[265]イケメン二人組

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熱で朦朧としてた頭は
気付くとほんの少しスッキリしてて…
 
ゆっくり目を開けると
私はベッドの中で
臣くんにぎゅっと抱きしめられてた。
 
 
臣)ん…起きた…?
♡)…臣くん…?
臣)うん。
 
 
優しい優しい、臣くんの声。
 
どうしてだろう。
なんだか涙が出てくる。
 
 
臣)どーした!
♡)わかん…ない…
臣)そんな辛かった?
♡)…っ
 
 
熱で苦しかったけど…
それよりも、すごく安心して…
 
 
臣)さっきもわんわん泣くしさぁ…
♡)ぐすっ
臣)……泣き虫。
♡)ぐすっ
 
 
そんなこと言いながら
抱きしめてくれる腕はすごく優しくて。
 
やっぱりこの涙は、安心したから。
臣くんが来てくれて、ほっとしたから。
 
 
♡)臣くん…っ
臣)ん。よしよし…。
♡)どうして…来てくれたの…?
臣)どうしてって…
  当たり前じゃん。
 
 
Mちゃんが連絡したのかな?
 
 
♡)打ち上げは?
臣)出たよ。
  終わってから来た。
  遅くなってごめんな。
♡)ううん!
  仕事の方が大事だよ!
  私なんていいの!心配かけてごめ…
臣)いいから!
♡)…っ
臣)黙って寝てろ。
♡)……
 
 
言葉を遮るように
ぎゅっと抱きしめられた、腕の中。
 
 
臣)早く熱下がりますように…。
♡)……
 
 
とくん…とくん…とくん…
 
 
この腕の中にいたら…
私きっとすぐに元気になれる。
 
それくらい安心するの。
 
 
なんだか…
付き合う前のあの時みたい。
 
 
臣くんを看病した後
私が風邪をひいちゃって…
臣くんが看病しに来てくれた時。
 
こんな風にベッドで
ぎゅってしてくれたなぁって…。
 
 
♡)臣くん…だいすき……
臣)ん、俺も好きだよ…。
♡)今だけ…甘えてもいーい?
臣)今だけじゃなくて…
  いつでも甘えていいから。
♡)…っ
臣)好きなだけ甘えろ…。
♡)////
 
 
優しい臣くん。
 
 
大好き。
 
 
大好き。
 
 
 
幸せな安心感に包まれて眠ったら
次起きた時にはさらに頭がスッキリしてて。
 
 
♡)もう治った!!
臣)いやいや、それは言い過ぎw
 
 
朝、元気に起き上がった私を見て
臣くんが呆れたように笑ってる。
 
 
♡)シャワー入りたい。
臣)ちょ、待った待った。
  だったら家帰るぞ。家で入れ。
♡)あ、そっか。
臣)その方が色々安心だし。
  着替えもないだろ?
 
 
そう言われて、
ホテルの人に丁寧にお礼を伝えて
二人でタクシーで帰って来た。
 
 
♡)宿泊費も免除してくれて
  おじやまで作ってくれて…
  なんて優しいホテルなんだろう。
臣)よし、今度お礼にスイート泊まろう。
♡)どうしてそうなるの!w
臣)お礼だよ、お礼!w
 
 
それからすぐにシャワーを浴びて
出かける準備をしてると
臣くんが驚いたように私の肩を掴んできた。
 
 
臣)お前何してんの?!
♡)出かける…準備…
臣)はぁ?!!!
  お前は今日は自宅安静!!
♡)…っ
 
 
だって…
午前中から施設に歌いに行く予定が…
 
 
臣)数時間前まで熱で動けなかった奴が
  何考えてんだ、バカ!
♡)でも…
臣)でももへったくれもない!
  寝てろ!命令!!
♡)…っ
 
 
臣くんは怒りながら
スケジュールアプリを開いて
私をじっと見た。
 
 
臣)まさか歌いに行くつもりだったんじゃ…
♡)……(こくん)
臣)はぁぁぁぁ。
 
 
だって…
だって…
 
 
臣)また倒れたらどーすんだよ!
♡)もう…大丈夫…
臣)大丈夫じゃない!
♡)だって…
  みんな待ってるもん!!
臣)…っ
♡)今日行く施設は2回目なの!
  佐川さんはお孫さんの写真
  持って来てくれるって言ってたし…
  大和さんは…っ
臣)わかった!!
♡)え…?
臣)俺が行く。
♡)……
 
 
俺が…行く…?
 
