[273]レイコStory ④

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サ)レイコ、久々じゃん!
レ)サチーー♡
男)お前最近あんま来ねぇんだもんよー
レ)ごめんごめんw
 
 
前は毎日のように来てたこの溜まり場も、
今は月に何度かしか、来なくなった。
 
 
でも、もうすぐみんな…
来なくなる。
 
 
3月になって中学を卒業すれば
みんなそれぞれ
自分の人生を歩き始めて
ここへは来なくなるんだ。
 
 
先輩たちもそうだった。
 
 
将)サチ、風邪ひくって。
サ)……ありがと///
男)お前ら、部屋はもう見つけたの?
将)いや、これから。
  先輩に頼むつもり。
男)そっか。
  この歳じゃ普通には
  借りられねぇもんな。
将)うん。でも大丈夫。
  働き口はもう見つけたし。
男)そうか。
女)良かったね、サチ。
サ)……うん///
 
 
サチが嬉しそうに寄り添うと
将史は優しく、その肩を抱いた。
 
 
女)レイコはどうすんの?
男)高校…行くのか?
レ)うーん……
 
 
そろそろ考えなくちゃ…
 
 
男)お前もレイジさんに
  もらってもらえよw
男)だよな〜〜〜
  なんてったってあのレイジさんの
  女だもんな〜〜///
女)羨ましい♡
レ)////
 
 
玲司がここに来てから…
みんなはあたしを
玲司の女だと思い込んでて…
 
玲司が好きなあたしにとっては
それは嬉しい誤解だから
別に否定してない。
 
 
レ)あたし…
  モデルの仕事、始めようかと思ってる。
皆)……ええええええ!!!
レ)////
 
 
そりゃーびっくりするよな…
 
 
男)おまっ、すげぇじゃん!!
女)レイコ美人だもん!
  絶対上手くいくよ!すごい!
男)お前が有名になったら
  俺らの自慢じゃん!!w
女)きゃーーー♡
レ)ちょっとみんな…落ち着いて…w
男)俺、明菜ちゃんに会わせてよ!
男)うお〜〜!!
  明菜ぁぁ〜〜〜♡♡
女)あたしは郷ひろみ〜〜!!♡♡
将)お前らちょっと落ち着けって…w
  …とりあえずサインくれ、レイコ。
サ)あははははっ!w
レ)もう…w
 
 
自分の事のように
喜んでくれるみんなを見て
 
あたしは絶対頑張るって、そう決めた。
 
 
男)みんなどんどん大人になってくな。
女)そうだね。
男)バラバラになってもさ…
  たまにはこうして会おうな。
女)当たり前だよ!
女)仲間じゃん!
レ)……
 
 
こうしてみんなでここに集まれるのも、
あと少し。
 
 
それがわかってるから
あたし達は
 
こうして寄り添って肩を抱き合って
色んなことを飽きるほど語り合って
夢を見る。
 
 
大人になりたい。
 
自由になりたいんだ。
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
女)あの子…
  ちゃんと最近は学校に行ってるみたい。
男)ああ、そうか。
女)ちょっとあなた、ちゃんと聞いてよ!
男)聞いてるって…
  いちいち怒鳴るなよ。
女)あの子、ちゃんと進学できるのかしら。
男)当たり前だろ。
  うちの人間が中卒だなんてありえない。
  恥だぞ!!
女)じゃああなたからも言ってよ…
男)お前がちゃんと言っておけ。
 
 
リビングから聞こえてきた
おじさんとおばさんの話し声。
 
 
女)もう私いやよっ!
男)何がだよ!
女)あんな…親の顔もわからない
  どんな血が流れてるかも
  わからないような子。
男)何を今さら…
女)いつまでたっても懐かないし…
  家にいるだけですごく疲れる。
 
 
あたしのことが嫌いだって
憎いって
 
そう言えばいいだろ。
 
 
あたしだってこんな家、うんざりなんだ。
 
 
あたしは今日も家を飛び出して
玲司の家に向かった。
 
 
 
