋げていきたいなぁ……
ハ)うん!
  俺も…♡と一緒に、繋げていきたい。
♡)えへへ♡

 

♡は両手を広げて、俺に抱きついてきて。

そんな俺たちを見た瞬が、大きな声で言った。

 

瞬)俺は歌手になる!
  すっげぇ有名な歌手になってやる!
♡)そうなの?!
瞬)だから、俺が歌手になったら
  ハル兄に募金するよ!
ハ)募金??
瞬)学校建てるお金に使ってよ!
♡)えーー!瞬すごい!!
瞬)へへ…っ//

 

小さいながらにも
両手に抱えていた、たくさんの夢。

 

互いにそれが叶いますようにと願いながら
無限の可能性が広がる未来を夢見て

思い描く、その未来図には
隣に♡がいるんだと

この時の俺は、信じて疑わなかった。

 

♡)いつかパパが行った国に
  私も行きたい。

 

玲司パパの写真を眺めながら
そう呟いた♡。

 

ハ)玲司パパが行った国もそうだし…
  玲司パパが行ったことない国も…
♡)……
ハ)二人で行ってみようよ。
♡)うんっ!
ハ)世界中…いろんな国に…
♡)パパの分も、いっぱい見よう!
ハ)うん!
♡)ハルくんと二人で…
ハ)二人で一緒に。
♡)約束だよ…♡
ハ)うん…♡

 

交わした指切りは、幼いながらにも
永遠の誓いのように感じた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

夏には毎年みんなで
玲司パパのお墓参りに来る。

 

うちは無宗教だから!と言って
レイコママは法事はしないけど
みんなで必ずこうして会いに来るんだ。

 

あの悲しい出来事から
もう3年が経ったのかという驚きと

もう3年も経つのに
心が全然癒えていないことにも驚いた。

 

だってどんなに時間が経ったって
その記憶は鮮明で

玲司パパの笑顔も、優しい声も、
いくらでも思い出せる。

 

レ)玲司……

 

レイコママが静かに手を合わせて
目を閉じた。

 

瞬)ハル兄ぃ…
ハ)ん……、

 

瞬の手を握ってやると
涙をぐっと堪えてるのがわかった。

 

後ろに立っていた俺たちは
レイコママの肩が震えてるのを見て
泣いてるってわかったけど

声をかけることもできなくて…

 

すると♡がすっと前に出て
レイコママの手を握った。

 

レ)…っ
♡)ママが会いに来てくれて
  パパ、喜んでるよ♡
レ)……っ

 

レイコママは泣きながら♡を抱きしめた。

♡は優しく笑って手を合わせて
目を閉じた。

 

♡)大好きなパパ……
  元気にしていますか…?
レ)……声に出すの…?w

 

レイコママは涙を拭いて
♡の頭を撫でた。

 

♡)だって聞こえなかったら
  困るもんっ
レ)はいはい…w
♡)パパ…っ
  毎日見てくれていますか…?
  私は毎日元気です。
レ)……
♡)ママも瞬も元気だよ。
  みんな毎日元気に笑ってます。
ハ)……
♡)だからパパも心配しないで
  笑っててね?
ハ)…っ
♡)私はパパの笑顔が大好きです。
  いつも笑っていてほしいです。

 

俺は目に浮かぶ涙を
こらえるのに、必死だった。

 

みんなが大好きだった、玲司パパの笑顔。

 

♡)これからも…空の上から
  見守っていてください……
  ……パパ、大好きです。

 

玲司パパは…
きっと見守ってくれている。

優しい優しい、あの笑顔で。

 

立ち上がって振り向いた♡を
俺がぎゅっと抱きしめると

父さんはそんな俺たちを
二人まとめて抱きしめてくれた。

 

レイコママは瞬を抱きしめて

みんなで想いを分かち合った。

 

みんな、玲司パパが大好きで
どんなに時が経ったって、
何一つ忘れたりしてない。

 

今でもこんなに、大好きなんだ。

 

きっと、これから先もずっと__

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

夏休み中、俺と♡は急遽
ドラマに出ることになった。

 