 
臣)楽しみに待ってくれてる人がいるから
  キャンセルできないって
  言いたいんだろ?
♡)…っ
臣)だからお前の代わりに俺が行く。
♡)そんなこと…
臣)俺が行って歌ってくるから
  お前は今日は寝てること!!
  命令!!
♡)…っ
 
 
本当の本当は…
まだ完全には良くなってなくて
少しフラフラする。
 
どうしよう…
臣くんの言う通りにした方がいいのかな?
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
とりあえず♡を寝室につっこんで
俺はMちゃんに電話をかけた。
 
 
事情を話したら、
♡がそう言ってキャンセルしたことを
気に病むだろうから
代わりに瞬に行けないか
連絡してくれてたみたいで。
 
ほんと出来るマネージャーだなって、尊敬。
 
 
M『でも瞬くん、今日はライブらしくて…』
臣『ああ、そうなんだ。』
M『はい。』
臣『あのさ、俺が代わりに
  行こうと思うんだけど…』
M『はい?』
臣『施設に。』
M『……はい!?
  何しにですか??』
臣『歌いに…?』
M『…事務所の…許可は…?』
臣『お忍びで…?』
M『えええ!ダメですよ!
  バレたら怒られますよ!』
臣『怒られはしないでしょ。
  悪いことしに行くわけじゃないんだし。
  もしバレたら友達のばあちゃんに
  会いに行ったついでに歌ったとでも
  言えばいいよ。』
M『ええええーーーー!!』
臣『施設の名前と場所教えて。』
M『でも…っ』
臣『いいから。』
M『…っ』
 
 
結局Mちゃんから強引に聞き出して。
 
Mちゃんはその間、
♡のお見舞いに来てくれるって言うから
おかゆでも作ってやってって頼んどいた。
 
 
Mちゃんも大して寝てないだろうに…
ほんと出来るマネージャーだな。
今度お礼しよ。
 
 
臣)さて。
 
 
行く準備を終えて寝室を覗いたら
心配無用。
♡はスヤスヤ眠ってた。
 
やっぱりまだ本調子じゃないんじゃん。
ったく。
すぐ無理すんだから。
 
 
臣)よし。
 
 
静かに玄関のドアを閉めて。
 
 
マンションのエレベーターを降りながら
ふと思った。
 
 
……何歌えばいいんだろ?
 
 
♡はいつも弾き語りしてるんだろうけど…
俺はピアノなんて弾けないし…
弾ける楽器なんて、ない。
 
 
てゆーかさ、
おじいちゃんおばあちゃんなんて
俺のこと知らないだろうし…
 
可愛い女の子が来ると思ってたら
こんな意味不明の男がいきなり現れて
「リクエストしてくれた曲歌います」って…
 
めっちゃ怪しくね?!
 
お前誰だよ!って感じじゃね?!
 
リクエストすらもらえないかも!
 
 
臣)……
 
 
♡にあんなに強気で言い放ったくせに
不安になってきた。
 
これはもう…
あいつに電話するしかない。
 
 
プルルルル…、プルルルル…
 
 
隆『あい。』
臣『おはよ。
  ちょ、今から出て来て、頼む。』
隆『はぁ?』
 
 
うわー
寝起きで機嫌悪いわ。
こわー
 
 
隆『……ねみぃ。』
臣『うん、おはよ。朝だよー。』
隆『……何お前…うざい。』
臣『相方に「うざい」はねぇだろ!
  ひでぇな!』
隆『うるせーな…切るぞ。』
臣『切るなって!!
  頼む!起きて!お願い!』
隆『……』
 
 
ツーー。ツーー。
 
 
ひっでぇ!切れた!
感じワルッ!
何あいつ!元ヤンかよ!
……元ヤンか。
 
 
俺は諦めないぞ。
 
 
プルルルル…、プルルルル…
 
 
♧『もしもし?』
臣『おはようございます。
  朝早くにすみません。』
♧『ううん、大丈夫だよー』
  今隆二くんと話してたよね?』
臣『はい。切られちゃって…。』
 
 
今度は♧さんにかけて事情を説明すると、
電話の向こうで隆二を起こしてくれた。
 
 
『隆二くん、起きてーー』
『まだ眠いもん〜〜〜』
 
 
はぁ?!
さっきと別人か、この野郎!
何が「眠いもん〜〜〜」だ!!
 