……
 
 
 
華)玲司の小さい頃…?
レ)……
華)聞いた事ないわねぇ…
一)中学生の頃、
  相当ヤンチャしてたことしか…
華)あはははw
レ)……
 
 
玲司も施設で育ったって言ってた。
 
 
華)施設の人から聞いた話では…
  玲司は1歳ぐらいの頃に
  布にぐるぐるに包まれて
  バスケットに入れられて
  施設の前にいたって。
レ)……っ
華)その布は…
  日本のものじゃなかったって
  言ってたわ。
レ)え…?
一)本人も両親の記憶は
  全くなかったみたいで…
レ)……
 
 
1歳なら…覚えてるわけないか…
 
 
華)でもこうして…
  巡り巡って、玲司は
  私たちのところに来てくれた♡
一)うんうん。
華)運命よね♡
一)お前はすーぐそれだw
華)何よぅ…
一)すーぐ「運命」って使いたがるw
華)だって本当にそう思うんですもの。
レ)……っ
 
 
「運命」
 
 
それは、玲司があの時
あたしに言ってくれた言葉。
 
 
玲司とあたしの名前が
同じ漢字で…
 
 
「なんか俺たち、運命みたいだな?」
 
 
玲司はそう言って笑って
 
あたしはあの瞬間、
玲司に恋に落ちた。
 
 
玲司が言ったあの言葉も
華子さんの影響だったのかなって
そう思うとなんだか可愛い。
 
 
一郎さんも華子さんも
ふわふわ優しく笑う、あったかい人。
 
それは、あたしの大好きな
玲司のやわらかい笑顔とそっくりで…
 
 
「血の繋がりなんかより…
 大事なのはお互いに想い合える、
 心の絆だって、俺は思ってる。」
 
 
玲司がそう言ってた。
 
 
こうして人と人は繋がっていくんだって
この家を見てるとそう思える。
 
 
一)あいつはいつまでも
  一郎さんとか華子さんとか呼んで
  俺らに気を遣ってるけど…
  俺たちは本当に…息子のように
  可愛がってるんだよ。
華)ええ。
レ)……
 
 
心があたたかくなる、人の愛情。
 
玲司がこの二人に出会えて
本当に良かった。
 
 
華)もちろんレイコちゃんもね♡
レ)……え?
一)娘のように思ってるよ。
レ)…っ
 
 
あたしを見つめる、優しい二人の瞳。
 
 
一)これだけ一緒にいたら
  もう玲司と変わらんさw
華)そうよ〜〜〜w
  だからお嫁に来る日を待ってるからね♡
レ)……っ
 
 
自分にも向けられてる愛情。
 
それはあたしがずっとずっと欲しかったもの。
 
 
あたしは嬉しくて
勝手に涙が溢れ出した。
 
 
華)あらあら!
  レイコちゃんは本当に
  泣き虫なんだから〜〜〜w
一)心が優しい子なんだよ、この子は。
華)そうね…♡
 
 
大好き…
 
あたしはこの家が大好き。
 
 
「大丈夫。必ず出会うから。
 いろんな形の愛が…待ってるから。」
 
 
あの日あたしにそう言ってくれた
玲司の言葉を思い出した。
 
 
玲)ただいまーー
 
レ)!!!!
 