レイコママの知り合いが俺たちを見て
「最近の子供は皆こんな可愛い顔してるの?」
なんて驚いていて

収録は三日間だけだったけど
俺たちは初めての体験がすごく楽しかった。

 

それは秋の特別ドラマだったけど
その後の連ドラにも出てみないかって言われて

友達と遊ぶ時間がなくなってしまうからと
俺たちは断った。

 

断ったけど、
その特別ドラマが放送されてから
クラスの皆はずっとその話題で持ちきりで…

 

女)♡ちゃんはアイドルになるの?!
女)すごぉい!!芸能人だ〜〜!!
男)ハルキも芸能人になるんだろ?
男)ジャニーズとか入っちゃうの?
男)すっげ〜〜〜!!

 

あまりに続くそのネタに
俺たちも少し疲れてきて…

でも、秋の授業参観の日。

♡が「将来の夢」という作文を読み上げてから
誰も何も言わなくなった。

 

その内容は、♡が俺といつも話していたこと。

絵本を作ってみたい、とか…
洋服のデザインをしたい、とか…

発展途上国に学校を建てたい、とか。

 

いつもと同じようにキラキラした瞳で
それを読み上げた♡は
最後にこう言った。

 

♡)私はハルくんと一緒に
  夢をたくさん叶えていきたいです。
  夢は繋がっていって
  誰かを想う気持ちや笑顔や愛も
  みんなみんな繋がっていく。
  そんな優しくてあたたかい未来に
  したいです。

 

もちろん観に来てたレイコママは
感動して泣いていて

他のお母さんたちはみんな拍手していて

自分の名前を何のためらいもなく
作文に入れてくれた♡が、
俺はすごく嬉しくて…

 

担任の先生は俺たち二人を交互に見て
優しく笑った。

 

先)お前たちは本当に綺麗な目をしている。
  そんな濁りのない純粋な目で
  世の中のあらゆることを
  優しく優しく、受け止めていきなさい。

 

そう話してくれた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

♡)寒くなってきたね…
ハ)うん。

 

いつものように手を繋いで帰る
帰り道。

吐く息はもう白かった。

 

♡)冬休み…宿題いっぱい出るかなぁ…
ハ)そうだねw
♡)やだなぁ…
ハ)はははw
  また一緒にやろうよ。
♡)うんっ!
  わからないところあったら…
  教えてくれる?
ハ)もちろん。
♡)えへへ…良かったぁ♡

 

チャリンチャリ〜ン♪

 

♡)わぁっ!ママ!
レ)今日の晩御飯は鍋だよ〜〜♡
♡)あーっ!!
レ)ハルキもおいでよ!
  お父さんも呼んでるから!w
ハ)えっ!!

 

レイコママが自転車で
颯爽と通り過ぎて行った。

 

♡)わぁ♡
  じゃあ今日は一緒にご飯だねー♡
ハ)うんw
♡)わーいっ!楽しみ〜〜♡

 

レイコママと、♡と瞬と
俺と父さんで
たまに一緒にご飯を食べる。

 

賑やかで楽しくて
俺はその時間が好きだった。

 

瞬)レイコー!肉ーー!!
レ)お前は肉ばっかり食うな!!
父)あはははw
  ほら瞬くん、こっちの肉も
  あげるぞーーー
瞬)わーーいっ♪
父)男の子はいっぱい食べて
  大きくならないとなーー
瞬)うんっ!!
レ)も〜〜〜〜w

♡)ね、ね、お父さんっ♡
  冬休みになったら
  また一緒に遊んでねっ♡
父)……うん。
♡)あーあ、早く冬休みにならないかなー♡
レ)通知表、楽しみだねぇw
♡)きゃーーっっ
ハ)あはははw
♡)でも私、まだまだ勉強頑張るもんっ
レ)ほ〜〜〜
♡)いっぱいいっぱい頑張らないと
  ハルくんは頭いいから…
  同じ高校に行けないでしょ?
レ)あんた…ww
  ハルキと同じ高校行く気なの?!
  絶対無理でしょ…ぷぷぷww
♡)ひどーーーいっ!!
レ)ハルキがどんだけ天才だと思ってんのw
♡)私だって頑張るもんっ!!
レ)まぁ…頑張れば?w
♡)頑張るもんっ!!
父)……
♡)ね、ハルくんっ、
  中学校も同じクラスになれるといいね♡
ハ)うん。
♡)6年間ずっと一緒だったから
  きっと中学校も
  ずっと一緒だと思うんだぁ♡
ハ)きっと同じクラスだよ。
♡)うんっ♡♡