 
『起きて、ね?あのね、』
『ん〜〜〜〜♡』
『きゃぁっ!ちょっと待って、違うの、
 あのね、臣くんが…』
『眠いからまだ起きない〜〜〜♡』
 
 
♧さんに甘えまくってる姿が想像つく。
起きやがれこの野郎!!
 
……とか言える立場じゃないんだけど…
 
 
『チューしてくれたら起きてもいーよぉー』
『……もぉ///』
 
 
大丈夫です、大丈夫です。
俺は聞いてません。
聞いてるけど聞いてません。
 
 
『へへ、もっかい♡』
『もうダメ!///』
『え〜〜〜〜』
 
 
え〜〜〜じゃねぇよ!
とっとと起きろ!!
 
 
隆『もしもし?どうした?』
臣『やっと起きましたか、今市さん。』
隆『やっと?何が?』
 
 
お前さっきの電話ブチ切りしたこと
もう覚えてねぇだろ!
 
 
臣『実は…さ、』
 
 
やっと頭が起きた様子の隆二は
俺が事情を話すと、
「てゆーか♡ちゃん大丈夫?」って
昨夜のことを思い出してくれたみたいで。
 
午後から仕事だけどそれまでなら、って
施設訪問もOKしてくれた。
 
 
俺はタクシーに乗って
とりあえず隆二のマンションに向かう。
 
 
ピンポーン。
 
 
臣『着いたよーー』
隆『早すぎだわ!
  さっき電話切ったばっかだろ!』
臣『下で待ってるから早くーー』
隆『自分勝手か!!』
臣『あ、じゃあ一回部屋行ってもいい?』
隆『はぁ?…いいけど…』
 
 
結局タクシーは一度精算して
エレベーターをのぼった。
 
 
……ピンポーン。
 
 
♧)おはよーー。
臣)おはようございます。
  さっきはどうも。
♧)うん、上がってーー
臣)はーい。お邪魔しまーす。
 
 
すっかり新婚みたいだな、この家。
 
 
♧)隆二くんね、寝癖ボンバーで
  そのまま行こうとしてたから
  今ちゃんと髪セットしてもらってるから。
臣)え?
♧)だって施設に行くんでしょ?
  おじいちゃんおばあちゃんの前で
  だらしない格好してたら
  印象悪いでしょー?
臣)……
 
 
しっかり者な嫁だな…。
 
 
♧)臣くんはもう朝ごはん食べたのー?
臣)あ、いえ、まだ…。
♧)♡ちゃん寝込んでるなら
  食べてないんじゃないかなと思って
  簡単にサンドイッチとおにぎり
  作ったんだけど…
  良かったら食べる…?
臣)え、いいんすか?!
 
 
どこまで出来た嫁…!すげぇ!
 
 
♧)どっちがいーい?
臣)……うーん…うーん…
 
 
♧さんのことだから
絶対どっちも美味いに決まってる。
 
うーん…うーん…
 
 
♧)そんなに迷うならどっちも持ってく?w
臣)え、いいんすか!?
 
 
優しい嫁だなオイ!!
 
 
臣)じゃあおにぎりは今食べちゃおうかな…
♧)じゃあお茶入れるねー
臣)ありがとうございます…
 
 
ダイニングに腰掛けて
もぐもぐ朝ごはんを食べてると…
 
 
隆)お前…うちに何しに来たんだよ…
 
 
ヘアセットを終えて
イケメンになった隆二が戻って来た。
 
 
臣)何って…お前を迎えに…
隆)何ちゃっかり
  おにぎりもぐもぐしてんだよ!
臣)あ、いただいてます。
隆)図々しい奴だな!
臣)いいじゃん!♧さんがくれたんだもん!
隆)♧!臣のこと甘やかさないで!
臣)はぁ?!
♧)くすくすww
 
 
優しい嫁は
そんな俺たちを見てふにゃんと笑ってる。
 
なんだろこの家。
癒しのオーラで包まれてるな。
 
 
隆)てゆーかお前何ハットかぶってんの。
臣)え。ダメ?
隆)屋内で帽子なんて
  おじいちゃんおばあちゃんの印象
  絶対悪いぞ。
♧)そうだね…脱いだ方がいいかも…
臣)え、マジ?
  ファッションってことで…
♧)通じないかなー
臣)はい、すんません。
 