 
玲司の声が聞こえて、
あたしは立ち上がって玄関に走った。
 
 
玲)おお、レイコ…ただいっ…
レ)…っっ
 
 
ぎゅぅぅぅっっ///
 
 
玲)……どうした?
レ)……////
 
 
好き。
 
大好き。
 
 
玲)いつもより激しいな…w
レ)////
 
 
愛しい気持ちが溢れたあたしは
その日初めて、
 
生まれて初めての、キスをした。
 
 
玲)?!!!/////
 
 
玲司は目を丸くして、顔を真っ赤にしてて…
 
 
レ)玲司、大好き///
玲)////
 
 
玲司の服をぎゅっと掴むと
 
 
玲)……ばーか…///
 
 
そう言って今度は、
玲司から優しくキスしてくれた。
 
 
レ)/////
 
 
ドキドキ…ドキドキ…
うるさく騒ぐあたしの心臓。
 
 
時が止まったみたいで…
 
 
真っ直ぐに見つめられて
息ができないながらに、あたしが…
 
 
レ)こんなの…期待する…、///
 
 
そう言うと
 
 
玲)……すれば?///
 
 
そう言って玲司は
リビングに入っていった。
 
 
レ)////
 
 
シュー…シュー……
 
 
頬が、焼けるように熱い。
 
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
 
中卒でも立派に働いてる奴なんて
いくらでもいる。
 
むしろ大学を出てたって
クソみたいな大人は掃いて捨てるほどいるのに…
 
 
「中卒なんて我が家の恥だ!!」
 
 
そう言われて、あたしは無理矢理
高校に通わされた。
 
 
でも…
モデルの仕事が増えてきて
学校へはろくに通ってない。
 
 
一郎さんが紹介してくれた、モデルの仕事。
 
 
あたしは大好きな一郎さんの顔を
潰さないように
 
死ぬほど努力したし…
言葉遣いだって直した。
(たまに出ちゃうけど…)
 
 
女)ほんとレイコちゃんのスタイルは
  日本人離れしてるわよねぇ〜〜
男)脚が長いんだよなーー
女)ハーフとかじゃないのよね?
レ)……
 
 
そう聞かれても
父親の顔も知らないから、答えようがない。
 
 
女)センスもいいし、
  これからどんどん仕事増えるわよ〜
レ)ありがとうございます!
  頑張ります!!
 
 
仕事は本当に楽しくて、仕方がなかった。
 
 
仕事が…というより
自分で働いて、金を稼げるのが
本当に嬉しくて…
 
まだ15歳だけど…
大人になれた気がしてたんだ。
 
 
その日の撮影を終えて
帰る準備をしてると…
 
 
女)ねぇ…レイジくぅん…♡
 
 
甘ったるい女の声が聞こえてきて…
 
 
女)レイジくんが撮ってくれるなら…
  あたしぃ…脱いでもいいなっ♡
 
レ)ふざけんな!!!
 
 
バーン!!!
 
 
女)きゃぁっ////
 
 
あたしは玲司の腕を掴んだ。
 
 
レ)こいつはあたしの男だ!
  手ぇ出したらぶっ殺すぞ!!
女)…っ
 
 
女は涙目になって
部屋から出て行った。
 
 
玲)……ぶくくくww
レ)何笑ってんだよ!!
玲)いや…お前ほんと…
  変わんねぇなぁと思って…ww
レ)……////
 
 
なんか腹抱えて笑ってるし。
 
 
レ)あたし、変わったもん。
玲)はー?w
レ)最近…綺麗になったとか…
  大人になったって…言われるもんっ
玲)……相変わらずこんな喧嘩っ早いのに?w
レ)////
 
 
それは…
あたしの元ヤンがたまに出ちゃうだけで…
 
 
レ)そもそもお前が女に
  言い寄られてんのが悪ぃんだろ!///
玲)俺はいつお前の男になったわけ?ww
レ)…っ
 
 
クスクス笑って
またあたしをガキ扱いしてる。
 
 
レ)そのうちなるから、予言だ、予言!///
玲)ぶくくくっっww
レ)////
 
 
バカにしやがってぇ〜〜///
 
 
玲)ほら、帰るぞ。
レ)ふんっ///
 
 
仕事場でたまに一緒になる時は
玲司がバイクで送ってくれる。
 
 
華)レイコちゃんおかえり〜〜♡
玲)え、俺は?
華)あら、玲司もおかえりw
玲)ちょっと華子さん!
  俺に冷たくない?w
華)あははは♡
  ほら、二人とも入んなさいw
 
