【247】二人の涙

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臣)……


帰りの車内は
俺もSさんも何も喋らなくて


家に帰ってきて
玄関のドアを開けてハッとした。


臣)…っ


空気がいつもと違うのが肌でわかる。


電気を点けて部屋のあちこちに目をやると
すごく綺麗になってて…

それがなかったとしたって、空気でわかる。

♡がいたって…


臣)……


家の中はもともと綺麗だったけど…
どこもかしこもピカピカになってて

テーブルの上には…にゃんこがいた。


臣)…っ


にゃんこが持ってるメモを開くと、


『臣くん、おかえりなさい。
 お仕事お疲れさま。
 もし良かったら、ごはん、食べてね。
 ツアーまでもう少しだね。
 リハとか色々忙しいと思うけど
 身体に気をつけて頑張ってね。
 ♡より』


臣)…っ


勝手に…涙がこぼれてきた。


臣)なん…でっ…


♡は…帰ってきてたんだ。
俺がいない間…この家に。


臣)……っ


俺の仕事が遅い夜…

先に寝る時は…いつもこうして
手紙を書いてくれてたっけ…


寝室を開けると
すやすや眠ってる♡の姿があって…


ガチャッ…


いるわけないってわかってるのに
ベッドの上に♡の姿を探す。


臣)……


もう一度メモに目をやって
寝室のドアを閉めた。


ごはんって…何だろう…


キッチンに向かうと
何の形跡もないくらい綺麗で…

冷蔵庫を開けると…


臣)…っ


そこには小分けにされたおかずが
たくさん並んでた。


臣)…あの日…みてぇだな……


涙を拭きながら
タッパを取り出す。

俺が熱を出したあの日も
冷蔵庫を開けたら
同じようにびっしり入ってたっけ…


臣)…っ


腹は減ってないはずなのに
♡が作ってくれた料理を食べたくて

一つあたためてテーブルに運んだ。


いつも♡と向かい合ってた食卓。
いつも…二人で笑いながら…


♡の姿はないけど…
俺は一人で座って、一口、口に運んだ。


臣)……っ


さらに一口…


臣)…っ


涙が混ざるけど…


臣)美味ぇな、やっぱり…っ


いくら味音痴の俺でも
一年近く毎日食べてる
好きな女の味くらい、わかる。


臣)はぁ…、美味ぇ……


涙を拭きながら全部平らげた。


ここに…♡がいたらいいのに…


「臣くん、もう全部食べたのぉ?」
「ちゃんと噛んだー?」


そう言いながら…笑うんだ。


臣)美味しかったよ……


俺がそう言ったら…


「えへへー♡ほんとー?
 わーいっ!嬉しいなーー♡」


そう言って…ニコニコ笑って…


作ってもらってるのは俺なのに…いつも…


「臣くん、ありがとう♡♡」


太陽みたいな笑顔を…俺に見せるんだ。



臣)……っ



こんな…手紙を残して…
料理まで作ってくれて…

それでも家にはいたくないくらい
♡の心の中は
ぐちゃぐちゃなんだ。



臣)はぁ……



涙を拭いて…色々思い返す。



「悲しくて…苦しいだけだもんっ!!