 
♧さんに言われたらなんか逆らえない。
洗面所を借りて俺もヘアセット。
 
 
臣)こんなんでいいかな?
♧)うん!二人ともカッコいいよ!
  バッチリ!
臣)へへw
隆)へへ、じゃねーよ!
  ほら行くぞ。
臣)はーい。
 
 
♧さんにもらったサンドイッチを
バッグにしまって
癒しの笑顔に見送られながら出発。
 
 
隆)なぁ、思ったんだけどさ?
臣)うん?
隆)おじいちゃんおばあちゃんって
  俺らのこときっと知らなくね?
臣)うん、そうだと思う。
隆)なんかうさんくさい二人組が来たと
  思われない?
臣)大丈夫、爽やかなイケメン二人組が来たと
  思われる。
隆)……自分で言う?
臣)だってヘアセットしたし。
隆)ぶふっw
 
 
それからタクシーの中で
ピアノはお前に任せた!ってことで
少々の打ち合わせ。
 
Mちゃんに教えてもらった施設の前で降りて
人目につかないうちに二人でそそくさと
中に入った。
 
 
だって…
マスクも帽子もしてないし。
色々丸出しだし。
 
 
臣)あの…、失礼します。
女)…っ
臣)本日こちらにお伺いする予定だった…
女)きゃーーー!///
臣)えっ…
女)さ、さ、三代目!??
  うそっ!!
女)うそ!本物!?やだ!!
男)おわ!本物だ!!!
女)きゃーーー!///
 
 
入口で挨拶しようと思ったら
職員さんたちに大騒ぎされちゃった。
 
 
臣)ええと…
  改めまして、登坂です。
隆)今市です。
女)はわわわ///
男)うおおお///
女)あ、あ、あのっ
  ♡さんの代わりの方が来るとは…
  聞いてたんですが…
男)ま、ま、まさか…っ
  三代目のお二人だとは…
臣)すみません、僕たちで…
男女)いえいえいえ!!!!
 
 
職員さんたちのリアクションが
あまりにデカイから
ちょっと心配になりつつ講堂に向かったら…
 
おじいちゃんおばあちゃんはみんな
俺たちを見て「?」顔。
 
まぁ、予想通り。
良かった。うん。
 
 
男)♡ちゃんはどうしたんだい!
臣)ちょっと体調を崩してしまって
  今日は代わりに僕たちが…
男)あいや〜〜!
  ♡ちゃんに会えるのを
  楽しみにしてたのに!
女)いいじゃないの!
  こんな若いハンサムが二人も来てくれて!
女)そうよそうよ!
  ありがたいじゃないのよ!
隆)へへへ、ありがとうございますw
女)まぁ!可愛い♡♡
女)お兄さん、笑ったら可愛いわね!
隆)へへへ♡
 
 
いいぞ隆二!その調子だ!
 
おばあちゃんたちは
隆二の笑顔にイチコロで…
 
あとはおじいちゃんたちに
少しでも喜んでもらえるような
歌を披露しないと…
 
 
男)君たちは♡ちゃんの友達かい?
臣)ええと…はい、友人です。
男)あの子ねぇ、本当に歌が上手いんだよ!
男)そうそう、聴かせてくれるんだよねぇ。
臣)僕たちも頑張りますw
男)何歌ってくれるんだい。
臣)ええと…
 
 
ピアノに座った隆二と目を合わせた。
 
 
臣)まず最初は…
  徳永英明さんの『レイニーブルー』を…
男)お!いいねぇ!
 
 
ほっ、良かった。
 
 
隆二が緊張気味にピアノに指を乗せて…
 
俺たちはさっき打ち合わせした通りに
最後まで歌った。
 
 
パチパチパチパチパチ!!
 
 
男)いやぁ〜〜素晴らしい!
女)お兄さんたち上手ねぇ!すごいわ!
女)ハンサムな上に歌も上手いなんて!
 
 
俺と隆二は目を合わせてほっとした。
 
…のも、束の間。
 
 
男)千春歌えるかい!千春!!
隆)松山千春さんですか?
男)小田和正がいいよ!歌ってくれ!
臣)ええと…どの曲ですか…?
男)森進一の襟裳岬歌ってくれ!
臣)ええ!?
女)さだまさしは歌えるかい?
隆)ええと…
女)細川たかしの北酒場!!
臣)いやぁ…ちょっとそれは…
 
 
リクエストが飛び交って
収拾つかないことになった。
 
 
隆)ええと、ごめんなさい。
  自分、♡ちゃんみたいに即興で
  ピアノが弾けないんです。
 
 
隆二が苦笑いしてそう言ったけど、
 
 
男)ピアノなくてもいいよ!
  アカペラで歌えるだろう!
女)そうだよ!そのまま歌っていいよ!
 