 
華子さんが作ってくれたご飯を
図々しくあたしも食べる。
 
 
レ)んまいっ♡
玲)「おいしい」だろ〜〜〜
レ)うっせ///
  外ではちゃんとしてんだよ!
玲)ほんとかよ…w
一)レイコちゃんはほんとに
  評判いいんだぞ〜〜〜
玲)……
一)センスもいいし…
  何より本当に頑張り屋さんだからな。
レ)////
華)そのうち玲司よりカッコイイ人
  見つけちゃうかもよ〜?
玲)はぁー?
 
 
華子さんの言葉に
玲司がちょっと不機嫌そうになったのが
嬉しくて
 
 
レ)玲司よりカッコイイ人なんて
  いないもん。
 
 
あたしは断言した。
 
 
玲)ぶっっ////
華)あらあら♡ レイコちゃんってば♡
レ)玲司が一番カッコイイ。
  他は全部じゃがいも。
一)あっははは!!!ww
  最高だな、レイコちゃんww
 
 
一郎さんが大爆笑してる。
 
 
レ)あたしは玲司しか見てないし
  あたしが好きなのは玲司だけだもん。
 
 
愛して欲しいって思うのは
玲司だけ。
 
これはずっと変わらない。
 
 
玲)……お前、バカじゃないの///
 
 
とか言って、赤くなってるし。
 
 
レ)バカでいいもんっ
  玲司大好き。
玲)……も…、やめろ///
一)レイコちゃんの勝ちだな!
  あははははww
玲)…一郎さんも…笑いすぎだし///
華)ふふふふww
 
 
 
……
 
 
 
ご飯を食べ終わって
洗い物を手伝って
 
トラを膝の上に乗せて
ソファーで寛いでると
 
 
玲司が悔しそうにこっちを見てた。
 
 
玲)トラ…こっちに来い……
 
 
ンナーー
 
 
玲)トラ、レイコじゃなくて俺だ。
  ほら、こっち…!
 
 
ンナーー
 
 
レ)残念でしたーー♡
玲)くっそーー!w
一)まーたやってるw
 
 
あたし達のトラ争奪戦を見て
目を細めて笑う一郎さん。
 
 
一)これだけレイコちゃんに懐いてたら
  俺たちがいなくても大丈夫だな。
華)そうね♡
レ)え…?
一)来週から華子と登山に行ってくるんだよ。
玲)また行くの?!
華)ふふふー♡
 
 
一郎さんと華子さんは登山が趣味で
よく二人で出かけてる。
 
一郎さんは植物の写真を撮るのが
楽しいみたいで
 
華子さんは山菜を採ってきては
あたし達にふるまってくれる。
 
 
レ)じゃあトラが寂しがらないように
  いっぱい遊びに来よっと♡
華)そうしてやって♡
一)良かったなぁ〜〜トラ〜〜w
 
 
ニャーー♡
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
その日は…
午前中だけ学校に行って
午後からスタジオで撮影だった。
 
 
仕事が終わったのが17時で…
 
あたしは電車に乗って、家に帰る。
 
 
帰るのは、玲司の家。
 
 
玲司の家だけど、もうあたしの家でもあるんだ。
 
 
だって…
高校生になった時に
一郎さんと華子さんが
あたしに合鍵をくれた。
 
 
レイコちゃんはもう
うちの子みたいなもんだから、って。
 
いつでも来ていいんだよ、って。
 
 
手渡されたその鍵は
まるで、家族の絆みたいで
 
あたしはその時も嬉しくて
ぽろぽろ、ぽろぽろ、泣いたんだ。
 
 
__ガチャッ
 
 
レ)ただいまーー♡
 
 
ニャーー♡
 
 
あたしの声で、飛んできたトラ。
 
 
レ)お前はほんとにいい子だね〜♡
  ん〜〜よしよし♡
 
 
ンナー!ンナー!♡
 
 
レ)ふふ…っ////
 
 
可愛いトラにデレデレしながら
台所を借りて、夕食を作る。
 
 
今日は玲司が早く帰ってこれるから
一緒に食べようって、約束してるんだ。
 
 
しばらくすると、
玄関が開いた音がして、
 
足元ですりすりしてたトラが走って行った。
 
 
レ)ああ!待ってよトラ〜〜!!
 
