[114]決意(ハルキSide)

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ハ)はぁぁ………

 

バフッ………

 

部屋に戻ってきて
一気に脱力した俺は、
そのままベッドにダイブした。

 

ハ)……

 

ああ、まだ…♡の匂いがする。
甘くて優しい匂い。

 

♡……

♡……

 

そばにいたらこうなるって、わかってた。

 

好きな気持ちがあふれて
どうしようもなくなるって、わかってた。

わかってたから、あの日。

♡とはサヨナラをしたのに。

 

どうしてこんな場所で会うんだろう。

ここは福岡。

 

福岡って言っても
ホテルだって研修をやってるようなビルだって
いくらでもあるのに。

 

どうして昨日も今日も
俺は♡と会ってしまったんだろう。

 

ハ)……

 

『ハルくんへ

大好きです。

♡より』

 

ずっと持ち歩いてる、♡の手紙。

 

あの日、この手紙を受け取って
♡への気持ちがあふれて…

どうしても気持ちを伝えたくて
♡を公園に呼び出した。

 

♡は偶然近くにいたみたいで
すぐに来てくれて…

 

何も言わずに
いなくなってごめん、って…

そう言葉にした瞬間、
涙がこみ上げてきて…止められなかった。

 

♡は泣きながら…
「謝らないで」って…
何度も俺にそう言ってくれた。

 

俺が愛してると言って抱きしめた時に
♡も「愛してる」って言ってくれて…

俺はもう、それだけで良かった。

 

ずっとずっと…何年もの間、
伝えたかった想い。

それをようやく口にして
伝えることができて…

 

♡が俺に言ってくれた「愛してる」が
例え俺と同じ意味を持ってなくても
それでもいい。

俺は十分幸せだった。

 

でも…
♡を愛してるっていうその気持ちが
とめどなく溢れだして

このまま一緒にいたら
もうどうしようもなくなるってわかって

繋いでいた手を、俺から離した。

 

離したら…
♡は…

 

「離れたく…ない……、や…だ…っ」

 

そう言って、俺にしがみついた。

 

心がぎゅっと締め付けられたみたいだった。

俺だって離れたくない。
離したくない。

ずっとこの手を繋いでいたい。

 

でも…
♡には恋人がいる。

 

俺は必死に自分にそう言い聞かせて
♡を宥めた。

 

もう会えないの?って…
さよならなの?って…

目に涙をためて俺にすがる♡を
本当はそのまま抱きしめて
連れ去ってしまいたかったけど…

♡を傷つけることはしたくない。

 

苦し紛れに、
いつかまたどこかで会える奇跡があったなら
その時は友達になろうなんて言葉を残して…

 

それはある意味、自分でも賭けだった。

 

このまま一緒にいたら
♡を想う気持ちがあふれて、
♡を苦しめることになる。

 

自分の気持ちを隠してそばにいるなんて
無理だって思った。

だから…

 

もしまた運命が
どこかで俺たちを引き合わせてくれるなら

その時はもう、
その運命を受け入れようって思った。

 

どんなに苦しむことになっても
その時には
自分の気持ちを隠し通すから。

もう♡のことを絶対に泣かせないから。

♡が望む形で、♡のそばにいようって…

 

そう決めたんだ。

 

でも…

 

でも…

 

まさかその日がこんなにすぐやってくるとは
さすがに思ってなかった。

 

♡に選んだネックレスだって、
渡せるのは10年後なのか50年後なのか
むしろ渡せる日は来るのか、

それくらいに思って持ち歩いてた。

 

「ハルくん、すっごく嬉しい!
 ありがとうっ♡♡」

 

あんな眩しい笑顔を
こんなにすぐ見られるなんて
本当に思ってなかったんだ…。

 

「本当に本当にありがとう!♡
 宝物にするねっ♡」

 

ハ)……

 

♡……

♡……

 

……好きだよ。

 

「誰と付き合っても…うまくいかなくて…
 私…ずっとずっと…
 ハルくんのことが好きだった。
 きっと、誰と付き合っても
 心のどこかではハルくんが好きだったの。」

 

ハ)……

 

俺と同じだったんだ、って…思った。

 

だったら俺があの時…
日本に帰ってきてすぐの時に…

♡に彼氏がいることなんて気にせずに
会いに行ってたら、
何かが変わってた?

 

その後も…
修二に♡が今は彼氏がいないから
会いに行けって言われてた時も…
俺が動いてたら、何か変わってた?

 

そんなことをいくら考えても
もう遅いのはわかってる。

わかってるのに、考えずにはいられなくて。

俺はほんとバカだな…。

 

いっそ……

もし過去の俺がちゃんと行動してて
♡と付き合えてたとしても

♡が今の彼氏に出会ったら
俺を捨ててそっちを選んでたって、
結局はそういう運命だったって、

それくらいだったら
諦めもついたのかな。

 

戻りたい、あの頃に。

 

戻って、やり直したい。

 

 

__コンコン。

 

ア)ハル…?戻ってる…?