 
おじいちゃんおばあちゃんの勢いは
とどまらず…。
 
 
最後はもう、曲名で歌詞を検索して
歌えそうなやつは隆二とリズムを取りながら
なんとか歌うっていう
とんでもない展開になった。
 
 
隆)いや〜〜こんなん初めてw
  めっちゃ楽しかった〜〜〜w
 
 
破茶滅茶だったけど
意外と楽しめた様子の相方。
 
実は俺もめっちゃ楽しかった。
 
 
たくさん歌い終えて挨拶したら、
次々に話しかけられて。
 
♡は前回、
1時間くらいお喋りして帰ったらしく
もしお時間があればって
職員さんにも言われて
 
俺は隆二と一緒に輪に入れてもらった。
 
 
女)いや〜〜〜近くで見ても
  ハンサムだわぁ〜〜
男)今の若い子はハンサムなんて言わないよ、
  ねぇ!
隆)でも意味はわかりますw
男)イケメンって言うんだよ、イケメンって!
女)あらやだ!
男)ほんとおっとこまえだなぁ〜〜
臣)ありがとうございますw
女)歌もほんと上手かったよ!
女)ほんとにねぇ!
  なんかどっかで見たことある気が
  するんだけどねぇ…
 
臣隆)あ…。
 
男)実はな、俺も思ってたんだ!
  な〜んかどっかで見たことあるって。
女)あらそうかい!
  わたしゃ初めてだよこんなイケメンは!
  あはははw
 
臣隆)……。
 
 
ハッキリ気付かれたわけじゃないから
俺たちは敢えて自分からは
言わないでおいた。
 
 
女)それにしても♡ちゃんは大丈夫かねぇ。
男)心配だねぇ。
  早く良くなるといいんだけど…
臣)はい。
男)あの子はねぇ、何がいいって…
  歌が上手いのはもちろんなんだが
  笑顔がいいんだよ。
女)そうなんだよねぇ。
  あの子が入って来ただけで
  春が来たみたいに華やかになる。
女)そうそう。不思議な子だよねぇ。
  またあの笑顔が見たくなるんだよ。
男)そうなんだよ、うんうん。
臣)……
 
 
♡の話になると
みんなすごく優しい表情になった。
 
愛されてるなぁ…
なんて、しみじみ思って
 
頷きながら話を聞いてたら、
 
 
女)ちょっと、あんた!
 
 
端に座ってたおばあちゃんに
呼びかけられた。
 
 
臣)僕ですか?
女)そ、きつねみたいな顔した方。
臣)え?きつね!?w
女)そっちはたぬきみたいだろ。
隆)たぬき!?俺のこと!?
 
 
いきなりきつねとたぬきにされた俺たちを
周りはゲラゲラ笑ってる。
 
 
臣)はい、きつねがどうかしましたかw
女)あんた、友達って言ってたけど
  あの子の彼氏だろ。
臣)ぶっ!!
 
 
思いがけないブッコミに、思わず吹いた。
 
 
男)あん?付き合ってんのかい!?
女)なんだよ、彼氏なのかい!
  水臭いねぇ!そうならそうと言いなよ!
臣)いや、ええと…
 
 
俺が答えに困ってオロオロしてると
さっきのおばあちゃんが
「顔を見ればわかるよ」と言って
優しく笑った。
 
 
女)あの子の話になった途端に
  優しい顔すんだもん。
  す〜ぐわかったよ。
臣)……///
 
 
そんな顔に出てたかな?
 
 
男)お兄ちゃん、
  あ〜〜んなかわいこちゃんと
  付き合ってんのかい!羨ましいねぇ!
臣)いやぁ…、その…///
女)あの子、いい子だろ?ん?
  優しいだろう?
臣)……はい///
 
 
なんだこの展開は。
隆二はニヤニヤしながら見てるし。
 
 
女)あの子が元気になったら
  今度は一緒においでよ。
臣)え?
男)いいねぇ、二人でおいで。
  待ってるから。
臣)……ありがとうございます。
 
 
そう言ってもらえて…
 
それが実現するかは置いといて、
素直に嬉しかった。すごく。
 
 
女)たぬきの方はいるのかい、恋人。
隆)えっ、自分ですか?
男)いるだろうよ、こんな男前なんだから!
隆)ええと…、ハイ。
女)あんらぁ〜〜〜
  いいわねぇ、若い子たちは。
  ちゃんと大事にしてやんなさいよ?
隆)はい。大事にします。
女)あんたもね!!
臣)はいw
 
 
おばあちゃんにバシッと背中を叩かれて
俺はしっかりと返事した。
 
 
大事にします。
何より誰より、一番大事な、人だから。
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
M)すっかり熱も下がりましたね。
♡)うん♡
  頭痛いのも本当にもうなくなったよ!
M)良かったです♡
♡)Mちゃんの特製おじやのおかげだよぉー♡
  本当にありがとう♡
M)いいえ♡
 
 
昨夜あんなに苦しかったのは
一体なんだったんだろうって思うくらい。
 
頭も身体もスッキリして、完全復活!
 