 
火を止めてわたわたしてると
迎えに行く前に
玲司が台所まで来て、あたしを抱きしめた。
 
 
玲)ただいま♡
レ)おかえり…////
 
 
な、何これ…
 
 
玲)すげぇいい匂いする♡
レ)……うん、、
 
 
ドキドキ…
 
ドキドキ…
 
 
玲)今日はレイコの飯を楽しみに
  帰ってきた♡
レ)////
 
 
玲司の笑顔はやっぱり柔らかくて。
 
 
玲司はあたしの頭を優しく撫でると
そのままトラを抱き上げた。
 
 
玲)ん〜〜ただいま〜〜〜
  トラー、今日はレイコが作った飯だぞ〜
ト)ニャーー
玲)楽しみだな〜?
ト)ンナーー
レ)////
 
 
一郎さんと華子さんがいる時は
いつも照れてるくせに
 
二人だと普通に抱きしめてきたりして…
玲司は甘くなるんだ。
 
 
玲)ん?どうした?
 
 
ニコッと振り返るその笑顔にも
ついつい、見とれてしまいそうで…
 
 
レ)なんでもないっ///
 
 
あたしは料理の続きに、専念した。
 
 
 
……
 
 
 
レ)あたし、今日もハーフなのかって
  言われた。
玲)……へ??
 
 
あたしが作った料理を
美味しそうに頬張ってくれる玲司にそう言うと
なんとも間抜けな返事が返ってきた。
 
 
レ)骨格が、日本人っぽくないって。
玲)へ〜〜
  じゃあそうなんじゃない?
 
 
なんでもないことのように笑う玲司。
 
 
玲)確かにお前、目が少し茶色いしな。
レ)……
玲)俺も、よくわかんねぇ異国っぽい?布に
  グルグル巻きにされてたらしいから
  外人の血が流れてるかもよ〜?w
レ)……
玲)すげぇな、俺たち!
レ)ぷっ…、あはははw
玲)なんだよ…w
 
 
玲司が素直にそう言うから
自分に流れてる血なんてどうでもよくなるし
 
もしそれが異国の血なら
それもそれですごいと思えちゃう。
 
 
玲)だって俺たちが結婚して
  子供が生まれたら、
  もはや何人かわかんないじゃん?w
レ)…っ
玲)人の血に、国境も壁もないから
  それでいいんだよ。
レ)……
 
 
玲司はそう言って、また優しく笑った。
 
 
レ)……結婚って…
玲)え…?
レ)……///
玲)…だってお前、この家に
  嫁に来るんでしょ?w
レ)!!!
玲)一郎さんも華子さんも
  もうすっかりその気だしw
レ)……
 
 
それって…
 
それって…
 
 
レ)そんなこと言われたら期待する!///
玲)……すればって言ってんじゃん。
レ)////
 
 
それって…
 
それって…
 
 
レ)玲司、好き!!////
玲)ぶっ…ww
  お前はほんといつも直球だなw
レ)…どうしたら…
  玲司の女にしてくれるの?
玲)…っ
 
 
あたしが真剣に、玲司を見つめると…
 
 
玲)////
 
 
玲司はまた、視線を逸らして
 
 
玲)俺が撮りたいと思うくらい、
  イイ女になれば…?
 