 もう…全部ぐちゃぐちゃで
 わけわかんないっ」


「気持ちが…ぐちゃぐちゃで…っ
 苦しくて…考えたくなくて…っ

 もうやだぁっ!わぁぁんっっ」


臣)……


一週間おいたけど…
あの日と何も変わってなかった。


同じようにまた
あんなに泣かせて…


俺は間違ってたんだろうか。


「悲しい」「苦しい」って
あんなに泣かせて…



「どんだけあいつのこと
 泣かせたら気が済むんだよ!!」


そんなの…
俺が聞きたい。


こんなに大事なのに…
どうして傷つけるんだろう…



「もう少し一人にしてあげてよ。」


それが…正解なんだろうか…


俺は結局
自分の気持ちにいっぱいいっぱいで
♡の気持ちも考えずに

無理矢理会いに行って

泣かせて

どれだけ自分勝手なんだろう…



「拒絶…してるんじゃ…ないっ
 どうしたらいいのか…
 わかん…ないんだも…っ」


そう言ってた。


「シカトっていうか…返せないんじゃない?
 なんて返していいかわからない、とか…」


直己さんにも…そう言われてたのにな…



臣)……



『♡、今日は本当にごめん。
 もう無理矢理お前が嫌がるようなこと
 絶対しないから。』

『ご飯ありがとう。すごく美味かった。』

『ありがとう。本当にごめんな。』


♡にLINEを送った。



♡はあの後…どうしたんだろう…


撮影があるのに
あんなに泣かせて…

目…腫れなかったかな……


「別れたく…なんかっ…ないもんっ」


臣)……


すげぇ情けないけど…

泣きながらもそう言ってくれた
あの言葉だけが

俺が今すがれる全てだ……


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


臣くんから走って逃げた後…
会社の休憩室でずっと目を冷やしてた。

ギリギリまで冷やして
スタジオに行ってバッグを開けると
海璃ちゃんからの手紙が入ってた。


♡)…っ



『♡さん。
 お昼は本当にすみませんでした。

 私のことは気にしないで下さい。
 ♡さんには私の気持ちとかは関係なしに
 ちゃんとTさんの気持ちと
 向き合ってほしいんです。

 私のせいでTさんを避けたりとか
 そういうことは絶対しないで下さい。
 
 我儘だってわかってます。
 でも
 Tさんの気持ちがどれだけ真剣か
 よくわかるから
 ♡さんが逃げたり誤魔化したりせずに
 ちゃんと向き合ってくれたらなって
 思うんです。
 
 生意気なこと言ってごめんなさい。
 失礼だったらごめんなさい。
 
 私は♡さんが大好きです。
 本当に大好きです。  海璃 』



読み終えて…
また涙がこぼれそうになって
手紙をバッグにしまった。


メ)♡ちゃん、目が少し赤いわね?
♡)…っ


我慢…しなきゃ…っ


メ)あら…このへんもちょっと荒れてる…
♡)すみません…っ
メ)ま、これくらいなら大丈夫よ♡
  アイメイクで隠せますから♪
♡)ありがとう…ございます。


ダメだ…笑わなきゃ…っ


メ)はい、完成♡
  今日も可愛いわよ♡
♡)ありがとうございますっ♡
メ)あら、元気になった♡
  ♡ちゃんはやっぱり笑顔じゃないとね♡
♡)行ってきますっ♡
メ)行ってらっしゃい♪