 
M)昨日…
  登坂さんが来た途端、
  先輩がポロポロ泣き出しちゃうから
  びっくりしましたw
♡)ええと…、///
 
 
熱で朦朧としてたから
あまり前後の記憶とかがないんだけど…
 
泣きながら臣くんにしがみついたのは
なんとなく覚えてる。
 
 
♡)ごめんね、///
 
 
みんないたのに、恥ずかしいな…。
 
 
M)登坂さんの顔見て、安心したんですか?
♡)……うん、そうだと思う。
M)そっかぁ…。
♡)あんなに泣いちゃって…情けない。
  ごめんね…?
M)それだけ熱で苦しかったんですよ。
  それに…そういう時に
  甘えられる人がいるのはいいことです。
  先輩にとっては登坂さんの存在が
  何よりの薬なんだなーって思ったし。
♡)……でも…甘えすぎちゃダメだから…。
M)甘えすぎてなんてないですよ!
  むしろ先輩はもっと甘えた方がいいです!
♡)ええっ…
 
 
私、臣くんには
頼りすぎだし甘えすぎだと思うんだけど…
 
 
M)登坂さんなんて特に。
  ああいう仕事だから
  側にいて欲しい時にいつもいてくれるとは
  限らないじゃないですか。
♡)うん…。
M)だからこそ。
  昨日みたいに会いに来てくれたなら
  そういう時はめいっぱい
  甘えたらいいんです!
♡)そ、そうかな…?
M)登坂さんもその方が嬉しいですよ。
♡)……
 
 
「いつでも甘えていいから。
 好きなだけ甘えろ…。」
 
 
そう言ってくれた
臣くんの優しい声が、まだ耳に残ってる。
 
 
M)とーこーろーでーー
♡)はいっ!
M)元気になったなら
  いろいろ話したいんですけど…
♡)はいっ!
M)まずは昨日の運動会。
♡)はっ!結果発表!どうだったの?
M)先輩のチームは2位でした。
♡)2位ーーーーーーー!!
  うわーん!悔しい!
M)2位の景品は商品券5000円分です。
♡)わぁ!
M)同じチームの人が
  代わりに受け取ってたので
  会社行ったらもらってくださいね♡
♡)はい!ありがとう。
M)ちなみに1位はJさんのチームでしたよ。
♡)むぅぅぅ…悔しい。
 
 
あんなに頑張ったのになぁ。
 
 
M)それから、
  お仕事の話もしたいんですけど
  いいですか?
♡)はい!お願いします!
 
 
キリッと凛々しくなったMちゃんの表情に
私も姿勢を正した。
 
 
M)私の予想通り。
  MVの反響がものすごいです。
♡)そうなんだ…
M)仕事のオファーがぽつぽつ増えてます。
  完全にMV効果です。
♡)わぁ!
M)MVの出演依頼もまた来てるし、
  モデルのお仕事も来てます。
♡)ありがとうございます!
M)あと、依頼するかどうかは
  まだ検討したいけど
  一度会って、声を聞きたいという案件も。
♡)歌?
M)はい。
♡)了解しました!
M)スケジュール組んじゃうので
  よろしくお願いします。
♡)はい!
 
 
そんな話をしてたら、臣くんが帰って来た。
 
 
臣)ただいまーーー
♡)おかえりなさいっ!
臣)うおっ、元気になってる!w
♡)もうほんとに良くなったよ!
臣)マジか!
♡)うんっ!
 