 
あたしに向かって、そう言った。
 
 
レ)……ほぉ…
  これ以上イイ女になっていいんだな?
玲)なんだよその自信は!w
レ)カッコつけやがって…
玲)うるせぇな!///
  お前がガキだからだろ!
レ)ガキじゃねぇし!!
  もう中坊じゃねぇし!!
玲)高校生だって変わんねぇよ!
  ガキはガキだ!
レ)〜〜〜っ
玲)早く大人になれ。
レ)……イイ女になったら
  男がいっぱい寄ってくんだからな!
玲)でもお前は俺しか見てねんだろ?
レ)!!!
玲)だったら問題ねぇだろ。
レ)/////
 
 
何も言い返せない。
 
だってそれは事実で
あたしはどうしようもないくらい、
玲司が好きだから。
 
 
レ)絶対落としてやる!///
玲)だから…w
  お前のそれは告白か挑戦状か
  わかんねんだってw
レ)どっちもだ!!!///
玲)はいはいw
 
 
4つしか違わねぇくせに
いつもガキ扱いしやがって。
 
 
……
 
 
ンナー♡ンナー♡
 
 
喉を撫でてやると
トラがうっとりと目を閉じる。
 
 
レ)気持ちよさそう…w
玲)うん…w
 
 
二人でソファーに座って
トラを抱っこしながらまったり過ごす。
 
 
レ)一郎さんと華子さん
  どのへんまで登ったかな。
玲)いや、もう降りてきてる頃じゃね?w
レ)そっか。
  泊まりがけですごいよね。
玲)なーーー
  俺も行ってみたいけどw
レ)じゃああたしも!!
玲)じゃあいつか行くか?w
レ)うんっ♡
 
 
登山でもなんでも
玲司と一緒にいられるなら
 
あたしはどこにだってついていく。
 
 
レ)あ、トラ寝ちゃった。
玲)ほんとだ…w
 
 
くるんとまるまって
寝息を立ててるトラ。
 
 
レ)寝ちゃったから動けない。
玲)うん、確かにw
レ)だから帰れない。
玲)じゃあもう少しいろよ。
  送ってってやるから。
レ)うん…♡
 
 
玲司とトラと一緒にいられる
あったかくて、幸せな時間。
 
 
ジリリリリッ…、ジリリリリ…ッ
 
 
その幸せを引き裂くように鳴り響いた
電話の音。
 
 
玲)え…?
レ)…っ
玲)こんな時間に誰だろ…
 
 
玲司は立ち上がって
電話台まで歩いて行った。
 
 
玲)はい、もしもし。
  ………え…?……警察…?
  え…?
 
 
相手が何を言ってるのか
わからないような顔をしている玲司。
 
 
玲)……え?
  すい…ません…、もう…一度…、、
 
 
玲司の表情はだんだん強張っていって…
 
 
玲)……え?……え?
 
 
何度も聞き返すしか出来ない様子に
あたしも思わず立ち上がった。
 
 
レ)玲司…?
 
 
その顔は次第に青ざめていって…
受話器を持つ手が震えてる。
 
 
レ)玲司?!
 
 
ドクン、ドクン、
 
 
玲)いや……、え…?
 
 
ドクン、ドクン、
 
嫌な胸騒ぎがして、あたしまで震えてきた。
 
 
玲)………は…い…、、
  ……っ…、……っ、、、
 
 
玲司は手を震わせながらも
一生懸命に何かをメモして…
 
でも、言葉に詰まって
最後は喋れなくなって。
 
 
玲)…っ
 
 
震えるその手で、そのままガチャンと
受話器を置いた。
 
 
レ)玲司?!
玲)……っっ
 
 
……いや、
やめて。
 
やめて。
 
お願い。
 
 
祈るような気持ちで
あたしとトラが駆け寄ると…
 
玲司はガクガクとその場に崩れ落ちた。
 
 
レ)…っ
 
 
玲司が必死に書いたメモ。
 
 
そのメモの一部が目に入って、
 
あたしは心臓が止まったように
動けなくなった。
 
 
「死亡確認 18:53」
 
 
その言葉に、頭が真っ白になって
 
 
呼吸の仕方を一瞬で忘れてしまったみたいに、
息が出来ない。
 
 
玲)うう…っ、…っく…
 
 
目の前には、
ただ、ただ、泣き崩れる玲司がいて。
 
 
レ)…っ
 
 
……震える手をそっと伸ばして、
抱きしめたら。
 
 
玲司はすがるように
あたしにぎゅっとしがみついてきた。
 
 
レ)…っ
 
 
涙が、止まらない。
 
 
勝手に…音も立てずに
次から次へと、流れ落ちていく。
 
 
 