今日の撮影は一人だった。


さすがに今日
あの人たちと一緒だったら
笑える自信がないから

一人で良かったって安心してる…


本当は…
どんな状況だろうと
ちゃんと笑えないとダメなのに。

それがプロだから。


カ)いや〜!良かったよ!!
  お疲れさん!!
♡)ありがとうございましたっ!♡


撮影を終えて控え室に戻ると
臣くんからLINEが来てた。


『♡、今日は本当にごめん。
 もう無理矢理お前が嫌がるようなこと
 絶対しないから。』

『ご飯ありがとう。すごく美味かった。』

『ありがとう。本当にごめんな。』


♡)……


食べて…くれたんだ。


撮影はもう終わったし…
ここには誰もいないし…

もう…泣いてもいいかな…


♡)…っ


届いたLINEの時間は…20時。

あの後、真っ直ぐ家に帰ったのかな。


手紙…読んでくれて…
ご飯…食べてくれたのかな…


想像するだけで
涙が出てくる。


♡)ふぇぇっっ…


臣くん…ごめんね…
私…こんな弱虫でごめんね…


♡)うぇぇぇんっっ


また涙がいっぱいこぼれる。


臣くん…きっと
秋田から戻ってきて
すぐに会いに来てくれたんだ。

疲れてるはずなのに…

なのに私は…
あんなに泣いて…


「別れたいの…?」


言いたくない言葉を…
臣くんに言わせた。



♡)ううっ、うううっ…


臣くん…すごく悲しそうだった。


私が家を出て行った日も、
同じ顔をしてた。


私が…傷つけてる。
臣くんに…あんな顔させてる。


♡)うわぁぁぁんっっ


臣くん…
臣くん…

本当は帰りたい。

臣くんのところに…帰りたい。


こんなにいろんな人のこと傷つけて
そのくせ自分ばっかりこんなに泣いて

もう自分で自分が嫌だよ。
今の自分が大っ嫌い……



ひとしきり泣いて鏡を見ると…


♡)ひどい…顔……


目は真っ赤でまた腫れてる…


♡)……


私は荷物をまとめて
トリちゃんの家に向かった。


ト)♡ちゃん!お疲れさま!
  上がって上がって♡
♡)ありがとう……


泊まってもいい?って聞いたら
いつでもいいって言ったでしょ!
って…

快く迎えてくれたトリちゃん。


♡)トリちゃん……
ト)どうしたの?上がって??
♡)…あの…ね?
ト)うん?
♡)一週間…お世話になってもいいですか?
ト)え?一週間?
♡)一週間っていうか…
  金曜日…まで…。
  土曜日には…家に…帰るから。
ト)えっと…
  全然いいよ?好きなだけいて?
♡)迷惑じゃない…?
ト)♡ちゃんだもん!
  迷惑なわけないでしょっ♡
♡)…っ
ト)ちょ、♡ちゃん!!えっ、わっ…
♡)うわーーんっっ
ト)泣かないでーーっ!!


こんなずるずるしててもダメだって
わかってるから

自分で期限を決めた。


ちゃんと考えて…
一週間ちゃんと考えて…

家に帰るんだ。

帰れる自分に…なりたい。



お風呂から上がって
私が落ち着いたのを見て
トリちゃんがホッとしたように笑った。


ト)じゃあ短い間だけど
  ♡ちゃんはシェアメイトだね♪
♡)えっ…
ト)ルームシェアみたいに
  楽しんじゃおっ♡
♡)……


ニコッと笑ってくれるトリちゃん。

私が気を遣わないように
そう言ってくれてるのかな…?

本当に優しいなぁ…


♡)トリちゃん…大好き…
  ありがとう……
ト)私も♡ちゃん、大好きだよ♡
♡)……//


嬉しくなってトリちゃんの横に飛び乗った。


ト)わっ!びっくりしたっw
♡)トリちゃんっっ


ぎゅむぅっっ


ト)あはははっw
  ♡ちゃんってば甘えんぼ〜〜w
♡)トリちゃん好きーー♡
ト)もう〜〜〜w
  こんな甘えんぼだったら
  臣くんも大変だなーw
♡)臣くんはね、こうやって抱きついたら
  「懐かれてるーー」とか言って
  たまにイノシシ扱いされるの。
ト)イノシシ?!
♡)うん。ひどいでしょ?
ト)あはははっっww
  イノシシって!!ww
♡)ふふっw


トリちゃんが優しく背中をさすってくれた。


ト)臣くん…の、話…
  してもやじゃない?
♡)え…?
ト)……
♡)うん…やじゃないよ……
ト)……


いっぱい泣いて

不思議と今は…
無理矢理心に蓋をしたいとは思わない。


ト)私しか知らない臣くんの話…
  ♡ちゃんにしちゃおっかな♪
♡)えっ!!
ト)正確には…「私たち」しか知らない、
  だけどねw
♡)なぁにー??
ト)♡ちゃんと付き合う前の臣くんの話、
  ♡ちゃんにしたことなかったなぁって♪
♡)…っ


付き合う…前…?