 
元気に手を上げた私に、
臣くんはにっこり笑って…
 
 
臣)はい。
 
 
綺麗な花束を差し出してくれた。
 
 
♡)なぁに…?これ……
臣)お見舞いの花。
♡)…っ
 
 
この間ホテルでもらったのとは
また色合いが違う、綺麗な花束。
 
薄い水色と紫色が
爽やかで、みずみずしくて。
 
 
臣)この間あげたばっかだけど…
  いっつも花でごめんw
♡)ううん!お花大好きだもん!!
  またもらっていいの?
臣)いいよ。
 
 
優しく笑う臣くんから、それを受け取って。
 
とってもいい匂い。
幸せな気持ちになる。
 
 
臣)Mちゃんもまだいて良かった。
M)え?
臣)はい。
M)ええええ!!!
 
 
臣くんがMちゃんに差し出したのは
赤とピンクで彩られた可愛い花束。
 
 
M)な、なんですか?!これ!
臣)看病してくれてありがとう。
  お礼のお花。
M)えええ!私にまでくれるんですか!?
臣)うん。
M)きゃーーーーー///
 
 
Mちゃんはそれを覗き込んで
嬉しそうに笑った。
 
 
M)イケメンからお花もらうって
  幸せすぎる♡
  ありがとうございます、登坂さん♡
臣)こちらこそ。
  ほんとにいつもありがとう。
M)////
 
 
Mちゃんにも買って来てくれる
臣くんのこういうところが、大好き。
 
 
♡)ありがとう♡
臣)ん。
 
 
臣くんはニコッと笑って
私の頭をポンポンしてくれた。
 
 
M)では、私はそろそろ…
♡)あ、うん!本当にありがとうね!
M)何かあったらいつでも連絡くださいね。
  すぐに飛んできますから。
♡)もう大丈夫だよぅ!
  本当にありがとう♡
 
 
臣くんと二人で玄関まで見送って、
リビングに戻って来た。
 
 
♡)臣くん、お花本当にありがとう♡
 
 
ぎゅって抱きついたら、
臣くんもぎゅーって抱きしめてくれた。
 
 
臣)ただいま♡
♡)おかえりなさい♡
  ね、ね、どうだったの?!
  私、結局あの後すぐ寝ちゃって…
臣)うん、スヤスヤ寝てたねw
♡)施設行って来たの!?
臣)行ったよ〜〜歌って来たよ〜〜
  隆二と。
♡)隆二くんと!!?
  どういうこと?!!
臣)まぁまぁ、w
 
 
臣くんは笑いながら私を抱っこして、
ソファーに座らせてくれた。
 
 
臣)かくかくしかじか、そういうわけですよ。
♡)すごい……。
 
 
いきなり臣隆が現れて
歌を披露しちゃうなんて…
 
そして職員さん以外誰も気付かないなんて…
 
 
臣)俺たちの知名度もまだまだだわw
 
 
臣くんは良い経験した、って
嬉しそうに笑ってる。
 
 
♡)隆二くんにもお礼言わなくちゃ…
臣)あ、そうだ。
  お前が言ってた佐川さん、
  お孫さんの写真見せてくれたよ。
♡)わぁ!ほんと?
臣)大和さんはお前が言ってたお茶、
  飲んでみたって言ってたよ。
 
 
臣くんは施設でのことを
楽しそうに話してくれて…
 
 
臣)お前はほんと愛されてるな。
 
 
優しく笑って、また頭を撫でてくれた。
 
 
臣)いつか…さ、三代目も解散して…
  すげぇ歳とったら…
♡)うん…?
臣)お前と一緒に歌巡りすんのも
  悪くないかなぁとか思っちゃった。
♡)歌巡り…?
  一緒に歌うの?いろんなところで?
臣)そうそう。楽しそうじゃん?
♡)楽しそう!♡
臣)はははw
♡)でも三代目が解散するのはダメ!
  寂しい!
臣)そんなすぐにはせんわw
♡)まだまだ応援するんだから!
臣)はいはい、ありがと♡
 
 
臣くんはクスクス笑って
また私を抱きしめてくれた。
 
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 
代わりに行ってくれて
本当にありがとうって
♡は何度も俺にそう言って。
 
私はもうほんとに元気だから
気にせずULTRA JAPANに行ってきて!
って言われた。
 
 
強がったり無理したりしてるわけじゃなく
ほんとにもう元気そうだから
俺は着替えて、また出かける準備をして。
 
出る時間になるまで、♡に添い寝。
 
元気にはなったけどまだ眠いから
今日は寝てるって言うから。
 
 
臣)寝付くまでこうしててやる。
♡)特別サービスだぁ♡
 
 
腕枕して抱きしめてやったら
嬉しそうにスリスリしてきて…
 
 
♡)臣くん、いっぱいいっぱいありがとう♡
臣)わかったってw
 
 
柔らかい髪を、なでなでなで…
 
 
♡)帰って来たら昨日の臣くんたちの動画
  見せてね♡
臣)ん。
♡)あ、そういえば!
  私、リレー優勝したんだよ!
臣)あ。
♡)有言実行だよー!えっへん!
臣)ふはっw
  見たよ、動画。
  カッコ良かったじゃん。
♡)ほんと?
臣)うん。あのままCMになりそう。
♡)あはは、なぁにそれーー
  