……
 
 
 

 
 
 
その夜、あたし達は
ぐちゃぐちゃに泣きながら
ずっとずっと、抱きしめ合って。
 
 
時間も忘れて…
涙が本当に枯れてしまうくらい、
 
_____泣き尽くした。
 
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
 
翌日、山から遺体が戻ってきて
あたしは玲司と一緒に、警察に向かった。
 
 
山菜に手を伸ばして
足を滑らせた華子さんを
 
一郎さんが助けようとして
 
二人で崖から落ちてしまったって
 
登山仲間の人が言ってて…
 
 
深い崖の下で見つかった二人は
一郎さんが華子さんを守るように
抱きしめてたって。
 
 
あたし達の涙は
昨日枯れてしまったと思ってたのに
 
どうしてだろう。
 
 
また溢れてくるから、人間って不思議だ。
 
 
 
ベッドに横たわる一郎さんと華子さん。
 
 
玲司がそっと白い布をめくると
二人とも、すごく安らかな顔で眠ってた。
 
 
玲)一郎…さん…っ
  ……華子さ…っ……
 
 
玲司はその場に泣き崩れてしまって
あたしも涙が止まらない。
 
 
玲)なんで…っ
  ……なんでだよ…ッ!!!
レ)玲司…っ
 
 
震える玲司をそっと抱きしめる。
 
 
玲)まだ…何も返せてない…っ
レ)…っ
玲)まだ何も…っ
レ)…っ
 
 
喉が締まって、苦しくなる。
 
 
あんなに優しくしてくれた。
愛してくれた。
 
そんな二人はもう…
永遠に、目を覚まさないんだ。
 
 
玲)嫌だ…っ、…嫌だ…っ!!!
レ)…玲…司…っ
 
 
あたしの背中にしがみつく
玲司の手が、震えてる。
 
 
玲)まだ…教わりたいことだって…
  いっぱい…あった…っ
レ)…っ
玲)…恩返しだって…
  ……したかったのに…っ
レ)…っ
玲)なんで…っ
レ)…っ
玲)……なんでだよ…っ
レ)…っ
 
 
初めて、家族のあたたかさを
教えてくれた人たち。
 
 
玲)…置いて…いかないでよ…っ
 
 
それは、初めて玲司が口にした
玲司の孤独。
 
 
玲)頼むから…っ
  …置いていかないでよ…っ!!
レ)玲司…っ!!
 
 
そうだ。
 
 
一郎さんと華子さんは
あたしにとってもそうだったように
 
玲司にとっても、初めての家族だったんだ。
 
 
玲)うああああ…っっっ
レ)玲司!!
  …あたしが…いるから…っ
 
 
自分も涙でぐちゃぐちゃだけど
 
 
あたしは玲司が心配で
 
玲司の心が壊れてしまうのが
怖くて
 
 
必死に必死に…
玲司を抱きしめた。
 
 
レ)あたしがいるよ…っ
玲)…っ
レ)玲司は一人じゃない。
  一人じゃないから…っ!!
玲)…っ
 
 
「守ってあげたい」
 
 
誰かをそんな風に思ったのは
 
生まれて初めてだった。
 
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
 
一郎さんの弟にあたる人が
二人のお葬式も全部してくれて…
 
家の中もいろいろ整理してくれた。
 
 
一郎さんと華子さんは
 
この家も、自分たちの財産も
何かあった時は
全部玲司のものになるように
準備してくれていたみたいで…
 
 
最後に、二通の手紙を渡された。
 
 
そこには
 
「玲司へ」
 
「玲子ちゃんへ」
 
そう書かれていて
 
 
全てが終わって二人になったあたし達は
二人のぬくもりが消えた家で
 
その手紙を開いた。
 
 
 