 

今までずっとずっと隣にいた。
ずっとずっと一緒だった。

 

何より大事な…
世界で一番大切な女の子。

 

これからもずっと側にいたい。

ずっとずっと…俺が♡を守るから。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

父)ハルキ…本当にごめん……
ハ)…っ

 

父さんからそれを告げられた時は

嫌だと怒ることも…泣くことも
出来なかった。

 

だって…
どれだけ父さんが辛く思ってるか…
その表情を見れば

その気持ちは痛いほどにわかったから。

 

父)本当に…本当にごめんな…
ハ)……

 

事業拡大のために、数年はアメリカで
仕事をするという父さんについていくために

俺は卒業式も待たずに
冬休みの間に引っ越すことが決まった。

 

2学期の終業式の日。
それが♡に会う、最後の日。

 

ハ)……

 

その日は…
いつもと同じように
手を繋いで帰りながら

俺は涙をこらえるのに必死だった。

 

もう会えなくなる。

♡に…会えなくなる。

 

♡)ハルくん……
ハ)……
♡)先週からずっと…元気ない…
ハ)…っ

 

ダメだ。泣くな。絶対泣くな。

 

♡)どうしたの…?
ハ)…なんでも…ないよ。
♡)ハルくんには…笑っててほしい…
ハ)……
♡)ハルくんが元気ないと…
  私も悲しいよ…
ハ)…っ

 

ごめん…

♡…ごめんね……

 

ハ)俺も…♡が元気ないと悲しいし
  ♡にはいつも笑っててほしい。
♡)…っ
ハ)玲司パパと同じ気持ちだよ。
♡)ハルくん…
ハ)♡が…ずっとずっと…
  笑顔でいられますように。

 

冷たい♡の頬を、両手で包んだ。

 

♡)うんっ♡
  ハルくんも笑って♡
ハ)…っ

 

♡の小さな手も
俺の頬を包んでくれた。

 

♡)えへへ…♡
  やっぱりハルくんが笑ってると
  嬉しい♡♡
ハ)…っ

 

笑え…

最後まで…笑え…っ

 

ハ)♡も…笑顔が一番だよ。
♡)ありがとう♡
ハ)……
♡)ハルくんが側にいてくれたら
  それだけで嬉しいもんっ♡
ハ)…っ

 

♡がまた俺の手を握った。

 

♡)通知表も良かったし
  ママ喜んでくれるかな〜〜♪
ハ)……うん。

♡)冬休みは早く宿題終わらせて
  ハルくんといっぱい遊ぶんだぁ〜♡
ハ)……うん…っ

♡)じゃあハルくん、また明日ねっ♡
ハ)……っ

 

ぎゅ…っ

 

俺は♡を、めいっぱい抱きしめた。

 

♡)…ハル…くん…?
ハ)…っ

 

泣くな。

泣くな。

 

最後まで…

 

♡)えへへ…///
  ぎゅーーー♡

ハ)…っ

♡)いっぱいぎゅーーー♡

ハ)うん…っ

 

あたたかい♡のぬくもりに
やっぱり涙がこぼれそうで…

 

俺からそっと、♡を離した。

 

ハ)じゃあ…明日…
♡)うんっ♡♡

 

最後に抱きしめた♡のあたたかさも

最後に見せてくれたとびきりの笑顔も

 

今でも全部全部、鮮明に覚えてる。

 

もう会えないなんて…言えなかった。

 

どんな思いをさせるんだろうって…
♡の気持ちを思ったら

何も言えなかった。

 