 
あ、♡の声がとろんとしてきて眠そう。
 
 
♡)こんなくっついてたら
  気持ち良くってすぐ寝ちゃいそう…
臣)いいじゃん。寝なさいな。
♡)えへへ…♡
 
 
……でも、寝る前に。
 
 
臣)あのさ、一つだけ…。
♡)ん……?
 
 
一つだけ、言いたい。
 
 
♡)なぁに…?
臣)…俺に…心配かけたくないとかで
  俺に隠し事しないで。
♡)……
 
 
過去のことはもう仕方ないけど…
これから先は、
俺がちゃんとお前を支えたいから。
 
 
臣)ちゃんと言って、俺に。
♡)……
 
 
前にも約束したと思うけど
あの時とは意味合いがちょっと違うから。
 
 
臣)どんなことでも言って。
♡)……
臣)……返事は。
♡)……
臣)返事!
♡)……わかった。
臣)ん!
 
 
ほんとに約束だからな!
って意味も込めて
♡をぎゅっと抱きしめた。
 
 
♡)臣くん…
臣)んー?
♡)ごめんね…?
  ……ありがとう。
臣)……
♡)臣くん…だいすき…。
臣)……ん…。
 
 
俺もだよ、って返事する前に
もう眠りに落ちかかってるのがわかったから
そのまま♡の髪を優しく撫でた。
 
 
すぐにベッドを出たら起きちゃいそうだから
しばらく♡を抱きかかえながら、
携帯をポチポチポチ。
 
 
『ご心配かけてごめんなさい。
 運動会ではりきりすぎちゃいました。
 一晩休んだらもう良くなりました。』
 
 
昨夜流れた動画のせいで
姫倒れたの!?大丈夫?!
ってコメントが殺到してて…
 
 
♡がさっき載せたのかな?
にゃんこと一緒に笑ってる写真。
 
 
『姫無事で良かったぁぁぁ😭✨』
『ねこのぬいぐるみ?抱き枕?可愛い💕』
『無理しないで休んでね!🛏』
『栄養あるもの食べてね!🍎』
 
 
ファンも安心したみたい。
 
 
Mちゃんのマネージャー日記の方には
薔薇男、T、K、♡の4人の写真が載ってて。
 
 
『みんな姫の仕事仲間です😊
 普段から仲良し✌️
 (※彼氏ではありません)
 雑誌にも一緒に出てるので
 良かったら見てみてくださいね💕』
 
 
ちゃっかり雑誌のリンクを貼ってるところが
さすがMちゃん。
 
 
『MVの人、姫の彼氏じゃないらしいよ😳
 どーゆーこと?あんなにラブラブなのに!』
 
『じゃあ姫の彼氏って誰なの?
 実在するの!?😳😳💦
 こんなイケメンよりお似合いな人、いる?』
 
『彼氏でもないこんなイケメンに
 お姫様抱っこしてもらえる姫って
 ほんとに姫じゃん、もぉ〜〜😭💕
 羨ましすぎるよーー!』
 
『結局姫の本当の彼氏って
 一体どこの誰なのーー!!😳😳😳』
 
 
いきなりの交際否定に
ファンは大騒ぎしてる。
 
 
俺としては…
 
やっと否定してくれて
どこかほっとした気持ちと…
 
少し身が引き締まる思いと。
 
 
臣)……
 
 
一体どこの誰、か……。
 
 
いつか♡と結婚する時に
♡が選んだ相手って思われて
恥ずかしくないように…
 
胸を張っていられるように、
しっかり男を磨こう。
 
 
♡の隣にいると
いつもそういう気持ちになれる。
 
 
そう思わせてくれることが
嬉しくもあったり。
 
 
臣)……ありがと。
 
 
この次に♡と噂になる奴が
まさか思いもよらない男だとは
この時の俺はもちろん想像なんて出来なくて…
 
腕の中でスヤスヤと
安心しきって眠ってる可愛い寝顔に
ただ小さく、静かに、キスをした。
 
 
 
 
 
 
ーendー

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