それぞれの封筒に
 
一郎さんと華子さん
それぞれからの手紙が入っていて…
 
 
 
 
『玲子ちゃん
 
 玲子ちゃんがこの手紙を読んでるってことは
 俺はもうこの世にはいないんだな。
 
 先立ったことを、許してほしい。
 
 でも、人生はいつ何が起きて
 命というものは、いつ終わるかわからない。
 
 俺は華子と一緒にいられて幸せだったし
 
 玲司と玲子ちゃんに出会えて
 本当に毎日が楽しくて、幸せだったよ。
 
 二人とも、俺の大事な子供だ。
 大好きだよ。
 
 
 二人にはまだ未来があるけれど
 それも限りのあるもので、
 だからこそ、大事に毎日を生きてほしい。
 
 二人の笑顔を、幸せを、
 空の上から祈っています。
 
 ありがとう。  一郎』
 
 
 
 
『愛する玲子ちゃんへ
 
 私は玲子ちゃんが本当に大好きでした。
 玲司と同じくらい、可愛くて
 本当に娘のように思ってるのよ?
 
 玲子ちゃん、
 生まれてきてくれてありがとう。
 
 玲司と出会ってくれてありがとう。
 
 そして、私たちと出会ってくれて
 ありがとう。
 
 私たちは本当に幸せです。
 
 どうか玲子ちゃんと玲司も
 この先二人で、たくさんの幸せを
 見つけていけますように。
 
 毎日、笑って過ごせますように。
 
 
 私がいなくなってしまったことを
 嘆かないで、悲しまないで。
 
 一緒に過ごした幸せな時間は
 消えたりしない。
 二人の記憶の中に残ってくれれば
 私はそれだけで幸せです。
 
 これからも、あなた達の笑顔と幸せを
 空の上から見守っています。
 
 愛を込めて…  華子より』
 
 
 
 
 
読み終わったあたしはもう
涙でぐちゃぐちゃで
 
隣を見ると、玲司も同じだった。
 
 
レ)玲司……、、
玲)…レイコ…、っ…
 
 
あたし達は
悲しみも寂しさも全部分け合うように
何度も何度も抱きしめ合った。
 
 
二人はもういなくなってしまったけれど…
もう二度と会えないけれど…
 
二人の気持ちは、消えたりしない。
なくなったりしない。
 
 
二人と過ごした時間も
二人があたし達を思ってくれた愛情も
そして、あたし達の愛情も
 
 
絶対に、消えたりしないんだ。
 
 
 
愛してくれて…ありがとう。
 
あたしに愛を教えてくれて…ありがとう。
 
 
悲しくて悲しくて…
消えてしまいそうだったけど…
 
 
あたし達は、生きていくんだ。
 
 
 
レ)玲司……
 
 
あたしが守るから。
 
玲司のことは絶対あたしが守るから。
 
 
そう心の中で呟いたのに…
 
 
玲)レイコ……
レ)…っ
玲)ずっと…そばにいてくれて…
  ありがとう…
レ)…っ
 
 
玲司がぐちゃぐちゃの顔で
あたしの頬を包んで…
 
 
玲)お前は…俺が守るから……
レ)…っ
玲)あの二人の分まで…
  何があっても…俺が守るから。
レ)…っ
 
 
そんなことを言って
あたしを抱きしめるから。
 
 
 
玲司の真っ直ぐな瞳に…
 
力強い言葉に…
 
あたたかいぬくもりに…
 
 
 
あたしはあふれ出る涙を
止めることが出来なかった。
 
 
 
 
 
 
ー続ー

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