一瞬…不安がよぎったけど…
トリちゃんの笑顔で
嫌な内容じゃないって、わかる。


♡)なぁ…に…?
ト)実はね、私たち…
  テラハの収録の度に
  結構臣くんの恋バナを色々聞いてて…w
  ♡ちゃんと初めて出会って
  いきなり告白しちゃった次の日から。
♡)えっっ!!!
ト)その日はね?
  確か臣くん、ずっと元気なくて。
  どうしたの?って誰かが聞いたら
  フラれたーーーって落ち込んでたのw
♡)…っ


フラれたって…
本当に出逢ったあの日だ!


ト)で、話を聞いたら
  「好き」って言わずに
  「付き合って」だけ言ったって言うから
  私がありえない〜〜って話して。
♡)うん。
ト)で、みんなに「告白し直せ〜」とか
  好き勝手言われててw
♡)うん。
ト)その二週間後にはもう臣くん、
  ♡ちゃん大好きみたいになってて。
♡)え…っ//
ト)サッカー行った話とか
  お花あげた話とか
  照れ臭そうに話してて
  すっごく可愛かったの♡
♡)……//
ト)YOUさんはもうしきりに
  早くチューしちゃえーーとか言うしw
♡)ええっ!!
ト)山里さんは、♡ちゃんが実は魔性で
  臣くんは転がされてるんじゃないかとか
  言い出すしw
♡)ええっ!!
ト)あはははw


トリちゃんから聞く臣くんの話は
なんだかとても新鮮で…


ト)♡ちゃんと花火?見た話なんてね、
  私もキュンキュンしちゃって///
♡)えーーっ!!
  そんな話もしてたの?!
ト)うん。「めっちゃ恥ずいな///」
  とか言いながら顔赤くしてたよw
♡)……///
ト)とか、全部バラしちゃう私ーーw
♡)あはははっ♡


そんな臣くんを想像すると…
なんだか私まで照れくさくって
恥ずかしいな…//


ト)だからね、いつもそんな話を聞いてて
  みんな♡ちゃんに会ってみたいー!
  ってなって、それであの日。
♡)あっっ!!
ト)みんなで飲んだでしょ?w
♡)うんっ!
ト)私…入り口で初めて♡ちゃん見た時、
  臣くんから聞いてた通りのイメージで
  「この子が臣くんの好きな子だー!」
  ってすぐにわかったんだぁ〜♪
♡)……///


トリちゃんが少し自慢げで
なんだか可愛い。


ト)なんかね?なんとなく
  私と似てるっていうか、
  考え方とか近いかも、って
  臣くんに聞いてて…
♡)そうなんだ!!
ト)うん!だから仲良くなれたらな〜って
  思ってたの♡
♡)わぁぁ…♡
ト)でもね、私たちが仲良くなって
  一緒にランチしたりしたでしょ?
♡)うん。
ト)もう臣くんがね、
  すっごく気にしてて…ww
  何話したのー?とか。
♡)えっ!!
ト)もちろんその時は
  両思いだなんて教えてあげなかったけどw
♡)……///
ト)Xmasもバレンタインも…
  ほんと臣くん、必死だったなーーw
♡)……
ト)♡ちゃんの前ではね?
  クールぶってるかもしれないけど、
  臣くんって♡ちゃんのことになると
  ほんといつも必死で…
  大好きで仕方ないんだなーって感じ♡
♡)……
ト)その意外性が可愛くて
  私は好きだよーーw
♡)……


トリちゃんが話してくれる臣くんに…
心があったかくなった。

私も好きだよ。
そんな臣くんが大好きなの。


ト)こんないっぱいバラしたら
  きっと怒られちゃうな…ww
♡)あはははっw
ト)じゃ…そろそろ寝よっか♡
♡)うん……♡


電気を消して…

目を閉じて…


今日は悲しい夢を見ない気がする。


♡)……


臣くん……


早くお家に…帰りたい……




ーendー

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