ハ)…うん。

 

ドアを開けると
アキが心配そうに入ってきた。

 

ア)…ひどい顔……。
ハ)…っ
ア)一人の方が良かった?
ハ)いや…、

 

一人でいたら延々と出口のない迷路で
♡のことを想って
抜け出せなくなりそうだったから…

 

ア)明日の資料渡しておきたくて。
ハ)ああ、ありがとう。

 

俺はそれを受け取って
もう一度ベッドにうつ伏せになった。

 

ア)なんか…甘い香りがする。

 

隣に座ったアキの重みで
ベッドが少しだけ沈んだ。

 

ア)この香り、♡ちゃん…?
ハ)……

 

少しずつ消えていく、♡の匂い。

 

ハ)今、ここにいたから。
ア)そう…なんだ。
  部屋まで来たのね。
ハ)……うん。
ア)警戒心とか、ないのかしら。
ハ)俺は♡が嫌がるようなことは
  死んでもしないよ。
ア)そうじゃなくて。
  ハルはそんなことしないって
  わかってるけど。
  ♡ちゃんは一応、彼氏がいるんでしょ…?
ハ)……

 

部屋に呼んだのは…まずかったのかな。

 

ア)それだけハルのこと、信用してるのね。
ハ)……

 

信用してるとかしてないとか
そういう話の前に

♡は俺をそういう風には見てない。

 

ア)キスでもしちゃえば良かったのに。
ハ)バカなこと言うなよ。
ア)……
ハ)……

 

目の前で無邪気に笑う♡に
俺がどれだけ必死に、いろいろ堪えてたか…

 

ア)ちゃんと色々話せたの?
ハ)……うん。
ア)七夕に会えるなんて、運命みたいね。
ハ)……っ

 

ああ、そうか。

今日は…七夕だった。

 

ア)そんな泣きそうな顔、しないでよ。
ハ)……

 

俺…そんな顔してる…?

 

ア)……
ハ)……♡さ、
  アキが俺の恋人だって思ってるみたい…w
ア)……何それ。
ハ)……

 

「ハルくんとアキさんがすごく幸せそうで…
 私も嬉しい♡」

 

無邪気な笑顔で、そう言ってた。

 

ア)ちゃんと否定したの?義姉だって。
ハ)してないよ。
ア)……バカね、どうして…
ハ)……

 

そう思ってくれてた方が、いいから。

 

ハ)これから…いろいろ約束しちゃったんだ。
ア)約…束…?
ハ)うん。
ア)……
ハ)一緒に食事に行こう、とか…
  英語を教えてあげるとか…。
ア)……

 

♡は最初、今後の約束に繋がるようなことは
言うのをためらってて…

その寂しそうな表情に
すぐに気付いたから…

 

ア)♡ちゃんのそばにいて、
  ハルは苦しくないの?
ハ)……苦しくないよ。
ア)…っ

 

俺が自分の気持ちを隠してそばにいることで
♡があんなに嬉しそうに笑ってくれるなら

俺はそれでいい。

 

ハ)俺の気持ちは、一生言わない。
ア)…そんなの…無理よ、
  ……絶対に苦しくなる。
ハ)無理じゃないよ。
ア)…っ
ハ)♡が笑ってくれたら…
  ♡が幸せなら、俺は幸せだから。
ア)……

 

寝転んでる俺の頭に、
アキの手がそっと触れた。

 

ア)だったら…
  なんでそんな顔してるのよ…
ハ)……
ア)……
ハ)わから…ない…。

 

自分でも、わからない。
追いつかない。

 

ハ)悲しいとか…苦しいとか…
  そういうのじゃなくて…っ
ア)……
ハ)♡が幸せならそれでいいって、
  その気持ちは嘘じゃないんだ…。
ア)うん。

 

嘘じゃないのに…

本当にそう思ってるのに…

 

ハ)自分でも…わからないけど…
  切なさとか、愛しさとかが…
ア)……
ハ)ごちゃ混ぜになって…込み上げてきて…

 

もう自分の中で、抱えきれない。

 

気付いたら俺の頬は、涙で濡れていた。

 

ハ)♡を…好きな気持ちが…っ
  溢れてくる……、

 

なんで俺は、泣いてるんだろう。

 

アキは…
ずっと優しく俺の頭を撫でてくれてて…

 

ハ)なんだよ……
  俺…子供みたいじゃん……
ア)……
ハ)は…ぁ…っ
ア)……
ハ)……
ア)ツラい道を選ぶのね、ハル。
ハ)……

 

俺の気持ちなんか、どうでもいい。

♡をもう泣かせたくないって
その気持ちの方が強いから。

 

また会えたら友達になろうって
あの約束まで俺が破ったりしたら

♡は絶対悲しむ。絶対に泣く。

それだけは嫌だ。

 