毎日一緒にいるのが当たり前で
中学も高校も…

この先ずっと一緒だと思ってた。

 

父)本当に…何も言わなくていいのか…?
ハ)……うん。

 

言えない。

 

本当は…待っててほしい。
日本に帰ってくるまで…待っててほしい。

絶対に…絶対に…迎えに行くから…

 

でも…

いつになるかわからないそんな約束で
♡を悲しませたくなかった。
縛りたくなかった。

 

♡、ごめん…

本当にごめん…

 

何も言わずにいなくなる俺は
弱くて情けなくて…最低だ。

 

涙で見上げた空からは
静かに雪が降ってきた。

 

ハ)…っ

 

♡…、好きだよ…

大好きだよ……

 

離れていても…会えなくても

繋がってる空の下。

 

 

この想いが…

 

どうか優しく、♡に届きますように___

 

 

ー続ー

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  1. ERINA より:

    わーん。゚(゚´ω`゚)゚。
    きっとハルくんの人生で唯一の汚点は、♡ちゃんに気持ちを伝えなかったことと、別れを告げなかったことだね…
    だって絶対言ってたら、♡ちゃんは待ってたし、付き合って今頃ラブラブだったはず。゚(゚´ω`゚)゚。
    臣くんが入るスキなんてないほどに。゚(゚´ω`゚)゚。
    ハルくんは大人すぎたんだよ…
    この時ばかりはハイスペックが仇に…
    初めて会って数時間で付き合ってなんて言う男とは全然違うぜ。゚(゚´ω`゚)゚。

    ♡ちゃんとハルくんには付き合わなくとも、2人の夢は叶えてほしいな…
    さすがに嫉妬マンもそこは許してくれるはず。
    (許さなかったら一生ちっちぇ男だなって言ってやる!!)

    あと読んでてレイコさんと玲司さんの出会いがやっぱりすごく気になった!!
    マイコさん匂わせ方がうまい。゚(゚´ω`゚)゚。

    ほんとに感想文並に送っちゃった
    長々とすみませんでした

    • マイコ より:

      うんうん(;ω;)言ってたら絶対に絶対に♡ちゃんは待ってたと思うよ。たとえ何年でも(;ω;)
      幼い二人だから不器用でこんな結末になっちまったけど…
      一言あったら今頃二人はラブラブで臣くんはクソ野郎のままだったねきっと(´∀`)

      玲司パパとレイコママのお話はハルくんより長くなるけど気長に待っててね。゚(゚^ω^゚)゚。
      感想いっぱいありがとうヾ(≧∇≦)ノ”楽しかった!♡笑

  2. 岩田夜空☆岩田剛典大好き♥❤ より:

    もう今回も感動してしまいました‼これからどんな展開になってくるのか楽しみです!っていうか彼氏がいて臣くんだって知ったらどんな反応するのか楽しみ♪ハルキくんストーリーはまじで感動して涙が出る臣くんストーリー待ち遠しいです(^_^)

    • マイコ より:

      確かに(´⊙ω⊙`)臣くんが♡ちゃんの彼氏だってわかったらハルくんは一体どうするんだろう…(その前に三代目知ってるかな笑)

  3. のんちゃん より:

    ハルキ君ストーリーは、本当に号泣しまくりです。臣くん大好きな私が、臣くんの存在いらないかもって思ってしまうほど、(臣くんゴメン笑)学校建てたい夢も、ハルキ君と2人の夢だったんだね〜♡ちゃんとハルキの絆もまた臣くんとは違う絆があるんだね(*^◯^*)三代目ストーリー作れるマイコさんは、やっぱり凄い(≧∇≦)好き!尊敬する(≧∇≦)臣くん暫く出てこないけど末長く待ってます(^ν^)臣くんストーリー待ち遠しいなぁ。どんな展開が待ってるんだろ(≧∇≦)臣くん泣いちゃう⁇

    • マイコ より:

      臣くんいらないってならないであげてーー。゚(゚^ω^゚)゚。笑

      そうなの。二人の夢は繋がっていたのです。これからどうなるかなぁ(❁´ω`❁)

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