ア)気持ち、伝えたらいいのに…
ハ)伝えたよ、何度も。
ア)……

 

伝えたけど…

俺の「愛してる」と、♡の「愛してる」は
一生重ならない。

その意味が、違うから。

 

ハ)♡には恋人がいるんだよ。
ア)それは…わかってるけど…
ハ)すごく嬉しそうに…幸せそうに…
  その人のこと、話してたんだ。
ア)……
ハ)……
ア)ハルが本気で動けば…
  変わる運命もあると思うけど…
ハ)……

 

あるとしても、
俺は♡を困らせたくない。

♡が迷ったり苦しんだり悲しんだりするのは
嫌だから。

 

「一緒にいると楽しくて、嬉しくて…
 心が幸せになれるの。
 全部全部、臣くんのおかげなの♡」

 

あんな笑顔を見せる♡の幸せを
壊したくない。

 

ハ)俺の本当の気持ちは、一生言わない。

 

もう、決めたから。

 

ハ)……は…ぁっ……

 

今はこんなに気持ちがあふれて…
どうしようもないけど…

 

ア)ハル……、
ハ)……
ア)良かったら胸も貸すわよ。
ハ)…それは…さすがに…
  情けなさすぎるから、いい。
ア)私の前でカッコつけてどうするのw
ハ)……

 

アキの優しい声。

こんな夜に、一人じゃなくて良かった。

 

ハ)アキ、ありがとう。
ア)……
ハ)今そばにいてくれるだけで…
  すごく救われてる。
ア)……っ
ハ)ありがとう…。
ア)……

 

俺がこんなことを話せるのは
アキだけだから。

 

ア)どうしようもない苦しみから
  私を救ってくれたのは、ハルだから。
ハ)……

 

アキの声が、
なんだか泣き出しそうに聞こえて…

俺が慌てて起き上がると…

 

ア)急にどうしたの…?w

 

アキは、何事もなかったかのように
笑って見せた。

 

ハ)アキ、大丈夫?
ア)それは私のセリフでしょ…?w
ハ)……

 

強がっても、わかる。
俺にはわかる。

 

ハ)アキ……、

 

俺がアキを抱きしめると
アキは困ったように俺の背中を叩いた。

 

ア)やっぱり胸貸して欲しくなったの?w
ハ)そうじゃないよ…

 

そうじゃなくて…
アキが泣きそうなのが、わかるから。

 

ア)ここ、一応…
  ベッドの上なんだけど…
ハ)だから何。
ア)……
ハ)……

 

そんなこと、どうでもいい。

アキが少しでも苦しいなら
俺がそばにいるから。

 

ア)ありがとう…。
  もう…部屋に戻るわね。
ハ)……うん。

 

ドアのところまで
アキを見送ると、

 

ア)ハルも、一人で泣かないでね。
ハ)もう大丈夫だよ…w
ア)……
ハ)アキも…無理しないで。
  何時でも、俺のこと呼んでいいから。
ア)……
ハ)……
ア)ハルは…ほんとに優しいのね…。
ハ)……
ア)優しくて…、少し残酷…。
ハ)え…?

 

最後の言葉だけが、聞き取れなくて…

 

ア)なんでもない。おやすみ、ハル。
ハ)……おやすみ。

 

アキを見送って
ベッドに戻ってくると…

同じタイミングで音が鳴ったLINE。

 

画面を開くと…

 

『ハルくん。
 昨日も今日も本当にありがとう。
 いっぱいいっぱいありがとう。
 ハルくんとお話できてすごく楽しくて
 すごく嬉しかったです💕✨
 ネックレス、大切にするね。
 本当にありがとう。
 ハルくん大好きです。
 おやすみなさい🌙🌟』

 

♡からの、メッセージだった。

 

ハ)……

 

さっきまでここにいたのに、
一緒にいたのに…

もう会いたい。

顔が見たい。

 

……抱きしめたい。

 

こんなに好きで、
♡のことしか考えられなくて…

本当にこれから
気持ちを隠し通せるんだろうかって
少し不安になるけど

 

でもそこは、絶対に。
誓うから。

 

だから♡は…

何も知らずに、ずっと笑ってて。

 

その陽だまりみたいな無邪気な笑顔で
ずっとずっと、笑ってて。

 

ハ)……

 

今夜も、眠る前には♡の歌を聴く。

先月のフェスで、♡が歌ってくれた歌。

 

「ハルくんに…届きますようにって…
 そう…思って…」

 

泣きながらそう言ってた。

 

届いたよ、ちゃんと。
伝わったよ。

 

何度繰り返し見たか、わからない。

 

俺に歌ってくれたんだって
すぐにわかったから
その姿も歌声も、何度も何度も
心に刻み込んだ。

 

ありがとう、♡。

 

ハ)……

 

その笑顔を守るためなら
俺はなんだってするから。

 

愛してるよ、♡。

 

…………おやすみ。

 

 

ーendー

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